ーーを模して造られた絶海のオアシス、ノウム・カルデア。
けれどそこは誰にでも開かれた場所ではなく、白紙化された現状では、そもそも訪れる者もいなかった。
故に。
この施設で如何なる現象が起きようとも当事者以外に観測される事はなく、恐らくは記録される事もないだろう。
あるのは、ただ、人理を護るため、失われゆく世界で再び笑うため、我を貫き通すと決めた凡人の暖かな〔日常〕だけだ。
かつて、彼と同じような世界を志を持ち、実際に変化をもたらした人々と共に……
ーーーーーー要するに。
(自称)普通の人となんか凄い人が仲良くしてる場所。
ここでは、外で起きてるヤバい事とか、いずれ起きるかもしれないヤバい事ととか全部忘れて、自分の気持ちに正直になってる人が暮らしてます。
細かい事とかぜーんぶ抜きにして、おおざっぱに生きてます。
知らない人がほとんどかと思いますが、実は最近、念願叶って最推し鯖・刑部姫を入手いたしました。
長かった、本当に長かった。
今まで幾度確定闇鍋ガチャ(矛盾)を回そうとも、出てこなかったおっきー。それを、『どうせなんも出ないだろ』と思って回した恒常ガチャでヘシアン・ロボの後にひょっこり現れてきてこの野郎……となりました。単発四回だったかと思います。
その後、六~七時間かけて100レベ・スキルマにして、クエをクリアして来た次第であります。
キャラを戦えるレベルにまで育てるのにこんなに時間がかかるのはfgoだけ!!って感じでだいぶ虚無かったですが、ドラクエ8(ps2版)をお供に周回していたのであまり苦は感じませんでした。
……なお、ここについてるタグの【アンチ・ヘイトあり】は、前書き後書きのみですのでご安心を。
メタい発言は好きですがそれとこれとは話が別。本編に不必要な情報を入れ込むなどという無粋な真似は致しません。
ーー故に。
この作品は、〈fgoが嫌いだけど惰性でやってるよ〉〈運営やバランスは嫌いだけどキャラは好きだよ〉といった、ツンデレ気味元マスター君ちゃん向けです。
〈fgoが大好きだ!!〉という方には回れ右していただきたい。
それでも目を通したいというのでしたら、本編のみ見ることを推奨いたします。
さてさて、ブレイクゲージくらいくだらない前置きはこの辺にして。
では、本編、どうぞ。
ひっそりとした、寂しい廊下。
近くには誰もいなくて、私の足音だけが空しく響いてる。
こつん、こつん、って、珍しく誰もいない廊下に厚底のヒールの音が。
「……はぁ」
なんて言うか、今日は変だ。
そもそも、気まぐれとは言え私が自発的に外へ出るだなんて、海水が全部抜けるよりあり得ないはずだったのに……
「お友達、かー」
知らず知らずのうちに口元がにやけていくのが分かる。
分かってる。私達はどこまで行こうとも主人と隷属の間柄。
彼がそう言うのを拒むだけで、周りから見れば一目瞭然だ。
だけど、それを【友達】と言うことで、きっと私達に気を遣ってくれているだけなんだ。
そう。あくまでも、私達、に。
「…………めんどくさいなぁ」
分かってる。それも分かってるんだ。
彼にはそんな気が一切ないって事も、気を遣っているって考えも、まるっきりないことくらい。
だからめんどくさい。
わざわざ裏の裏まで見ようと考えてしまう自分がめんどくさい。
だから……。うん、だから。
「ん、おっきー。どうぞ」
「はーい。ありがと、まーちゃん」
彼の手で開かれた、彼の部屋に入るため、こんな気持ちはダストボックスにしまっておかなければいけないんだ。
「ねぇ、まーちゃん?」
「んー?」
一人分にしては少し大きいベッドの上に並んで横になり、姫の持ってきた漫画を一緒に読み耽る。
これだけでもう充分に幸せな時間なのだけど、やっぱり足りない物がある。
「ここって、コタツ無いの?」
「うん、無いよ」
夏場でさえ恋しくなる愛しのマイ兵器、コタツ。
文字通り、万年コタツガールの姫にしてみれば、春夏秋冬あってしかるべきアイテムだけどそれはそれ。
まだ冬も半ばくらいのこの時期に同じ出身のまーちゃんのマイルームにそれがないのはおかしい。
「あれね、あるとね、必ず中に誰かが潜んでるから、外したんだ」
「あっ……」
と、思っていたけど、前言撤回。
きよひーを始めとするマスター大好きサーヴァント達にしてみれば、こんなに格好の隠れ場所はない。
……きっと、並みじゃないメにあってきたんだろうなぁ。
「もしかして、寒い?」
「え?まぁ…うん」
ベッドの上で身を起こしたまーちゃんに尋ねられて曖昧な返事を返してしまう。
別に寒いわけじゃない。ただ、物足らないな、ってだけで。
でも、今更隠す必要のない事だとは言え、米粒くらいのプライドはある。要は恥ずかしい。
「んー、そういう事なら」
「へ?」
そう言うとまーちゃんは、ベッドの上に重ねてた漫画を子物置きに重ね直し……。
「これならあったかいんじゃない?」
姫の上に布団を掛けた。
………掛けた!?
「ちょ、ちょっと!?」
「あ、イヤだった?」
「いや、そうじゃなくてね!?」
肩口まですっぽりと覆いかぶせられた掛け布団を引っぺがして、抗議しようとするけど言葉が出てこない。
ホンット、彼は時々こういう事を平然とするから侮れない。
分かってる、ここで本気になっちゃだめだ。今まで何度もやり過ごしてきたように、今回もやり過ごすだけだ。
「あ、あのねまーちゃん。こーいう事は、もっと考えてやらなきゃだめだよ?暖房だってあるんだし、どこかから支給してもらえるようお願いすることだってできるし。
……自分の使ってる布団を使うのは、他に打つ手が無くなった時の最終手段だよ?今回は姫だったからよかったけど、他の……例えばきよひーとかだったら大変だったからね?」
そうそう、こうやって彼の素行を一つずつ正し行って、他のサーヴァント達にはしないよう直してあげなきゃ…って、そうじゃなくて!いや、そうなんだけど!!
あぁもう、これじゃまるで独占したいみたいじゃない!!
「……そっか、そうだね」
なんて考えていると、まーちゃんは少し残念そうな顔をして謝ってきた。
うぅ、違う。そんな顔をしてほしくて言ったんじゃないのに……
「でも、この部屋にはエアコンとかないし、今日はみんな出払ってるしで、こうするしかなかったんだ。
先にちゃんと言わなくてごめんね」
「……ちょっと待て?」
聞き捨てならない事実に思わず聞き返してしまう。
「あ、エアコン?
あれね、なんかマシュが『乾燥して先輩が風邪ひいたり唇が割れたりしたらどうするんですか!!』って言って、ロリンチちゃん達に撤去を求めたんだ。だからないよ」
「いや、そっちじゃなくてね!?ていうか、過保護!!」
「だけど、不思議と寒くないんだ。まぁ、今日はちょっと寒かったけど」
「それ多分、きよひーがいるからだよね!?って、だからそうじゃなくって!!」
「……?」
この期に及んでシラを切るつもりなのか、それとも本当に分かってないのかはこの際どうでもいい。
私が今知りたいのはただ一つ。
「………本当に、誰もいないの?」
「うん。正確には、僕とおっきーしかいないよ」
「ぎゃーーー!!!」
知りたくなかった、でも、知らずにはいられなかった事実に、完全に私のキャパがオーバーした。
なんで!?なんで!?私それ、全然知らなかったんだけど!!!
「……あ、そういえばおっきーには言わなかったんだっけ。
今日はみんなで休暇を取って、英気を養おう。ってなったの」
「知らなーい!!一個も聞いてなーい!!」
突如訪れたまーちゃんとの一つ屋根の下二人きりイベント。
たったそれだけでも私の心臓は爆発寸前なのに、もう一つの事実で血管が暴発しそうになってる!!
だって、え?この状況を、まーちゃんがわざと作ったって事でしょ!?
そ、それってつまり、つまり……?
「だっておっきー、そう言うと無理してどこかに行こうとするもんね。最初はどこにもいかなーい、とかいうけど、みんながみんな出払っちゃうと、寂しくなって結局ついてきちゃうし。
それだとおっきーの休暇にならないから、って事で、みんなにお願いして黙っててもらったんだ」
だと思った。
知ってた。この人はナチュラルでそういう事する人だって、姫知ってた。
アホー!!このドキドキを返せー!!
……とは口が裂けても言えない。
彼は私の事を想ってこんな行動をとってくれたんだ。
悔しいけど、まーちゃんの言う通り。
一人は好きだけど、独りが好きなわけじゃない。薄い壁一枚隔てた隣でわいわいしてるのを聞いて、時々会話に混ぜてもらいたい。
そんなめんどくささの究極を極めた私の事を、憎いくらいよく分かってる。
でも、だけど……
これだけ頭で理解してても心は蚊帳の外。
一度高まった想いが簡単に収まるわけがない。
………だったら、する事は一つ。
「とか言って、ホントはまーちゃんが姫と二人っきりになりたかったんじゃないの~??」
同じ羞恥の谷に落ちてもらうだけだ。
天然優しい彼の事だ。きっと、『おっきー一人だけだと流石に寂しいだろうし、カルデアに誰もいないのは問題だろうし、僕は残るよ』とでも言ったんだろう。
だったら、そこを煽るだけ煽って、顔を真っ赤っかにしてやる!!
「まぁ、少しだけある、かな」
「……へ?」
って、作戦のはずが、彼の一言で全て崩壊した。
「実はね、おっきーの言う通りなんだ。
ごめんね、ちゃんと確認取るべきだとは思ったんだけど、やっぱ、どうしてもそこだけは恥ずかしくって聞けなかったんだ。
最近は全然二人だけになれなかったし、なれたとしても原稿やってたりで、一緒にいるって感じじゃなかったし……
馬鹿だよね、こうやってバレた方が嫌な思いさせちゃうって言うのに」
「な、な、なんですと」
予期せぬ発言、あぁいや、予想してたけど予想してなかったというか……
あー、とにかく!!期待していた通りの、予想外の事実にもう思考が回らない。
だってつまり、それってつまり、わ、わ、私と一緒に居たかった、っていう、最早愛の告白と大差ない発言で……
「ふ、ふ、ふ……」
「麩?」
「不束者ですが、よろしくお願いしますっ!!!
………って、ギャーーーー!!!!」
やった、やらかした!!遂にやらかしたぞこの大バカ!!
さっき言ったじゃん!自分に言い聞かせてたじゃん!!この人はナチュラル優しい天然記念物だって!!
そんな人物の言うことだもん!どうせいろんな人に言ってるもん!『それ、告白?』って聞いたら『え、そうなの?』って言ってくるような人だもん!絶対にそうだ、そうに決まってる!!乙女ゲーで何回も見た!!!
「まってまってまって!今のなし、今のなーーし!!もっかい最初から、コンティニューを姫は推奨しまーーーーす!!」
そうだ、それがいい。そうしよう!
ここは一旦部屋から出て、何食わぬ顔で入り直して、一から十までリセットしよう!
大丈夫、分かってくれる。まーちゃんは、ううん、マスターはどこぞの王様じゃないからきっと人の心を分かってくれる!城化物だけど心はピュアッピュアな人間だもの、分かってくれる!!
……よね?
「…………」
チラリと振り向いた先。
そこに居るのは見なければ良かったと思ってしまうくらいに赤面した彼の顔。
嬉しかったり、恥ずかしかったり、ドキドキしたりがないまぜになった時の、私の原稿で時々見る顔。
そう、どういう時にこの顔になるのかは、よく、理解してる。
「……本気にして、いいの?」
たった一度だけの小さな問い。
聞こえなければそれでいい、という、身勝手極まりないコトバ。
けれど、彼は頷いた。
大きく、一度だけ、頷いてくれた。
「僕も好きなんだ」
「………バカ」
「え?」
「バカ!!」
あぁ、もう駄目だ。
これ以上は抑えきれない。
タグ付けしたくなくて、知らんぷりし続けてきたツケが全部、回ってきた。
こうなったら最後。あとはもう、とことんまで吐き出すしかない。
その後どうなろうと知ったこっちゃない。そこまで考えてたら、多分きっと、本音のほの字も言えないだろうから。
「バカバカ!遅い!!気づくのが遅すぎる!!姫が……私がどれだけアピールしてたと思ってるの!?立ち入り禁止の時も入ってきていいっていうのを皮切りに、ご飯食べる時、ゲームする時、霊基の調子が悪い時、後それと!こうやってマイルームにお邪魔する時!!!
なのに、なのに、二年だよ!?アピール始めたのが一年前からだってとしても、遅すぎるでしょ!?なのに、なんかすっごい仲のいい幼馴染ポジ?クラスの話せる男勝り親友ポジ?みたいな、みーたーいなー!!関係に落ち着いちゃって『あ、これもうルート無いなー。うん』って諦め始めてた頃なんだよ!?
なのに、今更そんなこと言われたら……もう、諦めきれなくなっちゃうでしょ?
姫多分めんどくさいよー。自分でも時々思っちゃうくらいにはめんどくさいの確定してるし。
……それでも、いいの?」
予想通り、というか自分でもびっくりするくらいつらつらと口から出て行った想いの丈。
言った内容の半分も思い出せないけど、多分めんどくさいし、間違いなく拗らせてる。
でも仕方ない。どうしようもない。
考えてもみればこちとら白鷺城が出来た頃から生きてんだ。今更拗らせがなんだ!かかって来いってんだ!!
「……そんなところも好きだ、って言ったら、怒る?」
「はい????」
な、な、なんだそれ。
そんな間男みたいなセリフを、よくもまぁそんな満面の赤面で言えるなぁまーちゃんは。
そんなの、そんなの……
「怒る……」
「あ、あはは」
怒る。絶対、怒ってやる。
そう、思ってるのに、私の身体は、もう、マスターの腕の中にすっぽりと納まっていた。
「………ねぇ、マスター」
「なに、刑部姫」
「この後、どうすればいいんでしょうか」
もごもごと彼の胸板の上で動く私の唇は、こんな時ばっかりロクな事を言ってくれない。
何さ。私は姫なんだから、この後の事を知らなくったって変じゃないもん。確かに知識としてはあるし、何なら本にして出したりしてるかもだけど、それとこれとは別だもん。
頭の中が真っ白になってるだけだもん!!!!
「………分かった。じゃあ、全部僕に任せて。大丈夫。知識は全部、おっきーの本で得てるから」
「え、ちょ、待って、それって……」
「さ、『さぁおいで子猫ちゃん』」
「ぎゃーーーーーーーーー!!!」
こうして、晴れて私こと刑部姫と、最後のマスターは恋人関係になれました。
今後、色々な苦楽を共に乗り越え、いずれは結婚とか行くのかもしれないですけどそれはそれ。
外なる神とか聖杯とかが私を受肉させてくれない限り、この先はないでしょう。
……はい。その事についてはまだいいんです。
今はただ。
「『ふーん、拒むんだ。おもしれー女』」
「ギャーーーーーーー--!!!!!!」
この羞恥プレイをどうにかしてください!!!!
end.
いいですよね、おっきー。
基本のやる気ないスタイルも好きですが、宝具の別ボイスのやる気ある系もだいぶ好きです。
なんだかんだ言って、やっぱり凄い人じゃないか……
幕間の「お気づきでなかったー!?!?」ってのもいいですよね。
あ、君本気でマスター君ちゃんの事好きなんだ。って。
ま、あらゆる攻撃に対して耐性持ち、と、編成制限、だけは許しませんが。
何と言うかまぁ、この子に対する総合評価は。
〈家に帰ったらベッドの上でくつろいでてほしい彼女(または嫁)〉
です。
ちなみに、続きがあるかどうかは怪しいです。なのでとりあえず短編作品。
なんだかんだ言っても魅力的なキャラが多いゲームですので、やっぱり好きな子は多いんですよ。
なので、気が向いたり、またやる気が出たりすれば書くと思います。
それではまた。
……気が向きましたら他の作品も読んでね(ボソッ)
さよーならー