ありふれた脇役でも主人公になりたい   作:ユキシア

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脇役30

主人公(南雲ハジメ)達と共に【メルジーネ海底遺跡】挑戦する為に目的地である【エリセン】に到着した浩二はレミアの厚意に甘えて家に厄介になることになり、浩二は主人公(南雲ハジメ)達が【エリセン】に訪れるまで【エリセン】に住む海人族達などの健診を行っていた。

「はい、あ~ん」

健診を行っているその場所はちょっとした診療所になっており、体調が悪い人や健康について相談したい人達などを浩二は一人一人対応している。

「はい、次の人どうぞ」

その診療所に訪れる人も神の使徒である浩二に診て貰おうと足を運ぶ人も多く、ちょっとした行列ができている。

浩二自身の治療の腕もレミアの足を治した時に既に知れ渡っていることもあって浩二は診察したり、検査したり、調合したりと大忙し。

だけど手を抜くなんてことはしない。いくら忙しくても患者の僅かな変化も見逃してはならないからだ。

「次の人どうぞ」

「浩二様。先ほどの方で最後のようです」

「あ、終わり? ふぅ~」

「お疲れ様でした」

診察が終えて一息つく浩二に労いの言葉を送るも、診察が終えたら今度は今日診た患者に必要な薬を調合しなければならない。そう思うと余計に疲れが出てくる。

「ティニア。ちょっと外を歩いてくる」

「はい。お気をつけて」

気分転換も兼ねて少し外に出て散歩することにした浩二は町中を歩きながらもまだ【エリセン】に到着していない主人公(南雲ハジメ)達のことを気に掛ける。

(遅いな、南雲達……。まだ海底にでもいるのか?)

原作通りでなら【グリューエン大火山】のマグマから海底に流されて九死に一生を得て、この【エリセン】に到着するのだが、浩二達の方が先に到着したあたり、まだ海底にいるのだろう。

「あ、浩二さん。こちらにおられましたか」

「エフェル。どうした?」

未だ到着していない主人公(南雲ハジメ)達の事をエフェルが浩二の元まで駆け寄ってきた。

「特に用事があるというわけではないのですが、私も一緒に町を歩こうかと。お邪魔でしたか?」

「あー、いや、一緒に行こうか」

「はい」

美女にそんな事を言われて断ることもできず、浩二はエフェルと共に町中を闊歩する。エフェルは当然のように浩二の腕を組んだ。その際、浩二の腕に二つのメロンが挟まれて、柔らかな感触とほのかに甘い匂いが浩二の鼻腔を擽らせる。その二人を見る海人族達は生温かい眼差しと微笑ましい笑みを向けられている。

「こうして旦那様と二人っきりになるなんて初めてですね」

「そうか?」

「そうですよ。いつもティニアさんがいましたから」

そう言われてそういえばそうだな、と納得するも……。

「なぁ、その旦那様って呼び方やめてくれない? なんかむず痒い……」

名前ならともかく、まだ高校生である浩二はその‶旦那様〟呼びはどうもむず痒いゆえにエフェルのような美人にそう呼ばれるもはどうも照れてしまう。

「しかし将来的にはそうなりますのですから遅かれ早かれ慣れておいた方がいいかと」

もう浩二と結婚することは決定事項のように当たり前のように言うエフェルに頬を掻く。

エフェルは誰が見ても美人だ。それにとても献身的なのは短いながら共に旅をしてわかった。将来、良妻になるだろうと思えるぐらいに献身的だ。

「……俺が言うのもなんだけど、ティニアもだけどエフェルも独占欲とか一身に寵愛が欲しいとか、そういうのはないの? 見た感じ、二人は俺を取り合おうとかそういう修羅場みたいものはないみたいだけど」

この人は私だけのもの! みたいに浩二を独占しようと修羅場みたいな展開は起きていない。原作ではユエや香織がよくしていたキャットファイト的な展開は起きず、ティニアとエフェルは二人で仲良く浩二を共有している。

「独占欲などは勿論ありますが、良き殿方には複数の伴侶を持つのは当然のことです。それに愛する人の妻になる者同士、仲良くしたいではありませんか」

「……まぁ、仲がいいのは良いことだな」

(別に修羅場が見たいわけではないし……)

「それにこうして短い時間ですけど旦那様を独占できていますし」

そう微笑んで組んでいる腕に力を入れるエフェルにその胸がより浩二の腕に密着する。

なるほど、そういう風に浩二を独占できる時間帯を話し合って決めているわけだ。複数の女性と関係を持つ、言ってしまえばハーレムは男のロマンだけど、実際そうなると悩まされることもあることを浩二は知った。

「ところで旦那様。以前からお伺いしようと思っていたのですが、旦那様の‶特別〟である雫さんとはどういう方なのですか?」

「雫のこと? どうしてまた?」

「旦那様が一途にお慕いしているお方ですよ? 気にならないわけないじゃないですか」

ティニアとエフェル。二人の美女の想いをフッてでも雫を選ぼうとした浩二。雫の事について何も知らないエフェルは雫がどういう人なのか知っておきたい。

「雫とは幼馴染で俺が小さい頃から通っている道場の娘さんだ。純粋な剣の勝負なら俺は勝った事がない」

「あれほどの剣術を繰り出した旦那様以上となると……よほど才に恵まれているのか、努力しているのか。その両方ですかね?」

「両方だな。雫は才能がありながらも努力を怠ることはしなかった」

浩二の脳裏に過るは道場に通っていた頃から雫にコテンパンにされた自分の姿。

「真面目で面倒見が良くて自分よりも他人を優先してしまう苦労人で見た目とは裏腹に可愛いものが好きな乙女で天然の義妹(ソウルシスターズ)生産機(本人否定)なお姉様だな」

「?」

エフェルの頭に疑問符が浮かび上がる。浩二の説明で雫という人物がどういった人なのか思い浮かばなかった。

「まぁ、どういった人かは実際に会えばわかる」

今ここであれこれと想像させるよりも実際に会わせた方が早いと判断してここでこの会話を終わらせる。

(今度は打算もなにもない俺の想いをそのまま雫に伝えてみせる)

もう一度想いを遂げる為にも今は神代魔法を手に入れることを優先する。すると二人の前を立ちはだかる者が現れた。

全身をローブで隠し、顔も見えないぐらいにフードを深くかぶっている。

「平野浩二で間違いない?」

短く尋ねてくるその謎の人物に浩二は頷こうとしたが、隣にいるエフェルが制止の声を投げた。

「お待ちください、旦那様。周りを見てください」

そう言われて辺りを見渡すと、先ほどと変わらない風景やいつも通りに生活している海人族達だが、浩二は妙な違和感に気づいた。

「お気づきですか? 誰も私達を認識しておりません」

「!?」

エフェルに言われてようやく気付いた。先ほどまで多くの視線や声の集めていたのに、今はそれがない。まるで二人の姿が見えていないかのように。

「あたしの固有魔法‶幻惑〟。その派生技能の‶認識阻害〟を使ってる。そうじゃないと話ができないから」

「話……?」

「その前に確認。平野浩二で間違いない?」

もう一度本人かどうか確かめてくる相手に浩二は頷いた。

「ああ、俺が平野浩二で間違いない。なんならステータスプレートで確認するか?」

「ううん。そこまで言うのなら信用する」

「そうか。それで話とはなんだ?」

すると、フードを取り払って素顔を露にする。

赤というよりも赤銅色に近い髪をした少女。その少女の耳は僅かに尖っており、肌が浅黒かった。その顔を見てすぐに正体が判明した。

「見ての通り、あたしは魔人族。名はイリエ。平野浩二、あんたに頼みがあってここまで来た」

「俺の頼み……? 魔人族側につけというのならお断りだぞ?」

「違う。あたしを仲間に、ううん、神代魔法を手に入れる為にあたしに協力して欲しい」

「どういうことだ?」

怪訝する浩二に魔人族の少女、イリエは苦虫を噛み締めたような顔で言う。

「……みんな、おかしくなった。アルヴ様の為にと、そのせいで父が殺された」

イリエは語る。

イリエは生まれた時から魔力を直接操作する術を持っており、更には固有魔法‶幻惑〟にも目覚めた。そのせいか、魔人族側の兵士として戦うことが義務付けられていたが、イリエはそれに不満などなかった。

イリエの父親は魔人族の軍に所属しており、いずれは自分もその軍に所属して父親と一緒に魔人族の安寧の為に戦うつもりでいた。だから生まれ持った自身の力を疎ましく思うことはなく、むしろ魔人族の力になれると歓喜した。父親に鍛え上げられ、兵士となったイリエは一人の魔人族として戦い続けた。

そんな時、魔人族側に朗報があった。

「フリード様が七大迷宮の一つを攻略して神代魔法を手に入れてから全てが変わった……」

‶魔人族の為に〟と戦っていたはずなのに気がつけば‶アルヴ様の為に〟と多くの魔人族が信仰にその心身を捧げて命を落としていった。それに気付いたイリエの父親はフリードにそのことを直訴した。

‶我々は魔人族の平和と安寧の為に戦っているはずだ〟、‶このままでは無駄死だ、今すぐに彼等の目を覚まさせるべきだ〟と。フリードにこう直訴したが。

『目を覚ますのはどちらか、それは貴殿ではないか? アルヴ様の為にその身命を捧げるのは当然のこと。何故それが分からない?』

それが当たり前のように告げるフリードにイリエの父親は絶句した。だが、それでも異を唱え続けた。

多くの魔人族の為に、これからの平和と安寧の為にその意を唱え続けた結果――――斬首。

‶神敵〟とされ、フリード自らの手でイリエの父親は殺された。

そして軍に所属しているイリエもその母親も異教者の烙印を押されて一族郎党神罰が決定された。

しかし、イリエは己の固有魔法である‶幻惑〟と父親と軍に鍛え上げた力で母親と一緒に逃走するも、異端者の烙印を押された二人を魔人族はしつこくも追いかけてくる。

徐々に追い詰められていくなか、戦いとは縁遠い母親を庇いながら逃げるのが難しくなっていくなかでイリエの母親はこのままでは娘のイリエまでも殺されてしまうことを恐れて自ら命を断った。

それに慟哭し、涙を流しながらもイリエは必死に追手から逃げた。

魔人族の安寧の為に兵士として一人の魔人族として戦っていたのに、父親を殺され、母親も命を断ち、一人となったイリエは疑惑、混乱、怒り、憎悪、慟哭とあらゆる感情が溢れ出るなか、このままでは駄目だと思った。

「あたしには力がいる。フリード様の真意を確かめる為にもあたしには力がいる。その為に神代魔法を手に入れないといけない」

「……それで王都から離れて行動している俺に目を付けたってことか?」

「あんたの噂は魔人族の国【ガーランド】まで届いてる。その実力を見込んで頼みにきた」

(そんなに有名人なのか、俺は……)

いったいどんな噂が流れているのか、若干気になるけど……。

「いいのか? 俺は【オルクス大迷宮】で赤い髪をした女の魔人族を殺している。それでもか?」

「……あたしも似たようなもの。母を護る為にこの手で同族を殺した。同族を殺したからと言ってあんたを恨むのは筋違い。だから同族を殺したからと言ってあんたに危害を加えることはしない」

一応、話の筋は通っている。それにその話が嘘かどうかは浩二は相手を見ればわかる為に確信している。

イリエは嘘は言っていない。

「いくつか訊いていいか? 神代魔法を手に入れてそのフリードの真意を確かめた後はどうするつもりだ? 父親の仇でも取るのか? 悪いが復讐に加担するつもりはないぞ?」

家族を殺したフリードに復讐でもするのかと思い尋ねるもイリエは首を横に振る。

「場合によっては戦う。けどそれは家族の仇を討つ為じゃない。あたし自身のケジメをつける為にフリード様に会う。勿論、ただで協力してもらうつもりはない。全てが終わればあたしを殺すなり、慰み者にするなり好きにしていい」

己の全てを代価として差し出すイリエに浩二は小さく溜息を溢す。

「別に全てが終わってもお前を殺さないし、慰み者にもしない。俺達の目的も神代魔法を手に入れることだ。目的が同じならお互いの為に協力しようぜ。仲間ってことで」

「……いいの?」

「こっちから言っているんだ、いいに決まってるだろ? それにお前、ケジメさえつければ死んでもいいって思ってるだろ?」

「っ」

その言葉にイリエは肩を僅かに震わせる。それで浩二は確信した。

「だろうな。だけどな、お前の母親はお前を生かそうと自ら命を断ったのならお前には生き続けなきゃいけない義務がある。どれだけ苦しくても、辛くても最後までしっかりと生き続けなきゃいけない」

「けど、あたしにはもう……」

「自分のケジメをつけたら俺を生きる理由にすればいい」

「え……?」

「どうせ死ぬつもりならその命は俺が貰ってやるって言ってんだ。だから俺を生きる理由にしろ。そして生かして貰ったその命を大事にしろ。勝手に死ぬことは俺が許さん。殺してでも生かしてやるからな、そのつもりでいろ」

殺してでも生かす、と滅茶苦茶なことを言う浩二にイリエは啞然となるも……。

「わかった。約束する」

確かに首を縦に振った。

「エフェルもいいか? 俺が勝手に決めちまったけど?」

「旦那様がそうおっしゃるのでしたら私はそれに従うまでです」

浩二の決定に従うエフェル。けれど、その瞳の奥からはイリエに対して警戒の色を見せる。

(一応、警戒しておくとしましょう……)

あくまで一応の範囲で警戒するエフェルを置いて浩二はイリエに向けて手を差し出す。

「それじゃよろしく」

「よろしく。浩二」

互いに手を交わして浩二は「改造」と告げてイリエの見た目を改造した。突然の自身の変化に驚くも。

「それならフードで顔を隠す必要もないだろ?」

髪の色はそのまま。けど尖った耳は人間族のように丸くなり、浅黒い肌も白くなっている。確かにこれなら顔を隠す必要もない。

「……あんた、本当に人間?」

一瞬で外見を変えられたイリエは驚愕と疑惑の表情を浮かべながら思わずそう問いかける。それに対して浩二はこう答えた。

「ただの化け物(おいしゃさん)だよ」

 


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