まちがいだらけの修学旅行。   作:さわらのーふ

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セカンドシーズン5話目。
タイトルはこんなんですがR18とかではないのでご安心ください。
……たぶん大丈夫。
本当はセカンドシーズン全4話くらいで考えていたのに既に超えてしまいました。

そして,県立地球防衛軍並びにバラダギ様ファンの皆様,誠に申し訳ありません。

どうしてこうなった?

キャラの暴走のせいだよなあ,房総だけに……

ほんとごめん。



まちがいつづける修学旅行。⑤ ~下総淫乱編~

 川崎の案内で休憩室へ来てみたものの、原滝を寝かせられるベッドなりソファなりはなく、ミーティングテーブルと折りたたみ椅子があるのみである。

 

「川崎、こいつをどこに置けばいいんだ?まさか床ってわけじゃないんだろ?」

「あ、そうだね……店長に言われるままあまり考えずに来ちゃったから……」

 日頃から身体を鍛えているわけではない俺の腕はプルプルと震えだし、そろそろ限界を迎えつつあった。

「か、川崎……」

「と、とりあえずテーブルの上でも乗せときな。毛布か何か探してくるから」

「おう,頼んだ」

 川崎が出て行った後、慎重に原滝をテーブルの上に寝かせる。

 一息ついて,横たわる原滝の顔を見て思う。

 大人しくしてればただの美少女なんだがなあ。

 こいつが悪の組織の幹部なんてな。ま、やってることはずいぶん間抜けなことばかりみたいだが。

 

「う、うーん」

 原滝が寝返りをうった拍子にテーブルの端から身体がこぼれ,床に向かって落ちていく。

 俺は,慌てながらも自らの身体をすべり込ませ,床に激突する間際に原滝の身体を抱き留めることに成功した。ふぅ,ギリギリセーフ。

 

「比企谷くん,あなたはいったい何をしているのかしら」

 アウトだった。

 

「もう言い逃れはできないわね。意識のない女性に劣情を抱いて床の上で襲おうとするなんて……」

「雪ノ下,俺の話を聞いてくれ」

「問答無用よ。残念だけど、司直の手にかかる前に私が引導を渡してあげる。ごめんなさい。今まで罵倒ばかりであなたを傷つけるだけだった……でも決して本心ではなかったのよ?あなたを独りで逝かせはしないから……先に逝って待っててね」

 

 雪ノ下、お前もか〜〜〜!

 ダメだコレは。目がマジだ。マジと書いて本気と読むやつだ。

 こいつの本気の首トンを延髄に叩き込まれれば、俺ごときひとたまりもなくあの世行きであろう。

 今すぐ逃げ出したい。脱兎のごとく逃げ出したい。

 なんならリトルルーキーのように逃げ出したい。あ,あのウサギ野郎は逃げないか。

 が,俺の上にぐったりとした原滝がいて動くに動けず万事休す,進退窮まった。

 だが、そんなことで諦める俺ではない。どんな卑怯な手を使ってでも切り抜ける、それが俺だ。

 それにしても原滝柔らかいいい匂い。

「ゆ、雪ノ下、落ち着け。次の世界で一緒にいられるという保証なんかどこにもないだろ?お前は天国に行くだろうが俺はこのままじゃ地獄行きだろうからな。それなら今、この世界で結ばれるという選択肢もあるんじゃないか?」

 一瞬、雪ノ下の動きが止まる。

「俺は不確実なあの世とやらに期待するよりもこの世でお前と一緒にいたいんだ。ダメか?」

「比企谷くん……」

 心なしか雪ノ下の目が潤む。

 よし、いける!このまま押し切れば命拾いできる!

 俺的には数ある黒歴史に新たな1ページを加えようとしているが背に腹は代えられん。命あっての物種という言葉もある。

「雪ノ下,落ちてくる原滝を受け止める時に転倒して腰を打ったみたいなんだ。手を貸してもらえると助かる」

 下手に言い訳を重ねるより,自然に今の体勢が不可抗力によってもたらされているということがアピールできるだろ。そして,そのまま体を起こして原滝を元に戻す。これで万事OKだ。さあ,雪ノ下,俺の手を取ってくれ。

 


 

「ううぅ,はっ!?」

 その時,原滝が,目覚めた。

「は,八幡!? なんであんたあたしを抱きしめてるの?」

「いやいや,俺,お前を抱きしめてなんかいないから。とにかく早く俺の上からどいてくれ」

「だ,だって……八幡が,ギュッとしてるから起き上がれない……」 

 そ、そうか。原滝が落ちないように身体を両手で捕まえてたんだっけ。こういうのを抱きしめるって言うんだな。今日は勉強になった、うん。 

 

「あたし,どうなって……まずは,着衣の乱れ……あり」 

 もぞもぞと自分の身なりを確認しはじめる原滝。

 たしかにセーラー服の上着が少しまくれ上がり、わずかに背中が見えている。おそらく前から見たらおへそが見えるんだろうな。

 てか,なんでシャツ着てないんだよ……

 

「八幡のはちまん……ビンビン……」

 こら!女の子がそんなハシタナイこと言っちゃいけません!!

 じゃなくて,なんで俺のナニの状態を確認してるのん?

 今,一瞬つまんだよね!?

「しょうがねーだろ,お前みたいな美少女が上に覆いかぶさってるんだ。そりゃ,男として当然の反応というか,逆に何もなければ失礼というか……」

「美,美少女……!」

 原滝の顔が真っ赤になった。たぶん俺も赤くなっているのだろう。

 そして,何やら俺の上で再びゴソゴソしている原滝。いい加減起き上って確認したほうがいいのじゃないだろうか。そりゃ俺はいい匂いだしやわらかいしやぶさかではないのだが,刺激を与え続けられて間違って暴発なんかしたらもう死ぬしかなくなっちゃうだろ。

 

「パンツ……無い……あたしパンツ履いてない……」

 

 え

 

 ええええええええーーーーーー!!!!

 


 

 原滝の顔がみるみる青くなっていく。俺も混乱している。え!? 今,俺の上に乗っているのはノーパン女子?

 上着と同様にスカートも少しめくり上がりそうになっていて,その奥には……ゴクリ

「うぇええーーーん、気を失っている間に処女も失ったーーーー」 

 ちょ!おまっ!何言ってんの!?

「ううぅ,しくしく」

「いや,俺,何もしてないからね?」

「だって,パンツを脱がしたらやることなんかひとつだろ?」

「お前,どんな考えしてるんだよ。まず,俺がパンツ脱がしたっていうのが間違いだ。俺は何もしていない」

「初めてなのになんの記憶も無いなんてひどいよおー」

「だから,人の話を聞け!俺は何も……」 

 

「八幡……」

 涙目で俺をにらむ原滝の顔が目の前にある。それにしても近い!怖い!あと近い!

「とりあえず落ち着いて,通報だけはやめ…… んぐっ、んん……」

 はらたきのキッス!

 はちまんはこんらんしている。

 はちまんはからだがしびれてうごけなくなった!

「な,なんで!? ききき,きしゅにゃんか」

 大いに噛んでしまったがそんなことはもうどうでもいい。はちまんに80000のダメージ! 

 原滝が上半身を起こし,馬乗りの体勢で俺を見下ろしながら言った。

「だって……だって……はじめてなのに何も覚えてないなんてあんまりじゃないか。だから,あたしははじめてのやり直しを要求する!」

「いや,それはお前の勘違い……はあ!?」

 はちまんはますますこんらんした!

「って,上着を脱ぐな!お前は脱ぎ女か!こっこら!スカートを下ろそうとするな!お前,その下履いてないだろ!!」

 セーラー服の上を脱いで,上半身ブラジャー一枚になり,スカートに手をかけた原滝を止めるべく,俺も慌てて上半身を起こし,両手で原滝を抱え込むように抱きしめた。

「やめろ……もっと自分を大切にしろよ」

「はちまん……」

 原滝が静かに目を瞑り,ピンク色の唇を突き出してきた。

 これはアレですね,さっきは自分から無理矢理キスをしたけれど,今度は俺の方からしろと。なんてハードルの高いことを……俺にそんなことができると思うのか?だって俺だぞ?

 だが,目を瞑っていてもまだ少し涙が滲む原滝を,俺は,すごく可愛いと思った。

 もう,原滝ルートでもいいよね?俺は,そっと原滝の唇に俺の唇を合わせ……

 


 

「あ,あ,あ,あなたたちは一体何をしているのかしら」

 

 血も凍らんばかりの低い声に振り返れば,我が奉仕部部長でいらっしゃるところの雪ノ下雪乃さんが,ゴゴゴゴゴという効果音が聞こえてきそうな佇まいで立っていらっしゃった。

 そういえば雪ノ下,最初からそこに居たんだったな。 

「お嬢さま,止めないでください!これはあたしが女として生きていくうえですごく大事なことなんです!」

「原滝さん……可哀そうに,この男に襲われておかしくなってしまったのね……今,この男と一緒に楽にしてあげるわ」

「お嬢さま,今少しだけ時間をください!初めての記憶も無いまま死んでいくなんて……せめて八幡とのコトが終わるまで待ってもらえないでしょうか?その後,あたしはもうどうなってもいいんで……ただ,八幡は……八幡だけは助けてあげてください。そしてあたしの後で嫌かもしれませんが,お嬢さまも八幡と結ばれていただければ」

「ははは,原滝しゃん,あにゃたがにゃにを言っているのか全く分からにゃいのだけれど」

 雪ノ下があからさまに動揺して噛みまくって,猫の怪異に取りつかれたようになっている。

「私の目の前でいきゃぎゃわしいことにゃんて許せにゃいのにゃ。お前らはここで死ぬのにゃ」

 もうそれ,噛んだとかいうレベルじゃないよねえ。明らかにブラックゆきのんだよねえ?

「もういい。八幡,ヤるぞ」

 そう言って自分の背中に手を回し,ブラのホックを外そうとする原滝。

 

 スパーン!スパーン!スパーン!

 

「あんたら,いいかげんにするし!」

 何故か三浦が手にした大阪名物ハリセンチョップで俺たちの頭をはたいていった。

「み,三浦さん,なぜ私まで……」

「ごめん,雪ノ下さん。なんかずいぶん興奮してたみたいだったから」

「な,三浦さん,私は二人の情事に興奮なんか……」

「落ち着けし!あーし,そういうこと言ってるんじゃないから」

 それよりなぜ三浦がハリセンチョップを持っているかについてはスルーでいいのだろうか。

「原滝、アンタも服着ろ」

「だって……だって……あたしは八幡との初めての記憶が……」

「いや、俺は何もやってないし!」

「だからさ、アンタちゃんと自分の状態を確認しな?もし何かされたっていうなら痛みとか、何かが挟まったままの感覚とか色々あるっしょ?」

「いやでも三浦さん、その男のモノが痛みを感じさせないほど小さいという可能性も」

「雪ノ下さん、少し黙っててくれる?」

「はい……」

 三浦に言い負かされる雪ノ下。何か新鮮だな。

「原滝、ちょっと立ってこっちに来な。ヒキオは目を瞑ってるし」

「三浦、何を……」

「目ぇ開けたら潰すかんね?」

 怖え、怖えよ。何を潰すんだよ!ナニか?ナニなのか?

 何を潰されるのか詳しくは聞かされなかったが、怖いから目を瞑っていよう、そうしよう。

 ……少しくらいなら分からないよね?

 俺がそうーっと目を開けると、横たわる俺の目の前に三浦が座っていた。

「よし、潰す」

「ままま、待ってくれ!ほんの出来心なんだ!もう二度と目は開けない!誓う、誓います!」

「次は無いかんね?」

 俺は今度こそギュッと目を瞑り、静かに時が過ぎるのを待つ。

 

 三浦……ピンクだったな……

 


 

「よし、原滝、スカートをめくるし」

 

 な!原滝のスカートの下は……一体何が行われようとしているのか?!

 ハッキリ言って見たい!これからここで行われる何事かをしっかりと見届けたい!

 しかしまた、これが三浦の策略であるという可能性も捨てきれない。

 目を開ければ目に飛び込んでくるピンクを代償に、目玉か頭かとにかく何らかのタマが潰されてしまうのは必定。

 俺はまだ命も視力も男も捨てたくはないのだ。

「……ふぅん、ちょっと触ってみるし」

「ちょ、ちょっと、あン……」

 見たいいいいい!

 もうタマ潰されてもいいから、目を開けちゃおうかなー、でもなー、などと逡巡していると、

「ヒキオ、もういいよ」

 残念なことに、事態は終息してしまったらしい……

 そこには,上着を着なおして身なりをきちんと整えた原滝が立っていた。

「八幡……すまない。あたしの勘違いでとんだ迷惑をかけてしまって」

「い、いや、分かってくれたらいいんだよ」

「比企谷くん、私も2人が抱き合ってるのを見て、つい取り乱してしまったわ。ごめんなさい。」

 あの雪ノ下が謝る……だと? やっぱり俺の命は今日で尽きてしまうのかもしれん。

「それにしても,三浦のおかげで助かったよ。ほんとサンキュな」

「べ、別にヒキオのためにやったわけじゃないし?ヒキオの帰りが遅いから心配に……なんてなってないし!」

 お,おう。三浦のツンデレ?デレツン?は凄い破壊力があるな。だいたいさっきのピンクといい……

「三浦可愛い」

「は!?」

「へ!?」

「ななな,何言ってるん?ヒキオのくせに生意気なんだけど。あーしには隼人が……隼人が……でも隼人は可愛いなんてこと言ってくれたことないし……」

 うわぁ,つい思ったことが口に出てしまった!三浦,真っ赤な顔をして怒ってるじゃないかよ。

「いやまあ,とにかく経験者がいてくれてよかった。さすが三浦だな」

「は!?」

「へ!?」

「経験者ってどういうことだし!?」

「い,いや,お前,その,そっちの方の経験が豊富だから原滝がまだだって分かったんだろ?」

「はぁ?なにそれっ!あーしはまだ処――う,うわわ!な,なんでもないっ!」

 俺,なんかこのシーンにすごい既視感があるんだけど……

「別に恥ずかしいことではないでしょう。この年でヴァージ――」

 そのセリフもなんか既視感ハンパないんだけど……

「わーわーわー!ちょっと何言ってるんだし!? そりゃあーしだって,その,好きな人となら……いつでも……だけど……」

 なんだこりゃ!?目の前にいるのはホントに獄炎の女王・三浦優美子なの?

「ヒキオ!アンタ,あーしのこと,一体何だと思ってんの?」

 これはあれだ。淫魔と呼ばれる悪魔・サキュバスであるにも関わらず至高の御方を一途に思い処女のままであるナザリック地下大墳墓の守護者統括のように……

「乙女だ……」

「は!?」

「へ!?」

「ヒヒヒヒヒ,ヒキオ―――!あ,あ,あんたっ,あんたっ!」

 またやっちゃったよ……三浦がゆでダコのような真っ赤な顔で,口をパクパクさせている。もう怒り心頭,阿蘇山大噴火5秒前といったところ。やっぱり俺,死ぬのかなあ……

「ヒキタニくん,サキサキから毛布を持っていくよう頼まれたんだけど……優美子どうしたの?真っ赤な顔して」

「へ,海老名!? べ,別に何でもないし」

 海老名さんが三浦と俺の顔を順番に見回し,

「はあ」

 とため息をついた。

「もう今さら一人くらい増えたところで仕方ないのは分かってるけどね」

 え?何が分かっているのか八幡全然分からないんだけど。

 


 

「原滝さんも目が覚めたようだし,もう毛布はいらないね」

「すみません。ご迷惑をおかけしました」

 申し訳なさそうに首をたれる原滝。

「いいよいいよ。わざと飲んだんじゃなさそうだし、店もお酒を出しちゃったことがばれたら営業停止とかまずいことになっちゃうからさ、お互いに忘れましょうということで、ね」

「分かった、ありがとう」

「さあ、みんな客席で心配してるから戻ったほうがいいよ」

「そうだね。ヒキオ、いくよ」

「あ、優美子、ヒキタニくんちょっと借りていいかな?この毛布サキサキにとってもらったんだけど,高いところにあったから私じゃ戻せないんだ」

「そう。じゃ原滝、雪ノ下さん,いこ?」

 いやいや、じゃ,じゃないよ。俺、手伝うとか一言も言ってないんだけど?なんで勝手に借りられちゃってんの?

「ヒキタニくん,お願いね」

「ああ」

 俺ぇぇぇぇぇぇ!

 意志弱すぎだろ!なんでノーと言えないの?ここはお得意のアレがアレで都合が悪いとか言って言い逃れるところだろ!まあ,それで言い逃れられたことないけどね……

 海老名さんに手を引かれ,薄暗い倉庫に入っていく。

「えっとね。毛布をこのダンボールに入れて,そこのロッカーの上に置いてほしいんだ」

 なるほど,毛布一枚くらいなら背伸びして上げられないことはないだろうが,ダンボールに入れるとなると話は別で,ふらついてかなり危なそうだ。

 実際,ダンボールには他にも何枚かの毛布が入っているようで結構な重量感があり,これを海老名さんが一人でロッカーの上に上げるのは難しかっただろう。

 はぁ,とひとつため息をついて,よいしょとばかり毛布の入ったダンボールをロッカーの上に置いたところで,開いていた扉が閉まったのか倉庫の中がさらに暗くなり,そして後ろの方でカチャリと音がした。

「海老名さん?」

 振り向いた俺の胸に海老名さんが体ごと飛び込んでくる。

 そして,両手で頬を挟まれ唇を重ね,三たび,貪るような口づけを交わした。

 

「ヒキタニくんが悪いんだよ」

 眼鏡の奥の瞳を潤ませて海老名さんが言った。

「原滝さんとずいぶん親密にしてたようだし」

「あれは原滝の誤解によるもので他意はないだろ」

「それに優美子のことも」

「三浦には助けられたけど,あいつ最後には顔を真っ赤にして怒ってたし」

「君のことを好きな女の子はいっぱいいるし,私,ずっと不安だったんだよ……あの時,もし止められなかったら原滝さんと最後までいってたでしょ?」

「ま,まさか,そんなことがあるわけが……」

「本当に?」

「だいたい海老名さん見てたんだろ?だったらそんなことできるわけないじゃないか」

「見てなかったらしたんだ……」

「うっ」

「したんだ……」

「いや,原滝は別に俺が好きとかじゃなくて単に誤解からああいう流れになっただけだ。そんな相手となんてありえん」

 

「ならさ……私と,今ここで,しよ?」

 

「はあ!?」

 こ,この子,いったい何を仰っていらっしゃるのん!?

「私なら誤解でも何でもなく,ヒキタニくんのことが好きだよ?」

「ほら,海老名さん仕事中だし……」

「私はヘルプで今日はもう上がりの時間なの」

「海老名さんもこんなところで初めてなんて嫌だろ?床は堅いし」

「私は全然問題ないよ。床だってさっきの毛布を下して重ねれば大丈夫だよ」

「俺が戻らないと怪しまれるんじゃ……」

「後でついでに倉庫の整理を手伝って貰ったことにするから……それにそんなに長い時間はかからないよ,天井のシミでも数えてたら直ぐ済むから」

 いや,それ普通逆だろ。てか,俺が天井を眺める側で,直ぐ終わっちゃうんですね……(自虐気味)

「じゃあもう問題ないね」

 いやいや問題大有りだろ,と突っ込む間もなく海老名さんが俺から体を離し,するするとパンツを下して足から抜き取った。

「ヒキタニくん,はい」

 

 白!そしてほかほかとあったかい!じゃないよ!!

「ほら,いま私,このスカートの下,ノーパンだよ?」

 そう言って少しずつスカートをめくりあげていく。俺の視線は,その部分にくぎ付けになる。

 あと少しですべてが見える……

 


 

 と思った瞬間,倉庫の入り口の方からカチャカチャという音がして,すぐにドアが開いた。

「海老名,ストローの在庫が……って何してんの?」

「サキサキ……さっきの毛布のダンボール,私じゃ上げられないからヒキタニくんにお願いして上げてもらったんだよ。ね?」

 俺は不自然に思われるほど首を縦にブンブン振った。

「鍵をかけて?」

「あれー?鍵はかけてなかったはずだけどなー。中に誰もいないと思って誰かが外から鍵かけたんじゃないかなー」

「ふうん……」

「それよりサキサキ,ストロー取りに来たんじゃないの?」

「サキサキ言うな!そうだね。早く持っていかないと」

「じゃあ私はもう上がりの時間だから着替えて帰るね」

「あたしもあともう少しだけどね。お疲れ」

「ヒキタニくんもお疲れさま。ありがとうね」

「あ,ああ」

 普段と変わらない様子の海老名さん。やっぱりさっきまでの出来事は夢じゃなかったのかとさえ思う。

「比企谷,ポケットからハンカチがはみ出てるよ」

「え?」

 

 ぱんつぅぅぅぅぅ!!!

 まったく,なんちゅうものを残してくれるんだ!

「あたしが畳んであげようか?」

「いやいやいや,大丈夫だから!別に畳まなくても問題ない!」

 俺は慌てて海老名さんの脱ぎたてパンツをポケットの奥に押し込んだ。

「あ,そう。じゃあ,ここ閉めるからそろそろ席に戻りな」

「ああ分かった」

 まったく冷や汗ものである。ここでうっかり汗を拭くためにポケットからパンツを取り出してバレるのが一つのテンプレートなんだろうが,そんな迂闊な真似はしない。努めてクールさを装いつつ客席に戻る。

 


 

「ヒッキー遅ーい」

 由比ヶ浜が頬を膨らませて不満をぶつけてくる。

「いやね海老名さんにダンボールに入った荷物を高いところに戻す作業を依頼されたんだがな,うっかり中身をぶちまけてしまって片づけに手間取ってしまったんだよ」

「雑用も満足にできないのかしら?雑ガヤくん」

「それだと俺がすごい雑な人間に聞こえるからやめろ。俺ほど繊細な人間はそうそういないぞ。繊細すぎて周りの人間が言う悪口にすごい敏感だぞ」

「悪口前提なんだ……」

「ところでさあ,原滝はなんでノーパンだったん?」

「えええ!ノーパン!?」

「あ,結衣はこの話聞いてなかったんだっけ?」

「え?ヒッキーに脱がされたの?」

「おいちょっと待て。どうしてすぐに俺が脱がしたことになるんだ?痴漢冤罪とかこうやって作られるんだな。俺が女物のパンツなんて持ってたりなんて……」

 

 するよ!持ってるよ!パンツ!白!

 

「いや,お恥ずかしいことながら,替えの下着をかばんに入れるのを忘れちゃって,夕べ洗濯して干したんだけど,今朝見たらまだ乾いてなくて,時間がなかったからそのまま出てきちゃったのをすっかり忘れて……」

「それならその辺で買えばよくね?」

「修学旅行に来るだけでもギリギリなのに途中でパンツとか買ってる余裕はない!バイト先の上司とか同僚にお土産も買わなきゃだし」

「意外と義理堅いんだな」

「そりゃそうだ。義理を欠いたら人間終わりだぞ?」

 いや,悪の組織の幹部に義理を語られても……

「百均とかなら,あ,もう閉まっちゃってるかな?ヒッキー,知ってる?」

「そうだな,このあたりの百均は遅くても午後9時には閉まっちゃうだろうな」

「どうしたらいいのかな?かな?」

 陽乃さん,ひぐらしがなくのでそれやめてください。

「まあ,旅館に帰れば干してあるパンツが乾いているだろうから当面は……あ!旅館の門限……」

 そうか。こいつ、修学旅行中だったな。

「ハッキー,門限って何時?」

「22時……」

「今から急げばまだ間に合うよ!ねっ!」

「ホテル,本郷なんだ……」

「幕張本郷なら海浜幕張まで2駅でそっからバスで13分。楽勝っしょ」

「まあ,ウチの最寄だし,また俺の自転車で良ければ送っていくが」

「違うんだ……東京の文京区の本郷三丁目……」

 文京区の本郷三丁目って……

「東京大学の最寄駅ね。どんなに急いでも1時間では着かないわね」

 雪ノ下の成績なら進路として当然東大も視野に収めているのだろう。もうオープンキャンパスとか行ったのだろうか?

 よく考えれば、雪ノ下よりも優秀だという陽乃さんなら,本来東大でも楽勝だったんだろうな。千葉大学だって高偏差値の大学であることには変わりないが東大には及ばない。そこに進学するにあたっては家の事情とかがあったのだろうか。

「でもほら、東京で夜の10時ならまだ早いし、なんとか入れてもらえるんじゃないかな?ねっ、ヒッキー」

「俺に振られても東京事情に詳しいわけじゃないから知らないが、旅館そのものの門限と言うよりは学校側が設けた門限じゃないか?」

「あたしってビンボーで特待生になってるから門限破りとか学校に知られちゃうと不味いんだ」

 何気にこいつ優秀なんだな。しかしそれならどうしたら……平塚先生の車でかっ飛んでいけばあるいは……いやダメだ。あの人,別の店でワイン飲んでベロベロになってるんだった。

「朝はラジオ体操の時間を考慮して6時には開くらしいから,朝食の時間までに戻れば……」

 じゃあ、行けるところまで行って適当なホテルでも泊まって……いや,下着が買えないのにホテル代なんか到底無理だ。

「んじゃ,誰かん家泊めてやって,始発で帰ればよくね?」

 三浦、ナイスアイデアだ!なら、一人暮らしの雪ノ下の家とか……

「あ、雪乃ちゃんはダメだよ?明日の朝,実家の用事があるから今日は連れて帰るように言われてるんだよ」

「ねえさん,そんなことは聞いていないのだけれど」

「だって雪乃ちゃん電話に出てくれないし,部室で言おうと思ってたら雪乃ちゃんが『ゆきのちゃん』になってて言えるような状況じゃなかったし」

「ねえさん,それ読者には分かっても声で聞いている私たちには区別がつかないのだけれど」

 雪ノ下,メタい。そしてお前には区別がつくのかよ。すげえな!

「はあ,分かったわ。行けばいいのでしょう」

「うん。都築を待たせてあるから」

 え,都築さんずっと待ってるの?誰か持ち帰りメニューのミラノサラミのピザとか辛味チキン持ってってあげて~

「じゃあどうしよう?あたしんちでもいいけど,全く知らない人を連れてきたって言ったらママはともかくパパはなんて言うかなー」

 由比ヶ浜の言うとおり,原滝は,改良人間として拉致された俺と別府の時の依頼主である雪ノ下は関係があるが,他の人間とは関係を持っていない。それでも雪ノ下のように一人暮らしならなんとかなるだろうが,両親やほかの家族がいる家庭でいきなりというのは難しいのではないだろうか。

「あたしなら別にその辺の公園とかで寝ても構わないが……」

「だ,だめだよ,ハッキー!女の子が公園で寝るとか危ないから」

「でも,みなさんにご迷惑をおかけするわけにも……」

 

「そういうことでしたら,小町におまかせです☆」

 

 きゃぴるんと現れた,愛しのマイ・シスター、小町……ってなんでお前ここにいるの?

 


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