どうしてこうなった?継続中。
まさに狂乱。
ファミレス回が終わらないので引き取りに小町出したら小町まで暴走。
おかしいなー。元はファミレスからバラダギが門限で帰り,残された八幡が皆に囲まれて,あ~~~~~くらいの終わり方だったはずなのに,何やってるんだよ!
まったく作者の顔が見てみたいぜ。
「お兄ちゃんが外でご飯っていうから,小町も塾帰りに晩ご飯食べて帰ろうかと思って。お父さんお母さんもいないし,一人分だけ作るのもね。お兄ちゃんがここにいるのは知らなかったけど」
それはそうと,その隣にいる……
「大志!あんた何やってんだい。あんたの分の晩飯は家にあるだろう?」
「ねーちゃん,俺は家で食べるよ。比企谷さんが一人だからドリンクバー付き合っただけだよ」
「なんだと?小町と付き合ってるだ!? ふざけたことをぬかしやがると一族郎党もろとも……」
「あ゛?」
「い、いや、その、もろ……ともだちになろう?」
怖え!怖えよ、川……サキ! そして、もろ、ともだちになろうって何だよ、俺!
「お兄ちゃん。大志くんと小町はもう友達だよ」
「比企谷さん」
「小町と大志くんはずっとずっと友達だよ。いつまでもいつまでも友達だよ!」
「比企谷さん……」
今にも泣きそうな顔の大志。我が妹の所業ながら、同情を禁じ得なかった。
「それで、原滝さんには今晩我が家に泊まってもらいます!」
あの,小町ちゃん、何言っちゃってるの?
「さっき言ったでしょ?お父さんもお母さんもいないって。だったら何の問題もないでしょ?」
問題大ありだよ、小町ちゃん!
「ダメー!そんな、両親のいない家でヒッキーとハッキーが一緒だなんて……」
「え?二人が一緒だと何か問題が起きるんですか?」
「問題と言うか間違いと言うか……」
由比ヶ浜。お前はさっきあったことを見てないだろうから知らないだろうが、それ割とシャレになってないからね?
「間違いってアレですか?さっきお兄ちゃんがやらかした」
小町ちゃーん!どうしてそのこと知ってるの?そして、やらかしたのは俺じゃないからね?そこんとこ重要。
「え?何?ヒッキー,何があったの?」
「んー、雪乃さんは初めから全部見ていたようですから聞いてみてください」
「ちょ,ちょっと小町さん!?」
「ゆきのん,何を知ってるの?ゆきのんだけずるい!」
雪ノ下が由比ヶ浜に問い詰められている間に、小町の耳に口を寄せてこっそりと問い質す。
「小町,お前、どこから知ってるんだよ?」
「んー,お兄ちゃんのがビンビンってあたりから?」
こここ小町ちゃぁぁん!なんてとこ聞いちゃってんの!
「ヒヒヒ,ヒッキーのがビンビンってどう言う意味!?」
ガハマさんー!そこは掘り下げないでー!!
「結衣さん,それはですねー、お兄ちゃんの……」
「わ〜〜〜〜〜!」
「ヒ,ヒッキー!?」
お前,なんちゅうこと説明しようとしてるんだよ!!
「ほら,行くぞ、小町!原滝も!」
このままだと何を言われるかわからないので、二人の手を引いて慌てて店を出て行く。
「ありがとうございましたー。またのご来店をお待ちしています」
後ろから,ひっきーとか比企谷とか比企谷くんとかヒキオーとか相棒~とかいろんな叫び声が聞こえたような気がしたが、多分気のせいだ。今日は疲れたんだな,うん。
「あ,おじゃましまーす」
「どうぞ龍子さん。遠慮しないで上がってくださーい」
帰路,いつのまにか打ち解けている小町と原滝。我が妹ながらコミュ力の高さに驚愕する。多分俺が母親の腹の中に忘れていったものを全部受け継いだに違いない。
「どうぞこちらがリビングです。ゆっくりくつろいで下さーい。お兄ちゃん,お茶入れて」
小町ちゃん,人使いが荒い。何で俺がお茶を……
「ほれ,お茶」
「ありがとう。八幡,お前の妹、すごいな」
「だろう?自慢の妹だぞ?」
「お前とは大違いだな。おっ,このお茶,美味しい」
「言うな。そんなこと俺が一番分かってる」
「でも,あたしはそうじゃない八幡の方が安心できるけどねー」
お,おまっ,そんな恥ずかしいことを堂々と……
「やーい,赤くなったー♪」
「ほほう,お二人なかなかいい感じですなあ」
我が妹,マイ・エンジェル小町がリトル・デビルな顔でやってきた。
「龍子さん,お風呂沸いたので先入っちゃってください」
「ありがとう,こまっちゃん。でも,その……」
「愚兄なら心配しないでください。ちゃーんと小町が見張ってますから」
小町ちゃーん,お兄ちゃんを覗き魔扱いとか酷くない?ね,酷くない?
「いや,そうじゃなくて,あの……着替えが……宿には指定のジャージがあるけど……」
そういや原滝ノーパンだったな。制服のまま寝るわけにもいかないだろうし。
「あーそう言うことなら何か用意しときますんで安心してください」
「な、なら……」
原滝が小町に連れられて風呂に行き,一人リビングに佇む俺。
なんか今日は疲れた。非常に疲れた。無性に疲れた。
思い返せば,あんなことやこんなことや……まさにTo Loveる続き。
雪ノ下に由比ヶ浜,川崎に陽乃さん,三浦,海老名さん,原滝……
原滝,今,ウチの風呂に入ってるのか……
いやいや、ダメだダメだ。煩悩退散,煩悩退散。
とりあえずマックスコーヒー飲んで心を落ち着かせて……落ち着く……落ち……
「……おにいちゃん……起きて」
ん,小町の声?もう朝か?
「お兄ちゃん,何寝ぼけてんの?早くお風呂入って」
ちょっと低い声で冷たく言い放つ小町ちゃん。
「龍子さん,お兄ちゃんにおやすみの挨拶してからって言ってたけど,お兄ちゃん起きないし,龍子さん朝早いみたいだから先に寝てもらったよ。まったく」
リビングのソファーでそのまま寝落ちたのか。あ,マッカンも飲みかけだ。
ぬるくなったマッカンに口をつけて飲んでいると、
「お兄ちゃん,龍子さん入ったお風呂の水飲まないでね。小町だって入ったんだから」
ブフォー!
「お兄ちゃん,汚い」
まるで汚いものを見るような目で小町が言い放つ。まあ,汚いんだけどねっ。
「お前が変なこと言うからだろ,ケホッケホッ」
「小町先に寝るから,ちゃんと拭いといてね。じゃおやすみ」
「お、おう」
妹が冷蔵庫から出したばかりのマッカンより冷たい。泣く。
その後に入った風呂は,小町が変なことを言ったおかげで妙に意識してしまい,疲れをいやすどころかかえって疲れたような気がした……
疲れた体を引きずって自分の部屋に戻る。もう日も変わっていたが,ようやく長い一日が終わる。
やっと安らぎの時間が……って布団に入ると,手に何か柔らかいものの感触が……アレ?
「ん……はち……まん?」
「は,原滝!? なんで俺のベッドに?」
「……いや、こまっちゃんに……ここで寝てって」
こまちぃ〜〜〜!お前、何てことを……じゃあ、この手に触れているものは……
「はちまん……Tシャツ一枚でブラつけてないんだ……優しくしてくれないか……」
やっぱりかーーー!
「す,すまん!」
「いや,いい」
いやいや,乳触られていいわきゃないよね?ビッチなの?ねえ,ビッチなの?それとも,この『いい』は『気持ちいい』のいいなの?って、現在進行形で乳を触りながらそんなことを考えている俺が一番気持ち悪いって話なのだが。
「八幡には勘違いで拉致した詫びと一宿一飯の恩義もあるし、そしてディスティニーにも連れてってもらうしな。優しく触ってくれるなら,別にいい。なんならファミレス休憩室の続きをするか?」
「バカ,何言ってるんだよ。あれは誤解だって分かっただろ?なら,続きをする理由なんかねえよ」
「今日は安全日だから中○しし放題だぞ?」
「オイコラ下品な会話やめろ。となりの部屋に小町がいるんだぞ」
一瞬の間をおいて,原滝が小さな声で囁いた。
「八幡は,あたしとじゃ嫌か?」
原滝がぴったりと身体を寄せてくる。眩暈を起こしそうなほどの女の子の匂いがして理性がどこかへ飛んでいきそう。
「お前が嫌とかそういうんじゃないんだ。ただ,恩とかお詫びとかでそういうことするのは違うだろ?」
「もちろんあたしだって誰でもいいってわけじゃない。それに,恩とか詫びとかだけじゃない」
原滝は俺の手の上に自分の手を重ね,さらに自分の胸に押し付ける。
「こんなにドキドキしてる……ね,分かる?」
「原滝……」
俺は自らの左手を原滝の頬に添えて言う。
「心臓は左だ。それじゃ鼓動は伝わらんぞ」
「……」
「ぷっ」
「あははははははは」
大笑いする原滝。そ、そんなにおかしかったかな?
「ヒィ〜、ハァハァ,あたしが決死の覚悟で迫ってるのに何よそれ。ほんとあたしがバカみたいじゃない」
「まあ、心臓の右と左を間違えてる時点であまり賢くはないな」
「ねえ……やっぱりあたしじゃダメ?」
素の表情で問う原滝に、俺もはぐらかさないで答えるべきだと思った。
「ダメじゃない。お前みたいな美少女に迫られたら,昔の俺なら速攻で落ちてただろう。それどころか俺から告白して振られちゃうまである。振られちゃうのかよ!」
「あははは。ならなんでよ?」
「もちろん,中学ん時にちょっと優しくされた女の子に告って振られて翌日にはクラス全員に知れ渡ってずっとそのことでバカにされ,半ばトラウマみたいになったという話は置いといて」
「うわぁ」
おい、そこ引くな。地味に傷つくぞ。
「部室やサイゼでのやり取りを見て分かる通り、こんな俺でも好きになってくれる女の子がいてな」
「ほんとどこのハーレム主人公かと思ったよ」
原滝は呆れ顔だ。ほんとすみません。
「俺自身、なんでこんな男を好きになるのか分からなくて,あいつらの思いに応えられないでいる……違うな。俺は選べないんだ。今まで俺に選択肢なんてなかったから選ぶ必要なんてなかった。こんなの初めてなんだ。これまで生きてきて初めて出会えた優しい世界。だから今でも思うんだ。こんなの勘違いじゃないのか?選んだ瞬間に夢から醒めて全てを失うんじゃないかってな」
「八幡はさ……」
彼女は,直前の呆れ顔から一転,優しい顔をして少し動いたら唇が触れてしまいそうな距離で俺に語りかける。
「考えすぎなんだよ。別にすぐに答えを出す必要もないけれど,そのことで必要以上に相手を拒むこともないだろ?そのうちに一番無くしたくないものが分かったら、それだけあれば自分の世界全てを満たしてくれるものが見つかったなら、その時はそれを選べばいい。それまではそんな深刻に考えないで好きに振舞ったらいいんだ。だから,しよう」
「しねえっての。なんでそういう結論になるんだよ」
「あたしは修学旅行が終わったら大分に帰っちゃうから後腐れないぞ。そのまま忘れて今まで通りの日常を過ごせばいい。な?」
「できねえよ」
「八幡?」
「そんな,失われることが分かっているのに,恩とかお詫びだけでそんな関係になれるだなんてそんなの偽物だ。偽物の思いでそんなことをしたって傷つくのはお前だ。思い出の中で『あれは本物だった』と言ってみみても『だった』と言う時点でそれはもう本物じゃないんだ。その時,そこになきゃダメなんだ」
「八幡,あたしは傷つく覚悟で踏み込んでるんだ。八幡を傷つける覚悟でこうしてるんだ。だから,応えられないならそれでいい。でも,誰でもいいんじゃないんだ。仮に恩とかお詫びが始まりだったとしても,それだけが全てじゃない。今,この時,あたしがどんな思いでこうしているか考えてみて。あたしの思いを偽物扱いするのはやめて」
俺ってやつは,全く学習しないな。こいつを傷つけたくないなんて言って,本当は俺自身が傷つくのが怖いんだ。思いを寄せてくれる人に対して俺が選べないのだって,誰かが傷つくから嫌なんじゃない,俺が傷つくのを避けているんだ。だが,こいつは違う。自分が傷つく覚悟も俺を傷つける覚悟もあると言った。それだけの強い思いを持っているんだ。海老名さんだって,由比ヶ浜の思いを知って,それでもなお,俺に自分の思いをぶつけてくる。他のみんなもそうだ。俺だけが取り残されている,一人立ち止まり足踏みを続けているんだ。
なあ,原滝,俺はいったいどうしたらいい?
「またなにか難しいことを考えているな?そんな顔だ。もっとシンプルに考えろ」
そう言って原滝は寝ている俺の上になり,唇を重ねた。
「あたしは八幡が好き,だからキスをする。それだけだ。そして,もっと深い関係になりたいと思っている。でもまあ,それはあたしの想い。八幡がしたくないなら仕方がない。あたしに魅力が足りなかったってだけ。そりゃ,あんなに美人に囲まれてちゃな」
「そんなことは,ない。お前だって超絶美少女だろ。ただな,お前はこの旅行が終わったら帰ってしまう。もう俺が求めても手の届かないところにいるかもしれん。それに耐える覚悟が俺にはないってことだ」
「八幡はどうして与えられた状況が全てだと思うんだ? 優しくされた女の子に恋をした。相手が優しくしてくれたのを俺に好意があると勘違いして告白した。そして振られた」
「お前,俺のトラウマをえぐるんじゃねえよ」
「だからって,自分が恋をしたことまで勘違いにはならないんだよ。勘違いしたのは相手が自分に好意を持ってくれているということだけ。恋ってのはさ,相思相愛じゃなきゃしちゃいけないってわけじゃないんだ。その時八幡は,相手に振り向いてもらえるよう何か努力したのか?何もしないで相手の好意を勘違いして振られて恋そのものを否定するなんて傲慢すぎるだろう?怠惰で傲慢,それが昔の八幡だ」
おいおい,怠惰で傲慢って,どこの大罪司教なんだよ。あ,傲慢は空席か。
「仮に世界が変わらないとしても,人の心は変えられるんだ。自分の心は変えなくてもいいんだ。もし,その恋が叶わないとしても,それそのものを嘘にしちゃダメなんだ」
原滝が再び俺に口づけをする。
「もしこれで離れたとしても,あたしと一緒にいたいと思ってくれるなら,お前が大分大学に入学して電柱組に就職すればいい。そしたらずっと一緒にいられる」
「大分大学か。国立大学は……俺は数学の成績が壊滅的でな,到底受かりそうにないんだわ」
「まだ2年の秋だろ?あと1年頑張れば八幡ならできる。変える努力を何もしないで今の状況のみで考えるのは傲慢だと言っただろう?」
「……善処する」
「それは前向きの姿勢で取り組むってことで……お前やる気ないだろ?」
「数学の授業は貴重な睡眠時間だからな。って,お前,朝早いんだろ?いいかげん寝ないと睡眠時間なくなるぞ」
「ああ,そうだな。なあ,八幡,今日は仕方ないけど,次はお前からキスしてくれよ?」
「……善処する」
「ところでさ,さっきからあたしの身体になんか固いものが当たってるんだけど」
「そ,それは仕方ないだろ?Tシャツ一枚の美少女が俺の上に乗ってるんだぞ?サイゼの時もそうだったが,一応俺だって男なんだ。生理的現象まではどうにもならん」
「まあ,やるのは諦めるとして,これはなんとかしたほうがいいよねえ?」
ニヤリと悪い笑みを浮かべる原滝。
「ほれほれ~~~♪」
「おいバカ,さするな!」
「うりうり~~~♪」
「やめれ~~~~~!」
「ゆうべは おたのしみでしたね」
小町,いや,小町さん。頼むからやめてください。
まだ日も登りきらない道を自転車の後ろに原滝を乗せて駅に向かう。心なしか,昨日のサイゼに向かう時よりもギュッと強く抱きつかれているような気がする。
「明日のディスティニー,楽しみにしてるからな」
「ああ,俺と一緒で楽しめるかは分からんが。善処はする」
原滝を総武線の駅まで送り家に戻る。あの後,原滝はほどなく眠りについたが,俺の方はよく眠ることができなかった。ベッドの下に布団を敷くか両親の部屋に行って寝ようかと思ったものの,原滝に,両親が亡くなってから誰かと一緒に寝ることがなかったから一緒にいてほしいと言われて断ることもできず,朝までずっと抱きつかれたままだった。そんな状態で寝られるわけないだろ?
今日は土曜日だし,部屋に戻って二度寝しようかと思ったら,小町が俺のベッドの上でなにやらゴソゴソしていた。
「何やってんの?」
「お兄ちゃんが大人の男になった決定的証拠を探しているのです」
いやいや、マジ何しちゃってるの?小町さん。
「安心しろ。昨夜、そんな事実は無かった。いくら証拠を探しても何も見つからんぞ」
「そ、そんな!? 夜中、あんなにドッタンバッタンと乱痴気騒ぎを繰り広げていたのに?」
小町さんや、よくそんな言葉知ってたな。
「ないもんはないんだよ。俺はまだ眠いんだ。早く寝かせてくれ」
「えー、でもこのゴミ箱のティッシュ……」
「だー!鼻を噛んだだけだ。ホントやめて頼むから」
コラッ!くんくんニオイ嗅ぐの禁止!
「で、お兄ちゃん、このズボンのポケットにこんなのが入ってたんだけど……」
あ、海老名さんのパンツ!
「龍子おねえちゃん昨夜ノーパンって言ってたけど、何かのプレイだったの?」
「違う!これは海老名さんの……あっ」
またもやリトルデビルになった我が妹がすごく悪い顔をしている。
「なるほど、お兄ちゃんが昨夜手を出さなかったのは姫菜お義姉ちゃんがいたからかー」
うん。小町ちゃん、何かがおかしいね。
「ひょっ、ひょっとして、お兄ちゃんはもう姫菜さんと経験済みだった!? なかった事実は、大人の男になったのが昨夜ということで、実はもうそれ以前に大人の階段を登りきっていたと」
こまちぃ〜〜〜!どうしたらそんな結論になるんだよ!
「お兄ちゃんが卒業式を済ませてたとなれば,これは今夜はお赤飯ですなあ」
「おいやめろ、親まで誤解しちゃうだろ」
「だってこんな動かぬ証拠が出てきたからには言い逃れはできませんぞ?」
う、うぜぇー!
とにかくこれ以上は詮索されたくないし誤解も解かねばならない。それに眠い。だいたいこのままやられっぱなしというのも癪だ。あと眠い。
「小町、俺は原滝とも海老名さんとも男女の関係になどなってはいない。まだ卒業もしていない。なぜなら俺には愛する女性がいるからだ」
「え、なになに?お兄ちゃんがその二人の他に愛する女性?!雪乃さん?結衣さん?それとも大志くんのお姉さん?」
まさに興味津々といった体ですり寄ってくる小町。
その小町の肩を掴んでベッドの上に押し倒す。
「小町……」
俺は真剣な眼差しで上から小町の瞳を見つめる。
「ちょ、お兄ちゃん、こういうの小町的にポイント……低い……かな」
「俺が愛してるのは、小町、お前だ」
「ええっ!?」
「お前を愛しているのに他の女の人を抱くなんてありえないだろ?だから俺は誰ともどうもなっていない。小町……愛してる」
これで小町が何ばかなこと言ってるのさ、プンプン、と出て行ってくれればとりあえずは寝られる。
見ろ。もうすでに顔を真っ赤にして激おこぷんぷん丸のようだ。
起きた後は、まあ、寝ぼけていたとか記憶にございませんとか言っておけばよいだろう。さあ、小町、早よ、早よう。
「お兄ちゃん……小町も……小町もお兄ちゃんのこと愛してる……」
え?
えええーーー!!!
「でも、お兄ちゃんと小町は兄妹……お兄ちゃんが雪乃さんか結衣さん、またはそれ以外の女の人とつきあうことになったら、そうしたら諦められるって,ずっと……でも,もうそんなのいいや……お兄ちゃんと小町は相思相愛だし,このままだとお兄ちゃんはずっと童貞のままだもんね。小町なら……いいよ……来て……」
そう言うや目を閉じて,俺の口づけを待っている。
え?ちょっと、何この展開。いや、自分で仕掛けたのだけれども、まるで千葉の兄妹のような、いや、千葉の兄妹だけれども。
え?いいの?小町ルート入っちゃっていいの?脱童貞が妹でいいの?
頭の中がグルグルして目眩が……そのうち身体を支えることができず小町に覆いかぶさるように倒れた。
小町の「お兄ちゃん、嬉しい」という声が遠くに聞こえる中、俺は意識を手放した……
気がつくと俺は自室のベッドの上だった。スマホで時刻を確認すると、ちょうど昼過ぎ。腹が減ったのも目が覚めた原因かもしれない。
いい夢を見た,という記憶はある。しかし,眠る前に起こったこととその後に見た夢がどうにもごっちゃになっていて,どこまでが現実でどこまでが夢なのかどうにも区別がつかない。もし全て現実であったりしたら,それはそれは大問題なのだが……
一階に降りると小町が昼ご飯を作っているようだ。
「小町さんや、今日の飯は何かね?」
「……」
「小町、お昼ご飯……」
「……」
小町ガン無視。作っている料理を見ると、フレッシュトマトのパスタにトマトのサラダ、トマトのチーズ焼きとトマト料理のフルコース。俺、何か悪いことしたか?
夢に見たようなこと……はしてない……よな?
じゃあなんで小町は怒っている?
寝ぼけ頭を働かせて、眠りに入る前の俺の所業を思い出す。
あ、小町に嘘告白して怒らせて部屋から出ていくよう仕向けたんだっけな?
あの時は、部屋から出て行って欲しい一心で後のことをよく考えてなかったんだよなあ。とりあえず申し開きをしないとなあ。
「小町、あの、すまん。なんと言っていいか、その……」
小町がパスタを茹でながら俺を一瞥し、
「バカ……ボケナス……ヘタレ……」
小町ちゃん、ヘタレってどういう意味?そこは八幡じゃないの?いや、八幡は悪口じゃないけれども。
「その……なんか寝ぼけていてな、何かいい夢を見ていたような記憶はあるんだが……」
「……いい夢って、どんな夢?」
少し低い声で、小町が問いかけてくる。
「それは小町と俺が、禁断の……バカ!言わせるな、恥ずかしい」
俺の答えを聞いて再びパスタ鍋に向き直る小町。鍋から立ち上がる湯気にあてられたか、顔が少し赤くなっている。
「ふ、ふーん。お兄ちゃん、そんな恥ずかしい夢を見たんだ」
「ま、まあな」
俺の顔は、鍋の湯気もないのに真っ赤になっていたと思う。なんなら俺自身から湯気が立ちそうだ。
「でも小町をその気にさせた罰でトマト料理は全部残さず食べてもらうからね!」
その気にさせた、の意味はよく分からんが、とにかく機嫌は治ったようだ。小町の笑顔が戻るなら、トマトなんかいくらでも鼻を摘んで食ってやるさ。
ヤダ、俺ってば千葉の兄の鑑。ん?千葉の兄妹?何か重大な見落としがあるような気がするが、まあ、いいか。
その夜、小町の夜這いをなんとかなだめすかして躱したのはまた別の話。