まちがいだらけの修学旅行。   作:さわらのーふ

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セカンドシーズン7話目。
ようやくディスティニー回。
園内の描写が少ないのは,ほとんど行ったことがないから。
ディスティニーであひるの競走やってるかどうか分からなかったので今回は出していません。
賭けたアヒルが一等になるとオリジナルグッズがもらえるんだぜ!

さすがに取材って言っておっさん一人でディ○ニー行けないので……

とりあえず今回は構想通り1話で終わったー!
理由が↑の通りなので全然威張れた話じゃないけれど……

キャラ崩壊してますね。
バラダギ様は完全オリヒロだし,ゆきのんはアレだし……

今回は何かが散る話です。

ちなみに,大分県にはかつて12もの郡がありましたが,今は町村合併で3つだけになってしまいました。



まちがいつづける修学旅行。⑦ ~下総散乱編~

 翌日,原滝とディスティニーデートのため,朝早く起きて準備をする。

 

 べ,別に原滝とのデートが楽しみで早起きしたわけじゃないからね!

 日曜日だが開園時間に合わせてエントランス前で待ち合わせをしているので,プリキュアは録画視聴ということで。

 まあ,開園時間に待ち合わせとか,実に俺らしくない。が,今夜は閉園時間までいるとまた門限過ぎてしまうので早めの集合となった。

 

 家を出る直前,海老名さんからLINEが来ているのに気付いた。

 

「はろはろ~ 今日は原滝さんとディスティニーデートだね。結衣とか雪ノ下さんも行くって言ってたから邪魔されないように気を付けてね。私は行かない。ヒキタニくんのこと信じてるから……では月曜日,学校で 愛しの姫菜ちゃんより」

 

 信じてる,か。

 

「追伸 例のモノは返さなくていいから存分に使ってね。また欲しくなったらいつでもイってね。愚腐腐」

 うん。いろいろおかしいね,姫菜ちゃん。

 

 今日が終われば原滝は九州へ帰る。そして俺に課された依頼は終わり,それぞれの日常が戻ってくる。だから今日は,今日だけは全てを忘れて原滝の依頼を全うする,それでいいはずなのに,なぜか胸の奥がチクリと痛んだ。

 


 

 待ち合わせの時間よりも15分ほど早くエントランスの前に着いたのだが,

「おーい,はっちまーん!」

 もっと早く来ていた赤髪の美少女が俺に向かって手を振っていた。

 街中でこんな子が大声で手を振ってたら目立ってしまい,すぐさま回れ右してその場を立ち去るところだが,今,ここは開園前のエントランス。待ち合わせのカップルも多いしそんなに目立つこともあるまい……と思っていたら,カップルの片割れも含めて,めっちゃ男どもの視線を集めてるんですけど!?

 そしてカップルの男!気づくんだ!隣でパートナーの女がすごい顔でお前を睨んでるぞ!

 

「よ,よお……」

 ぎこちなく片手を挙げて呼びかけに応える。原滝に集まっていた視線が怨嗟の視線となって俺に向けられた。大方,なんでこんな腐った魚のような目の男にこんなかわいい子が,というものだろうが,あいにくと雪ノ下や由比ヶ浜と歩いている時に向けられる視線でそんなのはもう慣れっこである。

 ただ,一昨晩のことを思い出すと原滝の顔をまともに見ることができない。

「来てくれてありがとう」

「まあ、依頼だからな。礼を言われるほどのことでもない」

「それでも、な」

 今日の原滝は一昨日のセーラー服姿と違って白いパーカーに黄色のシャツ、黒いミニスカートの私服姿だ。

「本当は自由行動中も制服着用なんだけど,どう、かな?」

 ちょっとだけ自信なさげに聞いてくる原滝。

「あ,いや、よく似合ってる。なんなら持ち帰って床の間に飾りたいまである」

「別に持ち帰ってもらっても構わんのだぞ?」

「ばっかお前、モノの例えだ」

 そんな会話を交わしているうちに開園時間を迎えた。

「ほれ,チケット。日付指定券だから入場制限時でも入れるやつだ」

「ありがとう。前もって用意してくれてたんだな。じゃあ行こうか」

「ちょっと待て。朝,マックスコーヒーを飲み損ねたんだ。持ち込みはできんから飲んでからな」

 マッカンをグシュグシュ振った後,カシュッとプルトップを開け,ゴクゴクとのどを潤す。

「そんな甘いのばっかり飲んでるとそのうち糖尿になるぞ。ところで,今日はちゃんとぱんつを履いてきたんだ。見るか?」

 

「ブ~~~~ッ!」

 少しスカートをまくりあげた原滝に思いっきりコーヒーを噴出した。

「汚いなあ。かかったらどうすんだ」

「おま,お前がへんなこと言うからだろうが!」

「なんだ,ノーパンの方が良かったのか?」

「そういうことじゃねぇ~~~!」

 缶を捨てて入場しようとしたら,自然に手をつながれました。いわゆる恋人つなぎというやつで……

 ま,まあ,一応,依頼とはいえデートなんだし。おかっ,おかしくはないよね?

 ただ,知り合いに見られたら何を言われるか分からないがな。

 そうして,俺たちは夢の国のゲートをくぐった。

 

一方……

 

「由比ヶ浜さん,急がないと開園時間に間に合わないわ」

「いや,ゆきのんが道に迷って待ち合わせ場所に遅れたんだからね!?」

「なんであーしまでこんな朝早くに……」

「あの男はちゃんと見張っていないと,いつ原滝さんにいかがわしいことをするか分からないわ。見落としの無いように見張りの目は多い方がいいもの」

「あたしは,ゆきのんと優美子と三人でディスティニーへ来れるなんて思ってなかったから嬉しいけどねー」

「由比ヶ浜さん,そんな女三人で腕を組むなんて,フランスデモではないのだから」

「結衣,ちょっと歩きにくいし」

「へへっ,姫菜も沙希も来られたらよかったのにねー。二人ともバイトだって」

「由比ヶ浜さん,結衣,そんなきつく腕を組んだら,あなたの肉の塊が。くっ」

「雪ノ下さん……」

「やめて,三浦さん。そんな憐みの目で見ないで……」

 


 

 とりあえず,ディトナ・ジェームズ・アドベンチャー:ダイヤモンドスケルトンの魔宮のファストパスをアプリで取ってジュエストーリー・マニアに向かう。その後も午後のタワー・オブ・テンプルのファストパスを取得しつつなんか空を飛ぶようなアトラクションなどを楽しんだ。

 ファストパスを取っていないアトラクションを並んでいるときも苦にはならなかった。こいつから自然に話しかけてくれるし,黙っていても楽しそうな表情をしていて気まずい思いをすることはなかった。

 

「昼もだいぶ過ぎたし,少し何か腹に入れるか?」

「そうだね。楽しすぎて時間を忘れちゃってたけど,言われるとお腹すいたな」

「じゃあ,その辺で適当にハンバーガーでも食べるか」

 とは言うものの,実は事前に下調べをして,簡単なくまのキャラクターショーが見られるレストランに自然に向かうように歩いてきたのだ。

 原滝はミートソース&チーズのハンバーガーのセット,俺はフライドチキンバーガーのセットに二人分のシーフードチャウダーを持って席に着く。

「おっ,このシーフードチャウダー,パンがアレの形だな」

「お前,それ絶対口に出すなよ」

 

 その頃,

 

「雪ノ下さんさあ,またバンブーファイト乗るん?」

「ここで待っていればあの男はきっと来るわ」

「だけどゆきのんの後ろのライドに乗ってたら,ゆきのんには分からないよ?」

「うっ,由比ヶ浜さんに指摘されるなんて……雪ノ下雪乃一生の不覚……」

「馬鹿にしすぎだからぁ!」

 


 

「あれれー?原滝さんやない?」

「ほんなこつ原滝さんやき」

「こらたまがった。優等生の原滝さんが私服で遊びよるたあ」

「速見さん……」

 一昨日見た原滝と同じ制服を着たこの3人の女はどうやら原滝と同じ学校の修学旅行生、おそらくはクラスメイトのようだ。

「ねーねー,原滝さん。こん横にいる男ん子紹介してよー」

「ん,ああ。こっちは,千葉の総武高校の比企谷くん。こちらは,速見さん,大野さん,直入さん」

「へぇー,千葉の……彼氏とデートとか青春しちょるねー。どげえして知り合ったん?」

 この速見という女。もし由比ヶ浜なら「はやみん」とか言うんだろうなあ。

 

その頃,

 

「今,由比ヶ……結衣からすごく不愉快な空気を感じたのだけれど」

「冤罪だ⁉︎」

「結衣,冤罪なんてよく知ってたし」

「馬鹿にしすぎだからぁ!」

 

 

 そしてこの女,俺を値踏みするように俺を見て,やはり笑みを浮かべた。あの時と同じ厳然たる嘲笑。この女もまた,"原滝龍子の連れている男"を見て嘲笑を浮かべるのだ。

 だが,状況はあの花火大会の時よりもさらに悪い。

 あの時はやきそばを理由にその場を離れたが,ここはレストランで原滝だけを残して立ち去るわけにもいかない。

 そして,こいつらが大分に帰ってしまえば俺は関係なくなるが,原滝はその後もこいつらと一緒だ。俺のためにずっと笑われ続けるのは可哀そうだ。

 ていうか俺がムカつくんだよ。

 そうであれば,俺のやることは一つ。いつもどおり最低のやり方でこの場を収める。俺が原滝の弱みを握って無理やり連れまわしていると言えば,学校に帰ってもこいつは悲劇のヒロインとして同情を集め,俺はまあ,俺のいないところで何を言われようが問題ない。

 今すぐ通報されないかだけが心配だが,まあこいつらも脅しておけば大丈夫だろう。

 そうと決まれば,

「おい,お前ら―――」

 勢いよく立ちあがったところ,原滝も同時に立ち上がり,俺の肩に両の手を置いて唇を重ね―――

 えっ!?

 3人の友人がぽかんと口を開けて見守る中,貪るようなキスが続く。

 クラクラと気が遠くなりそうになった頃,ようやく彼女の唇が離れた。

「は,は,原滝しゃん,なんしよっと?」

 はやみんが目をパチクリさせて原滝に問いかける。

「別に彼氏だし?夜も一緒に寝たし?」

「な!? 原滝,おまっ」

「あんたたちもおなごんじょうでつるみよらんで,そこらで暇しよる男ば捕まえちきたらどげんね?」

 原滝が少し挑発気味に煽ったのに続き,

「しんけんダァーーーッシュ!」

「ぴゃーーーー!」

 突然の大声に,おかしな声を上げ凄まじい勢いで飛び出していくはやみん。

「速見,待ちない!」

「ウチらをほたらんといてー」

 取り巻きどもも慌てて付いていく。男つかまるといいな。基本,男だけで来てるような奴はほとんどいないと思うが。

 

「ほれほれ,お昼お昼♪」

「お前,何であんなことを……後でアイツらにバカにされたりするんじゃないのかよ」

「そんなのはもういいんだ。あたしはさ,自分がバカにされるより,八幡がバカにされる方が嫌なんだ。八幡もそう思ってなんかしようとしたんだろ?」

「……分かってたのか」

「分からいでか。あたしはあんたの彼女だぞ?」

「今日限定だけどな」

「それでも,だ」

 にかっと笑って席に着く原滝。

 俺もそれに続いて座ろうとふと辺りを見ると,周りの客とステージ上で踊っていた熊までが動きを止めて俺たちを見ていた。

「お,おい!周り中から見られてたみたいだぞ。早くここを出よう」

「何言ってるんだ?まだ全然食べてないじゃないか。ショーも見たいし。ほら,このシーフードチャウダー美味いぞ。このミッ……」

「やめろ。その続きを言ってはいけない。ここはディスティニーだ」

 

 まあ,チキンバーガーとシーフードチャウダーは確かに美味かった……ような気がする。半分くらい食べた気がしなかったが。

 

 その後もアトラクションやショーを見て廻り,時間を忘れるほど楽しい時間を過ごした。

 本当に楽しそうな顔をしている原滝を見ていたら,それだけで俺も心から楽しい気分でいられたんだ。

 それでも次第に夜のとばりが降りてきて,きらびやかさを残しながら辺りを闇が支配する時間になった。

 


 

「八幡,今日はありがとな。ほんとうにいい思い出になったよ」

「まあ,依頼だからな。俺も楽しかったし,お前が喜んでくれたなら依頼は成功ってことだ」

「……そうだな。依頼……だったな」

 原滝が下を向く。そう,これは依頼なんだ……

 

 その時,ひゅぅぅぅという音がして,夜空にどーんと大輪の華を咲かせた。

 その音に天空を見上げた原滝の顔を,大きな光輪が白く赤く照らしている。

 そして俺は……彼女を正面から抱きしめて,強引に唇を奪った。

 一瞬目を見開いて驚いた表情を見せた原滝だったが,すぐに目をつぶりそれを受け入れた。

 

「八幡……」

「これで依頼完遂だ。俺の方からというリクエストだったからな」

「覚えてたのか」

 意外そうな顔をする原滝。

「まだ一昨晩のことだ。忘れねえよ」

「あたしが……九州に帰ったら……八幡は忘れるのかな?あたしのこと」

「忘れねえよ。まあ,いつまでもとは言えないけれどな。お前が覚えてる間くらいは忘れねえ」

「じゃあ,あたしはいつまでも忘れない。だからいつまでも覚えてろ」

「……善処する」

「ねえ」

 少し思いつめた表情で彼女が問いかけた。

「今夜……帰りたくないな……」

 上目づかいに懇願する彼女。

 俺もつい流されそうになる。だが,

「……だめだ。 夢は……ここで終わりだ」

 俺の言葉を聞いて,彼女はふっと笑った。

「そうか……そうだな……」

「ああ。俺たちにはそれぞれ帰るべき日常がある」

「んじゃ,行こうか。戻るならそろそろ行かないと……アレ?」

 原滝の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちた。

「なんで?最後は笑顔で別れようと思ってたのに……なんで……」

 俺は静かに原滝の背中に手を回しそっと抱きしめてやった。

 彼女は,俺の胸で声をあげて泣いた。

 響き渡る花火の音がそんな彼女の声をかき消してくれていた。

 

 舞浜駅のホームに京葉線の電車が入ってきた。

 モノレールの中からここまで,手をつないだままの二人はずっと無言だった。

 ドアが開く。ホームで待っていた人が電車の中に吸い込まれていく。

「八幡。また,大分に来ることがあったら連絡くれな」

「その時はな」

「また,LINEする」

「ああ,いつでもいいぞ。返事はいつになるか分からんが」

「ふふ,八幡らしいな」

 狭い世界の歌が鳴り,それが終われば電車の扉が閉まる。

 名残惜しげに二人の指が離れていく。

 本当にこれで夢は終わり。

 ドアに隔てられた彼女の顔は,今度は笑っていた。

 無理矢理なぎこちない笑顔。それでも一生懸命笑顔を作っていた。

 おれは軽く右手を上げ,走り去る電車が見えなくなるまでその手を小さく振り続けた。

 

 


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