これでよかったのかな?と。
「その頃……」とか入れてゆきのんラストにしようかな?と悩んだけれど,ネタが思い浮かばず断念。
さて,セカンドシーズン8話目。
当初の構想ではこんなエピソードは影も形もなかったんですよねー。
無くても物語としては多分成り立つはずなんですけど,こういうのを入れるから話が長くなるんでしょうね。
八幡のキャラがちょっとアレですし……
タイトルから,まああの人のターンです。
腐要素は全くありませんが。
Pixivの初出からタイトルを変更しました。
バラダギ様亡き後(死んでません)メインヒロイン争奪戦はどうなる?
まさかの新たな挑戦者!?
駄作者がほんっとすみません。
家の前まで帰ってくると,玄関の前に人影があった。
「はろはろー。おかえり,ヒキタニくん」
「海老名さん……」
「ディスティニーは楽しかった?」
「まあそれなりに,な。それよりどうして?」
「口では信用してるなんて言ってもさ,やっぱり不安で仕方なかったんだよ。今夜,本当に帰ってくるのかってね」
もし帰ってこなかったらずっとここに立ってたのか?だいたいいつからここに立ってたんだ?
「まあ,帰ってきたよ」
「……いろいろあったみたいだね」
「分かるのか?」
「まあね。これでも結構ヒキタニくんのこと見てるんだよ?」
おどけるように言った後,少しトーンを変え,俺の目を見て言った。
「でも帰ってきてくれた」
「まさかここで海老名さんが待ってくれてるとは思わなかったがな。まあ,お守りも持ってたし」
「お守り?」
「ああ」
と言って,俺はズボンの左ポケットからそのお守りを取り出す。
玄関の薄明かりの下で海老名さんがそれを目を凝らして見る。
「それは,わたしの,パンツ!? それずっと持ち歩いてたの?」
海老名さんの問いに俺は首肯してみせた。
「ぷっ,はははははっ。ヒキタニくんサイコーだよ。ひぃ~」
「まあ,流されて忘れないように,な」
海老名さんが勢いをつけて抱きついてきた。
「ありがとね,ヒキタニくん……」
「いや,俺はヘタレだからな。まだ何も決められない,それだけだ」
「でも,わたしのことを考えていてくれた……それだけで十分だよ」
昼間はまだ少し暖かいとはいえもう秋も深まってきて,夜は結構冷え込む時期だ。抱きついた彼女の身体はやはり少し冷たくなっていた。
「かなり長い時間待ってたんだろ?身体が冷えてるぞ」
「ううん,こうしてたら温かいから……しばらくこのままで……ね?」
俺は海老名さんの言うとおり,しばらくの間,そのまま彼女を抱きしめていた。
「そろそろ行かなくちゃ」
俺の耳のすぐそばでそう囁いた彼女。ちょっとくすぐったい。
「上がっていかないのか?お茶くらい入れるけど」
「やめとくよ。上がったら帰りたくなくなりそうだもん。それにお茶じゃなくて違うものを入れられたりするかもだしね」
「ばっ,ばっか。何言ってんだよ!」
「ふふふ,そういうことだから,今日は帰るね」
「分かった。なら送ってくよ。もう遅いし」
「ヒキタニくんも疲れてるでしょ?わたしなら大丈夫だよ?」
「俺が送りたいんだよ。言わせんな,恥ずかしい」
「もー,そういうとこだよ!大好き!」
「お,おお……」
かなり寒くなってきているはずなのに,顔は熱く,身体はほてっていた。彼女の顔も真っ赤だから,たぶん同じなんだろう。
駅まで自転車で送って行こうと言ったんだが,少しでも長い時間一緒にいられるから,と二人で歩いていくことになった。
改札の前まで来て,ここまででいいよ,と彼女は言ったんだが,眼鏡の奥の目が少し淋しそうにしていたのを俺は見逃さなかった。
「もう少し一緒にいたいんだ。だめか?」
と言ったら,このジゴロ,女たらし,女の敵と言われてしまった。解せぬ。
それでも嬉しそうに腕に抱きつかれてそのままの体勢でホームから電車中へ,そして彼女の最寄りの駅から家までの歩を進めた。
「ヒキタニくん,本当にありがとう。すごく嬉しかった」
「別にお礼を言われるようなことはない。俺が自分のためにやったんだから」
「……ねえ,上がってく?」
彼女の問いに俺は首をすくめるように答えた。
「やめとく。上がったら帰りたくなくなるだろ?」
俺の答えに彼女はふふっと笑う。
「そうだ。まだパンツ持ってるよね?それ,返してもらっていいかな?」
「え,ああ,そうだな。もうお守りとしての役割を十分果たしたしな」
俺はポケットに手を突っ込み,パンツを出そうとするが,
「ここで出されるのはちょっと恥ずかしいかな?玄関の中まで入ってくれる?」
門扉を通り抜け,彼女が玄関を開け中に入るのに付いていく。
「姫菜,おかえりー」
奥からお母さんらしき人の声がした。
「ただまー」
「遅かったのねー,今日もアルバイト?」
「うん」
「早くご飯食べちゃいなさいー」
「分かったー,部屋で着替えたらすぐ行くねー」
「お,おい,俺,こんなとこにいて大丈夫か?」
小声で彼女に聞いてみる。
「大丈夫大丈夫。この時間,お母さんは2階でテレビ見てるし,私の部屋は1階だから」
「とにかくこれは返すな」
再びポケットからパンツを取り出し,彼女に渡す。べ,別に名残り惜しくなんかないんだからねっ!
「それじゃあ」
慌てて玄関を出ようとするが,
「静かにドアを開けないとばれちゃうよ」
「お,おおう」
確かにその通りだ。玄関が開くのが分かったら,帰ってきた娘がまたもや出て行こうとしているんじゃないかと不審に思われちまう。
きわめて静かに,そーっと玄関の扉を開けようとすると,
「ヒキタニくん」
と小声で呼び止められた。振り向くと,はい,と何かを手渡された。
玄関の明かりを点けてなかったので,薄く暗い中,目を凝らして見てみると,
「パッ,パン……!」
「シーーーー!」
思わず声を上げそうになっちまった。だてそうだろ?俺の手の中にあるのは,
パンツ!今度は縞パン! しかもまだ温かい!
「新しいのに交換ね。今履いてたやつだからね。わたしのぬくもりを感じて。あ,でも今ここで匂いをかぐのはやめてほしいかな。それは家に帰ってからね」
いやいや,しないからね,そんなこと。
たぶん……
それよりもこの脱ぎたてほやほやのパンツが俺の手の中にあるってことは……
「当然ノーパンだね」
そう言って,スカートをチラっと捲ってみせた。
キ・マ・シ・タ・ワー!
危うく鼻血を吹いて倒れるところだったがなんとか踏みとどまった。
「おまっ,おまっ!」
「ヒキタニくんのエッチ。なんて卑猥な単語を言おうとしてるの」
違うちがーーーーう!! そうじゃ,そうじゃない!
と言って叫び出したいところだが、2階にお母さんがいるのではそういうわけにもいかない。
「なんでこんな……」
「わたしだって……わたしだって必死なんだよ?わたしには何もないから……雪ノ下さんみたいに綺麗じゃないし、結衣みたいにおっぱいも大きくない。優美子みたいにプロポーションも良くなければサキサキみたいに家庭的でもない。そこへもってきて原滝さん……こうでもしなくちゃ君の心を……つなぎ止めておけない……」
チクショウ。彼女はずっと不安に苛まれてたんじゃないか。原滝のことだけじゃなくて、ずっと、ずっと。冷えた体で家の前に立っていたことで気づいていたはずなのに。言葉の最後の方を涙声しながら訴える彼女に俺はどうすれば?
「うぅっ」
いや、その前に、今泣かれたら上のお母さんに俺がいることがバレちまう。だからといって、このままの海老名さんを置いて逃げ帰ることなんてできるわけがない。束の間でも彼女を安心させて泣き出すのを止めるために俺は何をすれば?
何をすればだって?どれだけ欺瞞を重ねるんだ。俺はもうその方法を知っている。知っていてできない。いつまで経っても変わらない、変わることができない。だが……
「ひぐっ、んん……」
今にも泣き出しそうな海老名さんの唇を俺の唇で塞ぐ。
上の階にお母さんがいるのにこんなことをしてていいのか、そんな考えも唇を重ねるうちに薄れていき、俺たちは周囲に水音が響くほどの長く甘い口づけを交わし続けた。
「落ち着いたか?」
「うん。ありがとね」
「海老名さんは他の誰にも負けないくらいの魅力があるんだからもっと自信を持っていい。それに俺は泣き顔よりも笑顔が似合うと思うぞ」
「ヒキタニくんってホント女たらしだね」
「失礼な。こんなこと誰にでも言うわけじゃないぞ。戸塚とか小町とか、あと戸塚とか」
ま、まあ、小町は今までみたいに冗談では済まされないことになっているから気を付けないといけないが。だからと言って,戸塚への想いは冗談じゃなくて真剣だぞ?
「いいよ。誰にでもは言わないうちの一人に入れてもらってるからね」
「じゃあ,海老名さん,今度こそ帰るから」
「姫菜」
「へ?」
うっかり間抜けな声を上げちまったい。
「姫菜って,名前で……呼んでほしいな」
「名前呼びは,ボッチにはハードルが高いな」
「これだけの女の子に好かれていてもうボッチでもないし,キスよりハードルが高いっておかしくない?」
ぐぬぬ。たしかにそうだ。そうなんだが……
「ひ,姫菜」
「はちまんくん」
今さらと思われるかもしれないが,二人とも顔を真っ赤にして互いの名前を呼んだ。
「やっぱりちょっと恥ずかしいね」
そうは言いながら,姫菜……はすごく嬉しそうだ。
「今日は,送ってくれてありがとうね」
姫菜がが静かに目を瞑る。
最後にそっとお別れのキスをした。
玄関を離れ,少し歩いたところで振り向いてみると,ドアを少しだけあけて姫菜が小さく手を振っている。俺もそれに応えて小さく手を振る。
京葉線のホームを思い出して,少しだけ胸が痛んだ。
「たでーまー」
疲れた。今日も疲れた。
今日一日は悪い日ではなかった。ディスティニーは楽しかったし,姫菜との時間も全く嫌ではなかった。
だがしかし,一昨日からいろんなイベントが続きすぎて疲れの癒える間がなかった。
帰ってくる途中も電話やLINEの着信がガンガンあったが,それらをガン無視しつつようやく愛しの我が家にたどり着いたのだった。
「おにいちゃんおかえりっ!小町にする?小町にする?それとも,こ・ま・ち?」
「じゃあ小町で」
「お兄ちゃん……」
小町の目が潤んでる! しまった! 大変まずい! 実にまずい! うかつな口を撃ち抜きたい!
こら,こんなところで服を脱ぐな! 抱きつくな! キスをしようとするな!
玄関でひと悶着していると,二人してスパーン!スパーン!とスリッパで後頭部をひっぱたかれた。
「あんたたち,兄妹して玄関先で何やってんの!」
「あ,今日はお母さん家にいたんだったーテヘ★」
テヘ★じゃねーよ! 俺まで一緒にひっぱたかれてるじゃねーか。
「まったく……いくら千葉の兄妹だからってこんなところで何してんの。お父さんに見つかったりしたら殺されちゃうわよ。主に八幡が。もっぱら八幡が。ひたすら八幡が」
やだ,なにその理不尽。
なんで俺は何もしてないのに俺だけが殺されちゃうんだよ!
「小町! だめよ,こんなところじゃ。ちゃんと部屋でヤりなさい」
かあちゃーーーーん! 部屋でも駄目だろーが! いったい何言ってくれちゃってんの!
「じゃあお兄ちゃん,お母さんの許しも出たことだし,行こ?」
「可愛く言っても駄目だ。まずはお前,服を着ろ」
「えーーーーー」
「かーちゃんもおかしなこと言うな。小町が本気にしちゃうだろ」
「え?何? 八幡は母ちゃんがいいのかい? でもそんな親子で……もしあの人に見つかったら……」
それじゃ,見つからなかったらいいみたいじゃねーか!
「とりあえず俺は疲れたんだよ。飯は後でいいから先に風呂入るわ」
「しょうがないねえ。じゃあ小町,あたしたちだけで先にご飯にしようか」
「しかたないなあ。お兄ちゃん,ちゃんとカラダを洗って出てきてね」
小町ちゃんが何が言いたいのか、ハチマンよくワカラナーイ。
「ふひぃー」
もはや家の中ですら憩いの場所ではなくなった俺にとって、風呂だけが俺の安住の地だ。
テンプレな状況ならここで小町が入ってくるところだろうが、ちゃんと入り口に鍵は掛けたからそんなTo LOVEるは起きようもないのだ。やったねハチマン完全勝利!
どう考えてもこれはフラグだな……
とりあえず股間は念入りに洗って……ってちがぁーう!
兄妹で禁断の一線を越えるなんてあってはならないのだ。なぜか原滝と姫菜の顔が頭の中に浮かんだが、それはまあ関係ない。違うことを考えろ。戸塚、戸塚……
やべ、八幡のハチマンが……
戸塚はダメだ、別のことを考えろ。
由比ヶ浜、由比ヶ浜……おっぱい。
ますますダメだー!
川崎、川崎……黒のレース。
あかーーーん!
ガチャ。
ん?ガチャ?
なぜか鍵をかけたはずのドアが開いて、かーちゃんと小町が入ってきた。
「な、なんで入ってきてるんだよ! 鍵は掛けたはずなのに」
「いや、あんたあんなまり出てこないからのぼせて倒れてるんじゃないかと思って、心配で心配で」
「そうだよ、お兄ちゃん。小町とお母さんはお兄ちゃんを心配して」
「だったらなんで二人ともスッポンポンなんだよ!」
そう、小町もかーちゃんも一糸纏わぬ姿で風呂場に入ってきたのだ。
「そこはそれ。そう、蛇の道は蛇って言うじゃない?ねえ小町」
「そうそう。受験勉強で出てきたやつ」
「そんなわけあるかー! 全く意味不明だわ」
「今日はあの人も帰ってこないって連絡があったから、たまには八幡も含めた親子3人でさ」
「親子3人の3(ピー)だねっ!」
こまちィィィ!そのネタ前に使用済みだぞ。そしてナチュラルにかーちゃんを入れるなよ。も、もちろん妹もダメだが。
「は、はちまん?!」
「なんだよかーちゃん?」
「どうしてお前のアソコはそんなにやっはろーしてるんだい?」
うわァーーー! 慌てていて股間を隠すまもなくそのまま応対してたよ!
「あんなに小さかった八幡がこんなに立派に……」
今、その言葉を使うとちょっとおかしな意味になるからな!
小町もうっとりとした表情で見ない!
結局、風呂のドアの鍵は、コイン一枚あれば開いてしまうらしい。それこそ中で倒れてるかもしれないことを考えると至極当然ではあるのだが。
部屋の鍵をかけてベッドに倒れ込む。
家にいるのに俺がこんなに疲れるのはまちがっている。
おわ……らないよなあ……まだ……
顔の横に置かれたスマホがブルブルとバイブレーションしている。
画面の表示は「愛しの姫菜ちゃん」って,そういや朝は気づかなかったが,いつの間に登録されたんだろう?しかも登録名……
LINEメッセージなら後で返事しようと思ったのだが、鳴り続けていることをると、どうやら電話がかかってるようだ。
仕方がないのでその電話に出てみる。
「はろはろー、はっちまんくーん,さっきぶりー」
「どうしたんだ?姫菜。深夜ではないにしてもこんな時間に電話をかけてくるなんて」
「えっとねー,声が聴きたかったと言うのもあるけど,実はね」
姫菜がひと呼吸おいて衝撃と畏怖の一言を投下していった。
「あの,玄関でのやり取り,うちお母さんに見られてましたー」
は?!
見られてた?
「どこから?」
「んー,わたしがパンツを脱いだとこ?」
ほぼ全部じゃねーか! 数ある黒歴史に更なる一ページが……
「でね,お母さんがぜひ今度家に連れてきて紹介しなさいって」
「俺に拒否権は……?」
「もちろんあるよ。優美子じゃあるまいし,そんな強制はしないよ?」
よかった。こっちはなんとか断れそうだ。ていうか,姫菜が三浦のことをどう思っているかよーく分かった。
「ただ、来てくれないとウッカリお父さんの前で口を滑らしちゃうかも,だって。お父さん、わたしが一人っ子だからか,なんかゴルフバッグに猟銃を潜ませてたり」
怖え,怖えよ! 結局,会いに行くの一択じゃねえか!
「じゃあそのうち時間を見つけてな」
「お母さんからは,お父さんが出張とかでいない時に来てね,だって」
ま,まあ,俺も命が惜しいからな。それに越したことはない。
「夕食時に来てくれたら,八幡くんさえよければ親子丼をご馳走しますって……」
ブツッ
ツーツー
……寝よう