まちがいだらけの修学旅行から始まったこの世界の彼らの物語もサードシーズンに入りました。
といってもセカンドシーズンの最終回から3日後の話ですが。
今回はいよいよ皆様お待ちかね,クリスマスイベントです。
本シリーズでは順調に進んでいたはずのイベント準備にトラブルが!?
八幡はこのトラブルをどう解決するのでしょうか?
それではゆっくりとご覧ください。
昭和な前振りだ……
あ,本シリーズでは修学旅行がアレでアレだったので「それでも俺は本物が……」というのありませんから。
ディスティニーにも行かないので,「いつか,私を……」ってのも無し。
悪しからず。
今回は少し一話あたりの字数が少なめになる……予定です。
クリスマスは踊る(1) AND EVERYTHING IS YOU
悪の秘密結社・電柱組のバラダギ大佐こと原滝龍子が新設された電柱組関東支部、通称「関東電柱組」のナンバー2として引き抜かれ,大分県立今津留高校から千葉市立総武高校に転入してきたのは先週金曜日のこと。その後なんだかんだあって俺と姫菜も関東電柱組の幹部の一員となり,これまたなんだかんだあって,首領のハルノ大元帥こと雪ノ下陽乃も含めた4人で,即日社員旅行に行くことと相成ったのだが,その日の夜のことについては別稿に譲る。←書きません(作者)
本来なら週末もクリスマスイベントの準備の手伝いの予定だったが,準備自体は順調に進んでいたこともあり,まあ生徒会だけで十分だろうと一色に断って欠席することにした。
一色が何やらわあわあ喚いていたが,横にいた陽乃さんが,「あっ!」と叫んだかと思ったらそのまま電話を切ってしまい,さらには電源も切られてしまったのでその後のことは全く分からない。
しばらくして再び電源を入れた際には一色からのメッセージがエライことになっていたが,小町公認のヘタレ男であるところの俺は当然未読スルーである。
後のことは後の俺がなんとかするだろうとそのまま眠りについた。
週明け,正直言って学校に行きたくない。
残念ながら,目が覚めると2週間前に戻っている……などということもなく,月曜日の朝を迎えたのだった。
雪ノ下や由比ヶ浜と顔を合わせれば週末のことを根掘り葉掘り聞かれた上で罵倒されるのはほぼ決定事項で,更には女となった葉山に迫られることも既定路線。
その上,平塚先生に三浦,川……サキサキまでもが手ぐすね引いて待ち構えており,前門の狼後門の虎どころではなく,別府アフリカンサファリに放り込まれたヒキガエルのごとく全方位猛獣だらけの状況なのだ。そんな中にわざわざ飛び込んでいくのは自殺行為としか思えないだろう?
ヒキガエルのくだり要らなかったな……
ぶっちゃけいろいろあって夕べも寝不足で,死んだ魚のような目がさらにやばいことになっている自覚もあり,具合が悪いと家で寝ていようとしたんだが,それを聞いた小町が自分も学校を休んで看病をする,とりあえず人肌で温めないと,と言って全裸で布団にもぐりこんできたので、慌てて体調がV字回復したからと布団と家を飛び出してきたわけだ。←イマココ
先週末に学校へ自転車も置いてきてしまったので,どうせ遅刻確定だろうからと衝撃のファーストブリットを覚悟しつつトボトボと歩いていたら,校門の前に姫菜と原滝が立っているのが見えた。
「よ,よう」
「八幡くん……おはよう」
「八幡……遅かったな」
なぜか二人とも顔を赤らめている。俺も顔のあたりがちょっと熱いが,ここはクールに,そう,クールにだ。
「おはにょう」
死にたい。
「でさ,転校二日目にして学校が突如休校なんだよ」
原滝,頼むから突っ込んでくれ。スルーはますます辛い。
「ほんと,事前に何の告知もないから,登校してきた人,みんなびっくりしてたよ」
「そうか,初めから分かってりゃ家から出なくて済んだのにな」
とはいえ,俺的には遅刻が帳消しになって超ラッキーだった。一限目現国だったし。ホント命拾いした。
「ところで,お前らなんでいんの?」
「八幡くん来るの待ってたんだよ?」
「ふぇ?」
うっかり間抜けな声をあげちゃったよ!
「なぜか海浜総合やこの辺の小学校も一斉に臨時休校なんだって。なので急きょコミュニティセンターでクリスマスイベントの準備をすることになりました,特にせんぱいはサボらずに来てくださいねっ,メッセージの未読スルーの問題については後でOHANASHI☆ですって一色さんから伝言をもらったの」
一色ェ……
「それだけならわざわざ立って待ってなくても,メールとかメッセージでよかったんじゃないか?」
「八幡,鈍いな。お前の顔が見たいからに決まってるだろ? それ以外にこんな寒空に立ってる意味があると思うか?察しろ」
「お,おう,なんかすまん……じゃ帰るか」
「なんでだよ!」
「え?だって寒いし」
「理由になってない!」
今回の原滝はツッコミキャラか。さっきのおはにょうにはツッコんでくれなかったのに(泣)
「だってさ,イベントの準備は順調に進んでるんだろ? もう生徒会メンバーだけでよくね?」
「あのね,雪ノ下さんからも伝言があって,奉仕部は全員強制参加ですって」
何それ。ブラック部活とブラック組織のバイトとのかけもちって俺,どんだけブラックライフ送ってんだよ。最近は家庭までブラック化しつつあるしな。
「いや,お前の生活,どちらかといえばピンク色だろ」
だから原滝,モノローグにツッコミを入れるなっての!
「とりあえず,お昼にコミュニティセンター前集合,昼食は食べてこないように,って言ってたよ」
「え?メシ抜きで働かされるの?どんだけブラック部活なんだよ。もう労働基準監督署とかに訴えていい?」
「どうしたらそんな捻くれた考えができるんだ? 昼時に集合ってことは一緒にご飯を食べようってことだろ?」
「そうか……今まで,大概一人だけ違う集合時間を伝えられて他の連中がメシ食い終わった後に集合してたから,全く気付かなかったわ」
「八幡……」
「八幡くん……」
やめて!そんな憐みの目で見ないで!そして,ナイショにしていたはずの俺ににうっかり「昼食ったオニオンソースのハンバーグ,美味かったよな」と話しかけて,周り中の空気を凍らせた挙句,後で皆に責められてた清川くん。俺にも気を遣って話しかけてくれるいい奴だったが,それがアダになったな。
「とりあえず昼までまだ三時間くらいあるけど,どうする?帰る?」
「八幡,お前,帰ったら二度と外へ出てこないだろ」
「ばっか,そんなことあるか。ちゃんと出てくるぞ,明日,学校に」
「やっぱり出てこないんじゃないか!」
「それは見解の相違だな。じゃあ話し合いは物別れということで帰ろう」
「平塚先生の伝言は『比企谷,分かるな』だったね」
怖え,怖えよ!まったく分かりたくない,分かりたくないのだが,コレ,拳で語り,体で分からされるパターンや。アカンやつや。
「はあ,この前逃げちまったから雪ノ下とかに顔合わせたくなかったんだがな。まあ,仕方ねえか」
俺がため息をついていると姫菜が俺の手を握り,
「大丈夫だよ。私たちがついてるから」
「そうそう。それにハルノ大元帥閣下もコミュニティセンターに顔出すみたいだから大丈夫だろう」
「おい!それ全然大丈夫じゃないやつだからね!」
「何が大丈夫じゃないって?」
背中に冷たい汗が流れた。
「ひゃっはろ~!関東電柱組幹部の諸君,おつかれー! 比企谷くんは後でOHANASHI☆ね」
ぴゃ~~~!小町……おにいちゃんはもうお家には帰れないかもしれません……こんなことになるのなら一度くらい希望を叶えてあげたらよかったよ……
「大元帥,集合は13時だったのでは?」
「え~,雪乃ちゃんたちとお昼食べる約束してるんでしょ? 私だけ仲間外れなんてひどいよー,およよ」
自分でおよよって言葉に出して泣きまねする人初めて見たよ……
「というわけで,都築の車を待たせてるから,お昼までドライブとでも洒落こもうじゃないか!」
「おー!」
「おー?」
「お,おお……」
一番元気がいいのが原滝で,ちょっと疑問形なのが姫菜,一番キョドってるのがオレな。
都築さんが運転するリムジンは,俺たち4人を乗せて静かに総武高校を離れた。この前も感じたが,本当に静かなんだよな。親父の運転する強制空冷2ストローク直列2気筒・356ccエンジンのスバル360とは大違いだ。改めて,俺が轢かれたときに「車が傷ついた,どうしてくれる」とか言われなくてよかった……
「ところで,雪ノ下さんはどうしてランチ会のことを知ったんですか?」
「陽乃」
「は?」
「は・る・の」
「いやいや,雪ノ下さん,そんな下の名前でなんて」
「ぶー,この前この車の中で呼んでくれたじゃない」
「あれは雪ノ下さんが無理やり……」
「それに海老名ちゃんは姫菜って呼んでるのに」
「それは,まあ,いろいろとあるんです」
「えー,私とも色々あったじゃない」
うぐっ。
「ディスティニーのホテルで……」
「陽乃……さん。これで勘弁してください」
ディスティニーのホテルでナニがあったかは,また別の番外編で……←だから書かないっての! (作者)
「ま,いっか。とりあえずそんなとこだよねー」
「八幡,八幡。あたしは?」
「お前はバラダギで」
「ガックリ」
いやいや,ガックリって口で言うなよ。
「あ,そうそう。バラダギちゃん,本社の文左衛門から電話が来てねー」
「チルソニアからですか?一体何と?」
「なんかアッチ大変なことになってるみたいよ。バラダギちゃん居なくなって,下っぱはスト起こすわ怪人は脱走するわ部屋は散らかり放題だわって大騒ぎなんだって。頼むから返してくださいって言われたんだけどー」
「えっ!?」
「返すわけないじゃん。移籍金だって払ってるしね。端金目当てで売っといて今更どのツラ下げてそんなこと言えるのってことよ」
「あ,やっぱり売られたんだ,あたし……」
「でもそのおかげで比企谷くんと一緒にいられるでしょ。それとも帰りたい?」
「いえ,こちらにいたいです。お給料もちゃんといただけそうですし」
「そうね。お給料の心配はしなくて大丈夫よ。誰かさんはブラックバイトとか言ってるようだけどー」
「だ,誰でしょうね。はっはっはー」
「九州のこともちゃーんと考えてあるから心配はいらないよ♪」
「そう言えば,大元帥閣下はどうしてご自身のことは名前で呼ばせて八幡のことは比企谷くんなんですか?」
「それはね,台本形式じゃないから,おねえさんが八幡と呼んでも八幡君と呼んでも誰がしゃべってるか分からなくなるからだよ」
「ゆきのし……陽乃さん,メタい発言はやめてください」
「おや?比企谷くんはおねえさんにも名前で呼んでもらいたい? このこの♪」
脇腹つつくのやめれー! あと,うざったい。
「とりあえず,時間までお茶でもしよっか。駅前の京成ホテルミラマーレのラウンジが開く時間だね。おねえちゃん朝ごはん食べてないからみんな行こ。もちろん経費だよ♪」
おいおい,この会社大丈夫なのかね。
「比企谷くんが疲れてるならホテルに部屋を取ってもいいんだけど?」
「いえ,ますます疲れそうなので遠慮します……」
「都築」
バックミラー越しに黙って頷き,車をJR千葉駅前に向ける都築さん。
「ところで比企谷くん」
「はい?」
「おはにょうって何?プークスクス」
チクショウめ!
このあとメチャクチャお茶した。