前回はコミュニティセンターへも至らずクリスマスイベント編が名ばかりになってしまいましたが,今回はいよいよ現地に関東電柱組御一行様が到着いたします。
そこで繰り広げられる人間模様。
物語はどう動いていくのでしょうか?
乞うご期待!
……今回,場所がほぼ変わらないので,名所案内もサイゼのメニュー紹介もありません。本SSの見所が9割9分無くなってしまいました。
不甲斐ない作者でごめんね。
「雪乃ちゃん,ひゃっはろ~♪」
「どうして呼んでもいないねえさんがここにいるのかしら。比企谷くんは後でOHANASHI★よ」
ぴゃ~~~!もうやだこの姉妹……
コミュニティセンター前に着くと,雪ノ下,由比ヶ浜,三浦,一色が待っていた。川崎は,家族にお昼を食べさせてからけーちゃんを連れて後で来るらしい。
「雪乃ちゃん,ひどいじゃない。おねえちゃんだけ仲間外れなんてー,ぷんぷん」
「ねえさんは総武高校の生徒でもでも海浜総合高校の生徒でもないのだからお呼びでないわ。こらまった失礼しましたと帰って頂戴」
雪ノ下,それはちょっとクレイジーだぞ。
「まあまあ,ゆきのん。陽乃さんも悪気があってのことじゃないだろうし」
「ありがとう,ガハマちゃん。私たちはちょーっと,クリスマスイベントを乗っ取りにきただけだよ」
「100パーセント悪気しかないじゃない!」
雪ノ下が激高している。いいぞ,もっとやれ。
「雪ノ下さん,あーしお腹空いたんだけど」
「コホン。とにかくねえさんの分のお昼ご飯は用意してないわ。すたこらさっさと帰って頂戴」
「えーん,比企谷くん,雪乃ちゃんが冷たい。しくしく」
「ウソ泣きはやめてください,陽乃さん」
「てへ☆」
おい,可愛いなこいつ。片目つぶって舌出して自分の頭をコツンとか,あざとさのレベルが一色とは段違い。なんなら本物じゃないかと勘違いするレベル。もう持ち帰っちゃっていいかな? いや,ダメだダメだ! どれだけ可愛くてもこれは偽物,それでも俺は,本物がほしい! うっかり騙されてラッセンの版画を買わされるところだったぜ,ふぅ。
「比企谷くん……」
雪ノ下が地の底から響くような低い声で俺の名前を呼ぶ。陽乃さんを持ち帰りたいって一瞬でも思ったことを読まれちゃった? 俺ってそんな分かりやすい顔してる?
「いつからねえさんのことを名前で呼ぶようになったのかしら?」
ほっ,サトラレたわけじゃなかったよ,よかった……じゃねえ!
「まあ,それはアレがアレでアレなもんで……」
「え? 何? 雪乃ちゃん,嫉妬? ジェラシー? 自分も名前で呼んでほしいの?」
「そ,そういうわけではないけれど,雪ノ下家の次女として跡継ぎたる長女が今まさにウォーキングデッド谷くんの餌食になろうとしているのを見過ごしてはおけないだけよ」
いくらなんでも語呂悪すぎだろ!なんだよ,ウォーキングデッド谷君って。せめてゾンビ谷君にしろよ! いや,死んでないけれども!
「とにかくこれは奉仕部の問題なのだから,ねえさんはアラホラサッサと帰って頂戴」
「そんなこと言われても,おねえちゃん,もう身も心も比企谷くんのものだしぃ」
ピキィッ!
今,ピキィって音がした!ほんとそんな音がした!
恐る恐る雪ノ下の方を見るが……
「ヒッキー……身も心もヒッキーのものってどういうこと? どういうことかちゃんと説明してもらえるかな? ねえ? ねえ? ねえ?」
由比ヶ浜,お前かい!
「これはあれだ,いわゆる陽乃ジョークってやつだ。雪ノ下をからかって言ってるだけだから,な,な,な?」
「ホント二?」
目が光を失ってるよ! 死ぬ,これは死ぬる!
「結衣,大丈夫だよ。陽乃さんは今,八幡くんのバイト先の上司だからそう呼ばせているだけ。だから安心して」
「姫菜……」
「ね?」
「どうして姫菜はヒッキーのことを名前で呼んでいるのかなー? この前,部室でヒッキーが姫菜のことを名前で呼んでいたのもなぜかなー?」
「あちゃー」
姫菜が俺をすがるような目で見てくるが,俺にはどうすることもできない。彼女の手を引いて逃げたいところだが,前門の由比ヶ浜,後門の雪ノ下。二人に挟まれて絶体絶命である。どうせ挟まれるなら由比ヶ浜の方がいいなと思ったりなんかしてない! 由比ヶ浜のアレにナニを挟まれたいとか絶対に思っていない!
「ちょっと,結衣に雪ノ下さんさあ~,いい加減お昼にしないと打合せとか作業が始まっちゃうんだけどー」
ここで三浦の助け舟! 愛してるぜっ!
「ヒキオの処分は今日が終わってからでいいっしょ?」
あ,処分されることは確定なんですね。やっぱり泥船だった……
「今日は私たちがお昼を作ってきたから,コミュニティセンターで食べようと思っていたのよ。ねえさんが来ることは聞いてなかったから,本当に用意がないの」
「じゃじゃーん!そんなこともあろうかと,ちゃんとおねえちゃんもお弁当を持ってきましたー!これなら文句ないでしょ?」
後ろに控えていた都築さんが,風呂敷に包まれたお重を陽乃さんに差出し,それを雪ノ下の前で高々と掲げた。
「くっ」
雪ノ下,どんだけ悔しいんだよ。
「ヒッキー!あたしもお弁当作ってきたから食べてね!」
「俺の処分ってそういうことか……儚い人生だった……」
「どういうことだし!?」
「比企谷くん,私の家で厳重な監視下の下,間違いが起こらないよう一切の余分な材料を持たずつくらず持ち込ませずの三原則を順守して作ったから,少なくとも死ぬことはないわ」
由比ヶ浜の料理は核兵器並み!?
「隠し味に使おうと思ってた桃缶は,料理の時にはゆきのんにとりあげられちゃったから後でデザートで食べようね」
雪ノ下GJ! 心なしかやつれて見えるのは気のせいだろうか。
「せんぱい,私も食後のデザートにお菓子を作ってきたので食べてくださいね♪」
「なんですか,お菓子が作れる可愛い女子をアピールですか。ちょっとときめいちゃったけど,あざとさが勝って一瞬で醒めちゃったのでごめんなさい」
「せんぱい,なんで私が振られたみたいになってるんですかー」
一色が胸のあたりをポカポカ叩いてくる。怒ってもあざとい奴だ。
「ところで,本牧とか稲村とか他の生徒会役員共は?」
「え? 他の人たちには13時集合って伝えてるのでまだ来ませんよ?」
「おいおい大丈夫なのか?」
「ちゃんと生徒会の分は別にクッキーを焼いてきたから大丈夫でえす」
ちゃんと考えてるんだな,一色。
「じゃあみんなでお昼ご飯にレッツゴー♪」
「なんでねえさんが仕切っているのかしら……」
雪ノ下がブツブツ言っているのをスルーしながらコミュニティセンターの中へ入っていく。
「八幡,お昼代が浮いてラッキーだな☆」
ビンボー苦学生の原滝が,すごくいい笑顔で喜んでいたことだけは特記事項として追加しておきたい。
そこから女子たちが作ったお弁当でのランチタイムと相成ったわけだが,雪ノ下のサンドイッチが美味いのは当たり前として,三浦が作ったから揚げとサラダが結構いけたのは意外な感じがしたのだが,真に特筆すべきは由比ヶ浜の作った玉子焼きが,普通だったのだ! 普通に食べられたのだ! それだけで感動して泣きそうになった。由比ヶ浜の料理の腕を知らない原滝と由比ヶ浜本人を除いた全員が。
食後に桃缶を食べようと思ったら缶切りが無く,由比ヶ浜が心底残念そうな顔をしていたのをよそに一色の作ったカップケーキと雪ノ下の入れた紅茶を楽しんでいたら,生徒会副会長の本牧が血相を変えてその場に飛び込んできた。
「か,会長,大変です!」
「副会長,そんなに慌ててどうしたんですか?皆さんにはクッキーを焼いてきたからおやつの時間に食べましょう」
「それどころじゃないです! 海浜が,海浜が……」
「海浜がどうかしました? あちらの会長,お年寄り相手の陶芸教室をやるって張り切ってたじゃないですかー」
「そ,それが,イベントを中止したいと言ってきたんだ!」
「は?」
「……」
「ええーーーーっ!!!」
青天の霹靂とはまさにこのこと,その場にいた全員がぶったまげである。
ろくろを回す手を骨折して陶芸教室が中止になったと言うのなら話はわかるが,イベント自体を2日前に中止しようと言うのはただ事ではない。
「ちょっと,あーし文句言ってくるし!」
怒りの表情を浮かべて鉄砲玉のように飛び出していこうとする三浦。
単に怒鳴り込むくらいのことなら問題ないが,この勢いのまま飛び込んでいき,まかり間違って暴力沙汰にでもなろうものなら,たとえそれが偶発的なものだとしても海浜総合の申し入れ云々に関係なくイベントは中止されてしまうだろう。
このまま行かせてはだめだと判断した俺は,慌てて三浦を止めようと後ろから羽交い絞めにした。
「おい,ちょっと落ち着け!」
むにゅう。
むにゅう?
「あ……んん……」
三浦の艶めかしい声に我に返り,置かれている状況を冷静に確認する。今,俺の手の中に2つの柔らかいものがある。
はっきり言って,おっぱい。
三浦の柔らかい,おっぱい。
おっぱい。
あ,死んだ。