サードシーズンの3話目です。
玉縄ら海浜勢が突如クリスマスイベント中止を言い出した!?
それに対して八幡たちはどう対処するのでしょうか?
ご期待ください!
って、ネタがないとすぐ修羅場に走るのは悪い癖ですね。
なんかクリスマスイベントそっちのけですがいいのでしょうか?
三浦は両腕を組んで胸を隠すようにしてその場でうずくまっている。
由比ヶ浜はブルドックのようにウーと唸り姫菜はため息をつき原滝は呆れた表情を見せている。
後ろに立つ雪ノ下の表情をうかがい知ることはできないが,背中に絶対零度の冷気が伝わり,それこそ,お仕置きです!とか言われて何らかの力で吹っ飛ばされかねない霊圧を感じる。
「ヒキオ……」
「はい!ヒキオです」
三浦の呼びかけに反射的に返事をしてしまった俺。
静かに俺の名を呼ぶ三浦,風は語らないが,怖い,怖すぎる! これならいつものように炎のごとく怒鳴られた方がまだましだ。いや,それも十分怖いけれども。
まさに嵐の前の静けさか,この後にやってくる大災害を思い,静かに目を閉じて心の中で念仏とお題目とアーメンを唱えながらメッカの方向に向かって礼拝を行っていたところへ三浦が再び口を開いた。
「責任とれし……」
「せっ,責任というのはやはり金銭的補償でしょうか? ででで,でんちゅう組のバイト代が出るまでは全く持ち合わせがないので,少々待っていただいてもよろしいでしょうか?」
「あーしの体と純情を弄んで金で解決しようとするわけ?」
今度は振り向きざま,キッと睨みながら俺を非難する三浦。
だが,俺に向けられた目は涙で潤み,俺がしてしまったことの重大さを物語っていた。三浦だってオカンである前に一人の乙女なのだ。いや,本当にオカンじゃないけれども。
俺のしでかしたことを考えれば,本来なら罪悪感で押しつぶされるくらいになっていて当然なのだが,正直に言って今の三浦の姿を,
「かわいい……」
と思ってしまった。
「な……!? ヒキオあんた……」
三浦が驚愕に満ちた顔をしている。
WHY?
「たぶん気づいていないと思うけど,八幡くん,今,声に出てたよ」
「え,マジ?」
姫菜の指摘に今度は俺が驚愕する番だ。コレ死んだ。もう死んだ。ディレイマジック・トゥルーデスだ。
立ち上がった三浦がどんどん俺に近づいてくる。蛇に睨まれたヒキガエル,おばあさんに睨まれた加藤清正の如く俺の身体が固まって,一歩も,1ミリたりとも身体を動かすことができなかった。決して体の一部分を硬くしたとかいう下ネタでは全くない。
三浦の身体がずんずん迫ってくる。その手が前に突き出され俺の頭の後ろに回され……?
「はいストップ!」
姫菜が三浦の手をチョップで払い落とし,俺と三浦の間に身体を割り込ませてくる。
「優美子……今,八幡くんにキスしようとしたよね?」
え゛!?
「だって……」
「駄目だよ,こんな人前でそんなハシタナイことを」
いや,あなた前シーズン,奉仕部の部室でみんな見ている中,公開キッスをしてましたよね? 自分の胸に手を押し付けさせて。
「そうだそうだ,こんな人の多いところでキスなんか間違ってるぞ」
原滝,お前はもっと人の多いディスティニーシーのレストランで,当時のクラスメイトのはやみんとかに見せつけるように俺とキスしてたからな。
「優美子はさ……隼人くんが好きだったんじゃないの? 隼人くんがはやこさんになったからってすぐに乗り換えるような子だったの?」
由比ヶ浜の目に光がない。怖い。あと怖い。
「あーしはヒキオに責任を……だって,男の人に胸を触られたのヒキオが初めてで……だけどそれがちっとも嫌じゃなかったし……」
おおぅ,そうだったのか。それならそうと言ってくれればもう少し……我ながらゲスいな……
「それに隼人はあーしに何も言ってくれなかったけど,ヒキオは本音でかわいいとか言ってくれた……これまで下心丸出しの奴に同じことを言われても嫌悪感しかなかったけど,ヒキオに言われた時は嫌悪感どころか何か分からないけどとにかく嬉しかった……そんなの今まで生きてきてヒキオだけだし……その人を好きになって悪いの? あーしが……悪い……の……?」
目に一杯の涙を溜め,最後はかすれ気味に声が小さくなった三浦。
えっ? これは誰? 本当にあの獄炎の女王なの?
はあ,と再び大きなため息をつき,姫菜が三浦に語しかける。
「優美子は悪くない,悪くないよ。悪いのは……」
姫菜がチラッと俺を見る。え? 俺が悪いの?俺悪くないよね? 泣かせたの,姫菜と原滝と由比ヶ浜だよね?
すると,姫菜が両の手で自らの(慎ましやかな)バストを鷲掴みにする仕草をした。
ハイッ! 全面的に俺が悪いです! ホントごめんなさい。そしてごちそうさまでしたっ‼︎
「三浦、ほんとスマン。いや,ごめんなさい。お前を傷つけちまったよな。この埋め合わせは必ずする。だから今はクリスマスイベントのことを先にしていいか?」
「ホントに埋め合わせしてくれる?」
「お,おお……」
何この破壊力!
今にも涙がこぼれて落ちそうな潤んだ瞳で上目遣いに見つめられたら,もう完落ち寸前でしゅ。
由比ヶ浜はブルドックのようにウーと唸り姫菜はため息をつき原滝は呆れた表情を見せている(2回目)
三浦が小指を突き出す。
つ,詰めろとでも言うのかな?
「約束」
「へ!?︎」
「指切り」
「あ,ああ……」
指切りとはまた,三浦も乙女のようなことをするもんだ。いや,今日の三浦は乙女だな。
差し出された小指に俺の小指を絡める。
「ゆびきりげんまん,嘘ついたらニューカレドニアのチャペルで挙式! 指切った!」
おい! 何だよその斬新な指切りは!
嘘ついただけで終身刑確定なの?それとも人生の墓場直行の極刑?
あと,語呂悪い。
「あー,優美子ズルイ!」
由比ヶ浜,ズルイはおかしくないか? いや,この指切り自体がおかしいのだけれども。
「そこは嘘ついたらはやはち……あ,隼人くんが女だったー! とべはち? ざいはち?」
姫菜,材木座は勘弁してくれ! 罰ゲーム……約束を破るのが前提だから罰ゲームでいいのか? それでもとつはちでお願いします! 断固とつはち希望!!
「だって,こうでも言わないと約束守ってくれそうにないし……」
おい! 俺ってそんなに信用ないのか?と言いかけたが,そういや普段から信用されるような言動してないな,はは。
「そ,そりゃヒッキー,あたしとのパセラでハニトーの約束も果たしてくれてないけど……あ,あたしもハニトーの約束を果たしてくれないなら結婚でいいかな?」
いや,いいわけないよね? ハニトーの代わりに結婚って……もしそれが通るなら平塚先生にも教えてあげて欲しい。ま,先生の場合はハニトーより酒盗の方だろうけど。
「はいはい,部下の不始末は上司の不始末。三浦ちゃんにはさ,こんど比企谷くんとの温泉旅行をプレゼントしちゃうから,今日のところは我慢してくれないかな?」
「ぐすっ,ホントに?」
「ホントホント。わたし,暴言も失言も吐くけれど,虚言だけは吐いたことはないんだよ?」
「ねえさん,私のセリフをパクらないでもらえるかしら?ひどく不愉快だわ」
「別にいいじゃない,仲良し姉妹だし」
「誰が仲良し姉妹よ。もうそれが虚言じゃない」
「ちっちっちっ,雪乃ちゃんは分かってないなー。雪乃ちゃんは正しいことを選んで口にしているんだろうけど,わたしは口に出したことを正しいことにしちゃうんだよ。仮にそれが間違ったことであってもね。最後には正しくなる,正しくする。だから虚言ではないの」
「そんなの詭弁よ」
「そうかな?雪乃ちゃんのやり方じゃ世の中を,世界を変えることはできないよ?いくら正しいことを説いて廻ったとしても世の中は変わらない」
「どうして?間違ったことをしている人に間違っていることを指摘して正しい方向に導いてあげれば世の中を変えることができる」
「わけないじゃない。いい?世の中の半分はかつて正しかったことをいまだに正しいと信じてやっている人。だから間違っていると指摘しても信じることができない。それがすでに腐ってるのに鯛を信じてる。腐ってしまえば何の価値もないのに,それを捨てきれない人」
腐ってるというところで俺と姫菜が目を合わせお互いに苦笑いをした。
「でもあと半分の人が正しさを認識すれば……」
「あとの半分は,それが間違ってると分かっていてそれでもやめられない人。例えば,いじめが間違っていることは誰だって知ってるのに,それを面白がって続けたり,周りからの同調圧力でやめたくてもやめられなかったりする。そしてそれを止めようとしたら,今度はその人がいじめのターゲットにされる」
雪ノ下は何も話さない。あいつは今,あの千葉村の,そしてこのイベントに参加している留美のことを思い浮かべているのだろう。
「そんなところで,いじめはやめよう、間違っている,話せば分かると言ってそれが受け入れられると思う?もしそんなことを思っているなら,隼人並みにおめでたい頭の持ち主ってことになるわね」
言いたいことは分かる。千葉村での葉山の言動を思えばまさにその通りだと思う。しかし陽乃さん,まるで見てきたかのような口ぶりも気にはなるが,それよりもアンチヘイトタグを付けられたくないのでその辺で勘弁ください。
「ただ正しいというだけでは何の力にもならない。今は正しくなくても最後に正しくあるために,正しく変えるために,あえて間違う勇気も必要なの。ね?比企谷くん」
「俺は世の中を正そうなんて大それたこと考えたことないですから……せいぜいその場を取り繕う悪巧みくらいですよ」
「それでも君は周りを変えてきた……君に救われた人間は一人や二人じゃないはずだよ。わたしもそう……君がいたから,君がいるからわたしは自由になれる,自由でいられる」
「俺なんかいなくても陽乃さんは元々自由じゃないですか」
「好き勝手に振舞うのと自由であることは違うよ。狭い檻の中でやりたい放題できたとしても本当の自由は得られない。檻を壊して外へ出なきゃ,やりたいことを自覚してそれを実現できる術を持たなくちゃダメなんだ。君と,海老名ちゃんと,バラダキちゃんと,みんなで壊すんだ,檻を。あ,これから三浦ちゃんも一緒かな?」
「あ,あーし?」
「そう。比企谷くんと温泉旅行行くんでしょ? 会社のお金で行くからには社員になってもらわないとねー」
陽乃さんがタダで温泉旅行をプレゼントするなんて,と思ってたら,狙いはこれか!関東電柱組の勢力拡大に余念がない。そしてそのエサが俺か。いいのかね? このエサ,たぶん腐ってるよ?
「……わーった。何するか分かんないけど,姫菜,原滝,ヒキオ,よろしく」
「み,三浦さん,あなたまで……」
雪ノ下が珍しく動揺している。雪ノ下と三浦は水と油,炎とブリザードのように全く相容れない二人で三浦が電柱組に入ろうが雪ノ下的にはどうでもいいんだろうと思っていたのだが。正義を旨とする雪ノ下にとって,悪の秘密結社が勢力拡大していくことが許せないのかもしれない。
「比企谷君,今に見てなさい。いつかあなたを取り戻すから」
「雪ノ下,何を言ってるんだ? 俺は奉仕部を辞めるわけじゃないぞ?そりゃバイトがあるから今までのように毎日というわけにはいかないが……」
「八幡は鈍いな」
「八幡くん,そういうことじゃないと思うな」
原滝と姫菜が呆れ顔で俺を見る。解せぬ。