番外編第2弾です。
サキサキも本編で活躍がありませんでしたので,サキサキファンの方に贈るこの愛情一本!
ただ,基本,本作は笑かし目的で書いてるのですが,今回ちょっと難しかった。サキサキが真面目すぎる処女ビッチな件……じゃなかった本作ではどちらかというと真面目担当なので,笑かし要素が少なめになってしまいました。
その分,蛇足の茶番が……(苦笑)
すっかりオチ要員になってしまった平塚先生。
ヒロインの座に返り咲くことはあるのでしょうか……
実は本編6話の内容がここに生きるとは,作者も全く思ってもみなかった。本当に偶然。
「ダンベル何キロ持てる?」#10と「とある科学の超電磁砲」#17を見たことのない人にはなんのこっちゃですが。
良かったら見てください。
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「とある~」の方は,屋台のイメージをニコ動さんでご覧いただければ。
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「大志,窓拭き終わったかい?」
「ああ,終わったよ,姉ちゃん」
アタシと弟の大志は朝から家の大掃除を始めて,昼前にようやく終わりを迎えようとしていた。
「じゃあアタシは母さんと年越し蕎麦作ってるから,あの子たちの面倒頼んだよ」
「分かった。美味しい蕎麦期待してるよ!」
「ああ,任せな」
妹と小さい弟の相手を大志に頼み,アタシは台所へ向かう。
台所では母さんが卵を溶いたボウルに小麦粉を混ぜ入れて天ぷらの衣を作っていた。
「母さん,掃除終わったよ」
「すまないねえ,手伝えなくて」
「いいよ。母さんはおせち料理作ったり忙しいんだから。蕎麦はアタシに任せてよ」
「じゃあお願いしようかしら。みんな海老が好きだからねえ,今日は奮発して海老天にしちゃった」
「そりゃみんな喜ぶね。じゃあ母さんはおせち作りに専念して。天ぷらはアタシが揚げるよ。蕎麦は?」
「お父さんが今打ってるよ。ほんと男の人は凝り性だよねえ」
我が家の年越し蕎麦は父さんが蕎麦打ちをして打ち立てを食べるのが恒例となっている。初めのうちは太く短い蕎麦ができて縁起でもないなんて笑ってたけど,去年あたりからちゃんと習わしの通り細く長い蕎麦が打ち上がるようになってきた。
「じゃあ,そろそろ大鍋にお湯を沸かしておくかな。沸くまでのあいだに天ぷらを揚げておくね」
「ありがとう。夕方から出かけるんだっけ?」
「う,うん」
「遅くなるの?」
「んー,分かんない……かな」
「あんたのことだからおかしなことはないだろうけど,気をつけなよ」
「……そうだね。もう心配かけるようなことはしない……から」
「ふふっ,じゃあちょっとお父さんところへ行って蕎麦の様子見てくるから,豆を煮てる鍋の火,見といてね」
「分かった。ちゃんと見とく」
夕方からはアイツ……アイツらと……
「サキサキ,はろはろー♪」
今日はアタシがサイゼのバイトを休む代わりに海老名にシフトに入ってもらい,その上がりの時間に合わせて店で合流することにしていた。
「海老名,サキサキはよしな。でも,アンタ年末はコミケ?とかで忙しかったんだろ? アタシは家のことができて大助かりだったけど,シフト代わってもらって大丈夫だったのかい?」
「それがね,うちのサークルは昨日出店したんだけど,今年出したはやはち本の完結編も事前の告知が効いたのか,いつもより多めに刷ったのに昼前には完売しちゃって。めぼしいサークルの本は横のつながりで当日ブースに行かなくても手に入るようにしてるし,今日も午前中だけ適当にフラフラーっとしただけだからね。明日からバイトの出張だけどここのバイトくらいなら余力十分だよ。朝8時35分成田発だから早起きはしないとだけど,サキサキとヒキタニくんとのお出かけ楽しみなんだー」
「本,完結したんだね」
「そう。隼人くんが女の子になってこれ以上創作意欲が保てないと思ったから。その分,これまでの思いの丈を全てブチ込んだから今回のは力作だよ! まさにイロイロブチ込んじゃってるよ!」
「おい,鼻血!」
ティッシュを取り出して海老名に渡す。一瞬けーちゃんが鼻をかむときのように海老名の鼻にそのティッシュを当てがおうとして寸でのところでやめた。
「はふん」
「アンタ変わらないね」
「読者の評判も上々でなんでやめるの?って言われるんだけど,こればっかりはねー」
「なんか羨ましいよ、アンタはあれこれ好きにできて。アタシなんか下の面倒とか家のこととかあるし,大学だって私立行くお金なんて家に無いから勉強だってしなきゃいけない。アンタみたいに他のことに割く時間も余裕も無くてさ」
しまった! つい嫌味みたいになっちゃった……
こんなこと言うつもり無かったんだけど,自由に何でもできる海老名を見てたらつい妬ましくなっちゃったんだ……
「サキサキ……」
「だからサキサキ言うな!」
「わたしね,悪いとかごめんなさいとか思わないよ。わたしが自由にするのをやめたらサキサキが自由にできるわけじゃ無いし,それにサキサキが自由じゃないのはサキサキに原因があるんだから」
「な!? あんた,アタシの話聞いてた? それでもアタシが悪いって言うのかい?」
「そうだよ。サキサキが悪い」
駄目だ,海老名! アタシ,自分で自分を抑えられないよ,こんなの……
パァン!
突然の平手打ち……
された,アタシが?!
「なんで……海老名……」
右手で左の頬を抑えながら,信じられないものを見るように海老名に問いかける。
「サキサキ……甘えも言い訳も駄目だよ」
「アタシのどこが甘えてるって……」
「だってそうじゃない! 家や大学のことを言い訳にして,できることも全部できないようなフリしてる」
「アンタにアタシの何が分かる!」
「分かるよ!」
海老名の勢いにアタシは少したじろぐ。
「サキサキさ,ヒキタニくん……もういっか,八幡くんのこと好きだよね?」
「な!? 海老名,何だよ藪から棒に。アタシはアイツのことなんか何とも……」
「前,この店に八幡くんがバラダギちゃんと初めてきた時,あの世で一緒になろうって無理心中までしようとしてたのに?」
「うぐっ」
「バラダギちゃんにおっぱい揉みしだかれた恥ずかしい姿を見られて泣き出したのは,八幡くんにそんな姿を見られたくなかったからでしょう?」
「ううう……」
「ほら,ユー,認めチャイナ?」
「ああ,好きだよ! アタシは比企谷のことが好き! 大好きだ! だからってどうしろって言うんだよ……アイツの周りにはずっと雪ノ下や由比ヶ浜がいて,今はアンタや原滝,そして雪ノ下の姉もいる。アタシの入り込む隙なんかどこにもないじゃないか!」
「サキサキ……それが言い訳じゃなくてなんなの?」
「え?」
「それって,サキサキが八幡くんを好きなことと全然関係ないよね?」
海老名……アンタはいったい何言ってるの?
「あの修学旅行でとべっちの告白を止めてもらいたいって思ってたわたしが言うのはおかしいかもだけど,相手を好きになるのは自由,告白するのも自由,なのに自分からそれに蓋をしてるのはサキサキ自身でしょ?」
「だって,どうせ振り向いてなんかもらえやしないし……」
「サキサキ……振り向いてもらうために何かした?」
「……」
「わたしからしたらさ,こんなエロいボディとか,この男心をそそる泣きボクロとか持ってるのに,なんでこれを使って籠絡しようとかしないのか不思議だよ」
「ばっ,ばっかじゃないの」
「わたしはね,こんな貧弱な身体しか持ち合わせてないけど,それでも八幡くんの気を引きたくて必死で頑張ったんだよ。わたしが本気だってことを伝えるためにね。できることをやらないで恨み言ばかり言うのが甘えでなくてなんなの?」
海老名の言葉に打ちのめされたアタシは立ってるのが精一杯だった。頭がクラクラしていよいよ倒れそうになったそのとき,
「大丈夫。サキサキならできるから……」
気づけば海老名が正面からアタシの身体を抱きとめてくれていた。アタシの方が身長が高いから,側から見たら綺麗な抱擁とはいかないだろうけど,それでも海老名はアタシを支えてくれている。
「サキサキ……八幡くんから聞いたよ? 深夜に無理してバイトしてたのを,彼からスカラシップを教えてもらって,それでやらなくて済むようになったんでしょ? できないって思っていることも,ちょっと考えたらできるようになるかもしれないんだよ? 諦めちゃダメ。まずどうしたらできるようになるか考えないと」
「海老名……なんでそこまで……比企谷のことならアンタ敵に塩を送るようなことしてるんだよ?」
「もちろん八幡くんを譲る気はないし,負ける気もしないよ。でもね,ちゃんとサキサキと戦いたいんだ。諦められたら嫌なんだ。諦めて欲しくないんだ。八幡くんのことだけじゃなくて,これからも,ずっと」
海老名の声は,あくまでも優しく,そして強いものだった。
「分かった。アタシも比企谷をアンタにただ譲ることはしない。正々堂々と戦って勝ち取るからね」
「負けないよ,サキサキ」
「だからサキサキはやめろっての!」
「あの……盛り上がってるところ悪いんだけど……」
その言葉に振り向くと,
「当事者の目の前でそういうのやめてもらえる? 俺が恥ずか死ぬんだけど……」
「ひ,比企谷!? なんで?」
「お前,シフト表見てなかったのかよ……前シーズンでここの店長に見込まれて週一でバイト入ってるだろうが……」
「いや,だからって,そんな……どこから見てた?」
「……お前が姫菜に平手打ちされたとこ?」
「ほとんど全部じゃないか!」
「いや,まあ,お前の気持ち……薄々感じてたけど今すぐどうこう答え出すこともできねえし,最低かもしれねーけどお手柔らかに頼むわ」
そう言って頭をかく比企谷見てたら今までモヤモヤしてたものが全部どっか行って晴々とした気持ちになった。
「ふふ,ほんとアンタ最低だね。とりあえず手始めに黒のレース,上下どっちから見る?」
「おまっ,吹っ切れすぎだろ!」
「比企谷」
「て,店長!俺ももう上がりの時間ですからパフェはこの時間の人に作ってもらってください。この後,海老名と川……と一緒に忘年会に行って,みんなで除夜の鐘を突きに行くんで……」
「あたしの下着はラペルラの赤のリーバーズレースだ」
「いや,聞いてませんって!」
「ところで海老名,例のものは持ってきたのか?」
「モチのロンです! はい,はやはち完結編。サキサキの分も、はい」
「ちょっ,海老名! 比企谷のいる前でアンタ‼︎」
「店長! サキサキ! お前らもかっ‼︎」
「サキサキ言うな!」
まあ,勝ち目があろうとなかろうと,やるだけやってみるさ。アタシが,アタシの自由を手に入れるためにね。
見てろよ比企谷!
アタシの戦いはこれからだ!
「立花先生,愛菜先生,ほらもっと飲みましょう。ほらグーっと」
「平塚先生,飲み過ぎです。少し水をいただかれた方がいいんじゃないですか?」
「おじさん,くさやですぅ」
「あいよっ」
「立花先生,先生と平塚先生,それに愛菜先生はディスティニーランドで一緒になったじゃんよ?」
「黄泉川先生……。ええ……まあ……愛菜先生と私は同じ学校で勤めてて,平塚先生とは全国教研集会で面識がありまして……たまたま栃木ディスティニーランドで……」
「3人とも園内をセーラー服で歩いてたんですよねっ?」
「小萌先生,それ,大声で言うのはやめてもらえねーかなって……」
「えー愛菜先生,なんでですか?いつまでもセーラー服が着られるなんて羨ましいのですぅ」
(いや,小萌先生は園児服似合いそうですけどね)
「こんなところで知り合いにあったら死ねるなー,なんて思ってたら2人も知り合いに会っちゃったんですから……」
「おじさん,ホンオフェですぅ」
「あいよっ」
「まあ,学園都市内をそんなカッコで歩いてたら公序良俗に反してるじゃんってことで私らアンチスキルの摘発対象になるかもだけど,テーマパークの中なら全然問題ないじゃん」
「街なら公序良俗に反してるんだ……」
「まあまあ,今夜は教師同士,女5人屋台酒,とことんまで飲みましょう! 黄泉川先生ももっと」
「だから平塚先生は飲み過ぎです!」
「立花先生も堅いこと言ないで,もっと飲まねーと」
「愛菜先生まで……」
ゴーーーーン
「あ,除夜の鐘……」
「今年も終わるじゃん」
「はあ」
(平塚・立花・愛菜)「結婚したい……」
「おじさん,シュールストレミングサンドですぅ」
「あいよっ!」
「小萌先生……」
「臭いです……」
ゴーーーーン