まちがいだらけの修学旅行。   作:さわらのーふ

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3話目です。
京都では天下一品総本店に向かった一行でしたが,宿泊先が博多になったので屋台になりました。
博多の屋台,楽しいですよねー♪
行ったことないけど……
なので,特定の屋台を想定したものではありませんので悪しからず。
あ,首トンは大変危険な行為ですので絶対に真似しないでください。
まだクロスにならないよ……


まちがいだらけの修学旅行3~博多酒乱編

 ホテルで飯を食った後,疲れからかうっかり寝落ちしてしまい,戸塚との貴重な混浴タイムを逃してしまうという大失態を犯してしまったり,その後材木座や戸塚とUNOをして過ごしていたはずなのだが……

 

 なぜか今,平塚先生と雪ノ下と3人,中洲の屋台でラーメンを食べている。

 

 どうしてこうなった!?

 


 

 もちろん博多といえばラーメン,とんこつラーメンの聖地ともいえる場所でラーメン大好き比企谷さんともなれば気にならないはずもなく,平塚先生の口止め料という名の強制連行もさほど嫌だったわけではなかった。

 俺と一緒にロビーにいたがために道連れになった雪ノ下にはお気の毒だが。

 ただ誤算だったのは,ここが屋台ということだ。

 単にラーメンだけではなく,焼き鳥やホルモン,おでんなども置いてあるのである。ちなみに明太入りの玉子焼きはうまかった。

 問題は,それらがツマミであり,普通に一杯ひっかける人もたくさんいるのだ。

 初めはラーメンだけを食べていた平塚先生も周りの酔客の「若い」「綺麗」「(雪ノ下と)美人姉妹」との声と一杯どうぞの勧めに抗しきれず,「お嬢さんもう一杯いきんしゃい」が2杯,3杯となり,完全に酩酊状態に陥ってしまっているのである。

「ひきがや~~~わらしはなんで結婚れきないんらぁ?」

 左手で俺を抱え込むように自分に引き寄せる平塚先生。男子の夢が詰まったその膨らみが俺の顔に押し付けられる。思春期の高校生男子からすれば夢のようなシチュエーションだが,残念ながら相手は教師であり,泥酔して酒臭い女なのだ。八幡,ぜんっ然喜んでなんかいないんだからね。

 雪ノ下はこめかみを指で押さえている。

「こんなお酒の飲み方をしているから結婚できないのではないかしら」

 おい!恐らく全員が全員そう思っているだろうが,あえて口に出して差し上げるな。

「卑猥谷くんもそのデレデレした顔をなんとかしないと通報するわよ」

「おい,俺はデレデレなんかしてないぞ」

「なんだぁ~~~比企谷もオトコノコなんらなぁ。わらしにデレデレしてるんら。ホレホレ,おっぱいらろ。わらしと結婚したら毎日好きにし放題らぞ」

 さらに顔にバストを押し付けてくる先生。らめえ~~~このままだと貰っちゃう~~~

「雪ノ下,うぷ,お前のせいで,エスカ,レートしてっ。なん,とかしてくっ」

「あら,あなたはそのままバストに埋もれて窒息死できれば本望なのではなくて?」

「じょう…だん…じゃ…」

 ああ,なんかお花畑の中に羽の生えた戸塚と小町が見えてきた。天使が迎えにきたということは,俺はいよいよ天国に召されるのか……

「何言ってるの。あなたが召されるのは地獄に決まっているわ」

 そう言って雪ノ下が平塚先生の首の後ろを手刀で,とん,と叩くと平塚先生は力なく気を失った。

 雪ノ下さんパねえっす。合気道をやるとは聞いていたが,もう達人レベルっす。

 

 で、これどうするのん?

 

 グッタリした平塚先生をタクシーに乗せ、とにかく宿舎近くまで戻ってきた。

 だが,先生と生徒が外出して先生の気を失わせてしまったという事実は、それをやったのが俺じゃなくても有罪判決を受けるのは俺だということが文化祭等で証明済みである。タクシーを夜中に横付けするような目立つことをするわけにもいかず、少し離れたところから雪ノ下の先導で誰もいないのを確認しつつ平塚先生を背負って歩く。俺が。

 平塚先生の気を失わせた本人は平然と一人で歩き、俺はふぅふぅ言いながら一歩一歩進んでいるのである。

 何かが理不尽だ。

 しかし、こうして思うのは、普段あんなに大きく見える平塚先生が、背負ってみると意外と軽かったりするということ。いやもちろん背中に当たる2つのゲフンゲフンはもちろん大きいのだが……

 雪ノ下、なんで俺を睨む。

「寂しいよ……みんなわたしを置いて……」

 いつもの格好良さのカケラも見せない,泣き声も混じる弱々しい声でうわ言のように先生が呟いた。

そうなのだ。

 この人は,単に独身が寂しいというだけではなくて、毎年毎年多くの生徒と出会い、その数の分だけ別れを繰り返しているのだ。

 雪ノ下さんのように卒業してからも頻繁に顔を出す人なんてほんの一握りで、みんなが巣立った後もこの人はそこに留まり続け、また別れを迎えるために出会いを繰り返す。

 あんなに結婚したい結婚したいと言っているのは、移ろいゆく出会いと別れの中で,たった一つでもいい、変わらない確かなつながりを求めているからなのかも知れない。

 俺は雪ノ下に聞こえない小さい声で平塚先生に囁いた。

「……大丈夫です。俺はずっとそばにいますよ」

 


 

 なんとか無事に平塚先生の部屋にたどり着き、先生をベッドに寝かせて俺も部屋に戻る……はずだったのだが、なぜか先生を下ろそうとした時にそのまま抱きつかれ、ベッドインしてしまっているのである。

「この準強制性交谷くんは、とうとう越えてはならない一線を越えてしまったのね」

「おい、そのスマホの緊急ダイヤルを呼び出すな。だいたいお前一部始終見てだだろ」

「わたしが見たのは、酔って意識のない平塚先生を準強制性交谷くんがベッドに押し倒したシーンよ」

「話が全く逆だろ!あと名前、語呂悪すぎ」

「そんなの振りほどいて早く出てくればいいじゃない」

「それが、意外と力強くてなかなか抜け出せないんだ。なんか力が入らないように極められているかのような」

「そろそろ戻らないと班の人に怪しまれてまた変な噂が立ってしまうのだけれど」

「変な噂?」

 俺が疑問に思い聞き直してみると、雪ノ下が顔を真っ赤にして慌てて言った。

「あ、あなたには関係ないわ。ただ、クラスの女の子はみんな恋愛の話で盛り上がったりするものだから……」

「今の話が何で恋愛につながるのかよく分からないが……平塚先生の方は、力がゆるくなったら抜け出して部屋に戻るから、お前は先に戻ってていいぞ」

「あなたは……!そんなこと言って二人だけになったら本当に先生を襲うつもりなのではなくて?」

 そう言った雪ノ下の表情は『祈りなさい,せめて目覚めた時に命があることを』とか言って,全てを一瞬で急速冷凍せんばかりの冷たさである。

 あまりの寒さに布団を被って寝てしまいたいところだが、今ここでそれをすることはすなわち「死」そのものを意味する。

 まさに前門のスノーレパード、後門の大虎といった体で進退極まってしまった感じだ。

「私が先生の秘孔を突いて力を抜かせるからその間に抜け出しなさい」

 お、おお。雪ノ下は北斗神拳の使い手にもなっていたらしい。一子相伝だから姉妹の争いとかあるのだろうか?

 ま、雪ノ下さんがジャギということもなかろうから、やっぱラオウなんだろうな。雪ノ下が王道ならあの人は覇道を行くイメージだ。

 雪ノ下が先生の背中のあたりの秘孔?を一突きすると先生の力が緩み、抜け出せる状態になった。

「雪ノ下、サンキュな」

 小さな声で雪ノ下に感謝の気持ちを伝え、平塚先生の拘束から抜け出してベットを降りようとしたのだが、ズボンの裾を掴まれ、

「行かないで……」

と眠りながら涙を流していた。

 おいおいおい!

 なにこの破壊力!

 なにこの可愛い生き物!

 これを足蹴にしながら振り払って去ることのできる男がいたらそいつはクズだ!

 もう俺がもらっちゃってもいいかなーと思っていたところ、そんな先生の姿を見た雪ノ下は頭を押さえて首を振っていた。

「なあ、雪ノ下……」

「分かったわ。平塚先生が落ち着くまで添い寝を許可します。ただし……」

 小さくずうーっと息を吸って言葉を続けた。

「私もこの部屋にいるわ。その,万が一とはいえ間違いがあってはならないし」

「おい、万が一にも俺がそんなことするはずが……」

「それに」

 俺の反論を遮って雪ノ下が続けた。

「仮に何もなかったとしても、二人でいることが分かれば事実はどうあれ周りはそういう目で見るでしょうね。そしてどんなに言葉を重ねようともそれが真であることの証明はできない」

 たしかに雪ノ下の言う通りだ。いくら俺が何を言おうと男女が深夜二人きりでいるということは、世間から見れば何かがあったに違いないと見られてしまうものだ。

 ましてや俺は文化祭で学校1の嫌われ者になった男、かたや結婚に飢えたアラサ……ブフォウア!

 なんか平塚先生の裏拳が飛んできたんですけど!

 よく心の中を読まれるのはあるが、寝ていても分かられちゃうの!?

「とにかく,そんなことになったら奉仕部の部長として責任を持って備品を処分しなければならなくなるわ」

 怖い,怖いです雪ノ下さん!あと怖い。

「……平塚先生も教職を続けられなくなる」

 あっ,と大声を出しそうになって慌てて自分の口を塞いだ。そうだ。修学旅行で男子生徒と同衾なんて破廉恥極まりない事態だ。このことが知れたら教育委員会は黙っていないだろう。どんな言い訳をしたところで許されるものではない。謹慎くらいで済めばよいが,例えそうだとしても結局いろんな圧力がかかって自ら職を辞するよう追い込まれていくのだろう。

「じゃあ,一刻も早くここを出ないと……」

「それも駄目ね。こんな夜中に部屋から出ていくところを見られたらそれこそアウトよ。たぶんまだ眠っていない生徒だって多いと思うわ」

 一緒にいるのもダメ,出ていくのもダメ。それじゃいったいどうすれば……

「だからしばらく私もここにいることにするわ。万が一誰かに見つかっても私が証言すれば何もなかったことを証明できるし,奉仕部の関係で平塚先生に呼ばれて話をしているうちに寝落ちたことにしておけばいいから」

 なるほど,さすが雪ノ下だ。これなら平塚先生にとっても俺にとっても一番いい答えのように思える。しかし……

「雪ノ下,お前は大丈夫なのか?今日だって疲れただろ?早く部屋に帰って寝たほうがいいんじゃないか?だったら,今,二人で部屋を出れば誰かに見られたところでさっきと同じ言い訳ができるんじゃ……」

「だっ,だめよ。こんな深夜に二人でいるところを見られたら,クラスの人にまた……」

 怒っているのだろうか。顔を真っ赤にして俺の言葉を否定する雪ノ下。しかし,また,とは?

「とにかく,平塚先生が離してくれるまであなたは先生のそばにいなさい。とりあえず電気を点けたままだと外から見られるかもしれないから暗くするわね。後で起こしてあげるから少し休むといいわ」

「わり,雪ノ下。そうさせてもらうわ。んじゃ頼むな」

 そうして部屋が暗くなり,平塚先生の横に添い寝をしているうちにだんだん意識が遠ざかっていった……

 


 

 知らない天井だ……

 

 ま、初めて泊まるホテルだから当たり前なのだが。

 眼が覚めるといつのまにか夜が明けていた。

 アレ?雪ノ下,落ち着いたら起こしてくれるんじゃなかったのか?

 疑問に思い横を向くと,雪ノ下が同じ布団で寝ているのですが!

 すぅすぅと可愛い寝息をたてて眠っていらっしゃるのですが!

 むっちゃいい匂いするのですが!

 てか,横を向いたらもう5センチくらいしか距離がないんですが!

 唇が触れてしまいそうな距離なんですが!

「ん,ううん……」

 ゆ,雪ノ下!動くな!そんなことしたら……

 ん……!

 


 

「ひっ!」

 目を開けた雪の下が叫び声をあげそうになったので,慌てて手で口をふさぎ,体を押さえつけた。

 今,この状態で声をあげられて,外から人が来てはいろいろと終ってしまう。主に俺が。

「ん~~~~~~~~」

 手足をバタバタしながら雪ノ下が声にならない声を上げているが,この手を外すわけにはいかない。

「おとなしくしろ,雪ノ下。お願いだ,分かってくれ」

 俺がこの状況を飲み込んでもらえるよう懇願すると,ようやく雪ノ下は動きを止め静かになった。

「んんん,んんんんんんん」

「何だ,雪ノ下。何か言いたいことがあるのか?」

「んんんん,んんんんんん」

 俺が手で口をふさいでるから当然しゃべれないわな。たぶんこれ以上大声を出す恐れがないのを見て取って,雪ノ下の口を解放することにした。

 俺の下で横になったままの雪ノ下が口を開いた。

「あなたの……あなたの気持ちは分かったから乱暴はやめて」

 多少の罵倒は覚悟していた俺だが,俺の行動の意図が伝わりホッとして言った。

「すまなかった。でも俺の気持ちを分かってもらえてうれしいよ」

 柄にもなく素直な気持ちを口にしたら,雪ノ下が俺の頭の後ろに両手を伸ばし,目をつぶって俺をその桜色の唇へと導いた。

 えっ!?えっ!?えっ!?

 はちまんはこんらんしている。

 そして,まさにその唇に吸い寄せられようとする瞬間,

「ほほう。教師の部屋で不純異性交遊とはいい度胸じゃないか,比企谷。そもそもお前たちは何でこの部屋でそんなことを……」

 指をポキポキと鳴らし見下ろす先生に,

「平塚先生!」

「ひゃい!?」

 先生は,俺と雪ノ下の怒気を含んだ声に間抜けでかわいい声を上げながら後ろ向きにもんどりうって倒れてしまった。

 


 

 そして今,仁王立ちの雪ノ下とその横に立つ俺が見下ろす先で,平塚先生が絶賛土下座謝罪中である。

「比企谷,雪ノ下,本当にすみませんでした!教師としてあるまじき醜態をさらしご迷惑をお掛けしました」

 普段のカッコいい先生とはかけ離れた姿にいたたまれない思いをする俺だが、雪ノ下の表情はまさに怒り心頭である。

「もしこのことが他の先生方や教育委員会に対して明るみになったらどうなるか分かりますか!」

「はい……まことに申し訳ありません」

 青菜に塩をかけたようにうなだれている先生。あんまり責めるとますますしおらしくなって、うっかり俺がもらっちゃいそうになるのでここらでやめさせないとまずい。

「まあ、雪ノ下、先生も日頃のストレスとかいろいろあって溜まってたんだろうからその辺でいいんじゃないか?」

「比企谷……」

 先生が目を潤ませて俺を見つめる。ヤバい。破壊力ハンパない。そして消え入りそうな声で尋ねてきた。

「その、比企谷……一つ聞きたいんだが、昨日、私と一緒に寝ていたということは、あの……二人の間で間違いが起きたりとか……」

「そんなわけないでしょう!何のために私がここにいる羽目になったと思ってるんですか!」

「チッ」

 おいおい,今この人舌打ちしたよ!?さっき少しでも可愛いと思ってしまっていた俺の純情を返せ!

「ところで,君たちはさっき何をしていたのだね?私にはキスをしようとしていたように見えたのだが……」

「な……そんなことあるわけがないじゃありませんか!こんな死んだ魚のような腐った男にファーストキスを捧げるなんてありえません!」

 おい,腐った男って何だよ!俺はゾンビじゃない!せめて腐った目にしてくれ,という突っ込み以前に,さっきの雪ノ下の行動が何だったのかと思い返していた。

 やっぱりアレは雪ノ下が寝ぼけていたということなのだろうか?

 だがそれ以前に,アイツのファーストキスは……

 いやいや,アレはアイツが眠っていたのだからノーカンだ。ファーストキスに並々ならぬ思いを持っているであろうアイツがあのことを知ったら,俺を殺して自分も死ぬとか本気で言いかねん。このことは俺だけの胸の内にとどめ墓場まで持っていくしかない。

 

「だいたい先生は本当に反省しているんですか?さっきの舌打ちだって……」

 雪ノ下の説教が続いていたが,いつまでもこの部屋にいるわけにもいかない。

「おい雪ノ下,そろそろ部屋に戻らないとまずいんじゃないか?もう朝食の時間になるし」

「わ,分かったわ。それでは先生,この続きは後にさせてもらいます」

 続くのかよ……先生,ご愁傷様です……

「それと,先生,私は奉仕部の話をしていて先生の部屋で寝落ちたことにしておいてください。でないとクラスがまた騒がしくなるので」

「俺はどうするんだよ」

「そうね。この部屋にいたというといろいろと面倒なことになるから,一晩中墓場で彷徨っていたことにすればいいのではなくて?」

 だからゾンビじゃねえっての!

 


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