「在校生送辞、一色いろは」
「はい」
生徒会長である一色さんの名前が呼ばれ,たった一人、在校生席にぽつんと座っていた彼女が演壇に向かって歩いていく。
3年間通い続けたこの総武高校とも今日でお別れ,そう,今行われているのは私たちの卒業式。
一色さんの送辞に続いて卒業生の答辞を行うのは私。
手にした式辞用紙に視線を落としながら、緊張感が湧き上がってくるのをひしひしと感じている。
あの壇上でお話をするのなんて生徒会長の時はあたりまえだったし、この原稿だって何回も何回も読んで練習したのになー。
「この千葉の地でもようやく冬の寒さが和らぎ、陽の光、風の暖かさに春の息吹を感じられる今日、在校生を代表して卒業生の先輩方に……」
一色さん,私の後任の生徒会長。彼女が生徒会室の扉を叩いたのは,嫌がらせで生徒会長に立候補させられてしまったから何とかして欲しいって言ってたんだよね。私たち生徒会役員は選挙管理委員会を兼ねてたんだけど、規約をどう読んでも立候補を無効にすることはできないし、平塚先生と一緒に一色さんの担任にお話しに行っても、勝手に自分の中で感動的なストーリーを作り上げて聞く耳を持ってもらえず途方に暮れちゃったんだった。
最後,平塚先生に連れられて藁をも掴む思いで奉仕部に相談に行ったのが昨日のことのように思い出せるよ。
最終的に一色さんから生徒会長をやりますと言われた時には本当に驚いたし、一年生で生徒会長を務めるということだけでもすごいのに、海浜総合高校との合同クリスマスやバレンタインデーのチョコ作り教室なんて今までになかったイベントも見事に成功させて、今もこうして素晴らしい送辞を送ってくれている。
正直、生徒会長としてここまで立派にやってもらえるなんて思ってなかったよ。
ごめんね。
「……最後になりましたが,先輩方のご健康とご活躍を祈念して,在校生代表の送辞とさせていただきます。在校生代表、一色いろは」
終りの方,少し涙声になりながらの送辞が終わった。卒業生の満場の拍手に包まれて壇上から降りてくる。
あ、こっちを見てウインクした。
私も、気合を入れないと。心の中で、おーっ!と声を上げ,小さく拳を握ってみる。
「続いて,卒業生代表による答辞です。卒業生代表、城廻めぐり」
「はいっ!」
進行を務める副校長先生の声に大きな声で返事をする。
壇上へと続く階段をゆっくりと上がり、上がりきったところでいったん足を止め、ステージ上に貼られた校旗と日の丸の旗に一礼、そしてパイプ椅子に座っている校長先生をはじめとする先生方にも会釈をする。
本来ならば来賓席にも一礼するところなんだけど、新型コロナ感染症の影響で来賓の参加はご遠慮いただいてたため来賓席は設けられていない。
私は、舞台中央に置かれた演台のところまで歩を進め、全体に一礼をして式辞用紙を広げた。
少し大きく息を吸って会場を見回す。
本来なら卒業生の後ろは在校生が座っていて、そのさらに後ろは保護者席だったはず。
なのに今日はその部分がポッカリと空いてしまっている。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう……。
私の卒業を心待ちにしてくれていたお父さんお母さん、そして私のこの姿を一番見てもらいたかった捻くれた後輩……。
そんなことを考えていたら自然に涙が零れて何も言葉が出てこなくなった。
沈黙を続ける私の異変に気付いた会場がざわめき始めた。
こんなことじゃダメ!一色さんだってちゃんと送辞を読んでくれたんだ。他の在校生はいなくても一色さんがいる。全員ではないけれどもお世話になった先生だって見守ってくれている。
一緒に卒業する皆んなの代表としてここに立ってるんだ。目の前の式辞用紙に書いてある文字を読めばいい。ただそれだけなのに……。
涙が止めどなく溢れ、,答辞の文字もにじんで読めない。
私の嗚咽がマイクを通して全員に伝わり,卒業席からもすすり泣く声が漏れてきた。私のせいだ……私のせいでみんなの卒業式が台無しになる……。
助けて……はるさん……助けて……比企谷くん……。
「あーっはっはっはっは!」
どこからともなく聞こえてきた女性の高笑いが講堂中に響き渡り会場がどよめく。
その声に顔を上げた瞬間,目の前が白いもので占められた。
―――その刹那。
「お●んぽおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
え!?
今,何て? おち……いやいやいや,ちょっと待って。
「おいこら! 何言っちゃってんの!? 馬鹿なの? そんなこと言って大丈夫なの?」
「もう心配性ねえ。大丈夫大丈夫,同じガガガ文庫だし♪」
「いや,何言ってるか全く分からないんだけど」
うん,私も全然分からないけど,分かったことが一つある。
今,私の目の前に立ってるの,はるさんと比企谷くんじゃん!
はるさんはてるてる坊主のように全身を白いタオルですっぽり包み,頭をなんか白い布で隠してる。
妹の雪ノ下さんのような長い黒髪だけど,わたしがはるさんの声を間違えるわけない!
比企谷くんは……な,な,なんで上半身裸で女性ものの高級ランジェリーにガーターベルトなの!?
顔ははるさんと同じく白い布を被ってるけど,文実でも体育祭でも何回も聞いた声だもの。この前のバレンタインイベントでも会ってるし間違いようがないよ。それにアホ毛が被った布の横からはみ出てるし!
なんというか……ふだんは猫背だから分からなかったけど,筋肉質とまではいかないけどわりと大きな背中でやっぱり男の子なんだなーとか,お尻とか結構締まってて,やっぱり自転車通学してるからかなーとか,いや私,何考えちゃってるの!?
たしかにさっき心の中ではるさんと比企谷くんに助けを求めたけど,いくらなんでもおちん……ってどういうこと!?
「あの……はるさんに比企谷くん……」
「なにを言ってるのかしら,めぐり。私たちは下ネタテロ組織『SOX』のメンバーで私の名前は『雪原の青』,そしてひき……こっちの死んだ魚のような目をしたのが『センチメンタル・ボマー』よ」
振り向いた二人が頭から被っていたのは女物の下着~!?
アホ毛だけじゃなくてその目は間違いなく比企谷くんだよね?だいだい今,ひき……って言ってたし!
「お二人はなぜ……?」
「それがね,ひき……センチメンタル・ボマーが,めぐりが困ったことになったら助けたいって言うから」
「比企谷くん,私のために……」
「めぐり先輩,俺の名前はセンチメンタル・ボマーで……」
「で,どうして比企谷くんはそんな恰好を? その……頭にパンツ……」
「こっ,これは俺が考えたわけじゃなくて,その……はる……雪原の青が……」
さっきからお互い名前出しかけてるし,めぐりとかめぐり先輩とか言ってるけど!?
あ,比企谷くんが名前,呼んでくれてる。
「だって,さっきも言ったけど,他社のレーベルはマズいでしょ?県立地球防衛軍は同じ小学館だからいいけど」
「でも,番外編で出てくるダン持ては裏サンデーで小学館ですけど,とあるシリーズは電撃文庫だからKADOKAWAですよ?」
「比企谷くんうるさい」
いやもう隠す気ゼロだよね!?
「おい,われら,そがんとこで何しよぉるんじゃ! 大事な卒業式をわやにすっ気か!!」
厚木先生が大きな声を上げながらステージに向かって走ってくる。
それに合わせて再び会場が騒めく。
「厚木教諭,そこで止まりなさい! そこで止まって席に戻らないと大変なことになるわよ」
「われ,何いいよるか!」
「このタオルの下は裸! 私のことを取り押さえようと乱暴なことをすれば,その瞬間,私はすっぽんぽんよ!」
はるさんが得意気に言い放つ。
「ぐ……っ」
怯んだように呻く厚木先生。
そこへ平塚先生が駆け寄り,そっと耳打ちをした。
平塚先生に肩を抱かれ悔しそうに教員席に引き上げていく厚木先生。
しかし,タオルの下が全裸と聞いて,会場内の騒めきは一層高まる。
「まずいわね。もう一度みんなを静かにさせないと」
はるさんがマイクを取って大きく息を吸い,
「おちん……」
「それはもういいから!」
再びナニかを叫ぼうとしたはるさんを比企谷くんが止めた。
「ぶー,まあいいけど」
そして少し不満そうな顔をしながら再びマイクに向かう。
「おまえらー,ち●ぽついてんのかー!!」
「おいこら,女子には付いてないだろ!」
「じゃあ女子はおま」
「ほんとうにやめて」
まるで夫婦漫才のようなやり取りを繰り広げる二人。ちょっとうらやましい。
「あなたたち,何をうつむいているの? 顔をあげなさい! そして前をしっかり見なさい!!」
卒業生たちが俯いていた顔を上げ,一斉に壇上を向く。
「卒業式は悲しいものよ。悲しければ涙が出る,それは当たり前のこと」
はるさんは,チラッと私の方を見てまた会場に向き直る。
「その悲しみは,3年間の楽しい思い出があって,別れがたい友達がいて,それらから離れがたいから悲しいの。前に進むために後ろに置いていかなければならないものがあるから人は悲しむの。でもね,あなたたちの今の思いは違う!」
会場が静まる。私はゴクリと息を飲む。
「今日,この晴れ姿を見てもらいたかったお父さんお母さん,大切な後輩がこの場にいない,なんでこんなことになったんだろう,なんで私たちだけがこんな目に遭わなければならないんだろうって」
そうだ。それこそが私の思い,私たちの思い……。
「全く馬鹿げているわ」
えっ……はるさん……?
「あなたたちには今日までこの総武高校で積み上げてきた3年間があるはずよ。喜びも悲しみも分かち合ってきた人たちがあなたの横にいるはずよ。そのことを忘れて一人で情けない顔なんかしてるんじゃないわよ!」
卒業生のすべてが目を見開いてはるさんを黙って見つめている。
「思い出した? 今日の卒業式がほんの少し違う形で行われたからといって、3年間の思い出全てを悲しい想いで塗りつぶしてしまうなんてナンセンスよ。今いない人のことで悲しむより、今ここにいる人との別れを惜しみなさい。3年間の思い出を語り、それが終わったら新しい道に思いを馳せなさい。それでもまだ思い出せないというのなら、思い出せるようプレゼントを用意したわ。上を見なさい」
会場にいた皆が上を向く。はるさんが小さくマイクに入らない声で比企谷くんと呼んだ。女性もののパンツを被ったままの比企谷くんが何やらスイッチのボタンを押す。
すると、天井からぶら下がっていたくす玉が突然開き、中からたくさんの四角い紙がひらひらと舞い降りてくる。
「これはあなたたちの3年間の思い出。卒業アルバムには載っていないお宝写真よ。君が好きな女の子や男の子のあんな写真やこんな写真を私たち、SOXからプレゼントするわ。男子の股間をビクンビクンさせる写真じゃなくてごめんねー。でも、中にめぐりがあられもない姿で写ってる着替え写真とかもあったかなー」
「「「「「おおおおおっ!?」」」」」
ちょっ、はるさん、なんてことしてくれちゃってるの!?
男子の間から、地鳴りのような歓声が上がり、我先にと写真に群がっていく。
「めぐり、安心して。アレはほんの冗談だから」
「もう! 本気で心配しちゃいましたよ!!」
「ごめんごめん。こんな写真,他の人に見せられるわけがないじゃない?」
そう言ってはるさんが見せてくれた写真。
「にゃ,にゃあ~~~~~!!」
そこに写っていたのは,プールの後で水着を脱いだ私の姿、って言うか、すっぱだか、いわゆる、ぜ・ん・ら!
「ななな、なんですかーこの写真……!?」
「めぐりってだいたーん、バスタオルとか使わないでマッパで着替えるんだねー」
「この時はたまたま生徒会にプール掃除を任されたあとで次の予定が差し迫ってたから……ってそうじゃないですっ!」
「ふふん♪ わたしにせいぜい感謝するがいいわよ、めーぐーりー」
「こんなのどうやったら感謝できるんですかっ!」
全裸写真を突き付けられて喜ぶような性癖は持ち合わせていない……よね?
「この写真、更衣室を盗撮していたカメラに写ってたものよ。わたしが未然に押さえてなかったら世の中に出回ってたかも知れないんだよ」
「え? そんなことがあっただなんて全然……」
「そりゃそうよ。カメラには雪乃ちゃんの肢体も写ってたのよ! 警察に届け出たりなんかして雪乃ちゃんのちっぱいが警官どもの目に晒されるなんてありえないじゃない? ね、ねっ?」
はるさん……相変わらず妹さん大好きなんだなあ……。
「だからね、盗撮犯には別件でブタ箱に入ってもらうことにしたの。旅行会社からバックマージンを貰っていたことを暴いてね」
元校長~~~~~!
収賄だけじゃなくて盗撮までしてたの!?
「それでね, 初犯だからって執行猶予が付いたみたいなんだけど、奥さんや子供からも縁を切られて,その後は行方不明になったって。まあ,雪乃ちゃんの裸を盗撮しようとしてたんだから,然るべき報いを受けるべきよね。ふふふ」
不気味な笑みを浮かべるはるさん。
「は、はるさん……まさか木更津沖とか……」
「バカね,そんなヤツのために千葉の海を汚したりなんかするはずがないじやない♪」
千葉の海という言葉にそこはかとない不安を覚えるけど……これ以上触れてはいけないような気がする。
それはそうと……。
「比企谷くん……見た?」
「な、なんのことでせう……自分ははセンチメンタル・ボマー,そんな比企谷なる人物では……」
目を逸らしてとぼける比企谷くんだけど,その目は完全に泳いでいて焦りが隠せてないよ,それに……
「いつから私の横に立ってたの? そこからだと私と一緒にはるさんの写真見えてたよね?」
「いやそれは,その,アレがアレで……」
「そんな……見るに堪えないほど私のからだ酷かったんだね……」
少し涙目で比企谷くんに訴えてみた。
「そんなことないです! それはもう,ほれぼれするほどとても綺麗で……」
「見たんだ……」
「うっ」
「嘘……ついたんだね」
「それは……あの……ソレはソレで……」
「君は……本当に不真面目で……最低……」
本当は綺麗って言ってくれたの,少し嬉しかったんだけど,生まれたままの姿を見られたのがこんな盗撮写真だったことになんだか悲しさが込みあげて涙が零れ落ちた。
「すっ,すみませんでした~~~~~!」
比企谷くんは,パンツを被った額を床に擦りつけるようにして,それはそれは見事な土下座を披露した。
「ちっ,違うの。そうじゃないの……」
それでも涙は止まってくれない。比企谷くんは分かりやすくオロオロとうろたえてた。
「もう,比企谷くん……じゃなかった狸吉! 会場が混乱している間にずらかるわよ!」
はるさん,その設定まだ続けるんですね……。
「すみません,めぐり先輩。この埋め合わせは必ずしますから」
比企谷くんは立ち上がってはるさんについていこうとする。
「めぐり,あとはしっかりやりなさいよ! 私と一緒にバンドをやったこと,生徒会活動,楽しいこともいっぱいあったでしょ! それを思い出して立派にやり遂げなさい!!」
「は,はい! ありがとうございます!!」
やっぱりはるさんは私のことを心配して……。
「そこまでですわよ!悪事を働くテロリストさん」
声のする方に視線を向けると、はるさんの妹さんと、おっぱいの大きな……由比ヶ浜さんだったかな?そして、文化祭や体育祭で実行委員長をやった、忘れようとしても思い出せない……ん、相模さん! あと一人、見覚えがあるような気はするんだけどどうしても思い出せない美人さんの4人が立っていた。でも、雪ノ下さん、口調おかしくない?
「あなたたち、逃がしませんわよ……あなたたちを捕まえて正しいことをすれば比企谷君はわたくしの愛を受け入れてくれるのですわ」
「雪乃ちゃ……雪ノ下さん……なんか別のキャラになっちゃってるよ……」
「葉山く……さん、私もこんなこと言いたくないのだけれど、世界観があるからって注意されたのよ」
「注意って誰から……それと、そろそろその葉山く……さんって言うのやめて欲しいんだけど」
葉山くさん? あ、あのサッカー部の葉山くんに似てるんだ!
「雪乃ちゃん、もうその茶番いいかな? そろそろ帰りたいんだけど」
「茶番はそっちよ、ねえさん……じゃなくて雪原の青! 大事な卒業式をこんなに混乱させてただで済むと思わないことね。大人しく私たち、千葉県立地球防衛軍の軍門に下りなさい!」
うん、どっちも茶番だと思うな……。
「そんなこと言っていいのかな? 雪乃ちゃんが自分のおっぱいが大きくなるように毎日比企谷くんの写真の前でモミモミしてるの、比企谷くんにバラしちゃうよ?」
「ね、ねえさん!?」
はるさん、それ全部ばらしちゃってますよ!?
「お願いねえさん! 比企谷くんには言わないで……」
え、ちょっと、雪ノ下さん、比企谷くんそこにいるよね? まさか気づいてないの?
比企谷くんのパンツから出てる顔の部分、真っ赤なんだけど。
「もし雪乃ちゃんがわたしの顔を晒そうとしたら、被ってるパンツを式場に投げ入れちゃうからね」
「それがどうしたと言うの?」
「だって、これ、雪乃ちゃんのパンツだよー」
「え?」
「この、雪乃ちゃんが今朝まで履いていた脱ぎたてほやほやのパンツを、あの、リビドー溢れる男の子たちの真ん中に投げ入れたら、いったいどんなことになるかしらー?」
「にゃ、にゃぁああああ~~~~~!」
鬼だ、鬼がいる……。
と言うか、自分の履いていたパンツを人前で見せびらかされるなんて、私だったら恥ずか死んじゃうな。
「ゆきのん! 陽乃さんっ、どうしてこんな酷いことするんですか!」
「ガハマちゃん……だっけ? これって、そんな酷いことかな?」
「だって……だって、ゆきのん、あんなに……」
「これはね、雪乃ちゃんに対するわたしの愛なの……」
「え……」
「愛なの」
「ごめんなさい。陽乃さんが言ってること、何一つ分からないんですけど……」
「ガハマちゃんは、雪乃ちゃんが履いていたパンツを被ることができて?」
「それは……」
「わたしはできるわ! だって愛があるから!」
いや、はるさん、そんなこと,指をビシッと立てながら言い切られても……。
「あ、あたしだって!」
え?
「できます! あたしだってゆきのんのこと大好きですから!!」
ええっ!
「言葉にするだけなら誰だってできるわ。だいたい女の友情はサガミオリジナル001
より薄いって言うじゃない?」
いや、言わないです!……言わないよね?
「うちのこと呼んだ?」
「話がややこしくなるからさがみんは黙ってて!」
うん、そうだね。はるさんと相模さんの組み合わせは混ぜるな危険。文化祭のあの惨劇は未だに忘れられないよ……。
「あたしだって、ゆきのんのパンツ被れます!」
由比ヶ浜さん!? 話がおかしな方向に向かってるよ?
「……へぇー、それをどうやって証明するの?」
「ゆきのん!」
「な、何かしら……由比ヶ浜さん」
「パンツ脱いで!」
「ちょっ,由比ヶ浜さん!?」
「だって,そうしないとゆきのんへのあたしの愛が示せない! あたしが陽乃さんよりゆきのんのことが好きだって示したい! あたし,陽乃さんに負けたくない!!」
どうしてそうなっちゃうの? この子大丈夫なの? いくらなんでも雪ノ下さんがそんな話に乗ってくるわけ……。
「由比ヶ浜さん……いえ,結衣! 私,やるわ! 結衣と私の絆がねえさんなんかに負けるはずがないもの! そうよ,ねえさんに負けることなんてあってはならないのよ!!」
雪ノ下さ~~~ん! 雪ノ下さんまでおかしくなっちゃった!?
「ゆきのん!」
「結衣!」
いやいや,なんか二人で盛り上がってるけど,言ってることもやろうとしていることも全ておかしいんだよ!?
そうして,雪ノ下さんがスカートの脇からパンツに手を……って,ダメー!
はるさん! はるさんは妹さんが公衆の面前でパンツを脱ごうとしていても平気なの!?
はるさんの顔を見ると,笑っているようで少し冷や汗をかきながら口元をヒクヒクさせていた。
あ(察し)
これは,話が思わぬ方向に行ってしまったけれど,自分が煽った手前,止めるに止められなくなっちゃったってそんな顔だ。
私も止めようと思うけど,焦れば焦るほど声を出せなくなってしまう……。
もうこの場をなんとかできるのは比企谷くんしかいないよ。お願い,比企谷くーーん!!
私の声にならない叫びが聞こえたか,比企谷くんがするするっと雪ノ下さんの前に立つ。そして,両の手で彼女のスカートをぷわっと……。
ぶわっと!?
「きゃー!」
悲鳴を上げてスカートを抑える雪ノ下さん。
「ちぃ,まだ早かったか。もう少しでパンツの下の全てが丸見えだったのに」
君は,またそんな手段をとるんだね……。
雪ノ下さん,赤い顔でプルプル震えてるよ……そうだよね……丸見えは逃れたとしてもパンツはバッチリ見られたんだから……。
「ひっ,比企谷くんになら見せてもいいけど,あなたのような卑怯なエロテロリストなんかに見られるなんて……」
おーい,雪ノ下さーん,比企谷くんですよー,念願の比企谷くんですよー。
「ゆきのん泣いてるじゃない! あたしだってヒッキー以外の人に下着見られのなんか嫌だし! 誰だか知らないけど絶対許さないから!」
知ってるよー。よーく知ってる人だよー。
「そんなに見たいなら雪乃ちゃんの代わりに俺の下着を見ろ!」
ちょっ、あの、葉山君に似た子自分でスカートをまくり上げちゃったよ!?
だいたいボクっ娘って聞いたことあるけど、オレっ娘なんて聞いたことないよ?
ほら,比企谷くん困ってる。いっそ被ってるパンツを脱いで顔を晒してしまおうかと逡巡してるみたい。
「だめだよ,ひきっ,狸吉。そのパンツは取っちゃダメだよ。この場はわたしに任せて」
そう比企谷くんに注意して、また数枚の写真をずらっと手にする。
「さあ,雪乃ちゃんの恥ずかしい写真だよっ」
と言うが早いか,パッと空中高くそれらをばらまいた。
「にゃ,にゃーーーーー!」
何? あの反応。まさか雪ノ下さんの着替え写真を!?
ひらひらと舞い落ちる写真を一枚手に取ると,雪ノ下さんが猫耳と尻尾を付けて,にゃーとネコのポーズをとっている写真だった。
雪ノ下さん……ある意味,裸よりも恥ずかしいかもしれないね……。
地球防衛軍のメンバーがその写真を拾い集めているすきにはるさん達は逃げるようだ。
逃げる直前,はるさんが私の耳元でそっとつぶやいた。
「ちなみに,比企谷くんの被ってるパンツ,めぐりのパンツだからねっ♪」
え? 今なんて?
「おっ,おい! 聞いてないぞ,そんなこと」
「言ってないもん。わたし,めぐりのお母さんにも信用あるから,今朝受け取りに行ったらなんの疑いもなく渡してくれたわよー」
ちょっ,おかあさーん!!
「ひきっ,狸吉,わたしのだと思った? ごめんねー,それはまた今度♪ あ,今顔から外しちゃじゃダメだよー。こんなことで顔バレしたら退学ものだからねー」
「ぐぬぬ……」
「じゃあね,めぐり。さよならパイパイ,またいつか!」
………………。
にゃ,にゃぁあああああああ~~~~~~~!!
はるさん達が去ってしばらく経ち,ようやく会場が落ち着きを取り戻した頃に卒業式は再開された。
私の答辞は……そこから何を言ったかよく覚えていないんだけど,みんなが拍手してくれていたから多分ちゃんとできていたと思う 。
今回の卒業式はDVDにして配布されることになっているからあとで確かめてみよう。
あのおち……から始まる騒動はさすがに編集でカットされているんだろうけど。
私のパンツが卒業式のビデオに映ってるなんて,黒歴史どころの話じゃないわ。
お母さんにはあとでシッカリと言い聞かせなきゃと思ったけれど,あなたの渡したパンツを頭に被った男の子が卒業式で大暴れしたよーなんて言えないよね……。