めぐり番外編もようやく完結です。
番外編最終回は、
「さらば平塚静!貴女の雄姿を忘れない!!」
番外編と言えば茶番屋台ですが、3話目が長くなったので……。
正直,今回の番外編シリーズは本当に難産でした。
完結できて心からほっとしています。
それではまた後程お会いしましょう。
あの卒業式からしばらく経ち,3月28日の千葉日報には高校教員の人事異動が載っていた。
そこには私の知らないとある高校に異動する平塚先生と厚木先生の名前があった。
平塚先生は県外の,厚木先生は県内の。
時節柄、離任式は行われず、お二人とも生徒の誰にも見送られることなく総武高校を去っていかれたらしい。
今思えば、私の卒業式の時にはもう総武高校を去ることが分かっていたんだろう。
パーティーの席で平塚先生はこう言っていた。
「君たちにしてやれることもこれが最後だよ」
君、じゃなくて君たちって,確かに言ってた。
平塚先生、先生にはたくさんの思い出をもらいました。
ありがとうございました……。
私が20歳になったら、はるさんと一緒にお酒を飲みましょうね。
「おっちゃん、竹鶴純米にごり、燗で」
「あいよ」
「今日の平塚せんせいはペースが早いですね〜。おじさん、神亀純米を70度ですぅ」
「あいよ」
「小萌センセー、鉄装センセー、聞いてくださいよー。私だってね、あいつらにちゃんと別れの言葉を言いたかったんですよ? それで、みんな泣いて、抱き合って、そんでどさくさに紛れで比企谷に抱かれたかったのに!」
「ちょっ、教え子と、そんなゴニョゴニョ……なんて駄目じゃないですか‼︎」
「まあまあ鉄装せんせい、平塚せんせいだって教師である前に一人の女。時には女豹になりたい時だってあるのですぅ。木山せんせいだってそう思いますよね?」
「いや、その前に私はなぜこの場に呼ばれたのか……」
「今日は黄泉川せんせいは人事異動,皇桜女学院の先生方も新学期の準備でお忙しいみたいなので,同じ先生ということで木山せんせいをお呼びしたのですぅ」
「小萌先生,あのー,私も新学期の準備があるのですが……」
「大丈夫ですよお,鉄装せんせい。そんなの一日あればすぐできるのですぅ」
「え,一日……」
「それよりも私は教師じゃなくて大脳生理学の研究者なのだが……」
「ちゃんと黄泉川せんせいから聞いているのです。木山せんせいが教え子を助けるために我が身を顧みず力を尽くされたということを」
「それは……」
「ですから子供たちのことを思う先生同士,今夜はとことん飲みますよぉ」
「しかし,私はお酒はあんまり……」
「まあまあ,そう言わないでグッとやってください!」
「そうだそうだ! 教え子のことを思うならもっと飲め!」
「ちょっと,小萌先生も平塚先生も何言ってるんですか! 木山先生もお困りじゃないですか!!」
~一時間後~
「そうだ! そもそもあの木原幻生のジジイが一番悪い! あのジジイのせいで子供たちは……子供たちは……」
「私だって真剣に頑張ってるんです! そりゃいつも失敗ばかりしてますけど,それでも決して手を抜いたり怠けたりしてるんじゃなくて懸命にやった結果なんですから,黄泉川先生だってもっと……」
「ありゃりゃ。木山先生も鉄装先生もいい感じになってきましたねー。おじさん,ソルティドッグですぅ」
「あいよっ」
「ひきがやぁ~! わたしは諦めないぞー!!」
「そうだっ! 教師が教え子を諦めることなんでできない!!」
「木山先生~平塚先生の言ってるのは意味が違いますから~」
「木山先生は教え子ちゃんと何かあったんですかぁ?」
「いや……別に,ちょっと俺の彼女になれとか言われたくらいで特には……」
「な・ん・だ・と? 教え子に告白された,だと!? なんといううらやまけしからん!!」
パシャッ!
「あっ! 木山先生にお酒が!!」
「平塚せんせい! そんな,お酒を人にかけるなんて,もったいなくてお酒の神様に怒られてしまうのですぅ」
「小萌先生! それどころじゃありませんよ。木山先生,上半身びしょ濡れじゃないですか!! おじさん,何か拭くものを」
「あいよっ」
「まあ大したことはないよ。濡れたままにしとくのはちょっと気持ちが悪いがね」
「だからって,ブラウスを脱ぐのはやめてください!! ああっ,ブラもはずしちゃダメ―!!」
「しかし,あなたや平塚先生と違って起伏の乏しい私の身体を見て劣情を催す男性がいるとも思えないのだが……」
「それでもダメです!」
「そうですよぉ。女は恥じらいも大事なのです。おじさん,着替えのブラウスとブラジャーですぅ」
「あいよっ」
「小萌先生……本当にここ,なんの屋台なんですか……」
「あっ,比企谷くんおかえり~」
「いや,なんでめぐり先輩ここにいるんですか? 東京の大学に行かれたはずでは」
「え? だって,緊急事態宣言で入学式も新入生のオリエンテーションも中止になったし,東京なんて危ないところに置いておけないってお父さんがマンションも解約しちゃったから」
「そうだとしても,なんで俺の部屋のベッドの中にいるんですか!?」
そう,私が今いるのは比企谷くんのベッドの中。比企谷くんがはるさんの用事で留守にしている時に来ちゃったから,リモートワークで在宅されていたご両親にご挨拶して比企谷くんの部屋で待たせてもらったんだけど。
「んー,眠くなったから横になってたんだけど。ちょっと寒いから布団に包まってたら,なんか比企谷くんの匂いで安心してぐっすり眠っちゃった」
「とにかく布団の中から出てきてくださいよ」
「えー」
「えーじゃありません。そんな……匂いとか言われたら……俺もちょっと恥ずかしいですし……」
比企谷くん,少し顔を赤くしてる。かわいいなあ。
「でも,布団から出ていくのは私も恥ずかしいよぉ」
「とにかくそんな寝っ転がったままじゃお話もできないですから,起きてきてください」
そうは言われてもまだ覚悟が……。
「あのね,比企谷くん……今,この布団の中の私,何も着てないの」
「は!?」
「この前,浜辺で胸,見られちゃったから大丈夫かなーって思ったんだけど,やっぱり恥ずかしいね」
「な,な,なんでそんな……」
その時,ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえてきた。
「せんぱーい! 愛しのいろはちゃんが会いに来てあげましたよー♪って……」
「いっ,一色!?」
「な,なんで東京に行ったはずの城廻先輩がせんぱいの家にいるんですかー! しかもベッドの中!! まっ,まさか,事後!?」
「そんなわけあるかー! それよりお前は何しに来た? しかもすっ裸で」
そう,一色さんは全裸姿で比企谷くんの前に立っている。
「え? だってせんぱいの妹ですし?」
「いや,その何言ってるの?みたいな顔やめてー! 何? 俺がおかしいの? 今,この世界は全裸がデフォで服着てる俺が間違っているの? 『やはり俺の着衣ラブコメはまちがっている。』なの?」
「せんぱい,何訳の分からないこと言ってるんですか,ちょっとキモイんですけどー」
「がはぁ」
あ,比企谷くんが分かりやすくダメージを受けて膝をついている。
「一色さんって比企谷くんの妹さんだったんだねー。ごめんねー,今まで気づかずにいて」
「いや,違いますから! 俺の妹は小町だけですから!」
「え?ええ??」
「何ですか? やっぱりお前は妹じゃなくて一番の大切な人だから今すぐ結ばれようって言うんですか?でも今そのベッドには城廻先輩がいるので帰った後にたっぷり愛してくださいごめんなさい」
「いったい俺は何回お前に振られるんだよ……」
え? 今の振ってた? どう考えてもその,ゴニョゴニョ……のお誘いだったよね?
「はぁぁぁ」
一色さんが呆れ切ったという顔で大きなため息をついた。
「せんぱい,それ本気で言ってるんですか? わたしがどんな気持ちでこんな格好してるか本当に分からないんですか? わたしだって恥ずかしいですけど,せんぱいに襲ってもらいたくて意を決して裸身を晒してるんですよ?」
「いや,それは……」
そ,そうだよね。 私ができないことを一色さんはやってるんだから,本当にすごい覚悟だよね。そして比企谷くんはそれが分った上でああいう反応してたんだね……。
私……駄目だ。一色さんのような覚悟もないし,比企谷くんに振り向いてもらえる自信なんか全くないよ……。
でも……
「私も比企谷くんにすべてをさらけ出さなきゃだめだよね!」
「やーめーてー! 」
「ちょっとお兄ちゃん!うるさいよ, 何騒いでんの!!」
私たちが騒ぎすぎたのか、比企谷くんの妹さんが怒鳴り込んできた,けど……
「小町,お前もか~~~! とにかく全員服を着ろーーー!!」
「で,小町と一色は着替えに行きましたけど、めぐり先輩はなんでベッドに入ったままなんですか?」
「あのね……比企谷くん……お願いがあるの……」
「え……」
「言いにくいんだけど……」
でも言わなくちゃ。
「この前持って行った私のパンツ,返してもらえる?」
「あっ」
それから比企谷くんは慌ててベッドの下に潜って一枚のパンツを取り出してきた。
私がベッドの上に横たわっているのに,そのベッドの下に男の人がいるなんてちょっと変な気分。
「比企谷くん……これ,へんなことに使ったりしてない?」
「ええ,ちゃんと洗濯されていたものでしたし,自分の頭に被ったものでそんな変なことはできませんよ」
「それじゃ,洗濯されていなくて自分の頭に被ったものでなければナニかしたのかな?」
「そそそんな,滅相もない!」
「それはそれで傷ついちゃうな……それよりね,これ,私のじゃないんだけど……」
「げっ」
そうしてまた比企谷くんはベッドの下に潜り私のパンツを手にして出てきた。
「さっきのパンツ……ひょっとして,一色さんの? その……この部屋で……しちゃったりしたの,かな?」
「ちっ,違います! 一色とは何もありませんから! あれは姫菜から手渡されたものでそんなんじゃ……」
名前呼び……そっか……君はその姫菜ちゃんのパンツ……大事にしてるんだね……
私は無言のまま手渡されたパンツを受け取り,もそもそと布団の中で履いた。
「比企谷くん,そこの椅子の背に掛けてあるブラ……取ってもらえる?」
「あ,いえ,俺,部屋の外に行くんで,ゆっくり着替えてください」
「でもそれじゃ,いつ君が入ってくるかもしれないし,覗いているかもしれないじゃない?」
「俺はそんな……」
「だったら私から視界にいる方が安心できるから……」
「そっ,そうですか。それじゃ……」
そう言ってしぶしぶ私のブラを指先でつまんで渡してきた。
それじゃ,なんかばっちいものを触ってるみたいじゃない! 私のブラはそんな汚くないよ!!
無いよね……?
「それじゃ,これは起き上がらないと着けられないからちょっと後ろ向いててもらえる?」
「はいっ!」
彼が後ろを向いたのを見て,ようやく私はベッドの上で体を起こす。
後ろを向いているから見えないはずなのに,彼はギュッと目を瞑っている。
このまま彼の背中に抱き着きたい。あのいけなげの浜の夜のように……
でもダメ。君の心の中には『姫菜ちゃん』がいるんだよね?
君が……君が,本当に不真面目で最低な人だったらどんなにかよかっただろう……
そのまま比企谷くんの背中を見ながら無言で着替えを済ませた。
「比企谷くん,今日は,帰るね」
「めぐり先輩……」
精一杯の作り笑顔で比企谷くんに挨拶をして部屋を出る。
彼には想い人がいる。
分かってたはずなのにな。
今日だけは,ちょっと無理。
「あ,城廻先輩……」
「一色さん,私,先に帰るから」
リビングにいた一色さんに声をかけ玄関で靴を履いていると,
「わたしも帰るので一緒に行きましょう」
と追いかけてきた一色さんが隣に立った。
「一色さんは,その,いつもああいうことを?」
「そんなあ,ほんの2度目ですよ? それより城廻先輩の方が意外だったんですけど」
「……そうだね。私も意外だった」
「はぁ……城廻先輩も……せんぱいのこと,好きになっちゃったんですね」
「一色さんも? ってそうだよね。あれだけのことができるんだから」
「あー,もう恥ずかしいからやめてください! せんぱいよりも城廻先輩に見られたことの方が恥ずかしいんですから―!!」
「一色さんは……比企谷くんに好きな人がいることを知ってるの?」
「海老名先輩のことですかー? もちろん知ってますよー。せんぱいと池袋でデートした時にも鉢合わせちゃいましねー。その時にあの二人のつながりを嫌というほど思い知らされましたし」
海老名……ああ,あの体育祭の時に手伝ってくれた子……そうか,あの子が……。
「でも,でも,まだ終わっていません! わたしの戦いはまだ終わっていません!!」
「だって,比企谷くんの心は……」
「そんなの知ったこっちゃありませんよ」
「えっ!?」
「わたしは,生徒会長選挙までせんぱいのことなんて全く知りませんでしたし,元々は葉山先輩のことが好きでした。でも,いろいろあってせんぱいにせんぱいのことを好きにさせられました。わたしの心は変えさせられたんです。だから今度はわたしがせんぱいの心を変えるんです! 今のせんぱいの心なんて関係ないです。未来のせんぱいの心はわたしのものです。これはもう確定事項なんです!!」
「けど,その間に比企谷くんが傷ついちゃうんじゃ……」
「傷ついたらわたしが癒してあげます! それでプラスマイナスゼロです。なんならこのいろはちゃんに癒される分プラスです!!」
「一色さんは強いね……」
「恋は女の子を強くするんですっ♡」
そうか……そうだね。私も,彼女のように強くなりたい。
今,比企谷くんの心が私になくても,いつの日か―――
「ありがとう,一色さん。私,頑張るよ!」
「もちろん城廻先輩にも負けません! すべてのライバルに勝たないと仮にせんぱいの心を掴めても安心できませんからね」
そうやってウインクをする一色さん。すごいなあ。でも,この子にも勝たなきゃいけないんだ。
「私も負けないよ! おーっ!!」
「で,めぐり先輩,なんでまた俺のベッドに寝てるんですか?」
「んー,比企谷君が好きだから?」
「っ! あのー,もしかしてその布団の中は……」
「もちろんはだかだよー♪」
「やっぱり……」
「それでね,比企谷くん。前回,履いていた方のパンツを忘れて帰っちゃったんだけど」
「げっ」
「……使った?」
「い,いや,先輩が何をおっしゃっているのかさっぱり」
「だって,『洗濯されていなくて自分の頭に被ったもの』でなければナニかするんだよね?」
比企谷くん,目が泳いで汗をダラダラ流してる。
「ちょっと恥ずかしいけど……うれしい,かな?」
あ,赤くなった。たぶん私の顔も真っ赤だろうけど。
「で,パンツは返してもらえるのかな?」
「は,はひっ!」
また前のようにベッドの下に潜りこんだ比企谷くん。私のパンツも大事にしてくれているんだよね?
「めぐり先輩,これ……ひっ!」
ベッドの下から出てきた比企谷くんの前に立っていたのは,全裸のわ・た・し。
「どう……かな……」
「す……すごく綺麗です。じゃなくて,その……どうして……」
「さっきも言ったけど,比企谷くんが好きだから,だよ」
そう言って裸のまま比企谷くんに抱き着いた。
「ああああのののの,せせせせんぱいの気持ちはあり,あり,ありがたいのですが,その気持ちには……」
「知ってる,知ってるよ。でも,私の気持ちも知ってもらいたかったから」
「せんぱーい!またまた愛しのいろはちゃんが会いに……って,城廻先輩,何してるんですか!!」
「ちょっと,またまたうるさい……って,この泥棒猫ども! お兄ちゃんから離れろー!!」
「おい,なんで全員全裸なんだよ~~!!」
「んー,これは服を着てる比企谷くんの方が間違ってるんだよ」
「そんなわけ……」
「そうですねー。せんぱいだけ服着てるのはずるいです」
「こ,小町,この二人になんとか言ってくれ!」
「お二人とも! 脱がすのは小町です! お二人はお兄ちゃんを抑えておいてください!!」
「こっ,この,裏切り者~~~!!」
比企谷くんに抱き着いたままの私は,彼の耳元でそっとささやいた。
「あの時,あとで脱いでくれるって約束したよねー?」
私の一言にがっくりうなだれる比企谷くん。ごめんねー。
でも,いつか私を好きになってもらうんだから,覚悟してね♡
「先輩と、後輩と、妹に、、、、助けて~~~~~~!!」
(了)
と,言うわけでバレンティンデーイベントのシリーズは本当に完結です(恐らく)。
原作同様平塚先生は異動してしまいますが、昨年3月末の空気感で特にイベント等は用意されません。
また何かの番外編を書くことがあれば、茶番屋台でお会いしましょう。
一応本編は「県立地球防衛軍」とのクロスなので,最後にどうしても出さなければならない怪人がいるのですが,去年は花見どころではなくてどうしようかと思ってるうちに年を越してしまいました……。
そして秋にはみんな大好きあの時間あの場所で全編を完結させる予定だったんですがそれも果たせていません。
とはいえ,作品内の時間は経っていないので,発表はいつになるかわかりませんが,一応予定通りあと2シリーズで完結する予定です。
こんなのでも見ていただけるという方がいらっしゃれば,気長にお付き合いいただければ幸いです。
駄作者がほんっとすみません。
「エリスの胸はパッド入り!」
でもパッドも好きですよ~~~
それではまた,(たぶん)本編でお会いしましょう。サヨナラサヨナラ,サヨナラ。