およそ1年半のご無沙汰でございました。
今回は「県立地球防衛軍」のターンでございます。
正直、今回の作品のアイデアは以前からあったものの、果たしてネタにしてよいものかを迷いつづけた挙句、そろそろいいかなーと、そぉーっと出す次第です。
前シーズン「バレンタインデー粉砕! 同志ヨ,チバ二結集セヨ!」の続きとなっており2020年春頃を舞台としているとお思いください。
次シーズンにて本作は完結予定ですが、「県立地球防衛軍」とのクロスを名乗る以上どうしても出さなければならない怪人がおり、本シーズンを挟んだ次第です。
半ばやっつけ仕事なので、展開が強引だとか、文のクオリティが低いとかいうのは目を瞑っていただければ幸い。
とりあえずよろしくお願いいたします。
千葉最大の侵略〜花も嵐も踏み倒せ!開花宣言
「……」
雪ノ下建設本社ビル内にある電柱組本部の陽乃さんの執務室(通称:「玉座の間」)にて、大きなエグゼクティブデスクに両肘を立て、両手を口元に持ってくるいわゆる「ゲンドウポーズ」で部屋の真ん中に立たされている俺とバラダギ大佐こと原瀧龍子を黒メガネ越しにギョロリと睨みつけている。
シーン。
広がる静寂。
しかし、そのポーズに合わせてわざわざ白手袋まで嵌めているのはいささか演出が過ぎやしませんかね。
「……」
じっと睨まれた俺はまさに蛇に睨まれたヒキガエル、ゲンドウに睨まれたシンジと言った体で、ただ冷や汗をかいて立っているだけだった。
ううっ、気まずっ。
俺は、のしかかる重々しい空気に堪えかねて口を開いた。
「あのー、そろそろ何か言ってもらわないと……」
だが、そんな俺に原瀧は、
「お前、大元帥閣下に対して失礼だぞ。閣下のことだからはきっと深い考えがおありで黙っていらっしゃるんだ」
と小声で喰ってかかる。
そんな原瀧は、普段見る制服姿とは違って、電柱組の仕事の時は、バイト用の制服?であるレオタードを着用していた。
……この服、身体にピッタリフィットしてボディラインがハッキリ出てしまうから、いいプロポーションしてるのが丸わかりなんだよなあ。
「いいぷ、ぷろぽーしょんって……お前、見過ぎだ」
恥ずかしそうに身をよじっている原瀧。
「おっ、お前、また俺の思考を……じゃあ陽乃さんが何をいいたいのかも分かるのか?」
「そんなの分かるわけないだろ。閣下の場合は地の文にモノローグが出ないからな」
おい! それじゃ俺の考えてることはみんな分かるってことじゃね!?
そもそも思考を読むならまだしも、地の文を読むとかメタいからホントやめてください(汗;
「とりあえず、大元帥閣下が沈黙している間に前回までのあらすじを」
「ちょっと! 前回までのあらすじって何⁉︎」
「千葉県立総武高校へ通うぼっち高校生、比企谷八幡は、胡乱な作文を書いて国語教師であり生徒指導の残念美人女教師の不興を買い」
「残念はやめてあげて」
「ご奉仕部といういかがわしい部活に無理やりぶち込まれ」
「いかがわしくないからっ! あと、ご奉仕部いうな」
「その斜め下の思考を用いて数々の依頼をこなしてきたが、目立つことなくひっそりと過ごしたいという本人の意向とは裏腹に文化祭で決定的なヤラカシを行い学校一の嫌われ者に無事昇格」
「昇格って何!? そして、ヤラカシやめて」
「しかしながら、修学旅行をめぐる校長の汚職という大ヤラカシの下で悪い噂も雲散霧消して迎えた北部九州への修学旅行。リア充グループの戸部から告白のサポートを頼まれたにもかかわらずその対象と山の上でチュッチュモミモミ」
「恥ずかしいのでチュッチュモミモミはやめてください、本当に」
「その後も女教師とベッドイン、さらには女部長とも同じ布団で一夜を共にし、さらには数々の女の子とキスしたり胸をもんだり」
「ごめんなさい、土下座したらやめてくれますか」
「いろいろあって、訪問した電柱組で出会った清く貧しく美しい少女、原瀧龍子と運命の出会いを果たす」
「訪問じゃなくて勘違いでお前が拉致したんじゃねえか。それに自分で美しい少女とか言うか? まあ、間違っちゃいねえけどよ」
「……八幡、そういうとこだぞ」
何だよ、急に顔を赤らめて……。
「そして、修学旅行から戻った学校で、同級生・葉山隼人が男でなくなるという些細な事件を挟みつつ超絶美少女・原瀧龍子との運命の再会」
「いや、葉山女になったの全然些細じゃないよね!? そして運命好きだな」
「二人はお洒落なイタリアンレストランでデート、しかし、八幡はいつの間にか気を失った龍子の処女を……」
「わーーー! 何もなかっただろうが、何も」
「奪うという疑惑を挟みつつその晩は同じ部屋で一夜を共にし、後日ディスティニーシーでデート、二人はお互いの気持ちを確かめながら口づけを与え合い」
「おいっ! って、キスしたことは否定できねえ……」
「自らを慕って転校してきた龍子と三度の出会いを果した八幡は、手を取り合って千葉電柱組に加入しともに働く仲間となる」
「脅されて無理やりなんだが。と言うか、ちょっと長くない?」
「仕方ないだろ。作者が1年半もほったらかしにしてたからな。初めて見る人もいるかもしれないのにシリーズをはじめから見直せなんて言えないし? 無駄に長いんだよこの話」
「おい、無駄に長いとか言うなよ」
「じゃああとは端折って……クリスマスイベント、バレンタインイベントと順調にフラグを立てまくり、正月は別府温泉で混浴ハーレムを堪能、家では前・現生徒会長を全裸にして……」
「わわわーーーーーやめろーーーー!」
「なんだよ。ちゃんと端折って説明しただろ?」
「いやなんで一色とかめぐり先輩のことまで知ってるの!? いや、俺が脱がせたわけじゃないけどっ!陽乃さんからも何か言ってやってください!」
チラッ。
「……」
二人でこれだけ騒ぎまくったにもかかわらず陽乃さんはずっと同じ姿勢のまま沈黙を続けている。
これ以上は堪えられそうにないので、小声で「お前何とかしろよ」と原瀧の脇腹を肘でつついて促してみたが、原瀧も「お前がやれ」と俺の脇腹をつつき返す。
こんにゃろ~~~。
反撃に出た俺はさっきよりも強く脇腹をつつくと、こいつ今度は左手で俺の脇腹をぐちぐち摘まみやがって。
ちょっ、ちょっとやめてっ!脇腹弱いんだからねっ!!
さらに調子に乗った原瀧の攻撃をぐにぐに見悶えながら堪えていたその時、
「はろはろー、二人とも元気だねー。何かいいことでもあったのかい?」
電柱組関東方面領域守護者、海老名姫菜のまったく緊張感のない入室によって、長く続いた沈黙はあっけ無く破られたのであった。
「学校が休校になっちゃって顔を合わせるのって久しぶりだよねー。城廻先輩の卒業式以来かな?」
めぐり先輩の卒業式……。
思い返せば、夜の浜辺でめぐり先輩と繰り広げたあんなことやこんなことを思い出すにつけ湧き上がってくる恥ずかしさや後ろめたさ……。
あれから姫菜とはメッセージのやり取りや電話の会話はあったけれど、バイト先でも互いの店がヘルプを必要とするほど忙しくなくて顔を合わせる機会は訪れなかった。
もちろんこちらから連絡すれば会うことだってできただろうが,休校中は不要不急の外出を控えるよう注意されていたし、いかんせん俺から女の子をデート?に誘うなんてハードルが高すぎた。
そういや、女の子どころか男の友達を遊びに誘うなんてこともしたことはないし、いわんや性別"戸塚"をや、だったな……。
材木座は知らんっ!
当然、めぐり先輩との間であったことは姫菜には話していない。
べっ、別にやましいことなんて何もないけど、やっば知られたくはないこと、だよな……。
あの晩、あそこに居合わせた陽乃さんさえ沈黙してくれていれば……。
「……卒業式の夜は城廻先輩とずいぶんお楽しみだったようですね」
俺の耳元でボソりと囁く姫菜の声。冷たい汗が背中をつたう。
おっ、お楽しみなんて何も、何もなかったんや!
ホントに何もなかったけど、変に勘繰られるのは本意ではないから、冷静に返事を……。
「ななな、なんのことでせう」
だー! できませんでしたー!!
メンタル弱すぎだろ、俺ェ。
いや、まだだ! 落ち着け八幡。まだ諦めるような時間じゃない。
今、姫菜は『お楽しみ』としか言わなかった。
きっとこれはブラフだっ!
自転車でめぐり先輩と逃避行に出たのは見られたが,その後何があったかまでは知る由もない。
いや、別に何も無かったんですけどっ!
そう、何も無かったんだから、このままシラを切り通せば大丈夫……。
「暗い浜辺で城廻先輩を半裸にして砂の上に押し倒し……」
全然大丈夫じゃねぇーーーーー!
陽乃さんっ!
怒気を込めキッと睨むと、陽乃さんはゲンドウポーズのままフルフルと小刻みに首を振って私じゃないと言っている。
若干黒メガネの奥の目が泳いでいるが、さりとて嘘をついているわけでもなさそうだ。
もし陽乃さんが犯人なら、「てへっ☆」とか言ってごまかそうとするよな、この人。
「どうして?って顔してるねー。戸塚くんと一色さんから聞いたの」
その言葉に俺は再び陽乃さんの方を向き、
「やっぱりあの時のメイド姿の二人は戸塚と一色でしたよね!」
と詰め寄っるものの、
「違うよ。あそこにいたのは雪ノ下家の戦闘メイド、ベータさんとイプシロンさんだよ」
などと、ようやく口を開いたと思えばまだそんなたわ言を……。
「いやだって、今、姫菜が戸塚と一色から聞いたって。陽乃さん以外であの場にいたのは……」
「違うから! ベータさんとイプシロンさんだからっ」
「……」
「ベータさんとイプシロンさん」
「……」
「……」
互いに譲る気配を見せないまま睨みあう俺と陽乃さん。
まあ、こんなどうでもいい押し問答を続けても仕方がないんだが。
しかーし!
戸塚のスカート姿はどうでもいいことじゃないぞ!
あのスカートがひらりひらりと舞う大立ち回りをもっとしっかり目に焼き付けておくべきだった……。
ん?
と言うことは、めぐり先輩とのアレヤコレヤも戸塚にハッキリクッキリシャッキリと見られていたってことっ⁉︎
……死のう。
じゃなかった!
今は姫菜の誤解を解くことが先決だ。
死ぬのはそのあとで。
死にませんけどっ!
「違うんだ!あれは偶然めぐり先輩のドレスの上半身の部分がはだけて、周りから先輩の裸を見られないよう仕方なくそうしただだけで、天地神明に誓ってやましいことなど何一つしていませんっ!」
「ふうん……」
俺の必死の言い訳にも姫菜は薄い反応を返しただけだ。
「まあ、いいんだけど」
素っ気ない言葉とは裏腹に、眼鏡の奥の瞳は寂しそうに見えた。
「別に君と城廻先輩の間で何があったとしても、私がとやかく言うことじゃないしね」
そう。俺たちはまだ恋人同士でもなんでもない。
姫菜は俺に好意を示してくれて、俺もそれに応えたいと思っている。
なのに、お互いに最後の言葉が出せずにいたんだ。
だとしても、俺の気持ちは……。
うつむいた彼女の華奢な肩を両手で掴む。
少し潤んだ瞳で俺の顔を見あげる姫菜。
ふたりの目線がぴたりと合う。
「姫菜……」
「八幡くん……」
そっと目を瞑る彼女。
わずかに突き出された桜色の唇。
俺は引き込まれるように自らの唇を重ね……。
グワズドシャバコォォォン!
「うぎゃえおぉぉぉォォォーーー!」
いきなり脳天に雷が落ちたかのような激しい衝撃を受け,俺は玉座の間の絨毯の上を転げまわった。
「お前,あたしと大元帥閣下の前で何をイチャコラしとるんじゃ!」
激痛が走る頭の上を両手で押さえながら涙目になって視線を上げると,ゲバ棒を持った原瀧が阿修羅が如き憤怒の表情で仁王立ちしていた。
「おっ,おまっ! ヘルメットも無しにそんなゲバ棒で殴られたら最悪死んじまうぞっ!!」
「峰打ちだ、安心しろ」
「ゲバ棒で殴るのに峰打ちも何もあるか! そう言っとけば何でも許されるわけじゃないからな!」
そもそも、どっから出してきたんだよ、そのゲバ棒!
「うるさい! だいたい元カノの前でヘーキでイチャコライチャコラするお前が悪いっ!!」
「誰が元カノだ、誰が! いつ俺がお前の彼氏になった!?」
「一緒にディスティニーシーへに行っただろ! もう忘れたのか?」
「ばっか、そもそもアレは依頼で、彼氏彼女の関係だってその日限りの嘘の……」
「嘘だろうが何だろうが、お前とあたしがあそこでデートをして、最後はお前からしてくれたじゃないか、熱いキ……」
「騒々しい! 静かにせよっ!!」
威厳に満ちた声で右手を大きく横に振る陽乃さんの溢れんばかりの絶望のオーラに威圧され、原瀧も姫菜もそしてもちろん俺も慌てて片膝をつき忠誠の意を示す。
これが支配者としての真の姿を現した陽乃さんなのか。
まさかこれ程のものとは……。
さっき目を泳がせていた人と同一人物とは思えないような迫力だった。
てか、 原瀧が言いかけた熱いキ……って、キスの事だよね?
姫菜が聞いてるんだから、俺からしたなんて言うなよ、あぶねーな、おいっ!
「ん……。じゃあみんな揃ったところで、今日集まってもらった理由を説明するわね」
俺は陽乃さんの言葉に少し違和感を感じて遮るように発言した。
「あの、三浦は……?」
「三浦ちゃんは定時監察で大分よ」
「ああ、ちょうどそんな時期でしたね」
大分か……元々電柱組の本部は大分の材木商・木曽屋に置かれていたが、正月仮面の脱走という不祥事により各方面に大惨事を招いたことで木曽屋は雪ノ下建設の子会社に、そして電柱組の本部も千葉に移され陽乃さんが首領に、大分の電柱組は千葉の下部組織に組み入れられ元首領の木曽屋チルソニアン文左衛門Jr.も責任を取らされて一支部長に降格、定期的に見回りに訪れる三浦の監督下に置かれているんだった。
正月にみんなで行ったときは、下っぱや改良人間の方々から大歓迎されたっけ。チルソニア人望ねえな……。
そういえばその後、別府温泉に行って貸切露天風呂で……。
「八幡、あたしたちの裸でも思い浮かべてるのか?」
「にゃにゃにゃ、にゃにぅを?しょんなことはなかですばってん」
「お前……考えていることがバレバレだ……」
そっ、そりゃあ思春期の男の子にとって同い年くらいの女子との混浴なんてそうそうあるもんじゃないからさ? 少しくらい思い出したって仕方なくね?
「コホン。もういい?」
分かりやすく咳ばらいをする陽乃さんの顔も少し赤い。
あなたも思い出したんですね……。
「で、桜の季節よ」
そりゃまぁ、そろそろ千葉あたりでも桜の花がポツポツと咲き始めているけれど、まさかみんなで花見をしようとか言うんじゃないよね?
「この前の三連休はかなりの人出があったようだけど、感染症対策のためシートを敷いての宴会は禁止されていた。しかし、今週末辺りはちょうど見頃を迎える桜の名所にはさらにたくさんの人が押し掛けることが予想されるわ。中には座り込んで宴会をしようなんて輩も出てくるでしょうね。私たち電柱組はその対策に乗り出します」
「えっ? そういうのは、普通、市とか県の人間がパトロールして注意とかするんじゃ……」
「あまいっ!甘い甘い甘い甘い!! 君がいつも飲んでる練乳入りのコーヒー飲料並みに大甘だよ、比企谷くん!」
ちょっと、俺が甘いことを言うのにマックスコーヒーを引き合いに出さなくてもいいんじゃない!?
「酔っぱらいにそんな理性的な判断ができると思う? セカンドシーズンのファミレスで酔っ払ったバラダギちゃんがどうなったか覚えてないの?」
そう言った後で、シマッタという顔をした陽乃さん。
「……まあ、あれは私が起こした不祥事だったね、ごめん」
「いえいえ、あたしもその、酔っぱらうと気分がよくなって……みんなに迷惑を……」
俺もあの晩を思い出し、姫菜を除く三人がズーンと深く落ち込む。
「とっ、とにかく花見客が酔っぱらってしまう前に対処する必要がある。いえ、桜の咲き誇る場所に近づけなくすることが大事なの」
「でも、本当にそんなことが可能ですか?」
事前に桜の名所に陣取ったところで四六時中見張っているわけにもいかないし、押し寄せる花見客に対応するためには相当の戦力が必要だ。
「そこは、守護者統括たるあたしが昔の経験を元に完璧な作戦を立案した。まあ、シャトル・ハイウェイラインの『しゃとるおおいた』のような大船に乗ったつもりで任せてくれ」
たしかに『しゃとるおおいた』は15,137トンの大型フェリーではあったが、シャトル・ハイウェイラインって、2004年に大分・横須賀間に就航し、あっという間の2007年には運行停止となった航路で、そんなものに例えられても行き詰まる未来しか見えないのだが……。
胸を張って任せろとかどうやったら言えるのか……。
不安げな視線を原瀧に向けていると、
「八幡……あたしの胸を凝視しすぎだ」
「ばっ、ばっかじゃねーの?別に胸なんか見てねーし!」
「ふうん、やっぱり比企谷くんはおっきなおっぱいが好きなんだ?」
陽乃さん! ニヤニヤしながら自分の胸を突き出さない!!
「八幡くん……私みたいなちっぱいじゃ不満だよね……」
姫菜、胸を隠しながらそんな悲しい目をしないでくれ……。
「違うぞ! 俺は……俺は……」
今はいつものように軽口で誤魔化すんじゃなくて、真摯に正直な俺の思いを叫んだ。
「大きくても小さくても、俺はオッパイが大好きなんだ〜!!」
玉座の間に広がる沈黙……。
原瀧、うわぁ〜という顔をするな!
陽乃さん、その苦笑いやめて!
姫菜、どうして視線を逸らす!?
「ま、まあ、比企谷くんの性癖はこの際置いといてー」
くっ、殺せー!殺してくれー!!
「 と、言うわけで明後日土曜日の早朝、雪ノ下家の黒服部隊、戦闘メイドの皆さん、そして雪ノ下建設の使える社員を総動員して、千葉の花見の名所でバラダギ大佐の作戦を実行します」
「あ、陽乃さん、すみません。私、その日はファミレスのバイトのシフトが入ってて……」
姫菜が申し訳なさそうに不参加を伝える。
「海老名ちゃんは欠席かー。まあ仕方ないね、急な話だし」
「あのー、陽乃さん、俺も土曜日はアレがアレで……」
「比企谷くんは暇なのね。じゃあよろしく〜」
「そうじゃなくて俺もファミレスのバイト」
「が、無いことは白藤店長に確認済みだから」
店長っ! いつの間に陽乃さんと通じていた?
「原瀧ちゃんのことでご迷惑をおかけした時に、びーなっつ最中、ぴーなっつ饅頭、ぴーなっつパイの千葉めぐり3種を持って後日お詫びに行ったら大いに喜ばれて意気投合、それからお菓子と交換に比企谷くんの情報とか貰ったりしてるのよねー」
あんの年増〜〜〜! 個人情報をお菓子で売り渡してんじゃねーよ!!
「 む? なぜか比企谷から失礼なことを言われた気がする。ヤツのシフトを倍に増やすか? それとも……」
ブン!ブン!(釘バットのスイング音)
ひっ! なっ、なんか今、強烈な寒気が……。
「じゃあ二人は明後日よろしくね〜♪ バラダギちゃんは下っぱの皆さんへの伝達もお願い。というわけで今日は解散〜」
陽乃さんの号令を機に玉座の間を退出し、俺たちは雪ノ下建設本社ビルの廊下を歩いていた。
「姫菜……その……元気そうでよかった」
「うん、逢えないのは淋しかったけど、電話とかメッセージくれてたから大丈夫だよ。ただ、城廻先輩の話は少しだけ不安になっかな」
「そうか……悪かったな。たしかにあの時、別れの雰囲気に流されていろいろあったけど、やましいことは誓って何もしていないから。それだけは信じて欲しい」
「もちろん信じてるよ。信じてるけど……ごめんね。私、そんなに強くないから……」
「俺だってそうさ。前は何だっていつでも棄てられると思ってたんだが」
ただそれは、本当に棄てられないものを持っていなかった、それだけなのかもしれない。
文化祭で学校一の嫌われ者になった。
それでも、あの二人は俺のことを信じてくれた。
修学旅行で姫菜は俺となら付き合えると言ってくれた。
……口付けをした。
それまで、俺から告白することは何度もあったが、女の子の方から気持ちを伝えられたのは生まれて初めてだった。
そして、あの修学旅行から、雪ノ下、由比ヶ浜、陽乃さん、川…サキ、そして一色にめぐり先輩。みんなこんな俺に好意を示してくれる。いつの間にかたくさんの棄てられないものができた……。
並んで歩く俺たちの手はいつの間にか触れ合い、指が絡まり、恋人つなぎで結ばれ……。
「おいこら! あたしがいることを忘れんな!! そして、棄てられないものにあたしが入ってない!!」
あ、原瀧いたな。 そして、地の文に原瀧入れ忘れてた。
「あたしも八幡と出逢えて嬉しかったのにな……」
「す、すまん。でも、お前とは明後日一緒に働くだろ? で、何すんだ、作戦ってのは?」
「それは秘密だ。もしこの作戦が外部に漏れたなら必ず横槍が入って目的が達成できなくなるからな。まあ、ここから先は当日のお楽しみにしとこう。今回は特別ボーナスも出るようだから頑張るぞー!」
原瀧が張り切っているのはそれか。
今は雪ノ下建設の社員寮に入れてもらって九州の時よりは生活も楽になったようだが、やはり女子高生が一人で生きていくのは大変なんだろう。
そういうことなら俺も頑張って働くか。
いや、何で俺は原瀧のために頑張る?
やはり原瀧も「棄てられない大切」なのだろうか。
「まあ強いて言うなら、『電柱組らしい汚れ仕事』だ。にひひ」
そう言って原瀧はすごく悪い顔で笑った。
「それに、言っちゃうと八幡は間違いなくずる休みするだろうからな……」
ぽつりとこぼれ出た言葉も、難聴系主人公ではない俺にはしっかり聞こえてしまった。
さっきの決意と疑問が、全て不安に置き換わった瞬間だった……。
やっぱり働きたくねえ……。