まちがいだらけの修学旅行。   作:さわらのーふ

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はい、またお会いしました。
いよいよのどぢまん大会開幕です!
おっかしいな~。本当ならこの辺で満開になっててもおかしくないのに無駄に長くなってるぞ。
いや、無駄にとか言うなよ。
今から12分咲きとかになったらどうしようと戦々恐々です。。。


千葉最大の侵略〜花も嵐も踏み倒せ!六分咲き

「はーい、お茶の間のみな様こんにちはーっ」

「素人のどぢまん大合戦の時間でーすっ」

「本日はるばる大分くんだりからアーバンな大都会の千葉へとやって参りました、司会の諸出いぼぢろうです」

「アシスタントの安棚るみですぅ」

 

 カラオケ対決って、カラオケボックスのパーティールームかなんかでやるのかと思ったら、わざわざ特設ステージにアナウンサーの司会とタレントのアシスタントまで用意して歌合戦をやるとは……。

 

「新型コロナ感染予防のため、このイベントは関係者のみの完全無観客、私たちもフェイスシールド着用でお送りしております」

「なお、この現場の近くには無数の地雷原が準備されており、どう猛な軍用犬の巡回も行ってますので決して近づかないでくださいねーっ」

 

 おいおい、物騒だな! そういえば、さっき桜の木の上に、桜の花に紛れて花柄の迷彩服を着た着た狙撃手みたいなのもいたような気がしたが、まさかな……。

 

「そう言えば安棚さん、先ほど係員の制止を振り切って無理やり立入禁止区域内に足を踏み入れたおじいさんが地雷を踏んで吹っ飛んだとか」

「その後、軍用犬に引きずられてエリア外につまみ……無事連れ出されました。大事にならなくて本当に良かったですぅ」

「そうですね、はっはっはーっ」

 

 はっはっはーっじゃねえよ! それ絶対に大事になってるよね!? それに今、つまみ出されたって言いかけただろ!!

 

「さあそれでは、花見川千本桜緑地の桜の下から一番の方どぞー」

 

「始まるね……」

 

 ステージ上をじっと見つめる陽乃さんの目からはいつもの余裕は感じられなかった。

 

「できる限りの手は打ちました。大丈夫です、俺が保証します」

 

 ポンっと軽く陽乃さんの肩に手を置く。

 もちろん比企谷君に保証されてもねーって軽口が返ってくるものとばかり思っていたのに、

 

「うん」

 

 と短い返事を返し、ステージから目を離すことなく肩に置いた俺の手に、柔らかくて白い手を重ねた。

 その手はわずかに震えていた。

 やっぱり不安なんだ。

 この人だって俺より3つ上なだけの女子なんだよな。誰だよ、魔王なんて呼んでるのは。

 


 

「一番、チルソニア将軍、歌います!」

 

 なぜか一番最初に出てきたのはチルソニア将軍だった。

 

「あそーれ♪いっろはのいっの字はどーかくのっ、とくーら」

 

 がっくぅーっ!

 

「おい! なんで宴会芸なんだよっ! さっきまでの緊張感を返せーっ!!」

「そんなこと知るかっ! 花見なんだから宴会芸は当たり前だろーがっ!!」

 

 ええーーー、これ、歌合戦だよね?

 

「こりゃ♪いっろはーのろの字はどーかっくのぉー」

 

 すると、電光石火のごとくステージに駆け上がった制服姿の女子総武高生がスカートをたくし上げ、

 

「こーぅしてこーぅして、こーう書っくのーっ♪」

 

 と、歌に合わせて尻文字を……って、あの亜麻色の髪は、いっ、いっしきぃ~~~!?

 

「おっ、おいっ、一色!」

 

「あっ、せんぱぁ~い!なんか呼ばれたようなので出てきちゃいましたー。どうですか、わたしのお・し・り♡」

「お・し・り♡じゃねーよ! お前なにやってんだよっ!」

「なんか体が勝手に動いちゃいましたぁ~。でも、これぷるまぁですし、下着もその中身も見せたのはせんぱいだけですよ♪」

「おっ、おまっ!? 何を言って……ひっ!!」

 

 身も心も凍らんばかりの凄まじい冷気を背中に感じ、恐る恐る振り向いてみると……。

 

「今のはいったいどういうことかしら、おしり谷君」

 

「おっ、落ち着け、雪ノ下っ! あれは、その、アレだ。下着姿を見せるのは俺だけと宣言したにすぎん」

「いいえ、一色さんはたしかに見せたのは、と言ったわ。しかも下着だけじゃなくて、その……中身も、と」

 

 ちっ、よく聞いてやがるなー。ここは何としても気を逸らさないことには……。

 

「いっしきぃ~、いくらブルマでもそんな姿、みんなに見られたらさすがに恥ずかしいだろーが!」

「えー、でも今日は無観客ですし、他の男の人は舞台裏で出番を待ってますし、客席にいる男の人はせんぱいだけですから」

「馬鹿っ! 今日の大会は千葉テレビを通じて全千葉に放送されているんだぞっ!」

 

「え……」

 

 一色はステージの上で呆然とした顔を見せたかと思うと、

 

「きゃあーっ!?」

 

 と、おしりを隠しながらその場にしゃがみ込む。尻込みをするとはこのことか。

 

「せっ、せんぱ~い……わたし、どうしたら……」

 

 あーはいはい、あざといあざとい……と言いたいところだが、目にいっぱい涙を溜めて今にも泣きだしそうな顔を見たらそんな冗談なんて言ってられない、よな?

 自業自得と言ってしまえばそのとおりだが、アイツが俺のためにアレをやったというなら、俺に責任が全く無いとは言えない。だとしたら、可愛い後輩のために俺がなんとかしてやろうじゃないか!

 

 俺はすぐさまステージに駆け上り、突っ立っていたままのチルソニアのマイクを奪い、奴に向けてビシッと指をさす。

 

「おいっ、チルソニアっ! お前はなんてひどい奴なんだーっ。自分のステージを盛り上げるために一色を洗脳してこんな恥ずかしいことをさせるなんてぇー、その悪逆非道な振る舞い、決して許すことなどできないぞぉー」

 

 渾身のマイクアピールも最後はちょっと棒読みになったが、しゃがみ込んだ一色に手を差し伸べながら、この茶番に加わるよう目配せで促してみる。

 突然のことに一色は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、俺の意図を一瞬でに理解したのか、俺の手を取りすごく悪い顔をしながら立ち上がる……悪い顔?

 

「んぐっ!?」

 

 一色は勢いをつけて俺の胸に飛び込むように立ち上がり、俺に抱き着いたかと思ったらそのまま俺の唇に自分の唇を重ねてきた。

 

 なななっ!?

 

「あー! 悪者が私にかけた洗脳の魔法も王子様が与えてくれたキスで綺麗さっぱり解けましたー。愛してます王子様ぁ!!」

 

 その王子様はたぶん今、鳩が豆鉄砲食らったような顔になっているよ。て言うか、王子様が与えたんじゃなくて強引に君が奪っていったよね?これもう強盗と言っても過言じゃないよね?

 

 とはいえ、事態の収拾のためには一色の棒読みセリフに乗っかるしかない。

 

「お前の野望は完全に潰えた! だとしてもお前がこの美少女に行った所業が全て消えてしまうわけではないぞぉー!!」

 

「おい、アイツ、あの少女を洗脳して恥ずかしい踊りをさせたんだってよ」ヒソヒソ

「サイテーな野郎だな。だいたい出てきた時からいやらしい顔してると思ってたんだよな」ヒソヒソ

 

 この会場、純粋な観客はいないが照明さんや音響さんなど多くのスタッフが口々にチルソニアの悪行を謗っている。

 なるほど悪評ってのはこうやって広まるのか、なんてことを考えていたら、なぜだか俺の目から涙が……。

 

「いや、私はそんな魔法なんぞ……」

 

 かぁーーーーん♪

 

「は~い、一番の方、残念でした~」

 

 えー、今さらという感じで鳴らされた鐘一つ。

 

「極悪非道なセクハラパフォーマンスでステージを盛り上げてくれた1番さんには参加賞の『なごみどら焼き桜餡』を差し上げまぁす」

 

「だから私はセクハラなどしていないっ!」

 

「何言ってんだーこのセクハラ野郎っ!」

「そうだそうだっ! そーれ、セークッハラー!」

「セークッハラー! セークッハラーッ!」

 

 チルソニアの必死の訴えも空しく、あたり一面にセクハラコールが響き渡る。

 も、もうやめてあげて~! いくら一色を救うためだったとは言え、小学校の時の学級会を思い出した八幡のハートはもう限界よ~~!!

 

「えーん、覚えてやがれ~!!」

 

 子供のような泣き声をあげて、転がり落ちるようにステージから去っていくチルソニア将軍。

 横を見ると一色も周りに合わせてセクハラコールをしている。

 おいこら! 元はと言えばお前が調子に乗って踊り出てきたのが原因だろうがっ!会場の誰よりも一番大きい声でセクハラコールしてるんじゃないよ!!

 

 

 

 ようやくセクハラコールも落ち着いてきたのを見計らって、司会の女性タレントが、

「それでは、極悪セクハラ男からお姫さまを救い出した王子様、そしてその王子様に目覚めさせてもらったお姫様、お二人に盛大な拍手を~!」

 

 と呼びかけると、会場には嵐のような拍手が鳴り響いた。

 一色は客席に向かって右手を振りつつ左の腕で俺と腕を組み、そのまま俺を引っ張りながらステージ下へはけようとする。

 

「お、おい、ちょっと近すぎないか」

 

 体をぴったりと寄せているがために控えめながらも一色の胸の感触が俺の腕に伝わってくる。

 なんとか振りほどこうとわずかばかりの抵抗を試みるも、一色は、俺の耳元で、

 

「せんぱいはわたしを救った王子様なんですから、退場の間くらいそれらしくしてください」

 

 などと小さな声で囁く。

 

「いやしかしだな……」

 

 そりゃ実際、裸の胸も見ちゃったりしてるけれども、触れるのはまた別。俺のSAN値がゴリゴリ削られていく音が聞こえるほどだ。

 とは言え、事ここに至っては最後まで押し通すしかないので、仕方なく俺もひきつった笑顔を浮かべながら小さく手を手を振りステージ上を歩いていく。

 画面映えしそうなあざとい笑顔の一色と異なり、俺はきっと不細工に映ってるんだろうなーって考えながら……ん? 映っている?そういえばこれって……。

 

「せんぱい、わたしたち、全千葉の公認カップルですよ」

「なん……だと……?」

「せんぱいがわたしにくれた情熱的なキスのシーンも千葉全域と一部関東、そして神戸サンテレビの視聴者に見られちゃってます♪」

 

 おいーっ‼︎ だからアレは俺があげたんじゃなくてお前が奪っていったんだろっ!それよりも、コレ、サンテレビでも中継しちゃってるの⁉︎

 俺の頬を一筋の汗がタラーリと流れていく。

 

 あれっ?なんでこいつサンテレビにも中継されてるの知ってるんだ?

 

 謀ったな! いっしきぃぃぃぃ!!!

 

 それよりも気になるのは……。

 腕を組んではしゃぐ一色とともに歩きながらふと観客席に目を移すと、雪ノ下が辺り一面凍り付かんばかりの冷気を発していた。

 満開の桜の中、その一角だけブリザードが吹き荒れてるよっ!

 あいつ、事象干渉力強すぎだろ!

 

 一方、陽乃さんは腹を抱えて笑っている。

 おそらく「バカだ、バカがいる!」とか言って喜んでやがるんだろうなあ。チクショウメ!!

 

 原瀧は……心の底から呆れましたというような顔だ。

 

 めぐり先輩は……って、めぐり先輩来てたの!?

 一見ぽわぽわしたオーラを発しているように見えるが、あれはただの笑顔ではない。なにか底知れぬ闇を秘めた笑顔だ。

 

 そして姫菜は……何やら微笑ましいものを見るような、少し寂しいような微妙な顔をしていた。

 

 なぜだか俺の胸がチクリと痛む。

 俺は姫菜にどんな顔でいて欲しかった?

 

 怒り顔?

 

 笑い顔?

 

 呆れ顔?

 

 いずれにしても今のあいつの顔じゃないことは確かだ。

 

 俺はその顔を見ていられなくて、顔をそむけたまま一色に舞台裏へと連れられていった。

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