ようやくのどぢまん大会っぽくなってきたかな?
でも満開まであと2回しかないんだよ?
終わるの?あと2回で終わるの?
「4番、白藤杏子、『光あふれて』歌います」
いや、店長なんでのどぢまん出てるの!?
「わたる原野の風青く~♪」
そして何気に上手いんだけどー!?
キンコンカンコンキンコンカンコンキーンコーンカーン♪
「おめでとうございまーす! いやー、とってもお上手でしたー」
「どうぞ賞品のチーバくん、ふなっしー、超Cちゃんスペシャル詰め合わせセットでぇす」
「いや私も『なごみどら焼き桜餡』を……」
「どうもありがとうございましたー! それでは次の方どうぞー」
「あの……どら焼き……」
やっぱりどら焼き欲しさかー! いらないならあとで超Cちゃんを俺の黒平まんじゅうと替えてもらおう。
「ヒキタニくん、ボーっと見てる場合じゃねーべ。次、俺たちだから、ほら行った行ったー!」
「おっおい、急に押すな!」
戸部に押し出されつんのめるようにステージ上に姿を現す。
客席を見ると基本的に無観客なので、それほど緊張せずに済みそうだが。
「おっとー、次の挑戦者は先ほどお姫様を悪漢から救い出して、ステージ上でホニャララしていた王子様だー!」
こらーっ! ホニャララはやめろー!!
「王子さまー! キスをありがとー!!」
一色ぃぃぃ! はっきり言うのもやめてー!!
「ぐぬぬ……」
雪ノ下、そんなに悔しがるなー!
「ヒッキートキス……ヒッキートキス……ヒッキートキス……コロスコロスコロスコロス……」
由比ヶ浜ァ!怖い! 怖すぎる!!
「ええ……それでは自己紹介を」
「……比企谷八幡です」
…………。
「えっ、それだけ? 何か意気込みなどを一言」
ほら、微妙な空気になっちゃったじゃないか! 千葉県全域と関東地方の一部、そして神戸サンテレビでたくさんの視聴者の方々にご視聴いただいている前でぼっちに何か言えなんてハードル高すぎだろ……。
「うぇーい! 俺っちは戸部翔! ヒキタニ君の友達にして恋のライバルっしょ!!」
「おぉー! ここで恋のライバル宣言!! そのヒキタニという人はどんな方か分かりませんが」
俺なんだけどね! ま、しかし、戸部のおかけで俺のターンがキャンセルされたみたいだし、ここで名乗りを上げたところでもっと面倒くさいことになりそうだから黙っとこうっと。
「そして、なんと王子さまは また別の美人さんをお供にしているぞー!!」
「そんな、美人だなんて……。葉山はやこです。今日は愛するヒキタニ君のために一生懸命頑張ります!」
「おー! 戸部君の恋のライバル、ヒキタニ君がまた登場~! 戸部君の思い人はこのはやこさんなんですか?」
「違うっしょ! 俺っちが好きなのは海老名さんでしょー。海老名さん見てる~?」
戸部が大きく手を振っているが、会場の中には姫菜の姿は見えない。
「そうなると、ヒキタニ君という方は、こんな美人のはやこさんに思われながら、別の女性を戸部君と争っているということですね」
「べーっ、ヒキタニ君はそれだけじゃなくて、何人もの女の人に好かれてるんだわー。しかも揃いもそろって美人ばかり。もーマジハーレム!!」
「それは……男としては憧れ半分、嫉妬半分といったところでしょうか。女性の安棚さん、どう思いますか?」
「それはもう女の敵って感じですね。そのヒキタニ君、爆発してもらいたいです」
俺なんだけどね! 今ここで俺が爆発したら、真横にいるあんたも木っ端微塵なんだけどね!!
「それでは歌ってもらいましょう!」
その言葉をきっかけに、司会の二人は袖にはけていく。
ステージの真ん中に独り残される俺。
厳密には、ステージ上には戸部と葉山もいるんだが、二人は少し離れたところで1本のスタンドマイクを挟んで立っている。二人にはバッキング・ボーカルを頼んでいるからな。
しかしまあ、不安要素だらけだ。
いくら無観客とはいえちらほら他の出演者や関係者がいるし、テレビカメラの向こうには数多くの視聴者もいる。
そして、バックの葉山も女声になっていてどんな風になるかは全くの未知数。
そもそも何で俺が歌うことになってるんだ?
一般市民に被害の出ない場所でグリコーゲンXが歌う場所を作るというのが目的ではなかったのかね?
そう考えたら、今すぐ辞退してもいいのでは……。
「ヒッキー! ファイトー‼︎」
由比ヶ浜……サンキューな。
「せんぱーい! 愛しの後輩の応援で勇気出してくださーい‼︎」
一色……相変わらずあざといな。
「比企谷君、あなたなら、できるわー!」
雪ノ下……何をだ?
「はちまーん! それは聞かない約束だー!!」
原瀧……だからほんとやめて……。
「比企谷くーん! 頑張ったらお姉さんをあげちゃうー!」
陽乃さん……本当にやめてください。雪ノ下が今にもニブルヘイムを発動しそうな顔してます……。
姫菜、姫菜は、とその姿を探してみるものの、観客席には見当たらなかった。
俺のステージなんて見る価値もないということか。
はは……ついに見限られたかな……。
たくさんの女の子から声援を受けていい気になっていたつもりはないが、自分自身も気づかないうちにそうなっていたとしたら呆れられても仕方ないよな……。
それでも、今は悩んでなんかいられない。
千葉を、みんなを護るため、俺がやることはただ一つ、歌でグリコーゲンXに勝つことだ!
チバテレが用意した生バンドの皆さんが準備に入り曲が始まるのを待つ刹那、戸部と葉山に目でサインを送る。
戸部は親指を立ててそれに応え、葉山は少しはにかみながらウインクを返す。
うっ、やはり元々がイケメンなだけあって、女になった葉山もまた超絶美少女なんだよなあ。
どうして俺なんかにみんな好意を持ってくれるんだか……。
それとも、本当の俺に気づいたらみんな俺から離れていくんだろうか……。
姫菜のように……。
やめだやめだ! そんな思いを振り切るように、ふぅーっとひとつ息を吐く。
激しいビートで始まったイントロにね体でリズムを刻みながらスタンドマイクをぎゅっと握り、下を向いて歌い出しのタイミングを待つ。
その時、不意に姫菜の声が聞こえたような気がした。
いや、目の前にあるモニタースピーカーからの爆音ですぐそばにいる由比ヶ浜や一色の声援も聞こえないのだから、あいつの声が聞こえるはずがない。
それでも声を頼りに視線を走らせると、観客席のはるか遠くの向こうにポツンと一人、花びら舞い散る桜並木の真ん中に米粒くらいの大きさで、めいっぱい大きく手を振る人が見えた。
どんなに小さくても俺には分かる!
姫菜っ!!
演奏と距離に阻まれて本来聞こえるはずもないその声が、俺の耳には鮮明に届く。
「はちまーん、いっけぇーーーー!」
その時、いたずらな春の風が彼女のスカートを捲り上げ、あいつはスカートを押さえながらその場に座り込んだ。
…………。
キ、キ、キマシタワ〰〰〰!!
ありがとう春風さん!!
あいつから貰った勇気を頼りに、俺は彼女の元へ届くように声を振り絞って歌い始めた!
♪~
ひとりぼっちでかまわない
つながりなんてなにもない
今日も安定 守るだけ
「っべー。ヒキタニくん、マジ、パないわー」
ささいなことじゃ動じない
同じ罠にはかからない
俺のスペック 超優秀
「相変わらずあなたらしいわ、比企谷…クン」
(ちょっと、♀版葉山のサイドボーカルは違和感がある……)
トラウマならとっくに 黒く塗って捨てた
希望なんか持たなけりゃ 傷だってつかないよ 「傷だって〜」おっかけ
「ウェイウェイウェイウェイ」
このままでいい (It's OK!)
変わらなくていい (keep your way!)
そのままを貫けば 孤高に変わるから
取り繕わず (It's alright!)
無理はしないで (stay your way!)
無抵抗 無接触
ほらそれなりの毎日 yeh
「こんの大馬鹿者〜〜〜‼︎」
突如、俺達の歌を遮り、勢いをつけてグリコーゲンXステージに乱入してきた!
「こっ、こっ、この楽しい花見に、お前はなんという寂しい歌を歌っとるんだ~~~~~!!」
グリコさん大激怒である。
「おい、俺たちの歌を遮ってどういうつもりなんだ? これは俺たちとお前の対決だろうがっ」
「お前の歌なんぞ聞いてたら酒が不味くなるっ! これから私(わたくし)の歌をたんと聞かせてやるから、耳の穴かっぽじって大いに聞き惚れるがよいわっ!! 演奏スタートォー!!」
シーン……。
「何故じゃ! なぜ演奏が始まらん!!」
「いや、あの、急に言われましても、生バンドなので譜面の入れ替えとかチューニングとかいろいろ準備が……」
男の司会者が恐る恐るグリコさんに説明するが、
「私はLive DAMを用意するように言ったはずじゃ! 生バンドなんぞ望んでおらんぞっ‼︎ これはお前らの陰謀かっ!!!」
ヤバい、グリコさん大激怒だ。男の司会者は、いや、あの、その、と狼狽しきっている。
俺が直接言われたならとっくの昔にちびってるところだ。
なんか葉山(♀)が涙目でプルプルしているが、そっとしておいてやろう。
「それは私から説明するわ」
我らが大元帥閣下、雪ノ下陽乃魔導王が司会者からマイクを受け取りグリコーゲンXに対峙する。
「あなたの……」
グリコーゲンXの射抜くような視線にも堪え、逆に睨みつけるように言い放つ!
「あなたのエントリーした曲がDAMには無いのよっ!……ないのよっ……ないのよっ……いのよっ……のよっ……よっ……」
いや、なんでこんなところで最大限のエコーかけてんの!?
「なな、なんじゃとぉー!」
……。
「どーして、私の時だけエコーがかからぬ!!」
「それは、あなたがマイクを使っていないからよっ……からよっ……らよっ……よっ……よっ……」
「がーん!!」
"がーん"て、口で言うな、口で!
「そっ、そんな汚い手を使ってまでこの私を陥れたいのかっ、かっ、かっ、かっ」
とうとう自分の口でエコー始めちゃったよ。
「書き文字だとあまり区別つかないけどな」
いつの間にかステージの俺の横に立つ原瀧がボソッと呟くのだが、それもメタいからやめていただきたい。
「と、言うわけだから少し待ちなさい。その間に別の出場者が歌うから大人しく待つこと。いいわねっ……いわねっ……わねっ…ねっ…ねっ…ねっ……」
「ぐぬぬ……」
グリコーゲンXが悔しがっているところ、俺は気になっていることを陽乃さんに尋ねた。
「そういや俺たちの歌、鐘が鳴ってないんですけど、採点はどうなってるんすか?」
さっきから店長が鐘一つのお菓子を期待してステージの真下から熱く見つめていて気になって仕方なかったのだ。
「あー、そうね。比企谷君とグリコーゲンXの対決は別枠だから鐘は鳴らないの。特別審査員による審査で雌雄を決することになるのよ」
あ、店長が膝から崩れ落ちた。
「まあ参加してるわけだから参加賞は上げるけど。はい、なごみどら焼き桜餡」
店長復活! わーいと言いながら諸手を挙げて喜んでるぞ。はいはい、後でちゃんとあげますから。戸部と葉山の分も。
「ほら、そんなわけだから比企谷君たちもグリコさんも一旦ステージから降りて。じゃあ、次の出演者~!」
「諸出さん、私たちの出番……」
「安棚さん、言わないで……」