まちがいだらけの修学旅行。   作:さわらのーふ

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はい、またお会いしました。
ワタクシ、嘘を申し上げてしまいました。
次は最終回と言いながら、番外編ヤってしまいました。
予定してた期間限定の新シリーズの進捗が思わしくなく、ついつい手を染めてしまいました……。
ほんの出来心なんですっ!
悪気はないんです!
とはいえ、ガハマちゃんの番外編が無いのもシリーズとしてバランスを欠くかなあということで、最後の番外編として数話お送りしたいと思います。
これ以降、折本番外編とかありませんので悪しからず。


千葉最大の侵略〜花も嵐も踏み倒せ!番外編 YUI☆捨てられた仔犬のように Ⅰ

「うん、ゆきのん、じゃあ明日!」

 

 あたしはスマホ画面の終話ボタンを押すと、両手を広げたままベッドに倒れ込んで天井を見上げた。

 お風呂で濡れた髪を乾かす間もなくゆきのんに電話をしたからまだ少し髪が湿っていたかもしれないな。

 それでも、そんなことが気にならないくらいあたしは明日が楽しみで仕方なかった。

 緊急事態宣言が明けてもなお休校が続いていた学校が明日から始まる。

 16時30分までという制限はあるけれど、ようやくヒッキーに会える……。

 あの歌合戦以来学校は休校が続いてて、その間ゆきのんのマンションで受験勉強を教えてもらってたからゆきのんとはいつも会ってたけど、ヒッキーとはまったく会うことができなかった。

 ヒッキーのバイト先に行けば顔を合わせることはできたかもだけど、ヒッキーバイト先の店長さんが姫菜のことを気に入って他店舗から引き抜いたらしく、今、二人は同じ店にいる。

 もし二人が仲良くしてたらなんとなく居づらいという気もしたし、何よりそんな二人の姿をあたし自身が見たくなかったんだ……。

 でも、部活は、あの部屋は、あたしとヒッキーとゆきのんと、たまに?よく?いつも?いろはちゃんがいる気もするけれど、あたしたちの場所だ。

 そんな場所がようやく戻ってくるんだ。

 もちろん、ヒッキーがバイトの時はさがみんがやって来てぼうえいぐん?の拠点とかいうことになってるけど。

 それでもあの部屋はあたしたち3人にとって特別な場所。

 あの場所だけはいつまでも……。

 

 あたしは枕を抱きしめて、小さくヒッキーの名を呼んだ。

 

 


 

「やっはろー!」

 

 朝、教室の入り口であたしは、数ヶ月ぶりのやっはろーを一際大きな声で発した。

 

「ユイ、おはよー」

「優美子! もう身体大丈夫なの?」

 優美子はしばらく九州の病院で入院してたって。

 学校が休みだったから本当はお見舞いにも行きたかったけど、そんなことできなかったから……。

「ん……ユイにも心配かけたね。もう大丈夫だから」

 少しトーンが低いけど大丈夫という言葉にほっと胸を撫でおろす。

「結衣、優美子、はろはろー」

 姫菜も休校前と変わらない様子だ、でも……。

「姫菜、やっはろー!」

「海老名、おはよぅ」

 やっぱり優美子は少し元気がなさそう。

 原因は……。

 

「学校で会うの久しぶりだねー。こっちはどう?」

「まだ分からないよー、クラス変わったばっかだし。でも、優美子とは一緒だったから」

 

 そう、3年生に進級して、あたしと優美子は同じクラスだったけど姫菜とは別のクラスになってしまった。そして……。

 

「……ヒッキーはどうしてる?」

「ヒキタニくん? ヒキタニくんはまだ来てないよー。たぶん遅刻ギリギリなんじゃない? ユイだって知ってるでしょ?」

 

 ヒッキーとも別のクラスになった。姫菜はヒッキーと同じクラス。姫菜は普段ヒッキーのことを八幡くんって名前で呼んでいるのに、あたしの前ではヒキタニくん呼びをする。

 

「ちぃーす。あ、海老名さんじゃん! どしたん? 俺っちに会いに来てくれた?」

「戸部、そんなわけないっしょ。姫菜はあーしに会いに来たんだし」

「まじかー、でもクラス離れてもシクヨロっしょ!」

「ふふふ」

 

 とべっちはあたしたちと同じクラスだけど、元隼人くんや大和くんそして……もう一人とも別のクラスになっちゃった。

 クラスが変わっても変わらず同じグループで……って思ってたけど、みんな受験だしそうもいかないよね……。

 

 元隼人くんはバラっちと同じ国立文系のクラス。

 あたしはヒッキーと同じ私立文系志望にしたから、ワンチャン同じクラスになれるかなーって期待してたんだけど、運命の女神様はあたしには微笑んでくれなかった。

 となりのクラスだからそこまで離れ離れというわけでもないけど、休み時間に遊びに行くのってなんか恥ずかしいし、優美子もいるから……。

 姫菜みたくヒッキーがこっちに来てくれないかなーって思うけど、ないよね……。

 

 それでも、部活に行けば、あの部屋に行けばヒッキーに会える!

 そして、けだるげな顔でラノベ?を読むヒッキーの横顔をあたしが携帯をいじりながら眺めてたら、ヒッキーも時々あたしの胸のあたりをチラチラ見てたりして――――――

 

 

「……ユイ、ユイ」

「んー、ヒッキーのエッチ!」

「ユイ、どしたん? ヒキオになんかされた?」

「え、優美子!? べ、別になんでもないよ!?」

 今の、口に出ちゃってた!? 首をぶんぶん振って慌てて否定する。

 

「そうなん? ユイ、なんかボーっとしてるし」

 つい妄想が口に出ちゃったよ……。

 

「大丈夫、ほんとなんでもないから」

「ならいいけど、ヒキオになんかされたらすぐにあーしに言いな。いつでも締めてやっから」

 優美子は本気で心配してくれているようだけど、あたしの妄想のせいでヒッキーが酷い目にあわされたらさすがに可哀そうだよね。

 

「その、何もないと言いますか、どっちかというとなんかあったらなーなんて」

「ユイ、願望が漏れ出てる」

「ええーーー!? いやいやいや、たははは」

 姫菜が冷静にあたしの言葉に突っ込んでくるよー。

 

「それじゃ、そろそろ先生来そうだからクラスに戻るねー」

 クラスに戻ったら、ヒッキーと仲良くお話しとかするのかな……。

 もし、あたしが同じクラスだったらな……。

 


 

 しばらくは短縮授業らしく授業そのものは早く終わったけど、感染予防とか生活上のいろんな注意でホームルームが長引いてる。

 早く部活行きたいんだけどなー。

 

 日直の起立、礼の号令とともにホームルームが終わった!

 

「優美子、あたし今日部活だから!」

 カバンに教科書やノートを詰めて、ガタンと音を立てて立ち上がると、すぐに教室を出て隣のクラスの戸を開けた。

 

「ヒッキー! 部活……」

 でも、そこで見たのは、姫菜とヒッキーが窓際で楽しげに話をしている姿。

 中に入っていってヒッキーの腕を引っ張って部活行こう!っていいたかったけど……。

 

 二人とも入り口に立つあたしには気づいていないみたいで、あたしは静かにドアを閉めてゆっくりと特別棟へ向かった……。

 

 奉仕部の部室の扉を開けると、マスク姿のゆきのんが、一枚の絵画のような佇まいで静かに本を読んでいた。

 

「あら、由比ヶ浜さん……いえ、結衣、いらっしゃい」

 ゆきのんはまだ名前呼びに慣れないようだけど、頑張って結衣と呼んでくれている。

 

「やっ、やっはろー……」

「大丈夫? 元気がないようだけど」

「え? うん。久しぶりの学校で少し疲れちゃったかなー、ははは」

 ゆきのんに心配されてる。あたしはごまかすようにせいいっぱい笑顔を作って答えた。

 

「座って。お茶を淹れるわ。そういえば比企谷くんは?」

「ヒッキーとはクラスが別になったから……」

「あ、ごめんなさい。国際教養科はクラス替えがないものだから……」

 ゆきのんは立ち上がって電気ポットに水を入れ、電源を入れた。

 その時、部室のドアが開く音がして、

 ヒッキー! と、慌てて振り向いたけれど、

 

「ゴラムゴラム。久しく我の新作に触れることができずそろそろ禁断症状が出てるのではないかと思い……あの……八幡は……」

 そこに立っていたのは中二だった。

 

 どうやらあたしとゆきのんは相当厳しい顔をしてたみたいで中二の声がみるみる小さくなっていく。

 

「比企谷くんはまだ来てないみたいだけど、何か用? 私たちにその小説のようなものを批評してもらいたいのかしら」

「い、いえ……すみませんでしたー!!」

 ドタドタと音を立てながら中二は廊下を走り去った。

 

「こんにちはー! 今、木材先輩がブヒブヒ叫びながら廊下を駆けてましたけど。廊下をは走るの禁止なんですけどねー」

 次にやってきたのはいろはちゃんだった。

 

「あれ? せんぱいまだ来てないんですかー?」

「ええ、そうね。今年度の部活初めだと言うのにたるんでいるわ。あとでお仕置きが必要かしら?」

「ちょ、ちょっと雪乃先輩がお仕置きなんて言ったら怖いですー」

「え? ほんの冗談よ?」

「雪乃先輩の場合、冗談に聞こえないです。せんぱいは再生の魔法とか使えないんですからやめてくださいよー」

 

 

 

「雪ノ下の場合は精神系の魔法とか得意そうだけどな」

「あ、せんぱい!」

「うーす」

「ヒッキー、やっはろー!」

「おう」

 いつの間にか姿を見せたヒッキー。気だるげな挨拶も前と同じだ。

 

「あなたは……まともな挨拶一つできないのかしら」

「おい、やっはろーはいいのかよ、やっはろーは!」

「由比ヶ浜さん……結衣はいいのよ」

「じゃあお前も使ったら。やっは……」

「嫌よ」

「即答だ!?」

「はあ、先輩方相変わらず仲がいいですねー。それぞれ対立する組織に属してるとは思えませんよ」

「あら、一色さんはどちらの味方?」

 ゆきのん、にこやかに聞いてるけど目が笑ってないよ……。

 

「ゆ、雪乃先輩!? わっ、わたしは……そう、わたしは奉仕部の味方です! 生徒会長として学校の外の組織の一方だけに肩入れするわけにはいきませんから」

「うまく逃げたわね」

「な、なんの事でしょう。ヒューヒュー」

 いろはちゃん、口笛鳴ってないし……。

 

「まあいいわ。お茶を淹れようとしてたところなの。一色さんも召し上がるでしょう?」

「あ、はい!いただきます」

「ヒッキー」

「なんだ?」

「なんかずっと学校休みだったのが信じられないね」

「そう、だな」

 ヒッキーは目を細めながら、良い香りを漂わせながらゆきのんが紅茶を淹れるのを見ている。

 うん、本当に今までと変わってない。きっとこれからも変わらない。

 

「でも、新入生もようやく入って来ましたけど部活も新歓どころじゃありませんし、奉仕部も2年生いないから先輩方がいなくなったらどうなるんですかねー?」

 いろはちゃんの言葉に今までわざと考えないようにしていたことが突きつけられた思いがした。

 

「そうね。このままだと私たちの代でこの部活も終わりかしら。引退とかはないから卒業までは続けようと思うけど」

 卒業……このまま卒業したらどうなるの?

 この部活が続くなら、OB・OGとしてまたここに集まって、なんて思ってたけど、このままこの部屋無くなっちゃったらあたしたちはどうなっちゃうんだろう。

 

 ゆきのんとはいつまでも友だちでいたいし、ヒッキーとは……。

 

「結衣……結衣……」

 ゆきのんの呼び声にあたしの思考は現実へと戻される。

 

「やはり 体の調子が悪いのなら今日はもう終わりにしてもいいのだけれど」

「そ、そんなことないよ! ちょっと考えごとしてただけだから」

「由比ヶ浜が考えごとなんて、明日は雨が降るんじゃないか?」

「ちょ、ヒッキー、バカにしすぎだし!」

「結衣、今は梅雨時だからいつ雨が降ってもおかしくないわよ」

「ヒッキー!!」

「すまんすまん。それで雪ノ下、木曜日だったな」

「ええ。今週の木曜日は本当なら比企谷くんはアルバイトで私たちは防衛軍なのだけれど、その日は奉仕部の日にしてもらおうと思うのよ」

「ああ、俺もそれで問題ない」

「ほえ? なんで??」

 あたしが頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、ゆきのんは頭を抱えてヒッキーは信じられないものを見るような目であたしを凝視してた。

 そんなに見られるとちょっと恥ずかしいな……。

 

「結衣先輩、結衣先輩、木曜日、結衣先輩の誕生日ですよね?」

「あっ、そーか!」

 あたし、今の今まで自分の誕生日のこと忘れてたよ。

 学校がこんなことになっていつ再開するかも分からなかったから、自分の誕生日を祝ってもらえるなんて思ってなかったんだ。

 

「こんな時だから、外のお店で大々的にお祝いというわけにはいかないけれど、せめて奉仕部でささやかにお祝いできればと思って」

「ありがとうゆきのん! ありがとうヒッキー!」

「あのー、わたしもできれば参加したいんですけどーもう奉仕部のメンバーと言っても過言ではありませんし」

「一色さん、貴女は入部届を出していないから部員ではないわね」

「書きます! 入部届くらい何枚でも書きますよー!! 元々サッカー部のマネージャーと兼務してたんですから、奉仕部もやります!」

「おい一色、ちゃんと入部届って漢字で書けるか?」

「せんぱい、わたしを馬鹿にしすぎですよ! そんなの書けるに決まってるじゃないですか」

「いや、だってな、クククッ」

「ヒッキー! あたしは書けないんじゃなくて敢えて書かなかっただけなんだからね!」

 ちょ、ちょっといろはちゃん? なんで、うわぁって顔してるの?!

 

「冗談よ。一色さんも一緒に結衣の誕生日を祝ってもらえたら嬉しいわ」

 ゆきのんの優しい笑みを見たいろはちゃんは、

 

「な、なんですかこの威力は!これがツンデレですか、この微笑みがあれば幾万の男を落とせるでしょうけどせんぱいもこんな強烈なのを浴びたら瞬く間に落ちていきそうなのでやめてくださいごめんなさい」

「お前は雪ノ下まで振るのかよ……」

 いろはちゃんがうろたえるほどゆきのんの微笑みは凄かったけど、ヒッキーはいつもの通り平常運転だよね。

 たぶん普段から恥ずかしくてゆきのんの顔を正面から見ようとしないようにしてるからなんだろうけど。

 でもあたしはこんな時間が好きだな。

 それでも終わりの時間はやってくる。

 

 

 

「入るじゃん」

 平塚先生とは違って、黄泉川先生はちゃんとノックをして部室に入ってきた。

 

「君たち、もう完全下校時間じゃん。早く帰り支度しなさい」

 16時半までなんてあっという間だった。もっとみんなと、ヒッキーと一緒にいたいのに。

 

「あ、わたし、一応生徒会の方見てきますね」

 いろはちゃんがバタバタと鞄を抱えて走っていく。

 

「おーい、一色〜〜廊下を走るのは校則違反じゃなかったのかよ〜〜〜」

 ヒッキーの注意にも構わずいろはちゃんは生徒会室へと向かって行った。

 

「鍵は私が預かるから、君たちは早く帰るじゃん」

「黄泉川先生、それではお願いします」

「おう」

「せんせー、さようならー」

「気をつけて帰るじゃんよー」

 先生はドアに鍵がかかっていることを確かめた上で職員室へと戻っていく。

 

「結衣、あなたはどうやって帰るのかしら?」

「え、あたし? あたしはいつも通りバスだけど」

「あの……それなら、うちの車に乗って行かない? お父さまが心配して送り迎えは当分車でと言われているのだけれど……」

「でも、なんか悪いかなー」

って言ったら、目に見えてゆきのんはシュンとしちゃって。

 可愛いなあ、ほんとにもう。

 

「でも、せっかくだからお願いしちゃおうかなー」

「そ、そう。ならすぐに電話するわね」

「ヒッキーは自転車?」

「おう。ちょっとマスクが息苦しいけどな」

「ならヒッキーも乗せて貰えば?」

「いや、女子二人と狭い車の中で一緒とか、別の意味で息苦しいわ」

「失礼ね。うちの車はリムジンだからそんな狭くないわよ。それに比企谷菌も強力殺菌できる空気清浄機も付いてるわ」

「いやいや、俺自身が殺菌されて無くなっちゃうんじゃねえの?」

「あら、意外と綺麗な比企谷くんに生まれ変わったりするかもよ?」

「生まれ変わりって、もう死ぬの前提じゃん。なんなの? お前、女神様なの?」

「め、女神様……///」

 あーあ、ゆきのん真っ赤になっちゃったよ。

 ヒッキーって、時々こういうことするんだよね……。

 

「まあ、明日の登校が大変だから今日は自転車で帰るわ。明日はバイトだからまた明後日な」

「あ、明後日は事情があって部活はお休みにしようと思うの。だから次、みんな集まるのは結衣の誕生日の日ね」

「了解。じゃあな」

 そう言うと、ヒッキーは自転車置き場の方へそろそろと歩いて行った。

 

 その後、ゆきのんがマンションに戻るなら一緒に行きたかったけど、今は実家に住んでいるみたいなので、運転手さんにお願いして少しだけ遠回りしてもらった。

 そうしてできたほんのわずかな時間だけど、あたしたちは少しの間も惜しんでお話しをした。

 だって、あたしに、あたしたちに残された時間は多くないから。

 

 だから、あたしは……。

 

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