一応、世界観としては2020年ごろということになってますが、あの当時、こんなことしてちゃダメじゃん!とか、あの店は休業してたんじゃない?なんていうご指摘があったとしても、できる限り大きな心でご容赦いただければ幸いです。
で、ハニトーって千葉のどこで食べられるのか、調べてみたけどよく分からず。
パン、バァン!
「お誕生日おめでとう!」
クラッカーの音鳴り響く中、みんな声を揃えてお祝いの言葉をかけてくれた。
「先輩方、本当はご時世柄こういうのダメなんですからね。もう少し大人しくしてくれないと~」
「おい、一色、お前先頭に立ってクラッカー鳴らしてたじゃねえか」
「さてなんのことですかねー、ヒューヒュー」
「あははは……ありがとね、いろはちゃん、ヒッキー、ゆきのん」
今日は3人が奉仕部の部屋であたしの誕生日を祝ってくれている。
大人数の集まりはだめだから優美子や姫菜からは昨日お祝いしてもらったんだ。
「本当ならケーキにキャンドルを立てて吹き消してもらうところなのだけれど、部室で火は使えないし感染症対策もあるからごめんなさいね」
「ううん、こんな立派なケーキまで用意してもらってすごくうれしいよ」
「校則ではこんなの学校に持ち込めないですけどね」
「そこはアレだ。これは雪ノ下が昨日、家庭科室で作ったもので外から持ち込んだものじゃないからセーフだ、セーフ」
「ほんとせんぱいったら、悪知恵だけは働くんですね」
「うっせ。お前だってこのケーキを生徒会室の冷蔵庫に預かってたんだから同罪だろ」
そっか。昨日部活がお休みだったのはこのケーキを作るためだったんだね。
ヒッキーが考えて、ゆきのんが作ってくれて、いろはちゃんが預かってくれたんだ……。
やだ、ちょっと泣きそう。
「みんな……本当にありがとう……」
「ちょ、結衣先輩、泣かないでくださいよ」
あれ!? あたしもう泣いちゃってたんだ。
「由比ヶ……結衣、さあ、ケーキを切り分けるからみんなで食べましょう。このケーキに合わせたお茶も用意してあるわ」
「じゃあさ、その前にこのケーキと一緒に写真撮らない?」
「そうですねー。結衣先輩まずケーキを持って一枚♪」
それからしばらくは写真撮影会みたいに角度やポーズ、ゆきのんやいろはちゃんとも写真を撮ったんだ。
ヒッキーも嫌がってたけど、いろはちゃんが問答無用で横にくっつけて、ゆきのんがひと睨みしたら大人しく写真に収まってくれたよ!
「じゃあ次はみんなで撮りましょう」
「なら俺が撮るから、お前ら由比ヶ浜を真ん中にして……」
「この男は……何を自分が外れること前提で話を進めているのかしら……奉仕部なんだからあなたも入るのよ」
「いやしかし、そしたら誰が写すんだ? このためだけに材木座なんか呼びたくないぞ」
「あなたが呼べる相手は財津君しかいないのね……」
「はーい! なら奉仕部のお三方が並んでわたしが……」
「一色、お前だって『にゅうぶとどけ』を書いたんだから奉仕部の一員だろ?」
「えっ、せ、せんぱい……」
あー、いろはちゃんの目が潤んじゃってるよ。ヒッキーって天然でこういうことしちゃうんだよね。そんなところも好きなんだけど。
「と、いうわけで、通りすがりの部活顧問の出番じゃん♪」
「よ、黄泉川先生!? 平塚先生ではないんですからちゃんとノックをしてください」
「ノックしたけど盛り上がってて気づかなかったのお前らじゃん。ま、そんなことはどうでもいいから並んだ並んだ♪」
黄泉川先生に促されて、ケーキを持つあたしの隣にゆきのんとヒッキーが並び、ヒッキーの隣にいろはちゃんが立った。
そしてあたしのスマホをもった黄泉川先生が、
「はい、いくよー! ピーナッツ!!」
ピロリン♪という音があたしたちの姿がスマホに収まったことを告げてくれている。
「せ、先生も随分と千葉に馴染まれたようですね……」
「ん? ああ、この掛け声だとピーの時に口が広がって笑顔に見えるからいいって聞いたじゃん。な、しょーねん♪」
「いや、あのそれはですね……」
「まったくこの男は……」
出たよ!ゆきのんのアタマイタポーズ!!
楽しいなあ、この時間。
「ところでどうして先生はいらしたんですか?」
「いや、特別棟の方から発砲音が聞こえたって通報があったじゃん。今は活動してない部活も多いから、結構音が響くじゃんよ」
「あ……」
あたしたちは顔を見合わせて、しまった!って表情をしてたんだけど、
「まあ、だいたいの事情は分かったから、間違って風船でも割ったことにしとくじゃん」
いや、その風船どっから出てきたの?なんてヒッキーがブツブツ言ってたけど、先生がそういうことにしといてくれるっていうんだから、いいよ、ねえ?
「では、あとで先生の分のケーキもお持ちしますね」
「雪ノ下、ありがとさん。それじゃ私は職員室に戻ってるから、最終下校時間までには帰るじゃん」
それだけ言うと、サッと手を上げて後ろ向きのまま、
「君たちはまだ子どもなんだから、ちゃんと避妊はするじゃんよー」
と、大きな爆弾を落として部室を出ていった。
って、えええー!? ひ、避妊ーーー!
「ちょっ、ちょっと、あの先生何言っちゃってくれてるの?!」
ヒッキーも分かりやすく動揺してるし。
「ほんとですよ! せんぱいとだったらわたしは別に避妊なんかしなくても……」
「いろはちゃん!?」
「一色さん、何を仰ってるのかしら」
あ、ゆきのんがすごく冷たい顔してる。
「私たちはまだ高校生なのだから、そんな無責任なことはできないわ。きちんと対策を立てておくことは貴女の身体を守ることでもあるし、貴女と比企谷くんのご家族に迷惑をかけないためにも大事なことよ」
そっち? が前提になってる!? そっ、そりゃここに男の子はヒッキーしかいないけど。
でも、ヒッキーの気持ちとか……。
「ね、ねえヒッキー。ヒッキーも、その……そういうこと、してみたいと……思うの……?」
「はあぁぁぁぁ!?」
あたしがぽつりと言ったことにヒッキーが大声で反応し、場の空気が一変した。
「そ、そうですねー。この場にいる男性はせんぱい一人ですし、黄泉川先生の注意もせんぱいに対して言ったことでしょうから、まずはせんぱいが私たちとその、そういうことをしたいかしたくないのかを確認しないとー」
「一色、おまっ、何を言って……」
「そうね。一色さん、それはおかしいわよ」
「そ、そうだ。雪ノ下、ちゃんと言いいきかせてやれ」
「比企谷くんはそういうことがしたいに決まっているのだから、問題は、まず誰としたいかよ」
「雪ノ下っ! おかしいのはお前だっ!!」
「それはまあ年下好きのせんぱいならわたしを選ぶに決まってますけど、今日は結衣先輩の誕生日ですし、せんぱいの初めては結衣先輩に譲りますよ」
「そうね。今日に限ればそういうこともしかたないのではないのではなくて。ねえ、結衣」
「ふぇ!?」
ちょっ、ここであたしに振るの?
「おい、ふざけるな! こんなとこでそんないかがわしいことができるわけがないだろ!!」
「じゃあ、こんなとこ……でなければいいのかしら?」
「は?」
「あなたが言ったのよ? こんなところでは駄目だと」
「ちょっ、落ち着け雪ノ下。それはあくまでも言葉の綾というやつで……」
「 あなたにしては往生際が悪いわね。押してダメなら諦めろ、ではなかったの?」
なんか話がおかしな方向に行ってる!? でも、あたしと、ヒッキーが……えへへ。
「由比ヶ浜、どうした、なんか顔が緩んで。なんか変なことでも考えてるのか?」
「へ?」
どうも妄想が表情に出ていたみたいで、あたしは顔が一気に熱くなった。
「ヒッ、ヒッキーまじキモい!!」
「これは通報ね」
「言い逃れできませんね」
「わ、悪かった! だから通報は勘弁してください、お願いします!!」
また言っちゃった……キモいなんて全然思ってないのに。
どうしていつもこうしてヒッキーを傷つけること言っちゃうんだろう……。
ヒッキーは土下座してるけど、本当に謝らなくちゃいけないのはあたしだよ……。
その時、校舎に最終下校時間を告げるチャイムが鳴り響いた。
「そんなことやってるうちに最終下校時間になってしまったわ」
「あ、もうすぐ16時半ですか。わたし生徒会室閉めてこないといけないのでお先に失礼しまーす」
「私は部屋を片付けて鍵を返しに行くけれど、結衣と比企谷くんは先に帰ってもいいわよ」
「それじゃお言葉に甘え……」
「ううん、あたしも手伝うよ。みんなでやれば片付けも早く終わるし。ねっ、ヒッキー!」
「あ、うん、そうだな。主賓がやるんじゃ俺もやらないとなー」
そう言うと、不承不承ヒッキーも片付けを手伝い始めた。
え? 不承不承なんてよく知ってたって?
馬鹿にしすぎだからあ!
三人でやると片付けもあっという間に終わって、そのまま部室を出た。
ゆきのんは扉の鍵を掛けると鍵を返しに行くと言って職員室の方へ消えて行った。
残されたヒッキーとあたしは、昇降口で靴を履き替え校舎の外へ出る。
「じゃあ俺は自転車だから……」
ヒッキーが自転車置き場の方へ行っちゃう。
ここでお別れなの?
高校最後のあたしの誕生日、このまま終わっちゃうの?
嫌だ。まだヒッキーと一緒にいたい!
でも、だったらどうすれば……。
頭の中で考えがまとまらないまま、あたしは無意識にヒッキーの腕を掴む。
「ハッ、ハニトー!」
「は?」
咄嗟に口から出た言葉はハニトー。
「去年の文化祭の、ハニトーの約束、まだ果たしてもらってない……」
「いや、でもこんな時期だしな……また今度でいいだろ?」
「だってそう言ってずっとそのままだったし、あたしたちこれから受験だし……あたしの……高校最後の誕生日だし……もう……来年は……」
あたしの声はだんだん小さくなる。
来年のことを考えたら急に寂しさや哀しさが込み上げてきたんだ。
本当は来年も、ゆきのんと、ヒッキーと今日みたいに……でも、たぶん……。
ヒッキーはひとしきり頭をガシガシと掻いて、半ば諦めたように、
「仕方ねえな。自転車取ってくるからここで待っててくれ」
と言った。
あたしは、今日という特別な日に少しでも長い時間ヒッキーと一緒にいられることが嬉しくて、
「うん!」
と、大きな声で返した。
駅までの道すがら、自転車を押すヒッキーと並んで歩く。
「で、どこへ行くんだ? 千葉の方?」
「んー、千葉にあるかは分かんないけど、とりあえず電車で反対側かな?」
「そっか。まあ任せる」
駅前の駐輪場に自転車を置いたヒッキーと改札を通り抜け、京葉線の電車が来るのを待つ。
いつもより時間が早いからなのか、それとも在宅わーく?ってのをしているせいか、帰宅するサラリーマンの人の姿は少なかった。
ヒッキーと手を繋ぎたいけど、総武の制服を着た生徒の姿はちらほら見えるから、やっぱりちょっと恥ずかしい。
そんなことを考えてたら、あたしは去年の花火の日、さがみんたちに会った時のことを思い出していた……。
電車もなんとか二人並んで座れたから、やっぱりお客さん少ないんだろうな。
手は握れないけど、軽く目を瞑って少しだけ身体を傾け、ヒッキーにもたれかかるようにしてみた。
「おっ、おい!」
ヒッキーは焦った声を立ててるけどあたしの体には直接触れようとしないの。
だからあたしは狸寝入りをして今しばらくこうしていようと思う。
ヒッキーが無理やり起こしたりなんかしないことも分かってるしね。
やっぱりあたしってズルい女の子だな……。