二豊とは,豊前,豊後の二国を指していう言葉で,豊前国が宇佐神宮のある宇佐市や中津唐揚げで有名な中津市,そして福岡県の豊前市,行橋市から小倉あたりまでのエリア,豊後は大分市,別府市,日田市,荒城の月で有名な竹田市など,豊前を除く大分県のエリアです。
今回,デートスポットに選ばれたのはサンリオの国内唯一の屋外型テーマパーク,サンリオ・ハーモニーランドでしたが,本文中に出てきたケーブルラクテンチや他には城島高原パークも楽しいんですよ。あと,日本最大級のサファリパーク,別府アフリカンサファリなどもデートによろしいのではないでしょうか?
……未だクロスオーバーにならないのを観光案内でごまかしているわけじゃないよ?ホントダヨ?
翌朝,7時前の湯布院の町は盆地特有の「朝霧」と呼ばれる濃い霧に包まれていた。
高台にある狭霧台などの展望台から見ると,町全体が雲海状の霧に沈む幻想的な風景が見られるという。
7時3分,大分行きディーゼルカーのエンジンが唸りをあげ,辺りを覆い尽くす霧の中を切り裂くように由布院駅を発車した。
朝早い列車を選んだので俺たちの他に総武高校生は誰も乗っていない……と思ったのだが……
「はろはろ~結衣,雪ノ下さん,ヒキタニくん,早いねー」
腐海のプリンセスこと海老名さんがなぜかこの汽車に乗っていた。
「え?姫菜一人?とべっちとかみんなは?」
由比ヶ浜は突然の海老名さん単独の登場に戸惑っているようだ。
「結衣が出ていくのを見かけて優美子とか声かけたんだけど,誰も起きてこなくて。男子同士は夜遅くまでナニをヤッてたのかな?愚腐腐腐」
相変わらずの海老名さんの様子に,雪ノ下が頭イタポーズで苦い顔をしている。よほど昨日の海老名さんの腐教活動が堪えたらしい。
「姫菜,今日は奉仕部の三人で回ろうと思ってるから……」
由比ヶ浜が言いにくそうに海老名さんの同行にお断りを入れようとしているのだが,
「えー,私一緒にいちゃダメかな?今から戻るのも大変だし,なんか仲間外れにされたみたいで嫌だな……」
少し憂いを漂わせて由比ヶ浜に告げる海老名さん。由比ヶ浜の表情には困惑が見える。
「ね?ヒキタニくんはいいよね?私が一緒にいても」
続いて俺に話を向けた彼女は,右手でその小ぶりな(とはいえ雪ノ下よりも大きいが)胸を持ち上げるようにして,俺に対し半ば脅迫気味のアピールをしていた。
「ま,まあ,今から宿に帰れというのも酷な話だし,一緒に来るぐらいはいいんじゃないの?知らんけど」
つい彼女の胸に行きそうな視線を必死で逸らしながら俺は答えた。
「大丈夫だよ,結衣。優美子が行きたい場所が決まってるから,みんなとは後で合流する予定なの」
「ヒッキーとゆきのんがいいなら別にいいけど……」
海老名さんがこうして一人で出てきたのは,戸部の告白を阻止するためにできるだけ接触を避けたいのだと理解する雪ノ下が反対することは当然ながらありえない。
こうして奉仕部の宇佐神宮参拝に一名の同行者(腐属性)が付加されることになった。
大分から特急ソニックに乗り宇佐駅へ。
宇佐駅からはちょうどいい時間のバスがなかったのでタクシーで神社まで向かおうとするのだが……
俺が助手席に座ろうとしたら,海老名さんの『奉仕部の三人に私がお邪魔してるんだから,私が助手席で後ろのシートは三人で仲良く座ってね,と海老名は気が遣えるところをさりげなくアピールします』という一言で,俺が真ん中に座って両側に雪ノ下と由比ヶ浜が座るというフォーメーションが形成された。特に関係ないが,海老名さんのクローンが2万体もいたら辺り一面に腐臭が漂いちょっと嫌かもしれないとなんの脈絡もなく思ってしまった。
問題は,駅前に止まっていたタクシーが小型だったため後ろのシートに3人で座ると結構窮屈で,特に右側に座った由比ヶ浜の,どことは言わないが体の一部に俺の右手の肘が当たりそうになるのを避けるのにずいぶん腐心した。やだ,やっぱり腐りゆく運命は避けられないのか。
え?左側は特に問題ありませんが何か?
宇佐神宮の境内は清涼なピンと張りつめた空気に包まれて,まさに霊験あらたかという言葉を肌でヒシヒシと感じることができる場所だった。上宮,若宮,下宮と回り,小町の合格や家内安全健康増進ついでに平塚先生の結婚成就等諸々を祈願した。
八幡大菩薩のお導きにより平塚先生に幸福な未来が訪れんことを。
そして八幡が導かなければならない未来が訪れぬことを。
途中でけぷこんけぷこんとかいう指ぬきグローブを着けて暑苦しいコートを着たデブの咳ばらいと「我と盟友ともに八幡大菩薩のご加護があらんことをー!」という叫び声が聞こえたような気がしたが,多分気のせいだろう。
帰りもまたタクシーで駅まで向かうのだが、今度は左に由比ヶ浜、右に雪ノ下というフォーメーションである。
何故か運転手はアロハ姿。もうかなり冷え込んでくる季節だと思うのだが、やはり九州は少し暖かいのだろうか?
海老名さんの助手席は相変わらず。
今回は右手がフリー「何か凄く不愉快な空気を感じるのだけれど」何でもありません。
少し荒い運転で体が右へ左へ揺れていると,
「ひっきぃ……ひっきぃの肘が,あたしの……」
少し上気した顔の由比ヶ浜が切なげな声を出した。
「す,すまん!」
慌てて左手を引いたが,右側から謎の強烈な冷気が襲ってきた。
「あなた……とうとう本当の強制わいせつに手を染めたのね……」
「いや,これは不可抗力でだなあ」
「最後の情けよ。血の池地獄の熱泥の中に沈むか,竜巻地獄の105度の間欠泉に吹き飛ばされるか,鬼山地獄のワニの餌になるか,好きな死に方を選びなさい」
おい!もう死に方って言っちゃってるよね?どこに情けがあるのか全く分からないんですが!?どこをどう向いても地獄!地獄!地獄!
「えーヒッキー死んじゃやだあ」
そう言って由比ヶ浜が俺の左腕を掴んで俺を引っ張る。当たってる!当たってるからあ!
「ふふふ,君たちは面白いねえ」
助手席で海老名さんが笑っていた。いやいや,あんたが後部座席に座ってくれていたらこんなことにはなってないよねえ?
「じゃあ,私からも」
海老名さんが一呼吸おいて,
「ど、どうか私のノーブラおっぱいをモミモミしてください、お願いしますっ! 」
静まり返る車内。
「ひ,姫菜!何を言ってるの!」
「え,海老名さん。ちゃんとブラジャーをしないと胸の形が崩れるって言うわよ」
雪ノ下,そこじゃない。そして由比ヶ浜にもこのネタわからなかったか……
「あ,結衣も雪ノ下さんも分からなかったかー。ヒキタニくんは分かるよね?」
「分かるけど……海老名さんノーブラじゃないし,メガネは合ってるけどあんなには無いだろ?」
「通報するわ」
「ヒッキーまじきもい」
「おいおいやめてくれ。うっかり坊主地獄の泥に埋もれて死んじゃうだろ」
てか,ノーブラじゃないことを知ってるってウッカリ言っちゃってたよ。死ぬ。
そんな喧騒の中、タクシーが止まった。
「はい。駅についたばい。ははは若い人たちは元気やねえ。何かよかこつでもあったんかい?」
運転手さん、その咥えたタバコ、火、点いてませんよ。
宇佐駅から再び特急ソニックに乗り,杵築駅を目指す。杵築駅からはバスに乗って,目的地はサンリオ・ハーモニーランドだ。
俺は遊園地なら温泉も入れて名物!あひるの競争もあるケーブル・ラクテンチを推したのだが,いかにもサンリオキャラクターが好きそうな由比ヶ浜がハーモニーランドを主張し,「ほらほら,ゆきのん,キティちゃんは猫だよ!」という一言で大勢は決した。
だがな,由比ヶ浜。正しくはキティちゃんは猫じゃなくてキティ・ホワイトというイギリス人だぞ。
と言いたかったが,猫だと思い込んでいる雪ノ下の前でそれを言うことは,サンタクロースは実はいませんという子供の夢を壊すがごとき行為と悟り,黙っておくことにした。
決して『ヒッキーってそんなにキティちゃんに詳しいんだ,まじきもい』と言わて,国東半島の石仏に頭をぶつけて死にそうになるからではないぞ。
海老名さんも三浦たちとハーモニーランドで合流することになっているらしい。
場所の選択がゆきのんメモを参考にしているのだから当然選択の範囲は同一にならざるを得ず,ディスティニーランドのおしゃまキャットのメリーちゃんが好きだという三浦がここを選ぶのは想像に難くない。
せっかく戸部の依頼から離れられると思ったのだが,そうは問屋が卸してくれないようだ。
まあ奉仕部と葉山グループの両方に属している由比ヶ浜の立場を考えればこれがベストだったかもしれないが。
「八幡たちも来たんだね!」
ハーモニーランドで俺を真っ先に出迎えたのは,キティちゃんでもマイメロちゃんでもなく戸塚の笑顔だった。
「戸塚ぁ!」
守りたい,この笑顔。もうサンリオキャラクター・サイカちゃんができてもいいんじゃないかなあ。見てみたい。サイカちゃんのパレード。
「あんたたち,朝早くから出かけてたんだね」
「おう。かわ……川島も来たのか」
「いい加減ぶつよ」
「勘弁してください。500円でお願いします」
「なんであたしがカツアゲしたみたいになってるんだよ……それに500円って……」
「いや,お前がこういうところに来るイメージ無かったからな。金額が足りないならあと100円ならあるぞ」
「だからカツアゲじゃないっての。戸塚に誘われてさ。ショーとかパレードの写真見せたらけーちゃんも喜びそうだしね」
見た目はヤンキーだが,本当は真面目で家族想いな川崎らしい理由だった。それにしても戸塚に誘われるとか羨ましすぎる!
「海老名さん,ヒキタニくんたちと一緒だったん?起きたらもういなくなっててビックリしたっしょ!」
戸部が海老名さんを見つけて分かりやすくテンションを上げていた。
「ごめんごめん。男子同士の営みを邪魔したくなくてさー。結衣たちとは偶然駅で会ってね,行き先が同じだったから一緒に行動してたんだー」
「海老名来たん?結衣も一緒ジャン。それなら一緒に回ればよくない?」
「あ,あはは。優美子ごめん。今日は奉仕部で一緒に行動しようと決めたから……」
三浦が由比ヶ浜の顔をじっと見つめて,
「ふうん。なら別にいいけど」
あの三浦の誘いに対して恐縮しながらもはっきりと断った由比ヶ浜。三浦もあいまいな態度を取ろうものなら怒り出しただろうが,こう見えて三浦はちゃんと人を見ている。だが,このままだと由比ヶ浜の方に後ろめたさみたいなものが残ってしまうだろう。
「あー、由比ヶ浜」
「ヒッキー」
「別にいいんじゃねえの?一緒に回れば」
「はあ?あんた結衣がさ,どういう想いで今あーしの誘いを断ったか分かってるん?」
さすが女王様の迫力!うっかりチビリそうになるすんでのところでところで踏みとどまった。
「だから,奉仕部とお前たちのグループみんな一緒に回ればWin-Winなリレーションでナイスなパートナーシップを築けるんじゃないか?」
「何言ってんか分かんなくてちょっとキモイけど,ヒキオなかなか冴えてんじゃん」
お,おう。今,俺,褒められたんだよな?
「でも,ゆきのん大丈夫かな……」
「気にすることはないわ,由比ヶ浜さん。私は他に誰がいようと由比ヶ浜さんが一緒なら……」
「ゆきのーん!」
デレた雪ノ下,いわゆる「でれのん」に由比ヶ浜が全身で飛び込んでいった。
「ゆ,由比ヶ浜さん、ちょっと苦しい」
「ヒッキーもありがとね。うれしかった」
「ばっか,俺は別にお前のためとかじゃなくて,それが合理的で効率がいいからだな」
「はいはい。じゃあみんなでいこー!」
由比ヶ浜が雪ノ下と俺と腕を組んで歩き出した。
まずは11時から11時半までプラザステージのショーを見て11時半からレストランで昼食,12時半からのパレードに備える。
レストランで俺の向かいに座る雪ノ下が頼んだのはハローキティの栄養バランスカレー、その隣の由比ヶ浜はポムポムプリンのハッシュドビーフライス、俺はぐでたまのステーキ丼にした。キャラクターメニューなんて、とも思ったが、ステーキの上に乗ったぐでたまの目玉焼きになぜか親近感を覚えてしまい、つい頼んでしまった。こいつの顔を見ると働きたくなくなるなあ。あ、いつものことでした。テヘッ☆
あっちのグループは、三浦と葉山、戸部と海老名さん、そして大和と大岡、戸塚,川崎に分かれようとしている。
どうせ大和か大岡が考えたんだろうが、これは下策だ。
葉山と二人になる三浦はまんざらでもないだろうが、戸部と海老名さんを二人きりにしたところで話が弾むわけではなし、かえって気まずい空気になるだけだ。ディスティニーに行ったカップルが別れるという話と同じだな。
そして大岡や大和が戸塚と食事するなんて許されていいはずがない!たとえ全ての人類がそれを許したとしても、名もなき神である俺が絶対に許さない!
あっ、葉山が声をかけてみんな一緒のテーブルになるみたいだ。三浦は不満そうだが、それがベストの選択だ。
とりあえず、大和と大岡は俺の絶対許さないノート入りを逃れたことを喜ぶがいい。
まあ、みんな仲良くが信条の葉山らしいといえば葉山らしいのだが、この旅行中、戸部と海老名さんをできるだけ二人きりにしないようにしているようにも見える。
あいつは……
「葉山くんは海老名さんから告白を阻止して欲しいと頼まれたのかもしれないわね」
雪ノ下が葉山グループの方をちらりと観てサラッと言い放った。
「えーどうしてー?なんで姫菜がそんな……」
由比ヶ浜が戸惑い気味に雪ノ下に尋ねた。
「由比ヶ浜さんは彼女と同じグループだから言いづらいのだけれど、海老名さんが戸部くんのことを悪く思っているかどうかは別にして、必ずしも好意的には思っていないのはこれまでの彼女の様子を見ていれば明らかだわ」
「それでもグループの中でカップルができたら素敵だなあって」
「じゃあ由比ヶ浜、お前、大岡から告白されたらOKしてカップルになるか?」
「ヒッキー!なんでそんな酷いことを言うの!」
酷いのはお前だ、由比ヶ浜。大岡に失礼だろ。ま、この例を持ち出した俺も大概だが。
「由比ヶ浜さん、それはあなたがさっき言ったことと矛盾してるわ。グループ内でカップルができたら素敵なんでしょう?」
「それは……」
由比ヶ浜は俺の方をチラチラ観ながら言いよどむ。
「もし大岡くんがあなたに告白することを事前に知ったとして、あなたならどうする?」
「とりあえず、隼人くんに相談するかな……」
由比ヶ浜はそう言った後、ハッとして雪ノ下の顔を見た。
「そう……彼はたぶん知っている。海老名さんが告白されたくないことを」
「じゃあなんで隼人くんはとべっちと奉仕部に……」
「海老名さんから相談を受けたのが戸部くんよりも後だったのかもしれないし、奉仕部に断ってもらえることを期待したのかもしれない」
「じゃあ、じゃあ、ゆきのんが昨夜とべっちの依頼をやめようって言ったのは、それが分かったから?奉仕部で思い出を作ろうって嘘だったの?」
由比ヶ浜の目にみるみる涙が溜まっていく。
「いえ、それは嘘ではないわ。本当の気持ちよ」
「だって、結衣って呼んでくれたの、あの時だけだし……」
「それは……恥ずかし……かったから……ごめんなさい、あなたを不安にさせて……結衣」
「ゆきのん!」
由比ヶ浜が雪ノ下に抱きついた。
おい、ここはレストランなんだけど。葉山グループの面々もいったい何が起きたのかとこっちに注目してるし。そんな中食べたステーキ丼はまったく味がしなかった、なんてこともなくただただ美味しかったです。はい。
ゆるゆりとした食事を済ませた俺たちは、野外でのパレードを見て、数々のショーやサンリオピューロランドにはないジェットコースターや大観覧車などのアトラクションを堪能した。
観覧車には戸塚と二人きりで乗りたかったのだが、結局奉仕部の3人で乗ることになり、海老名さんは川崎と戸塚の3人で乗っていたようだ。
あっちに乗りたかったとは口が裂けても言えないが……
だってこっちは狭いゴンドラの片側に三人で座ろうとして,傾くは揺れるは柔らかいはなにやらエライことになってたしな。
下で見ていた大岡からは,3(ピー)か!?3(ピー)なのか!?とずいぶん詰め寄られるし……(一部ピー音を入れてお伝えしております)
そんなこんなでハーモニーランドを大いに楽しんだ俺たちは、ポムポムプリンやキキララ(正しくはリトルツインシスターズな)に見送られながらバスで暘谷駅に向かい、そこから電車で今日の宿泊地である別府を目指した。
ちなみに暘谷駅のあたりは城下かれいという高級なカレイが有名であるらしい。初夏から8月にかけてが旬らしく今は季節外れではある。
他にも関アジ,関サバ,冬はふぐと大分の海は美味しいものがたくさんあるけれど,修学旅行でそんなの食えないよね(涙)