まちがいだらけの修学旅行。   作:さわらのーふ

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はい、またお会いしました。
えっと、基本笑かしでやってるんですが、なんともうまくいきません。
そして、番外編は一話完結が理想なんですけど、また長くなってしまいました……。
せめて3話で終わって欲しかった……。
(まあ、Ⅰ,Ⅱ,Ⅲとか番号付けてる時点で怪しいんですが)


千葉最大の侵略〜花も嵐も踏み倒せ!番外編 YUI☆捨てられた仔犬のように Ⅲ

「……由比ヶ浜、おい、由比ヶ浜」

 ん……あれ? ヒッキーの声……。

 

「終点まで来ちまったぞ。起きてくれ」

 あれれ、 あたし、本当に寝ちゃってた!?

 

「ご、ごめん、ヒッキー……」

「いやまあ気にするな。こういうパターン、初めてでも無いしな」

 しょんぼりするあたしをヒッキーが慰めてくれてるんだけど、初めてじゃないって何のことだろう?

 

「どうするんだ? どこまで戻る?」

 本当は西船橋あたりで乗り換えたかったんだけどなー。でもここまで来たら仕方ないよね。

 

「えと、こっちかな?」

 ヒッキーの手を引いてケイヨウストリートと呼ばれる通路へと歩き始める。

 

「お、おい、手は繋がなくても……」

「ダメ! 人も多いし迷子になっちゃうから……あたしが」

「お前がかよ!」

 本当は東京駅での京葉線からの乗り換えは距離が長くて嫌なんだけど、こうしてヒッキーと手をつなげるんなら却って長い距離のほうが嬉しいよね。

 

 なんか気がつけばあっという間に京浜東北線と山手線のホームに着いちゃった。

 

「今回は地下鉄じゃねーんだな」

「今回って、ヒッキーは前にも来たことがあるの?」

「んんっ!? 前にも来たというか、お、俺も前に寝過ごしてな。そん時は地下鉄で池袋に行ったんだ」

「……それって、姫菜と?」

「違う違う! あいつとじゃないぞ」

「あいつとじゃない? じゃあ……」

「そっ、それよりどこへ向かってるんだ? そろそろ教えてくれてもいいだろう?」

 なんかはぐらかされたような気もするけど、まいっか。

 

「えと、ここから二駅行ったところ」

「二駅って言うと……」

 


 

「あーきはーばらー!!」

 

 秋葉原駅の電気街口を出たら、突然ヒッキーが叫び出したんだけど……。

 

「……すまん。忘れてくれ」

「え? うん、今のはゆきのんには黙っておいてあげる」

「恩に切る」

 一瞬ヒッキーがおかしくなったのかと思ったけど、とりあえず正気に戻ってくれたみたいでよかった。

 

「で、どこまで行くんだ?」

「ここだよ! ここのカラオケ屋さん!!」

 あたしは再びヒッキーの手を引いてカラオケ店の扉をくぐった。

 

 南国リゾート風の部屋に通されて、ヒッキーが先に座ったのをみてあたしはその隣に座りこむ。

「おい、席はあるんだからわざわざ隣りに座らなくても……」

「えー、ほらデュエットとかするかもだし、友達同士でカラオケ行ったら隣に座るのは常識だよ」

「そ、そんなもんなのか? すまん、カラオケはいつも一人でしか行かないから……」

「あ、うん……なんかこっちこそごめん……」

 なんか少し気まずい雰囲気になっちゃったけど……。

「ドリンクとハニトー頼まなきゃ、ね?」

「あ、ああ、そうだな。このメニューを見ればいいんだな。こっちの電話で頼むのか?」

「ううん、このリモコンで頼めるんだよ?」

「おお! それは人との会話が苦手なぼっちにも優しい仕様だな!」

「あ、うん……」

 ヒッキーは最後までマックスコーヒーを探してたみたいだけど、メニューに無いのをみて残念そうにカフェオレを選ぶ。あたしはオレンジジュース、そして念願のハニトーも頼んだ。

 

「これで入力完了、と」

「それじゃ歌おっか」

「おう。で、どっちが先に歌う?」

「ヒッキーがが決めていいよ?」

「そうか? どっちがいいかなー。ハニトー作るのに時間がかかりそうだから、1曲目で早々に歌ったほうがいいか? それとももっと時間がかかって3曲目になるとすると、先は譲って2曲目に歌った方が……うーむ」

「ヒッキー、なに悩んでるの?」

「いや、俺がプリキュアとか歌ってて店員がハニトーを持って入ってきたりしたら気まずいだろうが。だから順番を考えてるんだよ」

「いや、店員さんが来るまではもっと無難な歌にしたほうがいいと思うんだけど……」

「プリキュアじゃなくても、歌の途中で入ってこられるとぼっちには気まずいんだよ。まあ、今悩んだところで少し時間が経ったから、ハニトーが来るのは2曲目だな。よし、俺が先に歌わせてもらうぞ!」

 

 そうしてヒッキー曰く深夜アニメの主題歌?をタブレット端末で入れて歌い始めた。

 聞いたことない曲だったけど、ヒッキー何気に声がいいし歌も上手なんだよねー。

 あたしがうっとりと聞き惚れていると、

「お待たせしましたー! 先にドリンクのアイスのカフェオレとオレンジジュースをお持ちしました〜」

「あ、はい……」

 

 ヒッキー気まずそう……。

 

 ちなみに、ハニトーは3番目にヒッキーが歌ってる時に届きました。

 


 

「じゃあ食べよっか!」

 去年の文化祭から長がったけど、ようやくヒッキーと約束したハニトーが食べられる!

 あたしがハニトーを切り分けようとナイフとフォークを握ったら、ヒッキーがカバンからゴソゴソと綺麗な包装紙の小さな包みを取り出して、あたしの目の前に差し出した。

 

「ヒッキー、これって……」

「いや……さっきは部室でなんか変なことになっちまったからな」

「プレゼント?」

「まあ、その……なんだ、誕生日おめでとう」

 ヒッキーは照れくさそうに頭をかきながらそう言った。

 

「あ、あの……ありがとう。すごくうれしい……」

 少し涙声になりながらヒッキーのくれたプレゼントを胸にしっかりと抱いて、歓びを噛みしめる。

 

「ねえ、開けていい?」

「ああ、そうだな。ちょっと恥ずかしいけど……」

 ちょっと横を向いて赤い顔のヒッキー、ちょっと可愛い。

 あたしは包み紙を丁寧に開けて中のプレゼントを取り出した。

 

「首輪? またサブレの?」

 去年の誕生日にもサブレの首輪を貰ったけど、勘違いして自分の首に付けちゃったんだよね。あれは恥ずかしかったな。

 

「違う違う! これはお前のだから!!」

「あたしの……首輪?」 

 あたしが首を傾げていたら、

「なんでお前の首輪なんだよ! チョーカー、チョーカーだ」

 そっ、そうだよね。あたしの首輪だったら、ヒッキーが飼い主……って、それも悪くないかも。でへへ……。

 

「去年、その、サブローの首輪をあげた時、お前、自分で付けてただろ? あまりに嬉しそうだったから、なんか違ってて悪かったかなと思って。俺ひとりで選んだからどういうのがいいか分からなくて、気に入らなかったらすまん」

「そんなことない! そんなことないよ。ヒッキーが選んでくれたんもん。気に入らないなんてこと絶対にないから!それとサブレだし!!」

 そう言うとあたしたちは自然と笑い合った。

 二人でこんな誕生日を迎えられるなんて思わなかったよ。

 ヒッキーから貰ったのはリボンのチャームの付いた黒のチョーカー。

 

「これ、すごく綺麗だけど、高かったんじゃない?」

「まあ、それなりにはするけど、今バイトしてるから。一年前の俺ならバイトしたお金で女子にプレゼント買うなんて思いもしなかっただろうけどな」

 あたしはそのチョーカーのバックルを外し、自分の首に着けようとして途中で手を止めた。

 

「ねえヒッキー、これ、付けてくれない?」

「あ……はっ?」

「せっかくだからヒッキーに付けてもらいたいなーなんて……だめ?」

 あたしが少し上目遣いでそう言うと、ヒッキーは、むむむ……なんて唸り声をあげてる。

 ちょっとずるいかもだけど、こういう風にお願いをするとヒッキーがあれこれ文句を言いながらも断れないのは知ってる。

 最後はハァとため息をつきながら、

「ほら、貸せ」

と右手を差し出してきた。

 あたしは、「うん!」と明るく返事をして、貰ったばかりのチョーカーをヒッキーに渡し、両手で髪の毛を持ち上げ、上向き加減で首を露わにした。

 

「こ、こういうのやったことないから知らんけど、普通後ろから付けるんじゃねえのか?」

「いいの、これで。 ね? 早く、お願い」

 なおも何かブツブツ言ってるけど、あたしの真ん前に立ったヒッキーは、恐る恐るチョーカーをあたしの首にあてている。

 首に触れるチョーカーが少しこそばゆい。

 あたしは目を瞑っていたけれど、吐息がかかるほど近い距離にヒッキーを感じる。

 このカラオケボックスの中にはヒッキーとあたしの二人だけ。

 そしてチョーカーが首に巻く手が離れようとした刹那、あたしは思わず体ごとヒッキーの胸に飛び込んでいた。

 

「ヒッキー!」

 

「おっ、おい!」

 突然のことに慌てたヒッキーは、戸惑ったような声を上げる。

 

「好き、 好きなの! ヒッキーのことが大好き!!」

 瞳からは自然に涙が零れる。

「ずっと、ずっと前から……」

「由比ヶ浜……」

 ヒッキーも両手をあたしの背中に回し、そのまま優しく抱きしめてくれていた。

 

「ありがとう、由比ヶ浜……お前の気持ちはすごく嬉しい。俺もお前のことは嫌いじゃない。どちらかと言えば、好き……なんだろうな……でも……すまん……」

 ヒッキーの答えは、分かっていたよ。だけど……。

 

「姫菜が、姫菜がいるから?」

「……」

 あたしの問いに、ヒッキーは酷く辛そうな顔をした……。

 

「あたしね……昨日、優美子と姫菜に誕生日のお祝いをしてもらったんだ。その時……」

 昨日のことを思い出し、わずかの沈黙。そして、

 

「姫菜を……引っ叩いたの……思い切り……」

 と言った。

 ヒッキーは何も言わなかった。

 


 

「姫菜に聞いたんだ。いつから、どうしてって。前に部室で聞きかけたけど、ゆきのんが姫菜に平手打ちしてそのままになってたから。そしたらね、言ったの。元々は、とべっちの告白を止めるためだった、それをヒッキーに依頼をしたってこと」

 それを聞いて最初に怒ったのは優美子だった。

 

「なんであーしに先に言わないん? あーしら友達じゃん!」

「友達、だからだよ。友達だから、優美子が大切にしているグループを壊してしまうなんて言えなかったの」

「そんな……」

「グループが壊れても優美子には隼人君がいた。結衣には奉仕部がある。でも私には誰も……何も……」

「あーし! あーしがいるっしょ?」

「私がグループを壊すんだよ? どの面下げて優美子のそばにいられるって言うの?」

「それは……」

「だからね、私はヒキタニ君にキスをした。そうしたら彼が止めてくれると思ったから。もしだめでも彼に私の居場所になってもらおうと思ったから」

「ヒキオを利用した、と?」

「そう、だね。ヒキタニ君を利用した……そう言われても仕方ないね。だけど……」

 

 その時、あたしは気持ちを抑えることができなくなった。前に、ゆきのんがそうだったように……。

 

 ヒッキーを利用した? 告白を止めたい? そんなことのためにあたしとゆきのんからヒッキーを奪った?

 優美子に止められなければあたしはもっと姫菜を叩いていたかもしれない。

 それほど姫菜が、憎かった。

 

 

「どうして……どうして姫菜なの?」

 

 無言のヒッキーがどんな顔をしてるのか分からなかったけど、あたしは続けた。

 

「姫菜と今までほとんど接点も無かったよね? 姫菜は、キスすればヒッキーが責任を感じて嫌と言えないの分かっててやったんだ……ずるい! そんなのずるいよ!!」

 その時、ヒッキーはあたしの肩を掴んで体を離し、あたしの目をじっと見つめながら言ったんだ。

 

「由比ヶ浜、それは違うぞ。俺は海老名さん……姫菜からキスされて、それだけで好きになったんじゃない」

「じゃあなんで……」

「あいつ、姫菜が、俺を必要としてくれたから……」

「あ、あたしだってヒッキーは必要だよ! それこそずっとずっと前から……」

 

「……初めてだったんだよ。小町以外で俺が、この俺が必要なんだってはっきりと言われたのは」

 その時のヒッキーは、目を瞑りその情景を思い出すようにしていた。

 

「あいつが自分の思い出したくない過去を俺に晒けだして……その上で俺を選び気持ちを形にしてくれたから……」

 

 姫菜の過去……そう言えば優美子が昔、姫菜に男の子を紹介しようとして断られた、なんかそういうの嫌いなんだと思うって言ってたけど、詳しい理由は聞いたことなかったな……。

 グループの中はそんな雰囲気じゃなくて、姫菜もそのことにあえて触れなかったし。

 

 だけどヒッキーには話した……。

 

「でも……でも……まだヒッキーと姫菜は付き合ってはいないんだよね?」

「……ああ。俺の気持ちを整理して、きちんと向き合いたいんだ。姫菜にも、こんな俺のことを好きだと言ってくれたみんなにも」

 

 ふたりがまだ付き合ってないんなら……。

 

「ヒッキーの心、まだ揺れてるんだよね?」

「いや、もう俺の心は……」

 

 ヒッキーの答えには関係なく、あたしの気持ちは決まっていた。

 

 ソファから立ち上がり、入り口の脇にあるスイッチで部屋の明かりを落とす。

 

「あたしだって、気持ち、形で表すこと、できるよ……」

 ヒッキーを方へ振り返り、制服の赤いリボンをシュルリ、と解く。

 続いて黙ったままブラウスのボタンをプチ、プチ、と上から一つずつ外していく。

 

「おっ、おまっ、何を……」

 ヒッキー慌ててる……。

 それでも私の手は止まらない。止められない。

 

 すべてのボタンが外されると、少し開いたブラウスの間から、あたしのお腹がチラリと覗く。

 

 今度はスカートのファスナーを摘んで、それをゆっくりと引き下ろした。

 そして一瞬躊躇したけど、んっ、と言う声をあげスカートのホックも外す。

 手を離したスカートは、ちょっとだけおしりの膨らみに引っ掛かりながら、ストンと音を立てて床に落ちた。

 暗くて静かな部屋には、隣の部屋から漏れるカラオケの音がわずかに響く。

 

「分かった、由比ヶ浜、お前の気持ちは十分分かったから、もう……」

 あたしは構わずブラウスに手をかけ、左肩、右肩を露わにし、最後はバサッという音とともに後ろに脱ぎ捨てた。

 今あたしが着けているのは、下着と靴下、そしてヒッキーにもらったチョーカーだけだ。

 こんなことなら、もっと可愛い下着にすればよかった……。

 

「ヒッキー……どう、かな……」

「あ……ああ、綺麗だ……」

 お互いが互いを直視できなくて目を逸らしあっているけれど、でも綺麗って言ってくれた……。

 

「あたしを、あたしを選んでくれるよね?」

 あたしは期待を込めた瞳でヒッキーを見る。でも……。

 

「いや……だからそれはできない……」

 ヒッキーは目を逸らしたまま、小さな声で返す。

 

「やっばり、姫菜を選ぶんだね……」

「……」

「あたし、ゆきのんなら仕方ないと思った。 ヒッキーが選んだのがあたしじゃなくてもゆきのんだったら……」

「姫菜だって友達だろ? どうして雪ノ下ならよくてあいつはだめなんだ?」

「それは……」

 それは―

 

「嘘が服を着て歩いているような俺が言っても何の説得力もないけどな」

 そんな前置きをしてヒッキーは言った。

 

「由比ヶ浜……嘘はだめだ」

 嘘? それってどういうこと?

「非難してるわけじゃないんだ。でもな、お前は仮に俺が選んだのが雪ノ下だったとしても納得はできなかった」

「そんなことないよ! ゆきのんなら、ゆきのんだったら……」

 そうだよ、ゆきのんなら……もちろん、ゆきのんにだって負けたくはないけど、ゆきのんになら負けても仕方ないと思ったし、素直にお祝いできた……。

 

 本当に……?

 

「由比ヶ浜……」

 さっきまで目を逸していたのに、今はいつにない真剣な目であたしを見つめている。

 

「お前に嘘は似合わない」

「……」

「こんなの俺のわがままでしかないが、お前にはついて欲しくないんだ。自分への嘘を」

 あたしが……自分に……嘘?

 

「あたし、嘘なんて……」

「一年以上もお前のこと見続けてきたんだ。『人間観察』を百八の特技にする俺なら、お前のことは分かってるつもりだ。ボッチ舐めんなよ」

「ヒッキー、もうボッチじゃないじゃん! ゆきのんだって、いろはちゃんだって、それに……あたしだって……」

「あ、ああ、そうだな、そうだよな」

「でも……あたしのこと、ちゃんと見ててくれてたんだ。ありがとね」

 指で目に浮かんだ涙をすくいながらそう言うと、ようやくあたしの姿を思い出したのか、再び目を逸らしつつさっと後退りした。

 

「べ、別に嘘を責めているわけじゃないぞ。お前が……その……俺を好きになってくれたことは正直嬉しい。でもな……」

 

 

「ヒッキーがあたしのことをずっと見てくれていたと言うなら……もっと……見て、欲しいな……」

 

「は?」

 

「あたしの……すべてを見て……そして……シよ?」

 

「おっ、おまっ、何を……」

 焦るヒッキーに構わず、あたしは背中に手を回す。

 ブラのホックを外そうとするんだけど、手が震えて上手く外せない。

 

「や、やめろ。それじゃまるでビッチみたい……」

「ビッチって、何よ……あたしはまだ処———処女……だよ?」

「おっ、おう……」

 ようやくブラが外れ、でも、まだ少し恥ずかしくて片手で胸を隠している。

 そして、膝を曲げて片足を上げ、残った方の手でショーツを引き抜いて……。

 

 その時、不意にあたしは正面からヒッキーに抱きしめられた。

 ギュッと、強く。

 片足を上げていたから少しバランスを崩して完全にヒッキーに身体を預ける形になる。

 

 ヒッキーも我慢できなくなったんだね。

 ああ、あたしはここでヒッキーに初めてを……。

 

 でもヒッキーの口から出た言葉は、あたしへの愛の言葉じゃなかった……。

 

 

「やめろ! やめてくれ……由比ヶ浜……」

 

「どうして? さっき言ったじゃん……嘘はつくなって……だからあたしは……」

「だからって、こんなのは駄目だ……」

「いいの、 ヒッキーが姫菜のことを好きでも……今日だけ、今日だけでいいから……明日になったら全部忘れるから……」

 やっぱりあたしは嘘つきだ……自分にも……ヒッキーにも……。

 もしここでシちゃったら、ヒッキーは責任を感じてあたしを捨てたりしないだろう……。

 それが分かってこんなふうに迫ってるあたしは、やっぱりズルい女の子だ……。

 それでも……。

 

「頼む…… 俺は……俺は……お前を嫌いになりたくない。だから……」

「あたしはっ! あたしは、嫌われてもいいから! 嫌われてもいいから、ヒッキーが欲しいのっ!!」

 いつの間にかあたしは泣いていた。涙がとめどなく流れた。

 

 身体はくっついていても、ふたりの距離は果てしなく遠く感じた。

 

 その時、部屋の扉が強めにノックされ、お互いの姿が見えない程度に少しだけ扉が開く。

 身体がピクンと震える。

 

「お客様、当店でのそのような行為はご遠慮いただきたく……今なら、う……わたくしの胸の内で収めておきますが、これ以上は店長にも報告し、学校やご家族へも連絡がいくことになるかと思いますので……」

 

 外から聞こえた女の店員さんの声に冷や水をぶっかけられたように冷静になり、今の自分の姿を思うとすごく恥ずかしくて。

 ヒッキーは扉に背中を向けながら裸のあたしをかばって見えないようにして、

「す、すみません! つい、気分が盛り上がっちゃって……すぐに片付けるので扉、閉めてもらえませんか?」

 と店員さんにお願いしてくれた。

 

「……分かりました。それではよろしくお願いいたします」

 

 ガチャリと扉が閉まる音がして店員さんがいなくなったのを確認すると、今度はあたしに背中を向け、

「ほら、今のうちに早く服を着ろ」

 と言った

  あたしもヒッキーに背を向けて、無言で床に落とした下着とブラウス、スカートを拾い、それらを身に付けていく。

 

「ごめん、ヒッキー。もういいよ……」

 そう告げられたヒッキーは、恐る恐る振り返ってあたしがちゃんと服を着てるのを見て、ようやくホッとした表情を見せた。

 

「もういこっか……」

 あたしはいたたまれなくてすぐにでも店を出たかったんだけど、

 

「まだ、ハニトー、食べてないだろ?」

 テーブルの上に置かれたハニトーを見てヒッキーが言った。

 

「これを食べに来たんだもんな」

「そう……だね」

 あたしたちは再びソファーに座りなおし、ヒッキーは今までのことが何もなかったかのようにナイフでハニトーを切り分けていく。

 上に乗ったアイスクリームはとっくに溶けて食パンに染み込んでしまっていたけど。

 

 その後、二人とも無言でハニトーを食べた。

 

 ヒッキーとのはじまりになるはずだった甘い甘いハニトーは、今は二人の終わりを告げるしょっぱい味がした……。

 

 

 

 帰りの電車の中でもあたしたちに言葉は無かった。

 途中、快速に乗り換えることなく秋葉原駅で乗った黄色い電車にそのまま乗り続けたのは、どちらもそのことを言い出せなかったからなんだろう。

 

 それは長い時間だったような、短い時間だったような……気づけば行きと同じようにあたしは眠りについていた。

 ただ、行きと違ったのは、あたしが目を覚ました時ヒッキーもまたあたしにもたれかかって眠っていたことだった。

 意外とまつ毛長いなーなんてヒッキーの寝顔を見て思う。今までならすごく嬉しかったんだろうけど、ヒッキーともこれで最後なんだと思ったら、また少し涙が滲んできた……。

 

「ヒッキー、起きて」

 まだ気まずさはあったけど、ヒッキーの最寄駅が近づいたので仕方なく声をかける。

 

「ん……由比ヶ浜……?」

「もうすぐ幕張本郷だよ。ヒッキー降りるでしょ?」

「あ、寝ちまってたか……お前、京葉線だよな? すまん。俺なんかほっといて乗り換えてくれればよかったのに」

「ううん、あたしも寝ちゃってたし、それに稲毛で降りてバスに乗るから大丈夫だよ」

「そうか」

 これ以上一緒にいたらまた泣いてしまいそうで、ヒッキーから早く離れたいという気持ちと、やっぱりまだ離れたくない、一緒にいたいという気持ちがごちゃ混ぜになって、あたしの心はひどく乱れていた。

 それでも、あたしの気持なんかにお構いなく、二人を乗せた黄色い電車はホームへと滑り込んでいく。

 

 引き止める?

 それてもあたしもここで降りる?

 

 そんなことしたってどうにもならないよ。

 だって、あたしは拒絶されたんだから……。

 

 電車のドアが開く。発車のメロディがホームに鳴り響いているけどヒッキーは座ったままだ。

 

「ヒッキー、降りなきゃ……」

「いや、もう遅いから、家まで送ってく」

「そんな……あたしは大丈夫だから……」

「俺が心配なんだよ。俺なんかと一緒は嫌だろうが、俺が安心したいから黙って送られてくれ」

 よく分かんないけど、あたしが気にしないように言ってくれてるんだよね?

 いつもの捻くれた言い方で、いつもの優しいヒッキー。

 その優しさが嬉しくて、辛い。

 

 あたしはただ頷き、あと少しの間だけヒッキーにもたれるように座っていた。

 

 稲毛で乗り換えたバスを降り、あたしたちは暗い道を二人で歩いている。

 

 ヒッキーと手を繋いで歩きたかった。

 でも、あたしにはすぐそこにあるその手が取れない。

 

 無言のまま、あたしの住むマンションのそばの公園に着いた。

 

「……ここで大丈夫だよ。ほんとすぐ近くだから」

「ん? ああ……」

「今日はありがとね。やっと、ハニトーの約束果たしてくれたし」

「いや、その……なんか期待に添えなくてすまん?」

「そこなんで疑問系? でもなんか思い出すね。去年の花火の夜もこうやって送ってきてくれたよね」

「そうだったな……」

 

 もし、あの時、あたしにほんの少しの勇気があれば……。

 もし、さがみんに対して堂々と恋人宣言していれば……。

 もし、ママの電話なんか構わずに、ヒッキーに告白できていれば……。

 

「近くだからって油断するんじゃないぞ。おうちに帰るまでが遠足だからな」

「遠足って何だし……ヒッキーこそ帰り気をつけてね」

「ああ、じゃあな」

 ヒッキーは軽く右手を挙げ、背中を丸めながら帰っていく。

 

 もし、あの時、去って行くヒッキーを追いかけて、抱きついてキスをしていたら……。

 もし、今……。

 

 結局、ヒッキーの背中が見えなくなるまで、ただ黙って見つめることしかできなかった。

 

 あたしはもう泣かなかった。

 

 さよなら、ヒッキー。

 

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