後編です……が、いつもの茶番屋台入れちゃうと1万字超えちゃうので(予想通り)続いてしまいました。
被害者の方々には心よりお詫び申し上げます。
「お前の服だって洗濯してるしパフェ作ったらまた戻ってくるんだから、そんなに慌てることはないだろ」
再びナイトガウンを羽織ってベッドに座るうちと比企谷。
うちは、ガウンの襟の部分をキュッと閉めて俯き加減でいた。
「だって……戻ってこないかも……しれないじゃない……」
「そんなこと……」
「うち……もう独りは嫌なの……文化祭の時だって、あんたが来てくんなきゃあの屋上でずっと独りだった」
「そんなことねえだろ? 遅かれ早かれ葉山が見つけてたはずだしな」
「ううん、あんたが見つけてくれたから、うちは葉山くんたちと行けたんだよ。だってとっくに閉会式の時間を過ぎてたんだから、怖くて体育館なんかに戻れるわけないじゃない」
そう、あんたの「演技」がなきゃうちは葉山くんについて行くことすらできなかった。
「体育祭の後、ゆっこと遙とも疎遠になって……そりゃ普通に話す友達はいたかもだけど、うちはずっと独りだった」
「それでも今は雪ノ下や由比ヶ浜と一緒にいるだろ? あいつらだって今のお前ならそんなに邪険にはしないと思うぞ」
「……あの二人は……だめ」
「なんでダメなんだよ。もしお前が何か疎外感を感じるようなことがあれば俺から何か言ってやっても……」
「ふふっ、あんたは優しいね。でもさ、あの二人の問題じゃないの。うちにその資格がないだけなんだよね」
そう、うちには二人に隠してることがある。
それをそのままにして仲良くなんてなれないんだ……。
「それってアレか? お前が陽乃さんのスパイだってことか?」
え?
「なんであんたがそれを!?」
「……やっぱりな」
え?え?どういうこと?
「確証はなかったんだがな……ずっと引っかかってたんだよ」
「……何が?」
「まずはお前が防衛軍に入ったってことだな。雪ノ下との関係を考えたらありえないからな」
「い、いや、あれは理念に賛同して……」
「それと、バレンタインデーのイベント。俺のコミュニティーセンターでの行動が海浜公園にいた電柱組メンバーに筒抜けだったこと。その時は、誰が伝えてるかは分からなかったが」
「じゃ、じゃあ……」
「そして昨日だ。千葉市内ならまだしも秋葉原で、しかもあんなシチュエーションで偶然その場に居合わせるなんていくらなんでもできすぎだ」
「それは……」
「決定的だったのは、俺がさっき『雪ノ下のねーちゃん』って言ったのに、お前、『陽乃さん』って返しただろ?あの文化祭でも『雪ノ下さんのお姉さん』と呼んでたお前が、だ。そんで、お前と陽乃さんの関係を考えてみたら、あり得る選択肢としてお前が陽乃さんに使われてるって結論が出たわけだ」
「そっか……じゃあ分かるでしょ? うちが雪ノ下さんたちと仲良くできない理由……陽乃さんからは雪ノ下さんや結衣ちゃん、地球防衛軍の活動も監視するように言われてんの。そんな秘密を持つうちが二人と仲良くするなんて……」
「いいだろ、別に」
「は? あんた何言ってんの?」
ほんと意味分かんない。うちにそんな資格あるわけ……。
「秘密なんてのはな、誰にだってあるんだよ。由比ヶ浜だってお前が見てなかったら昨日のことは誰にも知られなかっただろうし、雪ノ下も……ここだけの話、アイツ最近胸のパッドを……」
「ゆきのんどうしたの? 急に胸の辺りを押さえて震え出して」
「いえ、何か胸の辺りに不愉快な感覚が……早く比企谷君を見つけてとっちめてやらないと」
「今日日そんな言葉聞かないけどね!?」
「あんたなんでそんなこと知ってんのよ!? さすがにそれはちょっとキモいんだけど」
女子の胸パッド事情に詳しいとか、うちでなくてもドン引きだよ……。
「陽乃さんから聞いた」
あの姉、いったい何やってんのよ! しかもそれを妹の同級生の男子に話すとか、そっちの方がドン引きだったわ。
「まあ、そのくらいの諜報なんてお手のものなんだろ。だからな、あの人が本気でお前に防衛軍の情報を探らせる必要なんて本来はありえないんだよ」
「はぁ? じゃあなんで……」
「さあな、あの人の考えることなんて俺に分からるわけないだろ。ただ、雪ノ下の友だちが由比ヶ浜だけじゃ共依存になりかねないから、異分子であるお前をあの中に入れたとか、あるいは文化祭でちょっかいかけた罪滅ぼしにお前に居場所を作ってやろうとしたとか……」
「え、それ本当?」
「分からんって言っただろ? 関西の人間なら知らんけどって言葉じりにつけるレベル」
何よ! 無責任なこと言っちゃって。でも、本当にそうなのかな……。
「だからさ、そんな不確かなことはカッコに入れてどっかへ置いといて、今はお前がしたいことを考えて行動すればいいんだよ。結局、お前はあの二人と仲良くしたいの?したくないの?」
「したい!したいよ!! 」
そんなの分かりきってる。したくないわけがない。
「結衣ちゃんは元々友だちだったし、雪ノ下さんだってうちが文化祭であんな酷いことしたのに体育祭も手伝ってくれて、防衛軍に入っても色々と気にかけてくれて、美味しい紅茶を淹れてくれて……だけど……だけど!」
「だったら仲良くすりゃいいんだよ。 お前がそう思うなら、あの二人は拒んだりしない。俺と違って、本気の人間には正面から向き合えることのできる奴らだからな。知らんけど」
「……あの二人をずいぶん信頼してるんだね」
少しだけ二人に嫉妬しちゃうな。
「そりゃ、俺みたいなやつにもちゃんと向き合ってくれる二人だ。今のお前なら余裕なんじゃねえの」
やっぱりこいつはうちのことをちゃんと見ててくれる。以前も、そして今も。
「……そっか。ありがとね。月曜日、ちゃんと二人と話してみる」
「ああ、それがいい」
だから、うちは言わなければならないことがあるんだ。
「それでさ……比企谷」
「なんだ?」
「あの二人の前に、うち、あんたと仲良くしたい……」
「は? なんで?」
いや、そこまで意外そうな顔されるとうち、地味に傷つくんだけど……。
「だって、あんた今ここにいるじゃん。雪ノ下さんとか結衣ちゃんの前にまずはあんたでしょ?」
「それは、そうかもしれんが……俺がお前と仲良くするとか違和感しかねえぞ」
「そんなの、あんたと仲良くなんて誰でも違和感しかないわよ」
「おい、それが仲良くしたいって言ってる相手にいうセリフか?」
「だって、あんたとあの……腐女子とか……違和感しかないじゃん……」
「そう、か……」
「そうだよ。だからさ……」
だから、今こそ……。
「改めて言うね。比企谷……ほんとごめん……そしてありがとう……」
「なんか、素直な相模とか調子狂うな」
「ちょっと! それってどう言う意味よ!! でもさ、うちがあんたに酷いことをして、そしてうちがあんたに助けられたのも事実じゃん」
「そりゃそうかも知れんが……」
「だからうちが謝ってうちが感謝する、何も間違ってないでしょ?」
「間違ってはいない……な」
「こんなの今さらだし、あんたにとっては不快なだけかもしれないけどさ……それでも、このことをはっきりさせないままあんたと仲良くなんてできないと思ったのよ」
そう、これはうちの自己満足。
うちがうちを許すための儀式。
欺瞞。
こいつには全部お見通しなんだろうな。
それでも、嘘でもいいから、こいつの赦すって言葉が欲しいんだ。
でないと、うちは前に進めない。
いつまでもこいつに囚われて、うちは、こいつを……諦められない……。
「相模……」
続くこいつの言葉を、うちは小さく息を呑んで待つ。
「何言ってんだ、お前。バッカじゃねーの?」
「はあ!? あんたこそ何言ってんの?」
だめだよ、比企谷。そんな答えじゃ……。
「だからさ、別にお前を助けようとしてやったわけじゃねーし、俺がお前を罵倒したのも事実だろ? だからお前から謝罪も感謝ももらう義理なんかねえよ」
「でも、それでも……」
「あー、もうこの話はやめだ、やめ。そんな謝罪とか無くたってお前が俺と仲良くしたいって言うなら……その……別に何が何でも仲良くできないって思ってるわけじゃねえよ?」
「なんで疑問形!?」
回りくどい言い回ししながら頭をポリポリ掻いてるこいつ見てたら、なんか真剣に考えているのが馬鹿らしくなってきたわ。
「くっくっくっ、やっぱあんたは比企谷だわ」
「何だよそれ。俺は俺に決まってんだろ」
そしてこいつは少し目線を外しながら、うちにこう言ったんだ。
「だからよ、お前もお前のままでいいんだよ。相模南は相模南、それでいいだろ?」
ちょっと! こいつ、こんな顔してなんでこんなイケメンなこと言えんのよ!
まったくどこかのレベルゼロかと思っちゃったわよ!!
そっ、それゃよく見たらツラも悪いわけじゃないけどさ……どっちかって言えば目以外はイケメンの部類に入るんじゃないかなーって思うし、その目にしてもよく見たらなんかやさぐれ感がちょっと乙女心を刺激するっていうか……。
やばい、なんか顔、熱くなってきた。
いや、もうとっくに落ちてるんだけどさ。
「でも、それならこれからもあんたに嫌みったらしいこと言うかもしれないよ? またいざという時に逃げ出して迷惑かけるかもしれないんだよ?」
「お前の嫌みなんか雪ノ下の毒舌に比べたら屁でもねえよ。それにな、逃げちゃいけないなんて誰が決めたんだ? 俺なんかいつも逃げてばっかだぞ。まあ、平塚先生とか逃げ切れたことねえけどな」
「はあ!? だってあんた、あの時うちを屋上まで追っかけてきたじゃない! 逃げたうちを罵倒したじゃない!」
「そりゃすまなかった。けどな、別にお前が逃げたから罵倒したわけじゃないぞ。あの時は体育館に戻って欲しかったからな」
そっか……そうだね。それでうちも救われたんだ……。
「逃げて……いいの?」
「ああ、逃げなきゃならないなら逃げていいんだ。自分が救われるならそれでいい」
「何よそれ……うちの時だって、あんたが一番救われてないじゃない……」
「俺はいいんだよ。そういうやり方しかできないんだから。それに分かってくれるやつは分かってくれるだろ? 今のお前みたいによ」
も、もうーーーー! 陰キャのくせになんでそんなイケメンなセリフ言えんのよーーーー!!
こいつの言葉に見悶えしながら立ち上がったうちは、ベッドに座ったままの比企谷の前に立つ。
心臓の音がうるさすぎて次に言うべき言葉がうまく出てこない。
はっきり言って怖いよ。すぐにこの場から逃げ出したいよ。
でも、でも、今はダメ。怖くても言わなきゃいけないんだ。
意を決して、ナイトガウンの紐を解き、重ねた前を開いてパサリと床に落とす。
「ちょ、おま、何を!」
うちの全裸を前にうろたえる比企谷。ほんとはうちがうろたえたいんだけどっ!
「何よ、なんか文句ある?」
「文句じゃなくて、とにかく服を着ろ!」
「嫌よ。なんであんたに指図されなきゃならないの」
「ええーーー」
こいつは不服気な声をあげながら顔を背けているけれど、チラチラ覗き見てるのはこっちからは丸わかりなんだからね!
「ちょっと……何か言うことはないの? そりゃ、結衣ちゃんのからだ見た後ならうちのなんかショボく見えるかもしれないけどさ……」
「そ、そんなことはないぞ! お前だって十分魅力的で……」
「み、魅力的って……」
いつものうちなら、嫌味たらしい笑みを浮かべながら散々からかっていじり倒すところだけど、今fはうちももういっぱいいっぱいでそんな余裕ないからね?
「そう思うならさ……」
次の言葉をだす前に、すうっーと大きく息を吸う。
「うっ、うちと付き合って! うちの、初めてをもらって‼︎」
言い切った後は比企谷の顔をまともに見られなくてギュッと目を瞑り返事を待つ。
その一瞬が永遠にも続くかと思われた刹那、人の気配を感じそっと瞼を開いた。
「ひき……がや……?」
目の前に立った比企谷に抱きしめられる、と思った瞬間、床に落ちていたはずのナイトガウンがふわっと肩にかけられた。
「無理……すんな。お前震えてんじゃねえか」
「そんな、うち、震えてなんか……」
そうは言ったけど、こいつに言われて初めて気づいた。うち、震えてた。怖かった。
「その……お前から告白されたこと、意外だったし、正直嬉しかった」
「なら……」
「でもな、すまん。お前の気持ちには応えられない……」
「ど、どうして……」
そうは言ってみたけど答えは分かってた。
「俺は、もう……決めたから……」
そうか……こいつ、あの腐女子のこと、そんなにも……。
「あーあ。あんた後悔するよ、うちを振ったこと。嘘でもうんと言っとけば、うちのこの体を抱けたのに」
「そうかも知れねえな。失敗したかな」
心にも思っていない癖にそんなこと言わないでよ……。
「うち、ちょっと疲れたから少し休むね」
うちはベッドに入り、比企谷に背を向けて掛け布団にくるまる。
「あんた、うちを振ったんだからムラムラしたとしても襲わないでよ」
「善処する」
「……あと……ひとりは嫌だから……そこに……いてね」
「分かった……」
これでいい、これで……。
これでようやくこいつを忘れることができる。前に進むことができる……。
その……はずなのに……どうして涙が溢れるの?
どうしてこんなに胸が潰れそうなの?
「うぐっ、えぐっ……」
枕に顔を押し付けて声を押し殺す。
駄目だよ、比企谷に聞かれちゃうじゃん。
そう思っても涙も泣き声も止められない。
その時、布団越しに背中にそっと手が当てられていることを感じた。
やめてよ。これ以上優しくしないで。
そんな気持ちとはうらはらに、うちの心はすぅっーと落ち着いていった。
比企谷……。
う、うーん……。
窓から差し込む光にうちは目を覚ます。
あれ? 知らない天井……?
ここ、どこ?
寝ぼけ眼で回らない頭を何とか動かして昨日のことを思い出す。
あ、比企谷っ!
ガバッと身体を起こして振り向いてみたら、あいつは隣でスヤスヤという寝息を立てながら寝ていた。
……ずっと隣にいてくれたんだね。
そっとその髪に触れる。
目を瞑ったこいつは、ずいぶん可愛く見えた。
疲れてたんだな。うちが散々振り回したんだもんね。
ごめんね。
男の子と一緒に一夜を明かしたなんてなんか不思議な気分。
そう思ってゆっくりと比企谷の全身を見回すと……。
ん?
なんか一部分盛り上がってるところがあるんだけど……あれって……。
好奇心からちょっとだけ制服のスラックスの前を開く。
下着が露になるとますます膨らんでいるところがはっきりと分かる。
もうここまで来たら止められないよね? ねっ?
下着も少し下ろしてみると、ポロンと男の人の、その、アレがやっはろーした。
家のお風呂場で間違って入ってきた弟のものは目にしたことはあるけれど、こんな状態になったのは見た事ないし……。
比企谷は眠ったまま。
いっそこのまま、これをうちの中に……。
ううん、だめ。
これ以上、こいつを傷つけることなんてできない。
今までのうちとは違うんだ。
それに……いざ、目の前にしてみるとやっぱりちょっと怖い。
もしこいつとそういうことになるとしたら、やっぱり耳元でやさしい言葉とか囁かれながら……。
やだ、うちっちば乙女!
でもこいつだとなんかしっくりこないなー。
それとも、怯えるうちの気持なんか顧みないで荒々しく一気に……。
って、なんちゅう想像してんのよ、うち!
んもう! おかげでうちのうちが大変なことになっちゃってるじゃん!!
……もう、いいかな?
……もう、いいよね?
R-18タグ付いちゃうけど、仕方ないよね?
比企谷が悪いんだよ?
そんな無防備な顔で寝てるから。
そんな無邪気な顔で寝てるから。
もし比企谷が傷つくなら、うちも一緒に傷つくから……。
ごめんね。
ほんと、ごめ……んっ!
「あ、比企谷、起きた?」
「ん……相模? 俺……どうして……」
まだ寝ぼけて夢うつつって感じだね。
「何、比企谷、覚えてないの?」
「覚えてないのって、何のことだ?」
「ひどい……うち……初めてだったのに……」
「は!? 俺が、お前に???」
うちの泣き真似に、焦った顔の飛び起きた比企谷が布団を跳ね上げ、うちの肢体が露になる。
今度はうちが慌ててシーツを掴み、自分の身体に巻きつける。
「ちょっ、ちょっと! 比企谷、恥ずかしいから……それに、あんた、それ……」
うちが顔を背けて指差す先を追って、訝しげに視線を下に向けるアイツ。
ズボンもパンツも履いてない、ナマの比企谷がそこにあった。
「キャー! 相模さんのえっち!!」
「ちょっと! なんであんたが年がら年中1日3回以上風呂入ってる焼き芋好きのバイオリンヘタクソ少女みたいになってんのよ!」
「お、俺のこの姿……本当に俺がお前を……?」
両手で股間を隠しながら、震える声で尋ねる比企谷。
さすがにちょっと可哀想かな……。
今までのうちならもっとこんな姿を見たがったんだろうけどさ。
「冗談よ、冗談。あんたは何にもしてないでただ寝てただけよ」
そしてうちは小さく付け加える。
「あんたはさ……」
うちの呟きが聞こえたかどうか分からないが、こいつは変わらずうろたえ続けている。
「じゃあなんでこんな格好に……」
「さあ? 夜中に起きてトイレに行ったみたいだから、その時に脱いで履き忘れたんじゃない?」
「マジかー。今までそんなことあったかな……」
まあ、実際にはうちが脱がせちゃったんだけどね。
「別にいいじゃん。うちは全裸なんだから上を着てる分あんたの方がマシよ」
「いや、下半身だけ裸の方がなんか変態チックじゃない?」
「なんならそのままルパンダイブでもする?」
「しねえよ。それで、なんでお前はいつまでも全裸でシーツにくるまってるんだよ」
「だってうちの服も下着もあんたが持っていってそのままじゃない」
「あっ! すっ、すまん。洗濯に持っていってそのままだったわ」
「あー、どうしよー。もし着るもの無くなってたらうちはこのまま全裸でいなきゃー。どう責任取ってもらおうかなー」
「おい!棒読みで俺を追い詰めるのやめろ! 分かったよ、今すぐ取りに行ってくるから、その……」
「何よ」
「下を履きたいからちょっとの間、目を瞑っててくれない?」
「ああ、そんなこと。別に気にしないわよ。うちんとこ弟もいるし」
「俺が気にするんだよ! お前は弟の全裸をいつもガン見してんのかよ」
「そっ、そんなわけないでしょ! うちをなんだと思ってるのよ!?」
「だったら……」
「だって……比企谷のだから、見たいんだよ?」
「いや、ここでそんなデレいらないんだけど! ? 何なの? お前、俺のこと好きなの?」
「好きだけど?」
「は?」
「だから、あんたのことが好きだって言ってんの! 夕べ告白したじゃん、覚えてないの?」
「あ、いや、そうだったな。すまん」
すまんじゃないわよ、まったくもう! うちの覚悟……何だと思ってんの……。
「いや、ほんとに悪かった。だから……泣くな」
不意にまた、比企谷に抱きしめられて背中に手を回された。
え、嘘? うち、また泣いてた?
そんなキャラじゃないってのに……。
でもさ、今のシチュエーションって、全裸にシーツを巻きつけた女と下半身丸出しの男がベッドの上で抱き合ってんのよ。
嘘みたいだろ? これで何にもないんだぜ!?
週刊誌にすっぱ抜かれて何もありませんでしたなんて言っても周り中から袋叩きにされるやつだわ。
ま、こいつは泣いた子をあやすように抱きしめて背中をポンポンしてるだけなんだけど。
妹が泣いた時とかこうやってあやしてたんだろうな。
でね、両手でうちを抱きしめてるから、さっきまで隠してたハチマンくんが丸見えなのよ。
今はあの時と違ってずいぶん可愛いお姿だけどさ。
そんなこと考えてたらちょっと可笑しくなっちゃって、でも声を出さないように下を向いたまま肩を震わせてたのね。
「たっ、頼むから泣き止んでくれ、なっ」
少し焦りながら背中をさする比企谷。
ああ、もう我慢できない……。
「ぷっ、ふひひひひひ。ダメだー! これ以上はダメーっ!」
うちは満面の笑顔で比企谷に抱きついた。
「比企谷、好きっ! あんたがうちのことを好きじゃなくても、うちはあんたが好きだから!」
「おっ、おいっ!」
比企谷は夏服のシャツ、うちは薄いシーツ一枚。
うちはこいつにその感触が伝わるよう、柔らかい胸をギュッと押し付ける。
これでも少しはあるんだからねっ。
あ、ハチマンくん、少し元気になった……。