えーと、なんでこうなった?
パクリの次はこの迷走。
そして前回、初めに謝っておきますと言いながら全く謝ってなかったことに気づきました。
ほんとごめん。
「ただいまーって……これどうなってるの?」
僕たちのところへ現れたのは、この場所を貸してくれた雪ノ下さんのお姉さんだった。
「あ、陽乃さん、あの、戸塚君が女で、そのことで泣いちゃって、それを八幡くんが慰めてて……」
僕はまだ泣いてて声にすることができなかったし八幡は僕を慰めてくれていたから、海老名さんが代わりにこの状況について説明してくれていた。
「あちゃー、バレちゃったかー」
「バレたって……あんた、戸塚が女だって知ってたのか?」
八幡が低い声で尋ねた。
「うん、知ってたよ。だって、戸塚君のお父さんから聞いたんだもの」
「なんで黙ってた……」
「それは戸塚君ちの家庭の事情だからね」
「だからって!」
八幡は少し怒気を帯びた声で雪ノ下さんのお姉さんを追及する。
「比企谷くんはさ」
それでもお姉さんは冷静に応えた。
「その事情を聞いてどうするの? それを聞いて最後まで責任が取れる? ちゃんと覚悟を持って話が聞ける? それは彼……もう分かっちゃったから彼女でいいか、彼女を傷つけるかも知れないんだよ? それでもいいの?」
そうだよ、八幡……。
僕が傷つくのは構わない。だって僕は君を騙していたんだから。
でも、そのことで君が負い目を感じたり、傷つくようなことになったら……僕……。
「俺は……戸塚の……親友だから……例え傷つけることになっても……戸塚のためにできることがあるなら……戸塚とともに傷ついてやれるなら……」
「八幡!」
今度は僕から八幡に抱きつくいた。
そして再び八幡の胸で泣きじゃくった。
「仕方ないわね。こんな廊下じゃなんだから、玉座の間に行こうか」
「落ち着いた?」
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
その後、八幡と海老名さんとともに「玉座の間」と呼ばれる部屋に連れてこられ、そこで温かいココアを貰って、僕はようやく気分を落ち着かせることができた。
八幡は相変わらず、あの甘いコーヒーを飲んでるけど。
「え……と、どこから説明したらいいかな?」
「まずはなんであなたが戸塚が女だってことを知っていたかです」
そ、そうだよね。
僕だって知らなかったのに。
「そうね、まず、戸塚くんには雪ノ下家の戦闘メイドとしてバイトしてもらってたんだけど……」
「おい、ちょっと待てーい!」
「何よ、話の腰を折って」
「あんた、卒業式の晩に稲毛の浜で暴れてたのは戸塚じゃないって言ったよな?」
「言ってません」
「嘘を言うな! 俺があれは戸塚だろ、と言ったら違うと」
「言ってません」
「いや、確かに……」
「私、暴言も失言も吐くけれど、虚言だけは吐いたことがないの」
「それ、あんたの妹のセリフな!?」
えっ? 卒業式の日? 稲毛の浜? ううっ、記憶が……。
「私が言ったのは、『あれはベータさん』と言うことだけで、戸塚くんじゃないとは言ってないわ」
「それは屁理屈……」
「あら? こういうのは君の得意分野じゃない?」
「ぐぬぬ……」
「それにね……必ずしも戸塚くんとは断言できないんだ……」
「ちょっと、何を言って……」
「八幡……」
「なんだ戸塚?」
「あのね、僕、あの卒業式の夜、少し記憶が曖昧なんだ……」
そう……うさぎさんの格好をして城廻先輩をパーティー会場に誘導し、ドレスを着て八幡とダンスを踊ったことはよく覚えてるんだ。
でも、雪ノ下さんの家のリムジンに乗ってその後……。
「あの夜、あの浜にいたのは戸塚くん、でも戸塚くんじゃなかった……」
「俺には全くチンプンカンプンなんだが……」
「分かりやすく言うと、あそこで暴れていたのは戸塚くんの別人格なの」
「戸塚の、別、人、格……」
そ、そうなんだ……朧げながら海岸にいたような気がしたけど、ずっと夢か何かかと思ってた。
でも、あれが現実で……。
その時、僕は……。
「普段の戸塚君なら、あんな他人をどつきまわるようなことしないでしょ?」
「たっ、たしかに……」
「あれは、カルマ値マイナス200の戸塚くん。アライメントは凶悪。あの時の彼……彼女は嗜虐心に満ちていたわ。まあ、それを利用してウチの仕事をしてもらったんだけどさ」
カルマ値200の僕……って、よく意味が分からないけれど、八幡は意味を理解して驚きの表情を浮かべていた。
「だ、だが、まだ疑問はある。陽乃さんとと戸塚の接点なんて無かったはずだが」
「それはね、これよ!」
そう言って雪ノ下さんのお姉さんが僕と八幡に見せたのはスマホの画面。
そこには、「電柱組が解決する! 千葉県縦断お悩み相談メール!!」というページが表示されていた。
「おい! これって奉仕部の『千葉県横断お悩み相談メール』のパクリじゃねえか!」
「さあ、何のことかしら~ほほほほ」
「で、これが何だって言うんですか」
「これを通じてね、戸塚君のお父さんから相談があったの」
「え、僕の?」
家では何も変わったところはなかったのに……。
「君のお父さんがね……もう限界だと相談を……」
「後は私から説明させてください」
そう言って部屋に備え付けられた高さ80センチほどのサイドボードの、よく高級そうなブランデーとかが並んでいるスペースから、まるでエスパーのように折り畳まれた身体を、ニョキニョキと延ばすように出てきたのは……僕のお父さん!?
「はじめまして、戸塚彩加の父です。はいい〜〜〜」
そうやって、片足を上げて手を開く決めポーズを取る父。
「お父さん! なんでこんなところに!?」
「いや、ソファで待つように言われたのだが、皆さんの声が廊下から聞こえてきたら急に怖くなって思わず隠れてしまったんだ」
「戸塚のお父さん、こんな狭いところに入ると、股関節症とかになってしまいますよ」
「君が、比企谷君だね。彩加からいつも話は聞いているが、やはり君は優しいな。私のことはお義父さんと呼んでもらっても構わないからね。むしろ推奨♪」
「えっ、たしか今、お父さんと呼んで……アレ? 何か微妙にニュアンスが違うような……」
「お父さん!? いったい何を言っちゃってるの? 僕と八幡はまだそんな関係じゃ……」
「まだ、ね。フフーン♪」
ん、わが父ながらちょっとウザい。
「さて、彩加の話だったね……私たちは、娘、彩加を、慈しみ深い、愛の溢れる人として育てようと、それはそれ愛情を注いで育ててきた。そして、『彼』は期待に応えてくれた。それは分かってもらえるかね? 比企谷君」
「は、はい! こんな俺でも分け隔てなく接してくれて、話しかけてくれて……それはもう、何度も昇天しかけてしまうくらい、まるで天使と見まごうくらいの存在です!!」
ちょっ、ちょっとー! 八幡、僕が目の前でそんな、恥ずかしすぎるよ〜〜〜!
「比企谷くんは実際、夜中に何度も昇天してるしね♡」
「ちょっ、陽乃さんこんなところで何言ってんすか! おい、姫菜、どうして俺を睨む?」
は、八幡が実際に昇天したってどういうこと!?
海老名さんも怖い顔してるし……。
「分かるっ! 分かるよー、比企谷君!! 私も自分の娘でなかったら、ぐへへ」
あ、これはダメだ。僕ののお父さんはダメな人だ──
「コホン。ま、そのことは置いといてだね、ひょっとしたら私たち夫婦は、自分たちの理想とする人格を押し付けすぎたのかもしれない。人間誰しも清い部分と汚い部分を持つ。しかし、清い部分だけを表に出し、汚い部分を抑圧された心は、いつしかそれを抑えることができなくなり、嗜虐的な別人格を生み出した」
そんな……僕の中に別の人格? 僕は信じられないと言った面持ちで父の話を聞いた。
「元々、彩加に男の子の格好をさせようとしたのは妻だ。娘を溺愛する私を何故か妻は警戒し、彩加を男の子として育てるようになった」
「……戸塚、悪いが俺はお母さんが正しいような気がする」
八幡……僕もそう思うよ……。
「しかし! しかししかししかーし!」
おっ、お父さん!?
「彩加はこんなに可愛いんだぞ? そんなことに納得できるかっ! だから私は、時々妻に隠れて彩加に女の子の服を着せ、その可愛い姿を堪能していたのだっ!」
ダメだこいつ……早く何とかしないと……。
「だが、悲劇は起こった。男の子として育つのが日常で女装が非日常……それに合わせるように日常では優しい彩加、非日常に嗜虐的な彩加が現れるようになってしまった……」
え?
「私が女装彩加にこのことはお母さんには内緒だよ、全て忘れるんだと言い聞かせていたら本当にその時のことは忘れるように……かくして全く別の人格が形成されるようになってしまったのだ!」
「なぁ戸塚……俺、全く話についていけないんだけど」
「偶然だね、八幡。僕もだよ……」
「女装というか女の子を意識することによって現れる別人格……そんな彩加に虐げられることも私の喜びではあったが……いや、抑圧された人格が爆発しないよう、仕方なく、それはもう仕方なくその別人格をたまに表に出し、私の身でその嗜虐心の受け皿となっていたわけだが……」
「いや、あんた今、ちょっと本音出てただろ?」
「はっはー、何のことかな?ヒュッ、ヒュー~~~」
とぼけた顔で鳴らない口笛を吹くお父さん。
「しかしながら、それも続けることはできなくなった」
「それはどうして?」
「それはね、比企谷君、彩加がテニスを始めて力が付いてきたせいか、いよいよ私のカラダの傷も隠しきれないものとなり、妻にバレそうになっているからなのだよ」
お父さん! なんか浮気してる人みたいだけど、それ、相手、僕なんだからやめてよ!
「そこで、たまたま千葉県縦断お悩み相談メールの存在を知り、この雪ノ下陽乃さんにご協力いただいて雪ノ下家の戦闘メイドとして別人格時の性格を活用してもらっているのだ!」
お父さん……そんな、ババーン!って感じで胸を張られても、何一つ同意も共感もできないんだけど……。
「だが、いつまでも騙し続けることはできない」
「ど、どうしてですか?」
「それはね……これまで、女性の身体に起きる月に一度の生理現象を、男の子のち○ちんが生える過程だと説明してきたが、当然いつまで経ってもそんなものが生えるわけがないのだよ」
そ、そうだよね……なんで海老名さんに教えられるまでそんなこと信じてたんだろう……。
「そっ、そんなこと言われても信じられない! そりゃ、戸塚が聖印を象ったような武器で暴れているところは見ましたけど、嗜虐的なんて……」
「じゃあ、比企谷くんにはこれを観てもらおうかな?」
お姉さんがそう言ってリモコンを操作し、壁のテレビに映像を映し出した──
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「困りましたねー。そのような非協力的な態度を取られるということになると……」
「生きたまま椎茸の種駒を打ち込んで菌床にでもすればよいのではないかしら」
「そんなー、手っ取り早く肥やしにしてしまったほうが早いっすよ」
「ひっ、ひぇ〜〜〜!」
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「これは『千葉最大の侵略〜花も嵐も踏み倒せ! 散り始め~そして葉桜 (完)』のワンシーンよ」
こっ、これが僕? 肥やしにするって何? こんな記憶、全然ないんだけど!?
「戸塚がこんなことを言うなんて……ということは、一色も二重人格?」
「いえ、彼女は素よ」
「ああ、そうですか……」
でも、これで僕が二重人格ということが……えっ、でも……。
「しかし、その話はおかしい! 女装した戸塚が嗜虐的になって暴れるというのなら、めぐり先輩の卒業パーティーでドレスを着た戸塚は、普通の戸塚でした」
「そこよ! それなのよ!!」
わぁ、びっくりした!
突然お姉さんが大声をあげて八幡に向かってビシッと指を刺した。
「『バレンタインデー粉砕! 同志ヨ,チバ二結集セヨ!番外編 めぐり☆涙のグラジュエーション・デイ(2)』での戸塚くんは、綺麗なドレスに身を包みながら、比企谷くんと大人しくチークダンスを踊っていたわ」
「な、何? 彩加がドレス姿でチークダンス! そっ、その映像はないのかね!?」
「お父さんうるさい」
「ぎゃひい!」
お父さんが分かりやすくショックを受けてるけど、同情心は一切湧かなかった。
「彼……いえ彼女は、比企谷くんの前では、女の子の姿でもそのままの戸塚くんでいられるということなのよ」
「ええー!!」
「ここからはわたしが説明しよう」
そう言ってこの部屋に入ってきた白衣を着たこの人は……誰だっけ?
「あっ、あんたは……」
「君に会うのは『千葉最大の侵略〜花も嵐も踏み倒せ! 九分咲き』以来だな、特殊な目をした少年」
「出たなー、この、マッドサイエンティスト!」
「はっはっはー、それは褒め言葉と受け取っておこう。おっと、こちらの少女に会うのは初めてだったねー。私は、大分県立今津留高校物理科教諭 真船だ。発明おじさんとでも呼んでくれたまえ」
そう言って、片膝を立てた状態で僕の手を取って手の甲にキスを……。
しようとしたところで、八幡とお父さんにぼてくりこかされていた。
「陽乃さん! どうしてこんな奴が……」
「この人は元々電柱組の科学顧問をやってるから……それで今回の戸塚くんのことを解析してもらってね、さっきの結論に至ったの。それをあの時試してみたのよ」
真船さんと言った人が何事もなかったかのように立ち上がり、人差し指でメガネをグイッと上げて言った。
「これは一言で言って、『恋』なのだよ」
……は?
「戸塚君だったね、いや、戸塚さんと言うべきか。彼女の心の中では比企谷君に感じていた男の友情が、本人も気づかないまま女性としての愛情に変化しており、さらに恋する男の前で汚い自分を出さないようにと嗜虐的性格も表に出さずに済んでいたと言うわけだ。これぞ恋のなせる技!」
いや、そんなハッキリ言われると恥ずかしいんだけど、僕が八幡に恋……///
「だからね、比企谷君。彩加が綺麗な彩加として女の姿のままで生きていくためには君の存在が不可欠なんだよ! そうすれば、妻公認で女子姿の彩加が……ぐへへ」
「いや、これ本当に何とかしないとダメだろ!」
「私なら今すぐ何とかできるが? この『物理的人格矯正装置』で」
「だから、白衣のポケットからトンカチを取り出すのやめい!」
八幡は止めるけど、僕は本当にお父さんの人格が矯正されるならそれでもいいと思った。
これはたぶん嗜虐心じゃなくて、心からの願いだ。
「戸塚、別に生き方を変える必要なんか無いぞ。俺は今までどおり親友だって思ってるし、戸塚もそうだろ?」
僕は────
[newpage]
「駄目だよ……」
「えっ?」
「僕は君をずっとずっと相手騙してたんだ……だから、君と親友でいる資格がないんだ……」
「そんな……お前は知らなかったんだし俺を騙しちゃいないだろ?」
そうして僕に手を差し伸べる八幡。
「八幡、ごめん……」
僕はその手を取ることなく部屋を飛び出た。
「戸塚っ!」
背中から八幡の声が聞こえる。
でも、振り返ることなんてできなかった。
だって、僕はもう君の親友ではいられないんだ。
僕は君を騙していたから。
僕は僕を騙していたから。