まちがいだらけの修学旅行。   作:さわらのーふ

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第6話でようやくファーストシーズン完結編です。
ちなみに別府地獄めぐりの竜巻地獄は間欠泉です。
かんけつへん,かんけつせん……
グハッ!(吐血)
まだまだ紹介したい場所がいくつもあるんですが,今回はこれにて失礼。
ちなみに作者一押しの公衆温泉は寿温泉です。地域の方が管理されている小さな温泉ですが,別府市民100円,その他200円で入れます。子宝の湯だそうで女性の利用者が多いそうです。元々は女性用の浴場しかなかったそうで,今でも女湯の方が大きいとか。覗いたことがないので真偽は不明ですが……
やはり近くに特殊浴場がありますので間違えて入らないようにしてください。
やっとクロスになりました(喀血)
何番煎じになるか分からないクロスオーバーですが,楽しんでいただければ幸いです。



まちがいだらけの修学旅行6~地獄の別府あゝ無情編(完結編)

 由布院温泉は日本で2番目の湧出量と言ったが、大分県でも2番目だ。

 なぜなら、日本で1番の湧出量を誇るのがここ、別府温泉だからだ。

 

 別府駅に着いた俺たちは、駅前広場の油屋熊八の像の前で両手を上げた熊八と同じポーズで写真を撮り、昭和初期の建物がそのまま残る竹瓦温泉に寄ってから宿に向かった。

 竹瓦温泉は市営で,なんと100円で入浴できるのだ。そのほかにも駅から歩ける範囲でも海門寺温泉など100円で入れる市営浴場が複数あり,市営以外も寿温泉や駅前高等温泉など100円から200円程度で入れる温泉がいくつも存在する。

 竹瓦温泉の建物は実に風情があって良かったのだが、周りには若干高校生には刺激が強い店も多く、大岡がソワソワしていたのは致し方ないことだと思う。

 戸塚は遊んで疲れたのか、先に宿へ戻ると行ってしまい、ここでも混浴の夢は叶わなかった。チクショー(泣)

 宿に着いて部屋に荷物を置き、夕食会場へ向かう廊下の途中で戸部に声をかけられた。

 


 

「ヒキタニくん、俺、今夜決めっから。場所も雪ノ下さんのリストから別府タワーの展望台に決めたわ。やっぱ告白って言ったら夜景っしょ!」

「何で俺にそれを言うんだよ。正直今回俺は何もできなかったし、最後には依頼を打ち切ったんだからな。お礼が言いたいなら、依頼を受けた由比ヶ浜かリストを作った雪ノ下に言ってくれ」

「俺、こんなんだけど海老名さんのことマジ惚れでさあ、この旅行中ずっと海老名さんのこと見てたんだわ。そしたらいつもヒキタニくんのこと見つめてるからさ,なんか海老名さんの気持ちが分かったっつーか。だけど今さら諦められねーし?だから、どう言ったらいいか分かんねーけど、俺、負けねーから!」

「……そうか」

「まあヒキタニくんには結衣とか雪ノ下さんがいるしー?そのどっちかとヒキタニくんがくっつくことになったら俺にもワンチャンある?みたいな」

 笑いながらそんなことを言っていたが、戸部の海老名さんに対する気持ちは本物のようだ。

「それなら、今告白しないでもう少し待ってた方がいいんじゃないのか?」

「いやーもうここまで来て止められないっしょ。もし海老名さんがヒキタニくんと付き合うことになったら気持ちを聞いてもらう機会すら無くなっちゃうからさー。それに」

 戸部は,一呼吸おいて俺の目をじっと見据えて続けた。

「ヒキタニくん,俺が今,告白しなかったら,俺のこと気にして海老名さんのことワザと振ったりするんじゃないかなーって」

 俺は,戸部がそこまで考えていたことに驚き,俺がうっすらと考えていたことを見抜かれてドキリとした。

「やっぱ好きになった人には幸せになってもらいたいじゃん?そりゃ元々ヒキタニくんにその気がないんなら仕方ねーけど,俺のせいで好きな人が幸せになれないっつーたら,なんかキツイっしょ」

 

 こいつ……

 

「分かった。それならもう俺は何も言わん。せいぜい頑張ってこい!」

 らしくもなく戸部の背中をバシッと叩いた。

「っつー!気合い入ったっしょ!ヒキタニくん、サンキューな!」

 手を振りながら走り去る戸部。

 ……お前は凄いな。

 

 そして……

 


 

「葉山,聞いてたんだろ?」

 

 廊下の曲がり角の先から葉山隼人が苦笑いしながら顔を出した。

「ヒキタニくん,分かってたのか」

「ぼっちは人の気配に敏感だからな」

「でも驚いたよ。戸部があそこまで覚悟してたなんてな」

「葉山……お前,戸部の応援をしてたんじゃないのか?」

「どうだろうな……俺は,今が気に入ってたんだよ。戸部も,姫菜も,みんなでいる時間も結構好きだったんだ」

「お前,海老名さんから……」

「ああ,姫菜からも相談を受けてね……戸部の告白を止めてほしいと。何度か諦めるようには言ったんだ。今じゃない。先のことは分からないから結論を急ぐなってね」

「だが戸部は」

「ああ,あいつの覚悟を聞いて,今の関係をただ壊したくないって思ってた自分が恥ずかしいよ。得ることよりも失わないことが大事なものだってあると思ってた自分が」

 変わりたくないという気持ち,それは俺にも理解できた。だから,葉山が恥ずかしいと感じるなら,今すぐに選ぶことのできない俺もまたおのれを恥ずべきなのだ。

「お前はどうする?」

「あとは見守るしかないだろう?ヒキタニくん,君と一緒に」

「海老名さんが聞いたら鼻血吹いて喜びそうなセリフだな」

「違いない」

 葉山が苦笑しながら俺に言った。

「案外,告白の現場で俺と君がイチャイチャでもしたら,解決はしないが,君お得意の解消はできるんじゃないかな?」

 冗談めかして言う葉山だが,俺は少しイラッとしてつい強い口調で言い返してしまった。

「それで告白は解消したとしても,三浦が怒り狂い,俺とお前はその後もホモ疑惑にさらされて結局グループは崩壊するだろ?お前には俺の真似は無理だ」

「そう,だな。忘れてくれ」

 少し口惜しげにそう言った葉山。おいおい,お前までフラグ立ってるんじゃないよね?もしそうなら海老名さん失血死するぞ。

 


 

 晩飯の後,平塚先生のラーメンの誘いを必死の思いで振り切り(あの人,どうして飯の後すぐにラーメンが食えるんだよ……),雪ノ下,由比ヶ浜とホテルを抜け出し,別府タワーへと足を向けた。

 

 別府タワーの完成は昭和32年5月10日,「塔博士」として名高い内藤多仲博士が建てた全国の6つのタワー,通称「タワー6兄弟」のうち,名古屋テレビ塔,通天閣に次いで3番目に建てられたタワーであり,そのことにちなんでこのタワーのゆるキャラは別府三太郎という名付けられている。

 ちなみに,修学旅行初日に訪れた博多ポートタワーは6兄弟の末っ子,六男坊にあたる。

 俺たちはタワー1階の自動販売機でチケットを買い,エレベーターで17階の展望台に上がった。

 エレベーターの出口正面,売店を兼ねた受付のおばちゃんにチケットを渡すと,葉山と三浦がそこにいた。葉山は三浦には内緒にしていたと思ったのだが,うっかり大和か大岡が別府タワーに行くことを漏らしてしまい,葉山とロマンチックな夜景が見られるとついてきてしまったらしい。 戸部と海老名さんはまだのようだ。大岡は竹瓦温泉の近くで行方不明になったとか。卒業できるといいな!

 


 

「なに,結衣,あんたたちも来たん?」

「優美子!?あははーちょっと夜景を見にね」

「せっかく隼人と二人で夜景が見られると思ったのに」

 どうやら大和はタワーには来たものの,邪魔になると帰されてしまったらしい。ドンマイ。

「あら,三浦さん,ここは多くの利用客が集まる観光スポットであなたたちだけのものではないのよ?一般の観光客が来た時でもそうやって威嚇して追い返すのかしら?ごめんなさい。野生動物の生態には詳しくなくて」

「雪ノ下さん!あんたさあ!」

「優美子!」

 掴みかからんばかりの勢いの三浦を葉山が制した。

「雪ノ下さんも」

「そうだよ!優美子もゆきのんも,せっかく来たんだから夜景を楽しもうよ!」

 由比ヶ浜も二人の仲裁に入ったが,俺たちは夜景を見に来たわけじゃないぞ。

 そんな時,葉山のスマホの着信音が鳴った。

「ああ,分かった。ありがとう」

「大和からだ。二人が来る。隠れないと」

 どうやら大和はタワーの入り口近くで二人が来るのを監視していたらしい。

「隼人?何があるん?」

「優美子,今は黙って隠れてくれ」

 とは言え,タワーの展望台に隠れる場所などない。とりあえずエレベーターの出口から陰になるところまで5人で移動する。

 チン,という音とともにエレベーターの扉が開き,戸部と海老名さんが無言で降りてきた。

 

「ひ…んんん」

 2人が降りてきた方を覗き込んでいた三浦が声を出して飛び出していきそうになったので,慌てて後ろから体を抱きとめ,もう一方の手で口を塞いだ。

「ん~ん~ん~」

「三浦,すまん」

「優美子,頼む。大人しくしていて欲しい」

 葉山に言われてようやく三浦は大人しくなった。抱えていた手を離すと,自分の身体を両腕で抱きしめるようにして赤い顔で俺をキッと睨んでいる。悪かったな葉山じゃなくて。

 なぜか雪ノ下と由比ヶ浜の視線も痛いほど俺に突き刺さる。

「それは三浦さんの方が少しは,ええ少しは大きいかもしれないけれど,あんなのはただの脂肪の塊で……」

「大きさなら優美子よりもあたしの方が……ヒッキーさえよかったらいつでも……」

 二人が何やらブツブツ言っているが,戸部と海老名さんが一周ぐるっとできる回廊状になった展望台を俺たちが逃げた方に向かって歩き出した。

「こっちに来る。逃げるぞ」

 小声で全員に伝え,まだ事情が呑み込めていない三浦の手を引き,二人が回る同じ向きにぐるっと逃げて行った。

 三浦が声なき抗議をしているようだが今は逃げることが先決だ。売店と真反対の側に二人が立つのを見て,また陰からこっそりと見守ることにした。

「ヒキオ,あんた……」

「悪い。文句なら後でいくらでも聞く。今は二人を黙って見守ってくれ」

三浦が飛び出して行かないように俺は手を握ったままでいた。

「隼人,戸部は……」

「ああ,今から戸部は姫菜に告白する」

三浦が驚愕の表情を浮かべた。

「何で?そんなの止めないと。あーしらの関係が!海老名,全部捨てちゃう。あーし,そんなのやだ!」

「それでも!」

 俺は三浦を強く引き寄せ背中に手を回し,戸部たちに聞こえないよう顔の真ん前で小さな声で,しかし三浦の目をじっと見据えて言った。

「お前らのグループの関係が本物になるためには,見守るしかないんだ」

 葉山が,由比ヶ浜が黙って頷いていた。

 三浦が二人の顔を見て,最後に俺の顔を見た。

「ヒキオ……」

「分かってくれたか?」

「……近い」

 よく見ると三浦が赤い顔をして怒っているようだ。

 慌てて握った手と体を離す。

「あっ」

 三浦が小さく声を上げた。

「す,すまん。後で土下座でもなんでもする。今はこれで勘弁してくれ」

 葉山は苦笑し,由比ヶ浜は犬のようにウーと唸っていた。

 


 

 戸部たちの立っている海側は真っ暗で,時々船の灯がぽつんと見える程度の,とても夜景の奇麗な告白スポットとは言い難く,そのどこまでも深い闇は告白の行方を暗示しているようにも思えた。

 そして,外の闇はタワーのガラスに海老名さんの顔を反射していた。ならば,俺たちのことも海老名さんの方から見えているのだ。

 ところどころひびの入ったタワーの窓に映った海老名さんの顔は少し笑っているようにも見えた。

 あっ,海老名さんがこちらに,いや俺に向かってウインクをした。

 海老名さんも覚悟したのか。新しい居場所へ向かうことを。

 だが俺はどうだ?

 三浦に偉そうなことを言ったが,本当に俺に覚悟はあるのか?

 このまま何もしなくて良いのか?

 頭の中がこんがらがって整理できないままただ二人を見つめている。

 

 そして戸部の口が動いた。

「あの……」

「うん……」

 声をかけると,海老名さんは薄く反応した。

「俺さ,その」

「……」

 海老名さんは何も答えない。

「あ,あのさ……」

 

「ずっと前から好きでした。オレと付き合ってください」

 

 言われた海老名さんは目を丸くする。

 当然だ。俺もびっくりだ。

 戸部だって驚いていた。

 言うはずだった言葉を奪われてぽかーんとしている。

 

 海老名さんは戸惑っていたが,すぐに答えた。

 

 

「あなた誰?」

 


 

「オレの名はマッスル日本!悪を許さぬ正義の男!」

 

 海老名さんに告白したのは,マッスル日本と名乗ったモヒカン,タンクトップの筋肉男。

 いや,マジ誰なんだよ。

 

「正義の味方には癒しを与えてくれるパートナーが必要なのだよ。お嬢さん。どうかオレと付き合ってほしい!」

 

 葉山がマッスルの方を見て小声で俺に囁いた。

「びっくりしたな。あんな隠し玉があるなんて。さすがだな,ヒキタニくん」

 いやいや,俺知らないよ,あんなの。

「うまく説明ができなくて,もどかしいのだけれど……。あなたのそのやり方,とても嫌い」

 だから俺じゃないって!

「でもさ。こういうの,もう,なしね」

 本当に違うっての!

 

「マッスルさん,私,好きな人がいるのであなたとは付き合えません」

 

「なんだと!正義の味方に協力できないということは,君は悪に唆されているのか?誰だ,その悪人は!」

 

 海老名さんは一瞬俺の方に目線をやったが,その後黙って戸部を指差した。

 

「貴様が悪人か~~~~っ!!」

「えっ,俺!?」

「うおおおーマッスル日本~~っ!!」

 どかーーーーん!!!

 

「悪は滅びた。しかし,戦いはいつも空しい……」

 

「戸部!」

「とべっち!」

「戸部くん!」

 

 葉山,三浦,雪ノ下,由比ヶ浜も戸部の元へ駆けつけていった。

 戸部は体をピクピクさせながら,

「え,えびなさんの想い人が俺っしょーー」

と,うわ言のように呟いていた。

 戸部,いい夢が見ろよっ。

 

 そして,雪ノ下の姿を見たマッスルは,

 

「うっ,美しいーーー。ずっと前から好きでした。オレと付き合ってください」

と手を差し出し,深々とお辞儀をした。

 

 にっこりと笑った雪ノ下が,下を向いて無防備になったマッスルの首筋にトンっと手刀を入れると,マッスルが膝から崩れ落ちその場で意識を失った。

 それを見た三浦が青い顔で葉山に聞いた。

「雪ノ下さんって何なん?」

「いや,俺もびっくりだ」

 


 

「比企谷くん!」

 海老名さんが飛び込むように俺に抱きついてきた。

「怖かった……」

 ぎゅっと力を込めて俺を抱きしめる海老名さん。それはそうだろう。突然,モヒカン,タンクトップ,筋肉の男に告白され,自分の目の前で同級生がその男に半殺しの目に合わされたのだ。

 俺も海老名さんを抱きしめ,優しく頭を撫でてあげた。

「ヒヒヒヒ,ヒッキー,姫菜,何をしてるの!?」

「結衣、ゴメンね……私、怖くて……今だけ、ヒキタニくんの胸、借りるね……」

 涙声で由比ヶ浜に告げる海老名さん。

「そうだよね……姫菜、怖い思いしたんだもんね。ヒッキー、姫菜に優しくしてあげてね」

「ああ」

 そうして海老名さんを抱きしめていると俺の耳元で俺だけに聞こえる声で囁いた。

「……今まではやはちが至高だと思ってたけど、ますはちもありかなーって」

 抱きついていて彼女の顔は見えないが,相当悪い顔をしているに違いない。

 女怖い。ただ怖い。あと怖い。

 

「ところで戸部はどうしよう?俺たちではホテルに連れて帰るのは難しいんじゃないかな?かといって、救急車とか呼んだら大事になるし……」

 葉山が一応戸部の心配をしていた。

「私に任せなさい。この近くにも雪ノ下建設と取引のある会社があるからそこに助けてもらいましょう」

 雪ノ下の提案で、戸部はその会社の人に運んでもらうことになった。

 


 

 雪ノ下がその会社に電話をした後しばらくしてエレベーターからゾロゾロと人が降りてきた。

 先頭にいたのは赤髪にレオタード姿の女で年齢は俺たちと変わらないくらいだろうか,その後ろから「下っぱ」と言うお面を着けた男たち、最後に降りてきたのは、登頂ハゲに長髪、ゴーグルに怪しげなスコープを着けた男と恰幅のいい(デブの)つるっ禿げ男の中年二人組だった。なんだこいつら。

「おい、食通!お前太りすぎなんだよ!エレベーターがキツイから少し痩せろ!」

 食通と呼ばれたデブが怒鳴られているところを見る限り、レオタード女はどうやらこの集団の上役らしい。

 中年にもなってこんな若い変な格好の女にこき使われるとか、やっぱり俺は働きたくない。

 

 下っぱ面の男の一人がレオタード女に小声で文句を垂れていた。

「バラダギ様、こんな時間に一体何ですか」

「仕方ないだろ。やんごとなき上得意様からの要望だ。それにちゃんと残業手当も出るみたいだから給料分の仕事はするぞ」

 今,ばらだぎ?と呼ばれた女上司を観察してみると,何というか,顔は幼く見えるが美少女と言えるレベル。それよりもレオタードのせいでボディラインがくっきり出ていて,その,なかなかスタイルもよく,雪ノ下に比べて……

「なにかしら,比企谷くん?そろそろ冥界に帰りたくなった?」

 ニッコリ笑う雪ノ下。風は語りかけないが,怖い,怖すぎる!

 その女上司がこっちへ向き直り、明るい声で言った。

「まいど〜〜〜。ご注文の死体の回収に伺いました〜〜〜」

 いやいやいや、戸部まだ死んでないから!

 たぶん。

「あなたが木曽屋の方ね。雪ノ下建設の関係者で雪ノ下雪乃です」

「材木商・木曽屋の原滝です。よろしくお願いします」

 雪ノ下と原滝と名乗ったレオタード女が握手をした。ばらだぎ?はらたき?こっちの方言で訛ったのか?

「回収して欲しいのはそこに転がってるものよ。一応まだ死んではいないから処分の方は必要ないわ。ホテルまで運んで置いといてくれれば十分よ」

 おい!処分って一体何?

 いやいや、やっぱり聞きたくない!多分土建屋の闇とかあるのだろうか?なんか聞いてはイケナイことのような気がする……

「承知しましたー。もし動かないようでしたらウチで改造とかもできるんで。オプションでミサイルとかも付けられますから是非ともご用命を!」

 戸部が下っぱどもに運ばれていった後、女幹部と中年二人組が残り、雪ノ下に対して、

「すみません。ここにサインをお願いします……はいこちらが控えになりますので、お荷物の到着まで失くさずにお持ちください。それでまた……」

 

 その時,帰ろうとする女幹部と視線が合った。けっ、決して可愛いからずっと見ていたとかじゃないんだからね☆

「あ〜〜〜〜〜っ。おい!鶴崎!食通!改良人間が脱走してるぞ!確保〜〜〜〜〜!」

「おいっ!何を‼︎!」

 おっさん二人に捕まり連行される俺。

「大変お騒がせしましたー」

 チン!

 エレベーターに乗せられて俺は訳がわからないまま展望台を後にした。

 

 後には、雪ノ下、由比ヶ浜、葉山、三浦、海老名が唖然として立ち尽くしていたという。

 

 ちなみに大岡は,個室のお風呂屋さんに潜入しようとしたが,学割で,と生徒手帳を出し高校生ということがばれて叩き出され,ついでに学校に通報されてしまったとか。卒業できなかったばかりか,本当の卒業も危うくなったな。大岡,哀れ。

 


 

 その後……

 

 なぜか俺は悪の秘密結社、電柱組と言うところに拉致されている。

 表向きは木曽屋という屋号で営業している材木商らしいが。

 

「いや、だって、あんな目をしてるからてっきり新しい改良人間がまた脱走したのかと……」

 昨日タワーで原瀧と名乗った女がボスらしき若い男に必死に言い訳をしていた。

「ええい!そんな言い訳は聞きたくないわ!お前のおかげでお得意様カンカンなんだよっ!よって、バラダギ大佐、昨日のバイト代なしね!」

「将軍!チルソニア将軍!是非ご再考を!このバイト代が無いと修学旅行先で使うお金がっ!」

 悪の秘密結社の幹部が高校生のバイトとか、大◯県はいったいどうなってるんだろうか。

「修学旅行で東京へ行って、羽田沖で照明弾食らって死んだ親の弔いとディスティニーへ行くのが唯一の楽しみなのに〜〜〜」

 なんか今、サラッとヘビーなことを聞いたような気がするが……

「お前んとこ、修学旅行は東京なのか?」

「ああ。県立高校はたいがい東京だ。東京といえばやっぱりディスティニーランドだろう?ハーモニーランドより少しばかり大きいと聞いている」

 いやいや、ハーモニーランドも楽しかったけれども、規模は全然違うからね。それよりも……

「ディスティニーランドは東京じゃない。千葉だ」

「うっ、嘘を言うな!あんなに東京ディスティニーランド東京ディスティニーシー、東京ディスティニーリゾートと宣伝してるじゃないか!」

「本当だ。千葉県民の俺が言うんだから間違いない!」

「千葉県民が言うから嘘なんだろ!東京ディスティニーランドというからには東京に決まってる!」

「千葉を馬鹿にするな!ならお前、大分県にある日本最大のサファリパーク、別府アフリカンサファリだって別府市じゃなくて安心院町(現・宇佐市)にあるじゃないか!」

「ああああああ…………」

 バラダギと呼ばれた女幹部はショックで膝をついてがっくりと肩を落とし、この世の終わりかと思わんばかりに落胆していた。

 ディスティニーが千葉だったっていうだけでそんなに落胆するものなの?俺、地味に傷つくんだけど。ただそんなに楽しみにしていたとなると、夢を壊してしまったことにちょっと責任を感じないわけでもない。

「まあ、東京も千葉も同じようなもんだ。東京ドイツ村もららぽーとTokyo-Bayもみんな千葉にあるからな。もし千葉に来たら、サイゼで飯でも奢ってやるよ」

「サイゼ……」

 しまった!今時の女子高生にサイゼなんて言ったらまた笑いもんだ……

「なんだそりゃ?」

 は?

「サイゼだよサイゼ。サイゼリヤ。すっげえ美味くて超安いイタリアンのファミリーレストランだぞ」

「ファミリーレストランといえばジョイフルだろ?おい、下っぱ6番、さいぜりあって聞いたことあるか?」

「いえ、全く」

 どうなっているんだ!俺は異世界にでも紛れ込んだのか?そしてサイゼリヤな。

「ああ!」

 昨夜、食通と呼ばれていた太ったおっさんが大声を上げた!

「そういえば聞いたことが……九州では福岡と佐賀だけに存在するという幻のイタリアンレストランの話を……」

 大分県にはサイゼリヤが無い!?

 サイゼリヤは当然日本全国津々浦々にまであると思っていた俺は、その衝撃の事実に、今度は自らが膝を屈してうなだれることになるのだった。

 俺の落胆ぶりを見かねたのか、バラダギが俺の背中に手をやって話しかけた。

「千葉に行ったら、連れて行ってくれるのだな?サイゼリヤ」

「あ、ああ……」

「いい店なのだろう?」

「勿論だ!」

「ついでにディスティニーにも連れてって?」

「当たり前だ!って、何?」

「へへーん、言質取ったからな。下っぱ6番と鶴崎、お前ら証人ね」

「おい、汚ねーな」

「知らなかったのか?電柱組は悪の秘密結社なんだぞ?悪いことが仕事なんだ」

 そうやって笑ったバラダギは、なんかその、少しだけ可愛かった。本当に少しだけな。

 これで俺の,俺たちの間違いだらけの修学旅行の話は終わりだ。

 だが、間違った修学旅行は千葉に場所を変えて続くようで,バラダギとディスティニーを回れるのを少しだけ楽しみにしている俺ガイル。

 

バン!

 

「私は今津留高校の物理科主任の真船だ!」

 突然ドアが開いて、白衣を着た変なおっさんが現れた。

「ま、発明おじさんとでも呼んでくれ」

 

 自らを発明おじさんと言った男は俺の顔をジロジロ見て,

「その目の腐った改良人間をサイボーグ化することによって真人間に戻そうというのだな!ミサイルランチャーも強化版を用意した!」

 

「やめんか!」

 

 バラダギと俺の声が重なった,初めての共同作業である。

 

 お家に帰るまでが修学旅行。まだまだ修学旅行は終わりそうにない。

 

 

 




[あとがきと言う名のいいわけ]

本来の構想ですと,最終話のまっするが八幡の代わりに告白し、目が腐っているため電柱組に拉致されるというところだけが思い浮かんでそこだけを書く予定だったのが,ただそれだと場所が大分だよなあ,大分に修学旅行先を変える理由を書かなきゃいけないかなあ,と考えていくうちにこんな悲惨なことになってしまいました。
要は,前5話と最終話の4/5くらいまでは全て蛇足,ということになりますな。
このラストについては賛否両論否多め覚悟の上でした。
大変申し訳ありませんでした!(ドゲザ)

県立地球防衛軍なんて誰も知らない(覚えてない)よね?
連載してたのは週刊少年サンデー増刊号って月刊誌でしたが,あだち充先生のナインや雁屋哲・新谷かおる先生のファントム無頼,島本和彦先生の風の戦士ダンなど魅力的な作品がいっぱいだったなあ。
あ,そうそう。名探偵コナンに時々出てくる怪盗キッドも増刊号で連載していたまじっく快斗が元なんですよね。
とにかく県立地球防衛軍の作者の安永航一郎先生が大分県出身で,舞台が大分県なのです。
実はそのために総武高校一行には大分までご足労いただいたようなわけなのです。

書いた当時はもうこんなしんどいことなんかやるもんか,断然ロム専に戻ってやる!と思ってたのになあ……
半年後にうっかりセカンドシーズンを始めてしまいまして……

まあ,自分で書くようになって他の作家さんに対する目が優しくなりました。自分の文章見てたら他人の文句なんかとても言えません。もう即ドゲザする勢いです。

ご覧いただき誠にありがとうございました。

少し休んでセカンドシーズンアップします。

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