ホップと主人公との対比ストーリーに中てられた結果。
(年号変わってたので)初投稿です。
※一応マサルとして書いてるけどオリ主ってタグ付けた方が良いんですかね……?
三つ首の竜が力尽き、倒れた。――妖精の放つ一撃が竜を貫いたのだ。
「まさかまさかの展開! 先に追い詰められたのは、昨年度無敵の王者を破り、王冠を手にした新チャンピオンの方だ――!」
実況が客を煽り、スタジアムの熱量は更に高まっていく。
――チャンピオン、ただ一人を除いて。
「相手は三匹、こっちの残る手持ちは一匹だけ……。倒されれば、俺は――」
――負ける。
整わない呼吸を重ねる内に視界がぼやけてくる。満員のスタジアムから鳴る歓声が、誰に向けられているのかも分からなかった。
「なんだよ、こんな試合は初めてだ……」
ワクワクしない、ゾクゾクしない。
セミファイナルの決勝戦も、ダンデとの戦いも、あるいはローズとの戦いでさえ、ポケモンバトルは楽しい物だったのに。
――その楽しさが、なぜか今は無い。
チャンピオンになって初めての防衛戦。チャレンジャーは迎え撃つ王者より、遥かに年上だった。
顔に刻まれた皺と老獪な雰囲気が、道楽でポケモンバトルをしているのではない、人生をかけて戦ってきた"重さ"を作り出す。
――天賦の才からなる先読みではなく、途方も無い時間を費やした上で身につける、文字通りの努力の結晶。
王者を追い詰め、虎視眈々と睨む挑戦者の双眸には、執念とも言うべき炎が揺らいでいた。
「っ――」
最後の一匹を収めるボールへと手を伸ばし、ゆっくりと手に取る。その間も呼吸を整えようとするものの、心臓は早鐘を打ち続け、吸い込む酸素は思考回路まで届かずに消費されてしまう。
……苦しい、辛い。いっそ、負けてしまいたい。
膨大な年月を費し、その中で自らよりも若い人達へ渡ってしまった王冠。それでも意地で伸ばしたその手を、王者たる故に払い落とさなければならない。
勝つことを『ねがう』のではなく、勝利する事を『要求』される戦いを前に、少年はかつて掴み取った王冠に屈しようとしていた。
――かたり、かたり。
「……エースバーン」
心が折れ、感覚を失いかけた手に確かな熱量と感触を感じとった。旅の始まりに出会った
熱ささえ感じるそれに、少年は自身を包んでいた絶望感を一時忘れる。
くぐもって聞こえていた音が輪郭を取り戻し、その意味を聴き取った。
「――チャンピオン!」
聴こえたのは、何者でもない、己への応援。
「負けるな!!」
「まだだ!」
「ダンデに勝ったんだろ!」
挑戦者への声援と同量、あるいは上回る程の声が観客席から鳴っていた。
その声は勝つ事を義務として責め立てる様な物では無く――。
「――何を、勘違いしてたんだろうな」
俯きながら、ぽつりと呟く。
王者だから勝ち続けなければならない。蹴落さなければならない訳ではなかった。
――勝利を信じて、声を
ならば、負けるビジョンを浮かべる暇なんてあるものか。
ボールを頭の前へ持ち上げる。小さく、しかし確実に発された声が互いの間を伝わっていく。
「悪いな、エースバーン……いけるか?」
ボール越しに一声鳴いた相棒へと笑みを浮かべ、前を向く。――チャレンジャーを見据えるその眼に絶望は無い。
「謝罪させてくれ、チャレンジャー。……俺はやっぱり、負けたくない」
負けるつもりで戦っていたとでも言うようなその言葉に、挑戦者は苦笑する。――そして、再び視線が交錯した。
「私だって、王冠を譲られに来たわけじゃない。その頭に乗っかってるモノを奪いに来たのさ」
これまで冷静であった男の放つ挑発。隠しきれない高揚感が双方に笑みを浮かび上がらせる。
「ダンデから託されたんだ、簡単には渡せない。行くよ相棒――」
最後の一匹にして最初の一匹、かつてこの舞台で引導を渡したポケモンが、この瞬間、王座を守る盾として立ちふさがった。
足を軽く広げ、腕を振り上げる。少年に王者の風格は未だ無くとも、長きに渡り王者の証明として観客を沸かせ続けたこのポーズは、スタジアムの流れを彼へと動かす。
「――チャンピオンタイムだ」
この日最大の歓声が鳴り響き、王者の意を持つ言葉が次々と叫ばれる。
万雷の歓声と共に下された少年の――王者の号令で動くエースバーンを、一体誰が止められるだろうか。
――後日、この日のエースバーンを見た観客は、口を揃えてこう語ったらしい。
――『ファンタジスタ』と。
チャレンジャーとしてとにかく相手を倒せば良かった(推定)10歳の少年が、(プレイヤー次第で)無敗のチャンピオンとしてチャレンジャーに勝つ事を求められてるの辛い。
それはそれとして二つ名はロマン。