支援Bまで上げてからスカウトしなかった帝国ルート世界線のシルレス(……?)。
シルヴァンの妬んだ先生は、何者にも何にも囚われない女の人。
――五年ぶりに、あの人を見た。
俺は少し背が伸び、より女の靡く顔になった。――そしていつしか、諦観の空気に慣れていた。
戦いに出れば正義を騙りこちらへ鈍重な刃を向ける兵、王国に戻れば人々は明日をも知れぬ世情に怯え、子を、紋章を持った次の戦力を求める声が身分を問わず聞こえてくる。
五年前から更に強くなった紋章を求める嫉妬の叫び。敬愛する陛下であり、幼馴染である王の為に命を懸けるのに躊躇いは無い。
それでも、既に詰んでいるであろう国と心中するのは気が重い。
――当然、他人に聞かせられる心中では無いが。
タルティーン平原は雨が降り、視界が通りにくい。既に王国の兵は帝国と会敵しているらしく、白くなった戦場の奥から歓声と悲鳴が聞こえてくる。
「そろそろ、俺達からも見えてくる頃だ。中には俺の学友だった奴もいるが……躊躇はいらない」
束ねている兵へと指示を飛ばす。フェリクスを、イングリットを殺した連中だ。かつて僅かに交友があった程度で、静かに揺らめく殺意は消えない。
兵の走る音、猛る者たちの声がすぐそばまで迫る。雨が弱まり、視界が通るようになる。――そして、黒鷲の軍を眼前に捉えた。
それを率いていたのは、五年前に失踪した薄青色の傭兵教師だった。
「――久しぶりだね、シルヴァン」
互いに得物を構えながら、間合いを測る。その最中、彼女がこちらへ話しかけてきた。
懐かしむような言葉に反して表情は動かない。失踪した彼女が見つかり、再び黒鷲に籍を置いていたこと自体は知っていたものの、改めてその姿を目の当たりにすると、その不変さにある種の恐怖と興奮を覚える。
何者にも脅かされる事なく、己を貫き通す。そんな精神性に、俺はいつも、強い感情を向けていた。
「そうですねぇ、先生。五年ぶり……でしたっけ?」
五年の時が経過しているのにも拘らず、彼女の姿は過去のそれと変わりない。その在り方も変わっていないと、――そう思っていた。
「生憎あんたを口説く場面でも無いんでね、恨まないで下さいよ」
「私も、君に殺される訳にはいかないな」
その言葉に、どこか引っかかる物を感じる。
彼女は黒鷲の学級の担任であり、今もその生徒達と共に戦っている。かつて"解放王"の振るった英雄の遺産を扱う彼女は、戦力的にも象徴的にも討たれて良い人間では無い。
だが、今の言葉にはそれ以外の、それ以上の意味合いが含まれていた様に聴こえてしまった。
「……あんたの皇帝が、そんなに大事なのか?」
衝動的に口走った言葉は、心掛けてきた軽薄な男らしかは残っていない。代わりに現れたのは、艶の消えた低く暗い問いかけの声と、己が最も嫌う感情だった。
彼女が、そんな事を思うはずがない。何にも囚われず、自由であった先生が、何かに縛られるなど――。
「そうだ。エルの成したい事を、私が通させてみせる」
その言葉と同時に、彼女が微笑む。
――俺の中で、何かが折れる音がした。
「勿論、君はそれを許すはずも無いだろう。――さあ、戦おう」
「そう……ですね。あんたを、生かしておくわけにはいかない」
不変だと、そう思い込んでいた。彼女は偶然黒鷲の学級の教師になり、成り行きで皇帝の味方をしているのだと。彼女自身は、それに縛られてなどいないのだと。
――そんな訳がない。成り行きなんて理由で教会に刃を向ける筈が無かった。彼女は自分の意志で居るべき場所を決め、支えるべき生徒へその命を預けていた。先生は既に帝国の人間だったのだ。
「そういえば、君は私を殺したいと言っていたな。――受けて立とう」
「……ああ」
先生だった何者かが、何かを言っている。――殺したい? 今の彼女を? ……あり得ない。
俺が憎み、妬み、殺意を抱いたのは。失われたはずの紋章を持ち、その子孫を宿す事の出来る身でありながら、自由であった碧髪の先生だ。帝国風情の信念に同調し、縛られるような人ではない。
「そんな事も言いましたっけ。殺し合いは避けられない以上、今更って感じですけどね」
軽薄な仮面を付け直し、最後の会話を交わす。目の前の女は最早、二人の親友を奪った仇敵でしか無かった。
――さよなら、先生。
声には出さず、唇の動きだけで別れを告げる。
五年前の
個人的に先生を最も縛っているルートは青獅子だと思いますが、その世界線は五年前に切り捨てられてしまった以上シルヴァンが知ることは無いです。