グランドマンの秘密基地を後に表通りに戻った私を待っていたのは人間達のいつもの視線だ。
私を見て怯えあがる人間を尻目に私はある屋台の目の前で止まる。
車を改造をした最近流行の女性向けのクレープなど甘い物を販売する屋台である。
「・・・ロボット用のストロベリー味のクレープ・・・トッピングはいつもので」
私は屋台の女店主に声をかける。
「ああ・・・パンクじゃん。いつものでいいのね?」
女店主・・・ローズと言うのが彼女の名前である。
今は気さくに接してくれるが最初に来た時はずいぶんと警戒されたものである。
「ちょ・・・ちょっとうちには金はそんなにないわよ!あそこの銀行でも行った方がいいと思うわよ」
何を勘違いしたのか私をどうやら強盗か何かと思ったらしい。
こちらはちゃんと金を出していると言うのに・・・まあ私の様な見た目のロボットがいきなりくれば無理もない。
いつの頃だったか・・・彼女にショバ代と言うのだろうか。
不当な代金を請求する柄の悪い人間達を私が一睨みで追い返したのを境に彼女の方も私に対して普通に接してくれるようになった。
彼女・・・ローズは見たところ今年あたりに18歳になるかならないかの少女である。
そんな彼女が何故こういう仕事をしているのかは知らない、知った所で私には何もできないだろう。
私は彼女の作ったクレープを食べ終えるとそのまま彼女に背を向ける。
「また来てねえ~」
「うむまた来よう・・・」
彼女の笑顔を背に私は歩き出す。今日は休みだ・・・正直な所ロボット暴走事件の件もシャドーマンに任せようと言う楽観的な考えが私を支配しつつあった。
私は空を見上げる、空は一転の曇りもない青空だ・・・・。
表面的とは言え世界は平和なのだろう。
やる事が無いのだが私の足は一種のルーチン通りに動いてしまう。
ついつい辿り着いてしまった先で私は大きな溜息を吐く。
スラム街とは言えないものの少し寂れた所にある家具を作る工房。そこは普段なら私が夜間に働く家具店であった。
他のナンバーズもそうだが私は普段、年中赤貧のワイリー軍団の財政を少しでも良くしようと日中は缶詰工場で働き、夜間はここで働いている。
「なんだてめぇ・・・休みの日に来るなんてお前、電子頭脳バグってねえか?」
そう私に怒鳴り散らすような声を出す老人・・・この工房の主である。
ダイム=カプア・・・それがこの老人の名前である。
年齢はワイリー様よりも年上でありおそらく70歳は超えているだろう。
そして何よりワイリー様のそれよりも防衛ラインは明らかに後退している・・・・失礼だがその髪の毛は壊滅寸前である。
「バグってはいない・・・たまたま近くに来たのでつい来ただけだ」
「ふん・・・!それよりもお前が昨日作ったイスだがこれは何だ~!?足元がガタガタじゃねえか!こんなの売れるわけねえだろ・・・・まったくお前みたいなポンコツに任せた俺が馬鹿だったわい」
本当にイスの足をガタガタ言わせながらダイムは大声で叫ぶ、本当の事なので私は何も言い返さない。
ともあれこのダイムと言う老人は典型的な職人肌な人間で気難しく頑固だが家具を作る腕は確かだ。
彼はただの木の塊を様々な生活の道具へと生まれ変わらせる。
「もう・・・おじいちゃん!今日は休みなんだからこれくらいにしたら?近所迷惑よ!」
「うるせえ!このポンコツが駄目な物作るからだろうが!」
そう言いながら工房の2階から降りてくるのは眼鏡をかけ作業服を着た20代だと私は思う女性・・・ルーテと言うのが彼女の名前だ。このダイムの孫であるそうだ。
「まあでもこのイスも一応、形にはなっているんだからいいでしょう?最初に来た頃に比べたらすごい進歩じゃない」
一応・・・と言う言葉に引っかかるが褒めて貰ったようだ。
まあとにかく今日は休み故にたまたま立ち寄っただけの事・・・ここはそろそろ退散とするべきだろう。
「今日は特に用事もなく来ただけだ。このあたりで失礼・・・」
そう言いつつ踵を返す私であったが・・・・。
「待ちな!てめえがガラクタ作った分のサービス残業をしていけや!」
なんと言う事を言う老人なのだ・・・仕事なら明日またするというのに・・・・。
そう言うとダイムは一抱えもある風呂敷のような物に覆われた荷物を持ってくる・・・おそらく家具なのだろう。
「これを今日、依頼主に届けなきゃいけねえ・・今日休みなんだろ?街をふらつくついでに届けてくれ」
「ふらつく・・・私には」
「じゃあここに住所が書いてあるからな、いいか・・・途中で絶対に壊すなよ!」
完全にダイムにペースをとられる私・・・どうも苦手だ。
どことなくワイリー様にその職人気質がにているのが原因なのかもしれない。
実際にここで働く事になった経緯自体も、店の前を通った所でこの老人に半ば強引に配達仕事を押し付けられたからなのだからどうしようもない。
因みに私とダイムのやり取りを聞いていたルーテだが、彼女は私に助け舟を出さない。
「パンクさん、急なお仕事ごめんね。じゃあ道中気をつけてね~」
この女、最近気づいたがなかなか強かである・・・そして彼女にも頭が上がらない。
紙に書かれた届け先の住所を見て私の顔は青ざめたのだろうか・・・・?口が開いたままその住所から目が離れない・・・。
その住所は我々であるならば絶対に忘れられない場所だったのである。
「おい!このポンコツ!!いつまでぼっーとしてやがる!さっさと行かんか!」
「ぬう・・・了解した!」
ダイムの怒声に追われる様にしてあわてて店を出る私・・・休日と言うのになんともついていないようである。
よりによってあの場所に行かねばならないとは・・・・。
そんな私の目の前をたくさんの車が通っていく、その中にスクーターに乗りピザの配達のバイトに勤しむエアーマンの姿を見つけるがそれもすぐに消えてしまう。
私は荷物を落とさないように気をつけながらも肩を大きくおろし、ため息をつく。まったくついていない。
一瞬、このままとんずらでもしようかと言う感情が芽生えるが・・・イカンイカン!明日の給料日までは我慢だ。
私は首を大きく横に振ると荷物を運ぶべくゆっくりと歩き始めた。