私はこの街から少し離れた・・・と言っても私達が住む基地ほど離れてはいない小高い丘にある場所へ向かう・・・。
そこへ私はゆっくりゆっくりと歩いていく、季節は後一月ほどで春だと言うのにまだまだ寒さが残っている・・自分の吐く白い息を見ながら体が冷えているのか・・・とくだらない思案にふける。
目的の住所についたのは歩き始めて15分ほどの事である。
「いらっしゃいダ・・ス・・!ゲッ・・・あんたは!」
敷地の中からいかにも間抜け面なロボットが飛び出して来る。
「あ・・あんた・・何してるんダスか?」
「・・・仕事だ。押し付けられたのだから仕方があるまい」
あちらはこちらの訪問に明らかに驚いてる様子だった・・・正直、仕事でなければ私だってここには来たくは無い。
「勘違いするなこれは仕事だ・・・痛い目に合いたくなかったら静かにしてろ」
相手を睨みつけ黙らせたのを確認してから私は家のチャイムを押そうと玄関先に立つ。
「あわわ・・ロ・・ロック・・・ライト博士・・・大変ダスよ・・ワイリーナンバーズが来たダスよ・・・」
私に睨みつけられ体を震わす間抜けなロボット・・・確かライトットとか言ったか、何やらあわあわしながら声を出そうとするが私は気にしない。
ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!
正確に私はチャイムを三回鳴らす・・・すると少年の声がチャイム越しに聞こえる。
「いらっしゃいませ、どう言ったご用件で?」
「フン・・・こちらカプア家具店だ。注文した商品を届けに来たぞ」
緊張でやや声がかすれるがいつもの低い声にならないように気をつけながら声を出す。まったくまるで訪問販売の詐欺でもしているかのような気がする。
「は~い、すぐに玄関開けますね」
ガチャッ・・・・・!
目の前の扉が開けられると一人の黒髪が特徴の少年が私の目の前に現れる。
「あり・・・えっ・・!?」
礼を言いかけたが私を見た少年の顔が驚きのあまり引きつる・・・普段の人間が浮かべる表情ではなく単純に驚きの表情である。
私の目の前にいる少年こそが我々の計画を何度も水泡に帰してきた宿敵・・・ロックマンである。
今は家庭用の姿をしているからロックと呼んでおこう。
「あくまで今日は戦いに来たんじゃない仕事だ。それも押し付けられたな・・・」
「そうだよ・・・ね・・・」
荷物を片手で上に上げながら言う私の言葉にロックは微笑む。
私は微笑む彼の耳元に顔を近づけると
「言っておくがこれはあくまでバイトだ・・・まあカプア家具店に悪い感情は抱かんでくれ。ついでまたなにかあったら注文してくれ」
正直、私がいることによって家具店の評判が悪くならないのかすごく不安である。
他人に対しこういう感情を抱くこと自体が私自身驚きであるが。
見たところあの家具店、儲かっているような感じがしない。
自分のせいで働き先のお得意を失うわけにはいかないのだ。
「うん・・・君も大変だね」
「・・・・だな」
そうロックとやりとりをし私達は笑いあう。遠くの方で腰が抜けたライトットが這いずっているが気にしない。
「どうしようか・・・これ以上私が入ると問題だろう。後は任せようか?」
さすがにトーマス・ライトの研究所にワイリーナンバーズが入り込むのは問題だろう。
「いいよ・・・見られて困るような事も何も無いし、それに今日は戦いに来たわけじゃないんでしょ?」
そう笑顔で返すロックに甘いなと言う感情を抱いたが、彼の言うとおり今日は戦う日ではない。
「では・・・あがらせてもらう、お邪魔する」
そう言いロックと一緒に荷物を持ちながら研究所のある部屋に入る。
そこはぬいぐるみやかわいらしいベッドなどがある如何にも女の子の部屋である。
確かロールだったか・・・あの少女の部屋なのだろう・・・しかし今は部屋の主はここにいないようだ。
「今は、ロールちゃんは買い物に行っていていないんだ。だから今のうちに・・・」
そう言い一抱えもあった荷物の包装を解いていくロック。
今まで気づかなかったが私の目の前に広がるかわいらしい机、これを運んでいたのか私は。
「実は今日ね、皆で秘密にしてロールちゃんにプレゼントしようって事になっててね。これがそうなんだ」
「・・・・ほう」
なるほど・・・だからあのダイムも無理やり私を行かせたのか・・・意地の悪い老人の顔を思い浮かべながら私は呟く。
部屋の周りを見渡すとここでの生活が彼らにとって如何に幸せな物かそれが手に取るように分かる。
ライト博士は彼らを自分の子供同然に扱い、一緒に家族として生活していると言う話を聞いた事があったが本当だったようだ。
無論我々も似たような物なのだが・・・しかし彼らは知っているのだろうか人間の都合の為だけに作られ捨てられていくロボットもいるのだと言う事に・・・。
目の前の少年は自分が特別だと言う事を理解しているのだろうか?
・・・・・・そんな考えが喉から出かかったがなんとかそれを押しとめる。
とにかく用事は済んだのでこんな所からは早く出て行きたい。
帰ろうとそのまま玄関に向かう途中で奥の部屋から老人の声が聞こえる。
その声の調子から明らかに相手と言い争っているのが分かる。
「・・・だから!私は反対なのです!戦闘・・・ロボットの量産など!」
「・・・・いえ!そうではありません!・・・力で押さえつけてもそれはいずれ・・・」
あの声が我が生みの親の生涯のライバルにしてロボット工学の父と言われるトーマス=ライトその人なのだろう。
「ごめん・・・最近、ライト博士も忙しいんだ・・・」
少しさびしそうな声で呟くロック。
「・・・・最近どうやら世界各国で戦闘用ロボットの増産が進められているらしいな。おそらくそのことでの口論だろう」
高性能な戦闘用ロボットの氾濫を恐れるか・・・あの平和を愛するライトらしいと言えばそれまでだが・・・。
ピー!ピー!
そこへけたたましい警告音が辺りに鳴り響く。
奥の部屋で慌しい音が聞こえ、そこから恰幅の良い老人が飛び出してくる。先ほど電話で口論をしていたトーマス・ライトである。
「大変じゃロック!どうやらあのカブキマンが再び現れたらしい・・・」
「分かりましたすぐに現場に向かいます。ごめんねパンクもうちょっと話をしたかったんだけど」
「・・・気にするな、いって来るがいい。カブキマン絡みなら兄もそちらに向かうだろう」
部屋から飛び出してきたライトと私の言葉に力強く頷くロック。
急な出動にも不満一つもらさずにラッシュジェットに乗り現場に向かっていくロック。
因果なものであるそれを本来ならば敵であるはずの私が見送るとは・・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・ふむ」
その場に残された私とライトの間には微妙な空気が流れる。
その沈黙を破ったのはライトの方だった。
「君は・・・先ほどの話を・・・」
どうやら例の各国の軍備増強の話をしたいらしい。
「我々の存在を理由に軍備の増強・・・自己の権力を誇示したい者には良いチャンスなんだろうな」
「それで・・・他者を傷つける為だけの多くのロボットが作られる・・・」
ライトはうなだれながら言う。まったくそのきれいすぎる考え方には辟易する。
「つまり・・ロボット工学の父であるあなたは、私のような者は存在してはいけないと言う事だな?」
「違うワシは・・・・」
私の言葉に詰まるライトを見ながら思う。
この男はロックマン同様にあまりにも優しすぎると。
ワイリー様からあまりライトの事を聞いた事は無いが・・・一度だけこう言っていた事がある。
「奴は人間と機械の共存などと言うておるがうわべだけに過ぎん・・・甘すぎるのじゃよ。奴が思っている以上に人間には汚い部分があると言う事を奴は認めたくないじゃろうな。所詮奴も人間の側に立つものよ」
絶え間ない努力により世界に認められるライト、その超人的な才能ゆえに世界に理解されないワイリー様・・・。
かつてはこの二人も友であったらしいが、互いの考えも違いもありその道が交わる事は無いだろう。
ある意味でそれはライトナンバーズと我々との関係そのものと言えよう。
「まあ我らの存在も原因だろうが・・・私の作られた目的を知っているだろう?私は貴方の大切なロックマンを倒す為に生み出された・・・エンカーの兄貴もバラードもフォルテも同上だ。皮肉な事だが平和を守るはずのロックマンもまた新たな戦いの火種となっていると言う側面もあるとも言えよう」
「・・・!つまりワシがロックを戦闘用に改造したのは間違いと・・・?あのままワイリーに世界を征服されていれば良かったと言うのかね・・・?」
「・・・・・・」
その問いには私は答えない・・・答えるべきではないと思う。
「ワイリー様に生み出されワイリー様の為に戦う。それが我々の存在意義だ。それ以上でもそれ以下でもない」
ロックと話す時は抑えられていた事もこの老人を目の前にして次々と私自身が抱く考えが口をついて出る。
いかん・・・これ以上は言うべきではないと思う。この老人でもどうしようもない事なのは分かっているのに言葉が続けて出てしまう。
「やはり貴方は・・・ロックマンの生みの親だな。貴方はどこまでも優しすぎる」
駄目だ・・・この老人を目の前にすると感情が抑えきれない。私のどこかで彼を嫌うようにプログラムされているのか?
「ともあれ・・これ以上は止めておこう。だが少なくとも貴方のやっている事はワイリー博士と違い多くの人々を幸せにしている・・・これは事実だ。正直な所、認めたくは無いが」
さすがにこれ以上は私も耐えられないのでそのまま飛び出すようにライトの研究所を後にした。
彼はトーマス=ライトは私の姿を唇をかみ締めながらもずっと見つめていた。・・・・とても悲しい目で。
私が街に戻ろうと走り始めた頃、天気は急に崩れ始め雨が降り始めた。
途中の道にできた水溜りを私は覗き込む・・・・。
そこには見るも恐ろしい機械の姿が映っていた。
人殺しの為にしか役に立たないそれしか存在意義を見出せない鋼鉄の化け物。
私は水面に浮かぶ化け物の顔に拳をつきたてるが水が揺れるだけで水面には再び顔が浮かび上がる。
心のどこかでこの体に生まれた事を私は呪っていたのかも知れない・・・他のロボットを妬んでいたのかも知れない・・・。
知らず知らずに私はこの世界に不満を持っていた。
自分にはまだワイリー様の所と言う居場所があるのに・・・目的を同じくする兄弟達もいると言うのに情けなかった。
明日には元に戻ろう、明日には忘れよう。そう自分に言い聞かせながら私は拳を何度も叩きつけていた。