「おにいちゃん!もう朝だよ!お仕事遅れるよ!」
私が目を覚ますとフィーネが私を起こそうと体を揺すっていた所だった。
さっきのは夢なのか・・・それにしては妙にリアルな夢であった。
「おにいちゃん・・やっと起きた。私なんだかもう目を覚まさないような気がして心配したんだから・・・」
そう言うとフィーネは泣きそうな目をするが私は心配ないと声をかけフィーネを落ち着かせる。
そして時間を見ればすでに朝の缶詰工場の仕事の時間まで後・・・15分を切ろうとしていた。
「だあぁぁーー!なんてこったー!フィーネいい子にしてるんだぞ!」
そうフィーネに言い聞かせながら私は机の上にあったエネルギーパックを飲みながら急いで仕事場に向かった。
・・・・・結局。
ものの見事に20分ほど遅刻をしてしまい、まだ工場長は話が分かる人物だったので給料のダウンこそ無かったが。
朝の眠気が取れないまま私は缶詰工場にて日中の仕事に従事する事になった。
正直な話、単純な作業である。旧世紀より変わらない専用の機械が缶詰を休むことなく詰めていく。
私はそれをじっと眺めているだけである。
たまにだが不良品が混じっているのでそれを発見しては生産のラインからはずしていく。
それを夕方まで繰り返す。
気がつけばいつものように夕方になりいつものように工場長から今日の日当をもらう。
仕事から帰る道すがら同じ工場で働くおばちゃん達や同じロボットとたわいの無い世間話をしながら道を歩く。
そしておばちゃん達と別れてから、私はダイムの家具の工房で夜が更けるまで働く。
いつものように・・・だがそのいつものがいつまで続くのかそれは私にも分からなかった・・・。
不意にだがこの平穏とやらも一時の者ではないかと不安を覚える。
結果的にだが他所事を考えながら作業をしている事となり脇からダイムの怒鳴り声が響く。
「おい!そこのポンコツ!何ぼうっとしてやがる・・・・そこのあれ取って来い!」
あれと言われても何がなんだか分からんのだが・・・。
とりあえず言われたとおりあれと呼ばれる、木材を持っていく。
「ちったあ、分かるようになったか・・・そうだよこれだ」
正直指を指されたものを持ってきただけなのだが・・・それにしても名前くらいはっきり言って欲しいものである。
「しかし所詮お前もロボットだな・・・。もっと力の強弱を付けねえと駄目だろうが」
「・・・はあ」
私は机の足の部分作りに苦戦をしていた、ロボットの我々には微妙な力加減を制御するのが難しいのである。
と言うが無論、軽く物を持ったりするなど力加減を制御する事はある程度できるが何かを作りながら加減をするというのは元々が戦闘用である私には本来不必要な物である。
それがある種の人間と創られた存在である我々の差でもあった。
「ま、ここに来た時よりかはマシになったがな・・・ここは俺に任せろ」
そう言うとダイムは私の代わりに家具を作り上げていく・・・。
あっという間に家具を作り上げそれに笑みを浮かべるダイムの顔はワイリー様の我々を見る姿を髣髴とさせる。
この2人は分野こそ違うが同じような境地に達した者なのかもしれない。
気づけば時刻は夜の10時を過ぎておりこのまま今日の仕事は終わりとなった。
「パンクさん~ちょっといい?」
そうこの工房の2階から声をかけてくるのはダイムの孫娘、ルーテである。
彼女も苦手な人間の一人であるのだがここで断る訳にも行くまい。
「・・・・何か用ですか?」
私は彼女がいる2階へと上がる、ここの2階は住居も兼ねており丁度彼女とダイムの二人が暮らせる程のスペースがある。
「確か、パンクさんの家って家族が多かったわよね?」
「・・・多いといえば多いが?・・・なんだ?」
「これさあ・・・皆でいただいてくれない?いつもお世話になってるお礼にね」
そう言うと彼女は箱を私に差し出す。中を確認するとチョコレートケーキであった。
「バレンタインまで2日ほど早いんだけどさ~、デモンストレーションで作ったのが結構余っちゃったんであげるね」
「むう・・・兄弟達も喜ぶと思う。ありがたくいただこう・・」
バレンタイン・・・それは恋人同士がお互いの愛を深めるためにチョコやクッキー等お菓子をプレゼントをするという人間達の記念日である。
これは俗に言う義理チョコと言うものなのだろうか・・・?
私としてはそんな物は頭にインプットこそされていたものの正直縁遠い物のであった。
「これ今はいいけど。熱で溶けるかもしれないから食べ終わったら冷蔵庫で保管してね~。
「・・・了解した」
ルーテとの話が終わると私はそのまま基地へと帰ろうと足をやや速めながらも歩いていった。
・・・・・・。
またあの気配である、前にグランドマンに会った時に感じたあの気配・・・・。
しかし今回は私は無視を決め込む、あちらから手は出してこないのなら放って置くのが一番である。
そして気づけば気配は消えていた・・・相手の動向が分からんのが一番癪なのだが。
「おおい!おじょうちゃん~。俺らと楽しくやってかねえ?」
「やめて!通してよ!」
私の進む道の前方から柄の悪そうな男達の声と女の子の声が聞こえる。
「ハァ・・・・・・」
その当事者達を見て私はまたため息を付く・・・・。
柄の悪そうな如何にも小チンピラな風体の2~3人の男達・・・そして彼らに絡まれているのはフィーネである。
チンピラ共はフィーネを取り囲み、にやにやといやらしい笑みを浮かべる。
「兄貴!こいつロボットですぜ」
子分達が一番大柄な兄貴と呼ばれる男に話しかける。
「けっけっ!人間とほとんど変わらないか・・・これほどまで精度が高いとその筋のマニアには高く売れるぜ」
下品でまったく持って下劣な話である。
確か前にこう言った子供誘拐が流行っていると聞いた事がある・・・。
尤もそれらは例の敏腕デカのジョージの活躍によって組織は壊滅、子供達も全員救われたというが。
それをこの組織の構成員とも思えないチンピラ共は真似をしようとしているのだろうが・・・?
「おい!いい加減にしておけ。怖がっているだろうが・・・」
「なに~!」
私の声にチンピラが反応する。
「このガキは俺の服を汚しやがったんだぞ。この服はな5万ゼニーもしたんだぞ。それと慰謝料も含めて10万お前に払えるのか~?」
そう言いながらアイスクリームで汚れた服を見せるチンピラ・・・どう見ても5万もするような服に見えない。
「あ、クリーニング代も含めて20万な!」
げらげらと笑う男達・・・尤も人間の負の部分を剥き出しにする人間に対し私は元の・・・本来の姿に戻れるような気がした。
「そうか・・・な~に、クリーニングも服の染み出しも気にする事も無いぞ・・。今からお前達の血で服を染めてやるからな・・・!」
そう言い放つと私はわざと大股で歩きながらチンピラ達に近づく・・・・。
ようやく彼らにも私の姿が分かったようだ。
「・・・・・な!お前戦闘用ロボットか!」
「20万分、体で払ってやろう!お前達の体に直接なああぁぁ!」
体から一切の手加減も無く怒気を振るい出す私・・・・。
ボキン!ボキン!
私の金属の指が音を立てる・・・。
「さあ!じわりじわりといこうか!足か?それとも手からの方がいいか?」
「ヒイィィーーー!冗談じゃねえ!ずらかるぞ!」
「あ、兄貴~!待って~!」
兄貴と呼ばれた男が逃げ出すと同時に男達も一斉に逃げ出す・・・所詮は弱者としか戦えない臆病者の集まりである。
「もう大丈夫だぞフィーネ」
「お・・・お兄ちゃん」
体をガタガタと震わせるフィーネ、無理も無い・・・ロボットと言っても彼女は人間の少女と殆ど変わりがない。
「だが・・関心はせんな。こんな時間にしかもこんな裏道を出歩くとは・・・・」
「お兄ちゃんを迎えに行こうと思ったの・・・・」
どうやら私の帰りが遅いので迎えに行ったものの道がわからず迷ってしまい。
基地に電話をしようものの自動販売機でアイスクリームも買った為に手持ちのお金が無くなってしまい。
裏路地に入ろうとしてさっきのあのチンピラ達にぶつかってしまった・・・と言う事だそうだ。
「私なら大丈夫だ・・・それ、私の肩は・・・トゲが危なかったな。背中に乗るといい・・」
「うん、ごめんねおにいちゃん・・・」
「気にするな、だが次は気をつけるんだぞ」
フィーネは私の背に乗ると疲れからかそのまま眠りへとついてしまった。
「おにいちゃん・・・大好き・・・」
すやすやと寝ながら寝言を言うフィーネ・・・今のこの状況と私の姿はいささかギャップを禁じえないな・・・。
私はそのままフィーネを背負い、ルーテから貰ったケーキを持ちながら基地への帰路へと着くのだった。