かつてキングと言うロボットが人類に対し反旗を翻し戦いを挑んだ事件は記憶に新しい。
その事件はロックマンと成り行きとはいえ共闘に応じたフォルテの二人が中心となり事件は終結を迎えた。
もっとも廃墟と化した要塞からはキングの残骸は結局発見されず、中にはキング生存説も噂にはあがったが平和なときは流れそのままいつしか人々の記憶からは忘れ去られていった。
また一部ではこの事件そのものもワイリーが首謀者として起こした事件なのではないかという噂もあがった・・・・・まあ半分は本当なのだが。
「つきましては拙者をワイリーナンバーズに復帰させていただきたい。その為には拙者どのような辱めも受けまする」
「・・・・はて?どちら様かのう?ワシはお主の様なロボットを造った覚えはないんじゃが・・・」
一体の天狗の姿を模したロボットが一人の老人に哀願をしていた。
しかしロボットの必死さとは裏腹に老人の態度は冷淡そのものだった。
それもそのはずテングマンはあろう事か生みの親であるワイリーを裏切りキングの軍門に下ったのである。
「ワシなんかよりも頼りになるキングの所へ行けばいいじゃろう・・・どうせ奴も今もどこかで生きておるわい」
「せ・・拙者の居場所はここにしか・・・・!」
間も変わらず冷めた目でテングマンを見つめる、自称悪の天才科学者アルバート=W=ワイリーの様子を壁にもたれながら見ているエンカーは他人事ながらも思案も巡らさせていた。
「あーあー・・・・こりゃワイリー様カンカンだわ」
普段から怒ったり泣いたり・・・喜怒哀楽の感情を表に出すワイリーがまるで冷め切った様な表情でテングマンに応対している。
人形の様にピクリとも表情が変わらないワイリー・・・・怒りという感情を通り越し、真の意味での激情に身を震わせているのだとエンカーは知っていた。
そんな生みの親の姿はナンバーズの中で古株の彼ですら2、3回ほどしか見たことが無い・・。
ポリポリッ・・・・。
後ろ手で頭の裏をかきながらエンカーは思う。
あの時のテングマンの気持ちも分からないものではないと・・・だからこそ。
「しかしこいつのやった事は重大な裏切り行為です・・・がこいつのロックマンに勝ちたいという気持ちは汲んでやったほうがいんじゃないですか?」
エンカーがようやく口を開きテングマンを擁護するがワイリーはちらりと横目で彼を見ただけであった。
「・・・だがこやつはワシばかりではなくお前達をも・・・・」
「ロックマンに勝つためなら手段を選ばない!・・・それは我々のある意味でのサガです。例の悪のエネルギーにとりつかれた博士だってそうだったでしょう?」
ワイリーは痛いところを突かれ唸っていたがそれでもまだ納得いかんとした表情だった。
「こいつはある意味、俺達ナンバ-ズとして当たり前の事をしただけです。そういう気持ちは俺が一番良く分かっている事を博士はご存知でしょう」
ロックマンキラーズ・・・世界征服を目標とするワイリーナンバーズにあって、ロックマンという一つの目標を倒す為だけに生み出された存在。
エンカーはキラーズとして最初に生み出された戦闘用ロボットであり生まれた当初、ロックマンの事しか頭に無く彼を倒す事、それ以外の事は考える事すらしなかった。
もっとも長い時間活動するにつれ勝手に和風の文化に目覚めていったのだが。
「それにこいつはまだ若い、まだまだ潰すには早過ぎると思います。お願いします博士!一度死んだと思いもう一度だけこいつにチャンスをやってくれませんか!」
かつてはプライドも高く他人を見下していたエンカーがワイリーに向かって土下座をしたのである。
それにはワイリーだけでなくテングマンも驚愕した。
エンカーもかつてとは違っていた、彼はロックマンに度重なる敗北を続けた。
自分自身のプライドだけの為に戦うだけのエンカーに、その小さな肩に世界の希望を背負う彼に勝てなかった・・・いや勝つ事すらおこがましかったのかもしれない。
かつてのスペースルーラーズ事件の際、ロックマンに破れ崩壊する基地と共に運命を共にしようとしていた彼を助けた者・・・・それは同じく傷つきともに戦ってきた仲間達だった。
その時エンカーは悟った、何故自分がロックマンに勝てなかったのか・・・幾度となく倒れても何度でも立ち上がる彼のその決意を・・・・。
それ以来エンカーは他のナンバーズ達との付き合いも良くなりシャドーマン達と「和風同盟」なる訳の分からないものまで結成するまでになった。
そしてテングマンも悟った、他のナンバーズたちを見下し力だけを求めキングの元へ走った己の愚かさ、他者を見下すが故にいつの間にか自らがかつてのエンカー同様「井の中の蛙」になってしまっていた事を・・・。
「拙者・・・一度死んだと思い、再び失われた信頼を取り戻すべく今一度機会をお与えください!」
そしてエンカーに続きテングマンはワイリーに対し土下座をしたのである。
「・・・・フン!そんなに言うならエンカーの顔に免じてチャンスをやろう。ただしこれから半年・・・この研究所のゴミ掃除でもしてもらおうかの?そこら中散らかっとるからお掃除ロボでも造ろうと思っていたところじゃった」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
テングマンは平伏したまま何度も何度も頭を下げるしかなかった。
エンカーはテングマンと目が合うと笑みを浮かべた。
ワイリーもまた表情には出さなかったが内心ホッとした・・・互いを庇いあう自分の息子達の姿に感動していた。
(・・・なればこそやらねばならん。・・・キングのせいでしばらく間が空いたと言うブランクはあるが今開発中の「あれ」さえ完成すれば・・・その時こそライトと憎き奴の最後だ)
ワイリーは再び世界征服と言う大いなる野望に身を焦がし始めていた。
辺りにはけたたましい機械の音と油の臭い、さらには一瞬むっとしてしまうような異臭を放つ蒸気が吹き出していた。
そこに溜まるガラクタや鉄屑を集め、種類別に分ける作業をしている一体のロボットがいた。
テングマンだった。ガラクタや鉄屑を種類別に分けるのは貧乏なワイリー軍には必要不可欠であり何よりその中にはまだまだ使えるパーツも多い。
元より作業用ではないテングマンにとってこのような場で作業するのは苦痛以外の何者でなかったはずである。
しかしテングマンは必死であった・・・・失った信頼の事を思えばこのようなもの苦にもならなかった。
そして何より・・・。
全身真っ赤に染め上げいかにも強面のロボットと石でできた巨人の風貌のロボットの2人がテングマンに近づいてきた。
「今日もはりきってんな!こっちの重い物は俺が持っていくぜ」
「ふむ・・・・ではこちらの分別した物は私が持っていこう」
同じナンバーズであり石巨人のようなロボット、ストーンマン。そしてエンカーと同じキラーズでもある強面のロボット、パンクであった。
「む・・・かたじけない」
素直に礼を言うテングマン・・・彼らだけでないこの基地にいるロボットのほとんどがこうして暇さえあればテングマンを手伝ってくれる。
最初の頃、仕事の要領も分からず、戸惑い気味のテングマンを尻目に作業用の機械から出されるゴミはドンドン溜まっていった。
困りに困ったテングマンはジャンクマンに頼み込み自らゴミの分別や処理といったノウハウを学び始めたのである。
同じナンバーズでも最初はエンカーぐらいしか手伝ってくれる者もいなかったが、黙々と真面目に働くテングマンの姿を見て周りの評価も次第に変わっていった。
あのプライドばかりが高いテングマンが他人に頭を下げる、礼を言う、挨拶を言う・・・・。
自分の力では無理な物は他のナンバーズに協力を頼み、また困難な作業も最後まであきらめずそれが終わるまで絶対に作業を終わらす事は無かった。
・・・・それから半年後、ついにワイリーから提示された期間が過ぎようとしていた・・・・。
そしてそれを記念すべきテングマンのパーティがワイリー基地では開かれていた。
パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!
何事かと目を見開くテングマンの鼻にクラッカーの紙が垂れ下がる・・・。
そこには手書きの文字で「お帰りなさいテングマン」と書かれた横断幕がでかでかと壁にやや不恰好ながら貼ってあった。
「ふぃーー!ようやく今日新型のロボットができてな、明日からその清掃用のロボットが本格的に動くのでお前の仕事は今日で終わりじゃ」
腕を組みながらややばつの悪そうにワイリーが口を開く。
「・・・フン!お前の様に要領の悪い奴にいつまでもやらせておられんと言うことじゃ!むしろゴミが増える一方じゃ・・・しかしなテングマンよ」
テングマンの肩に手を優しく置いたワイリーは
「この半年間よくぞ耐えてきた。ワシには分かるぞどんだけお前が苦しかったか・・・正直ここまでお前が持つとは思わなんだ」
「そしてお帰りテングマン。またワシの為に働いておくれ・・・・」
「は・・・博士・・・・!」
テングマンは目頭が熱くなるのを抑えながらも集まってくれた他のナンバーズに礼を述べた。
「燃える・・・・この展開燃えるよ!!キャハハハ~!!」
ヒートマンが気合を上げながらも大声で叫ぶ!
「馬鹿!お前!こんな所で火を出したら・・・!」
スネークマンが慌てるが時すでに遅し、ヒートマンの炎はテングマンを歓迎する横断幕を燃やしつくし
さらまだ残っていたクラッカーやこの後、屋上でしようととっておいた花火に引火。
まるで戦場のごとく火花が飛び交い、そのうち一発がワイリーに当たりワイリーの数少ない髪に火がつき
フリーズマンとフロストマンが火を出し続けるヒートマンを止めるべく実力行使に出始め。
そこをさらに遅刻して来た為に慌ててやって来たパンクが部屋に穴を開けて進入してきて
アストロマンは一目散にその場から逃げ出し・・・そんなパニック状態の中、パーティの主役のはずのテングマンは
パンクの突進を喰らい気絶し倒れたジャンクマンに押しつぶされ伸びていた・・・。
すべてが収まった後、全員がボロボロの状態で肩を合わせて笑っていた。
もはやかつての不遜で高慢なテングマンはどこにもいなかった・・・・・。
・・・・のはずだったのだが・・・・。
とは言え人間・・・ではなくロボットだが・・・基本的な性格は相変わらずで
かつてに比べ人当たりも良くなりナンバーズの仲間と遊びに行くのも多くなったのだが。
その話す内容のほとんどが自身の自慢話やうんちくの話が8割をしめておりそれ以外ではゴミの分別での細かい話などであり。
いい加減、同じワイリー軍団の仲間内ではうんざりされているのである。
そのうえ、こちらが相槌を打つ暇もなく喋り続ける・・・・
もしかしたらこれがテングマン本来の姿なのかもしれないのだが・・・・。
・・・そして現在。
エンカーは自慢げに今回の歌舞伎を見に来た意義などを延々と喋り続けるテングマンを見ながら頭を抱えていた。
「・・・・やっぱりあの時、助けたのは間違いだったのか?」
後悔後先とは先人はかくももっともな言葉を残したのかとエンカーは頭を抱えながら思っていた。
そして空はそんなエンカーの気持ちとは違い晴れ渡っていた・・・・。