「おお・・・!!これが手作りのチョコ・・・」
メタルマンの感嘆とした声が基地に響く。
メタルマンに渡された物はちょうどメタルマンのそれと分かるように彼の顔をあしらった形となっていた。
他のナンバーズの物も彼らの顔を模した形のチョコとなっておりそれぞれフィーネの手から直接渡されていった。
ちなみにあのアストロマンも忘れられておらず貰った時には滝の様に涙を流しながら例を言いそのまま別空間へと姿を消してしまった・・・。どこまでも恥ずかしがりやな奴である。
「エンカーおにいちゃんどうぞ」
「バレンタインなんて貰って喜ぶような歳じゃあ・・・・」
甘い物は和風の物しか受け付けないと公言している兄はバレンタインなぞ何処吹く風、独り寂しくお茶をすすっていたのだが。
フィーネから包みを受け取る兄はあまり期待しないような顔であったが、包みを開けた瞬間目を大きく見開く。
「団子・・・・?チョコで包んでるのか?」
「ロールおねえちゃんが、エンカーおにいさんは和風の物じゃないと受け付けないって言ってたから頑張って作ったんだよ」
私から言わせて貰えば団子をチョコでコーティングするのもどうかと思う・・・見てるだけで兄は腹が痛くなってきたぞ、妹よ。
恐る恐る手を伸ばし団子を口に入れる兄・・・無理はしなくてもいいのに。
「・・・・・・・・」
「どう?おにいちゃん?」
黙る兄にフィーネは心配そうに顔を覗き込む。
「正直な所・・・俺はチョコが嫌いだが食わず嫌いだったのかもな。おいしいよ」
おいしいと答える兄にフィーネは喜び兄にそのまま抱きつく。
「だけどなフィーネ次からはまんじゅうかアンパンにしてくれよ」
「チョコは嫌いって言ってたからちょっと不安だったんだ。うん、今度からそうするね」
そのまま兄は次々と団子をほお張りあっという間に食べてしまう。
ギイィィーーーーー!
不意にドアが開けられ顔を出すのは件のトラブルメーカー。
「拙者のチョコは何処でござるか・・・・?」
招かれざる客・・・テングマンはそう言うと真っ直ぐにフィーネの元へと向かう・・・と意外にすんなりとフィーネからチョコを受け取る。
それは他の奴のチョコと違いちゃんと「鼻」が再現されており立派なできであった。
「おおーーー!これはこれは拙者の鼻が完全に再現されおりまする・・実に素晴らしい出来ですな」
「この鼻を作るのに大苦戦したんだよ、ちょっと曲がっているけど私、頑張ったの」
これでこの基地にいる全ナンバーズの分を配る事ができたはずである・・・・。
私は一応の成功を収めたこのバレンタインにホッと胸をなでおろす。
「あ、パンクおにいちゃんの分はこれなんだ」
そう言うとフィーネは包みから私のチョコを出す・・・それは明らかに他のナンバーズの物より大きく。テングマンの鼻なぞ霞んで見えるくらい精巧に作ってあった・・・。
「あー!なんでパンクの奴だけ大きいんだよ!」
それを見たメタルマンが悲鳴を上げる。
またしても他のナンバーズ達にもみくちゃにされる私、むかついたのでさっさと食べる事にした。
「フン・・・・だったら来年は彼女に頼めば良かろうが・・・!」
ぼりぼり食べながら私はメタルマンに悪態をつく。
「確かにフィーネの奴はお前になついているからな、俗に言う本命って奴だな」
腕を組みながらストーンマンはうんうんと勝手にうなづき始める。
「うん、私パンクおにいちゃんだーい好き!」
「くうぅーーー!やっぱり本命か!表へ出ろパンク!どっちがこの基地で赤い色が似合うロボットかフィーネの目の前で決着をつけるぞ!」
そんなに本命のチョコとやらが欲しいのならちゃんと面倒を見ればいいのだろうに・・・いや既にメタルマンの言っている事はもはや意味が分からない。
そんな私達が騒いでいるのを横目にテングマンはフィーネからのチョコを目の前に夢見心地だ。
「拙者の為のチョコレート・・・フフフフ!世界でたった一つのバレンタインチョコ。まずはこの鼻からいただきましょうか・・・いやいやそれとも」
しかしその時、普段の奴の空気を読まない行動の報いかテングマンに悲劇が起こる。
「ねえ・・・食べないの?じゃあ僕食べるよ」
いつの間にかテングマンの隣に立っていたヒートマンはテングマンを模したチョコの鼻を掴むと自らの熱で溶かし、それを口に入れ始める。
「あー拙者の鼻が!いやいや拙者のチョコの鼻が!・・・違う違う!チョコの拙者の鼻が!」
ドロドロ溶け始めたチョコを慌てて口に入れるが熱かったのだろうゴホゴホとテングマンはむせ始める。
「あれ?食べるの?なーんだ」
ヒートマンはまったく罪悪感を感じていないのか溶けたチョコを指でいじるとそれをなめ始める。
「フフフフフフ・・・・!ヒートマン殿!いくらなんでもそれは酷くはありませぬか!」
そう言うとテングマンの目に殺気がこもる。
・・・・・・それからはいつもの通り。
怒ったテングマンのトルネードホールドをヒートマンは避けるがその直線状にいたナパームマンを吹き飛ばし、その衝撃で暴発した火器がストーンマンに当たる。
そのストーンマンがバランスを崩しそれに異空間から帰ってきたアストロマンを下敷きにする。そうこうする間にテングマンはヒートマンに掴みかかる。
エアーマンがそれを止めようとするが酒に酔ったメタルマンに泣きながら足をつかまれ阻まれ転倒と騒ぎは更に大きくなる。
因みにだがシャドーマンはいつの間にか姿を消していた・・・。
既に部屋から退室していたマースは除き、兄のエンカー、私、プロトの翁以外のナンバーズによる大乱闘となってしまったのである。
「喧嘩は駄目だよ・・・ねえ、喧嘩は・・・・」
フィーネはうろたえながら周りを止めようとするが誰も彼女の声は聞こえない。
「ガキの喧嘩だな・・・・」
「いい歳して恥ずかしいのう・・・」
止めるつもりはまったく無いプロトの翁と兄は一緒にお茶に飲みながら静観を決め込む。
「フィーネ・・・駄目だぞ。ここは私が・・・・」
私は声をかけるがそれは彼女には届かない。
「喧嘩は・・・ダメエェェェーーーーーーーーーー!」
小さな彼女の体からは信じられないほどの大きな声で部屋にいる私達を一喝する。
取っ組み合いまでに発展していた他のナンバーズ達も目を点にしてフィーネを見る。
「せっかく・・せっかく!私、バレンタインだから頑張ったのに・・・頑張ったのに!」
肩を震わせるフィーネ・・・その目からは次第に涙があふれ始める。
「皆に仲良くして欲しいから・・・喜んで欲しいから・・・ロ-ルお姉ちゃんに教えてもらったのに・・・」
「す・・・すまん、お・・・俺らが悪かったからさ。な!フィーネ、ほら俺らは仲良しだぜ」
完全に酔いが覚めたメタルマンはばつの悪そうに言うがそれでフィーネの怒りは収まらない。
「ひっく・・・そんなに・・・ひっく・・仲良くしないならもう私、バレンタインチョコなんて作らないんだから!」
涙で目を赤くしながらメタルマン一同を睨みつけるフィーネ・・・あまりのすごさにメタルマン達は一歩程、後ずさりをする。
「・・・ひっく、・・らい・・・みんな!みんな!大きっらい!ウワワァァァーーーン!」
涙で声をかすれさせながらフィーネは言い放つとそのまま部屋を飛び出し、出て行ってしまう・・・。
「あーあー・・・怒らせちゃった。ああ言う女の子を怒らせると後が怖いんだよなあ・・・」
メタルマンは頭をポリポリかきながら言う・・・実際彼はうるさかっただけで大した事はしていないのだが。
「拙者のせいですな・・・むううぅ・・。しかし先にやったのはヒートマン殿の・・・いかんいかん、これではまた喧嘩に・・」
フィーネの剣幕のせいか珍しく反省するテングマン・・・乱闘騒ぎの末、情けない事にその鼻は折れている。
「僕のせい~?でも泣いてる女の子も燃えるねえ・・キャハハハッ!」
そしてまったく反省していないヒートマン、彼を怒鳴りつけたくなるがフィーネの泣き顔が浮かぶとそれもできなくなる。
途中まで成功であったバレンタインの夜も最悪な雰囲気のまま終わろうとしていた。
「ガキだねえ~・・・」
「そう言うなエンカー、誰だってやんちゃな時はあるんじゃよ・・・」
重苦しい空気の中、蚊帳の外の兄とプロトの翁の声が虚しく響いた。
コンコン!
私はフィーネの部屋のドアを叩くが反応は無い・・・・。
耳を澄ませばフィーネのすすり泣く声だけが聞こえる。
どうしたものか、こういう時どう言葉をかければいいのか私には分からない。
戦闘用の私にこういう時にどう対応すればいいのかそんなプログラムはインプットされていない。
こういう時あのロックマンならばどう行動するだろうか・・・・。
同じ様に妹を持つ彼ならば・・・そんなくだらない考えが私の頭をよぎる。
「私はもう寝るからな・・・今日のチョコおいしかったぞ」
どう言葉にして良いのか分からない私は率直にそう言うと彼女の部屋の前から去る。
我ながら不器用な言葉である・・・・。
そんな私の心とは裏腹にその日の夜の空は星々を綺麗に写していた。
何光年も離れた星の光・・・昔から変わらない光を私は溜息をつきながら見上げていた。