「ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
私の体に抱きつき、謝り続けるフィーネ・・・。
さすがにあれだけの騒ぎを起こしてすんなりと逃げ切るのは不可能であり、我々は街の各所に造られたロボットポリスの包囲網をかいくぐりなんとかこの基地まで逃げ切る事ができた。
全員の無事を確認し終えた時には日付も変わり太陽が昇りかけていた・・・・・。
「気にすることは無い。我らは当たり前の事をしたまでだ」
「あたりまえ・・・?」
私の言葉にフィーネはきょとんとした表情で私達を見る。
「そうだ。我らはワイリーナンバーズ!!偉大なる天才科学者アルバート=W=ワイリー様により生み出された兄弟だ。兄弟が危機に陥った時に助ける理由などないだろう?」
「くせえぞパンク!お前らしくなく熱いじゃん・・・」
メタルマンが茶々をいれるが気にしない・・・。
「ナンバーズ・・・兄弟。でも私は皆の事・・・その・・」
「そんな事なら気にするな。テングマンとかはいっつもこんな事してるんだよ」
フィーネを慰める様にエアーマンが声をかける。
そこに慌ててテングマンと彼に引っ張られたヒートマンがフィーネの前に進み出る。
「むむむ・・・拙者のせい・・・?あれはそもそもヒートマンのせいであるのだが・・。ええい!!ともかく拙者のせいで騒ぎを大きくしてしまい誠に誠に!!この通り許してくだされ」
「キャハ・・・!!なんだか良く分からないけど謝るねえ~。来年もチョコでねちょねちょしたいからさあ。ごめんねえ~」
頭を下げ謝るテングマンとまったく反省していないが一応謝るヒートマン。
そんなヒートマンに苛立ちまたしても彼に掴みかかるテングマン。しかしヒートマンは自身の体の全身を炎で包み込み、逆にテングマンを黒焦げにしてしまう。
プスプス音を立て足を痙攣させながら横たわるテングマン・・・・。
それを見たメタルマンが酒が入っているせいもあるのか地面を叩きながら笑い出す。
私とフィーネは顔を見合わせるとプッと頬を膨らませたと思えばついに耐え切れず息を吐き出す・・・。
それはいつしかその場にいる全員の笑いへと変わる。
ようやく・・・バレンタインで尾を引きずっていた気まずい雰囲気を全て吹き飛ばす笑い声であった。
黒焦げとなったテングマンはある意味でやられ損ではあるのだが・・・・・。
フィーネ誘拐事件もといドフォーレファミリー襲撃事件の一件から一週間ほどの月日が流れた・・・。
その間フィーネは持ち前の明るさを取り戻しいつもの天真爛漫な彼女に戻った。
ある種、兄の入れ知恵なのだろうか?我々に対しても言いたい事ははっきり言うようになり、時にはわがままに我らに反抗もある程度するようになった。
それが彼女本来の姿なのだろう、我々はそれに手を焼きつつも充実した毎日を送るようになっていった。
「おにいちゃん~お弁当忘れてるよ~!!」
今日も元気なフィーネの声が響き渡る。
最近どうやら勝手にまたロールの所へ行ったらしく、そこで学んだと言うお弁当を仕事に向かう私達に毎朝配るのが彼女の日課となっていた。
「・・・むう。すまん慌てすぎたようだ」
「はい!!気をつけてね!!」
弁当を受け取るとフィーネの見送りを背に私は街に向かい駆け出す。
その日、工場での仕事を終え。私はいつもの様にダイムの工房へと向かう。
いつぞやの男がやって来て以来ダイムの様子が少しおかしいが彼が口を開かない以上、真相を知る事はないだろう。
時とは非情な物、いきなり私の目の前にダイムは立つとこう一言告げる。
「お前・・・明日から来なくていいぞ。クビだ!!」
「・・・・・」
いや本当にいきなりだった。正直こちらにクビになるほど不備を起こした事は無い。それならばなぜ・・・?
「お前のようなポンコツの面倒を見るのは正直もう勘弁だ!今日までありがとうな・・ホレ!!これは退職金代わりに持っていけ!!」
そう言うとダイムは金が入っていると思しき封筒をこちらに投げるようにして渡す。
「いきなりのクビには何か理由でも・・・?」
私としてはいきなりのクビを宣告されて黙って引き下がる訳にはいかない・・・。
「うるせえ!もともとワシはロボットなんざ大嫌いだったんだ!!たまたま気まぐれで気をかけてやったら調子に乗りやがって!!ワシの前に二度と姿を現すな!!この機械人形が!?」
機械人形・・・それはロボットの事を侮辱した言葉である。
「・・・・・・・了解した。そこまで言うなら辞めてやろう!!そんなはした金はいらん!!世話になったじゃあな!!」
その言葉に私は怒気を隠そうとせずにそのまま工房を後にしようと踵を返す。
上の階から慌てるような音と共にルーテが降りて来る。
「おじいちゃん!いくらなんでも・・・!!」
「うるせえ!!ここはワシの工房だ!嫌ならお前も出て行け!!」
お互いの顔を合わせにらみ合う二人・・・それにとうとう耐えられなくなった私は声を上げる。
「・・・もういい!!私は出て行く!!ではな・・・」
そう言うと私はそのままダイムの工房から出て行く・・・・。
理由は分からない・・だが二度とここには来れないそれだけは確かなようだった。
それから私はダイムの工房に立ち寄ることは無くなったが、それでも日々の生活が忙しい事に変わりはない。
そして気づけば五日程の時間が過ぎていた。
「やあ・・・君はダイムさんの所のお手伝いだよね?」
工場の勤務が半日で終わりローズの店で休憩をしていると一人の老紳士が私に声をかける。
「・・・あなたは確か」
この老紳士には見覚えがある。前に何度かダイムの工房を訪れているお得意様の一人である。
なんでもかつての上流階級の流れを組む。かつては貴族の位も得ていた名家であったそうだ。
現在は没落しインテリア関係の仕事をしていると言っていた・・・だからなのかこの老人の顔ははっきりと覚えていた。
「いやぁ、ダイム君とは古い付き合いでね。あのロボット嫌いの彼が君を雇ったと聞いたときは本当に驚いたよ」
ロボット嫌い・・・・?そんな事は一度も聞いたことは無い。
私は既にダイムの工房をクビになっている事を話すと老紳士は残念そうな顔をし目を伏せる・・・・。
「差し支えなければ教えていただけないでしょうか・・・工房の親方の過去を。そしてあの時来たあの男の事も・・・」
「そうだな君には聞いてもらったほうがよさそうだ・・・だがあの男とは?」
老紳士に前にダイムと言い争っていた男の話をする。
「ふむふむ・・・なるほどねえ彼か・・・。まあそれはさておきまずは何を話そうか。そうだな彼の生い立ちについて・・・」
老紳士はうなづきながら私にダイムの過去を話し始める。
かつて若くして名工とまで言われるほどの技術を持つ若者がいた。
彼の作る家具は命を吹き込まれたかのようにそれはそれは見事な物だった。
彼の工房には同じ道を志す多くの仲間や弟子達が集まり日夜、自らの技術を磨かんとしていた。
・・・・しかし、そんな彼らの時代も終わりを告げる。
一人の科学者が多くの苦労と挫折の末、生み出した機械・・ロボットと言われるものが現れてから彼の運命を大きく狂いだす。
当初こそは名工と言われる者のレベルの物をロボットが造れるはずも無くまだお互いの共存ができていたと言えよう。
しかし彼らはロボットは違った・・・一度見たものならある程度の模造もできるし。自分の判断で作業をする事もできる。
脅威としか言い様のない作業の精度を持つロボット達に人間が太刀打ちできるはずも無く。
あっという間にそういった職人などと言われる人間は淘汰されていった。
そして若者の工房からもその現実から挫折し一人、また一人と人が去っていった。
その若者ほどの腕を持っていればこの競争にも打ち勝つ事ができたのかもしれない。
しかしそんな人間が五万といるはずも無くいつしか若者の工房は寂れていった。
その後、彼はロボットを嫌い世界に背を向けた・・・それでも自らの道を捨てる事だけはしなかった。
彼は仲間も家族も・・・誰もいなくなった工房で一人働き続けた・・・・。
その彼こそがあのダイムだったのである・・・。
「まあ歴史の流れと言うもので・・・仕方の無い事ではあるのだがねえ」
老紳士はそう言うと紅茶をすすりながら胸に溜まった物を吐き出すかのように息を吐く。
「つまり親方は我々に仕事を・・・居場所を奪われたと言う事ですか?」
「まあ・・・単純に言えばそう言う事になるが・・・それ以上にね」
私を見つめる老紳士の顔はますます陰りが見える。
「ダイム君に会っていた人物の話だけどね・・・ほらあそこがその男の会社だよ」
老紳士が指を指す方向に顔を向けると大きなビルが目に付く・・・たしかあそこは?
「あれはカプアコーポレーション。家具を取り扱う一流メーカーさ。うちも利用しているがね。でその社長の名前がウォーレン=カプアさ」
カプアコーポレーションとは世界でも有名な家具メーカーだ・・・作業用ロボットを使いその高い生産性と技術を持ってかなりのシェアを誇る。
たしかうちの基地にある机のいくつかもそこのメーカーだったはずだ。
そこの会社の名前に私は少し違和感を覚えていた。
「もう分かっていると思うけど・・・社長のウォーレンとダイム君は親子だよ」
「やはりか・・・・」
老紳士の言葉に彼も含め私も深い溜息をつく。
そのウォーレン、ロボットの登場により現実に挫折しカプアの工房を去っていった者の一人である。
そして数年後、彼はかつて学んだ家具を作る技術を利用しそれを作業用のロボットに学ばせる事により、自ら立ち上げた小さな会社は他社のメーカーに勝る精度を誇る企業へと成長させる事ができた。
カプアコーポレーションの台頭は細々と経営を続けていたダイム含め多くの技術者の止めを刺したことに変わりない。
自らが頑なに守って来た居場所を最終的に実の息子に奪われる形になってしまったのだ・・・これほどショックな事もあるまい。
私は過去を知る前からダイムにワイリー様の姿を重ねていた。
その天才的な頭脳ゆえに世界に認められず何度も己の野望を達成しようとしたワイリー様。
類まれな技術を持ちながら時代の取り残され繁栄する世界に背を向けたダイム・・・。
この二人は目指す道は違えど一緒にタイプと言える。
「おっと、そろそろ次の仕事の時間だ。まあ君もそんなにダイム君を悪く思わんでくれ」
そう言うと老紳士は踵を返し街の大通りへと消えていく。
そしてその場には私だけが取り残される。
私は常にロボットは人間により使役され搾取されるものだと思っていた。
しかしダイムの様に我々に居場所を奪われた者もいるのだ・・・我々もダイム達から見れば加害者なのだろう。
ローズに代金を払うと私はそのままダイムの工房へ向けて歩き始める。
どうしても彼の口からもう一度だけ聞かなければならない事がある・・・・。
私はダイムの工房の目の前に立つと息を整える・・・・正直かなり緊張している。
そしてそのまま工房の中へと入る。
「親方・・・親方はいるか?」
「・・・・・・・・・・」
私に答える者は無くただあたりには静寂が支配しているだけである。
「・・・よう、また会ったな」
静寂を破るその言葉に私は振り返る。そこにはいつぞやのスーツを着た男が立っていた。
ダイムの息子にして先ほど話題に出たウォーレン=カプアその人である。
「親父はいるか?」
「いや・・・私もさっき来たばかりだ」
男の問いに私はばつの悪そうに答える。正直この男がいるとダイムに事の次第を聞くのが気まずくなるのだが・・・。
「いつもなら俺が入った途端に怒鳴り返すんだが、静か過ぎるな」
「確かに・・・妙だ」
そのまま私達二人は工房の奥へと進む・・・・私達の不安は的中した。
「お・・・親父!!」
工房の奥で倒れていたダイムにあわてて駆け寄るウォーレン。
その顔は死人のように青白く、息も絶え絶えであった。
「お・・・おい!!親父しっかりしろ!!きゅ・・・救急車!!早く」
「・・・わかった!!」
ウォーレンの声にはっとなり私は工房の2階にある電話から救急車を呼んだ。
それからは慌てすぎてあまり覚えていない。
気づけば搬送されるダイムと一緒に救急車に乗り込んでおりそしてそのまま病院の手術室の前でウォーレンと一緒にダイムが手術室から出てくるのを待っていた。
「親父はな十年ほど前から心臓を悪くしていてな・・・」
ウォーレンは夕日が射した空を見ながらぼやきがちに言う。
「歳だっての・・・良い病院に入って養生すりゃもっと長生きもできるのに。あの頑固親父、首を縦に振りやがらなかった」
おそらくダイムはこれを口実に工房を奪われるのでないか疑心暗鬼になったのだろう。
「いつ倒れても大丈夫なようにと勉強もかねて娘のルーテを行かせていたのに・・・」
ウォーレンは頭を抱え溜息をつく。
「お父さん!!おじいちゃんは!?」
場の雰囲気も気まずく病院に来る患者の数を気晴らしに数え、五十六人目を数えようとしてた時・・・・。
いつもの作業着とは違い、今時の女の子が着る服に身を包んだルーテが私達を見つけて駆け寄る。
「まだ手術中だ。正直どうなるか分からん」
ウォーレンは立ち上がりルーテの問いに首を振りながら答える。
「そんな・・・・」
ルーテは口を手で押さえその顔はみるみる青ざめる。
「あの頑固親父が意固地になったからいけないんだ。お前の責任じゃない」
ウォーレンの言葉になんとか落ち着きを取り戻すルーテ。
その時、手術を終えたダイムをストレッチャーに乗せた医師が私達の前に現れる。
「先生・・・親父は?」
「手は尽くすだけ尽くしたが・・・正直な所、本人の気力しだいでしょう」
「・・・・そんな」
医師は首を横に振りながら答える。
病室に運ばれたダイムが意識を取り戻したのはそれから間もなくだった・・・・。
「親父!!」
「おじいちゃん!!」
ウォーレンとルーテはダイムが目を覚ましたのを見ると顔を輝かせ、あれやこれやとダイムに話しかける。
「・・・・お前は?」
「・・・・・・・」
私の姿に気づいたダイムはばつの悪そうな顔をする。
それもそのはず彼にとって我々ロボットは不倶戴天の敵である・・・・それにクビにしたにもかかわらずここにいるのだから。
「意識が戻り何より・・・では私はこれにて」
「・・・・ちょっと待て」
さすがに居たたまれなくなった私はその場を去ろうとするがそれをダイムが引き止める。
「お前に頼みたい事がある・・・」
そうダイムは語り始める・・それは今、製作途中の机を作ってほしいと言う話であった。
無論私は最初は断った。いくら工房で働いていたとは言えダイムの域に私はとてもじゃないが達しているとは言い難い。
「お前には俺の技術を全部見せてきた・・・頼む!!図々しいのは分かっている。だが仕事を途中でホッポリ出すなんて死んでも死にきれねえ・・・」
興奮したのか息をぜいぜいしながら私に哀願するダイムの姿を見て結局私は折れざるえなかった。
「頼む・・設計図どおりに作れば大丈夫だ・・・・」
「・・・・了解した」
そうやりとりを交わすと私は病室の扉をバタンと閉じる。
沈みゆく夕日を背にしながら基地への帰路に着く私の目の前に小さな影が目に入る。
その影は私を見つけると一直線に私に向かって駆け出す。
「おにいちゃん!!」
「・・・・フィーネか。良い子にしてたか?」
「・・・・うん!!」
そう言うとフィーネは私の背に乗り私はそのまま歩き出す。
「・・・・・?おにいちゃん、元気無いの?」
こう言う時ばかりは彼女は鋭い・・・・・。
「ああ・・・ちょっと色々あってな」
沈みゆく夕日を見ながら私は晴れぬ事の無い思いを胸に残し歩き始めた。