「・・・・でこれをどうしろと?」
時間は深夜、ダイムの工房で私は彼から受け取った設計図を見ながら頭を傾げていた。
私も一応ダイムの元で働いてきた自負がある、だからこそこれを見ながらでも机の一つぐらい作れると思ったのだが。
さすがは天才職人ダイム・カプア!必要最低限の事しか描かれておらず私の戦闘に特化した電子頭脳ではまったくもって理解不能である。
とにかく設計図と睨めっこをしていても埒が明かない。
善は急げ!!・・・・急がは回れと言う言葉もあるが。
私は木材を持つと設計図通りに作ろうと作業を始める・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
気づけば朝になっていた。辺りはまだ薄暗いがどこかで鳥の鳴く声も聞こえる。
私の目の前にはまるで子供・・・否それ以下の者が作ったかのような歪な形の机らしき物が立っている・・・いや立っていた。
先ほどその机らしきものはバランスを崩し地面に横たわっている。
無理だ・・・・私の頭の中ではその言葉が埋め尽くされる。
所詮機械に過ぎない私には無理なのだろうか・・・・。
「ええい!何か良いアイデアが浮かぶまで街に出かけよう・・・・・」
一人虚しく叫ぶ私は作業道具を置くと街へと繰り出す。
街に繰り出しながら私は街の建物の形や車などを観察しながら良いアイデアが浮かばないか考えていた。
正直そう言う目で周りを見るのは初めてである。
私が周りをじろじろ見るたびに目線の先にいる人間が驚くが、もはや背に腹は変えられない私はそんな視線は一向にお構い無しに辺りを見渡す。
基地にいるナンバーズ達に相談する事も考えたが生憎こう言った事に精通している者はいない・・・。
他人の協力を仰ぐと言う事で私は一つ思いついた事があった。
彼に会えば何か分かるかもしれない・・・彼の意見を参考にしてみよう。これは一種の賭けである。
「・・・・・ロックマンはいるか?」
私は彼の住む研究所の前に立つと間抜け面をしたライトットに言い放つ。
「いるダスけど・・・今日は何をしにきたんダスか?」
「・・・・相談に乗って欲しくてな」
そのまま研究所の入り口のチャイムを鳴らすとややあってロックが姿を現す。
「あれ?パンクどうしたの?」
「むう、実はお前に相談したい事がある」
「それって・・・フィーネちゃんの事?」
「いやそれもゆくゆくは聞きたい物ではあるが今日は違うのだ」
人の良いロックはそのまま私を研究所の中に招き入れると彼の部屋で相談を聞いてもらう事になった。
ロックが出したお茶と茶菓子を食べながら正面に座る私はロックに話をきりだす。
「ロックマン、お前は机を作ったことはあるか?」
「・・・え?・・・机?」
私の突然の質問にやや困惑気味な表情をするロック。
「まあ驚くのも無理は無い・・・実はな」
私はこういう話をまとめるのは苦手だがそれでも必死に考えながら話を続けた。
ダイムの事、ダイムから請け負った仕事の件。ついでに妹との付き合いのコツも聞いておいたのだが・・・・。
正直な所、話をしている自分でも分からなくなりそうな取り止めの無い話ではあったが、ロックはそれを一つも嫌な顔をせずにうんうんと頷きながら話を聞いてくれた。
「その設計図見せてもらってもいい?」
突然ロックは閃いた様に私に尋ねる。
「むう・・・・これだが私には何がなんだか理解不能なのだ」
その設計図には確かに机の作製のおおまかな工程が描かれているが肝心の細かい数値や順番と言った物が一切書かれていない。
それゆえに私は作る事ができないのである。
「ごめん・・・僕も簡単なものならいくつか作った事は有るけど、そこまで精度の高い物を作った訳じゃないよ」
ロックは申し訳なさそうに私に話しかける。
「でも、もう答えは君の中にあると思うよ。パンク」
「何・・・・?どう言う事だロックマン?」
「これを見て、この設計図の隅を」
そうロックが指差す所には小さく「物を作る時はまごころを大切にしろ。このポンコツが」と書かれていた。
それはダイムのいつもの口癖だった。無論私もそれは発見していた・・・・だが。
戦闘用ロボットの私にはまごころと言う物の情報がまったくインプットされていない・・・だからこそ理解できなかった。
「・・・それは一体どういう意味だ?」
「まごころって言うのはね・・・飾りや偽りの無い心、生まれてからそのままの心って意味だよ。僕が口出しするのもあれだけどパンクがダイムさんに教わった事をそのままその机にぶつければいいんじゃないかな?」
(いいか・・・ここは微妙に力を調整するんだ・・・均一の力じゃ駄目だ。この木だってな俺やお前達同様生きてるんだよ。相変わらずあぶなっかしいが大分様になってきたな)
私の頭の中に今まで聞いたダイムの言葉が蘇る。
そうか・・・私はあくまでもダイムの作ろうとする机と言うものに固執するあまり本来の何たるかを忘れてしまっていたようだ。
そうと分かれば善は急げ、私は立ち上がりロックに礼を言うとそのままライトの研究所を後にする。
「今度何か礼をしに伺うぞ。フィーネも連れてな」
「うん・・・楽しみにしているよ」
ロックの言葉を背にしながら私はダイムの工房へと向かう。
その足取りは知らず知らずのうちに速くなっていた。
「あ、おにいちゃん!!」
工房に着くとフィーネとルーテの二人が私を待っていた。
「さすがにあの後、パンクの事が心配になっちゃって」
「あれを見れば嫌でも心配になるだろうな」
ルーテの視点の先にあるものを私は指を指す。私が昨日一日がかりで作った「机らしきもの」である。
「もう答えも見つかった・・・だからこれからは本気で行くぞ」
「私も手伝うね」
正直な話、ルーテのこの申し出は私にとってもありがたい。
いやむしろまたさっきと同じ様な物を作られると困るのか・・・。
私は傍らに座るフィーネを見ると彼女も元気よく手を上げると。
「は~い、フィーネも手伝うよ~!」
笑顔でそう答える・・・・少々心配と言えば心配だがまあいいだろう。
木材を目の前にして私は静かに目を閉じる・・・・そして電子頭脳に蓄積されているメモリを整理し始める。
ダイムが私の目の前で見せた技、そして言葉が先ほどの事の様に再生される。
私はカッと目を見開くとそのまま無言で作業道具を持つと形にこだわらず今自分が持ちうる全ての技術を目の前の木材に叩き込みはじめた。
「・・・・・できた!!ようやくできたぞ!!」
それから一週間近くたった・・・。
様々な試行錯誤の末、ようやく一台の机が私達の目の前に現れる。
後はこれを依頼主の所へ届けるのを待つばかりである。
大きく伸びをしながら外に出ると間もなく太陽が姿をあらわそうとした所だった。
あの机はまさに私の子供も同然・・・・ワイリーナンバーズである私がこう思うのもどうかと思うが、まるで太陽が我が子供の誕生を祝福しているようなそんな気がした。
キイィーーーーンン!!!
どこからともなく私の耳にかすかにだがエンジンの音が聞こえる。
見れば前方の小さな点の様な影が段々と大きくなってきているのが見える。
間違いない・・・奴だ!!
私は疲れも忘れ駆け出すと大きく跳躍し彼の進路(先ほど私が立っていた場所に向かっていた)を邪魔するが如く腕をクロスさせながら彼の前方に立ちはだかる。
「・・・・・むおっ!!」
ガキィーーーン!
突然の私の出現に驚いたのはテングマンである。
彼と体が接触し火花を上げるが気にせずのそのまま私達は勢いを殺す形で地面に降り立つ。
「いきなりとはひどいですぞ!!」
テングマンは体をさすりながら私を恨めしそうに睨みつけるがもしあのままの勢いでテングマンが地面に降り立てばかなりの風圧が発生する。
万が一とは言えもしも私の机に何らかの事があれば冗談ではない。
「お前がスピードも下げずに飛んで来るからだ・・・」
「拙者、少々慌てていましてな・・・・で話なんですが」
テングマンは私を真っ直ぐに見つめると持っていた袋の中から封筒を取り出す。
「ワイリー博士から今日メールが届きましてな。なんでも南極探査に何人かの人員を派遣せよとの事・・・詳細はこちらに」
「・・・・了解したと伝えておいてくれ」
私は手探りで中身を確認する・・・おそらく何らかの電子チップだろうか?
「後・・・そろそろキングを元にしたロボット達が完成するそうなので、それを回収しなければなりませんでな。またこことはしばらくお別れですな」
まあテングマンがいてもトラブルが発生するだけなのでいないほうが良いが・・・。
フィーネを除けばの話だが・・・ついに完成したのかキングの後継機が・・・。
あれ一体だけでも戦局すら覆す事もある・・・それが数体開発されているのだ。
それほど今回のワイリー様の計画への意気込みが窺い知れる。
テングマンは言う用だけすますとあっと言う間に一陣の風となり私の視界から消えてしまった。
まあともかく後はこの完成した机をダイムに見せるだけである。
ルーテに連絡を取った私はフィーネと共に工房でダイムを待つ。
そのまま置いておくのも味気ないのでちゃんと白い布に覆い、ひもを引っ張れば姿を現れるように工夫もした。
ダイムを待っている間の時間はまるで僅かだったはずだが私にはかなり長く感じた。
工房の前を車が通るたびに私は腰を宙に浮かすがそうでないと分かるとまた腰を置く。
それを何度も繰り返す為、挙句の果てには・・・・。
「おにいちゃん、ちょっと落ち着いて」
とフィーネに注意をされる始末である。
工房の前に車が止まり車椅子に乗ったダイムが姿を現す。
それをつくウォーレンもそして手伝ってくれたルーテも一緒である。
車椅子に乗ったダイムはまるで倒れる前とは別人の様な姿をしておりその体は痩せ枯れてしまったかのようである。
だがその目だけは変わってはいない、未だに冷めやらぬ魂のこもった目で私を見るとこう言い放つ。
「さあ、ワシに見せてみろ。お前の作った奴をな・・・・・」
私は黙って机を覆う布を剥がす為にひもを大きく引く。
私達の目の前に太陽の光を受け黒光りの光沢を放つ机が現れる。
一応ダイムの渡した設計図どおりではあるがそれ以外の所はアレンジを加えてある。
やや見た目の軽さなどは感じられないものの私なりと言えばいいのだろうか無骨な印象を思わせる机である。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
場を重い空気が支配する・・・・。
私自身、緊張のあまり目を泳がせてしまう始末である。
フィーネは一人きょとんとした表情で私とダイムを見ていたが・・・。
「へっ・・・・こんなごつい机を作りやがって」
ダイムの言葉が沈黙を破る。
「だがお前の魂は感じたぞ・・・・お前の様な機械でも魂って奴はあるんだな。今日それが分かったよ」
満足げに一人頷くダイム、私の胸は言葉では言い表せないもので一杯だった。
ダイムは私に手を差し伸べる・・・それを私はしっかりと握った。
「親方・・・・ありがとうございます」
私はただ頭を下げる事しかできなかった。
「礼を言うのはワシの方だ・・・・」
熱くなった目頭を押さえながらダイムは私にそう話しかける。
その後は机も無事に依頼主の所へと運び、ダイムもそのまま病院に戻っていった。
そして私とフィーネは工房の中の使用した道具や散らかった物を片付けながら基地へと帰る準備をしていた。
「おにいちゃん。よかったね」
「・・・・・ああ」
フィーネの言葉に私は頷きながら後片付けを済ました工房の扉を閉める。
そしていつもの様にフィーネと一緒に帰路に着く。
その途中私は日も落ちかけた空を見上げながらある思いを抱いていた。
私はロックマンを倒す為に生まれた・・・正直それが達成された後の事を考えた事は無かった。
いや、達成されなくてもいい。いずれ私も戦いのレベルについて行けなくなる時はいずれやってくる。
その時、キラーズとしての役目が果たせなくなった時は静かに家具でも作って暮らそう・・・。
ロックマンを倒す事よりも可能性は低そうだが、それでもこの命が残っていたのならそう暮らそう。
自分ながら馬鹿げた思いではあるがそう思いながら姿の見えなくなった太陽を私はいつまでも眺めていた。