南米においてバラード達が思わぬ強敵と対峙していたその頃、火星と呼ばれる惑星が存在する軌道宙域において一人のロボットが苛立った様にモニターを見つめていた。
猛禽類を思わせる姿をしたロボットの名前はジュピター。
ワイリー軍団の中では異質とも言える非ワイリー製と言うか地球外の技術で製作されたロボットの一人である。
「奴め・・・まさか地球に戻って来るとはな」
進路上の偵察衛星や観測用のドローンが拾ったデータからジュピターは近づきつつある存在の正体を察する。
と言うかそもそもデータを見るまでも無く彼らには分かる。
今の状況下において単独で宇宙を自在に移動できるデタラメな存在など、あのロボットを置いて他には居ないだろう。
スペースルーラーズと呼ばれる彼ら宇宙ロボは、迫り来る『調停者』なる存在と何度も戦場で対峙している。
ジュピター自身、別段生まれ故郷への未練は持たないがそれぞれが属する惑星が血みどろの戦いを繰り広げていた敵同士の間柄だと言う事もあって因縁は深い。
「アース隊長が居られぬ時に厄介な・・・」
忌々し気に呟きながらジュピターは再建なったワイリースターの管制室を飛び出す。
スペースルーラーズ事件の際に最終決戦の場となったワイリースターは、その際に爆散し大破しているのだがワイリーはルーラーズに命じて密かにそれを再建させている。
キング事件の際には8割方の修復は完了していたのだが、アクシデントもあり起動には至らず・・・再建が完了した現在は次なる出番を待ち待機をしていると言う状態だ。
ワイリーの号令さえ下れば何時でも動けるようにしている彼らであったが、今回の件は想定外と言わざるを得ないであろう。
政府軍ですら手が出せないと高を括っていた事もあるが、まさか自分達の方に敵が接近してくるなど誰も考えても居なかったのだ。
(これは後で対策を練らねばな・・・)
ジュピター自身も思わず己の驕りに反省をする他無い。
何時ぞやのロックマンとの戦いの際にはその驕りゆえに勝てる筈の敵にまさかの敗北を喫したのだから。
「アース隊長は数時間前に地球に向かわれた。もしかするとそれも関係あるのかも知れん・・・が漸く再建なったワイリースターを破壊される訳にはいかん。ワイリースターはこのままカモフラージュ装置を稼働させつつ後退させろ」
ワイリースター内に命令を下しジュピターは急ぐ。
「奴の迎撃には我らスペースルーラーズが当たる。他の奴らは絶対に動くな!!」
宇宙空間より飛び出したジュピターは既に迎撃準備に取り掛かっていた他のルーラーズの面々と目配せする。
現在ワイリースターに居るのはジュピターにビーナス、マーキュリー、サターン、ウラノス、プルートの六名である。
彼らの隊長のアースは先にも言及があったように不在であり、マースとネプチューンは地球の支部基地に配属されている。
同じ様にここ宇宙にはワイリー軍団からはスターマンが派遣されているが、彼には万が一のことを考えワイリースター内で待機をしてもらっている。
「フーッッッ!!デューオだニャ!!」
全身の毛を逆立たせながら猫を思わせる姿の少女が叫ぶ。
精神プログラム的に幼いプルートは今にも飛び出さん勢いである。
「まずは敵の狙いを探るぞ。俺達が力を合わせて勝てるかどうかの相手だ・・・慎重に動くぞ」
「話によればあの野郎も地球に落ちて来た事で本来のボディを喪失。コサックなる科学者が製作した間に合わせのボディのまま宇宙に飛び立っていったらしい」
「つまりは今の奴は俺らが知っている頃よりも弱くなってる可能性があるってか?」
ジュピターの言葉にサターンとウラノスが口を開く。
「だとしても簡単に倒せる相手とは思えん。我々のサンゴッドと同等かそれ以上の力を持つ存在が敵なのだ」
一瞬、付け入る隙があるのではと考えてしまうがジュピターは己の楽観的な考えを即座に頭から捨て去る。
「アワ~!!それを言ったらビーナス達も一緒アワ」
こんな危機的な状況にも拘わらず笑みを絶やさぬビーナスだが、彼の言葉通り現在のルーラーズはアースを含め全員が本来の性能を発揮出来て居ない。
ワイリースターの原型となった異星の巨大要塞に封印されていた彼らを発見したのがあのワイリーなのであるが、一言で言えば天才科学者たるワイリーの技術を以てしても異星の文明の副産物であるスペースルーラーズを完璧な形で修復するのは無理であった。
彼らのボディの内部は本来の物と地球産の代用品で構成されており、そう言う意味では本来のボディを喪失し間に合わせのボディとなっているデューオと同じである。
まあこの状態でも地球に居るロボットらを圧倒できるだけの性能を有しており、彼らを生み出した文明が如何に高度な存在であったかを物語っている。
(我々の星があった場所にいずれは舞い戻る必要もあるかも知れんな・・・)
既に滅亡してはいるが本星周辺の宙域には軍事関係の基地が無数にあった事を記憶しているだけにジュピターは、自身らのボディを元通りに戻す手段を探すのも必要と考えた所でセンサーが急速に接近する光を捉える。
「来たぞ・・・!!」
己の身を分裂させながらマーキュリーが叫ぶ。
「ニャニャニャニャニャッッ!!」
真っ先に飛び出していくのはプルートであるがタイミングが早すぎる。
思わず声を上げそうになるが一瞬の内に最高速となる彼女を止めるのは不可能だ。
「ブレイクダッシュだニャァァァァァ!!」
自らも光の矢となり迫り来る光に真っ向より立ち向かうプルートであったが。
ガキンッッ!!
一瞬の激突の後、真横に吹っ飛ぶのは。
「フニャアアァァァ!!」
やはりと言うかウェイトの軽いプルートの方である。
非情ではあるが勝手に飛び出し吹き飛ばされた彼女に構っている時間は無い。
ズドドドドドドドドドッッッ!!
プルートがぶつかった事で僅かに動きが止まった光の前で無数の爆発が起こる。
ビーナスが抜け目無く展開していたバブルボムである。
一連の爆発の影響で完全に光の動きが止まり、デューオが僅かに声を上げたのが分かった。
「ブモォォォォッッッ!!」
その隙を逃さぬとばかりに雄叫びを上げながらルーラーズ随一の怪力を誇るウラノスが迫る。
ガキッッッッ!!
プルートとは違い放たれた拳を真っ向から受け止めたウラノスの眼前で光の中から無骨な外見のロボットが姿を現す。
「お前達は・・・」
ウラノスと距離を取りながら宇宙の守護者は自身を取り囲むルーラーズの面々に目を向ける。
「この星の言葉でこう言うらしいぜ。ここであったが百年目ってな!!」
「アワ~ここは通さないアワー!!」
マーキュリーとビーナスがデューオに向かって啖呵を切る。
「話には聞いていたがお前達もあの星に辿り着いていたのか」
サターンの話通り記憶と違うボディではあるが、その巨大な左右非対称の腕は殆ど変わらない。
「悪い事は言わん。今、お前達を相手にしている状況ではない」
デューオがその顔を険しくさせながら言うが『どけ』と言われて簡単に通すジュピター達ではない。
「俺の記憶が正しければ問答無用とばかりに悪を断罪してたってのにちょっと丸くなったか?」
ジュピターの皮肉に相手の方は殆ど反応は示さない。
無言で拳を握り締めるのみだ。
元より彼が他人とましてや敵である自身らと話をする様なタイプでは無かったとジュピターは遥か昔の事を思い出してしまう。
何が理由で戦争状態になったのかは末端の兵士に過ぎないジュピターらが知る由も無いが、自身らを生み出した惑星と彼らの惑星は気の遠くなる程の年月の間、戦争を続けていた。
奇しくも互いに生み出した二柱の人造神と言える存在を前面に押し立て、戦いはより凄惨な物となっていく。
あの戦いの最終局面で起こった事はジュピターに限らず他のルーラーズもまた脳裏に焼き付いているであろう。
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴッッ!!
真横で発生したサターンのブラックホールを強引に突破し、デューオがその剛拳でもってマーキュリーのボディを粉砕する。
「ケケケケ・・・知ってるだろ?俺の体が液体だってのは」
液体金属性のボディである事を利用し無数に分裂したマーキュリーが次々とスナッチバスターを放つ。
エネルギーを吸い取る事に特化した光弾を数発まともに受けながらもデューオの動きは鈍らない。
通常のロボットであれば今の攻撃で動く事が出来なくなっていただろう。
「エレクトリックショック!!」
片腕のバスターを構え巨大な電撃を撃ち放つジュピター。
それに続けとばかりにビーナスもバブルボムを放ち、その爆風に紛れる様にウラノスが拳を叩きつけようとするのだが。
ガシィィッッ!!
「ブモッッ!?」
己が放った拳を受け止められ驚愕の声を上げるウラノスに対しカウンター気味に巨大な拳が叩きつけられる。
一撃でウラノスを昏倒させたデューオはバブルボムの爆風から逃れると、片腕にエネルギーを集め始める。
(俺らが総がかりで殆どダメージはなしか。絶望的じゃねえか・・・)
分かっていた事だがデューオとの実力差は圧倒的だ。
先程以上にエネルギーを全身に集め始める敵を前にジュピターらが覚悟を決めた時であった。
「お~い!!皆、ちょっとストップ~だよ~!!」
自身らの背後から場違いな声が響きジュピターは思わず声を上げそうになっていた。
配下のビリバリーのビリーと共に近寄って来るのはワイリースターに待機していた筈のスターマン。
「お前・・・待機していろと」
「そんな事より大変なんだよ。今、地球で謎のロボットとフォルテ達が戦ってるみたい」
ジュピターの言葉を遮りながらスターマンは手にした端末を掲げ、地球上で起こっている非常事態を告げる。
映像に映し出される敵側のロボットにジュピター達が息を呑む。
「・・・ソロー。やはりか」
構えを解いたデューオがその名を口にし彼らは互いに顔を見合わせる。
「一度去った地球に私が舞い戻ろうとしているのはソローの気配を察知したからだ。地球の平和はロックマンに託したつもりであったがあのソローが・・・あの星で活動をするのであれば話は別だ」
巨大な拳を握り締めデューオが言う。
「つまりそちら様はあくまでも我々ワイリー軍団の邪魔をしに来たわけではなく。このソローを止めるが目的なの~?」
彼の方はルーラーズの面々程、デューオと個人的な因縁も無いためにどこか能天気に尋ねていた。
「じゃあ素通りさせても良いんじゃないの?ほら・・・私達も大事な作戦前に戦力を無駄にしたくないし~」
「だがそれでは・・・」
「どう足掻いてもそっちの方が穏便だよ~」
「じ・・・自分もそう思います」
渋るジュピターにスターマンとビリバリーがそれぞれ口を開き、ルーラーズの面々を呆れさせる。
長年戦争を続けて来たルーラーズと違いワイリー軍団と言うか地球のロボットはどうしてこうどこか能天気なのか。
敵と言えば殺すか殺されるかと言う認識しか持っていなかっただけに、この独特の温さはどうも慣れない。
「はぁ~・・・」
手にした輪を戻しサターンが大きく溜息を吐く。
見ればビーナスやウラノスも同じ様に構えを解いていた。
マーキュリーの方も体は再生させたが、すぐに動く気配はない。
「確かに・・・こいつが本当にソローなら下手すると地球が破壊されるな。俺達としても大恩あるワイリー様が居る星を破壊されるのは勘弁だ。そもそもワイリー様の目的は地球の征服であり破滅じゃねえからな」
ジュピターも構えを解いた所でデューオも彼らに続いて握り締めた拳をゆっくりと離していた。
「通してくれるのだな?」
「ああ・・・どうせこのまま戦っても勝ち目が無いしな。まあワイリー様に戦えと命じられれば話は別だが」
確認する様に訪ねて来るデューオ。
追い払う様に手を振るジュピターだったが。
「あ、そうだ。どうせなら皆で行かない?一応は共通の敵なんでしょ?敵の敵は味方って言うしさ」
思い出した様に腕を叩くスターマンの言葉に一同は思わず目を点にさせるのであった。
「「「・・・は?」」」
異口同音に響く声を前にスターマンはピンとこなかったのか逆に首を傾げていた。
一方、地球である。
気象兵器テュポンを撃破したのも束の間、バラードとフォルテ達は突如として現れたソローなる謎のロボットと対峙していた。
挨拶代わりに周囲に放ったエネルギーの余波で瓦礫を軽々と吹き飛ばすソローにフォルテは歯噛みする。
目の前の相手は確実に自身よりも強い。
自信家のフォルテであってもそれを認めざる得ないだけのエネルギーが感じ取れる。
だがそれで臆するかと言われれば話は別だ。
「おおおぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げながら地面を蹴るフォルテに巨大な拳を握り締めソローは笑みを深くする。
「来るかぁ・・・!!」
底冷えする声を響かせながら巨大な腕で接近するフォルテを握り締めんとするソロー。
左右非対称の腕を見るまでも無くソローは接近戦を得意とするのだろう。
フォルテの方と言えばロックマン同様にバスターを基本装備としており、接近戦よりかは相手と間合いを取っての戦いを得意としている。
ましてや今のフォルテにはゴスペルと合体した事によって飛行能力も得ているのである。
自ら敵の懐に飛び込んだ形となるが、フォルテには一つだけ直感的に理解している事があった。
「フォルテさん!!援護します!!」
胸部の装甲を開きながらそこに隠された砲塔から巨大なビームを放つレント。
先程テュポンを事実上の戦闘不能に追い込んだ一撃が側面よりソローに迫る。
接近するフォルテに気を取られた事もあり、ソローがビームの方に目を向けた時、光芒は眼前に迫っていた。
絶体絶命としか言えない状況にも拘わらずソローが大きく鼻を鳴らすのをフォルテは確かに聞いた。
バチィィィィィッッッ!!
フォルテを拘束せんとしていた腕を真横に伸ばしソローは迫るビームを受け止める。
あのジェットキングロボの主砲に匹敵する一撃を軽々受け止めたのである。
「卑怯とは言わねえが・・・人の楽しみを邪魔するんじゃねえよ小娘ぇぇぇぇ!!」
全身より立ち昇るどす黒いオーラを放出させながらソローはレントに血走った目を向ける。
ブンッッ!!
無造作に振るわれた腕がビームを捻じ曲げレントのすぐ脇を通り抜けていく。
己の放った攻撃を受け止められたばかりか逆に跳ね返され彼女はその場に硬直した。
「次にやったらぶっ殺すぞ!!」
「・・・ヒグッ」
射殺さんばかりの視線と殺気を向けられレントが声にならない悲鳴を上げる。
「済まねえな。久しぶりのシャバだけに・・・」
ニヤニヤと笑いながら振り返るソローの顔面に叩きこまれるのはフォルテの放った蹴りだ。
至近距離から放たれた強烈な蹴りであったが、ソローの巨体は僅かに仰け反るのみで全く以って有効打にならない。
「これだけ近づけば防げねえだろ?」
「・・・チッ」
すぐさに体勢を立て直すソローを前にバスターを構えるフォルテ。
舌打ちをするソローの姿を見るにフォルテの読みは当たっていた。
ズドドドドドドドッッッ!!
速射性に優れるフォルテのバスターから放たれる光弾がソローのボディへと命中していく。
先程、レントのビームを防いだのとは対照的にその全身に僅かな傷を付けていく。
「その力の障壁は一定の距離からの攻撃にしか意味がねえ。レントのビームを受け止める時にはその拳にエネルギーを集中させて受け止めたみたいだが、この距離からの俺の光弾に対し的確に防御は出来ねえだろ?」
「ご名答だぁ。お前さん、見かけによらず頭が働くじゃねえか」
巨大な腕で顔や胴体を隠し致命傷を避けたソローが感心した様に声を上げる。
「まあ俺様が持っていたこの力をある程度は使いこなせただけの事はある・・・な」
声からして笑みを浮かべたのか隠していた腕を僅かに上にあげたと思った瞬間であった。
「ガトリングジャブ・・・!!」
ソローの巨大ではない方の腕・・・即ち左腕が僅かに動いたようにしかフォルテには見えなかった。
「ゴスペルッッ!!」
彼の声に反応する様に反射的にゴスペルがブースターを作動させねばどうなっていたか。
ズドドドドドドドドドッッッ!!
ソローが放った無数の拳から発せられる拳圧が地面を抉り、背後にあった倒壊したビルの壁面に大穴を開けていく。
文字通りの機関銃を思わせる拳の連打。
「・・・くっ」
完全に避ける事は出来ず左側の翼と肩口を抉られフォルテが呻く。
拳を振るっただけでここまでの事が出来るなどやはり尋常ならざる相手である。
「避けたか・・・じゃねえと面白くねえよ」
薄笑みを浮かべながらソローはわざとらしく巨大な左腕を振るう。
「小僧・・・お前さんは勝つのは好きか?」
ソローの動作に反射的に身構えてしまうフォルテ。
「俺様は好きだぁ。だが勝つよりももっと好きな事がある。それは骨のあるやつと心行くまで殺し合う事だぁ」
油断なのか自ら背を向けながらソローは語る。
「ロックマンだったか・・・あいつは不完全だったとは言えあのサンゴッドを倒したんだろ?そして使い慣れてはいないとは言え俺様と同じ力を宿したお前さんすらも一蹴した」
「あんな力に頼ろうとしたのがどうかしてたぜ。あんな嘘っぱちの力なんぞ」
ソローの言葉は否応なしにあの時の屈辱的な出来事を思い出させる。
フォルテの放った言葉に振り返ったソローはどこか残念そうな顔をしていた。
「嘘っぱちぃ・・・?おいおい、言っておくがそれは使いこなせなかったお前さんの責任だ。今の俺様を見ろ!!力に呑まれる事無くあのガラクタを意のままに操り、こうして防御に攻撃にと様々な形で応用している。それを嘘だと言われると心外だぁ」
逆に自身のせいと指摘するソローに怒りがふつふつと沸いてくる。
「・・・てめえぇ!!」
ヴゥンッッッ!!
逆上したフォルテの全身より溢れ出るのはソローが纏う物と同種の物。
デューオとソローが地球へと飛来した際に地球上にばら撒かれた未知のエネルギー。
所謂悪のエネルギーである。
「・・・ぐぅっ!!」
喉の奥より引き絞った様な声が出る。
ソローの指摘通り初めて戦いに用いた際、フォルテは現在に至ってもその力を使いこなす事が出来ていない。
キング事件の際にはロックマンとの敗北の記憶が色濃かった時期もあり、殆ど使う事は無かったが目の前の敵に対し力の出し惜しみをしている暇は無かった。
ボアアアァァァァァ!!
「フォルテ、落ち着くッスよ!!」
背後からバラードの声が響いたような気がしたが今はそちらの方に意識が向かない。
溢れ出るエネルギーに身が刻まれた様な錯覚すら覚えながら、フォルテは顔を上げる。
「そうだぁ・・・それで良い」
巨大な腕を手招きする様に広げるソローにフォルテの意識は一瞬だが吹き飛ぶ。
この時、フォルテはソローの事を単純に敵だとしか認識出来なくなっていた。
「オオオオオォォォォォッッッ!!」
雄叫びと共に空を舞うフォルテがバスターを構える。
チャージする事も無く巨大な漆黒の光弾を放つフォルテにバラードらは言葉を失う。
普段のフォルテが今の規模のバスターを放とうとすれば、動力炉の暴走で自滅するか全てのエネルギーを出し尽くして動けなくなるだろう。
「があああぁぁぁぁぁぁ!!」
放った光弾の結果を見る事も無く側面に回り込み次々と通常のチャージショットに匹敵する光弾を撃ち放つフォルテ。
悪のエネルギーを解放したフォルテは誰の目に見ても間違い無く暴走していた。
ズウウウウゥゥゥゥンッッ!!
「ぬおおぉぉぉ!?」
始めて響くソローの驚く声。
真正面から巨大な光弾を受け止めソローの巨体が大きく後方に押し出される。
「ガーッハッハッハッハッハ!!面白くなってきたぁぁぁぁ!!」
巨大な光弾を上空へと弾き飛ばしながらソローは笑う。
側面より次々と光弾を食らいながらも彼はそれらを全く以って意に介さない。
ガリガリガリガリッッ!!
ソローが身に纏う障壁すら無力化するのか離れた距離からの攻撃であっても、フォルテの放つ光弾はその強固な筈の装甲を次々と抉っていく。
「ちょいと本気出すかぁ?」
自身に遠慮すら無く次々と攻撃を繰り出すフォルテに向けられる巨大な拳。
先程のフォルテ同様にチャージすら必要とせずに拳に集まる莫大なエネルギー。
「まあこの力を発動して自滅しなかった事だけは褒めてやる。だがなぁぁぁ!!振り回されてんじゃねえぞぉぉぉ小僧おおおぉぉぉ!!」
禍々しいオーラを纏う拳が宙を舞うフォルテに突き出される。
「ジェノサイダージャガーノート!!
ソローが放つは先程見せた拳圧を更に巨大化させた物であった。
握り締められた拳そのままの形をしたエネルギーはフォルテに直撃をし吹き飛ばしたばかりか後方にある街まで問答無用で吹き飛ばして・・・否、消滅させていく。
「があああぁぁぁぁぁぁ!!」
辛うじてではあるがフォルテが人の形を留める事が出来たのは悪のエネルギーを身に纏う事で、それを障壁にする事が出来たからであろう。
当然の如く合体していたゴスペルも弾かれ地面に倒れ伏す。
「一撃で戦闘不能か・・・ちょいと期待したんだが。俺様の見込み違いか?」
倒れ伏すフォルテの背を踏みつぶしながらソローが心底残念そうに顔を歪める。
「てめえぇぇぇ・・・どきやがれ」
呻くフォルテであったが殆ど声にならない。
今の彼にとって目の前の敗北以上に衝撃であったのは、またしてもあの力に振り回されそうになった事だ。
悪のエネルギーを用いれば確かに強くはなる。
だがそれは己の望む力ではない。
(せめてさっきの半分でもいい・・・それだけの力を維持してこいつみてえに使えれば・・・)
などと考えても後の祭りか。
徐々に強まる背の重さにフォルテの意識は徐々に薄れていく。
ドガンッッ!!
下した相手をいたぶる様に足蹴にしていたソローであったが、自身の顔面が爆風に包まれそれを放った相手にゆっくりと振り返る。
「俺の弟から足をどけろッス」
「あぁ・・・?聞こえねえな・・・弟よりも弱い兄ちゃんよぉ」
バラードクラッカーを構えるバラードにソローは嘲るように口を開き・・・。
ヒュンッッ!!
一瞬の内に眼前に移動するソローにバラードは反応も出来ずに歯を軋ませる。
ドゴンッッッ!!
予備動作無しに繰り出されるのはソローの蹴りだ。
単純な攻撃ではあるがソローの巨体から繰り出されるだけあって殆ど一撃必殺に近い。
一瞬の内に胸部を大きく潰されバラードはその場に倒れ込む。
「弱い・・・お前ら弱すぎるぜ」
失望も露わにソローは足元のバラードを一顧だにせず、フォルテに振り返る。
「つまんねえな・・・じゃあ終わらせるか」
先程放ったのと同じ一撃をソローは無造作にフォルテに向けて放つ。
これで終わりだとソローのみならず、その場にいる誰もが思った時であった。
巨大な拳が伸びる先に黄金色の楯が立ち塞がったのは。
ガキイイイイィィィィィッッッ!!
放たれた一撃を真っ向から受け止め後方にある街への被害すらも完全に防ぎきられた事にソローは目を見開く。
反射的に跳躍したソローであったがそんな自身に襲い掛かるのは、己が放った筈の膨大なエネルギー。
「チィィィッッ!!」
辛くも自身の攻撃によるカウンターを回避するソローだが、己の思惑を覆された事で苛立ちを隠せずにフォルテの前に立ち塞がるロボットに目を向ける。
「誰だぁ・・・てめえはぁぁぁ!!」
苛立ちもあってか空気すら震わせる大声で相手に問うソロー。
それを真っ向から受けても尚、相手の方にまだ余裕があった。
多少色褪せてはいるが、金色に輝くアーマーを身に纏うその姿は初対面の者であっても彼が王である事を連想させるであろう。
「てめえ・・・キングなのか?」
呻きながら立ち上がったフォルテは先の戦いで死闘を繰り広げた相手の背を見る。
巨大な楯を構えながら半身だけ振り返り、自らに会釈をするロボット王にフォルテは内心で気に食わないと思ったものだ。
どこか芝居がかったその動作は気に入らないが、目の前の相手に助けられた事に不思議と嫌悪感は抱かなかった。
そっとフォルテの眼前にE缶を置きながらキングは恭しくソローに一礼をする。
「私の名前はキング・・・かつて身の程も弁えずロボットの王を名乗った者だ」
どこか自嘲気味な笑みを浮かべつつも以前と変わらぬ不遜な態度で名を名乗るキング。
対するソローは明らかに苛立った様な表情を浮かべていた。
この辺りはフォルテなどが抱く物と同一の物であろう。
「割って入るつもりは無かったのだがね。いずれにせよこれ以上、街に被害が出るのは忍びないと判断させてもらったよ」
ソローの一撃を受け止め亀裂が走り火花が飛び散る楯を手にキングが苦笑を浮かべる。
「私の楯はエンカーのミラーバスターを参考に如何なる攻撃も受け止め反射する機能を持っていたのですが・・・」
やれやれと首を振りながら半ば壊れた楯を地面に放り投げるキング。
彼としてはあくまでもそれが普通なのだろうが、ソローは彼の態度を挑発と受け取った。
「俺様の拳を一撃とは言え受け止めるとはな。なかなか頑丈な楯じゃねえか・・・キングとか言ったな。次はてめえと楽しもうか・・・」
「お望みとあれば・・・」
拳を握り締め臨戦態勢となるソローにキングも巨大な斧を構えるのだが。
ガシッッ!!
不意にキングの肩を後ろから叩く様にして掴むのは片手でE缶を飲み干しながら立ち上がったフォルテだ。
「キング・・・てめえはすっこんでろ。この糞野郎の相手は俺だ」
「ふむ・・・では我が兄よ。それが希望であれば私は下がりますが」
「お前に兄と呼ばれる筋合いはねえ!!」
ソローに指を衝きつける自身に苦笑を浮かべるキングだが、今度はそのキングに兄と呼ばれフォルテが彼に噛みつく。
余談ではあるが自らの意思で人類に反旗を翻した史上初のロボットたるキングの生みの親はあのワイリーその人である。
キング自身、フォルテを超える最強のロボットとして製作が始められたのだが、その開発は難航に次ぐ難航を極め更には同時期に悪のエネルギーが発見された事もあって当然のようにキングの開発設計は中途半端な形で中断されてしまう。
一連の戦いが終わってワイリーが改めてキングの開発を再開しようと、秘密研究所で確認を取った時には既にキングは自らの意思でその場を去った後であった。
止む無くキング不在で新たな世界征服計画を実行しようとしたワイリーであったが、結果は言うまでもないであろう。
キング軍団なる独自の軍勢を用意したキングに寝首を掻かれる事となったワイリーは這う這うの体で宿敵であったトーマス=ライトに保護を求める事となったと言うのが、二年前に起こったキング事件の顛末である。
まあ事件の終盤にキングの制作者である事がばれてしまった事で、元々ゼロに等しかったワイリーの社会的信頼度がマイナスの極みに達したのだけは付け加えておこう。
とは言え実際に人類抹殺を掲げるキング軍団の進撃を食い止める事が出来たのは、主の命令で止む無く連邦政府の味方をする事になったワイリーナンバーズ及びその軍勢である事も事実であり、その点に関しては連邦政府も認める他無いだけに今日に至る不可思議な共存関係が続いている事となる。
「ソロー・・・一つだけ礼を言うぜ」
全身より溢れ出るオーラを吐息と共に調節しながらフォルテが薄笑みを浮かべる。
ソローも先程との違いに気づき僅かに目を見開く。
「さっきみたいに最大で力を出さなきゃ。何とか・・・自分を見失わずに済みそうだな」
「俺様と戦ってワンステップ進んだか」
先程よりもエネルギーは抑えられているが、それでも悪のエネルギーを僅かながらに己の物としつつあるフォルテにソローは心底嬉しそうであった。
(この力を俺の物にすれば・・・そうすりゃこれは嘘なんかじゃねえ本当の力になる!!)
目の前のソロー、そしてその先に居る最大のライバルたる少年の顔を思い浮かべながらフォルテは再びソローと対峙する。
対するソローも拳を握り締めるのだがすぐさに彼の顔が歪む。
その理由はフォルテにもすぐに分かった。
自身らの上空より一つの強大なエネルギー反応が近づきつつあるのだ。
「あ・・・こいつはぁ?」
ソローは首を傾げるがフォルテのエネルギー感知器はその人物を即座に特定していた。
バシュバシュバシュバシュッッッ!!
わざわざ名を名乗るなどと言う外連味は持ち合わせていないとばかりに大気圏を突き破った勢いそのままに、ソロー目掛けて無数のレーザーが放たれる。
自身の顔や動力炉と言った何れも急所となる場所目掛けて放たれるそれを必要最小限の動作で回避するソローであったが、その眼前で不自然にレーザーが動きを止める。
と言ってもその硬直は一秒にも満たない間だ。
まるで意思を持ったかのように屈折し再び己へと襲い掛かるレーザーにソローが舌打ちをする。
ソローは障壁の強度を全開にする事でダメージを最小限に抑えるのだが、対処を間違えればたちどころに致命傷を負うであろう。
不意打ち気味の攻撃もそうだが殆ど回避不可能と言える攻撃のえげつなさにフォルテは、ある意味で先のキングの態度以上に嫌悪感を覚える他無い。
「思い出した・・・思い出した。そういやこんな攻撃をしてくる奴らがいたな。お陰で思い出したぜ」
己のボディに付けられた傷を見据え暴君は宇宙の支配者を名乗った者の長を見据える。
「・・・フンッ」
あちらも先程の攻撃で仕留められるとは思わなかったのだろう。
対して気にした風も無く鼻を鳴らすのは背まで伸びた翠色の髪を持つ一人の女性。
スペースルーラーズを率いるアースはフォルテ達に視線を向ける事も無く、片腕にエネルギーを集め始める。
戦闘に関する事以外の無駄な事は極力しようとしない彼女の態度にフォルテは無視された気がしてしまう。
「お前さん・・・サンゴッドの近くをウロチョロしてやがった小娘の一人か?」
「『暴君』ソロー・・・デューオと共にこの星に落下したと聞いたがまさか生きていたとはな」
「ガーッハッハッハッハ!!俺様としても結構危なかったがなぁ。まあ何とか今の一応の主・・・『旦那』に助けてもらったって訳だ」
かつての因縁もあってか普段は殆ど顔色一つ変えないアースが僅かに歯を軋ませる。
ソローはアースとフォルテそれぞれ交互に視線を向け、次に大きく肩を上下させて息を吐いていた。
「ガーッハッハッハッハ!!面白くなって来やがった。どっちでも構わねえ・・・さっさと掛かってきな」
満面の笑みと共にソローはその巨体に先程以上のエネルギーを滾らせるのであった。
本当は一気に2話投稿したかったんですが、色々忙しかったのと休みの日に部屋の掃除し始めたら一向に終わりが見えなかったりで遅れに遅れてこうなった次第です(汗
後編の方は半分ぐらい出来てますので半ば見切り発車な感じでありますよ。
誤字脱字も後で確認するよ(コラ
でもって既に独自設定諸々ですが。
ルーラーズとデューオ、ソローに関しては次の話を投稿した後に設定の説明は入れた方が良いような気がしてきました。
前にもちょろっと書いてますが自分の作品内においてアース及びプルートは女性として書いてます。まあプルートの方は幼女になってますが(汗
気になった人はごめんなさいですw
しかしバラード編と言いながら後半ほぼフォルテ編になってるな(大汗
次回で一応今回のバラード編ラストな予定となっております。
続きはぼちぼちと書いておりますので、暫くお待ちくださいませ。