「貴様ら!!どう言う事か説明しろ!!」
誰も居なくなった式典会場の控室で響く怒声。
困惑するばかりの面々の次に脱ぎ捨てられたスーツを血走った目で見据えるのは、重厚な鎧を着た戦闘用ロボットである。
「それが式典を終え控室に入ったきり出てこられないので、心配になって確認をしたら部屋がもぬけの殻でして」
「そんな事は分かっている!!すぐに探し出すのだ!!」
「「ハハッッ!!」」
弁明をする護衛用ロボットに指示を飛ばし駆け出していく彼ら。
その場に誰も居なくなった事もあり、ナイトマンは苛立つ己を抑える様に大きく息を吐く。
「まさか・・・この様なタイミングでここから逃げ出すなど」
自らの主君と言えば聞こえは良いがとんだじゃじゃ馬だとナイトマンは内心で思う。
「ナイトマン・・・騒がしいが如何した?」
自身の怒声に気づいたのかヤマトマンが首を傾げながら一室に入って来る。
顔見知りではあるがこの件に関しては部外者であるヤマトマンにナイトマンは言葉に窮する。
ヤマトマンの方も脱ぎ捨てられた衣類などを見るに状況をすぐさに理解した。
「まさか・・・とは思うが」
困惑気に問うてくるヤマトマンにナイトマンも観念した様に頷いていた。
ここで秘密にしようともいずればれると判断したからだ。
「そのまさかだ。あのじゃじゃ馬姫め・・・何が『昨日の移動で疲れたから今日の式典は一人で着替えられるスーツにする』だ!?思うに最初から逃げるつもりであったか!!」
苛立ちを露わにし今にも控室の壁に手にした鉄球を放り投げそうなナイトマンにヤマトマンは心底同情する。
彼は欧州にあるカンパネラ公国にて製作されたロボットであり、各地を歴訪する要人の護衛を当然の如く任せられる事となる。
ロボット先進国であり欧州の中でも逸早くロボットの権利向上に対し積極的な政策を取ったカンパネラ公国であったのだが、結果として人類抹殺を掲げるキング軍団に苛烈なまでの攻撃を受ける羽目となってしまう。
ロボット選手権における失態もあり一時非難に晒されていたが、今や『公国の楯』と名高いナイトマンを始めケンタウロスマンらの活躍もあり、陥落を防いだ事でカンパネラ公国の影響力は欧州でも非常に強い物となっている。
となっているのだが、彼の主である公国の姫はあまり良い噂を聞かないのが現実だ。
ナイトマンの態度からもその辺りが窺い知れよう。
「見つけたら引っ叩いてやる!!ついでに私もクビになる!!もうあれの我儘に付き合うのは嫌だ!!」
まるで子供の様に地団駄を踏むナイトマンだが、その動きに合わせて控室が揺れる。
「何が三分以内に有名店のケーキを買ってこいだ!!紅茶やジュースなどホテルに備え付けた物やそこらの店ので十分ではないか!!私達は召使いじゃないぞ!!」
護衛対象にである姫に対し今までの不満が爆発したのかナイトマンが叫び続けるのをヤマトマンは若干引いた様子で見ていた。
ややあって落ち着いたのか荒い息を吐くナイトマン。
「しゅ・・・周辺の監視メカに姫の画像を送ろう。そうすればすぐに見つかるであろうに」
「そうしてくれると有難い・・・」
ヤマトマンの言葉にナイトマンが頭を下げた時だった。
近くで悲鳴と爆音が響いたのは。
その頃、ワイリー基地において。
「あら~?お帰りなさい~」
時刻はパンク達が出かけて二時間と言った所。
全員ではないがばらばらと帰って来たナンバーズ達にネプチューンが声を掛ける。
「まあ予定通りだけど随分と飲んだわねえ~」
「旅館で飲んでた向かいの部屋にライトナンバーズが居てな。ついつい話がのっちまった」
エンカーがネプチューンに旅館であった事を説明する。
「だと思った。なんか分からないけどアンタ達の間には因縁めいた物を感じるわあ」
偶然にしては多すぎるこの手の遭遇例にネプチューンもいちいち驚く事は無い。
手を広げるネプチューンの後ろでストーンマンとウラノスが担架で動けなくなったメタルマンを運んでいく。
「それでフォルテちゃん達は?まだ帰って来てないみたいだけど」
「ああ・・・あいつとバラードにプルートは酔い潰れてメタルマンみたいに動けなくなったんだが。念の為にエアーとヒートが残ったがあの様子だとまだ時間が掛かるだろうな」
「ちょっとうちのプルートにお酒飲ましたの?あの子、そう言うのに耐性無いんだから止めてよね。酔っ払って動けなくなった所に変な事したんじゃないでしょうね」
「心配すんなよ。あれはゴスペルとタイムマンとか言う奴に終始抱き着いて引っ掻いてたから」
幼いが一応は女子としてカウントされるプルートにセクハラ紛いの事をしたのではと勘繰るネプチューンだが、エンカーはそれはないときっぱり否定する。
そもそも旅館の廊下を走り始めた彼女を止めようとしたウラノスを得意の突進で悶絶させたのはまだ良しとしよう。
暫くの間、旅館内を走り回った彼女は次にゴスペルやタイムマンに抱き着くや彼らを自慢の爪で引っ掻き回す事となる。
「あいつに酒は絶対に厳禁な。メタルマンよりも酷い。俺も旅館のオーナーに叱られちまった。暫くは出禁だな」
エンカーの顔を見るに相当に絞られたのだろう。
「クゥ~ン」
全身に爪のひっかき傷が生々しく残るゴスペルはいつも以上に情けない声を上げてメンテナンス室に入っていく。
中で作業をしていたワイリーの悲鳴とも絶叫ともつかない声が響くのだが、聞かなかった事にした方が正解だろう。
「押忍!!自分も歓迎会して欲しいであります!!」
ゴスペルが急遽メンテ入りとなった事で追い出されたのもあるのだろう。
修理中であった事もあり、宴会に参加していなかったパッショナーがレントと共に出て来るなり拳を握り締め言い放つ。
「よう・・・怪我の方は大丈夫そうだな」
エンカーの言葉にパッショナーは返事の代わりにガッツポーズを決めるがレントの方は俯き気味だ。
「南米では武装が完成していなかったでありますが。遂に自分の武装のコキュートスランスとイージスの楯が完成したであります!!」
ジャキーンと手にした武装を構えるパッショナーにネプチューンが愛想代わりに拍手をする。
「つきましては同じ槍使いとしてエンカー殿に教えを請いたいのであります。宜しいでありますか!?」
顔がくっつかんばかりの距離で話し出すパッショナーにエンカーは圧倒される。
バラードから勢いだけは凄いと聞いていたが、とりあえず暑苦しいのは間違いない。
「分かった・・・後でな。お前らの歓迎会もガンダーラーズと一緒にやるから・・・ちょっと離れてくれね?」
エンカーに指摘されて慌てて『失礼したであります』と後ろに下がるパッショナー。
まあ表裏が無いと言えば利点になるのだが、彼は彼で色々と問題があり過ぎると言えよう。
対してとレントの方に目を向けるエンカー。
凄まじい火力と装甲を持っているらしいのだが、今の彼女はアーマーを身に纏っておらずそれもあってか自信無さげだ。
聞けばソローなるロボットと戦った際にも圧倒的な実力を持つ相手に臆してしまい殆ど活躍出来なかったらしい。
互いに問題点を抱える新人にどうしたものかとエンカーが考える。
エンカー自身の柄ではないが悩みを聞いた方が良いのだろう。
まあこの辺はエアーマンなりパンク辺りが適任だと彼が両者の顔を思い浮かべる。
「キャインッッ!!」
「コラ~ゴスペル。待ちなさい!!」
メンテナンス室から悲鳴を上げるゴスペルとそれを追う電動工具を片手にエストが飛び出してくる。
一瞬だがそちらの方に意識が向きかけた時であった。
留守番をしていたネプチューンがそのままにしていたテレビから爆音が響く。
式典も終わり出席者が会場を後にした直後の事であった。
騒然となる会場の光景にエンカーが立ち上がる。
先程まで笑みを浮かべていたネプチューンも表情を険しくする。
「大変ね。あそこにはパンクや隊長、フィーネちゃん達が出かけた筈よ」
「なんだって・・・?」
ネプチューンの言葉にエンカーが顔色を変える。
彼らはテレビの画面を見る事は無く慌てて駆け出すのであった。
同時刻、ローズの屋台でクレープを買っていたパンク達。
暫くは三人で会場近くを回っていたのだが、近くの旅館ですっかり酔い潰れたと言うフォルテ達とローズの屋台を目印に合流する事となる。
「キャハハハハ!!フォルテって凄く酒に弱くて笑っちゃうね。もっと飲んで燃えなきゃサイキョーまでの道のりは遠いよ~」
「うるせえ・・・」
周りをクルクルと回りながら茶化すヒートマンに対し、未だに万全ではない状態で話すフォルテ。
人間でいう所の二日酔いの状態であるようだった。
「酒は飲んでも呑まれるなと言う言葉がこの星にはあると聞く。己の程度が分からぬなど貴様も器が知れているな」
対してローズの店で買ったクレープを片手にほくそ笑むのはアースである。
女性ではあるが自信家であるアースの挑発にフォルテの青白い顔が僅かに染まる。
「てめえ・・・やるって言うのか?」
「何時でも構わんぞ。まあ悔しければ一度くらいロックマンに勝ってみたらどうだ?自分で最強のロボットを名乗るんだったら」
苛立ちを露わにするフォルテにアースが鼻で笑う。
スペースルーラーズを率いるアースはワイリー軍団内で唯一他の者には無い輝かしい功績を持っている。
それは宿敵たるロックマンに対し完全な勝利を一度収めたと言う事である。
スペースルーラーズを投入した世界征服作戦の際に宣戦布告代わりにロックマンを強襲したアースは、彼の攻撃を全て無力化した上で勝利を収めているのだ。
これはフォルテも含めた他のナンバーズですら一度も成し得なかった事であり、フォルテからすると認めたくない事実である。
「まあでもその後で逆に負けてるからアースもオアイコだよね」
無邪気なヒートマンの言葉にアースの顔が凍り付く。
実際にあの計画時にはキラーズ以外のナンバーズは参加していなかったが、バックアップと言う形では参加していたので一部始終ヒートマンらが記録していたのだ。
「普通に戦ったら勝ててたのに二回目の時のアースってかなりテンパってたよね~」
続けざまのヒートマンの言葉に何かが割れた様な音がした気がした。
テンパっていたと言うヒートマンの言葉は半ば正しい。
そもそもアース達からすれば圧倒的な性能を持っていた筈の自身らがロックマンに敗れ、逆に追い込まれる事など想像すらしていなかったのだ。
彼女らにとって不幸であったのは自身らの身を守る障壁の正体を早々に解析されてしまった事だろう。
かつて争いの原因となった超エネルギー元素とルーラーズの動力炉として使われていた物質は生み出された文明こそ違えど、極めて酷似した特徴を持った物である事を突き止めた事で対策は進む。
トーマス=ライトは瀕死の重傷を負ったロックマンを修理する際に、バスターに超エネルギー元素に取り付ける事でルーラーズの障壁を無力化する事に成功。
特に腕その物を弾丸として飛ばすロックンアームの威力はルーラーズですらも容易く致命傷を負いかねない代物であった。
最終的にロックマンが装備していた超エネルギー元素はサンゴッドとの戦いの末に失われる事になるのだが、であれば今のロックマンを倒すのが簡単かと聞かれれば答えはNOだ。
有体に言えば今のアース達に初めてロックマン達と戦った頃の様な力は無い。
戦う事しか出来ないと言うのに戦えば戦うほど、アース達は確実に消耗し弱体化していく。
そんなジレンマに苛まれる中で彼女を始めとするルーラーズは、主たるワイリーに力を貸していると言うのが現状だ。
「・・・言い過ぎだぞヒートマン」
パンクの言葉にヒートマンは頭の蓋を閉じる。
自身が冷静さを失いかけていた事に気づいたのかアースも舌打ちをしながらそっぽを向く。
「まあ月並みだけど次に挑んで勝てば良い話ッス。とりあえず今度こそは奴に勝ってアースに並ぶッスよ」
バラードの言葉にフォルテが『今度って何時だよ』と悪態をつくがバラードの方はその辺りを聞き流す。
「ロックお兄ちゃんと勝負するの?」
そんな中、一人黙って話を聞いていたフィーネがパンクらに問う。
「じゃあ私もロールお姉ちゃんに負けない様に頑張ろうっと」
ニコニコと屈託なく笑う彼女にアースが眉を吊り上げる。
恐らく勝負の意味を取り違えている事に苛立ったのだろう。
今の彼女は武装が外されている事もあってやはりと言うか苛立っている。
何時もであれば鼻を鳴らすなりして聞き流していただろうが、その日に限っては黙っている事が出来なかった。
「お前、我々がロックマンと戦うと言うのは遊びでする訳ではない。奴らと我々は敵対関係にある。言うなれば殺すか殺されるかの・・・」
「・・・アース!!」
極めて正確ではあるが残酷な現実を口にしようとするアースの肩をパンクが掴み取る。
反射的に振り返ったアースがその手を思いっきり払い除ける。
硬い金属音が周囲に響くが幸いと言うか周囲を行き交う人々がそれに気づく事は無かった。
「今は・・・それを話す必要性は無い」
僅かに痛みが残る手を何度か払いながらパンクが言う。
フィーネの方は首を傾げていたが、アースの方は鋭い視線でパンクを睨み据える。
「私に触れるな。下等なこの星のロボットめ。言葉だけの情けや同情など何の意味も無い。我らの存在意義は勝つ事・・・ただそれだけだ」
キッと己らを睨み据えるアースにパンクは目を細める。
別に馬鹿にした訳ではないがますますアースの眉が吊り上がったのを見てパンクは内心で溜息を吐いた。
今の彼女はやはりと言うか冷静さを失いかけている。
「そう言えば初めて会った時もそんな事を言っていたな。今となっては懐かしい限りだ」
「あ~あ~とりあえず仲間内で喧嘩は良くないッスよ」
険悪な雰囲気となる場に先を歩いていたバラードが振り返りながら手を広げるのだが。
ドンッッ!!
己の背に小さな衝撃を感じバラードは反射的に振り返る。
「痛っ~・・・!!」
見れば帽子を目深に被った一人の少女が地面に倒れ込んでいた。
恐らく後ろを振り返ったバラードの背にぶつかったのだろう。
「おっとすまねえッス・・・」
倒れ込んで相手に手を差し伸ばすバラードだが、その手を受け取らずに立ち上がった少女が放ったのは強烈なまでのビンタであった。
一見すると人間に見える今のバラードだが、当然の様に人間よりも強度が高い為に逆に悲鳴を上げたのは少女の方。
「痛いじゃないの!!」
「いきなりはたいておいてそれッスか!?」
八つ当たり同然に叫ばれバラードも負けじと声を張り上げる。
「・・・次から次へと」
と良くも悪くも何時もの様にトラブルが生じた事にエアーマンがぼやいたその時であった。
自身らの眼前に黒衣を纏ったロボットが降り立ったのは。
「・・・え?」
困惑気な声を上げるフィーネはさておきパンクとエアーマンが反射的に彼女の楯となる。
「ガアアアアァァァァァァァァ!!」
獣の如き咆哮に連動し周囲のショーケースなどのガラスが割れ周囲に散乱する。
辺りに人々の悲鳴と怒声が響き渡るがロボットは意に介した風も無く前に歩を進める。
即座に異常を察知した監視メカが動き出すが、振り下ろされた鎌の一撃にあっさりと破壊される。
「こいつは・・・?」
とバラードが驚く間もなく監視メカを破壊したロボットが地面にメカごと突き刺さった鎌を強引に引き抜く。
返す刃で鎌を振るう相手の視線が自身とぶつかり合う。
生憎相手との面識は無いと判断するが、長年の勘もありバラードは相手の狙いを即座に看過する。
ヴォンッッ!!
バラードが反応できずに立ち尽くす少女の首根っこを掴んで一緒に飛び退いたのと鎌が振るわれたのは殆ど同時であった。
「え・・・ちょ!?」
驚く少女であったが正体不明のロボットの狙いが自身である事に気づいたのか、或いはバラードが動かねば今の瞬間に死んでいたと認識したのかその顔が青ざめる。
「なんなんスか!?」
声を上げる自身に反応をしたのかは分からないがロボットが無言で身に纏っていたローブを投げ捨てる。
「我が名はボーンダイン。お前を・・・殺す」
絞り出した様な声を上げ白骨化した爬虫類を思わせる頭部を持ったロボットが自らの名前を名乗る。
やはりというか彼が指差すのはバラードが救った少女だ。
無骨な鋼鉄の装甲に覆われたロボットのボディはかなり大型であった。
前屈姿勢ではあるので多少小さくは見えるが、ストーンマンなどの大柄なロボットよりも一回り大きく見える。
「お前・・・まさかとは思うッスが。あのソローとか言う奴の仲間ッスか!?」
「グゥゥゥ・・・殺す殺す!!」
バラードの問いに答えずにボーンダインが手にした鎌を振り回す。
「キャアアァァァァ!!」
悲鳴を上げる少女を片腕で抱きかかえるとバラードはその場より後退する他無い。
今のバラードは非戦闘形態。
何時もの様に戦う訳には行かないし何より少女を守りながら戦うのはあまりに不利だ。
「キャハハハハ!!戦争だぁ~!!」
突然のロボットの乱入によって悲鳴が飛び交う中でヒートマンが興奮した様に叫ぶ。
元よりトラブルメーカーの彼はこの状況を間違い無く楽しんでいる。
「あのロボットの狙いはバラードと一緒に逃げている小娘か」
周囲の状況から乱入者の狙いを察したエアーマンが片腕をバスターに変形させる。
パンクの方も非戦闘形態から何時もの凶悪な戦闘形態へと姿を変えていた。
「フォルテにアースはフィーネを頼む」
「・・・んな」
パンクにそう言われるや反論しようとするフォルテだが、彼自身が今は戦えない事を強く認識している事もあり舌打ちしつつもフィーネの腕を掴んでいた。
駆け出していくパンクとエアーマンを見送り、フィーネを間に居れる形で互いに視線を向けるアースとフォルテの間に微妙な空気が流れる。
「キャハハハ!!足手纏いな二人はお留守番~!!頑張ってね~!!」
炎を纏い空を飛んでいくヒートマンにフォルテとアースが何かを叫ぼうとしたが、それよりも早くヒートマンはその場を後にしていた。
「ガアアァァァァァ!!死ねええぇぇぇぇぇ!!」
巨大な鎌を振るいながら進路上にある物を次々と切り伏せていくボーンダイン。
路上に停めてあった車があっさりと両断されてバラードの血相が青ざめる。
「なんて威力なんスか!!反則ッスよ」
原理は不明であるが金属製の鎌の切れ味は異常ともいえる程であった。
「うちのソードマンの剣も訳分からない原理で物が切れてるッスけど・・・」
古代遺跡で見つけたと言う剣を装備しているソードマンであるが、製作された年代を考えればなまくら同然の代物である筈の刀身には刃こぼれ一つ付いておらず現代の戦闘において用いられても何ら問題の無い切れ味を誇っているのをバラードは思い出す。
古代の超文明恐るべしと言うしか無いのだが、ボーンダインの鎌も同じ原理の代物なのかと不意に思ったのだ。
現実にボーンダインの鎌にはあれだけの事をしておきながら刃こぼれ一つも無い。
「ちょっと変な所を触っているんじゃ・・・!!」
抱きかかえる少女が抗議の声を上げるがバラードは無視を決め込む。
「口閉じてろッス!!舌噛むッスよ」
バラードの言葉に少女が黙り込む。
何度目かの攻撃を回避された事で鎌による攻撃を諦めたかのように見える。
ボワァァァァッァア!!
代わりとばかりにボーンダインの口が大きく開かれる。
口腔内から垣間見えるのは脈打つ様に燃え盛る炎だ。
「インフェルノブレスゥゥ!!」
ボアアアァァァァァァァ!!
吐き出される炎は直線状に延び、正面にある物を次々と飲み込んでいく。
真横に飛んで火炎を避けるバラードだが、辺りに延焼を始める炎に逃げ場を奪われてしまう。
「殺す・・・殺す!!」
バラードへの包囲網を形成する為か周囲に炎を撒き散らしジリジリと間合いを詰めていくボーンダイン。
「ぬくっ・・・!!」
呻くバラードの眼前でボーンダインが腰を落とす。
ガチャッッ!!
ボーンダインのボディの各所が開き両肩や腰部などに内蔵された銃口が一斉にバラードへと向けられる。
「貴様ら・・・これ以上、好き勝手には」
万事休すとなった段階で今更の様にロボットポリスや政府軍のロボット兵らが駆けつけてくる。
ボアアアァァァァァ!!
のだが次の瞬間にはボーンダインの放った火炎に飲み込まれてしまいあっさり全滅してしまう。
「役に立たねえ奴らッス・・・」
元より期待はしていないがこの状況にはバラードも落胆する。
ズンズンズンズンッッ!!
遠目に一体のメカザウルスがこちらに迫って来るのが見えるが距離からしてどうも間に合いそうにない。
「死ねええぇぇぇ!!」
殺意を露わにし再び銃口を向けるボーンダインにバラードが少女の楯とならんとする。
耐えられるかどうかは微妙だが、何もしないよりかはマシと言う判断からの行動だったのだが。
「エアーシューター!!」
真横より放たれた猛烈な竜巻にボーンダインのバランスが崩れる。
ズガガガガガガガガガッッ!!
バランスを崩した事で放たれるはずだった無数の銃弾はバラードの隣にあったショーウィンドウを粉々に砕く事となる。
「ガアァァァ!!邪魔を・・・」
ボーンダインが吠えるが続けざまにその身を弾丸に変形させたパンクが彼のボディを数メートルは吹き飛ばしていた。
ズウウウゥゥゥゥゥンンッッ!!
大の字で路上に倒れ伏すボーンダインだが、ゆっくりとだが起き上がろうとする。
並のロボットであれば一撃で粉砕されてもおかしくないエアーマンとパンクの一撃を受けながらも、ボーンダインのボディには殆ど傷がついていない。
残っていると言えばパンクがスクリューアタックを仕掛けた際に出来た僅かな凹みであろうか。
「兄貴・・・こいつ言うまでもないッスけど」
「例の謎の勢力に属する敵・・・だな」
バラードの言葉にパンクとエアーマンは油断する事無く身構える。
ボーンダインも唸り声を上げながら手にした鎌を大きく振るうと殺気を生じさせていたのだが。
ヒュンッッ!!ヒュンッッ!!
突如として飛び出してきた複数の輪にボーンダインの腕が絡み取られる。
「これ以上の破壊活動は許さんぞ!!」
無数のポリスロボ達を引き連れてその場に駆け付けたのはリングマンであった。
今回はあくまでもコサック博士らの護衛でこの場に居るのだが、非常事態と言う事もあり同僚達であるポリスロボを急遽従える形で現場に駆け付けていた。
リングマンとエアーマンらが視線を交わすのは一瞬の事、リングマンも現場での破壊行為を行っていたのはワイリーナンバーズではないと判断していた。
「リング・・・マン」
ブチィィッッ!!
腕に絡みついた輪を強引に剥ぎ取りながらボーンダインが彼の名前を呟く。
不意にボーンダインがバラードではなく駆け付けた面々の方に振り返る。
今まで執拗にバラードと少女を攻撃したのが嘘であるかの様であった。
自身らに背を向ける敵にバラードらも呆気に取られる。
「殺す・・・殺す殺す!!皆殺しだあああぁぁぁぁ!!」
「・・・!?」
紡がれる呪詛の言葉に驚く暇など無い。
取って返すかの如く己らに襲い掛かるボーンダインにリングマンは困惑気にその顔を歪めていた。
一方である。
式典を無事に終え要人達が宿泊先のホテルに戻って来た所でロック達は謎のロボットが暴れている事を知る。
彼らは当然の様にその場にいたライトナンバーズ共々、現場に向かわんとするのだが。
ズガアァァァァァンッッ!!
突如として降り注いだ無数のビームがタンクCSーⅡ型と数体のロボット兵を破壊する。
「ボーンダインめ・・・勝手に暴走しおって。奴を援護するつもりは無いが・・・貴様を足止めといこうかロックマンよ」
ビームが去った後で数メートルはあろうかと言う巨体を持つロボットがホテルの前にある広場に降り立つ。
身に纏ったローブの隙間より垣間見えるのは不気味な目玉であった。
「誰だ!!てめえは・・・!!」
喧嘩っ早いカットマンがローリングカッターを構えるが、襲撃者であるアルゴスは慌てる事無く広場の噴水に手を伸ばしていた。
「生まれ出よ・・・我が眷属よ」
自身の指の一部を切り離すやそれを噴水の水の中へと入れるアルゴス。
ブクブクブクブクブクッッ!!
突如として泡立った液体はまるで意識を持ったかのように球体の形となりそこより腕と足が生える。
「我が力たるデビルクリエイションの恐ろしさ・・・とくと思い知れ」
無機質な声色であったが僅かに目を細めた事から、相手に感情と言う物があるのがロックには分かった。
「ウッワアァァァッァ!!」
咆哮を上げ警備に当たっていたメカザウルスがアルゴスらに襲い掛かろうとする。
政府軍に属するロボット兵らも同様だ。
「愚かな・・・平伏すが良い!!」
バチンッッ!!
何かが弾けた様な音がした様にしか殆どの者は感じなかったであろう。
ズゥゥゥゥンッッ!!
メカザウルスが突如として地面に倒れ伏したのに続き、単純な思考回路を持つロボット兵などが次々とその場に倒れ伏す。
辛うじてその場に立っていたのはロックを始めとするライトナンバーズら、複雑な思考回路を持つ者達だけだった。
「くっ・・・なんだ頭が痛い」
エレキマンが頭を抱えながら呻く。
ロックも同様に頭痛を覚えたが今の光景に見覚えがあった。
「これは・・・」
騒ぎを聞きつけホテルより飛び出していたライト博士がアルゴスの引き起こした現象に言葉を失う。
彼が手にしていた端末も異常を示し何も映さなくなっていた。
そして複雑な思考回路を持たない機械達が機能を停止すると言う今の状況にも似た現象には見覚えがある。
「ロック・・・これはランファント遺跡群から発せられた電磁波による障害と同じものだ!!」
「ええ・・・分かっています。お前は・・・ラ・ムーンなのか?」
ライト博士の警告に頷きながらロックは思い当たる存在の名前を口にする。
対してアルゴスも先程の様に目を細める。
もしも彼に顔があれば恐らくほくそ笑んでいたのだろう。
「半分は正解と言っておこうロックマン。我が名はアルゴス・・・ラ・ムーン様の従者にしてその意思を受け継ぐ存在である」
自らの名前をロック達に名乗りながらアルゴスは生み出した眷属を前に進ませる。
「ランファント遺跡群での借りを返すとしようか・・・まあ覚悟するのだな」
「ブモモモモォォォッッ!!
水を素体にした眷属たるアクアデビルが声を上げる。
自身が放つ電磁波の影響下と言う事もあり、僅かに動きが鈍いロック達を見下ろすアルゴス。
「ブモモモモモモ!!」
次の瞬間、空中で弾け飛んだアクアデビルが無数の液体となってロック達に襲い掛かっていた。
何時もの後書きです。
さらっと読み飛ばして頂いて結構です。
〇ナイトマンご一行について。
原典の話を知っている人はもうご存知ですがとある人物の護衛を任されていたナイトマンですが色々あって逃げられました。
普通に考えれば?彼の出身国ってイギリスなイメージですがカンパネラ公国なる架空の国に変更となっております。
イギリスの解釈で現実と違っていたりするといけなかったのと、オリジナルの方がやりやすいと言うのが理由だったりします。
とは言え原典と違い姫との関係性が全く以って真逆となっています。
原典だと「姫~」な感じの爺や的なポジションだったのですが、こっちでは我儘な彼女に振り回されてる感じに変更となっております。
〇酔っ払いなナンバーズについて
お約束通り呑兵衛なメタルマンを始め続々と帰って来たナンバーズですが。
酔っ払ったプルートは凶悪と言う事でよろしくお願いします。
主な被害者はゴスペルと次いでタイムマン。
この手のコロコロしやすい相手に飛び掛かる辺りは猫です。
〇パンク一行に関して
台詞はありませんがパンク編で出たローズのクレープ屋台で一服していた一行ですが。
アースとフォルテが互いのプライドを掛けて喧嘩腰に。
公式において唯一かは不明ですが何気にロックに完全勝利したのってアースだけですよね?
と言う解釈でアースだけが持っている金星となっております。
当のアースは戦闘行為が出来ない事でかなりカリカリしてますが、この辺は戦闘行為をする事が自分の存在意義だからと言う理由が大きいです。
本星では戦闘能力の喪失=廃棄処分確定と言うブラックな環境だったのも大いにあると思います。
普段は冷静で強いけど想定外の事が起こるとテンパったりする辺りはアースの脆さを反映しているのかなと思います。
女性に改変した事でその辺がリアルになったかどうか・・・(汗
一応だけど彼女が今回の話の主役の筈なんですけどね。
〇ボーンダインについて
彼が狙う少女については次回に回して6人目の刺客ボーンダインに関して。
原典と違い顔こそ白骨化した爬虫類(一応ドラゴン系)ですがボディ自体には金属でおおわれており、あんまり骨要素は少なめな感じとなっております。
コンセプトは重火器を全身に内蔵した無骨なロボットとなっております。
鎌持って居たりリングマンに反応したりと色々とネタバレですが。ハイ・・・すいません。
〇アルゴスと正体について
ボーンダインを援護する形で単身でホテルを襲撃したアルゴス。
その正体はスパアドに出たラ・ムーンの外部端末兼戦闘端末が独立して動いている存在でした。
原典の方ではルナルゴスで正体判明も遅かったんですがあんまり衝撃が無かった様に当時思われたのと、アルゴス自身が正体を隠し必要性が全く以って無いのもあり宿敵ロックを前にあっさりとばらす事に。
この点は当初はタイラントを名乗っていたソローにも通じる所あります。彼も彼で正体を隠す必要性無いですもんね。
主な攻撃は目からのビーム。自身の一部を切り離して特定の物体をデビル系の眷属にするデビルクリエイション。
ランファント遺跡群から発せられた電磁波を範囲限定ながらも放つ事が出来る強敵となっております。
今回の後書きは以上です。
読んでくださってありがとうございます。