「まさかここに来る事になるとはな・・・」
自嘲気味な笑みを浮かべロボット王キングは時が止まった都市に足を踏み入れていた。
その隣を歩くのは黒いコートにサングラスを付けた青年。
非戦闘形態のブルースだ。
キングも同様に一見すると人間と変わらぬ姿をしておりこちらはボロボロになったローブを身に纏っている。
彼らの眼前に広がるはかつてシンフォニーシティと呼ばれた都市である。
総人口数万人を誇ったこの都市は人類とロボットの平和共存を実現すべく建設されたモデル都市であった。
キング事件の際にも奇跡的に被害を免れた事でシンフォニーシティは、不和が生じつつある人類とロボットの関係を取り持つ象徴となるかに思えたのだが。
今より一年前にディメンジョンズを名乗る謎のロボット達が都市を襲撃、街を占拠し要塞化を進めると言う事件が発生した。
その事件の首謀者はロックマンシャドウを名乗る未来から来たと言うロボットであった。
政府の要請を受けて出動したロックや紆余曲折があってその場にいたフォルテなどの活躍によってロックマンシャドウは倒されているのだが、事件の爪痕は今も色濃く刻まれている。
「ディメンジョンズが都市全体を要塞化した弊害もあって一般市民の帰還はままならずか・・・」
放置されたままの規制線を乗り越えブルースが言う。
「恐らくこの都市は放棄せざる得まい。元々が経済的に重要であった都市では無いからな」
キングがブルースの後に続きながら言う。
「そう言えば聞きたかったんだが。何故お前はこの都市を狙わなかった?国全体でシンフォニーシティと同様の理念を掲げた欧州のカンパネラ公国にはあれだけ執拗な攻撃を加えたと言うのに」
「人間とロボットが相いれない存在だと認識すれば、街の住人が勝手に争い自滅すると思った・・・では理由にならんか?」
「ならないな。お前自身がそれ程楽観的な思考を持つとは思えん」
ブルースの言葉にキングは苦笑を浮かべる。
暫しの沈黙の後に彼は観念した様に口を開いていた。
「ここは・・・ワイリーの基地から逃げ出した私が初めて辿り着いた場所だ。そして王となる決意をした場所だ。言うなれば思い出の地なのだよ」
製作者にすっかりその存在を忘れられ意図せずして目覚めた後のキングは、半ば生存本能だけでその場から逃げ出した結果この都市へと流れ着く。
表前人類とロボットが平和共存するとされたこの都市も必要とされなくなった者達があぶれる場所があった。
「あの時の私は肉体的にも精神的にも弱かった・・・弱かったがワイリーに与えられたこの力があった」
掌の間で光を生じさせながらキングは言う。
元となる設計図と素材さえあれば如何なる物ですらも創造可能なロイヤルリビルディング。
この力を応用しキングは自分自身を完成させ、最終的にはキング軍団を結成するに至る。
「いやはや今となっては懐かしい。飢えや乾きを満たす為に泥水をすすり残飯を漁ったのが昨日の事の様に思える」
遠い目をしながら話すキングにブルースは特に反応は示さない。
質問をして来た当初よりも表情が硬くなっているように思えたのは気のせいか。
「そう言えば君も・・・いや詮索はよそう。ともあれだ。私がこの街を攻撃しなかった理由は話させてもらったよ」
苦笑を浮かべながら首を振るキング。
ブルースの出生に関してはキングも知っているがどの様な理由があって彼が生みの親の元を離れているのかは知らない。
キングからすれば自身と違いトーマス=ライトなる人物は人格者であり、そんな彼と兄弟達を避ける理由が分からないのだが。
まあこの辺りの事を追求するのは野暮だとキングは判断する。
誰だって知られたくない言いたくない過去の一つや二つはあるものだ。
暫くして二人はシンフォニーシティの庁舎であった場所へと辿り着く。
ロックマンシャドウの手で要塞の中枢部へと姿を変えられた元庁舎は事件の後、放置されたままになっておりかつては厳重であったセキュリティも殆どが機能を停止している。
それ故に大した障害も無く二人は歩を進めるのだが。
「・・・侵入者を確認。エネルギー反応の照合を行います」
そんな両者を頭上よりスコープ越しに見つめるのは一つの影。
「指名手配中のロボット王キングともう一人はブルースです。如何致しますか?」
端末に侵入者の情報を送信しながら影は指示を待つ。
「了解しました・・・暫く監視を続けます」
監視用のドローンを彼らに気づかれない様に起動させながら影はそれらの目を利用して二人の監視を続けるのであった。
恐らくフォルテの物だろうと思しき穴の開いた電子扉を見つけた時、二人の顔に笑みが零れる。
彼は扉が開くのを我慢出来なかったのだろうなとこの場で起こった事が想像出来る。
壊れかけた電子扉を強引に開けつつキングは、かつてロックマンシャドウが居たエリアへと足を踏み入れていた。
「ロックマンシャドウ・・・未来でロックマンを拉致し現代に連れ帰った彼をクイントに改造した際に改造の試作品として造られた存在。そのまま放置され未来で覚醒した彼は世界を破壊しつくしたと聞く」
「ある意味でもう一人のお前だな。自分で自分を改造した経緯と言い」
ブルースの言葉にキングは『否定はしない』と苦笑を浮かべる。
「だが幸運にも私にはまだ止めてくれる存在が居た。思うに彼がわざわざ過去の世界に飛んでここへ来たのもロックマンと言う存在を求めての事なのかも知れん」
かつてロックマンシャドウが座していたと思しき玉座があったであろう場所に目を向けながら、キングは彼の思いを察する。
まるで霧がかかったかの様に未来は不明瞭だが、ロックマンシャドウは現代に生きる者達に警告を発したかったのかも知れないとキングは思う。
彼が来た事で言える事は未来が確実に変わったと言う事。
それが起こる事が分かればある程度の対策は講じられるのだから。
「・・・やはりな」
掌を玉座があった場の奥に向けてキングは呻く。
一見すればただ廃墟となっただけの一室と壁にしか見えないがエネルギーの波長に乱れが見える。
「空間が歪んでいるか・・・」
ブルースも表情を引き締め僅かに揺らめく場を見据える。
これがディメンジョンズが排除された後もシンフォニーシティが放棄されたままの理由の一つなのだろう。
ロックマンシャドウが出現したからなのかは不明だが、この場において本来ある筈の無い空間の揺らぎが生じているのだ。
キングやブルースとてその先が何と通じているのか分からない。
「アストロマン辺りを連れてくれば分かったかも知れんな」
「それで・・・どうする?」
顎に手を置きその場には居ないロボットの名前を口にするキングにブルースが問いかける。
「わざわざ二人で来たのだ。正直、無事に帰れるかは不明だが飛び込んでみるのも一興じゃないかね?」
「意外と言うべきか大胆だな」
「でなければ人類に宣戦布告などせんよ」
互いに笑みを浮かべつつ二人は空間の揺らぎに向かって足を踏み入れる。
距離にして数歩、玉座の後ろに回り込む形で足を入れたと思った瞬間であった。
ヴンッッ!!
吸い込まれたと言う感覚は無かった。
が不意に辺りの風景が変わった事で自分達が揺らぎの中に入ったのだけは分かる。
「この泥棒がっっ!!」
「・・・!?」
脇の方で不意に声が響いた事もありブルースが慌ててそちらの方を見る。
対してキングの顔は非常に強張っていた。
何時の間にかどこかの路地裏と思われる場所に二人はいた。
険しい顔で追いかける人間とロボットが、彼らから盗んだエネルギーパックを手にした一人の少年型ロボットを壁際に追い詰めていた。
彼らは謝罪の言葉を口にする少年を容赦無く暴行を加え始める。
「まあ何れにせよ窃盗を働いたのだ・・・こうなるのは自業自得だろうが」
キングは地面に倒れ伏したまま動かないかつての自分を見下ろしその顔を歪めていた。
ブンッッ!!
忌々し気に不甲斐無い自身を蹴り飛ばそうとするキングだが、映像に過ぎないのか彼の足はすり抜けてしまう。
ややあって倒れ伏した彼に近寄り声を掛ける人物が現れる。
今にも壊れそうな配線などが剥き出しのロボットは、手にしたエネルギーパックを少年に渡すのであった。
「・・・あの時に今の力があればなどと言うのは野暮か」
自嘲気味に話すキングにブルースは何も答えない。
が次に流れて来た映像に彼の顔が一層に強張る。
「待て・・・待つんだブルース!!」
降りしきる雨の中、走り出す青年を追いかけるのは恰幅のいい初老の男性。
言うまでも無くライト博士である。
そしてその制止を振り切る形で走り出すのは。
「・・・・・・」
終始無言なブルースにキングも言葉を発しない。
互いに見られたくない物を見てしまったのだ。
「ほう・・・まだ動いておる。あの偽善者のライトが造り出したロボットなだけの事はある」
もう一人の見知った人物の姿も声もブルースの記憶なのだろう。
それすらも過ぎ去った後に幾つかの映像が流れるが、両者は気にもせず前を進み続ける。
が本当に前に進んでいるのかも途中で分からなくなる。
前も後ろも分からぬ状態に恐怖すら覚えるが、ややあって辿り着いた先で彼らを待ち受けていたのは。
「グルルルルルルッッ!!」
キングとブルースを見るなり唸り声を上げるのは十数メートルにあろうかと言う巨体を誇る狼の姿をしたロボットであった。
「・・・!!」
反射的に戦闘形態となったキングが楯を構えたのと巨狼が炎を吐き出したのはほぼ同時であった。
「ぬううぅぅぅ!!」
あまりの熱量に堅牢さを誇る楯が熔解し始めるのを感じキングが呻く。
「・・・キングッッ!!」
キング同様に戦闘形態へと変じたブルースが彼の背から飛び出す形でバスターを構える。
「ブルースストライクッッ!!」
バチンッッ!!
ブルースのバスターから放たれる巨大な光弾が巨狼の顔面に命中する。
「ウオオオォォォォォンッッ!!」
光弾を受け僅かに仰け反った巨狼は火炎を止めるや今度はブルースを睨み据える。
バチバチバチバチッッ!!
両肩に膨大な稲妻を集め始める巨狼。
「オオオォォォォンッッ!!」
構える間すら無く吹き荒れる電撃の嵐に両者は成す術無くその場に倒れ伏す。
「ガオオオォォォッッ!!」
「ぬくっ・・・たった一撃でこれか」
巨狼の咆哮を聞きながら震える己の身を叱咤し立ち上がるキング。
「正しく桁違いか・・・」
ブルースもボロボロになった楯をその場に放り投げ身構える。
「舐めるなよ。如何なる存在かは知らぬが・・・仮にもロボット王を名乗った身だ。そう簡単に倒れる訳には行かん!!」
巨大な斧を手にキングが叫ぶ。
対して巨狼の方は言葉は発しないものの応じる様に喉の奥を鳴らす。
「それにこれだけの存在に守護を任せてると言う事からもこの場の重要性を窺い知れると言う物だ!!」
キングが何も無い地面を踏みしめ駆ける。
一見すると重装甲に見えるキングだがその機動力は並の高性能ロボットを遥かに上回る。
次々と放たれる電撃弾を回避しキングが一気に間合いを詰める。
「ガオオオォォォンッッ!!」
巨狼が大きく前脚を振りかぶるのが見える。
その脚に取り付けられた鋼鉄の爪をまともに受ければキングとて無事では済まないだろう。
だが振り上げられた前脚が下ろされる事は無かった。
ドガンッッ!!
まずに頭部に直撃した光弾が巨狼を僅かに怯ませる。
続けざまに放たれるブルースストライクが振り上げた前脚へと叩きこまれ、巨狼の動きは完全に硬直する。
ロックやフォルテにとってチャージショットに匹敵するブルースストライクの連射。
動力炉に欠陥を持つと言うブルースにとってはリスクの高い行為ではあるが、それに躊躇いを見せれるような相手ではない。
結果として僅かに動きを止める事に成功するのだが、それはキングにとっては十分な時間であった。
「むぅぅぅんっっ!!キングダムアックス!!」
ズガアアアァァァァ!!
キング渾身の一撃が巨狼の頭部へと突き刺さり、頭部に大きな裂傷を走らせる。
「ワアオオオォォォォォォンッッ!!」
怒りの咆哮を上げる巨狼が放つ衝撃波でキングとブルースが先程の様に吹き飛ばされる。
「強い・・・が付け入る隙が無い訳ではない」
ニヤリと笑みを浮かべ再び身構えるキング。
ブルースも無言でそれに応じた時だった。
<・・・おや?誰か来たのかな?>
不意に空間内に響く甲高い声。
<トレブル?侵入者が現れたのかな・・・って君達はキングとブルースじゃないか。いやあ懐かしい顔ぶれだ>
「クゥゥゥンッッ!!」
トレブルと呼ばれた巨狼が声の主に懐く様な声を上げる。
自身らの名前を知っている声にキングとブルースは互いに顔を見合わせるのだが。
<成程・・・君達がここに来ちゃったか。いや~困るな。ここは彼の為に連絡路として私が維持しているんだ。じゃないと彼が帰れなくなるからね>
甲高い少年の声は困った様な声を上げていた。
「お前・・・誰だ?」
<私の名前は大首領(マスター)ア・・・っと名乗りたいんだけど止めておくよ。何せ私が名前を名乗れば歴史が変わる可能性があるからね。と言えば分かるかな?>
ブルースの問いかけに声は悪戯っぽく言う。
小馬鹿にした様な口調もあり表情が険しくなる両者だが、その反応も声の主を喜ばせるだけに終わる。
<ここを維持する片手間にハンター共を相手にするのは私でも骨が折れるねえ。あっと・・・これ以上、喋るとボロが出そうだ>
キュイイイイィィィィィンッッ!!
声が何かを合図したのと同時に辺りに金属音が響き渡る。
<兎にも角にも暫くは誰にも入れない様にしておこうか・・・とりあえず二人に言っておくけどここへと辿り着いた君達の推論は正解だ。まあいずれにせよ君達をこちら側に来させる訳には行かない。先の事を知られて君達に未来を書き換えられるのは何かと都合が悪いんでね>
「未来・・・だと」
<アハハハハ・・・そう言う訳だからお二人とも強制退場~!!>
カッッ!!
空間の内部で凄まじい光が生じたと思った瞬間、ブルース達の意識は文字通り消し飛ぶ。
「むう・・・」
ロックマンシャドウが座した玉座の傍らでゆっくりと起き上がるキング。
彼の隣には同じ様に意識を失っていたブルースが立ち上がろうとしていた所であった。
既に一室にあった空間の歪みは無い。
声の主の言葉を信じるならば入り口を閉じられたのだろう。
全身についた傷が無ければ先程の事は夢だったのではとさえ思ってしまう。
「あれは・・・一体?」
首を傾げるキングにブルースも腕を組み思案する。
「俺達の推論は正解だとあれは言った・・・それだけでも収穫はあったと見るべきか」
「正しく未来からの挑戦者か」
一応の答えは得た事もありこれ以上ここに留まる理由は無い。
キングが苦笑を浮かべ元来た道を帰ろうとした時であった。
ピィッ・・・・。
自身の頭部にレーザーポインターが当てられている事に気づくキング。
反射的に斧を手にするがそれよりも前に一室に十数人の武装したロボット兵達が雪崩れ込んでくる。
「・・・動くな」
無機質な声でロボット兵は手にしたロボット用のアサルトライフルを二人に突き付ける。
目に見える彼ら以外にも居るのだろうか周囲の風景が僅かにぶれるのが分かる。
「ロボットアーミーの特務部隊か・・・成程こうもあっさりと入れるのはおかしいと思ったが」
ブルースにも一応は銃を向けられているが頭部や胴体を中心に無数のレーザーが当てられているのは当然の様にキングの方だ。
人類に反旗を翻し現在指名手配されているキングに対して当然の反応と言えよう。
「貴様らが徒党を組んだ所で・・・私に勝てるかな?」
キングとしてもここで捕まる訳にはいかない。
斧を手にこの包囲網を突破せんと身構えるのだが。
「どうも失礼しますよ」
更に数名のロボット兵を伴い一室に入って来るのは一人の軍服姿の青年。
一見するとにこやかな笑みを浮かべる彼はキングを見るなり恭しく頭を下げる。
「お前は・・・」
その青年のロボットにキングは見覚えがあった。
「こうして会うのは初めてですね。初めましてキング陛下。政府軍旗下ロボットアーミーの司令官を務めておりますオクターヴです」
ロボットアーミー、文字通りのロボット達で構成された政府軍の主力になりつつある組織だ。
カットマンを始めとするライトナンバーズを洗脳し開始されたワイリーの世界征服計画で、連邦政府が有する政府軍は全く以って歯が立たなかった。
結果はご存知ロックマンと言う一人のロボットの手で解決するのだが、その一件で連邦政府並びに政府軍が受けた衝撃は計り知れない物であっただろう。
ワイリーが引き起こす事件に並行する形で連邦政府に属する各国は次々と戦闘用ロボット開発し、最終的にその殆どをロボット達で構成される軍隊が誕生する事となる。
それが彼らロボットアーミーであり、キング事件の際には連邦政府の戦力の一翼を担いキング軍団と各地で激突している。
言うなれば互いに仇同士と言えよう。
司令官と言う立場もあり前線に出る事は無かったが、オクターヴの個人的な性能は並の高性能ロボットを遥かに上回る。
先程の戦いで負傷したキングが彼らを相手に勝てるかと聞かれると些か微妙と言えよう。
「誤解している様なのでまず言っておきましょう」
後ろに手を組みながらオクターヴは言う。
「私は貴方を逮捕する気もまして破壊する気もありませんのでご安心を」
「・・・なんだと?」
己を油断させるつもりなのか敵意は無いと言うオクターヴ。
彼は指を立てながら笑みを深くする。
「貴方の脅威が無くなったと知れれば我々の来年の予算が減らされますので」
笑みを浮かべながら俗っぽい事を口にするオクターヴにキングは呆気に取られる。
「ここへどうして来たのか・・・ここで展開されていた空間の揺らぎを調査しに来たのでしょうけど。まさか貴方達が来るとは・・・予想外でしたよ。いずれにせよキング陛下には一度お会いしたかったのでこうして出向いた訳でして」
司令官である自身がここに来た理由を話すオクターヴ。
自分に危害を加えるつもりは無いとしつつもわざわざ会いに来るなど酔狂な男だとキングは率直に思う。
「シンフォニーシティーを封鎖したのもあれが原因か?」
「はい・・・一般市民やロボットが不用意に足を踏み入れれば何が起こるか分かりませんからね」
ブルースの問いかけに市民の安全の為と口にするオクターヴだが果たして本当に信じて良いのか。
思案する様にバイザーの奥の瞳を光らせるブルース。
そんな彼の視線を知ってか知らずかオクターヴはキングに銃を向けていた兵士らを下がらせる。
「実は私以上に貴方に会いたいと思っている方が居ましてね。私達に強制する権利はありませんが・・・お会いになりますか?貴方にとって悪くは無い事だとは言っておきましょう」
ニコニコと笑みを絶やさずに言うオクターヴにキングは顎に手を置き唸る。
目の前の男を結果として使い走りにする存在と考えれば自ずと人物も限られてくる。
彼らは自身に危害は加えないと言っている事を完全に信じるつもりは無いが、興味が出て来たのも事実。
と考えたキングの判断は早い。
「良いだろう・・・では会わさせてもらおうか。お前以上に私に会いたいと言う酔狂な者に」
キングの言葉に満足げに頷いたオクターヴは傍らの兵士に何やら指示を出す。
端末を手にどこかへと連絡を取り始める兵士を横目にブルースが溜息を吐く。
「いいのか?」
「面倒な事になってスマンなブルース。私も好奇心とやらには勝てんのさ」
どこか呆れた風も感じさせつつもブルースは苦笑するキングに同じ様な笑みを返すのであった。
「あんまり言いたくないけど・・・邪魔だから出て行ってくれる?」
真顔で軍団古参のスナイパージョーの一人にそう言われアースは歯を軋ませる他無かった。
今やワイリー軍団の中でも現役で稼働しているのは十数人に絞られるらしいのだが、彼はワイリーによる最初の世界征服計画の際に作戦に参加したジョーの一人らしい。
立場上ナンバーズよりも格下だがメタルマンらにも古参のジョー達は敬意を払われている存在だ。
いやそもそも今の状況において自分に非があるのだから反論出来ない。
「掃除なら自分やメットール達にやらせておくから。違う所で作業お願いします」
床の上に盛大にぶちまけられたバケツの水を雑巾で拭き始めるジョーやメットール達にそう言われアースはその場より立ち去る他無い。
そもそもモノを作ると言う概念が無かったルーラーズの彼女にとって、戦闘以外の作業は未知の領域に足を踏みいれるに等しい行為だ。
と言うか今自身が使用としている掃除を始めとする雑用は下の者がする行為と言う認識がある。
が戦闘能力を喪失している今、何かしら作業をしなければと言う責任感からこうして作業をしようとしているだけ以前よりかは彼女も成長したと言えよう。
足元をせわしなく動き回るメットールを見るにアースの胸がざわつく。
次いで言えば先程洗濯が終わったシーツを持って廊下を歩いていたフィーネの姿にもだ。
(今の私はメットール以下の存在なのか・・・)
自分が役に立たないと認めたくはないが現実は非情である。
「あらあら~・・・ちょっと重症ね」
力なく肩を落とすアースの姿を遠目に口を開くのはネプチューンだ。
「まあそうなるとは思っていたけどな。ところでお前の所の海の家の準備どうなのよ?」
メタルマンの言葉にネプチューンは指で丸を作り笑みを浮かべていた。
「本当はもっと早くしたかったんだけど色々と準備があってね・・・今しがたバブルマンからOKの連絡が入った所よ」
そう言ってスキップしながらアースの下に近づくネプチューン。
「隊長~色々と大変なのは分かってるけど皆で海に行かな~い?」
ネプチューンの姿に慌てて取り繕うとするアースだがその言葉を聞いて顔が険しくなる。
「海・・・汚染物やらゴミまみれの液体が漂う場所に?」
「それは皆が掃除しないからよ。まあ気分転換も兼ねてって事になるんだけど。ワイリー博士も一向に起きる気配が無いし」
潔癖症のアースから見た散々な海への認識に唸りながらもネプチューンは彼女をここから出そうと躍起になる。
「いやだが・・・他の者達が働いている中で私だけが遊んでいる訳には」
「役に立たないんだったら遊んでた方が他の皆には有難いんじゃなくって?」
ネプチューンの遠慮の無い言葉にアースが一瞬涙目になる。
何時もであれば激昂するか鼻で笑うかのどちらかであろうがそのくらいに今のアースは心が折れかけてる。
「ワイリースターの再建からの本格運用まで働きづめだったし。この機会に充実した休暇を送りましょうよ。ちょっとぐらい遊んでも罰は当たらないわよ」
ニコニコと微笑むネプチューンにアースは悩みぬいた末に頷くのであった。
でもって日付は変わり。
「・・・と言う訳で従業員も確保出来たのでアタシの海の家も本格的に今シーズンの稼働をしようと思います」
パチパチパチッッ!!
とマイクを手に口を開くネプチューンに拍手を送るのは普段彼の下で働いているジョー達だ。
その彼らだがトランクやら大きなバッグを持っており今にも旅行に出かけそうな様子だ。
「普段から働き詰めなジョーの皆さんには慰安旅行に行ってもらい。代わりに確保した他の皆で海の家を盛り上げるわよ~」
「「お~・・・」」
「声が小さいわよ~!!」
「「おお~っっ!!」」
ネプチューンに促されその場に集まった面々は揃わない声をそれぞれ上げる。
「てかなんで俺まで働かなきゃいけないんだ!!」
そう言って抗議の声を上げるのはフォルテだ。
彼もアース同様に修理が完了しておらず現在も非戦闘形態のままだ。
「ったくこいつが下手な事してなかったらジジイに今頃修理してもらってるのによ」
ジロリと傍らのアースを睨み据えるフォルテ。
アースの方も今にも射殺さんばかりの視線をフォルテに向けていた。
「はいは~い喧嘩は駄目よ~」
ネプチューンの声にフォルテがそっぽを向く。
「じゃあ自分達はこの辺りで」
「いってらっしゃい~」
ジョーの一人がそう言うなり数人居た彼らは足取りも軽やかに慰安旅行に出かけてしまう。
彼らに手を振りながらネプチューンは残った面々に目を向ける。
現在絶賛非戦闘モードなフォルテとアース、それにフィーネとその保護者のパンク、社会見学目的でパッショナーがその場に派遣されていた。
あとゴスペルとダルセニョーも居るが便宜上人数には数えないとする。
と言うか二人ともネプチューンの話そっちのけで勝手に遊んでいる。
因みに副店長のバブルマンは先程から黙々と店の準備をし始めていた。
基本はネプチューンと彼に先程出て行ったジョー達数人に経営されている海の家なのだが、今回は何時ものジョー達に代わり彼らを従業員として営業を始めようとしていた。
「・・・スマンが一つ質問がある」
手を上げるパンクにネプチューンは『どうぞ』と彼に返す。
「多少の家事能力があるフォルテやフィーネはまあ分かるしパッショナー達も社会の見学と言う意味での派遣は分かる。・・・が私もそうだがアースやパッショナー達は料理の類は出来ないぞ。そもそも水中用じゃないから溺れた客が出ても助けられん可能性が高い」
パンクの言葉通り水中用ではない者はあまり海の中に入らない方が良いと言うか逆に溺れる危険性もある。
「海の監視はアタシとバブルマンで何とかするんで安心してね」
「となると我々は軽食か・・・そうなるとますます」
「まあパンクは海でのトラブル解決なり迷子の担当なりしてもらうつもりだけど。フィーネちゃんが居るとは言え料理の方の不安が出て来るのは御尤もよね」
パンクの指摘に頷きながらネプチューンはジョー達が去っていった道路の向こう側からやって来る人影を見るなり口の端を緩める。
「何時もだったらクイントちゃんに応援を頼んでるんだけど。今回は家事能力を中心に色々と万能なスペシャルゲストの派遣をライト博士に頼んでおいたのよ!!」
そう言って海の家に姿を現したのは一人の少年型ロボット。
「て・・・てめえは!!」
彼の姿を見るなりその指を突き付けるフォルテ。
「た・・・確かに家事を含めて万能だが何故こいつを」
アースが呆れた様な顔で言うも来てしまったものは仕方が無い。
「てかライト博士ってお人好しよね~電話して頼んだら二つ返事で了承をもらったわ~」
ネプチューンの言葉に苦笑いを浮かべながら彼らの宿敵たるロックは礼儀正しく頭を下げるのであった。
「どうも・・・ライトナンバーズのロックです。短い間ですがよろ・・・」
「お前とは宜しくしたくねえ!!」
口を開くロックにフォルテが声を上げながら遮る。
どこか子供染みた反応を示すフォルテにロックは屈託の無い笑みを返す。
「ロックお兄ちゃん~。ロールお姉ちゃんは?」
「後でカリンカちゃんと一緒に遊びに来るって言っていたよ」
そんなフォルテはともあれ早速フィーネに懐かれるロックは彼女に言葉を掛けつつ、早速ながら準備を始める。
「もはや・・・嫌な予感しかしないな」
前途多難な状況にパンクは深々と溜息を吐いていた。
何時もの後書きです。
さらっと読み飛ばして頂いて結構です。
〇ブルースとキングのコンビについて
互いに生みの親から逃げ出した似た者コンビと言う所か。
やった事は違えど互いに分かり合えている所はあると思われる。
話の展開もありあまり戦闘は出来なかったので次回は色々とやりたい。
〇非戦闘形態について
ブルースは殆どメガミ版参照。既に何度も描写されているがキングやパンク、バラード等も含め非戦闘形態がある。
但しエアーマンを始めとする面々には無かったりと全てのナンバーズに備わっている訳ではない。
ライトナンバーズでもロックぐらいしか持っていなかったりと一部のナンバーズと言うかキラーズやスペシャルな面々だけが持っている機能と言っても良い。
特にワイリーナンバーズに関しては偽装や日常時の力のセーフ機能と言う面が強い。
〇未来からの挑戦者について
ゲーム自体は半ばパラレル扱いだが作品内ではキング事件の一年後に発生した事件となっている。
顛末自体はゲーム同様の結果となっている。
世界規模なキング事件と違いあくまでも一都市で起こった事件と言うのが世間の扱い。
この辺はワールドの事件も同様と言える(但しワールド5は別)。
〇シンフォニーシティーについて
人間とロボットが暮らす一種のモデル都市だった。
都市内ではロボットも他の都市以上の権利も保証されていたのだが同時に他の都市や工場などから逃げ出したロボットがスラム街に潜伏するなどの問題も発生していた。
皮肉な事にロボット王を名乗る前のキングが辿り着いた経緯や結果もそうだが、ワイリーが起こす事件とは別種のロボット犯罪の温床にもなってしまっていた。
ロックマンシャドウによる事件の後、市庁舎跡で次元の歪みが発生する様になり、その件を伏せたまま都市自体は封鎖されてしまっている。
封鎖の件に関しては次元の歪みもそうだが本音としてはキング事件後に連邦政府が、人類に逆らうロボットへの対応を厳しくした手前もありシンフォニーシティの様な街が増えると困ると言う政治的な理由もある。
事実キング事件の影響でこの手の都市の開発計画が何件か中止に追い込まれており、後に耐久年数の過ぎたロボットを強制的に廃棄する法案の成立にも繋がっている。
〇次元の歪みについて
ロックマンシャドウが未来からやって来た影響で出来た歪み。
内部では入った者のトラウマが具現化していた。
キングはかつての今以上に貧しい過去をブルースはライト博士の下から脱走した直後とワイリーと出会った時の光景が具現化した。
それだけ二人にとって今も尚、尾を引いている件なのだろう。
キングの見た目に関しては自分で自分を完成させたこともあり、現在の青年の姿はどちらかと言えば自分で理想とする王っぽい姿に自らを改造してなった解釈。
当初はフィーネなどと同様に少年の姿をしており弱かった。
そういう意味では彼もロックと同じ様な所がある。意外と言うか見た目とは裏腹に無い面では幼い面がある。
〇大首領と書いてマスターと読む例のアの人について
トレブルの方は後に人類に反乱を起こす人の第二形態のプロトタイプ。とにかくでかい狼ロボ。
アの付く人は今回はあくまでもゲスト出演であり本格的な登場はかなり先と言うか。21XX年代・・・Xシリーズの話に登場予定なラスボス。
ハンターなる者と戦いながら次元の歪みを連絡路として維持しているのでしんどいらしい。
未来の世界の存在であり歴史改変はあまり好んでいないのだが、彼は彼で利用しているのでどっこいどっこい。
とりあえずブルース達を追い出して連絡路を一旦封鎖した。
あくまでもゲスト出演でありこれ以上、物語に関わる事は無い・・・ハズ。
〇ロボットアーミーおよびオクターヴについて
一度目のワイリーによる世界征服計画の際に暴走していたとは言え工業用ロボット達に政府軍が歯が立たなかったのは極めて衝撃的であった。
結果として軍用なり警察用のロボットの開発が進められる事となるのだが、基本的に政府軍では人間とロボットの兵士や兵器などが混在しており、一種の指揮系統の混乱を生じさせるアクシデントも続発していた。
その編の問題を解消する為に設立されたのがロボットアーミーで基本的にロボットだけで構成されている。
後の時代のレプリフォースの原型でありオクターヴはその創設者として名前を残している。
キング事件の際にワイリー軍団同様に組織的な活動でキング軍団の侵攻を食い止める働きを示しており、彼らが居なければ連邦政府は滅んでいたとも言われている。
オクターヴの実力はゲームで言う所のスぺボスに相当。数値上のスペックで言えばキングらに匹敵する。
連邦政府が潤沢な資金をつぎ込んで開発したのでかなり強い。常に笑みを浮かべている胡散臭い青年の姿をしている。
見た目通りと言うべきか彼も彼で特務部隊を使って独自に動いている。
〇古参のジョーについて
今となっては数少ない軍団設立当初のジョーの一人。作中で出た彼はボンバーマンステージに居た個体という設定。
もう十数人しか残っていないが蓄積された経験値もあり、普通のジョーと違いかなり強くそしてしぶとい。
敵に対し嫌らしい位置取りをする事もあって、アースなどに対しても分かるように結構辛辣な一面を持つ。
ナンバーズよりも格下だがメタルマンらよりも実質先輩と言う事もあり敬意を払われている存在。
〇アースの能力について
戦闘以外はからっきしなので料理は消し炭となり掃除をすればそもそも触れない&バケツの水を撒き散らす。
洗濯物なんて他人のを干すのが嫌なので凄く時間が掛かるのと躊躇している間にフィーネや他の面々がしてしまうなど、全く以って役に立たない。
はっきり言って居ない方が良い。本人にとっては屈辱だろうが。
〇海の家について
もうお約束。色々と発展する予定。
特別な助っ人としてロックがやって来た。
時々クイントが助っ人に来るらしいが現在の自分が居る事もあり彼が出て来る事は無いであろう。
今回台詞は無かったが何気にバブルマンも居るよ。
ここで勤務しているジョー達は二度目の世界征服計画の際に参加した者達を中心に構成されてたりする。
つまりは帰って来たシリーズと言う事。
今回の後書きは以上です。
読んでくださってありがとうございます。