町外れのスラム街、日も当たらぬ場所で獅子を模した頭部を持つロボットが体を横たえていた。
「グルルゥゥ・・・!」
「ずいぶんとひどくやられましたね・・・・」
傷ついたカブキマンの目の前の闇が動く・・・・。
「お前か・・・何の用だ?」
カブキマンは影に向かって睨みを聞かせる。
影が揺らいだかと思うと影から一対の眼光が現れる。
「何の用・・・ですか?それはあなたを助ける為ですよ」
影は丁寧な物腰で淡々と言葉を続ける。
「人類の英雄たるロックマンとあのワイリーナンバーズのスペシャル第一号エンカーを二人同時に相手をするのはあなたでも骨が折れますかね」
「うるさい・・・!噛み砕かれたいのか!」
カブキマンは唸るが影は動じた様子は無い。
「あなたにはやる事があるのでしょう?我が主もあなたには支援を惜しみません」
「・・・・・・」
カブキマンは黙したままもその瞳には怪しい光が輝いていた。
「・・・俺の・・やる事・・・そうだ・・!思い出したぞ・・・!」
「フフフフ・・・そうですか。ではまずはあなたの体を修復しましょう。それから存分にお暴れくださいませ・・・」
夜の闇を映すが如く影は動き出す・・・深い闇が静かに動き始めた。
「・・・クソッ!あの化け物刑事め・・・!」
エンカーは応急処置の済んだ体を動かしながら忌々しげにはき捨てる。
あの後、エンカー達はベテラン刑事ジョージ相手に三時間以上に及ぶ逃走劇を繰り広げる羽目になってしまったのであった。
ジョージの指揮は迅速で街の各所にロボットポリスによる取り締まりが行われ。
長年の勘なのだろうかすぐにエンカー達を見つけ出しその度に逃走をする羽目になってしまったのである。
正直シャドーマンが一緒でなければ逮捕されていた可能性が高い。
なんとか基地へとたどり着いた頃には陽も既に落ちかかっていた。
基地へたどり着くなり大破したテングマンをメディカルカプセルに押し込み、自身の体も先ほど応急処置を施しそれなりに動けるようになったところである。
「シャドーマン・・・あんた、あのカブキマンの事でなんか知っている事はないのか?」
「面目ない・・・拙者も彼の事については何も・・・」
シャドーマンは首を横に振る。
「しかし思い当たる節が無い訳ではないでござる。拙者の極秘任務とどうやら彼の者は関係があるようでござる」
「関係・・・・その極秘任務ってやつ無理なら良いが俺に教えてくれ」
拙者が話せる範囲ならばとシャドーマンは最近ワイリーに命じられて行っていた任務を話し出す。
「現在急に世界各国が軍備を増強・・・要は我々に匹敵するとは思えぬがそれでも高性能なロボットの開発が進められているようでござる。そしてこの都市にはニホンの高性能戦闘用ロボットの試作機が何体か秘密裏に運ばれていると言う事でござる」
「軍備の増強・・・それとこれがなんの・・・しかしこれとどうねえ・・」
エンカーは思案にふけこんだが頭はこんがらがる一方である。
「拙者が言えるのはこれまで・・・・これ以上は言えぬでござるよ」
そしてシャドーマンは任務の件で忙しいとそのままの足で再びどこかに行ってしまった。
「忙しい奴だぜ・・・俺も体が動けばいいんだが・・・」
エンカーは応急処置が済んだばかりの自身の体を恨めしそうに見つめていた。
結局エンカーの体が完治したのはそれから五日後の事だった。
ワイリーが不在のせいもありメディカルカプセルだけで治した為、時間がかかりすぎたのである。
テングマンはある程度の修復は終わったもののまだ自由に動く事ができず。
今もメディカルカプセルでの治療が行われている最中である。
「兄貴・・・ずいぶん派手にやられたそうじゃないか、傷はもういいのか?」
そうエンカーに声をかけるのは彼と同じロックマンキラーズの2号機パンクであった。
全身にノコギリや突起物が覆い血の様に真っ赤に染まったボディ・・・どんな素人が見ても戦闘用と分かる見た目で凶悪そうに見えるが、実際正々堂々を好む武人肌であり。普段は無口で無愛想だが人一倍他人には気を使うロボットである。
エンカーは大丈夫だと言うとパンクは無理はしないようにと言ってそのまま基地から街の方へと向かい歩いていった。
今日はおそらくいつもの缶詰工場でのバイトの時間なのだろう、時間を見れば朝の8時と2分・・・律儀な奴の事、8時30分の仕事時間の前に工場で準備をするつもりなのだろう。
それからしばらくして、エンカーも槍を携え街の方へと向かっていく。
先ほどヤマトマンから連絡があったからである。
「お主に話さねばならない事がある・・・午前10時頃にB地区のスラム街のいつものところで」
スラム街・・・華やかな街の裏で必ずと言ってもいいほど存在する場所。
社会に疲れた者、付いていかれなかった者、中には犯罪を犯したロボットやロボットに居場所を奪われたある方面での技術者など、そういった者たちが集まる場所、様々な社会の闇が存在する治安も悪い危険な場所でもある。
路地の角にうち捨てられた一軒の小屋・・・そこはエンカーの主催する「和風同盟」の集合場所でもある。
見てくれは悪いが中は意外にも整理されておりそこには情報収集を目的にスナイパージョーが一体常にいる、言うなればワイリー軍団の支部基地の様なものである。
エンカーが小屋に着いた時、既にヤマトマンが先に到着をしていた。
「話って何だ・・・・?」
エンカーは腰を落ち着けながらヤマトマンに問いかける。
「傷は治ったようだな・・・実は昨日のカブキマンの件で話したい事がある」
あぐらをかきながらヤマトマンは続けて話を進める。
「前にも言ったがあれはワシと同じ生みの親より作られた、いわばワシの兄弟機とも言うべき存在だ」
「・・・・ああ、それは前にも聞いたが」
「奴は普通の芸能ロボットでは無い・・・そもそも普通のロボットとは作りが違うのだ」
ヤマトマンが話し始めた真実・・・・それはエンカーですらも予想外の事であった。
ロボット先進国としても名高い東洋の国ニホン、かつては経済大国として名を連ねたが近年、その栄華にも陰りが見え始めている。
ロボットを用いた産業による発展をいち早く行い、その経済で世界で最も豊かな国が作られたはずだった。
しかしロボットの進出によりそれまでの役目を担ってきた人間が追い出される形になり。
その後世界を襲った未曾有の経済危機によりニホンの経済は破綻をきたしはじめる。
経済危機に対し対策を打てるような企業には優秀な人材がロボットの進出によって淘汰されており他の各国に比べそれらの対策が遅れたのである。
人材の流出は人口の減少が懸念されるこの国にとっては致命的であった・・・・。
今やロボット工学以外にニホンの誇れる物はなくなりつつある。
そういう理由からニホンはこう皮肉をこめて言われるロボット先進国と・・・。
近年・・・その方針を急に変え始めとある政策・・・産業を積極的に行っている。
ロボット工学の父といわれるトーマス・ライトが最も忌むべき物・・・戦闘ロボットの開発と輸出である。
かつてワイリーがMr.エックスを名乗りヤマトマンらを洗脳し世界征服を企んだ計画。
その計画の際にワイリーはWRU(世界ロボット連合)に所属する各国に技術提供を行っている。
元より各国より高いロボット技術を持っていたニホンにとってそれは棚からぼた餅のような物であった。
ヤマトマンらに提供された技術を解析しそれを元に新たな戦闘ロボットの開発がなされたのである。
しかし彼らにはボディの製作は問題なかったのだが逆に高度な電子頭脳の作成を行う技術のノウハウがなかった。
早急に結果を求める彼らはある事を思いつくそれは・・・人間の記憶、人格をそのまま電子頭脳に収めるという生命の倫理に外れた行為であった。
そうして作られたのがカブキマンであった。
歌舞伎界の大御所、蛯名一族。
その代表、蛯名泰蔵には賢三、大輔と言う二人の息子がいた。
彼らのどちらかが泰蔵の跡目を継ぐはずだったのだがそれは優秀ではあるものの平凡な兄より利発で非凡な次男の蛯名大輔が継ぐ事になる。
兄の賢三もそれを認めのだがしかしそれを快く思わない者、兄の周りの者により大輔は事故を起こしてしまう。
もはや死を待つしかない息子を見た。泰蔵はなんとかして息子を救おうとする。
そしてニホンは優秀な人間の頭脳を求めていた・・・・。
泰蔵は多額の資金の融資を条件に息子の体を研究者達に提供する。
彼らの思惑が一つとなり海老大輔はこの世に蘇る事になる・・・世界で始めての芸能ロボット、カブキマンとして・・・。
「カブキマンの電子頭脳には生前の記憶が残されていた。それが原因で暴走をしたと考えられる」
「・・・・・命を何だと思ってやがる!」
話を聞いたエンカーは憤る。
「所詮それが現実言うもの・・・それに」
ヤマトマンは冷静に答えながら
「一ヵ月後には儂を元に作られた、戦闘用ロボットが正式に配備される・・・ニホンの軍隊としてな」
それを聞いたエンカーは再び怒りを表す。
「ヤマトマン・・・・あんたはそれでいいのか・・・?世界中であんたの兄弟達が戦争をするかもしれないんだぞ!」
「それが我が主の命であるならば・・・儂のせいで立場が悪くなった生みの親の為ならば・・・」
ヤマトマンの意思は堅い。彼は一度犯した罪に対し汚名をそそがんと言葉には表せないほどの努力を重ねてきたのだろう。
自分の生みの親の責任でもあるのでエンカーはこれ以上何も言わなかった。
「ワイリー博士がいなくても人間同士で争うって事かよ・・・」
「戦こそが人類の歴史とも言える。残念な事だがな」
エンカーは絞り出すように声を出す、ヤマトマンもそれに答える。
「・・・・次にカブキマンが現れそうな所はどこだ・・・?教えてくれ」
「それは儂にも皆目・・・・」
ビーッ!ビーッ!
ヤマトマンが持つ通信端末が突然けたたましい音を立てながら鳴り響く。
その携帯端末にはエンカーもよく知る人間の顔が映る。
「俺だ!ジョージだ!大変だヤマトマン・・・カブキマンが自然公園近くの地区に現れた!至急現場に向かってくれ!俺もすぐそこへ向かう!」
ジョージは言うだけ言うとすぐに通信を切る。
ヤマトマンとエンカーはお互いに顔を合わすと頷き、小屋を飛び出していった。
「あの~・・・お茶はいりましたけど・・・あれ・・・?」
小屋に常駐のスナイパージョーがお茶を持って入ってきたがすでに小屋には彼一人だけが取り残されただけだった。
ジョーは首をかしげながらも自分で入れたお茶を一人で飲んでいた。