宇宙戦艦ヤマト2199 大使の憂鬱   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「大使の憂鬱」です。「白色彗星帝国編」の続編になります。


大使の憂鬱1 着任の夜

 彼は大きく息を吐き出して、窮屈な正装の胸のボタンを外した。

 

 彼のデスクの上には、記念品で受け取った地球産の酒が入った箱があった。彼は、無造作にそれを持ち上げて、包装を破り捨てた。彼の目に嵌め込んだ翻訳機は、箱の中身のボトルの表面を読み取って、瞬時にガミラス語で表示した。

「果実酒か。今すぐに飲みたいところだが。一体どうやって開けるんだ?」

 彼は、ボトルの口に何か詰まっているのを見つけた。彼は、暫し部屋を見回して考えるが、明らかに開封する道具がなさそうだった。

「失礼します」

 そこに、彼の秘書として連れてきた若い男が、ドアを開けて入ってきた。男と言っても、まだ少年のようなあどけなさが残っている。

「デスラー大使。本日は、着任初日のお仕事、大変お疲れ様でした。この後はどうされますか?」

「ああ。今夜はこの後、人と会う予定になって……」

 ランハルトは、言いかけた言葉が宙に浮いてしまった。秘書のケールの手に、明らかにこのボトルの中身と思われる飲み物が入ったグラスがあった。

 ランハルトがそれについて聞く前に、彼はグラスを差し出した。

「どうぞ」

 ケールは、にっこりと愛嬌のある笑顔で言った。

 ランハルトは、素直にそれを受け取った。

「すまない」

 ケールは、ランハルトの後ろのテーブルに、開封しようとしていたボトルと、箱の包装紙の残骸が散らばっている様子を確認していた。彼は頷いて、そこにあった箱を持ち上げた。そして、ランハルトを見上げた。ケールが箱を逆さまにすると、何か細い金属の棒が落ちてきて、彼の片方の手に収まった。

「大使、これですよ」

 彼は器用にその金属の棒を広げ、何かの器具へと変形させた。

「こちらが、それの栓抜きです。どうぞお使い下さい」

 ケールが、これからいたずらを始める子供のような笑顔でランハルトに栓抜きを差し出した。

 ランハルトは、少し赤面してばつの悪い思いをして、それを受け取った。

「どなたとお会いになりますか? よろしければ、私もお供させて頂けませんか?」

 ランハルトは、グラスに口をつけて、中身を少し飲んでから返事をした。

「いいだろう。相手はイスカンダルの特使だ」

 ケールは、目を輝かせて言った。

「ユリーシャ様にお会いするんですね? それでは、この様な地球人の衣装では失礼ですね。ガミラスの正装に着替えてきます!」

 ランハルトが止める間もなく、彼は、勢いよく部屋から出ていった。

 ランハルトは、小さく頭を振った。

「やれやれ。よく気が利くガキめ」

 悪態をつきながらも、彼はケールの持ってきたグラスを、一息で空にした。

 

 ケールは、車を出してランハルトを乗せて地球の夜の街を走らせていた。

 ランハルトは、後部座席に腰を落ち着けてケールが用意した携帯端末を見た。午後九時と出ている。今日会った名前も覚えられなかった地球人の官僚に聞いた話では、まだ夜はこれからとのことだった。

 ランハルトは、車中で出発前の出来事を思い返していた。

 

 地球への出発前――。

 

「それで? ディッツ提督。一体、今日は、何の用だ」

 ランハルトは、出航準備をしているゲルバデス級空母ダレイラの艦橋に居た。

「同期のガゼルが、長期で本星を離れるのでな。挨拶に来たのだ。せっかくなので、貴殿にも一言挨拶しておこうと思ってな」

 ランハルトは、冷酷そうに目を細めてディッツ提督の顔を眺めた。

「ほう? 俺は、ついでということだな」

 その一言で、ディッツ提督は、苦み走った表情になった。そこへ、ランハルトを警護する目的で編成された護衛艦隊司令に任命されたガゼル司令がやって来た。

「おい、小僧。誰に向かって言っておるのだ」

 ガゼル司令は、鬼のような形相でランハルトを睨みつけた。当のランハルトは、ガミラス軍の重鎮二人を前にして、悪びれる様子も無い。

 そんなガゼルを、ディッツ提督は手で制した。

「まぁ、よい。ガゼル。すまんが、頼むぞ。いろいろと大変だと思うがな」

「分かっておる」

 そんなディッツ提督の後ろに控えていたメルダは、早くこの場を去りたいと思って顔を伏せていた。しかし、ランハルトは、そのメルダの存在を訝しんで尋ねた。

「ディッツ提督。その、後ろにいる士官だが」

 ディッツ提督は、急に相好を崩して後ろに居たメルダの背を押した。

「前に会わせたことがあるだろう? メルダ中尉だ。今回の護衛艦隊の一隻を指揮することになっておるのでな。挨拶をさせておこうと思って連れて来たのだ」

 ほれ、挨拶せんか、と促されたメルダは、渋々前に進み出て、ガミラス式の敬礼で右手を上げた。

「メルダ・ディッツ中尉です。この度は、地球駐在大使の着任、おめでとうございます。駆逐艦の一隻を担当して同行します。どうぞよろしくお願い致します」

 メルダは、父親であるディッツが、デスラー体制崩壊後も、未だ純血主義を貫いているのを疑問に感じていた。以前は、自らもそう考えていたが、時代が変わったことを彼女は、理解していた。その父親は、恐らく、デスラー家との何らかの関わりが欲しいのだろう。最近、機会あるごとに、ランハルトに挨拶をさせられていた。

 しかし、そのランハルトは、露骨に不快な表情をした。

「ガミラス軍は、いつから中尉に艦長を任せる事になった?」

「それは……」

 メルダは、その指摘に表情を強張らせた。

「ディッツ提督。メルダ中尉が、貴方の娘だという事は知っている。だが、この様な恣意的な人事は頂けない」

 ディッツ提督は、再び表情を引き締めると言った。

「そのような指摘があることは、分かっておる。だが、娘は地球人との関わりが深いのでな。それに、ユリーシャ様とも交流を深めた経験がある。今回、何かお役に立てることがあるだろうと考えて、この様な人事を決定した。決して、娘だからとこの地位を優遇した訳ではない」

 ランハルトは鼻を鳴らして言った。

「ふん、どうだかな」

 メルダは、悔しそうな表情で項垂れた。言われていることは正論であり、恣意的と捉えられても仕方がないと思っていた。こうして、露骨に指摘されて、恥ずかしさも頂点に達していた。こんな所に顔を出すべきではなかったと彼女は後悔した。そして、軍を指揮する立場の父親ですら、何も言い返せないところから、この指摘は、正に痛いところをついたのだろう。

 しかし、これに腹を立てたのは、ディッツの盟友たるガゼル司令だった。

「そのぐらいにしておけ、小僧。メルダ中尉は優秀な軍人だ。わしは、いつか指揮官になる器だと思っておる。ここで若くして経験を積むことは、彼女の為になるだけでなく、将来の軍の為でもある。もう少し、総合的に評価するのだな、デスラー大使。これから、地球に行けば、貴方自身の器も試されるということを忘れるでない」

 これには、ランハルトも少し怯んでいた。彼自身も懸念していた点だったからである。地球に行けば、今の様なデスラー家の血筋の者としての特別扱いは無くなるだろう。自分自身の能力が試されるのだ。

 そして、ディッツ提督も、ガゼルが言いたい事を代弁してくれたことに感謝している様子だった。父親が同じ事を言っても説得力が無かったであろう。

 ランハルトは、分が悪いと判断して、話題を変えた。

「ところで、ユリーシャ様はどうなっている?」

 ディッツ提督は、それを聞いて頭を振った。

「自力で、イスカンダルの恒星間宇宙船シェヘラザードで行くと言って話を聞いてくれん。護衛する我々としても対応に苦慮している」

 ガゼル司令も、これには憮然とした表情をしていた。

「あの姫様は、前にお前に迷惑をかけたことがあるではないか。はっきり言ってやったらどうなんだ。勝手に行動されるのは迷惑だと。何なら、わしが言ってやろうか?」

「馬鹿を言うな。仮にも、ユリーシャ姫は、スターシャ女王の代わりの女王代行のお立場なのだ。その意向を真っ向から否定してへそを曲げられて、今回の地球行きを止められても困ると言う物。地球人は、我らと戦争をした記憶が鮮明に残っている状態だ。彼女の助けがあれば、ガミラスを否定的に見る勢力も抑え込めると踏んでいる。出来る限り、デスラー大使の着任には万全を尽くしたい」

 ガゼル司令はため息をついた。

「おぬし、大統領から穏便にやるように命令でもされているのか? 間に入って苦しい立場なのかも知れぬが、お前らしくもない」

 ランハルトも、これには腕組みをして聞いていた。

「ユリーシャ様には、俺からも危険だと話をさせてもらったんだが……大丈夫、大丈夫と言って聞いてもらえなかった。状況は変わらずということだな」

 ここまで黙って聞いていたメルダは、不思議に思って意見した。

「デスラー大使、ガゼル司令。それに父上……いや、ディッツ提督。私が説得してみましょうか? ガミラス艦隊の艦で行くように言えばよろしいんですよね?」

 三人の男たちは、その提案に少し驚いていた。ディッツ提督は、自らの娘の顔色を窺って言った。

「出来るか? それが良いかも知れんな。くれぐれも失礼の無いようにな」

「そこは心得ております」

 メルダは、その場でつかつかと艦橋の通信士の座席に向かうと、事情を説明して席を譲ってもらった。そして、すぐに通信をイスカンダルの宮殿へと繋いだ。

 しばらくすると、先方が通信を受諾し、艦橋のスクリーンにユリーシャの姿が浮かび上がった。

「ユリーシャ様、こちらメルダです」

 スクリーンに映るユリーシャは、にこにこと機嫌の良さそうな表情をしていた。

「メルダ! 今回はよろしくね。今、こっちも船の出航準備が大体終わった所だから」

 メルダは、笑顔を見せて彼女に語りかけた。

「ユリーシャ様。地球行き、楽しみですね。地球で会いたい人や、どこか行かれたい場所などはございますでしょうか? よろしければ、お聞かせ願えれば、こちらでも段取りをつけられると思いますが、いかがでしょうか?」

 ユリーシャは、会いたい人と聞いて、誰かを思い浮かべようとしていた。

「うーん。会いたい人? うーん?」

 そこで、はっとした表情になったユリーシャは、少し顔を赤らめて言った。

「いっ、いないよ、そんな人。……あ、いや、雪には会いたいかな。そうそう、雪には会おうと思ってるよ」

 メルダは、首を傾げてユリーシャの様子を窺った。何か誤魔化したようにも見えたが、失礼の無いように詮索はしない事にした。

「えーと……後は、行きたい場所……。地球の普通の人が暮らす街に行きたいかな。それから、イスカンダルには、こういう服しかないから、地球人の衣服とか持って帰れたらいいなぁ、って思ってるよ」

 ユリーシャは、自分の衣装を指差しながら少し照れたようにしていた。

 メルダは、ここぞとばかりに大きく頷いた。

「そのことなのですが、私から提案がございます。シェヘラザードは、一人乗りの宇宙船。航行中は、狭い艦内であまり自由が無いと聞いております。そのような衣服等のお土産を積むようなスペースはあまり無いのではありませんか? よろしければ、ガミラス艦隊の艦で一緒に来て頂ければ、それらを運ぶことはもちろん、艦内で着替えなどもお楽しみ頂けると思いますが、いかがでしょうか?」

 ユリーシャは、目から鱗が落ちたかのような顔をしていた。

「そっ、そっか。ガミラスの人たちに迷惑掛けたくないから自分の船で行こうとしてたんだけど……。そしたら、乗せてもらおうかな……?」

 メルダは、笑顔で言った。

「もちろんです。お好きな艦にどうぞ。広さで言えば、この空母ダレイラが一番のお薦めですが、いかがなさいますか?」

 ユリーシャは、再びうーんと考えているようだった。

「メルダも自分の艦があるんだよね? それに乗せてもらえると嬉しいかな。一緒にいろんな服に着替えられたら楽しそう」

「きっ、着替えを一緒にですか? ま、まぁ、私は構いません。よろしければ、これから迎えを送らせます」

 ユリーシャは嬉しそうに頷いた。

「分かった。待ってるね」

 通信が切れて、スクリーンからユリーシャの姿が消えると、男たち三人がメルダの周囲に集まって来た。最初に口を開いたのはガゼル司令だった。

「メルダ中尉。お見事だった。デスラー大使。ご覧の通りだ。彼女は優秀だと言っただろう?」

 ランハルトは、少し困ったような表情をしてから頷いた。

「うむ。確かに役に立ちそうだ。ユリーシャ様と懇意にやっているというのは本当だったのだな」

 それを聞いたディッツ提督は、満足げに笑っていた。

「メルダ中尉。では、ユリーシャ様を頼んだぞ」

「心得ました」

 メルダ自身も、ランハルトにひとまず認められてほっとしていた。

「しかし」

 ランハルトが最後に一言漏らした。

「地球人の街に行きたいと言っていたが……。今度は、あれを勝手にされないように注意せねばならない」

 何処までも、彼の胸中はユリーシャへの心配がつきなかった。

 

 そんな事を考えているうちに、車はそのユリーシャが待つ店に到着した。

 

 ランハルトが、ケールと共にレストランを訪れると、予約した席に若い女性が一人で座っていた。

 ランハルトは、膝をついて挨拶をした。

「これは、ユリーシャ様。お待たせしてしまったようで、申し訳ありません」

 後からついてきたケールも、同じ様に挨拶をしていた。

「え? いや、その」

 後ろにいたケールが、感激した様子だった。

「ユリーシャ様。地球人の衣装もよくお似合いです!」

 ランハルトは、顔を上げて彼女を見上げた。

「驚いた。確かにお似合いのようだ」

 彼女は、慌てたように両手を前に出して、手を振っていた。

「ちょ、ちが」

 そこに、ランハルトとケールの背後に一人の女が立っていた。

「何、やってるの?」

 二人が、後ろを振り返ると、そこにユリーシャが立っている。

 ランハルトは、鋭い目付きになって、後ろに立っている女と、席についている女を交互に見返した。背後の女は、イスカンダルの正装をまとっており、ランハルトは、後ろが本物だと判断した。そして席についている女を睨み付けて言った。

「貴様、何者だ!」

 ランハルトが、掴みかかりそうになっているのを見て、ユリーシャは、前に進み出た。

「ランハルト。この人は地球の人で、名前は雪」

 ユリーシャは、少し呆れたような顔をしていた。

 ランハルトとケールは、目を見開いて驚きの表情をしていた。ケールは、立ち上がって前に行き、ユリーシャと雪の顔を交互に見た。

「えぇー。そ、そっくりじゃないですかぁ」

 雪は、ほっとして小さく息を吐き出した。

「で、デスラー大使。前にお会いしたことありますが、覚えてません? 私のこと」

 ランハルトは即答した。

「ああ、全く記憶にない」

 雪は、苦笑いしつつ続けた。

「私はヤマトの乗員で、半年前に、ガトランティスとの決戦を行っている時にお会いしましたけど……」

「しつこい。記憶にないと言っている」

 ランハルトは、既に雪を無視して、テーブル席にあった椅子を引いて、ユリーシャを促していた。

 雪は、ランハルトのあまりの態度に、顔を引きつらせた。

「ちょっと、失礼じゃありませんか? 大使」

 雪の隣に座ったユリーシャが言った。

「こういう性格なの。許してあげて」

 ユリーシャは、呆れと諦めの表情だった。

 

 四人はテーブルを囲んで、やっと椅子に落ち着いていた。その日は、イスカンダルの特使と、ガミラスの地球駐在大使着任を歓迎する行事が執り行われ、最後には地球の大統領も参加した晩餐会が行われていた。既に、ユリーシャもランハルトも晩餐会で食事を食べており、テーブルには、飲み物だけが運ばれていた。

 晩餐会の後、ランハルトはユリーシャに、堅苦しい話を無しにした身内だけの懇親会を提案し、ここに集まっていた。

「俺は、ユリーシャ様だけをお誘いしたつもりだったが、何故地球人がここにいるんだ? 場違いだと思わなかったのか」

ここに至っても、ランハルトは雪を邪魔者扱いしていた。彼にとっては、高貴なイスカンダル人との親睦を深める滅多にない機会だったのだ。

「あなたねぇ……」

 雪は、怒気を含んだ声音でランハルトに抗議しようとした。それをユリーシャは制して言った。

「私が連れてきた。雪は、私の大切な友人なの。これ以上の雪への無礼は、私が許さないよ」

 ランハルトは、ユリーシャを怒らせてしまったかと思い、しぶしぶ雪を受け入れることにした。

「わかりました。申し訳ありません」

 ランハルトはそう言ってから、雪の方を見て全く悪びれた様子もなく続けた。

「これはこれは、大変失礼をしたようだ」

 ランハルトと雪は、暫し睨み合っていた。

 その空気を読んだケールが、場を和まそうと口を開いた。

「ユリーシャ様! 直接お話しする機会を頂き、大変光栄です。それから、雪さんも、大変お美しい方ですね。お会いできて嬉しいです。よろしければ、皆で乾杯しませんか?」

 ケールの愛嬌のある笑顔とその言葉で、ようやく雪も少し怒りを納め、四人は杯を交わした。

 

「ああいう場は、あまり好きじゃありません。政治家や官僚どもは狡猾な連中が多く、気を許せなくて疲れました」

 ランハルトは、今日の一連の仕事に疲れきって愚痴をこぼした。

 ユリーシャは、そんなランハルトを優しい目で見つめた。

「バレル大統領が、ランハルトをここに来させたのがどうしてか、ちょっとわかったかな」

 ランハルトは、ユリーシャの言葉に興味を持った。

「と、言いますと?」

 ケールが、ユリーシャに向かって言った。

「僕もそれ、わかりますよ」

 ランハルトが、ケールの顔を見ると、またあのいたずらをする子供のような笑顔を向けてきた。

「将来、大統領にする為ですよ、大使」

 ランハルトは、ユリーシャとケールの顔を見回して、心底嫌そうな顔をした。ユリーシャも、同じような笑顔をランハルトに向けてきた。

「そうそう。ケールは、察しが良くてとってもいい子だね」

 ユリーシャに褒められたケールは、照れくさそうにしている。

「ユリーシャ様に、そんなことを言ってもらえるなんて、夢のようです……」

 ランハルトはため息をついた。

「そう期待されているのは、認識しています。しかし、私がデスラー総統の代わりが務まると考えるのは、少々買い被り過ぎです」

 雪は、黙ってそのやり取りを見守っていた。慇懃無礼な彼にしては、殊勝な態度だと思っていた。そう言えば、と雪は、ガミラスでの出来事を思い出していた。二度目に訪れたガミラス星で行われた晩餐会の場で、二等ガミラス人への偏った考えを披露したガミラスの閣僚に対して、彼は強く怒りを訴えていた。あの時の真剣な彼の姿は、あの場の多くの人々が心打たれたものだった。雪は、無礼な態度の彼とどちらが本当の姿なのかを計りかねていた。

 

 ひとしきり歓談した頃、レストランの入り口が騒がしくなっていた。

 ランハルトが入り口の方を見ると、地球連邦防衛軍の制服を着た男達が十名程、雪崩れ込んで来るところだった。そのうちの一人が、四人のテーブルにつかつかと歩み寄った。

「ユリーシャ様、デスラー大使、探しました。勝手に出歩いて貰っては困ります!」

 怒鳴り付けてきたのは、彼等の警護を任されていた警備隊のリーダーだった。

 ユリーシャは、首をかしげて言った。

「はてな?」

 ランハルトは立ち上がって、彼等の前に立ちはだかると言った。

「無礼者! 貴様ら、高貴なお方に対して失礼だぞ! 下がれ!」

 雪が慌てて立ち上がって、ランハルトと警備隊のリーダーの間に割って入った。

 その男は、雪の顔を見て驚いていた。

「森船務長!? どうしてここに?」

「ユリーシャがどうしてもこっそり行きたいと言うから、私が連れ出したの。ごめんなさい、星名くん」

 雪は、手を合わせて、彼に謝罪した。

 ケールも、にこにことしながら悪びれる様子もなく、星名の前にやって来た。

「大使は、僕がこっそり連れて来ました。きっと邪魔だと言い出すと思ったので……」

 席にいたユリーシャも立ち上がって、星名の元にやって来た。

「星名」

 ユリーシャが星名を見る目は、どこか優しげな顔であった。

 星名は、なんとなく、ユリーシャの表情が百合亜に似ている気がして、少し顔を赤らめて目を逸らした。

「こ、困ります。これからは、勝手な行動は控えてください」

「わかった。ごめんね、星名」

 ランハルトは、先ほどまでの怒りは何処へやら、そんなユリーシャの親しげな様子に気が付いて、戸惑っていた。

 星名は、ランハルトの方に向いて、気を取り直して言った。

「デスラー大使。外を見てください」

「外?」

 ランハルトが窓の方を見ると、美しいビル群の明かりが瞬いていた。窓に近づいて下の様子を窺うと、路上に何やら人が集まっているのが見えた。街宣車の上に数名の男たちが立っており、その周りを群集が大勢取り囲んでいた。レストランの防音設備が優秀なのか、外の音はまったく聞こえてこない。ランハルトは、星名を振り返って無言で説明を求めた。

「あれは、ガミラスとの同盟に反対する勢力の集会です」

 ランハルトは、訝しげに、再び外の様子を見た。ケールやユリーシャも、窓に集まって外の様子を確認していた。

「すべての地球人が、この同盟関係を歓迎している訳ではありません。先の戦争のこともあって、ガミラス人を憎んでいる人々も大勢いるのです。いつ何があるかわかりせん。どうか、今後は、必ず我々を同行させてください」

 星名は、窓の外を見つめるユリーシャの横に並んで同じように話しかけた。

「ユリーシャ様、あなたもです。ガミラスとの戦争がきっかけで、異星人を信用出来ないと考える人々も少なからずいます。以前、テロで殺されかけたことがあるのもお忘れなく」

 星名は、街宣車の男たちを鋭い目つきで見つめていた。

 ランハルトは、そんな星名を向いて言った。

「これはまた。これから、せっかく友人として親しい関係になる段取りをつけようとしているのに。そういう活動家もいると、事前に教えられてはいたがな」

 そんなランハルトの前に、雪もやってきて言った。

「デスラー大使。地球では、どんな意見も自由に発言することができます。誰にも規制されません。これが、民主主義というものです。今、あなた方の国がやって行こうとしているのは、ああいうものなんです。私たちの国には、先の不幸な戦争で家族を失った人々も大勢います。それでも、私たちは、あなた方と一緒に前に進むことを決めました。だからと言って、それを納得できないと訴える声を封じることは出来ません。あのような意見も聞いて、どうすればよいか、皆で考え続ける必要があるのです」

 ランハルトは、雪が話す言葉に聞き入っていた。彼女は、民主主義国家としては、先輩だと言っているのと同じであった。

 ずいぶん、はっきりと言う、とランハルトは思い、心の中で苦笑した。ユリーシャに似ているという理由で、イスカンダルに取り入ろうとしている地球人かと勝手に思い込んでいたが、ずいぶん芯が通った女だと彼は思っていた。今頃になって、彼は、彼女がヤマトの第一艦橋にいたのを朧げに思い出してきていた。あの時は、激しい戦闘のすぐ後であり、アベルトやスターシャらに囲まれて会話していたため、周囲への注意が緩慢になっていたのは事実だった。

 ランハルトは、雪に向かって頷いた。

「意見として聞いておく」

 どこまでも、高飛車な態度のランハルトに、雪は再び怒りが湧いてくるのを感じていた。

 

続く…




注)pixivとハーメルンにて同一作品を公開しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。
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