宇宙戦艦ヤマト2199 大使の憂鬱   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「大使の憂鬱」です。「白色彗星帝国編」の続編になります。


大使の憂鬱3 地球の休日

 ランハルトは、高いビルが建ち並ぶ街の道路の真ん中に立っていた。

 そこは、かつての東京の街並みだった。

 沿線のビルには、様々な店が並んでいる。ランハルトは、歩きながら気になった店に足を踏み入れた。そこは、雑貨店らしく、ところ狭しと細々した商品が陳列されていた。ランハルトは、店内を見回して、ふと気になったものを手に取った。それは、小さな懐中時計で、ほこりが被って汚れており、表面のガラスにひびが入って一部が欠けていた。

 後からついてきたケールも、店内を物色しており、彼は、布で出来た人形を持ち上げて、不思議そうに見つめていた。それは、何かの生物を模した物であることはわかったが、彼らには、それが熊のぬいぐるみであることまではわからなかった。

 ケールは、それが気に入ったのか、店を出た後も、それを抱いたまま歩いていた。

 歩き続けると、辺りの様子が突然変化した。そこは、博物館か美術館のようだった。

 ランハルトは、美しい色彩の印象的な風景画の前に立ち止まると、それに見入っていた。

 次の部屋に進むと、そこには、人の形をした彫刻が立ち並んでいた。ランハルトは、首も腕も無い羽が生えた白い彫刻の前に立ち止まって、興味深そうに眺めていた。首や腕は、何らかの理由で失われたのか、それとも、最初から意図してそのように作られた物なのか、地球人には昔、羽根があったのか、などと、彼は暫し思案していた。

 ランハルトが振り返ると、ケールは別の彫刻の前の椅子に腰掛けて、それと同じポーズを取っていた。ランハルトが近寄って、彫刻に付けられた作品名のプレートを覗き込むと、そこには「考える人」と書かれていた。

 

 そこは、仮想現実に没入する為の施設で、スタジアム規模の大きな建造物だった。

 ランハルトとケールは、ガミラスとの文化交流に相応しいものを探しており、地球連邦政府から、ここを紹介されていたのだ。

 少し離れた場所に、ユリーシャと雪もいた。

 雪は、藤堂長官からの命を受け、ユリーシャの地球滞在の間のエスコート役を勤めていた。その為、一時的にヤマト船務長の任を解かれており、ユリーシャは、ここぞとばかりに四六時中雪を連れ回していた。

 ランハルトは、任期が続く限り大使として滞在するが、ユリーシャは、一ヶ月ほどの滞在で、イスカンダルに戻る予定だった。彼女は、着任したばかりのガミラス大使の助けにならないかと、一緒に同行していた。ガミラスとイスカンダルの友好関係をアピールし、ランハルトの初めての大使としての公務が成功するの手伝おうとしていたのである。

 

 ユリーシャと雪は、先ほどランハルト達がいた、かつての東京をイメージした通りをぶらぶらと歩いていた。時折、気になった店に立ち寄って、ユリーシャは楽しそうに歩き続けた。

 百貨店らしき建物に入ると、ユリーシャは目を輝かせていた。そこは、地球人の衣装が多数展示されており、彼女は服を取っ替え引っ替えして、鏡の前の自分にあてがっていた。

「雪、こっち来て」

 ユリーシャは、いつの間にか試着室に入っており、中から手招きしていた。

 雪が中を覗き込むと、既にユリーシャは服を脱いで試着をしていた。

「うーん。ユリーシャ、これ仮想現実だから、持って帰ることは出来ないよ」

 それを聞いたユリーシャは、凄くがっかりした顔をしていた。

「そうだね……。そうだったね」

 寂しそうに言うユリーシャを、雪は暖かい目で見守った。

「ちゃんと本当に売っている店があるから、今度行こうよ」

 ユリーシャは、口元を尖らせて呟いた。

「星名が、そういう一般人が大勢いるところは、勝手に行っちゃだめだって……」

 そこまで言いかけて、ユリーシャは目を細めて雪を見つめた。

「いいこと、考えた」

 

 地球の衛星軌道上には、ランハルトと大使館員、そしてユリーシャを乗せてきた、ガミラス軍の護衛艦隊が待機していた。ユリーシャの予定の滞在期間の後、艦隊の半数は彼女を乗せて帰還することになっていた。残りの半数は、ランハルトの護衛のため、ガミラス大使館が存続する限り、そこに交替で常駐することになっていた。

 

 退屈していたガミラス軍の兵士らに朗報が届いていた。地球連邦防衛軍の航空隊との演習が企画されたのだ。艦隊の一隻の駆逐艦を任されて同行していたメルダ・ディッツ中尉の発案で、地球側にその意向を伝えたところ、軍同士の交流も重要と地球連邦政府も判断し、実現する運びとなった。

 しかし、最終的に、ドッグファイトではなく、双方の航空隊による編隊飛行の美しさを競う平和的な祭典となり、発案したメルダは、その事をしばらく悔しがっていた。

 

 その日、月面基地は、メルダの乗機を含むガミラスの航空隊や、大勢のマスコミが詰めかけ、賑わいをみせ、一種のお祭り騒ぎとなっていた。地球連邦防衛軍の代表として、メルダのたっての希望で選抜された山本らの所属する航空隊も、そこに集まっていた。地球側の航宙機は、ようやくコスモタイガーⅡが実戦配備されており、その御披露目も兼ねたイベントとなっていた。

 

 メルダと山本は、イベントの出番が終わると、半年前にガミラスで交わした約束を果たすため、月面基地から、地球軌道上のガミラス空母まで競争をすることにした。

「ねぇ! 本当にそっちの空母に着艦なんてしてもいいの!?」

 ツヴァルケのコックピットで発進準備を行いながら、メルダは通信で返事を返した。

「問題ない! ちゃんと許可は取っている。そっちこそ、イベントを抜け出して大丈夫か!?」

 山本も同様にコスモタイガーⅡのコックピットで発進準備を行っていた。

「大丈夫! こっちも許可は取っている!」

「わかった。じゃぁそろそろ出掛けるとしよう!」

 二人の機は、スラスターを使って月の上空の互いに示し合わせた発進位置の座標につけると、横に並び、コックピット越しに手で合図を送った。

 そうして、二人は同時に月を飛び出した。

 山本は、強烈なGを感じていたが、メルダとの勝負に負けるわけにはいかないと、最高速度に達するまでエンジンを噴かし続けた。

 メルダのツヴァルケも、ほとんど同じ速度で、二機は激しくつばぜり合いを始めた。

 最高速度に達すると、僅かに機体性能が上回るコスモタイガーが少しずつリードを始めた。そこで再び二人は手で合図すると、双方反対側に機体を傾けて大きく旋回して、そのまま互いの背後をとろうと、右に左に急角度で移動した。

 今まで、数度の対戦では、何れもメルダが勝利しており、山本は必死で背後をとろうと、蛇行しながら、高速で回り込もうとしていた。メルダも負けじと、機体を急角度で旋回させた。

 そして、遂にメルダが背後を取り、山本の機体にロックオンをしようと狙いを定めた。

 その瞬間、山本の機体が視界から消えた。

「何!?」

 山本は、急制動をかけて、そのままメルダの乗機が通りすぎると、チャンスとばかりにメルダの背後を取り、狙いを定めてロックオンした。

 ロックオン時の甲高い電子音が山本の宇宙帽の中で鳴り響いた。

「よし!」

 遂に一勝を掴み取った山本は、思わず拳を固めていた。山本の視界から、ゆっくりとメルダの機体が離れていくと、通信が入ってきた。

「もうひと勝負やるぞ。次は、こっちの番だ」

 負けたはずのメルダの声は、楽しそうに弾んでいた。

 

 その頃、月面基地を目指して歩いていた斉藤と桐生は、ようやく基地の近くまでたどり着いていた。

 ちょうど、基地の上空では、防衛軍とガミラス軍の航宙機が、アクロバット飛行を披露していた。

 斉藤は、肩の通信機を掴むと、通信を試した。

「こちら斉藤。永倉はいるか」

 宇宙帽のスピーカーと通信機は連動しており、雑音が響いていた。

「こちら、永倉。どうしたんだい、隊長」

「お前、今何やっている?」

「何って、このイベントの警備だよ」

「そりゃあ、わかってる。もし、忙しくなきゃ、俺を手伝ってくれ」

「いいよ。どうかしたのかい?」

「新人の訓練が終わったから、桐生隊長の墓参りに娘さんと立ち寄った。そしたら、騎兵隊の輸送機が勝手に出発して置いて行かれちまった。多分、地球の方に向かったと思う。ちょっと不味い状況だ」

「隊長、それ、上から大目玉だよ。まぁいいや。じゃあ空間騎兵隊本部に連絡して捜索させるよ」

「いや、どうも気になる。連絡が済んだら、もう一機の輸送機を出してくれ。今から、俺も探しに行く」

「了解、じゃぁ後で」

「始ちゃん、あれ見て。凄いよ」

 斉藤は、通信機を肩に戻しながら、桐生が指差す空の方を見上げた。

「随分盛り上がってるみたいだな。だが、今はそれどころじゃねぇ」

「だねー。ちょっと残念」

 桐生は、基地のエアロックのハッチを見つけると、その脇のパネルが収まった蓋を開けた。素早くパスワードを入力すると、パネルのディスプレイに、認証されたことが表示された。それを確認して、斉藤はハッチを開けるつまみを掴んで引っ張りながら回した。ハッチが開くと、二人は基地内に入っていった。

 

 その頃、ランハルトとケール、そしてユリーシャと雪は、ひとしきり仮想空間を堪能した後、施設を出ていた。その彼らを、外で待っていた星名ら地球連邦の警備隊員が待ち受けており、彼らを囲んで歩き出していた。施設の館長と仮想空間をデザインした企業の担当者が、設備の詳細について説明することになっていた為、ランハルト達は、隣接する事務所の会議室に通された。

 雪は、少し席を外すと言って、トイレに向かったため、ランハルトとユリーシャが会議室の椅子に並んで二人で腰掛けていた。ランハルトの背後に、ケールは立っている。

 隣に座ったユリーシャは、下を向いて元気が無さそうだった。

「どうかされましたか?」

 ランハルトは、ユリーシャの様子が気になって、顔色を窺おうとした。しかし、ユリーシャは髪で顔が隠れており、表情を窺い知ることは出来なかった。

「だいぶお疲れのようだ。ケール!」

 ランハルトは、後ろにいるケールに手で合図をした。

「はい!」

 ケールは、嬉しそうに返事をすると、どこに持っていたのか、クッションのようなものを取り出し、ユリーシャの前のテーブルに差し出した。

「少し、ここに頭を乗せてお休みになるといいですよ?」

 ユリーシャは、素直にそのクッションを掴むと、顔面をそこに乗せて黙って突っ伏した。

 ランハルトは、そんなユリーシャの様子を見て、暫く黙って静かにしていることにした。

 

 その時、雪がトイレの入り口からそっと頭を出していた。辺りを見回すと、少し離れた会議室の前で陣取っている警備隊の姿が見えた。彼女は、気付かれないように、そろそろと出口に向かって行った。そして、外へ出ると、小走りに近くの通りに向かい、走っていた無人タクシーを捕まえた。そして、すぐに無人タクシーはその場を離れて行った。

 タクシーの中で、雪はにやにやと笑いだした。

「やっちゃった」

 ユリーシャは、雪と入れ替わっていたのだ。仮想空間にいる時に、ユリーシャは、無理矢理雪と服を交換していた。

「ユリーシャ、駄目だよ。一人で出歩く何て危険だよ」

 ユリーシャは、雪の服を着て、鏡を満足そうに見ていた。

「だって、こうでもしなきゃ、好きに出来ないし。それにね」

 ユリーシャは、雪の耳元で囁いた。

 それを聞いた雪は、複雑な表情をした。

「う、うーん。まぁ確かにそうだと思うけど」

「大丈夫、大丈夫!」

 そう言ってユリーシャは、試着室を出ていった。

 残された雪は、鏡でユリーシャのイスカンダルの服を着た自分が似合っているかどうか確認していた。いくら似ているとは言え、よく知った人が見ればすぐにばれる扮装だった。恐らく、ランハルトがじっくりと見れば、すぐに別人だと気付くだろう。

 困ったことになった、と雪は、暗い表情をしていた。

 

 脱出に成功したユリーシャは、嬉しそうに伸びをした。

「自由だ!」

 そして、彼女はタクシーの座席に座って、持っていた携帯端末を操作して、行き先を考えていた。

「やっぱり、賑やかなとこがいいな。洋服も買いたいし」

 そして、タクシーの行き先を、街の中心部に設定した。

 しばらくして、ユリーシャは、タクシーを乗り捨てると、地球人が行き交う通りを歩き始めた。

 彼女は、地球連邦政府から支給された、特別なIDがふられた携帯端末を持っていた。その端末さえあれば、ユリーシャが買い物で困ることはなかった。

 通りを歩いていると、若い女性が集まっている小さな店があった。

 覗いて見ると、皆、何かの食べ物を買って、その場で食べているようだった。カラフルな包みに入ったその食べ物に興味を持った彼女は、店に並ぶ女性に混じって並んだ。店の中を覗き込むと、調理している様子が見える。ユリーシャは、わくわくしながら自分の番が来るのを待った。

 自分の番がやって来て、遂にその食べ物を手に入れると、ユリーシャはそれを恐る恐る食べてみた。

 彼女は、目を丸くして言った。

「美味しい!」

 周りにいた、若い女性達がユリーシャをちらちらと見ていたが、そんなことはお構いなしに彼女は、食べ続けた。

「甘くて美味しい。地球の食べ物って凄いな」

 そのまま、食べながら歩き出すと、ふと姉の顔が思い浮かんだ。

「お姉様が、歩きながら食べているのを見たら何て言うかな?」

 きっと、凄く怒るだろうな、と考えていると、急に可笑しくなっていた。

 暫く歩き続けると、通りには、若い男女のカップルがそこかしこにいて、ユリーシャは、羨望の眼差しでそれを見つめた。

「私も、ああいう人って出来るのかな?」

 彼女はこれまで、そういったことを、深く考えてこなかった。考えているうちに、姉が子供をもうけたり、デスラー総統に付き添って旅立ったことを思いだし、自分にも、いつかそういう人が現れるかもしれないと思うようになっていた。

 そうして暫く歩いていると、通り沿いに若い女性が出入りする、地球人の服を売っている店があった。そこは、少し高級な店だったが、そんなことは知らない彼女は、吸い込まれるようにそこに入っていった。

 ユリーシャは、目を輝かせて店内を眺めた。

 先程の仮想現実のように、地球人の衣服が、美しく展示してあった。

 ユリーシャは、気になった服を幾つも抱えて、試着室に向かった。それに店員が付き添って、お似合いですよ、お客様、などと言っており、ユリーシャは、何度も何度も着替えをして楽しんだ。

 そうして、何度目かの着替えをして、仕切りを開けて顔を出すと、店員の背後に、息を切らして立っている若い男性の姿が見えた。

 ユリーシャは、笑顔でその男を見た。

「やっぱり、来てくれた」

 男は、息を整えてから言った。

「帰りましょう、ユリーシャ様」

 星名は、少し怒っているようだった。

 ユリーシャは、少しだけ待って、と言って、試着した服をまとめて購入した。店を出るときには、たくさんの紙袋や手提げバッグを抱えることになり、星名は代わりにそれを預かった。

「ごめんね。でも、きっと来てくれると思ってた」

 星名は、呆れ顔で言った。

「荷物を持ってくれると思ってたんですか?」

 ユリーシャは、首をかしげた。

「違う。星名なら、きっと追いかけてきてくれるから、危険は無いって信じてた」

 星名は、ユリーシャを無視して、油断無く周囲を窺っていた。

「星名!」

 ユリーシャが、大きな声を出したので、星名は振り返った。すると、星名に無視されたユリーシャが、不満そうな顔をしてじっと見つめていた。

 それは、百合亜を彷彿とする表情だった為、星名は少しどぎまぎとしてしまった。

 彼女は、星名を見ると、百合亜に憑依していた時に感じた感覚や感情が甦っていた。

「少しだけ、ぎゅっとして欲しいかも」

 

 その時、山本は、速度を落として、肉眼でガミラスの戦闘空母を正面に捉えていた。

「開発中の空母向けの訓練はしてるけど……こいつは、まるで宇宙に浮かぶ針じゃないか」

 山本は、冷や汗をかきながらも、本物の空母着艦に興奮していた。

 空母自体も地球の衛星軌道上を高速に周回しており、月から飛行してきたメルダと山本の乗機は、まず衛星軌道に乗り、空母との速度をシンクロさせる必要があった。それが上手く行って、初めて空母へのアプローチが可能になる。

 技術的な方法は頭に入っていても、実際にやるのとではまるで違う。山本は、緊張感の中で高揚してくるのを感じていた。

 先行したメルダは、空母の速度に合わせて綺麗なランディングを決めた。

 負けるかと、メルダを意識した山本は、何とかして空母を正面に捉えようとするが、速度を上手く合わせられず、蛇行しながら空母に接近していた。

 すると、心配したメルダから通信で呼び掛けられていた。

「玲! 右だ! もう少し速度を落とせ! 少し左だ!」

 山本は、唇を噛んで操縦桿を操作し、足元のペダルを踏んだ。

 山本機は、ふらふらとしながらも、どうにか空母の甲板に着地した。

「玲! 凄いな」

 コックピットでぐったりしている山本に対して、メルダが通信を送ってきた。

 メルダが誉めていたが、山本はまるで嬉しくなかった。

「そっちは随分、そつなくやってたじゃないか」

 メルダは、きょとんとして言った。

「いや、私の機は、空母と連動するレーザー誘導で、ほぼ自動操縦だから当然だ」

「はあ!?」

 山本は、項垂れていた頭を上げて、メルダに抗議した。

 

 ガミラス護衛艦隊司令官のガゼル少将は、ゲルバデス級戦闘空母ダレイラの艦橋から、メルダと地球の戦闘機が着艦する様子を、眺めていた。ガゼルは、ディッツ提督とは長い付き合いで、メルダのことも幼い頃から知っていた。ガゼルは、将来指揮官となる逸材だと考えて、彼女の成長を見守っていた。

 そんなことをぼんやり考えていると、レーダー手が不審な動きをする地球の航宙機を捉えており、艦長のバルデス大佐が、ガゼルに報告してきていた。

「ガゼル司令。地球連邦防衛軍の大型輸送機と思われる機体が、こちらに接近してきます。こちらの呼び掛けに反応がありません」

 ガゼルは、即座に返事をした。

「全艦に、警戒体制移行を通達。至急、連邦軍にも問い合わせろ。その機への呼び掛けも、そのまま継続」

 

 空母ダレイラの甲板から、エレベーターで格納庫に降りていたメルダと山本にも、警戒体制の移行の艦内放送が聞こえていた。

 メルダは、近くにいた甲板員に状況を尋ねた。

「地球の不審機が接近中?」

 メルダは、格納庫の一角にあった端末を操作して、艦が捉えた映像を確認した。それを見た山本が言った。

「あれは、空間騎兵隊の大型兵員輸送機だ」

 メルダが映像の機体を指差した。

「これを見ろ。機体の一部が破損して、放電しているようだ。事故にでもあったのか?」

 

「ガゼル司令。先方と連絡が取れました。機体破損で操縦不能とのことです。牽引ビームによる救助を要請されました」

 バルデス艦長の報告を聞いたガゼル司令は、暫し考えた。

「わかった。救助しろ。念のため、地球連邦防衛軍にもこの事を連絡」

 それを受けてバルデス艦長は、各員に指示を出していた。

 

 その頃、ランハルトと雪が扮装したユリーシャの待つ会議室に、仮想現実館の館長と、それを開発した企業の責任者が訪れて、施設についての詳しい説明を始めていた。

 雪は、ケールに貰ったクッションを抱き抱えて意を決して顔を上げていた。

 どうかばれませんように、と雪は、祈っていた。幸い、ランハルトとケールは、説明を聞くのに集中しており、雪の方への注意が削がれていた。

 

「……ということで、ガミラス星の観光客の受け入れが実現した場合、一番の観光スポットになると我々は考えています」

 恰幅のいい館長は、ランハルトらに丁寧に説明をしていた。

 ランハルトは頷いた。

「確かに、これはよさそうだ。忘れて貰っては困るが、国交が正常化すれば、我がガミラスだけでなく、マゼラン銀河中の星間国家が、訪れる可能性もある」

 館長は、目を輝かせた。

「なるほど。それは素晴らしいですね! しかしその前に、私達は営利企業です。無償では残念ながら動くことが出来ません。地球とガミラスとの間の通貨の交換が必要になるでしょう」

 ランハルトは、通貨と聞いて若干渋い顔をした。

「通貨に関しては、現政府になってから、新たな制度を策定して運用を始めている。働いた対価としての賃金の制度等、マゼラン銀河の他の星系国家の運用を参考にして、整備を続けている。もともと、我がガミラスの大統領は貿易商を営み、星間国家を股にかけた商売を行ってきた実績がある。もう少したてば、一般市民にもそのやり方が浸透するだろう。私の方では、地球連邦政府と、為替に関しての協議を始めている」

 館長は、嬉しそうに返事をした。

「それは、ありがたい。そうすると、そちらにも、何か利益が無いといけませんね」

「その通りだ。例えば、この施設のような娯楽施設は、我がガミラスには、欠けているものだ。似たような施設を作って、こちらでも同様の観光スポットに出来ないか、と考えている」

 それまで黙っていた、もう一人の施設を開発した企業の責任者が口を開いた。

「科学力では、そちらの方が進んでいると聞いていますが、本気で仰っていますか?」

 痩せた線の細いその男は、眼鏡の位置を直しながら、ランハルトを見つめた。

「科学力の問題では無い。我々は、これまで全精力を軍事費に費やしてきた。こういった娯楽分野は、発想が乏しい状態だ。もちろん、時間が経てば、そのような文化が発展するだろうが、まだ時間がかかるだろう。協力して貰えれば、それを足掛かりに加速出来ると思う」

 雪は、ランハルトの話に聞き入っていた。想像した以上に、彼はまともだと思っていた。民主主義を定着させる為に、あらゆる努力をしようとしているガミラスの状況も理解でき、そして、それを実現する為に、出来ることを真摯に進める彼の姿勢は好感を持てるものだった。

 雪は、真剣な顔で交渉するランハルトの横顔をじっと見つめた。

「仰る事はわかりました。お話を進める前に、施設を体験されたご感想も、ぜひお聞かせ頂けませんか?」

 ランハルトは頷いた。

「とても有意義な体験だった。地球という惑星の文化が体験できる貴重なものだと思った。特に印象に残ったのは、街を歩いて、いろいろな商店をみた。ガミラスには無い珍しいものが沢山あって興味深かった。それから、美術館も良かった。美しい絵画などは、我がガミラスでも同様の文化があるが、貴重なものばかりで、今すぐにでも互いの美術品を交換して展示できればいいと考えている」

 線の細いその男は、下を向いて暫し黙っていた。そして、おもむろに顔を上げると、ランハルトを見つめた。

「補足しておきましょう。あそこにあったものは、今は存在しません。それを皆に懐かしんで思い出して貰うために作った施設なんですよ、ここは。あなた方が見たものは、すべてこの地球上から喪われてしまったのです。何故だか、お分かりですか?」

 ランハルトは、少し相手の様子がおかしいのに気が付いた。

 その男は、眼鏡を取ってランハルトを睨み付けた。

「遊星爆弾によるガミラスの攻撃で、すべて破壊され、燃やし尽くされたからですよ」

 突然の男の言葉に、ランハルトは驚かされた。しかし、動ずること無く、ランハルトは堂々言った。

「なるほど。それはとても残念だ。しかし、あなた方と我々は、過去の不幸な歴史を乗り越え、友好関係を築こうとしている最中だ。これからは一緒に、新たな文化を築いて行く努力をすべきだ」

 ランハルトは、このような場所で絶対に謝罪はしてはならないと考えていた。悪いと認めて謝罪することは、一時的には相手の感情を抑える事は出来るが、結局のところ、憎しみや、恨みの感情は簡単に消えることは無く、何も産み出さない。そもそも、あの戦争で亡くなったのは、地球人だけで無く、ガミラス人も大勢亡くなっていた。お互いに、前を向いてものを考えるように、気持ちを変えていくべきだと思っていた。

「それは、少々無理がありますね。喪われたのは、街並みや文化だけでなく、人々は家族を喪い、悲しみの淵にあります。皆、あなた方が殺したんだ」

 男は、ランハルトを睨み付けたまま、話が平行線となろうとしていた。

 館長は、慌てた様子で男を退席させるべきと判断した。

「大使。大変失礼しました。君、悪いが、この場所に君は相応しく無いようだ。退席してもらえるかね?」

 いつの間にか、ケールが会議室のドアの前に移動しており、ドアを開けて、彼が出ていくのを促していた。

「申し訳ありませんが、そのような話は、別途我が国の大使館員が承ります。この場は、どうぞ、お引き取り願います」

 ドアの向こうでは、会議室の不穏な空気を感じた数名の警備隊員が、中を覗き込んでいた。

 雪も、話の成り行きに戸惑っていた。この男は、ガミラスとの同盟に反対する勢力の一員なのだろうと、雪は、推測した。ここを紹介した地球連邦政府の仕事が随分ずさんだと彼女は思っていた。

 男は立ち上がると、周りを見回して言った。

「いいえ。むしろ、私に着いてきて貰いますよ」

 男が持っていた携帯端末を操作すると、天井から勢い良くガスが吹き出して来た。あっと言う間に部屋中にガスが充満し、部屋の外の廊下にも充満していた。

 そして、あっという間にそこにいた全員が、ばたばたとその場に倒れ込んだ。

 その男だけが、携帯マスクを口に当てて、ガスを吸わないように注意深く全員が意識を失ったのを確認していた。

 

 少し前――。

 星名は、ぎゅっとして欲しいと言って自分を見つめるユリーシャから目が離せなくなっていた。このままではいけない、と思った彼は、無理矢理視線を外した。

「ユリーシャ様、どうか、からかうのはお止め下さい」

 ユリーシャは、星名の傍に歩み寄って、顔を近付けて言った。

「自分でも不思議なの。からかっている訳じゃない」

 星名は、目の前のユリーシャの潤んだ瞳をどうしても見れなかった。

「それは……」

 星名は、躊躇したが、はっきりさせる必要があると思っていた。

「それはきっと、あなたが以前、百合亜の中に入ったことによる影響です。彼女の気持ちに影響されて、勘違いをなさっているだけです」

 ユリーシャは、少し悲しそうな顔をしていた。

「皆が私を、高貴なお方とか言って、神聖化するけど、私は普通の、ごく普通の女だよ。私が、そういう気持ちになるのは、いけないことなの? 星名が言うように、百合亜に影響されているだけかもしれない。だけど、それはいけないことなの?」

 ユリーシャの言っていることが、彼の胸に突き刺さった。彼女には要人として接してきたが、その本当の気持ちを聞いて、心が揺らいだ。星名は、そんな彼女の気持ちから逃げるように、少し後退ってから言った。

「その、百合亜が僕には大切な人なんです。彼女を裏切ることは出来ません。それに、あなたは地球の恩人、イスカンダルの要人です。僕の任務は、あなたをお守りすること。それ以上でも、それ以下であってもいけないんです」

 ユリーシャは、泣きそうな顔をしていた。それを見た星名は、罪悪感に苛まれた。

 そして彼は、優しい表情で言った。

「ユリーシャ様。一緒に戻りましょう」

 彼女は、泣きそうな顔をしていたかと思うと、今度は口を尖らせた。

「星名の、馬鹿」

 ユリーシャは、星名の前を通り過ぎて、どんどん先を歩いて行った。星名は、慌ててそれを追いかけた。

「どうして、私が入れ替わったのに気付いたの?」

 ユリーシャが、少し怒った声で聞いてきた。

「あなたの持つ携帯端末の位置情報を確認しました。それが、遠くに離れて行くのに気が付いて、急いで追い掛けて来ました」

 星名は、ここまで乗ってきた警備隊の車両にユリーシャを乗せると、車を走らせた。

 

 星名とユリーシャを乗せた車は、仮想現実館に戻っていた。事務所に足を運んだ二人は、廊下に警備隊員が全員倒れて折り重なっているのを目撃した。

「はてな?」

 ユリーシャは、その様子に首を傾げた。

 星名は、慌てて会議室に駆け込むが、そこには誰もいなかった。

 彼は、すぐにランハルトの携帯端末の位置情報を確認した。その表示は、地球連邦防衛軍の極東管区司令部の方に向かっていることを示していた。

 

続く…




注)pixivとハーメルンにて同一作品を公開しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。
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