永倉が操縦する空間騎兵隊の小型輸送機は、斉藤と桐生を乗せて地球に向けて移動していた。
「隊長、どうだい?」
斉藤は、永倉の隣の副操縦士席で、レーダーによる捜索を行っていた。
「駄目だ。何処にもいねぇ」
後部座席にいた桐生も、斉藤に声をかけた。
「始くん、地球の反対側にいたとしたら、レーダーには映らないよ」
永倉は、それを聞いて言った。
「美影ちゃんって、そう言えば科学者だったっけ。あたしらと違って頭いいんだよね」
桐生は、苦笑いした。
「いやぁ。それほどでもー」
このぐらいの分析で、そんなことを言われて、桐生は少し恥ずかしがっていた。
「隊長、美影ちゃん、念のため、地球をぐるっと回るコースで行くよ!」
「頼む!」
その頃、空間騎兵隊の大型兵員輸送機は、地球軌道上の空母ダレイラの甲板に駐機していた。操縦不能になって、地球に落下するコースで飛行していたところを、ダレイラの牽引ビームで捕捉して引き寄せたのだ。
機体の前部が、大きく破損しており、そのせいで操縦不能になっていたようだった。
怪我人も二名程出ているようで、宇宙服を着た四人の空間騎兵隊の兵士達が、怪我人を抱えていた。彼らは、迎えに出た空母ダレイラの甲板員に先導され、甲板から格納庫に移動するエレベーターに乗って下に降りていった。
別の甲板員は、甲板上の機体の状況を確認していた。その周りを空間騎兵隊の兵士数名が取り囲んでいた。
空母ダレイラの艦橋の窓から、ガゼル司令と、バルデス艦長が甲板の様子を窺っていた。
「どうやら、本当に機体の破損があったようです」
バルデス艦長は、双眼鏡で確認して、ガゼル司令に報告した。
ガゼル司令も、双眼鏡を受けとると、自身でも様子を確認して言った。
「地球連邦防衛軍に、故障した機体を本艦が確保したと連絡を入れておけ」
空母ダレイラの格納庫では、怪我人を抱えていた空間騎兵隊の兵士達が、ガミラス人の甲板員に医務室に案内されようとしていた。
メルダと山本も、その様子を近くで見守っていた。
「知り合いでもいるか?」
メルダが山本と顔を見合わせた。
「いや、今まで総合演習の時ぐらいしか、空間騎兵隊と一緒になったことがない。残念ながら、友人はいない」
すると、突然、甲板員が悲鳴を上げた。
メルダと山本が、そちらの方を振り返ると、空間騎兵隊の兵士の一人が、甲板員に小銃を向けていた。メルダと山本は、一瞬呆気に取られたが、すぐにメルダは抗議に向かおうとした。山本は、そのメルダの腕を掴んで無言のまま止めた。
「なんだ。あんなふざけた真似を許す訳にはいかない」
山本は、右の方を見るように、目で合図した。メルダがその方向を見ると、そこには、先程怪我人として抱えられていた兵士が起き上がり、隠し持っていた無反動砲を肩に担いで、メルダと山本の方へ向けていた。驚くメルダに、山本は小声で言った。
「どうやら彼らは、本気のようだ。あんなものを撃たれたら、ひとたまりも無い。じっとしていよう」
その頃、甲板上の甲板員も、空間騎兵隊の兵士が取り囲み、背後から宇宙服の酸素供給管を引き抜かれてパニックになっていた。その彼を無理矢理歩かせて、甲板のエレベーターに向かっていた。大型兵員輸送機からは、まだ乗っていた残りの二十名程の兵士が、ぞろぞろとその後について、空母ダレイラの格納庫に降り立った。
結局、そこには三十名程の空間騎兵隊の兵士達が武装して集結していた。格納庫内のガミラスの甲板員も兵士も、それほど人数が多く無かった為、あっさりと空間騎兵隊は全員を拘束し、占拠した。丁度、月面で開かれたイベントに参加するため、手薄な状態だったタイミングを彼らは狙ったのだ。
空間騎兵隊の兵士のリーダーと思われる人物が、既に拘束されて後ろ手に縛られたメルダと山本の元にやって来た。彼は、腕に装着した端末を操作して、画像を呼び出していた。その画像と、メルダの顔を比較している。
「あんた、ガミラス軍の高官、ディッツ提督の娘のメルダ・ディッツだな」
メルダは、その男を睨み付けて言った。
「だったら、どうなんだ」
男は、被っていた装甲ヘルメットを外すと、メルダに顔を近付けた。メルダたちと年齢も変わらなそうな、若い男だった。
「ガミラス人にしちゃ、随分とべっぴんさんだな。丁度いい、お前は役に立ちそうだ」
男は、メルダの隣にいた山本の方を一瞥した。
「これはこれは。高名なヤマトのエースパイロットの山本さんじゃないか。ガミラス人と必要以上に仲良くやっているって噂は、本当だったんだな」
山本は、特に表情を変えずに、男の胸に貼り付けられたネームプレートを見た。
「お前は、KITAGAWAと言うのか。見たところ、お前の装甲宇宙服は、どこも傷付いても汚れてもいない。入隊したばかりの新人だな。お前のさっきから言っていることからの推測だが、お前たちは、ガミラス同盟に反対する、反政府勢力ってところか」
北川は、図星を突かれて目を丸くした。
「なるほど。ヤマトのエースというのは伊達じゃないってことだな」
北川は、山本の顔を見て、何かに気付いたようだった。山本の目を覗き込んでいる。
「その目……マーズノイドか。なるほどな、あんたは地球人が嫌いなんだろう」
そう言って、彼はにやにやと笑っていた。
山本は、火星出身者の血縁を揶揄するような事を言う人間が、まだ存在していることに辟易とした。内心では、相当な怒りが沸き上がっていたが、努めて表情に出ないようにした。
「いいや。テロリストのお前程じゃない」
北川は、怒り心頭に達して、生意気な言動を繰り返すこの女も連れて行くことに決めた。
「お前ら、よく聞け! これから当初の計画通り、別れてこの船を占拠する。艦橋に向かうメンバーは、俺と一緒に来い。この女共二人を盾にして進めば、容易に目的を達せられるはずだ。行動開始!」
バルデス艦長は、艦内通信によって、艦内で発生している事件について報告を受けていた。
「ガゼル司令! やつらの機体の損傷は偽装でした。武装した上で人質を取ってここに向かって来ています」
ガゼル司令は冷静に確認した。
「人質とは?」
「メルダ中尉を人質に取られています」
ガゼル司令は、これは、困ったな、と冷静に考えていた。
「手出し無用と艦内に通達しておけ。私がここでやつらと話す」
北川らは、メルダと山本の背後から小銃を突きつけて進み、艦内エレベーターで上がると、艦橋に雪崩れ込んだ。
艦橋では、ガゼル司令が真ん中で腕組みして仁王立ちしていた。
「お前がこの艦隊の司令官だな? この船は、俺たちが乗っ取った。今すぐに、護衛の駆逐艦を後退させろ!」
ガゼル司令は、それを無視して言った。
「メルダ。お前らしく無いドジを踏んだな」
メルダは、父の友人のガゼルに申し訳ないと思っていた。
「ガゼル司令。この失態は、どのような罰も受ける所存です」
「そちらは、メルダの地球人の友人か。とんだとばっちりのようだな」
山本は、初めて会ったガゼルの冷静さに驚いていた。
「こちらこそご迷惑をお掛けします。同じ地球人として、お恥ずかしい限りです」
北川は、自分を無視してのやり取りに、怒りを爆発させた。
「聞け! 俺たちが、ここで暴れれば、全員終わりだ。素直に言うことを聞くんだ!」
北川の背後から、三人の空間騎兵隊の兵士が、現れ、無反動砲を構えていた。
それを見たガゼルは冷静に考えた。
あの無反動砲をここで撃たれたら、艦橋に穴が開き、確かに宇宙服を着ていない者は、全員死ぬだろう。だが、そんなことをすれば、この艦は航行不能になって、乗っ取りは不可能。やつらも実際には撃てまい。しかし、こんなところで全員が死ぬかもしれない決断をするのは時期尚早だ。ここは時間を稼ぎ、助けが動き出すのを待つのがセオリーだろう。
「わかった。言うことを聞いてやろう。お前らの目的を言え!」
北川は、この司令官の迫力に押されていた。しかし、他のメンバーに気後れしているところを見られる訳にはいかなかった。
「上陸休暇中のお前らの艦隊の乗員を捕らえて確認した。この艦には、大量破壊兵器が搭載されている。俺たちは、それを必要としている」
ガゼル司令は、何を欲しがっているか理解した。
「なんのことか、わからんな」
北川は、激怒した。
「ふざけるな!」
そして、メルダの顔に小銃を突き付けた。メルダは、後ろ手に縛られており、冷や汗をかいていた。ガゼル司令は、片手を振りながら言った。
「わかった、わかった。やめておけ。確かにそういう感じのものはあったかもしれん。そう言えば、ガミラスを出る前に、タラン国防相から指示されて搭載したものがある。今時、惑星間弾道弾を持っていくと目立つという理由だったな。ゲルバデス級空母には、今後、全艦に搭載するそうだ」
ガゼル司令は、少しでも時間稼ぎをするため、わざわざ詳しく説明をした。
北川は、にやりと笑った。
「あるんだな?
続く…
注)pixivとハーメルンにて同一作品を公開しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。