宇宙戦艦ヤマト2199 大使の憂鬱   作:とも2199

5 / 10
宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「大使の憂鬱」です。「白色彗星帝国編」の続編になります。


大使の憂鬱5 囚われの喧騒

 ランハルトは、微睡みから目覚めた。

 

 どうやら寝心地が悪かったようで、体のあちらこちらに痛みが走る。

 しかも、床に寝かされていたらしく、痛みの原因はそれと、腕を拘束されているせいだった。後ろ手に縛られており、縛られた手首が酷く傷んだ。よく見れば、足も縛られており、今の体勢から変えるのは難しかった。

 周りを見渡すと、白い壁面に囲まれた、長方形の小さな部屋だった。壁の一つに、自動扉らしきドアがあった。しかし、窓は見当たら無い。恐らく、会議用の小部屋と思われたが、さっきまでいた場所と同じところにいるのかは、見当もつかなかった。

 すぐ近くに、ユリーシャとケールが同じ様に縛られて倒れていた。

 ユリーシャは、自分と同じ様に、体勢が苦しいのか、辛そうな表情で眠っていた。

 ケールはというと、すやすやと気持ち良さそうに寝ており、時折寝言を言っていた。

「そ、そんなに・・食べられないです」

 ケールは、どんな夢を見ているのか、とても幸せそうだった。

 いらいらしたランハルトは、反動をつけてケールの傍に移動して、もう一度反動をつけて足を蹴った。

「あう!」

 ケールは、とても痛かったのか、一度で目が覚めたようだった。

「痛いじゃないですか!」

 すると、目の前にランハルトの顔があり、自分の置かれている状況を彼も確認した。

「あれれ? もしかして僕たち、監禁されてません?」

 ケールは、滅多に無いイベントの渦中にいることが嬉しいのか、嬉しそうに笑っていた。

「笑い事じゃ無い」

 ランハルトは、不快そうな顔でケールを睨んだ。

 ケールは、器用に体をくねらせると、尻をついて足を前に出した状態で起き上がった。

「ふう。大使も、この体勢の方が楽だと思いますよ?」

 簡単に言う、とランハルトは思いながら、苦労してケールと同じ体勢に体を持ち上げた。

「ここはどこだ」

 ランハルトは、腹立たしげにケールに尋ねた。

「うーん。僕も知りたいですね」

 すると、ユリーシャも気が付いたようだった。

「うぅ・・痛たた・・」

 痛そうに顔を歪めていたが、彼女も、自分の置かれた状況を把握したようだった。

「まさか・・捕まった?」

 ランハルトは、首だけをユリーシャの方へ向けて言った。

「ユリーシャ様。大丈夫ですか? その体勢だと、腕が痛むと思います。私と同じ体勢になると、少し楽ですよ」

 ユリーシャは、ランハルトと同じ様に、かなり苦労して、体を起き上がらせて隣に座った。

「ここ、どこ?」

「私もそれを調べようと・・」

 ランハルトは、横にいるユリーシャの顔をまじまじと見た。

 おかしい。違和感がある。

 ランハルトは、はたと思い付いた。

「あなたは・・本当にユリーシャ様か?」

 ユリーシャは、そう言われて、少しずつ、表情が変化していき、最後には、苦笑いになった。

 その顔を見たランハルトは確信した。

「貴様、ユリーシャ様ではないな!?」

 ユリーシャの服を着た雪は、苦笑したまま、正直に言った。

「あたり」

 ランハルトは、先程までの心配そうな顔から、露骨に嫌悪感を露にした表情になった。

「お前は、雪だな!?」

 雪は、仕方なく頷いた。

「そう。私は、森雪。ユリーシャじゃなくて、残念だったね」

 ランハルトは、衝撃と怒りが混じった複雑な表情をしていた。

「いつからだ」

「はい?」

「いつから入れ替わったか、と聞いている」

 そこに、ケールが割り込んできた。

「さっきの仮想現実の施設に入った時からですよね?」

 雪は、先程のケールはまるで気が付いて無かったのにと思い、不思議そうな顔でケールを見た。

「そう、正解。ケールくんって、もしかして、心が読めるの?」

 ケールが嬉しそうに答えようとすると、ランハルトが遮った。

「お前は、黙っていろ」

「はーい」

 ケールは、にこにこしながら、口に力をいれて閉じていた。

 雪は、そんなケールの顔を見て吹き出していた。

「何がそんなに可笑しい」

「だって……」

 ランハルトは、不快感を露にして言った。

「いったい何のために、入れ替わったりしたんだ? 本物のユリーシャ様は、無事なのか?」

 雪は、素直に回答するか迷ったが、さすがに要人の生命の問題なので仕方なく答えた。

「ユリーシャの我が儘が原因。恐らく、今は街で買い物中。ここにいないということは、彼女は、多分無事だと思う」

「まさか、お一人でそんな所に行ったのか?」

「十中八九、警備隊のリーダーの星名くんが一緒にいるはず。だから、心配無いかな」

「その十中八九、という言葉は、確率を意味している。まさか、確実じゃないというのか」

「そう、ね。でも、ここにいるよりはマシなんじゃありません?」

 そう言われたランハルトは、不承不承、今は諦めることにした。

 ランハルトが、心配のあまり、慌てているのが手に取るようにわかり、雪は、顔に出やすいタイプなのかと、考えて少し笑ってしまっていた。

「ふん。おい雪、笑っている暇があったら、脱出方法を考えろ」

 雪は、ランハルトの方を見て、目を細めて不満を漏らした。

「さっきまで、私がユリーシャだと思っていた時は、随分と優しそうでしたよね」

 ランハルトは、躊躇無く即答した。

「当然だ。お前に優しくする理由が無い」

 雪は、それはそれで心外だと思った。

「ふうん。デスラー大使って、もしかして、ユリーシャが好きなんですか?」

 着任初日の夜のことも思いだし、少し腹を立てた雪は、試しにストレートに言ってみることにした。しかし、ランハルトも、少しも動ぜずにきっぱりと言った。

「もちろんだ。あの高貴なお方を嫌いな人などいないだろう」

 ランハルトは、何を当たり前なことを、という顔をしていた。

「私が言いたいのは、そういうことじゃなくて……」

「くだらん話をいつまで続けるつもりだ。脱出する方法を考えろと言っているだろう!」

 高圧的な態度を続けるランハルトに、雪も遂に怒りを吐き出した。

「何を偉そうに! 少しは自分でも考えたらどうなの!?」

 ランハルトも、雪の言い方に腹を立てた。

「誰に向かって言ってると思ってるんだ!」

「何も出来ないくせに、威張り散らしている、あ・な・た、に言ってるけど」

 ランハルトは、怒り心頭に達したが、身動きがとれず、身悶えしていた。雪は、ランハルトと反対側を向いて、黙り込んだ。

「あのー。口を開いてもいいでしょうか?」

「黙っていろと「ケールくん、いいよ。何か思い付いた?」ランハルトが言おうとするのを、雪は、大きな声で遮った。

 ケールは、にっこりして言った。

「はい。まずは、この拘束を解きましょう。そうすれば、お二人のいらいらも少しは収まると思いますし・・」

「無理だ」

「無理ね」

 ケールのにこやかな顔が苦笑いに変わっていた。

「ま、まぁ、まずは拘束を何とかしましょう。幸い、手錠とかでは無く、電気コードのようなもので縛られています。これを切断します」

 ランハルトも雪も、足元の拘束が確かに電気コードで縛られているのを確認した。

「大使。僕のネックレスを、口で咥えて外して貰えませんか? これを使って切断します」

 ランハルトは、ケールの着ていた地球の服のシャツの下に、確かにネックレスらしきものがぶら下がっているのを確認した。

「この俺に、それをやれと言うのか?」

「雪さんにやって頂いてもいいですけど、ちょっと恥ずかしいかなーと思いまして」

 雪は、自分がそれをやるのを想像したが、確かに少し恥ずかしいかもと思っていた。

「仕方がない。では、すぐに始めるぞ」

 ランハルトは、身を少し屈めて、ケールの胸元に顔を寄せた。そして、口で器用にシャツのボタンを外していった。露になったケールの胸には、何か金属製の棒のようなものが細い鎖でぶら下がっていた。ランハルトは、ケールの胸に顔を近付けて、その棒を咥えた。

 それを見守っていた雪は、二人が、何かいけないことをしようとしてるように見えてしまって、思わず赤面していた。

 そして、ケールが頭を屈め、ランハルトがそのまま後ろに下がって、少しずつ鎖が頭から外れ始めた。そして完全に外れると、ケールは尻を移動させてランハルトに背を向けた。後ろ手に縛られているため、ランハルトの方に手を向ける形になった。

「大使、今度は、それを僕の手に渡して下さい」

 ランハルトは、頭をケールの手元の近くに寄せて、咥えたネックレスを、口から離してケールの手元に落とした。

「ありがとうございました。では、これから切断するので、少しお待ち下さい」

 ケールは、黙り込むと、暫く手をもぞもぞと動かし、作業を始めた。

 すると、五分ぐらい経ったところで、コードが切れたらしくケールの両手が自由になっていた。

 そのケールの右手には、先程の金属製の棒があった。

「お前、そんなものまだ持っていたのか」

 ランハルトは、呆れ気味に言った。

 ケールの手にあったのは、ワインのコルクを抜く栓抜きだった。彼は、自分の足元の電気コードを、その先端の尖った部分を使って器用に切断した。

「大使がまた使うかもしれないと思いまして。あの飲み物、気に入ってましたよね」

 そう言いながら、ケールは雪の傍に行き、コードの切断を始めた。

「何故、雪の方を先にするんだ」

 ランハルトが不満げに言った。ケールは、作業を続けながら、ランハルトに顔を向けた。

「レディー・ファーストって言葉が地球ではあるみたいです。あと、郷に入っては郷に従え、という言葉、ご存知です?」

「知らんな」

 そう言っている間にも、雪の拘束は解かれていた。

「ありがとう、ケールくん。君って、何かいい子だよね」

 ケールは、続いてランハルトのコードを切断し始めていた。

「よく、言われます。でも、これでも子供じゃないんですよ。よく間違えられますけど」

 そうして、三人とも体だけは自由になった。

「ふう。やはり、拘束が無くなっただけでも、随分楽になった」

 ランハルトは、床に腰かけたまま一息ついていた。ケールは、すでに部屋の四方を調べ始めていた。

「おい、ケール。さっきのは、どうして防げなかったんだ?」

「うーん。うまく説明出来ませんが、流れに身を任せた方がいいかなぁ、と感じまして」

 雪は、二人の会話の意味がよくわからなかった。

「あれを防ぐなんて、無理でしょう。どっちにしても、彼はボディーガードじゃないんでしょう? 彼にそこまで要望すべきじゃ無いと思うけど」

 すると、ランハルトも、ケールも黙り込んだ。

「あれ? 何かいけないこと言った?」

 ランハルトは、雪の方に手を振って言った。

「気にするな。こっちの話だ」

 それから三人は、それぞれが部屋の隅々はもちろん、天井も調べた。

「どこにも、脱出出来るような場所は無さそうね。あのドアから行くしか無いと思う」

 ランハルトは頷いた。

「そうだな。だとすると、どうやってあのドアを開けるかだが」

 ドアは、電気式のスライドドアで、ドアノブも無く、電子錠を解除する為のパネルも見当たらない。恐らく、外側からロックが掛かっているのだろうと、話し合った。

 ランハルトは、ケールの方を見た。ケールは、首を振った。

「ご期待に添えなくて、申し訳ありません」

「気にするな。なら、少し様子を見るしかないな」

 雪は、二人のやり取りを不思議そうに見守った。

 

 

 交通量の多いその通りの片隅に、それは落ちていた。

 星名は、それを拾って、ばらばらになった携帯端末を覆っていたパネルの内側を確認をしていた。

 星名は立ち上がって、すぐ傍に停めていた警備隊の車に戻った。車で待たせていたユリーシャが、隣で心配そうに言った。

「星名。どうだった?」

「間違いありません。携帯端末のシリアル番号は、政府から支給したランハルト様と秘書のケールさんのものでした。個人の物は、すぐに番号の確認ができませんが、一緒に落ちていた三台目の端末は、恐らく雪さんの物でしょう」

 ユリーシャは、驚いて両手で口元を覆い、呼吸が苦しくなっていた。

 彼女は、自らの軽率な行動が原因で、大勢の人を死地に追いやってしまった過去があった。その時の後悔を再び繰り返しただけでなく、今度は、雪やランハルトなど、彼女にとって大切な友人の身を危険にさらしてしまったことで、自らを責めていた。

 星名は、話しながら自分の携帯端末を操作して、車を自動運転で走らせた。同じ場所に留まるのは危険だと判断したのだ。

「恐らく、誘拐した犯人が携帯端末から足がつく可能性に気が付いたんでしょう。完全に足取りが途絶えてしまいました」

 ユリーシャは、嗚咽を漏らした。

「わ、私の代わりに、雪が、き、危険な目に合って……」

 星名は、ユリーシャを元気付けようと言った。

「ユリーシャ様、そう悲観したものでも無いですよ。いいですか。雪さんは、白兵戦の戦闘訓練も受けた、れっきとした戦士なんです。必ず、大使たちの助けになってくれるはずです。おまけに、あなたがこうして無事だった。それに、僕もこうして今動けているのも、ユリーシャ様のお陰ですよ」

 星名は、微笑んでユリーシャを見ていた。

 ユリーシャは、顔を上げて彼と見つめ合った。

「……ありがとう。星名は、優しい」

 すると、持っていた携帯端末に、地球連邦防衛軍から連絡がきたので、星名はそれに応答した。相手は、極東管区長官の藤堂からだった。

「藤堂長官、追跡していた携帯端末が路上に落ちているのを発見しました。これ以上の追跡は困難になってしまいました」

「こちらでは、つい先程、犯人グループからの連絡が入った」

「本当ですか?何と言っていますか?」

「大使とユリーシャ様を預かっていると、短いメッセージが映像付きで送られてきた。次の指示はまた連絡が来るようだ。取り敢えず、映像を転送するので見ておいて欲しい。それから、そちらにいるユリーシャ様だが、一旦そのまま預かっていて欲しい。新たな護衛チームを編成したらまた連絡する」

「承知しました」

 通信が切れると、映像が送られてきていた。ユリーシャも、その映像を覗き込んだ。

 そこには、どこかの小部屋で縛られて倒れている三人の姿が映っていた。三人の意識はないようで、身動きもしなかった為、生きているかどうかまでは確認できなかった。

 ユリーシャは、それを見て再び呼吸困難を起こしていた。それを見た星名は、どうすべきか少し迷ったが、彼女の体をそっと抱き寄せた。

「大丈夫。僕が必ず助け出します」

 ユリーシャは、星名の胸で小刻みに震えていた。

 

 その頃、衛星軌道上のガミラス空母ダレイラは、エンジンを始動して、移動を始めていた。周囲を囲んでいたガミラス駆逐艦は、そのままそこに留まって、徐々に空母が離れていった。空母ダレイラは、ゆっくりと地球の大気圏突入コースを取り始めた。

 

 永倉が操縦する小型輸送機は、行方不明になった大型兵員輸送機を捜索していたが、先程空間騎兵隊本部からガミラス空母の乗っ取り事件があり、空間騎兵隊の新人が関わっていると連絡を受けていた。

「ガミラスの空母は、大気圏に進入するみたいだぞ!」

「これからどうする? 空間騎兵隊本部からは、刺激するなって言われてるしさ。この小型輸送機じゃ、大気圏突入も無理だし」

 斉藤は、レーダーに映るガミラス空母の点をじっと見ていた。

「俺は行くぞ。乗っ取り何て大それたことをやる機会を与えたのは俺の責任だ。それに、あいつらを一発殴ってやらねえと気が済まねぇ!」

 永倉は、斉藤が立ち上がるのを見て、驚いていた。

「ちょっと、ちょっと、どうすんのさ!」

「この輸送機でこのまま近付いたら、多分撃墜される。だから、途中で降りて外を泳いで行く。もう少し近くに寄せてくれ」

「そんな無茶な!」

「大丈夫だ! 永倉は、隊に戻って部下を連れて後から来てくれ」

 後部座席の桐生は、その無茶な作戦の可能性を考えていた。

「どこで飛び出せば、空母に取り付けるか、私が計算してあげる! ちょっと待ってて」

 斉藤は、装甲宇宙帽を掴んで、後部座席まで下がって来て、桐生が操作する後部座席の端末を覗き込んだ。

「この機のコース、速度はそのままで、あと五分後に飛び出せばいける。私が飛び出し角度を教えるから、一緒に行こう!」

 桐生も、自分の宇宙帽を掴んで、被り始めた。

 永倉は、無茶を言うのが二人になって、困り果てた。

「美影ちゃんまで? 危ないよ! コースを誤ったら、大気圏にそのまま落ちちゃうじゃないか!」

 桐生は、宇宙帽の中の通信機のマイクから言った。

「だから、そうならないように、あたしが一緒に行く! だって、始くんが私の墓参りに付き合わなかったら、こんな事件起きてなかったかもしれない。私の責任だから、せめて始くんを助けさせて!」

 斉藤も、装甲宇宙帽を被って、桐生の肩を掴んだ。

「流石は、桐生隊長の娘だ! 必ず俺がお前を守る! だから、俺を手伝ってくれ!」

 永倉は、諦めた表情で言った。

「お前ら、最悪だ! 絶対に、死ぬんじゃないよ! 死んだら、許さないかんね!」

「おうよ! ちょっくら、行ってくる!」

 二人は、後部のエアロックのある部屋に移動して、扉が閉まると姿が見えなくなった。

 

 斉藤と桐生は、機外に出て、体を寄せあって、小型輸送機の下部に掴まっていた。

「なぁ、言い出した俺が言うのも何だが、宇宙デブリに当たったりする可能性もあるよな?」

「そしたら、私たちはおしまい! でもね、遊星爆弾のお陰で、地球の周りには、デブリなんてほとんど無いの。 そこは、安心して」

「なるほど。なんか納得いかねぇ話だが、不幸中の幸いってやつか。了解だ!」

「段取りを確認しておくよ?私の足に掴まってついてきてくれればいいから。まず、手元の端末で角度を確認して、側面のスラスターで角度を決める。さっき計算した時間になったら、後部のスラスターを三十秒だけ噴射する。それで辿り着けるはず! じゃぁ、行くよー!」

 斉藤は、桐生の足にしがみついた。桐生は、手を離して、小型輸送機の下を漂い始めた。輸送機同じ速度で移動しており、桐生は手元の端末で角度を見ながら、一瞬だけ右側面のスラスターを吹かした。そして、もう一度、今度は左側面のスラスターを一瞬吹かした。何度か繰り返すと、角度が決まった。

「カウントダウンを開始する!あと、十秒!」

 斉藤は、桐生の両足にある機材を張り付ける為のストラップを強く握りしめた。

「・・三、二、一! 後部スラスター噴射! 引き続きカウントダウン! 二十九、二十八・・」

 二人は、小型輸送機よりも、少し速度を上げ、ゆっくりと離れ始めた。

「・・五、四、三、二、一、スラスター停止!」

 桐生は、手元の端末を再び確認した。

「秒速十キロメートルで移動中! 大丈夫! 角度も問題ない! 絶対に辿り着ける!」

 

 そのまま移動すると、徐々に、肉眼でガミラス空母が見えてきていた。

「始くん! もうちょっとだよ!」

「わかった!」

 ガミラス空母のレーダーでは、物体が小さすぎて、デブリと見分けがつかず、検知されずにどんどん彼らは近付いて行った。

 そうして二人は、ガミラス空母に追い付いていた。空母の甲板が正面の少し下に見える。

「あれ、俺たちを置いていった輸送機がとまってるぞ!」

「ほんとだ! 始くん、このまま進むと、追い越しちゃう。最後は、始くんに任せたよ!」

「肉眼で見えればもう大丈夫だ! 俺に任せろ! 逆に俺の体に掴まってくれ!」

「わかった!」

 斉藤は、桐生の足から離れた。そして桐生は、器用に体を回転させて、斉藤の体にしがみついた。

 斉藤は、背中に背負った空間騎兵隊の装備のバックパックを操作して、急速に甲板に移動して降下した。そして、着地寸前に逆噴射して、正確に甲板に降り立った。

「やったー!」

 桐生は、両手を上げて喜びを爆発させた。

「ちょ、駄目だ、美影ちゃん。目立つと見つかる。体を低くして俺に着いてこい!」

 二人は、正面に見える、戦闘機を出すための出入口と思われる場所に走って移動した。しかし、足に装着した磁力靴によって張り付いているため、それほど早く走れない。

 斉藤は、目的の場所に辿り着くと、人が出入りするハッチを探した。

「おかしいな。出入口が無いぞ」

「始くん、もしかしたら、地球の船の空母みたいにエレベーターがあるかも。ほら、あそこ」

 桐生が指差す方向の甲板の隅に、確かにそれらしい繋ぎ目があった。

「よし、行こう!」

 二人がそこに行くと、確かにエレベーターだった。操作パネルを二人は探すと、脇に蓋を見つけ、それを開いてみた。そこには、ガミラス語で書かれた十個のボタンと、小さなディスプレイがついていた。

「こ、こいつは……」

 斉藤は、適当にボタンを押して見たが、何の反応も無い。

 それを見ていた桐生は、考え込んでいた。

「私がやるから、周りを見張ってて」

「す、すまねぇ」

 桐生は、ガミラス語については、以前に勉強したので読むことは出来た。しかし、そこに書いてあったのは、ただの一から十の数字だった。

「パスワードってことかな?」

 桐生は、手元の端末を確認した。

「大気圏突入まで、あと十分ぐらいか」

 桐生は、冷や汗をかきながら、どう入力すべきか考えていた。

 すると、よく見れば、汚れたボタンと綺麗なボタンにはっきりとわかれていた。汚いボタンが正解だとすると、四つのボタンしか使われていないようだった。

 それでも、全てのパターンを試す時間はなかった。

「どうしよう……」

 桐生は、真っ青になっていた。

「始くん。四桁の数字のパスワードだってことはわかったけど、大気圏突入までもう時間がない。間に合いそうもないよ」

 それを聞いた斉藤は、駐機していた空間騎兵隊の大型兵員輸送機に入って行った。

「駄目なら、最悪こいつで脱出するか……。撃墜されなきゃだが」

 一方、桐生は、数字のパターンを総当りで必死に入力し続けた。手元の端末は、残り時間が僅かなのを示していた。彼女が絶望的な気持ちになったその時、斉藤から呼び掛けられた。

「美影ちゃん、四桁だよな?」

「そうだけど」

「7318って入れてみてくれ」

 桐生は、どこからその数字が出てきたのか、と思ったが、汚れたボタンとも一致しており、藁をも掴む気持ちで入力した。

 すると、小さなディスプレイにガミラス語で、エレベーター稼働のメッセージが表示されていた。

「始くん! 正解! 早くこっち戻って来て!」

 斉藤は、輸送機から飛び出して、走ってきた。

 二人は、既に下降を始めていたエレベーターに慌てて乗った。

「何でわかったの?」

「最悪、あれで脱出出来るか確認しようとしたんだが、乗っ取りでここに来たやつらが、事前に情報を押さえているかも知れないと考えた。そしたら、四桁の数字のメモ書きがコックピットに張り付けてあったって訳だ」

「なるほど! さっすが、隊長殿! 本当にありがとう」

「絶対に守るって約束したろ。そろそろ、下に着くな。見張りがいると不味い」

 エレベーターは、下の格納庫の層に降りきっていた。二人が降りると、すぐにエレベーターは元の位置に上昇を始めた。

 斉藤は、体を低くするように桐生に指示し、周囲警戒した。航宙機と人を両方移動する為、大小のエアロックがついているようだった。

「あの小さな方のエアロックから入るみたいだ。中は、やつらが見張っている可能性がある。俺が先に進入するから、後ろにくっついて、絶対に離れるなよ」

「わかった!」

 斉藤は、背中に背負っていたバックパックを降ろすと、小銃を構えた。

 

 一部の空間騎兵隊の隊員に乗っ取られたガミラスの空母ダレイラが、地球に降りてくるという情報が、地球連邦政府と防衛軍を駆け巡った。

 空母が、極東管区に降りてくることが分かり、藤堂長官は、月面の軍の交流イベントに行かせていた芹沢宙将の呼び戻しの連絡と同時に、本土防衛軍に対するスクランブル要請を発した。

 地上防衛を担当する本土防衛軍の空軍の要撃機群は基地を緊急発進し、ガミラス空母に向かって飛び立った。

 空軍の機体は、地表に降りてくる最中のガミラス空母ダレイラの周囲を警戒しながら飛行し、後方につけた。命令があれば攻撃も辞さない覚悟で彼らは臨んでいた。

 

「藤堂長官。ランハルト大使を誘拐した犯人グループからのメッセージが入っています」

 藤堂長官は、地球連邦防衛軍極東管区司令部の指揮所で、ガミラス艦の乗っ取り事件の事態の推移を見守っているところであった。

「こちらに回せ」

 藤堂長官は、自席の端末を操作し、送られてきたメッセージを確認した。

「……」

 メッセージには、ガミラス艦への攻撃をした場合に、大使の命が保証できない、という内容が書かれていた。そして、空軍を下がらせるようにとメッセージは続いていた。

 藤堂長官は、厳しい表情でそのメッセージを何度も読み返した。

「ガミラス艦の乗っ取りと大使の誘拐は、同一グループによる犯行のようだ」

 藤堂長官は、静かな怒りを溜めていた。

「本土防衛軍の空軍に連絡、すぐに引き返させろ。ガミラス艦への接近も厳禁だと伝えろ。代わりに、ガミラス艦の着地予想地点に、本土防衛軍の陸軍の展開を要請しておきたまえ」

 

 男は、とある部屋の一室で、携帯端末に連絡を受けていた。

「はい。それでは、ガミラス空母が到着次第、次フェーズに移行します」

 痩せた神経質そうな顔をしたその男は、デスクから立ち上がって、眼鏡の位置を直した。そして、隣の部屋で控えている数名の仲間を呼んだ。

「ガミラス艦が到着したら、次の作戦を実行する。本土防衛軍の仲間に、作戦の準備するように伝えておけ」

「わかった。いよいよ本番だな」

「長年待った、この時が遂にやって来た」

「お前、気を抜くなよ」

「わかってるって! お前もな」

 仲間の意気や盛んな様子を確認した男は、にやりと笑って言った。

「皆、頼んだぞ」

 

 その頃、斉藤と桐生は、ガミラス空母ダレイラの艦内への侵入に成功し、甲板の下の艦載機格納庫に潜んでいた。

 格納庫内には、数名の空間騎兵隊が見張りをしており、その近くには、数十名程のガミラス兵士が拘束されていた。

「始くん、これからどうする?」

「見張りを何とかしねぇと、こっからは動けねぇ。人質がいるから手出しも出来ねぇな。さっきから、艦橋から指示が来ているようだから、やつらのリーダーは艦橋にいるはずだ。北川の野郎が首謀者だとはな。ったく、あの野郎、絶対にぶん殴ってやる」

 斉藤は、新人の中でも有望株だった北川のことを思い、信じられないという気持ちもあり、心中は複雑だった。

「気付かれずに、艦橋にたどり着ける方法がないか考えてる。美影ちゃんも、何かアイデアがあったら、言ってくれ」

「うん。考えてみるね」

 

 その頃、星名は、地球連邦防衛軍司令部の付近の通りで警備隊車両を走らせていた。

 既に、藤堂長官から、大使誘拐事件とガミラス艦の乗っ取り事件が同一犯の犯行と連絡を受けていた。しかし、手がかりはなく、犯行グループの次の動きを待つしかなかった。

 隣にいるユリーシャは、少し落ち着きを取り戻していたが、大使と雪たちの行方がわからないままで、不安な表情をしていた。

「今は、待つしかないか……」

 

 ガミラス空母ダレイラは、新東京港に向けて降下し続け遂に着水した。

 港に集まった百名規模の陸軍の兵士たちは、物陰に隠れて海上に浮かぶ空母の様子を窺っていた。

「本部に連絡。こちら、本土防衛陸軍一佐の稲森だ。陸軍の展開完了。このまま待機して次の指示を待つ」

 陸軍の作戦を指揮する稲森は、本土防衛軍本部に連絡を入れていた。

「まったく、宇宙軍の連中はどうするつもりだか。こっちは、こっちで準備を進めるぞ!潜入部隊に選抜したメンバーは、潜水服と装備を確認しておけ!」

 

 その頃――。

「雪。一つ聞いておきたい。ここを脱出出来たとして、お前は戦えるのか?」

 彼らは、まだ閉じ込められていた。あれから、数時間が経過していたが、脱出するチャンスは訪れていなかった。

 床に並んで座っていた雪もランハルトも疲れきっていた。しかし、ランハルトは、真剣な表情で尋ねていた。

「戦うのが俺一人だと厳しいので確認させてもらっている」

 雪は、目を細めてランハルトに言った。

「私はヤマトの士官だから。柔術も、銃器も扱う訓練を受けてる。そっちこそ、大丈夫なの?」

 ランハルトは、雪と目があった。疑いの眼で、彼の瞳を覗き込んでいる。

 こいつ、いつの間にか、ため口になっている。

 ランハルトは、気の強い女だ、と思っていた。

「俺を誰だと思っているんだ」

 彼は、天井の方を見つめ、遠い目をしていた。

「デスラーの名を持つ俺がどう生きてきたか。地球人のお前にはわからない、か」

 雪は、ランハルトが少しずつ、素直に本音を漏らすようになり始めているのに気が付いていた。

「良かったら聞かせてくれない?興味あるかな」

 ランハルトは、横目で雪を見た。雪も、彼の方を向いて、じっと見つめていた。

「ヤマトの乗組員にとって、デスラー総統は、地球を滅ぼそうとした恐ろしい敵の首領だった。でも、彼もまた、苦しんでいたことを、半年前のガトランティスとの戦争の時に、私はスターシャさんやユリーシャとの心の交わりによって、それとなく知ることになった。あなたも、バレル大統領が辺境の星系にいたのを見つけて連れてきたって、言ってたのを聞いた。何故、そんなところにいたの? あなたの家系って、何か複雑な事情を抱えているみたい」

 ランハルトは、雪の顔をまじまじと見た。

「ったく」

「はい?」

 ランハルトは、少し笑っていた。

「あんたは、面白い女だ」

「あら? 貴様とかお前、なんて言っていたのが、あんた呼ばわりまで変わってきた。そのうち、もうちょっと優しい言い方してもらえるのかしら?」

 ランハルトは、一瞬間を置いてから、笑いだした。雪は、そんなランハルトの様子に驚いていた。

「何がそんなに可笑しいの? デスラー大使」

 ランハルトは、まだ笑っていた。

「俺に向かってそんな口の聞き方をしてくるのは、ユリーシャ様以外には、あんたが初めてだ」

 ランハルトは、物怖じしない雪の気の強さが嬉しかった。

 これまで、デスラーの名を出せば、誰も本音を言わなくなってしまうのを目の当たりにしており、彼は孤独を感じていた。

 ユリーシャだけが、その孤独を癒してくれていたが、流石に高貴なお方を相手に礼を失した接し方は出来なかった。雪が相手なら、気を使われることもなく、自分の本当の姿を素直に見せられるのではないか、と彼は思うようになっていた。

「?」

 雪は、不思議そうに彼を見つめていた。ランハルトは、そんな彼女に、微笑を浮かべて言った。

「ここから、脱出できたら、色々話してもいいだろう。それから、俺のことはランハルト、と呼ぶがいい」

 雪は、突然の彼の変化に目を丸くした。

 その時、ドアの付近にいたケールが、声をかけてきた。

「大使、どうやら脱出の機会がやって来たようです」

 ランハルトと、雪は、ケールの方を振り返った。

「ケール。では、すまないがよろしく頼む」

 ケールは、にっこりと笑っていた。

 

続く…




注)pixivとハーメルンにて同一作品を公開しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。