我々は、人類の真の独立を目指す組織、世界独立解放戦線であるー。
我々の目的は以下の通りである。
一つ、ガミラスとの同盟を直ちに破棄し、地球人類の純粋な独立をすること。
一つ、ガミラス以外の異星との交流も、今後禁止すること。
一つ、地球連邦政府は直ちに解体し、人類の純粋な独立を目指す新たな政権、つまり我々世界独立解放戦線に政権を譲り渡すこと。
以上の目的の実現に協力することを要求する。
受け入れられない場合、我々が拘束しているガミラス大使とイスカンダルの特使は、直ちに処刑する。
また、我々の組織の構成員に対して、危害を加えようとする場合、現在、我々の支配下にあるガミラス艦に搭載されている爆弾を、直ちに使用する。この爆弾は、
これらの協力をする証拠として、まず、極東管区の地球連邦防衛軍の藤堂平九郎の投降を要求する。そして、地球連邦防衛軍旗艦、ヤマトを我々に譲り渡してもらう。最後に、大統領を含む、地球連邦政府の閣僚全員が投降してもらう。
以上が、我々の目的、そして要求の全てである。
最初の要求である藤堂の投降だが、この通達の後、一時間以内に、新東京港に来て欲しい。
確認出来ない場合、処刑を直ちに実行に移す。
以上――。
地球連邦防衛軍司令部に届いたメッセージを藤堂は、側近や軍の高官に公開した。彼らは、藤堂を取り囲んでおり、首謀者の要求を皆が確認した。
「無茶苦茶だ!」
「こんな要求に屈してはならんぞ!」
「直ぐに軍を動かして、あのガミラス艦を沈めればいいい! ガミラス大使とイスカンダルの特使の二人だけの犠牲でかたをつけよう!」
「ところで、政府は、大統領は、何と言ってるんだ?」
藤堂は、憮然とした表情で応えた。
「聞きたいかね?」
当然だと、彼らは騒ぎ立てた。
「大統領には、即時の軍事行動によって、彼らを制圧するように言い渡された。仮に、爆弾が使用されても、この日本や中国など一部の地域の被害ですむ。人類全体が、このような要求を呑むことはあり得ないと言っている」
極東管区の軍の高官らは、驚きと共に、憤りを口々に言っていた。藤堂は、黙り込んで周囲の熱が冷めるのを待った。
そこへ、藤堂が呼び出した真田がやって来た。
真田は、藤堂の周囲に群がる軍の高官らの様子を見て、暫し考え込んでいた。
「真田くん。来たまえ」
藤堂は、周囲を無視して真田を呼び寄せた。
「真田一佐、参りました」
真田は、藤堂のすぐ脇に立っていた。
「どうなさったんでしょうか?」
内容が内容だけに、まだこの事実は一部の人間にしか伝えておらず、真田もまだ知らされていなかった。
藤堂は、手短に事の経緯を説明した。
「この
真田は、それを聞いて、少し咀嚼するため考えていた。
「恐らく、重核子に放射線を照射することによって放出される中性子を拡散させて、細胞を崩壊させる爆弾だと思います。要するに、地球で言うところの中性子爆弾です。それが、人間の脳細胞だけに影響を与えるように出来るかまでは解りません」
藤堂は、それを聞いて立ち上がった。
「製造が可能だということがわかれば十分だ。では行ってくる」
真田は、藤堂の顔を見た。それは、今まで見たこともない陰鬱な表情だった。
「どちらへ?」
「あと四十分程で、約束の時間だ。もう行かなければ」
去ろうとする藤堂に、軍の高官が次々に問いかけた。
「藤堂長官、大統領命令に逆らうのかね?」
藤堂は、振り返って言った。
「私が行かなければ、大使らが処刑されてしまう。そして、大統領の命令を聞くということは、我々日本人全員の命を差し出すことになる。そんなことは、私は望まない。それよりも、少しでも時間稼ぎをして、事態が好転する可能性に掛けた方がいいとは思わんかね?」
それを聞いた彼らは、何も反論が出来なかった。藤堂は、踵を返して司令部の指揮所を去って行った。
その頃――。
監禁されているランハルトらの部屋に、世界独立解放戦線の構成員のうち、三人の男たちが向かっていた。そして、監禁部屋のドアを開けて言った。
「場所を移動……するぞ……?」
部屋の中には、誰もいなかった。
誰かが近付いてくる気配をケールは察知していた。先程までの笑顔が消え、表情を失っている。
そして、ドアが開いて、男たちが中に入って来た。
雪は、男たちに向かって何か言おうと、口を開きかけたが、ランハルトに口を手で塞がれた。彼は、静かにするように表情で訴えていた。
「場所を移動……するぞ……?」
男たちには、ランハルトや雪が見えていないようだった。もぬけの殻だった部屋の中を、きょろきょろと見回している。
ランハルトは、黙って雪の腕を掴むと、壁沿いに男たちを避けて入り口の方へ移動した。そして、ドアの外に出ると、ケールがドアの操作パネルをいじって、ドアをロックする電子錠をかけた。
中に入った男たちが、ドアを叩いて何か騒いでいたが、防音が利いており、ごく小さな音だった。
雪は、呆気にとられて、さっきまで閉じ込められていた部屋のドアの方を見つめた。
「どう、なってるの?」
ケールは、ランハルトの顔をじっと見ていた。そしてランハルトが頷いた。それを見たケールは口を開いた。
「ちょっと、手品を使いました。僕らがいないって思わせておきました」
雪の表情に、疑問符が広がっていた。
「僕は、ガミラス人と、イスカンダル人のハーフの子孫らしいんです。そのせいか、近くにいる人に、幻覚を見せることが出来ます。ただし、あんまり力が強くないので、油断している相手にしか通用しませんけど」
ランハルトは、説明を補足した。
「ケールとは、俺がガミラスを離れて隠れていた星系で出会った。勘が非常に鋭く、近い未来に起こることが、良いことか悪いことかを、朧気に感じとる力がある。それで、よく気が利くので、地球にも秘書として連れて来ることにしたんだ。幻覚を見せる力については、いたずらするのに使ったりするので、今までは使用を禁止させていた」
ケールは、にこやかな顔でウィンクをした。
「お役にたてたでしょ? 大使」
ランハルトは、少し嫌そうな顔で言った。
「調子に乗るな」
雪は、その説明を聞いて、少し前の彼ら二人の会話を思い出した。
「じゃぁ、こうやって監禁されることも、何となく察知していたの?」
「はい。何となく悪いことが起きるって程度ですけど。でも同時に、大使の身に何か良いことも起きるって感じたので、迷いましたが様子を見ることにしました」
雪は、ランハルトの方を向いて、その表情を窺った。
「そう? 何か良いことなんてあった?」
ランハルトは、少し困った表情をしている。
それを見たケールは、にっこりと笑った。
「はい、それは……「いい加減にしろ! 脱出してから話せばいいことだ。行くぞ!」
ランハルトは、二人の背中を押して、その場を離れていった。
藤堂長官は、地球連邦防衛軍極東管区司令部の建物から車を飛ばして新東京港に到着していた。
一緒についてきた三名の護衛が先に降り、周囲を見回し、その後、藤堂が姿を現した。
港は、既に本土防衛隊の陸軍が待機しており、藤堂の到着を、すぐ近くの港の倉庫の中から見守っていた。
「情報通り、藤堂長官が現れた。我々は、いつでも動けるよう待機中だ。次の指示を待っている」
陸軍の強襲部隊を指揮する稲森は、部隊をガミラス艦に潜入する小隊と、藤堂長官を拘束しようとやって来るであろう、世界独立解放戦線の者を阻止する小隊など、幾つかの小隊を編成して待機していた。
しかし、ガミラス大使らの行方がわかっていない以上、手出しをするのは困難だった。
藤堂長官は、港に吹く風を受け、潮の香りを感じていた。
長いガミラスとの戦争で喪われた海が復活したのを確認しに、妻や娘の早紀と一緒に遊びに来たことが思い起こされた。
地球人同士の争いなどで、命を失うようなことになるのは本意ではなかったが、これも人類を、日本人を守る為に必要なことだと決意を固めていた。
司令部を出るときに、真田には太陽系外周パトロールを行っている土方司令への事態の説明と、ヤマトを呼び戻すように指示を出しておいた。しかし、彼らの要求通り、ヤマトを差し出すことになれば、もはや対抗できる戦力は、地球連邦防衛軍には存在しない。建造中のアンドロメダ他の艦船は完成間近ではあったが、この事態に対抗させるには、僅かに時間が足りなかった。
「後のことは、月から戻した芹沢くんが上手くやってくれることを祈るしか無いな……」
藤堂は、そのままそこで立ち尽くしていた。
「誰も来ないな。奴等はどうするつもりなんだ」
中隊を指揮する稲森は、直属の部下の士官らと共に、倉庫内に設営した簡易指揮所で待機し、藤堂の様子を捉えた外の映像を眺めていた。
そこに、ガミラス艦の潜入部隊に選抜した十五名の精鋭部隊が、潜水服を着たまま稲森の元にぞろぞろとやって来た。
「おい、お前ら、川沿いから海に入れるように移動を指示したはずだが、何故戻って来た?」
男たちは、一斉に小銃を構えると、稲森ら士官に狙いを定めた。
「何の真似だ!?」
うち、一人が口を開いた。
「我々は、世界独立解放戦線の構成員だ。大人しく投降しろ。抵抗すれば、直ちに大使らの処刑を行うことになる」
稲森ら士官たちは騒然となった。
「ばかな。お前らみたいのが混じっていたというのか!?」
「仲間は、この日の為に本土防衛隊に大勢入隊している。間もなく一斉に蜂起することになるだろう」
それを聞いた士官の一人が、小銃を掴んで彼らに向けようと突然動いた。
稲森は「やめろ!」と叫んだが、間に合わなかった。
潜水服を着た男たちの一部が、その士官に向けて躊躇無く次々に小銃の引き金を引いた。
銃を掴んだその士官は、蜂の巣になってその場に倒れ込んで、そのまま絶命した。
彼の体から流れるおびただしい血液が、床を黒く染めていた。
「命を無駄にする必要はない。大人しく、部隊の全員を投降させろ」
稲森は、険しい表情で、周りの士官たちに手を上げるように言った。
藤堂は、港の倉庫から、本土防衛隊の者が近寄って来るのを見ていた。彼らは、藤堂とその護衛に銃を向けていた。
「そういうことか。反政府活動をするお前たちの組織は、軍に入り込んでいたのだな? これからクーデターを起こす気かね?」
藤堂長官は、冷静に男たちに問いかけた。
「そんなところだ。あんたには、一緒にガミラス艦に来てもらう。お付きの護衛は俺たちに大人しく投降しろ」
藤堂は、護衛の者たちが色めき立つのを、手で遮って、言うことを聞くように指示をした。
「わかった。言うとおりにしよう。君たちも無駄な殺生をすることはない」
「いい心がけだ。おい、連れていけ!」
藤堂長官は、手を上げると、男たちに腕を掴まれて連れていかれた。
その頃、ランハルトたちは、監禁場所から建物内の廊下をゆっくりと周囲を確認しながら移動していた。廊下には、監禁されていた部屋と同じような作りのドアが並んでいる。一方の壁には、細い小さな窓が所々ついており、窓の外に街並みが見えている。
「ここって……地球連邦防衛軍司令本部のすぐ近くみたい。ほら、あそこに司令部の建物が見える。ここが何の建物だったかまでは、すぐにはわからないけど」
雪が指差す先をランハルトも確認した。
「自力で脱出出来ればいいが、場合によっては外に連絡して助けを呼ぶ必要があるかも知れない。雪、大体の場所を覚えておいてくれないか?」
雪は、頷いて返事した。
「わかったわ、大使」
ランハルトは、少し不満げな表情をしていた。
「俺の名はランハルトだ」
雪は、先程そう呼ぶように言われたのを覚えていたが、少し気恥ずかしい感覚があった。
「うーん……。わかった、ランハルト」
雪は、少し前を歩いていたケールが、こちらを笑顔で見ているのに、気がついた。彼女は、先程ランハルトに起こったという、「良いこと」の意味が何となくわかってきた。あれこれとその理由の可能性を考えていると、複雑な心境になったが、今は考えないようにした。
そのまま廊下を進むと、曲がり角があり、ランハルトは、角の向こうに少しだけ頭を出して覗いてみた。
そこには、廊下を塞ぐゲートとなる鉄格子の扉があり、その向こうの小部屋に、見張りが控えていた。
ランハルトは、頭を引っ込めると、二人に状況を話した。
「ケール。この距離では無理か?」
ケールも同じように角の向こうを覗いてみた。
「遠いですね。幻覚を見せるには、もっと接近しないと効果が出ないと思います」
雪は、何か思い付いたようだった。
「他の部屋がどうなっているか、確かめて見ましょう」
「わかった。だが、俺たちを連れ出しに来た連中が何故戻って来ないか、そろそろ怪しみ出すはずだ。あまり時間が無いぞ」
雪は、ランハルトに頷いて、曲がり角に一番近い部屋の前に向かった。ドアの横のパネルを操作してドアを開けると、そこには一つベッドがあり、男が寝ていた。
三人は、寝ている男の様子を窺った。男の腕からは、注射針に繋がった管が延びており、その管はベッドの脇にぶら下がる薬剤のパックに繋がっていた。
「点滴を受けているみたい。この人は病気なのかな?」
「試しに他の部屋も見てみよう」
他の部屋を見てみると、今度も男が寝ており、同じように点滴を受けていた。しかし、先程の男とは違い、身体中に包帯が巻かれており、酷い怪我を負っているようだった。
更に隣の部屋を見てみると、今度は、頭や胸にケーブルが張り付けてあり、近くの装置に繋がっていた。装置の表示は、心拍数や血圧などを表示していた。
「もしかしたら、ここは病院なのかも知れない」
「こんな窓も無いような部屋でか?」
雪は、言われてみれば、確かに変だと考えていた。そのうちに、地球連邦防衛軍司令部の近くにあった建物について思い出した。
「わかった! ここは、軍の病院。最近、反政府活動で、軍と衝突して捕まった人たちが大勢いたはず。その人たちじゃないかな。病人だけど、囚人でもある。だからこんな外から鍵のかかる部屋に入れられているのよ」
「だとすると、俺たちを拉致した奴等は、軍の関係者ってことになる」
「そうね……。ランハルト、その辺りの詮索は後回しにしましょうか。いい方法を思い付いた」
雪は、寝ている人の傍にあったケーブルに繋がったスイッチを掴んだ。雪がそのスイッチを押すとブザー音が鳴った。
「急いで! 隣の部屋へ!」
そう言って、雪はランハルトとケールを部屋から押し出した。そして、雪はベッドの下に潜り込んだ。
すぐに、先程の見張りの男がブザーが鳴らされた部屋にやって来た。見張りが部屋に入るの見計らって、雪は、ベッドの下から転がり出て、見張りの男の足を思い切りすくった。男は、突然の襲撃に受け身もとれず、頭を床に強打して倒れた。見張りの男は、失神してしまったようである。
雪は、すぐに男の服をまさぐり、ゲートを開ける鍵が無いか調べていた。すると、携帯端末がポケットに収まっており、雪は、それを取り出した。
部屋から出ようと雪がドアを振り返ると、ランハルトとケールが唖然として部屋の中を覗いていた。
「雪さん……思ったよりも、ずっとワイルドでした」ケールが苦笑いをしていた。
ランハルトも笑顔でこちらを見ていた。
「よくやった。あんたのことを見直したぞ」
そんな風に見られているとは思っておらず、雪も、苦笑いで応えた。
「そ、それほどでも……行きましょうか?」
雪は、部屋から出るとドアをロックした。そして、先頭に立って先程の角を曲がると、ゲートが自動的に開いた。
「多分、この端末を近付けることで認証して、開いたんだと思う」
雪は、携帯端末をランハルトとケールに示した。ケールは、それを見て言った。
「雪さん、それでもしかしたら外に連絡出来ますか?」
雪は、そう言われてその端末を確認してみた。確かに、通信が出来そうだった。
「良ければ、僕に貸して下さい。一つ、覚えている連絡先の番号があります」
雪は、考えて見れば古代の番号ぐらいしか覚えていなかった。そして、素直にケールに端末を渡した。
ケールは携帯端末を操作して、連絡をした。
星名の元に、地球連邦防衛軍司令部にいる真田から連絡が入っていた。
「こちら星名です」
「星名。先程、世界独立解放戦線の要求通り、藤堂長官が連中に投降した。同時に、本土防衛隊の各軍に潜入していた連中の仲間が武装蜂起して、軍の一部が制圧されてしまった。私は土方司令にも連絡して、太陽系外周にいるヤマトを地球に戻す手筈もしたところだ」
「そうですか。いよいよ不味い状況になって来ましたね」
「大使の居場所はわかったかね?」
星名は首を振って答えた。
「わかった。我々宇宙軍の動きだが、月面から芹沢宙将も、藤堂長官に替わって司令部で指揮を取るため帰還中だ。それから、空間騎兵隊が多数の部隊を引き連れて地球に向かっている」
「空間騎兵隊が来てくれるんですね」
「ああ。第七連隊を指揮する永倉一等宙曹の情報によれば、隊長の斉藤宙曹長が、ガミラス艦に先行して潜入しているらしい。うちの桐生美影もそれに同行しているそうだ」
「それは! ぜひとも連絡を取りたいですね」
「わかった。すぐに斉藤か桐生くんから君に連絡するように伝えておこう」
「お願いします。私も情報をいろいろ集めておきたいので」
「そうそう、ユリーシャ様の新しい護衛部隊も編成済だ。君が場所を指定してくれたら、向かわせる」
「わかりました。今はまだ私と一緒にいた方がよさそうなので、後程連絡します」
「わかった。それでは、一旦通信を終わる」
星名は、落ち着かない様子で、携帯端末を握りしめるユリーシャを窺った。
ガミラス空母ダレイラの艦載機格納庫では、斉藤と桐生が、通常の出入口以外の移動経路がないか探していた。すると、斉藤の携帯通信機に、着信を示すランプが点滅した。斉藤は、肩の通信機を掴むと小声で応答した。
「こちら斉藤」
斉藤が耳に着けている小型イヤホンに、雑音が響いた。
「こちら永倉。隊長、部隊を連れて来た。もう少しで地球に到着するよ」
斉藤はにやりと笑った。
「了解だ。いつでも、ガミラス艦を強襲出来るように準備しておいてくれ」
「それが隊長、そうもいかないんだよ」
永倉は、これまでの情報を整理して斉藤に伝えた。
「
「何でも、数千キロの範囲で人だけを殺すっていうおっかない爆弾らしいよ」
「そうすると、俺はそれを起爆出来ないようにしなきゃなんねぇな。そしたら、お前たちにも来てもらえるな」
「そういうことになるけど、ガミラス大使が人質になってるんだ。勝手に動くと今度はそっちがどうなるかわかんない。それを追っている星名って人が隊長と美影ちゃんに連絡取りたいってさ」
「わかった。連絡先を俺の通信機に送っておいてくれ。後は俺が何とかする。そっちはそっちで準備は進めてくれ」
「わかった。通信終わり」
桐生は、斉藤の顔色を窺っていた。斉藤からも手短に今の情報を伝えた。
「そうなると、艦橋に行って、起爆出来ないように制御を奪わないといけないね」
「だな。早いとこ何とかしないと不味い」
斉藤は、通信機のランプが再び点滅した。永倉から、星名の連絡先が届いていた。すぐに斉藤は、星名に連絡を取った。
「こちら斉藤……お前が星名か。永倉から聞いている。大使の救出作戦と、爆弾の起爆阻止を同時にやろうってんだろ? そっちはどうなってんだ?」
ユリーシャは、星名が誰かと連絡を取り合っているのをぼうっと見守っていた。すると、地球連邦政府から支給された携帯端末に、着信ランプがつくのに気が付いた。ユリーシャが端末を操作すると、そこにはケールの姿が映っていた。
「ユリーシャ様、僕です」
ユリーシャは、驚くと同時に喜びを爆発させた。
「ケール! 良かった! 雪とランハルトは無事!?」
「はい。大丈夫ですよ」
ケールの笑顔の後ろに、ランハルトと雪が映っていた。
「ああ……!」
ユリーシャは、片手で口元を抑えた。そして、その瞳からは安堵の涙が溢れた。
星名は、斉藤との通信を中断して、ユリーシャの端末の映像通信を覗いて確認した。
「すいません、星名です。そちらの状況を教えて頂けますか?」
ケールは頷いた。
「僕たちは、地球連邦防衛軍司令部近くの軍の総合病院で監禁されています。つい先程、監禁されていた部屋から三人で脱出し、この端末を入手したところです。これから、病院から脱出するための行動を行いますが、簡単には行かないかもしれません。助けが必要だと思って、ユリーシャ様の端末に連絡をしました」
「わかりました。救助に向かいたいと思いますが、こちらも難しい状況になっている為、お伝えしておきます」
星名は、誘拐事件とガミラス艦乗っ取り事件が発生したことなどを、簡潔に伝えた。
ケールに替わってランハルトが端末に出た。ランハルトは、険しい表情をしていた。
「
星名は頷いた。
「はい。ですので、作戦を同時に実行する必要があります。爆弾の起爆阻止と、あなた方の救出です」
星名は、まだ通信が繋がっていた斉藤に言った。
「聞いての通りです。これから大使らの救出に動きます。お互いに準備が出来たら、同時に実行しましょう」
「わかった。じゃぁ、こっちも準備するので、後で連絡する。そっちも頼んだぞ」
「わかりました。通信終わり」
星名は、ユリーシャが両手で自分の体を抱き締めて安堵している様子を眺めた。
「ユリーシャ様。これから救出部隊を編成して、軍の総合病院に向かいます。あなたには、新しい護衛部隊の元に行ってもらいます」
ユリーシャは、唖然とした表情で星名を見つめた。
「どうして……?」
星名は困り果てていた。
「ユリーシャ様、私と一緒ではとても危険です。お願いですから、言うことを聞いて下さい」
「なら、その護衛部隊と一緒に、近くにいてもいい? ううん、近くに居たいの。お願い、星名」
「駄目です。今度ばかりは」
ユリーシャの泣き顔は、百合亜にそっくりだった。星名は、心が揺れ動くのを感じていた。
「なら、ついていかないから。外で待ってる。せめて病院の近くで。お願い……」
星名は、心の動揺を知られないように言った。
「わかりました。では、危険だと護衛部隊が判断したら、すぐに移動してもらいます。譲歩出来るのはここまでです」
ユリーシャは、泣き顔のまま笑った。
「わかった。じゃぁ、行こう?」
線の細いその男は、いらいらとしながら待っていた。
「もう、我々もガミラス艦に移動する時間だ。異星人を迎えに行かせた連中は、どうして戻って来ない!」
テーブルを思い切り叩いたので、周りの仲間が驚いていた。
「そんなに苛つくなよ、伊東。今、確認に人をやった」
仲間の一人が伊東と呼ばれた男に言った。
「伊東、イスカンダル人は、地球を元通りにしてくれた恩人だよな? 本当に、ガミラス人と同じ扱いにするべきなのか? 俺は、それだけはずっと疑問に感じてたんだ」
伊東は、眼鏡を外して、その細い目を見開いた。
「同じだ。イスカンダル人は、俺たちを試した。俺たち地球人に、別の星に移住する計画を反故にさせて迷わせた。あんな失敗する可能性の高い無謀な旅をさせて、高みの見物をしてたんだ。俺の弟もその旅の途中で死んだ。あれが失敗すれば俺たち地球人は、皆死んでたんだぞ! 地球が元通りになったのは、奇跡としか言い様が無い。お前は、本気でそう思っているのか!?」
伊東は、銃を向けて叫んだ。
「やめろ! わかった! もう二度と言わん! 危ないから、そんなものは降ろせ!」
他の仲間が伊東に言った。
「やめとけ、伊東。俺たちの目的は、徐々に達成され始めている。本土防衛隊ももう少しで役に立たなくなる。後は、宇宙軍をなんとかすれば、地球連邦政府など、すぐに俺たちに平伏すことになる。今は、仲間割れなんてしてる場合じゃない」
伊東は、ゆっくりと銃を降ろして、顔を伏せた。
「あのイスカンダルの女は、俺が一度殺し損ねた。今度は、死ぬよりも辛い思いをさせてやる。そうして、助かる可能性の低い試しをあの女に施してやる。そうだ、蜘蛛の糸だ。これに掴まれば助かるよ、と甘い言葉で囁くんだ。そうやって、地球人が、どんな思いでいたのか、必ず思い知らせてやる!」
その時、別の仲間が血相を変えて飛び込んできた。
「ガミラス人とイスカンダル人が逃げたぞ!」
伊東は、驚いてその仲間を見た。
「ふざけるな! すぐに探し出せ! 他の奴は、一階の入り口を封鎖して、仲間を武装して向かわせろ!」
廊下を駆け抜けていく男たちの喧騒が聞こえてきた。ランハルトたちは、ゲートを抜けた先の部屋に飛び込んで、彼らをやり過ごしていた。
「どうやら、完全に逃げたのがばれたらしい」
「どうする? ランハルト」
「雪、少しここに隠れて様子を見よう。星名と連携すれば、脱出は不可能じゃない」
雪は、ケールの顔色を窺った。
「大丈夫です。まだ見つからないと思います。僕が危険を感じたら、移動しましょう」
その頃、ガミラス艦に潜んでいた斉藤は、ようやく移動を始めていた。
「メンテナンス用の通路が見つかったのはいいが、やたら狭いな」
体の大きな斉藤は、通路を通ることが出来ず、装甲宇宙服を脱ぎ捨てて、通路を進んでいた。
通路は、複雑な配管や配線が施してあり、所々高熱の区画もあった。
「もうちょっと我慢して、始くん」
桐生は、斉藤に先行して、通路の隙間から艦内の様子を確認しながら進んでいた。
「見て」
桐生が指差す先の艦内の様子を見ると、そこは狭い通路に、多くの扉が並んでいた。桐生は、その端の通路のプレートに書かれた文字を指し示した。
「ガミラス語で、居住区って書いてある。ヤマトでも、居住区からは艦橋にすぐに上がれるようにエレベーターがある。多分、近くにそれがあると思う」
斉藤は、桐生に言った。
「エレベーターは不味いだろう。途中で誰かと鉢合わせたら、騒ぎになる。出来れば艦橋まで誰にも見つからずに行きたい」
桐生は少し考えた。
「なら、エレベーターの中を通って行くのはどう?」
斉藤は、目を丸くして桐生の顔を見た。
「美影ちゃん、結構大胆なんだな」
「そ、そうかなぁ?」
「いい作戦だ。行こうぜ、相棒」
「合点、承知!」
慌てて斉藤は、桐生の口を抑えた。
通路を、空間騎兵隊の制服を来た男が銃を持って歩いていた。二人は身を屈めて、メンテナンス通路の隙間から男が通りすぎるのを見守った。
「見張りが艦内を巡回しているみたいだ。エレベーターに登るにしても、急いで中に入る必要がありそうだ」
斉藤と桐生は、巡回していた男が遠ざかるのを確認して、居住区の通路に出た。エレベーターを探すと、すぐにその場所は見つかった。
桐生は、上に向かうボタンを躊躇せず押した。
斉藤は、桐生の背中を押して慌ててエレベーターから離れた。
物陰から様子を窺っていると到着したエレベーターの扉が開いた。中には誰も乗っていないようだった。
斉藤は、走ってエレベーターに戻り、閉じる寸前の扉に手を突っ込んだ。斉藤は、振り返って無言で桐生を呼び寄せた。
二人で中に入ると、桐生がエレベーターのボタンの脇のパネルを開いた。桐生がパネルの中のスイッチを操作すると、エレベーターは動かなくなった。
「今のうちに、エレベーターの天井から上に出よっか?」
桐生の大胆さに、斉藤は舌を巻いた。
「美影ちゃん、ちょっと待て。どのくらいの高さがあると思う?」
桐生は、少し考えてから言った。
「多分、この空母の大きさだと、十階建てビル位あるんじゃないかな?」
桐生が、惚けた口調で言っていた。
「美影ちゃん、俺はこのぐらい何とかなると思うが、お前さん、本当に登れるのか?」
桐生はにっこり笑った。
「多分、無理!」
斉藤は、ため息をついた。
「だったら、やっぱりエレベーターを使おう。エレベーターを上の階に向かわせたら、俺たちは天井に隠れよう」
「なるほど! さっすが隊長!」
斉藤は、少し呆れていたが、時間があまりないのを思い出した。
「誰かがここに来るといけねぇ。急ごう」
斉藤は、屈んで桐生に体を登らせた。そして、彼女は天井のメンテナンス口を開いて、するすると登っていった。
それを確認した斉藤は、先程桐生がエレベーターを止めるのに操作したスイッチをオンにした。そして、上の階のボタンを押すと、エレベーターが動き出した。
メンテナンス口から顔を覗かせた桐生は、斉藤に手を伸ばした。斉藤は、手を振って桐生を退かすと、ジャンプしてメンテナンス口の端に掴まった。そのまま、腕の力だけで自らの体を持ち上げ、エレベーターの上に登った。
すると、突然、エレベーターが停止した。
桐生が急いで天井のメンテナンス口の蓋を塞ぐと、辺りは真っ暗になった。
足下のエレベーターの中に誰かが入って来て、何か話しているのが聞こえてきた。
「居住区は異常無し」
「生活区画も異常無しだ」
数階エレベーターは上昇し、止まるとエレベーターの中にいた者たちが出ていくのがわかった。
斉藤は、腰に着けていたライトを点灯させて、辺りを照らした。上を見ると、明かりが届かない程の高さのようだった。
「まだ、結構上までありそうだ」
「頑張って登るって。ほら! あそこにメンテナンス用の梯子もあるよ!」
斉藤は、ため息をついた。
「頼むぜ? 相棒」
その頃、星名は、ユリーシャを新たな警備隊に引き渡し、同じ場所で救出部隊として編成されたメンバー二十名と合流した。
そして、大型兵員輸送車に全員が乗り込むと、軍の総合病院に向かい、その隣のビルの死角から様子を窺っていた。ユリーシャを乗せた新たな警備隊車両も、そのすぐ傍に止まっていた。
「こちら星名。救出部隊は配置につきました。命令があり次第、突入出来ます」
司令部にいる真田から通信で返事が来ていた。
「わかった。そのまま待機せよ。芹沢宙将が先程到着したので、指示を仰ぐ」
「私からは、斉藤宙曹長にも連携しておきます」
「よろしく頼む」
エレベーターの梯子を登る斉藤の通信機のランプが点滅していた。斉藤は、そこに留まって通信機を掴んだ。
「こちら斉藤。星名か?」
「こちら、星名。こちらは準備が整った。大使たちもまだ発見されていない。そちらの準備が整ったら知らせて欲しい」
「了解だが、まだもうちょっとかかるぜ。通信終わり」
斉藤が下を見ると、少し遅れて桐生が梯子を登っていた。
「美影ちゃん、大丈夫か?」
「大丈夫・・じゃないけど、頑張る!」
桐生は、息を切らして登っていた。
すると、大きな音がした。エレベーターが動き出していた。遥か下にいたエレベーターが、彼らの元に迫って来ていた。
「丁度いい!あれに乗っていくぞ」
桐生も下を見てそれを確認した。
「助かった・・」
桐生は肩で息をしていた。
「よし、三つ数えたら、エレベーターの上に飛び乗るぞ。三、二、一、行くぞ!」
二人は、梯子からエレベーターの天井に飛び乗った。その勢いで、桐生がバランスを崩して倒れそうになっていた。慌てて斉藤は、桐生の体を掴まえて支えた。
エレベーターの中にいた空間騎兵隊の制服を着た男は、エレベーターの中で異音と揺れを感じた。しかし、少し疑問に思ったようだが、すぐに気にしなくなっていた。
エレベーターは、最上階で停止し、乗っていた男も出ていく気配がしていた。
斉藤と桐生は、顔を見合わせて頷いた。斉藤は、エレベーターの天井の蓋を、静かに動かして中を確認し、誰も居ないのを見てからエレベーター内に飛び降りた。続いて桐生も飛び降りた。二人は、エレベーターの扉を開けると、最上階の通路を窺った。
先程エレベーターに乗っていた男は、通路に三つある扉のうち、右端の扉に向かって歩いているところだった。
斉藤は、忍び足でその男の背後に迫った。そして、突然襲いかかると、左腕を男の首の下に回し入れ、右手で腕を固定して首を締め上げた。
男は、抵抗しようと斉藤の腕を外そうともがいたが、声も出せずに徐々に力を失い、失神した。斉藤は、男を担ぎ上げると桐生を呼び寄せた。
「この扉は?」
扉の上のプレートの文字を顎で指し示した。
「左右の扉は、士官の控え室兼会議室みたい。真ん中は、艦橋に入る扉」
「じゃぁ、この右端の扉から入る。見えないように横に隠れてろ。行くぞ!」
斉藤は、扉の横のパネルのボタンを押し、扉の横に隠れた。
そっと扉の中を覗くと、中は薄暗く、人影は見当たらなかった。斉藤は、扉の反対側にいた桐生に合図して、一緒に中に侵入した。
そこには、会議用のテーブルがあり、テーブルの上には、太陽系の図が明るく表示されていた。
そのテーブルの足元に、人影が潜んでいるのを斉藤は見つけて、慌てて小銃を向けた。
しかし、そこにいた人影は、縛られた二人の女だった。斉藤は、担いでいた男を降ろすと、桐生を呼び寄せた。
桐生が、その二人を見て小さな声で叫んだ。
「山本さん! それに、メルダさんも!」
「なんだ、知り合いか? 地球人が捕まってるのは情報になかったぞ」
二人は、何か言おうとしているようだったが、後ろ手に手錠をはめられており、口にはテープが貼り付けられていた。斉藤は、静かにするように言いながら、山本の口元のテープを剥がした。
「・・桐生さんも捕まったのか!?」
桐生は、山本の傍に行くと、人差し指を口の前に差し出して言った。
「山本さん、声が大きい。始くんは、助けに来たんだよ」
「始くん? 一体誰だ、お前は!」
斉藤は、嫌な顔をして言った。
「俺は、空間騎兵隊第七連隊隊長の斉藤始だ。裏切者をぶん殴りにここまで来た。味方だよ、俺は」
桐生は、メルダの口のテープも剥がしていた。
「・・あいつら、絶対に許さん! 早く手錠を外せ!」
斉藤は、呆れていた。
「お嬢ちゃん二人を助けたつもりだったが、随分と威勢のいい元気な女どもだな」
「誰が威勢のいい女だって!?」
「貴様、失礼だぞ! 私を誰だと思ってるんだ!」
斉藤は、二人の勢いに押されていた。
「わ、わかった、わかった。まずは冷静に、な?」
斉藤は、手短に現在の状況を話した。そして、爆弾の起爆阻止と、大使らの救出の同時作戦を実行しようとしていることを説明した。
「少しは、冷静になってくれたか?」
「仕方ない。状況が状況だ。冷静に対処する。まずは、この手錠を外せ」
メルダは、斉藤を睨み付けていた。
「本当に大丈夫かよ? いいか、絶対に勝手に動いたり、騒いだりするなよ?」
斉藤は、腰にぶら下げたレーザーカッターを取り出し、二人の手錠の鎖を焼ききった。
「助かった。斉藤といったな。一応、感謝しておこう」
「何かいちいち、腹立つようなこと言ってくるのな、お前ら」
「私たちをこんな目に合わせたあいつらに後悔させてやろう」
メルダと山本は、その場でストレッチを始めた。
「ま、味方が増えるのは助かるぜ。俺は星名と永倉に連絡する。大人しくしてろよ」
斉藤は、通信機を掴んだ。
「こちら斉藤。こっちも準備は整った。作戦開始の指示を待つ」
続く…
注)pixivとハーメルンにて同一作品を公開しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。