「大使!」
星名が、十階のエレベーター前に走ってやって来た。そして、倒れているランハルトの傷を確認した。
「くそ、遅かったか。酷い怪我だ」
「大使を、大使を助けて下さい」
ケールが、目に涙を浮かべて懇願した。
「お……おれはいい……雪が……上に連れて……」
ランハルトは言い終わる前に口から血を吐いた。
星名は、無線機を掴んで連絡した。
「こちら星名! 大使が撃たれた。至急、衛生兵を十階のエレベーター前に寄越せ! 外に逃げた医者も呼び戻せ! 敵は、人質をとって屋上に逃げた! 手が空いている者は、屋上に集合しろ!」
星名はケールに言った。
「人質は森さんだね?」
星名はケールに尋ねた。
「はい。雪さんも助けて下さい。お願いです」
星名は頷いた。
そこへ、階下から上がってきた隊員が数名やって来た。星名はうち一名に大使を任せて屋上へ登る階段に向かった。
星名が屋上に上がると、そこには、伊東が雪を人質にして立っていた。彼は、左腕を雪の首に回して力を込めて押さえ付けており、右手の銃を雪の頭に突きつけていた。
雪が星名の姿を見て叫んだ。
「星名くん!」
星名も小銃を構えた。
「もう、逃げられない! 大人しく投降するんだ!」
伊東は、何かに気が付いたようだった。
「星名? お前、星名と言うのか?」
星名は、油断無く小銃の狙いをつけ続けた。
「それがどうした?」
彼は、急に笑いだした。
「ヤマトの保安部員だった星名だな?」
そう言われて、知り合いだったか、と星名は考えた。この男の顔は、確かにどこかで見たことがある。ヤマト、保安部員というキーワードで、はっとした。その男は、伊東によく似ていた。
「伊東……?」
伊東は、にやりと笑った。
「あいつは、真也は俺の弟だ。何て偶然だ。あいつを騙して陥れたお前に会えるとは」
自らへの憎しみを向けられると思わなかった星名は、不安な気持ちになった。
「これで、イスカンダル人とお前がここに揃った。俺たちの組織の作戦は失敗に終わったが、俺の個人的な復讐を果たす事が出来るって訳だ。さぁ、銃を捨てろ!」
伊東は、雪に向けた銃に力を込めた。
「……!」
雪は、星名が後からやって来た隊員たちに、銃を捨てて後ろに下がるように指示をしている様子を見た。このままでは不味い、と雪は思った。
「銃をここに置く。しかし、あなたは勘違いをしている。その人はイスカンダル人じゃない。復讐したいのは僕だろう? 僕が代わりに人質になるから、その人を離してくれ」
伊東は、呆れた顔で星名を見た。
「さっきのガミラス人といい、そんな話を信じる訳が無いだろう。さっさと銃を捨てろ!」
星名がゆっくりと、屋上の床に小銃を下ろしていった。
その時、雪を抱えていた伊東の腕が少し緩んだ。雪は、その一瞬を逃さず、伊東の左腕を掴んで、思い切り噛み付いた。
「いっ……!」
伊東が一瞬怯んだ。伊東の腕から体を屈めて抜け出した雪は、そのまま低い体勢で逃げ出した。
伊東は、慌てて雪を撃とうとするが、星名が小銃を掴み直して構えるのを横目で見た。
星名と伊東はその一瞬睨み合い、互いに銃を向けて撃ち合った。
伊東は、腹を撃たれていた。手の力が無くなり、銃を持っていられなくなった。銃を取り落として、その場に両膝をつき腹を手で押さえた。腹部からは、おびただしい血が流れ落ちていた。伊東は、胃から逆流した血を吐いてその場に倒れた。
そして、伊東の銃弾は、星名の足に命中し、彼もその場に崩れ落ちていた。
星名の背後にいた隊員たちは、銃を拾い上げて、一斉に伊東の周囲を取り囲んだ。雪は、星名の元に駆け寄った。
「星名くん、大丈夫!?」
「だ、大丈夫です。この程度なら」
星名は、小銃を支えにして、再び立ち上がった。
その時、屋上の入り口に、ランハルトがケールに支えられて姿を現していた。
「ランハルト!? な、何をしているの!?」
雪が駆け寄ると、ランハルトは真っ青な顔をしており、立っていられずに倒れそうになっていた。ケールが苦労して支えようとするが、二人で一緒に倒れてしりもちをついていた。
雪は、彼らの傍に座り、ランハルトの上半身を抱えて、膝の上で抱いた。彼の撃たれた傷を見ると、胸に開いた穴を塞ぐだけの、簡単な応急処置だけがされていた。包帯を巻かれた胸に血が溢れて真っ赤に染まっていた。
「馬鹿。無理をしたら死んじゃうじゃない」
「すまない……どうしても、し、心配でな……」
雪は、その理由はわかっていたが、つい聞いてしまいたくなった。
「……どうして?」
ランハルトは、苦しそうにしながら、ゆっくりと言った。
「あの時……超巨大戦艦の砲塔に突っ込んだ叔父のことを、俺は……理解出来なかった……今なら、少しはわかった気がする……」
ランハルトは、目を閉じて少しだけ笑っていたが、そのまま意識を失った。
「本当、困った人……でも、嬉しいよ、ランハルト」
雪は、彼の体を抱き締めた。
その頃――。
病院の外のユリーシャの護衛部隊の車両では、救出部隊からの連絡を受け、地球連邦防衛軍司令部に報告していた。
「犯人を全員無力化しました! 救出部隊の数名が死傷、犯人確保時にリーダーの星名准尉が負傷。犯人グループのリーダー格の名前が判明。伊東真一。ヤマト元乗組員の実の兄。以上です」
「星名が!?」
それを聞いたユリーシャは、居ても立ってもいられずに、勝手に車のドアを開けて飛び出して行った。護衛部隊が、慌ててその後を追っていった。
屋上に担架が運ばれ、ランハルトがそれに乗せられて行った。雪とケールは、それに付き添って一緒に階下に降りて行った。そして、伊東の元にも担架が運ばれたが、まだ息のあった伊東が拒否していた。
「必要無い。お、俺はじきに死ぬ……」
伊東は、苦しそうにしていた。
そんな伊東の傍に、星名が足を引きずってやって来て座り込んだ。
伊東は、星名の方を見て話し出した。
「す……少し昔話を……しよう」
星名は、痛む傷を堪えて頷いた。
「俺と弟は、国連軍で地球を脱出して人類の種を残す、イズモ計画を推進する仕事をしていた。自分がヤマトに乗れる訳じゃ無かったが、人類を存続させる崇高な計画だと思って真剣に取り組んだよ……。しかし、突然イスカンダルからもたらされた救済という甘い言葉に誘われ、国連はイズモ計画を破棄した。遠いイスカンダルまで行く、絶望的な可能性にかけると言う。俺は、そんな無茶な可能性を信じた連中を許せなかった。そして、人々を惑わし、試しを与えて見物するだけのイスカンダル人を許せなかった。俺はイスカンダルの使者を殺そうとしたが失敗し、軍を辞めて地下都市で隠れて暮らした……」
伊東は、そこで激しく咳き込んで血を吐いた。それでも、彼の話は続いた。
「……弟は、イズモ計画を継続する企てを聞いて、軍に残って働いてた。あいつは居住可能な星を見つけたら迎えに来るって言ってたよ。だが、俺の予想に反して、ヤマトは目的を達成して地球に戻ってきたが、弟は、旅の途中で反乱を起こした罪で営倉に入れられ、そこでガミラスの攻撃で死んだと聞かされた。弟が地球の為を思って行動したのに、そのことで罪を問われて、犬死にしてしまったことに、俺は愕然とした……」
伊東の瞳から涙が溢れていた。
「それで決意した。異星人を信じた連中とイスカンダル人に復讐し、弟の無念を晴らすと。それから、何年もかけて、ガミラスやイスカンダルに恨みを持つ仲間を集め、この計画を立てた。上手く行くと思ったんだがなぁ……」
伊東は、だんだんと力尽きようとしていた。
そこに、いつの間にかユリーシャが立っていた。星名は、傷の痛みで険しい表情をしていたが、彼女の顔を見て少しだけ優しい顔になった。
「ユリーシャ様、勝手に来てはいけないって言ったじゃないですか……」
ユリーシャの表情は、決然とした意思を持っていた。
「伊東。私が、本物のイスカンダルのユリーシャ」
伊東は、その細い目を見開いた。
「じゃぁ、さっきの別人だという話しは……本当だったのか……」
ユリーシャは、伊東の手をそっと握った。
「あなたの弟の、本当の最後を私は知っている。あなたに、その時に私が見たこと、聞いたことを伝えたい」
「俺に触るな、異星人め……」
その時、伊東は、ユリーシャの手を通じて見た。
どこかの異星で、弟とユリーシャが連れだって歩いていた。弟は、ユリーシャを庇って致命的な怪我を負っていた。そして、ユリーシャにヤマトと地球を頼むと、そう願って死んでいった。
そうか――。
弟は、最後はそう願って、このイスカンダル人を信じ、そして地球を思う気持ちを託して死んでいったのか……。
伊東は、今までやっていたことは何だったのか、と考えた。しかし、次第に意識が遠くなり、最後に何か暖かい温もりのような感覚を胸に覚えていた。
「死にました」
彼の状態を見ていた隊員が言った。
ユリーシャは、辛そうにしている星名の体にそっと寄り添った。
「彼に、何をしたんですか?」
「知っておいて欲しかったの。彼の弟がどんな気持ちだったか。それを見せてあげた」
二人は、力尽きた伊東の顔を暫く見て、そして祈った。
いつの日か、このような争いをせず、誰もが生まれが異なっても信じ合い、わかり合える日が来るようにと――。
続く…
注)pixivとハーメルンにて同一作品を公開しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。