岬百合亜は、星名が入院している病院を訪れていた。
一階は、弾痕が辺り一面に残っており、激しい戦闘があったことを窺わせていた。
百合亜は、本当に彼が足の怪我だけで大丈夫だったのか心配して、艦隊の仕事を休ませてもらって、ここに駆けつけて来ていた。
受付で病室を確認すると、五階の部屋だと教えてもらい、エレベーターに乗った。五階に着くと、地球連邦防衛軍の制服を着た人々が多数いて、彼らに、百合亜も身分証明を求められた。
そうして、病室のある部屋に辿り着くと、彼女は部屋を覗いた。
星名がベッドで寝ており、包帯を巻かれた足が天井から紐でぶら下がっていた。
ベッドの脇には、一人の女性がおり、後ろ姿しか見えなかった為、百合亜は誰だろう、と疑問に思っていた。そのまま病室に入らずに、影から様子を窺っていると、何やら二人は楽しそうに会話をしていた。何の話しか聞こえなかった為、仕方なく百合亜は部屋に入って行った。
「百合亜、来てくれたんだね?」
星名が、すぐに百合亜に気が付いて声をかけてきた。
「もー、心配したんだから。本当に大丈夫?」
そう言いながら、百合亜は、そこにいる女が誰なのか、近付いて確認しようとした。
すると、女が振り返った。百合亜が予想もしなかった、ユリーシャがそこにいた。
「ゆ、ユリーシャ? 何でこんなところにいるの?」
百合亜は、今回の事件で、大使らの救出作戦があったのは知っていたが、ユリーシャは要人扱いなのにもかかわらず、こんなところで星名の見舞いをしているのを不思議に思っていた。
「お久しぶり。百合亜。彼には沢山お世話になったので、お見舞いにきたの」
百合亜は、ユリーシャの横にあった椅子を引いて、彼女の隣に座った。ユリーシャも、星名も、微笑を浮かべており、特に変わった様子は無かった。
「ありがとう、ユリーシャ。ねぇ星名くん。私、休暇を取ったから、ずっと看病してあげられるからね」
星名は笑っていた。
「足の怪我だけで、大したこと無いから、そんなにずっと居なくても大丈夫だよ。せっかくだから、地球でゆっくり過ごすといいと思うよ」
百合亜は、頬を膨らませた。
「せっかく来たんだから、毎日来るもん」
ユリーシャは、立ち上がった。
「彼女がいるから、もう来なくても大丈夫だね」
ユリーシャは、少し寂しそうに星名を見ていた。星名も、ぎこちない笑顔でそれに答えた。
「うん。そうだね。今までありがとう、ユリーシャ」
百合亜は、二人の会話に幾つかの疑問がわいた。
もしかして、毎日お見舞いに来ていた? そういえば、彼はユリーシャのことって呼び捨てにしてなかったような……。
ユリーシャは、部屋の入り口に下がると振り返った。
「じゃぁね。彼女と幸せにね」
そう言って、ユリーシャは、笑顔で手を振って部屋を出ていった。
それを確認した百合亜は、星名を疑惑の表情で見つめた。
「怪しい」
「え?」
「何か、おかしかった。二人とも」
星名は、苦笑いをしていた。
「そ、そうかな?」
「まさか、浮気……?」
星名は、慌てて両手を振った。
「そんなまさか、何にも無いって」
百合亜は、星名に抱きついた。
「わかってるよ、そんなこと。ずっと心配してたんだからね」
星名は、彼女の体をそっと抱いた。
「心配かけてごめんね、百合亜」
しかし、そうしながらも、ユリーシャの寂しそうな表情が目に焼き付き、彼の胸の内は、複雑な感情に苛まれていた。
ユリーシャは、六階に移動していた。今日まで毎日お見舞いに来ていたが、もう簡単には会えないと思うと彼女は寂しかった。
六階には、ランハルトが入院しているので、その部屋を訪ねることにした。
ベッドに寝ていたランハルトは、肺に穴が開く重傷だった為、開胸手術を受けていた。体に幾つもの管が繋がっており、完治にはほど遠いようだった。
そして、その部屋には、ケールと雪がいた。
ユリーシャは部屋に入ろうとして立ち止まった。
何か深刻そうな雰囲気だったのだ。
「大使。何だか悪いことが起きる予感がします」
ケールが暗い表情で言っていた。
雪は、顔を赤らめて咳払いをしていた。
ランハルトは、そんな雪の様子を黙って見ていた。
「それで、話したいことと言うのは何だ?」
ランハルトは、痛みが酷いのか、あまり声に力が無かった。
「ランハルト。実は私には……」
雪は、そこで言い淀んだ。好意を寄せてくれた彼には、どうしても伝えなければならなかった。雪は、意を決して言った。
「婚約者がいるの」
ランハルトは、目を見開いていた。
ケールも、やっぱりと思って目をきつく閉じていた。
ランハルトは笑い出した。
「何を言い出すかと思ったら」
雪は、ランハルトが何を言い出すのか、気になって、伏せていた顔を上げた。
「勘違いをさせたようで、すまなかった」
「は?」
「地球には、吊り橋効果、という言葉があると聞いた」
「はぁっ?」
「一時の気の迷いということだ。気にさせてすまなかった」
雪は、真っ赤になって憤慨していた。
「な、何よそれ。せっかく気を使って、ちゃんと話さなきゃって思ってたのに」
ランハルトは、雪と反対の方を向いて、表情を見られまいとした。
「別に、俺が誰をどう思おうが俺の自由だ。婚約者に大切にしろと言っておけ。そうしなければ、俺が……」
「え?」
「……何でも無い」
そこまで聞いて、ユリーシャは部屋に入って行った。
「ユリーシャ!」
「ユリーシャ様!」
ランハルトは、彼女の方を向いた。
「ユリーシャ様。ご無事で何よりです」
ユリーシャは、笑顔でランハルトに言った。
「ランハルトの言うとおり。誰をどう思おうが、それは自由だよね」
ユリーシャは、星名を想いながら、呟いた。
「……私も、そう思う」
続く…
注)pixivとハーメルンにて同一作品を公開しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。