ゴブリンスレイヤーRTA 狂戦士チャート   作:花咲爺

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執筆速度に比例しない内容、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
ゆっくりしてほしくて初投稿です。


狂戦士3裏

 目が覚めたら知らない天井だった。

 

 それだけならばまだよかっただろう。腕に違和感を感じて見ればなにやら良く分からない管が多数付けられ、尚且つ腹に湿り気を感じて見れば女にへそを舐られていたとしたらどうするだろう…それが全て現実だったなら、どうすればいいんだろう。

 1手遅れて自分は全く情けなく叫んだ、1600年程生きてきてこんな事は初めてだった。

 

「うわぁあああああ!!!?」

 

(あ、やべ)わぁ、起きたんだね!大丈夫かい?あの後どうなったか分かるかな?」

 

 そして今しがたした行いを前に、何事もなかったかのようにふるまわれた場合はどうすればいいのか見当もつかない。だが自分にも何やら分からないものの声が聞けることを思い出しどうにか平静を保つ。自分も中々に神経が太くなっているようだ。多分早口でまくしたてられて勢いに押された訳ではない。

 

「あーうん、もしかして助けてくれたとか?」

 

「その通り!私は君の命の恩人だが、まずはそうだね、村を救ってくれたことに礼を言わねばだ。ありがとう、君のお陰で私たちの村は救われた。その恩返しでこうして君をベッドに招いたわけだ。しかしまさかトロルと殴り合って勝つとはねぇ、どんな筋肉してるんだい?(ふぅ…誤魔化せた)

 

 頭に浮かんだのであろう疑問を口にする女はベッドへと肉付きの良い腰を振りながら座ると、何が良いのか自分の二の腕を上下に摩ってきた。それが娼婦のように蠱惑的な慣れた手つきではなく生娘のような初々しさが出るのだから、何やらチグハグで笑っていいのかそれとも怒って良いのか分からない。

 しかし、どうやら自分はあのトロルと戦い、倒すだけでなく生き延びることが出来たらしい。元々筋肉には自信しかなかったが、まさか岩程硬いトロルを殴り殺せる程とは恐れ入った。古今東西見渡してもトロルを弓矢で以て殺すのではなく殴り殺した森人は自分だけだろう、少々鼻が高い。

 これも神の思し召しだと南無南無しておく。東方式だが件の声を発する神がどこの神だか分からないし、まあこういうのは形式よりも気持ちの方が大事だからきっとセーフだ。

 

 そしてその神が先程からトロルトロルと頭の中にやけに響く声で喚くのがうるさくて敵わない。何度も確認しろと言われればむしろやりたくなくなるのが人間だと言うのに、神は人の気持ちが分からないのか…そう言えばこの神、アルティーエとか言う邪神の類か。

 全く、と少し嫌になりつつもさっき起きたばかりの体をどうにかして起こそうと力を入れればやたらと痛く、筋肉が無理やり動かされていたのか体の芯から痛みがじくりじくりと上ってくる。これが肉体の枷を外す【狂興】の副作用か…やはり覚知神が授ける奇跡は効果はあっても外法ではあるらしい。

 邪神二柱に愛されるのも楽ではないな。

 

「そうだトロルは?あの後トロルはどうなったの?」

 

「トロルなら君に殴り殺されたと今…「ああそうじゃなくて、今どうなってるの?」

 

 流れで回らぬ頭が紡いだ言葉を訂正すれば思案顔で顎に唇にんーと指を当てる女。表情と言い動きと言い先程からいちいちあざとい…一体どこでこんなのを学んだのか?今時淫魔(サキュバス)だろうと、いやあれは直球で来るから比べるのは酷か。

 

「大方は燃やしてあったと思うよ?何か薬学に使えないかと思って一部は私が保管してるけども」

 

 危なかった…討伐部位をギルドに持って行かないとお金がもらえないというのに。まあありがたいのはトロルの討伐部位はその皮膚であることだろう、日光で照らすと硬くなるのはこれ以上ない証明だ。だがトロルの体が薬学にも使えるものだろうか?確かにトロルのように体を硬くすることが出来ればおそらく大きな怪我はしなくなるだろうが。

 ま、自分には良くわからぬことだし関係ないだろう。

 

「ならちょっとでいいから返して貰えない?討伐したってことをギルドに言わないといけないからさ。手のひらくらいあれば多分十分だよ」

 

「そうだったんだ!私が持ってなかったら焼けて完全に無くなってた所だったね」

「あーッ!冒険者さんが起きとる!よがったー!」

 

 どうやら無償で働かされることはないと安心していたら聞き覚えのないしゃがれた声で会話が遮られた。一体だれかと思ったが、知らない人だ…だが杖やら雰囲気やらで何となく村長っぽい人だからきっと村長だろう、多分。

 

「ほんにすまながったなぁ冒険者さん…村のもんが小鬼さ言ったバケモンがトロルっつう危ねぇやつだったんだってな?詫びになんかあげてぇけど、村にゃもうなんもなくってなぁ…だども傷治るまでいくらでも村にいてええからよ」

 

 長々話したことを纏めると大体こんなものだろう。どうやら本当に村長だったらしい…その異様に髪がフサフサな頭には少々驚いたが顔は枯れ木のようにしわくちゃだ。僕も只人だったらこんな見た目になるんだろうか?森人は爺になったらすぐ大木になって森の流れに戻りたがるから比較できない。そもそも誇張なく万年生きなきゃいけないのはなあ…

 取り合えずこれからは冒険者が倒した怪物の死体はむやみに燃やさないようにして欲しいと注意喚起をしておく。倒した怪物の討伐証明部位を持って行きたくても燃やされてましたじゃ換金出来ないからね…昔に比べて穏やかになったとは言え冒険者にはまだまだ血気盛んな輩はいるのだよ、悲しいことに。

 

「あぁッ!!そうだ!娘っ子はどうだね!?おらの孫娘はめんこくて良いぞぉ!」

「いらないいらない。只人ってすぐいなくなっちゃうでしょ?僕これでも1600年生きてるから。多分只人の一生掛けても僕の見た目はほぼほぼ変わらないと思うよ?第一子供だって300年行くかどうかなんだから…自分の子供が自分より年寄りになって死ぬとか、どんな拷問だっての」

 

 何を思いついたかと思えば驚いた。まさか普通に自分の娘を送ろうとしてくるとは…只人との異文化交流はこういう所が面白くて変だ。でもちゃんと話を聞いていたんだろうか?文脈が一致してないと思うのだが…

 

「とにかく無理だね」

「そうかぁ…残念だけんどしゃーないなぁ…ほんにいらんのか?」

 

「根無し草の冒険者にそう言うのは止めておきなって、僕ならまだしも他の男がこの村を捨てて何処かに行くかも分からないから…」

 

 その後も喰い下がっては自分の孫娘をしきりに嫁に出そうとしてくる村長の話を断るのは苦労した…只人って交渉事では他の種族を追随させないってのはこういう所なんだろう。森人とは違ってすぐコロコロ情勢が変わるから口が達者になったのかな?なんて思っていたら了承しかけたのがやはり怖い。

 途中出てきた件の女の子は普通に可愛らしかったけど流石になぁ…最後らへんは最初の繰り返しまで出てて、起き上がれていたら殴ってたくらいのしつこさだった。はぁ、思い返しても何一つ得がないので取り合えず寝よう、回復回復。

 薬師の女は寝てる最中に何かする訳でもないはず…多分…そうであると信じたい…と言って疑っても今の自分だけでは起き上がることもままならない程満足に動けないので結局無駄な抵抗になるだけだと諦めて自分の意識が次第に夢の世界へと遠のいていく。

 翌日のパンツは濡れていなかったが、着替えと称してひん剥かれたのは納得が行かない。結局まだ動けないので2日この村に滞在することが決定し、少し絶望した。只人って怖い…

 

 

 ――――――

 

 

 

「はい、これで冒険者登録は完了です!」

「でしたらこちらの書類はこのように…」

「お疲れ様です、強壮の水薬はいかがですか?」

 

 陽が昇って朝の涼しさもなりを潜め始めた頃、近くの酒場とは裏腹に受付嬢に休みはなかった。閑散期の冬が明け一気に忙しくなったとは言え、通常ここまで行かないであろう程近頃業務が立て込んでいる。まだ昼前だというのに既に書類の山は2つ程形成され、疲れ切った冒険者と顔を青ざめさせた依頼主の対応に毎時追われている身で胃が痛い。

 最近は依頼の重複受注が駆け出し冒険者に広まりその手続きが業務の苛烈さを増しているのだからたまらないのだ。いつもは二束三文で使われている冒険者が金を手に入れるの自体は嬉しい事だが、それとこれとはまた別である。

 思慮の無い者がゴブリン退治と重複させて他の依頼を受注してしまえばその生存率は激減。ただでさえゴブリン退治と侮る者が多いのに加えて疲れた体でこなす依頼はおざなりになり、やはり平時に比べて評判が低くなる。やはり注意しか出来ない受付という立場はこういった時本当に歯がゆく感じてしまう。

 

 それを始めたのはあの人、自分のことを狂戦士と称す長耳揺れる森人だ。言い方は悪いが別にコイツのせいでと咎めている訳ではない、ないがどうにもきな臭い雰囲気が消えない。どこか胡散臭いというか、人間味が無いというか…言いようもない不気味さがある気がするのだ。

 だが単独で不人気な下水道の依頼を率先してこなすし、軽快な話で場の雰囲気をほぐすので依頼主からも良い話しか聞いたことが無い。さらに依頼達成率は脅威の100パーセントでギルドからの評価も高いと来た。これではむしろ貶す方が難しいまであるかもしれない。

 そうだ、たしか当人は今塩漬けになっていた配達依頼を受けている真っ最中の筈だが場所的にもう戻っても良い時間ではないだろうか?

 

 ガチャリ、ドアの開閉音と共にカツカツとブーツ特有の音を響かせながら速足で受付まで歩いてきたのは件の森人、狂戦士。どうやら無事だったようで、歩きながらも懐から書類を取り出しもう報告の準備を整えているのが見える。生き急いでいるのか基本的に行動に無駄がなく、どこか非人間的な狂戦士。

 だがそんな姿に少し安心している自分もいた。それは狂戦士が無事であったことにか、それともどことなく昔の彼を重ねたからか…そう言えば彼の素顔は一体どんな顔だっただろうか?と思った所で代筆を頼まれ慣れた手つきで受付嬢は筆を進ませていく。

 

「村長さんの署名がされた紙をお願いします」

 

「はいはいっと。ああそうだ、これ道中倒したトロルの肉片ね!鑑定よろしく!」

「はい、書類にトロルの肉片…えええ!!?」

 

 流れるように置かれた肉片をトレーに乗せようとした手が止まる。トロル?トロルと頭を巡らせればあの巨人が思い出される。あれはたしか単独では銅等級案件ではないか!?

 

「ど、どこでこんなものを!?」

「依頼があった村の裏山に出たから倒した!以上!ほら早くお金頂戴!」

 

「もももう少々お聞かせ願えますか?」

 

「えー…しょうがないなぁ」

 

 声の震えを抑えられない…鋼鉄等級以上の一党か銅等級でようやく倒せるものをまさかこの人は?

 手短に受けた話を纏めてみてもやはり出鱈目で、トロルと殴り合って勝ったとはやはりおかしい。金貨を取りに行くと伝え、流石に虚偽の報告かと同僚の監察官に看破(センス・ライ)を掛けて貰っても、やはり真実であると知らされ思わず耳を疑った。

 だが至高神の奇跡に間違いはない。つまりは彼が本当にトロルと殴り合って勝ったことの証明に他ならない。よく見てみれば金貨の詰まった袋を受け取る彼の腕は森人とは思えぬほどに太かった。

 

「おほー良いね!この重み最高!じゃ僕はここ等辺で」

 

 本当に倒したんでしょうか…と言う呟きを拾ったのか偶然か笹葉のように長い耳がピクリと揺れ動いたのは受付嬢には見えなかった。

 

 

 ――――――――――――――

 

 

「アイツったら最近ホント臭くてたまらないのよ!頑張ってるのは分かるけど、もうちょっと体を拭くとか入念に汚れを…」

 

「別に、部屋を分けたら良いんじゃないの?」

 

 酒場の片隅で飲み物片手に愚痴を言う女武闘家に女魔術師の提案が入り、女神官も首を縦に振る。傍から見ればただの女子会、だがその実は愚痴の言い合い場であった。女神官はゴブリンスレイヤーとのゴブリン駆除の残酷さで、女魔術師は自らの学んだことを活かす場がないことで、そして女武闘家は彼女の幼馴染たる青年剣士についてしばらく前から愚痴が続いているのである。

 

 女魔術師の提案は確かに良い。しかし、彼女たちは知らない、奇跡の力を買われて銀等級のゴブリンスレイヤーと共に行動してる女神官と、賢者の学院を卒業出来る程知力に長け書記の依頼を受けられる女魔術師に比べ、二人には討伐依頼をこなすくらいしかないことを。

 だが、依頼に行くための十分な装備が無い。つまりは…

 

「お金があったらそうしてるわよ…」

 

 とにもかくにも金である。金金金…嫌になりそうだった。田舎にいた時にはあまり考えたこともなかったが、装備に宿代食事代と都会の荒波は財布に厳しい。村の人で助け合い、時にはおすそ分けや共同作業等をして過ごしていた故郷を思い出して仕方がないのだ。

 帰ってしまいたい、そう口にしてしまえば楽にはなれるが大見え切って人助けをしたいと言った割にまだ何一つ成し得ていない。彼女の信念としてもこのまま終われないのが実情だった。

 

 だが、口から出るのはそれとは真逆の愚痴ばかり。すん、と鼻をすする姿はうら若き乙女にあるまじき哀愁を漂わせている。精一杯やってるつもりであったが蓋を開けてみればどうだろう、成功したことなどあっただろうか?最初の冒険は自分達の失敗で皆を危険にさらし、依頼内容をろくに読めずに依頼を間違え、戻った町では無駄な所で金は飛ぶ。さらに武芸に生きてきたせいで料理や洗濯と言った普段の生活までもがままならないとは…死ななかったから次があるのだけれど、これでは次に行けないではないか。

 そんなぼやけた視界の端から金髪の、ぼやけてなお美しい顔が何となく見える。この特徴に合致するのはただ一人、狂戦士だ。

 

「狂戦士さん、来てたんですか?」

「はーい、みんな大好き狂戦士だよ!何やら浮かない顔してたからちょっと話を聞こうかなと思ってね。あと、僕のことは狂戦士で全然構わないよ」

 

 ほらほら涙を拭ってとハンカチを渡され、それでようやく涙を流していたと分かった。こんな事にも気づかないとは…自分で自分が情けない限りだ。

 

「涙は女の武器って言うのにこんなところで出しちゃったら無駄もいいとこさ、資源(リソース)管理は大事。大丈夫さ、前に進むって一歩でも踏み出す体と意思があればだんだん進めるから。うーん、でもこれは只人の君たちには遅いかもしれないか…まあ君たちはまだ若いし伸びしろありそうだから安心していい」

 

 そうやって朗らかに笑う狂戦士、森人が言う冗句は無駄に含蓄があるから反応に困るが、何やら元気が出てきた気がする。

 

「あ、そうだ。唐突に来たのにゴメンね、そろそろ溝浚いの時間だからさ!」

 

 今度ゴブリン退治にでも誘うからー、と手を振りながらコルクボードに向かって去っていく狂戦士。そう言えば以前もそうやって一人出ていったような気がする背を送る。彼は軽薄なのか世話焼きなのかよくわからなくて不思議だ。ただ悪い奴では無いだろうことは知恵が足りない頭でも理解できる。

 

「私も頑張らなきゃね」

「はい、がんばりましょう!」

「そうね…また皆で冒険したいものね」

 

 女武闘家は拳を握るとアイツにもガツンと言ってやるのだと決意を新たにしたのだった。

 

 

 ――――――

 

 

「うし、こんなとこだぁな」

 

 工房はやけに静かだった。

 工房は男の世界である、それは炉に火が入れられてからの話でもう半刻もしない内に閉められる工房にはまだ無縁の話だ。獣人(パットフット)の女給が作った特製の料理に老爺も丁稚の青年も舌鼓を打っていた。

 ただ獣人女給の視線が貴方に食べてほしいわけじゃないのに…と老爺をねめつけるが甘酸っぱい空気は老爺に合わず10年早いと鉱人染みた巌のような顔で邪悪な笑顔を見せつけ、獣人女給を黙らせてしまう。

 この時間は老爺にとって青年に何を教えてやろうかと頭の中で算段を付け始める為に必要な時間だ、職人としての構想にも大事な時間は邪魔も出来やしないのである。

 今日は槌の振り方でも直してやって槍でも作らせてみるか…老爺がそう考えた所でそれはやってきた。

 

「おやっさんやってるー!?」

 

「来たがったな変なの二号」

 

 笹葉の長耳と端正な顔、それに何一つ合っていない強靭すぎる肉体。ギルドで近頃は噂になっているらしい狂戦士(ベルセルク)、だったか?工房ではゴブリンスレイヤー(変なの)に続いて変なの2号で通っている森人だった。

 それが来るやいなや懐から袋を取り出して中身を出すのだから、何だ何だと見てみれば金貨、それも30枚近くある。本物かと噛んで確かめてみれば確かな歯ごたえが歯に響いた。偽物ではないらしい。

 ただ本物、となるととても駆け出しが稼げるような金額ではない気もするが、コイツなら何となくありえそうなのが怖い所で、暗に駆け出し故にここまでやったのだから話を聞いてほしいと訴えるようにも見える。

 

 だが、その頼み方が…「金は用意した、話を聞いてくれるかい?」これでやる気になれと言う方が無理であろう…雰囲気や態度こそ違えど単刀直入に物事を言う姿にはなにやら昔のゴブリンスレイヤーでも見せられているかのような気分になってくる。

 ただこうして表情に出す分アイツと比べるとまだ分かりやすいのが救いで、これでとっつきやすさもなくなれば完全にゴブリンスレイヤーと瓜二つ状態だ。

 

「ちっ、何でお前はやたらとあいつに言動が似るんかねぇ?で、なんだ?何が欲しい?鎧か?剣か?それとも槌か?」

 

「いやぁ最近急ぐのが僕の流行りでね。うん、武器も飛ばせるくらいの大弓が欲しいんだけど…どうかな?」

 

「心当たりはねぇこたねぇが、森人ってのはなんだ…森が母親で、願えば色々と融通利かせてもらえんじゃなかったんか?只人が作ったような鉄の弓なんぞ使ってる奴ぁ俺は見たことねぇが」

 

 純粋に疑問だったのだ。自然ではなく何故自分のような職人が作った鉄矢を買うのか。そう聞いて見ればなにやら苦虫を嚙み潰したような顔をして端正な顔をゆがめる森人。なにか嫌なとこでも突いてしまったか?

 

「あぁ、まあ…家の事情が少々あってね、僕は家を勘当されたようなものだからさ。森にもちょっと嫌われているというかなんというか」

 

 当たってしまったようだ。歯切れ悪く声が尻すぼみに小さくなる様を見るにどうやら嘘ではないらしい。成程、家の事情か…森人のお家事情など手前には良く分からないが、そういう事ならそういう事なのだろう。

 知り合いに当たるのが面倒なので金貨3枚と言えばポンと出すあたり割と本気で探しているようだ。「浪漫武器って楽しいよな」が座右の銘の知り合いに、どう話をつけてやろうかと一瞬考えそれを頭の隅に追い払う。

 今はそんなことよりだ。

 

「で、他には?」

「じゃ一番良い槍を頼む!あと外套とかがあれば欲しいかな」

 

 老爺は再び期待を裏切られ、心の中でため息を吐いた。まあ仕事はこなすのが彼の良い所でぶつくさ文句を言いながらも言われた品を提供するのは職人の鑑と言えるだろう。

 しかし、しかしだ。老爺は大剣や大槌を使わせようとした自分を棚に上げて考えるが森人は普通弓と短剣を武器とする。これが大前提だ。森人が長生きなように、鉱人が石に長けているように、そしてゴブリンが低能で悪辣なように例外はほぼ存在せず、華奢な体で手足も長いと種族が種族故に、それは大体の者に当てはまる。時々魔法の才がある森人が剣に魔法を付与するなどして戦う魔法剣士になる等すれば剣や他の武器の使用もやぶさかではないが変なの2号は己の膂力のみとやはり当てはまらない。

 むしろ実は森人ではなくまるっきり存在そのものが違うと言われた方がしっくり来る程、不変である森人が蜥蜴人並みに力に長け、その種族と言えばの弓を使わず、森の恵みも満足に使えないのは変を通り越して可笑しい。

 きっと何かがあるのだろうが、それは自分が聞いていい範囲をとうに超えているだろうと老爺は口にしようとした言葉を飲み込んだ。触らぬ神に祟りなし、藪をつついて蛇を出すのは御免である。

 

 老爺の頭の中を知ってか知らずか狂戦士は鼻歌さえ歌いながら今度は血濡れ防止だと外套の物色をしていた。普通の森人と比べると2回りは大きい肩幅に合う外套はうちでは一つしかないので素直にそれを奨めておく。鉄板を要所に仕込んである外套、通常の外套よりはやや重いがその分体を守ってくれる狩人等に人気の品だ。

 

 そんな代物をどうやら狂戦士は気に入り、代金だと袋から取り出した金貨をカウンターの方まで投げてよこす。だが放ったそれは全てが全て別の所に行ってしまい結局四つん這いになって金貨を探すさまは正直に言って傑作だった。

 人間味があるのかないのか、こうして先ほどから見てみてもどうにも全容が掴めない。長年の勘は例外には作用しないのだろう。未知のことなど大体はそんなものかと一人で納得し、外套と一緒に注文された水薬類をまとめて渡す。

 

「うちは何でも屋じゃねえんだがなぁ…」

 

「そう言いながらもちゃんと仕事するの、僕ぁ好きだぜ!」

 

 で、兎みてぇにぴょんぴょん跳ねて出ていくのだから、コイツは本当に分からない奴だ。まぁ、面白い奴ではあるが…結局こうして評価をするしかない。釈然とはしないがこれもまた冒険者か。

 

 そして、老爺は客のいなくなった工房を閉めるのだった。




これまで沢山の感想、評価ありがとナス!ホモの皆さまの声援のお陰で私はこうやって話を書くことが出来ました。
しかし、話を作る技術がまだまだ未熟で、皆さんのお目汚しをしてしまう可能性もあるのでまた誤字報告、感想での批評お待ちしております。作品の矛盾点、これ可笑しくない?ってところもバンバン受け付けておりますのでどうかこれからもよろしくお願いします。
以上、クソ投稿者からでした。

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