理系が恋に落ちたけど証明のための時間がありません。   作:ヒラメもち

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理系が恋に落ちた時に、お悩み相談した。

デート、それは日時や場所を定めて異性と会うことである。逢い引きとも言う。

 

つまり、辞書的意味によれば、事前に異性と会う約束をしている場合、異性とのお出かけはデートであるということだ。

 

「3人にこれからデートとは何かについて話してもらう。このことに関しては、俺たちは戦力にならない」

 

クイッと眼鏡を上げて、はっきりと弱さを見せた。これから、改善する努力をするのだろう。

 

雪村先輩たちは、日時や場所を定めるという点において、理系として吟味すべきだと考えた。入念な準備こそが、デートの成功か失敗かを決める要因になりうると。

 

ときメモをやっても、あまり先輩たちには効果がなかったらしい。何よりも議論していた点が、ゲームシステムについてだったからな。

 

「まずは奏。高橋という男とはデートしたことはあるのか?」

 

デリカシーねぇな、みたいな顔をしている。

 

「そりゃあ、まあ、高橋先生と二人きりで出かけたこともありますよ。でも、デートって言うべきなのか。今思えば、そのときは思い上がっていたっていうか……」

 

どんどん奏さんの表情が暗くなっていく。その時は、恋する乙女状態だったのだろう。

 

「奏ちゃん、大丈夫……?」

「すみません。ちょっと黒歴史を思い出してしまって」

 

まあ、高橋先生的には、自分の生徒と課外学習をしたような感じだろうな。

 

 

「デートのことなら、俺に任せときな!」

 

かっこつけながら、そう発言した。最近は研究室によく来るトラスケが自分のデスクに向かって、ゲームのセーブデータNo.18を読み込んだ。

 

『デートと言えば遊園地に決まってるでしょ!行くわよ、虎輔!』

「ふっ。わかってるさ、藍香」

 

藍香が画面の向こうの遊園地にいる。そして、トラスケの魂はすでにゲームの中だ。最初に向かうアトラクションは、トラスケの選択に委ねられた。

 

ここで、ルート分岐である。

 

「私、観覧車がいい!行くわよ、トラスケ!」

「ははっ、最初からクライマックスってわけか。観覧車に行こうか、藍香」

 

棘田先輩、声真似が上手いな。

てか、その選択肢が一覧にない。

 

「って、棘田ァ!?」

 

棘田先輩は追撃をかける。その細い両腕で、トラスケの腕を抱え込んだ。無意識に先輩の面影を見て藍香を愛している、そんなトラスケには効果は抜群だ。

 

ちなみに棘田先輩がトラスケをどう想っているかは、そう簡単に教えてくれない。まあ、嫌いでも無関心でもないだろう。

 

「ねぇ、もしかしてトラスケは私とのデートは楽しくないの?」

「そそそそそんなことねぇから!」

 

潤んだ瞳で訴えかける、そんな演技をする。相変わらず、幼なじみの純心を弄ぶのがお好きなようで。

 

 

「なるほど。男女二人きりで出かけること、デートの定番は遊園地に行くこと」

 

どんな情報であっても有益になる可能性はある。恋の実験ノートNo.2に雪村先輩がしっかり書き込んでいる。1冊目はすでに使い終わったらしい。

 

「月村、次だ」

「わかりました。まあ、俺の場合だと、客観的にデートと呼べるかはわかりませんが」

 

俺たちが所属する工学部には女子の数が決して多くはない。リケジョが増えてきたとはいっても、それは化学や生物分野で顕著である。

 

「とある女子がちょっとした悩みを抱えたことがあって」

 

同期だと、たった3人だ。必然的にその3人はよく行動することが多かった。

 

しかし授業によっては、工学部生が分割される時がある。例えば、実験の授業が当てはまる。その女子が遠慮したことで、周囲の男子も異性を相手に遠慮したのだろう。円滑に実験が終わらず、放課後まで延長した。

 

「相談っていうより、カフェで愚痴を聞いたっていうか。まあ、それだけでしたね」

 

自分のせいで迷惑をかけたと言っていた。その女子はみんなに優しい。自分には厳しいのに。

 

少し奏さんが赤くなっているのは、匿名とはいえ、すでに克服したことを話されているからだろう。後で謝っておかないと。

 

「ともかく俺的に、2人で同じ時間を過ごせれば、それがデートだと思います。いつも訪れる場所でも2人でなら新しい発見があったり、普段は気づかないその人の良さがわかったり」

 

それでまた、その人を好きになるのだろう。誰かに迷惑をかけないように、自分の弱さを見せないようにしている人って、案外強情で、気づかないところで苦しんでいる。

 

 

「……遊園地、か」

 

そう呟いた雪村先輩がホワイトボードに文字を書き始めた。デートの具体的行動の目的地として、遊園地を書き込んだ。

 

いまだ、そこに数式はない。

 

「遊園地についての知識はあれど、行ったことはない。なぜなら、行く必要性を感じなかったからだ」

 

自分のパソコンを操作して最寄りの遊園地の地図を、プロジェクターでもう1つのホワイトボードへ映した。

 

「だが、氷室。お前とならデートをしにここへ行きたい」

「ええ。私も同じ気持ち」

 

先輩たちにとって、遊園地は未知の世界らしい。

 

 

「では、始めようか」

「ええ」

 

遊園地野公式サイトを見ながら、どのアトラクションに行くかを2人で相談するのだろう。当日のことを考えながら、ドキドキでワクワクするのだ。

 

もしかすると、すでにここからデートが始まっているのかもしれない。初々しい先輩たちがドギマギしながらデートプランを考える、そんな光景が目の前で―――

 

 

「全ての目的地を効率的に巡回するための、最適なデートコースを構築しましょう」

「当日の時間は有限だ。少しでも多く、実験かつデートを行えるようにな」

 

((もっとワクワクドキドキしろよ!?))

 

入念な準備こそが、デートの成功か失敗かを決める要因になりうる。それをまだデートの定義だと考えているらしい。

 

出たとこ勝負もいいと思うんだけどなぁ。

 

 

「奏ちゃん、心の準備はいい?」

「まさか最適化問題ですか!?」

 

ホワイトボード上の地図に、各アトラクションごとに氷室先輩がマーカーでポイントを付けていく。その数は、22点。

 

「た、例えばですね!」

 

まさに抜き打ちテストである。俺やトラスケでは知識量的に援護することはできず、棘田先輩はニヤニヤして様子を見ている。

 

「出入り口から一番近い点へ、そこからまた別の一番近い点へ」

 

赤いホワイトボードマーカーで、地図に点同士を結ぶ線がいくつか引かれていく。ここで問題になるのが、線が交差している部分である。

 

「交差している部分については、それぞれ繋ぎ直していくのですが、これを何度も繰り返すことで最適なコースを導き出します」

 

先輩たちが大きく頷いたことで、奏さんは大きく息を吐いた。

 

「ただその方法が最短ルートを出せるとは限らない!」

「22点ならばこのPCでも十分算出可能ね」

 

どうやら別解も存在するようだ。

 

棘田先輩も珍しく、昼の時間に自分のデスクに座った。奏さんですら3人のやっていることにポカーンとしているので、俺やトラスケには遠い領域である。

 

印刷機が動き始めたということは、先輩たちの算出が終わったということだ。まずは雪村先輩と氷室先輩が1325.06m

で同値だった。同期であるし、同じ論文の計算式を参考にしたのだろう。

 

「1299.46m~」

 

のびのびした声で棘田先輩が告げる。その差は25m以上と、かなりの違いだ。氷室先輩や雪村先輩は一目散にその手法を確認している。

 

そして、3人に必死に食らいつこうとしている奏さんがいる。ほんと、がんばりやだな。

 

 

 

「なぁ、なんか訳した論文ないか?」

 

ひそひそと俺に相談してきたトラスケも、少しずつ前に進み始めたということだ。俺たちは静かに自分のデスクへ戻った。

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