理系が恋に落ちたけど証明のための時間がありません。   作:ヒラメもち

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理系が恋に落ちたんだが、かなり踏み込んだ。

5月24日土曜日、午前10:00:00

天気晴れ、気温24℃、湿度25%

 A,B両者がハチ助像前に到着

 

「氷室先輩、白衣だね」

「雪村先輩も白衣」

 

俺たちの『ちょっともやもやした回数』を増やしたい。他の『各気持ち』も、今回は先輩たちが自分でカウントして計測するけれど。

 

実験ノート(別冊)に情報を書き込んだ後、俺たちは頷き合った。実験を中断させるべく俺たちは、意気揚々と歩き始めた2人の前へ立ちふさがった。

 

「なにか問題があったのか。ここから3分15秒で与野商店街に行かねばならないのだが」

「服です」

 

先輩たちは自分の身だしなみを整えた後、これでどうだと言わんばかりの顔である。

 

「なんでデートに白衣なんですか!?服を買ってきてください!もちろん、私服ですからね!」

 

奏さんの指摘を受けて、先輩たちは資料をぱらぱらとめくった。

 

「適切なアドバイス、感謝する。実験内容2.2.1『服などを選んでいる時、女性が男性にどっちがいいと思う?と尋ねる』を優先して行うとしよう」

 

((そうだけど、そうじゃないんだよなぁ))

 

「いけない。2分15秒の遅れだわ」

「実験にトラブルはつきものだ。ショッピングデートの時間、37分28秒間を短縮すればいい」

 

先輩たちが少し足早に歩いていく。俺たちは溜め息をついて、2人の後を追いかけた。

 

10:10ショッピングモール到着、実験2.2.1を行うために服飾店へ向かう。

 

 

 

****

 

俺が研究室に来ると、電気がついていなかった。休日だって、雪村先輩たちは基本的にいるはずだ。

 

「おっと、今日がデートだったか」

 

恋の研究を名目にして、デートへ行っているはずだ。しかし、俺なんかがギャルゲーの知識を語って『天才』たちに称賛されるなんて、人生わからんものだ。

 

自分のデスクにリラックスして座りながら思う、この研究室の居心地は悪くねぇと。

 

 

記録係として、伊月や奏も行っているんだろう。そうだとしても、土曜日に研究室に来れるかどうか伊月に聞かれたのは、なぜだ。

 

 

「まっ、ちょっと休んだら帰って寝ようかねぇ」

 

「ふわぁー、おはー」

 

なるほど、このためか。

 

ソファを根城にしている、棘田が目覚めた。寝起きでいつもよりふわふわした棘田を見ると、ドキッとしてしまう。口は悪いが、こいつはとんでもない美少女だからな。

 

「月村……氷室たちもいないのか」

 

こいつが起きた時には信頼できる誰かがいる、そんな状況が続いていた。だから、こいつはここで眠ることが多いのだと、俺にもわかる。

 

 

「でも、トラスケいるじゃん」

「俺で悪かったなぁ?」

 

やはり、俺の幼なじみは口が悪い。その辺の女子ならビビる低い声も、全く動じない。

 

「ゲーム、しよ」

 

俺が言うのもなんだが、自由きまますぎるだろう。机の上のお菓子に手を伸ばしている棘田を見て、俺は頭をかいた。

 

ご飯をちゃんと食べないから、そんなにチビなんだ。昔からな。

 

 

 

****

 

11:38:22 ランチデート開始

計画通り

 

 

「私たちも何か食べておく?」

「そうだな。メニュー見てていいぞ」

 

わざわざファミレスの席を隣にしてもらい、先輩たちのデートを観察する。心拍数といったバイタルデータの時間的推移について、各行動がどの時間に起きたか確認することは、記録係に懸かっている。

 

だから、可能な限り計画通りにデートをしているのだ。まあ、ガチ理系な先輩たちは自然に行っている。

 

「ハンバーグ、スパゲッティ、あー、パンケーキもいいなー」

 

食べることが好きな奏さんが、メニューを見ながら、うーうー唸っている。

 

そして、先輩たちは1つのメニューを顔を近づけ合って見ている。計画にはない自然な行動のため、しっかり時間とともにメモしておく。

 

 

「ねっ!月村君はなにがいいかな?」

 

目をキラキラさせながら聞いてきた。お腹が空いたこともあって、実験のことを忘れているようだ。

 

「メニューもう少し近づけてくれ」

「あっ、ごめんね」

 

まあ、時には休憩も大切だ。幸い、実験3.2の続きは注文した料理が届いてからだ。

 

 

実験のことを知らない人が見たら、俺たちの関係はどう見えるのだろうか。同級生、友達、同僚、そういった言葉がその解釈にあてはまらないのかもしれない。

 

 

 

****

 

アイテムなし、そして棘田はピカチュウじゃねぇ。そのハンデは舐められた気分だが、1度くらい勝たなきゃ男が廃るってものだ。

 

「はっ、所詮はピチューだ」

 

そのふっとびやすさから、俺のサッカー仲間からはランダムで出た際は負け確定と言われている。

 

「ここだァ!」

「隙だらけ」

 

ゴールデンウィーク中に、ファルコンパンチの出しどころは練習したはずだ。何度だって試行錯誤した。今日もまた、掴み技の前に敗北する。

 

「動いてくれ!ファルコン!」

 

いつからスマブラは格ゲーになってしまったんだ。コンボを受け続け、彼が電気鼠にめった打ちにされているのを俺は見ることしかできない。

 

「また負けた~」

「トラスケ、わかりやすいもん。単純」

 

勝てない理由を問うと、そういう答えがいつも返ってくる。一体どんな顔でそんなダメ出しを言ってくるのかと隣を見たことがある。

 

そんなことを言われたのがもしこいつ以外だったら、俺はキレてると思う。

 

「くっ、もう一度だ!」

 

こういうとき、棘田は子どもっぽく笑っているんだ。調子狂うんだよ。

 

 

「……の前に昼飯行くぞ」

「じゃあ、買ってきて」

 

知ってた。

 

「学食行くんだよ。少しくらい歩け」

 

俺が連れ出さなきゃ、棘田……いや恵那ちゃんはよく閉じ籠もってしまう。大学で少しくらい成長したかと思ったが、まだまだ自立はできなさそうだ。

 

たとえ恵那ちゃんが夜に帰ってこなくても、なんとも思わないんだろうな、あの人は。

 

 

****

 

12:42 遊園地に向かうためのバス停へ移動開始

※日和った雪村先輩のせいで、先にファミレスから氷室先輩が出ていってしまう。日和った雪村先輩のせいで。

 

 

「すまん」

「それは氷室先輩に言ってください。まあ、緊張していたこともわかりますけどね」

 

手を繋いで、店内から出るはずだった。

 

カップルジュース、食べさせあいっこ、そういった『イチャイチャ行動』を初心者男子がするならば、無事で済むはずがない。むしろよくやりきったと言いたい。

 

「実験にトラブルはつきものなんでしょ。それに、ようやく折り返しですから」

「ああ。次こそは確実に」

 

そういや、2人とも恋を自覚した(仮定)が夢で『手を繋いでいた』だったな。たぶん、そんなありふれた幸せが一番したかったことなんだろう。

 

「氷室と合流する。バス停へ行くぞ」

 

雪村先輩が自分の気持ちを冷静に分析しつつ、スマホでカウンターを押した。脳内でのシミュレーションも行っているのか、時折り深呼吸している。

 

 

 

そして、少し遠くにいる女性が目に入ってーーー

 

俺たちは駆け出していた。

 

 

 

「……やっちゃった」

 

柔道基本技の1つ大外刈りを男性に対して行ってしまったようだ。動揺している彼女の背後から、俺は勢いよく近づく。

 

「奏!」

 

いわゆる羽交い締めなのだが、できる限り抱きついているように見えるようにする。てか、怪力すぎないかっ!?

 

 

「……つきむらくん?」

 

一気に力が抜けて、今度は倒れそうになるのを支える。

 

受け身を上手く取れるような技だったので、背中を軽くぶつけた男性は仲間に支えられながら、ゆっくりと起き上がっていた。

 

 

「おねがい、きらいにならないで」

 

その言葉は、ちゃんと頭に入れた。

 

 

冷静に周囲を確認する。明らかに怒っている雪村先輩が涙目の氷室先輩の手を引いて、ここから離れていっている。そして、この騒ぎが気になって歩きを止めている人がいる。彼ら彼女らの目線は、こちらへ半分といったところか。

 

あくまでこれは仮定だ。2人をナンパしたが失敗した男性グループが口論で感情的になってしまい、思わず手を出してしまった。そして、氷室先輩もそこにいたがために、奏さんは頭に血が上り、反射的に『自衛』を行ってしまった。

 

 

だが、『暴力』を行ったと思う人もいる。この状況を打開する解答はこれしかない。『喧嘩両成敗』で有耶無耶にする、そんな卑怯で欺瞞な方法だ。

 

 

「こいつは俺の彼女だ」

 

舌打ちして離れていく男性たちの背中は、少しずつ遠ざかっていく。冷や汗をかく俺の心臓の鼓動は、確かに速まっていた。

 

 

 

 

 

 

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