それから二週間後、クリスマス休暇を終え大勢の生徒達がホグワーツに戻り、学校は一段と騒がしくなっていた。
すっかり賑やかさを取り戻したグリフィンドールの談話室では…
「これだ!これだよ!!」
談話室のソファーの上でハリーが飛び上がっていた。
その声を聞いてロンがところにすっ飛んでくる。
「ここ見て!」 ハリーが本の1節をなぞる。
『ニコラス・フラメルは我々の知る限り、賢者の石の創造に成功した唯一の者。 また、ホグワーツ校長アルバス・ダンブルドアの研究のパートナーである』 その言葉を聞いてロンの頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。
「なにそれ?」
やはりロンは石に関する知識がないらしい。
「ここ読んでみて。」ハリーはロンのほうに本を突き出した。そこには賢者の石に関する情報が乗っている。
──どんな金属も黄金に変え、飲めば不老不死になる「命の水」を作り出す。
「これならスネイプが狙うのも無理はないよ!誰だって欲しいもの。」
「そうだね…」 誰だって欲しい、賢者の石が。
二人はこれに心を奪われたスネイプがホグワーツに隠された賢者の石を狙っている、と。
数日後、クィディッチの試合があった。
審判がスネイプ先生だということでハリーたちはギリギリまで試合に出るべきか悩んでいたようだったが、結果を見れば出て正解だっただろう。
ハリーは、スリザリンのシーカーが見つける前にスニッチを見つけ、スネイプ先生が妨害を加える暇もなく試合を自分のチームの勝利という形で終わらせたのだ。
一年生とは思えないハリーの箒さばきはすぐに有名になり、グリフィンドールが戦うときはホグワーツ全生徒が競技場に押しかける事態となっていた。
そんな試合があってすぐのこと。 ハリーは浮かれているものかと思ったが、何か緊急のことがあるらしく神妙な面持ちをしていた。
グリフィンドールの授業が終わったあと、ハリーはハーマイオニーとロンを空き教室に引っ張っていくと、誰もいないことを確認して話し始めた。
「僕らは正しかった。賢者の石だったんだ!それを手に入れるのを手伝えってスネイプがクィレルを脅していた。」
「ハリー、スネイプ"先生"よ。それにクィレル"先生"。」
「……スネイプ先生がクィレル先生を脅していた。スネイプ先生はフラッフィーを出し抜く方法を知っているかって聞いてた……。それと、クィレルの――」
「先生。」
「ーークィレル先生の怪しげなまやかしのことも何か話してた……フラッフィー以外にも何か特別なものが石を守っているんだと思う。きっと人を惑わすような魔法がいっぱい掛けてあるんだよ。」
ハリーが神妙な顔で二人を見た。
本来なら学年末テストも近いので勉強しなければならないのかも知れないが──
ハグリッドと一緒にドラゴンを育てていたかと思えば、夜間出歩いているところをハリーやロングボトムと共にマクゴナガル先生に見つかり3人合計で150点もの減点を食らったり…
それが原因で禁じられた森で罰則をこなさなければならなくなったり…
その罰則中禁じられた森で何者かに襲われ、 ケンタウロスに助けられ、 その何者かというのはユニコーンの血を吸って生きながらえているヴォルデモートだった。等と言うとんでもない体験をしているのだ。 今さらテスト何てどうでもいい。と、ハリーとロンは諦めていた。
無論、ハーマイオニーは一人黙々と机に向かっていたが。
「もしスネイプ先生がクィレル先生を問い詰めているとして、クィレル先生はよく持っているほうね。やはり闇の魔術に対する防衛術の担当教師なだけはあるのかしら。」
「まあ、スネイプ先生がそのようなことをする人だとは思えないが、ハリーたちから言わせてみればスネイプ先生は欲のために石を狙ってるんだろ、どーせ」
無理矢理結論付けると三人は立ち上がり、談話室へ戻っていった。
*
そしてそれから数日後…進級試験の最終日、ハリーはハグリッドが酒場でドラゴンの卵をくれた男に、賢者の石が隠された場所を守っている三頭犬に対処する方法を教えてしまったことを知った。
「ハーマイオニー!ロン! 大変なことが分かったんだ!一緒に来て!」
ハリーは談話室で大声で叫けんだ。
3人は寮を出ると急ぎ足で校長室の方へ向かった。
「ハグリッドが怪しい奴にフラッフィーの手懐け方を教えてしまった。ドラゴンの卵をハグリッドに上げたのは変装したスネイプかヴォルデモートだったんだ! 村のパブでハグリッドを酔わせてしまえばあとは簡単だったに違いない。早くこのことをダンブルドア先生に伝えないと!」 ハリーが早足で歩きながら説明した。
「でもそれって随分と前の話じゃない。今更な感じがあるけど……。」
角を曲がったその時…
《ドンッ、》
「きゃ、」「わわっ、」
鈍い音と同時に本がドサリと落ちる音と、女の子の小さな叫び声が廊下に響いた。
「ティアラ!?」
「…ハーマイオニー…」
ぶつかったのは胸にたくさんの本を抱えたティアラだった。
「いてててて、…あ、…ティアラ」
「久しぶりね、ロン。ハリー。」
立ち上がりローブについた汚れを払う。
ハリーがティアラに賢者の石の石の事を言おうと口を開きかけた時、急に反対側から声が響いていた。
「そこの4人、こんなところで一体何をしているんですか?テストが終わったのですから、グラウンドにでも行ってはいかがです?」
マクゴナガル先生だ。彼女もまた、両腕に山のように本を抱えている。
「マクゴガナル先生、こんにちは」
「ごきげんよう、ミス・ヴァレンタイン」
「あの、ダンブルドア先生にお目にかかりたいんですけど…」
「ダンブルドア先生にお目にかかる?理由は?」 ハリーが少し悩むような顔をする。
「…秘密なんです。」
そんなハリーの返答を聞いて先生は怪訝そうな顔をする。
「緊急なのだとしたら誰であれ事情を話すべきなのでは?ダンブルドア先生なら魔法省から緊急のふくろう便が来て、先ほどロンドンに飛び発たれました。」
「先生がいらっしゃらないんですか?この肝心な時に!?」 ロンが慌てたように叫ぶ。
「ウィーズリー。ダンブルドア先生は大変多忙でいらっしゃいます。そう簡単に会えるお方ではありません。」
マクゴナガル先生のそれは完全に癇癪を起した子供をたしなめるものだった。
「でも重要なことなんです。」
「魔法省の件よりもですか?」
マクゴナガル先生の眼鏡がキラリと光る。 石のことを秘密にして話すには限界だと感じたようでハリーは意を決して真実を告げる。
「実は…その……賢者の石のことなんです。」
その言葉は完全にマクゴナガル先生の予想の外にあったものらしい。
先生の手からバラバラと本が落ちたが先生は拾おうともしなかった。
仕方がないのでハーマイオニーとティアラが拾う。
その間にも上で話は進んでいた。
「どうしてそれを?」
もう既に先生はおろおろしていた。
「誰かが石を盗もうとしています。どうしてもダンブルドア先生にお話ししなくてはならないのです。」
「……彼の帰りは明日お帰りになります。どうやって石のことを知ったのか分かりませんが安心なさい。石の守りは強固です。誰にも盗むことは出来ません。さあ、私は試験の採点をしなければ」
マクゴナガル先生はそういうと散らばった本を拾おうとしたのか下を見て屈む。だが本はすでにハーマイオニーとティアラが全て拾っていたので1冊も地面には落ちていなかった。
「あ、ああグレンジャー、ヴァレンタイン。ありがとう」
先生は私たち二人からさっと本を受け取って、背中を向けて歩いていってしまった。
後に残された4人は顔を見合わせた。
「……えっ……と、」
ハリー、ハーマイオニー、ロンは"ティアラ"は何も知らないと思っている。
ここで変に動いては3人に怪しまれてしまう。
なんて言おうか言い澱んでいると…
「テ、ティア!ぼ、僕達…その…」
気まずそうにハリーが口を開いた。
「…賢者の石って、ニコラス…の?」
そう呟くと3人は驚いたかのように目を見開いた。
「そう。そうよ、」
「っ、ハーマイオニー…!」
「いいじゃない。ティアラなら必ず私たちの力になってくれるわ」
「…そうだね、ハーマイオニーの言う通りだ。ハリー、全部ティアラに話そう。」
「…わかった。…でもティア、約束して。絶対に口外しないって。」
「…約束するわ」
「今夜…?」
話を聞き終わったティアラは、ハーマイオニーの口から飛び出した"今夜"という言葉に動揺を隠せなかった。
──今夜…
作戦の決行は今夜らしい。
ケルベロスの突破方法がハグリットの口から外部に漏れた今、ダンブルドア校長がいない今夜が、敵にとって絶好のチャンスだと3人は考えたのだ。
今夜…。そう……
ティアラは正直"前"の時何日に決行したかを覚えていなかった。テストが終わってから終業式までの間のうちの1日。
その日に備えて今日から色々準備をする予定だったというのに。
ティアラは自分の記憶力の無さを内心で呪う。
「……事情はわかったわ。出来るだけ手伝う。」
──スネイプ先生が盛大に疑われているのは納得が行かないけれど。
ここまで来たら彼らが怪我をしないように。
クィレルが死なないように。
どうにか立ち回るしかない。
どうか。
どうか、成功しますように。
ハリー・ポッターがクィレルを殺さずに済みますように。
──私の身体が…魔法に付いてきてくれますように。
*
「うわぁぁぁぁぁーーーー!!!」
三人の叫び声と共にケルベロスの唸り声が部屋に響き渡った。
「速く入って!」
ティアラが隠し扉を開いてる間に三人は順番にそこに飛び込んだ。
三人が入ったことを確認したティアラはケルベロスに向かって杖を振る。
『イモビラス!(動くな!)』
白色の光がケルベロスを包んだ。
「ごめんなさいね」
固まったケルベロスに向かってポツリと呟くとティアラもその扉に飛び込んだ。
下では予想通りパニックが起きていた。3人が思い思いに叫び声をあげる。
ティアラの「動かないで」という声はハーマイオニーの高い叫び声と、ロンとハリーの泣きそうな叫び声にすっかりかき消されてしまっていた。
「っ、…ハーマイオニー…!!!」
全員に『動いては行けない』と言うのはやめて、すぐ右にいたハーマイオニーに向かって叫ぶ。
「ハーマイオニー!!これは悪魔のワナよ!」
「…悪魔のワナ…?!じゃあっ」
「そう、もがかなければっ…!」
それに気がついたハーマイオニーはすんなりと下に落とされた。ティアラもそのすぐあとに下の硬い地面に吐き出された。
「「うぁぁぁーー!!!!」」
上からは相変わらず二人の叫び声が聞こえてくる。
「悪魔のワナ…悪魔のワナ…っ、!そうだわ!悪魔のワナは日光を嫌うっ…!『ルーマス・ソレム!』」
それに気がついたハーマイオニーが天井のつるに向かってそう呪文を唱えた。
光が当たった所からみるみるうちにほどけてゆき、ハリーとロンが上から降ってくる。
「うわっ、」「わっ!」
『レビコーパス(身体よ浮け)』
地面にぶつかる寸前、ティアラの魔法によって2人の身体はピタリと止まった。
「……こ、怖かった…」顔を真っ青にしたロンが地面に座りみそう溢した。
「ハーマイオニー、ありがとう」
「いいの。悪魔のワナって教えてくれたのはティアだから…私はなにも」
「日の光に弱いって私は知らなかったわ。ハーマイオニーのおかげよ。さあ、先に進みましょう。」
ティアラとハーマイオニーを先頭に次の部屋に進んだが、鍵の部屋ではティアラが手を出す間もなく、ハリーの天才的な箒捌きによって鍵を手に入れ、チェスの部屋ではロンのチェスの能力を最大限に生かして、突破することができた。
────が…
「「ロンっ!!」」ロンが意識を失い、砂ぼこりの積もる床に倒れ込んだ。
記憶の通り、着々と事は進んでゆく。
自分というイレギュラーな存在があるにも関わらず。
ティアラは倒れ込んだロンの手を握った。ティアラはほんのすこしの安心感と、確かな不安があった。
自分というイレギュラーが居ても、知っている通りに歴史が進んで行くのが不安だった。自分の知らない方向に物事が進んで行っては、どうにもできないからだ。
ただ…。その中の一部分を、都合よく変えられるのだろうか。
その不安だけがティアラの心のなかをぐるぐると回っていた。
「っ…、ハーマイオニー。君はロンを連れて戻るんだ。誰でもいい、先生に状況を伝えてくれ。僕とティアは先に進む。石を奴から守らなきゃ。」
「……わかったわ。気をつけて」
「ティア、行こう。」
「…ええ」
2人に背を向け、歩き始めた。石の部屋へと続く扉が近づいてくるにつれ、ティアラの背に石が乗っかって来るかのようだった。
「ティア…?大丈夫?顔色が…」
「…っ!、大丈夫よ。ありがとう。」
─うまくいくだろうか。
私のせいで、ハリーが怪我をするなんて事になったら…。
悪い考えが次々と頭をよぎる。
「っ、考えても仕方がないわ…。やるしかないんだからっ。」
そう自分に言い聞かせるかのように呟き、ティアラは目の前の大きな扉に手を掛けた。
「ハリー。あなたはここで待っていて。」
「えっ…?」
ティアラは大きな扉に顔を向けたまま深く息を吸い込んだ。
「ど、どうして?」
ハリーは不思議そうにティアラの顔を見る。ティアラは扉から手を離し、ハリーの手を握った。
「…お願い。私が呼ぶまで。絶対に入ってきちゃだめ。あなたを守るためなの。」
「っ、でもそしたらティアは…」
「私は大丈夫。だから…お願い」
ハリーの緑色の瞳を見つめる。
「…わかった。でも!危ないと思ったら呼んでね」
「うん」
ハリーは扉の前に。ティアラは賢者の石の部屋に足を踏み入れた。
「何者だ!」
部屋に一歩足を踏み入れたとたん。
クィレルの突然怒鳴り声が聞こえた。
私は階段を下り、ターバンを巻いたクィレルと対面した。
「こんばんわ。いい夜ですね。先生。」
私の目の前にはいつものオドオドした表情ではなく、非常に厳しい表情をしたクィレル先生が立っていた。
「授業ではお世話になっております。ヴァレンタインです。」
「…ヴァレンタインか、そこをどけ。私はその鏡に用がある。」
「賢者の石……ですよね」
クィレル先生がジロリと私を睨む。
「どうやら君は事情を知っているようだ。私は我が主の為に賢者の石を手に入れないとならない。さあ、さっさとそこをどけ。」
私は素直に鏡の前を開ける。
その様子を見てクィレル先生は不審そうな顔をした。
別にクィレルが鏡を見ることには何の意味もないのだから。
「……まあいい。この鏡からどうにかして石を取り出さなければ。一体どうなっているんだ? 鏡を割ってみるか?」
クィレル先生はブツブツと呟きながら鏡を叩いたり裏に回ったりしている。 私はその様子を警戒して見る。
「この鏡はどういう仕組みなんだ? どういう使いかたをするのだろう。」
クィレル先生は顎に手を当てて考え込む。 ティアラはクィレル先生の方に歩み寄る。
その様子にクィレル先生は一瞬警戒したが、何もできないだろうと結論付けたのか攻撃はしてこない。
なんと言ったって、クィレルのなかでは"ヴァレンタイン"は無力の1年生なのだから。
「この鏡は自分の欲を映します。貴方の望みが賢者の石を使うことならその場面が映り、賢者の石を見つけることならその場面が映るはずです。」
私も鏡を見る。 相変わらず、泣きたくなる光景がそこに映し出されるだけだった。
あの時のように賢者の石は自動的にポケットには入ってくれない。
(私じゃやっぱりハリーの代わりにはなれない…か…)
同じように鏡を見ていたクィレルはまるで小さな子供のように鏡に見入っていた。
「…っ!これはこれは…!私が我が主に…!」
クィレルがだんだんと鏡に近づき、あと一歩!と言うところで、どこからともなく恐ろしい声が響いた。
『『クィレルッ!』』
「は、はいっ!」
どうやらこの声はヴォルデモートらしい。
クィレルから声が出ているように感じる。
『『その小娘は知りすぎだ。殺れ。』』
「で、ですが…『『いいから殺れっ!』』」
「はいぃっ!」
クィレルはローブから黒い杖を出すと、少し躊躇したものの禁断の魔法を使った。
『アバダ・ケダブラッ!』
ティアラは杖を構え、それに応戦する。
「バカにしないでっ!ただの11歳じゃないのよっ!」 『サルビオヘクシア・マキシマッ!(最大の呪い避け)』
ティアラのギリギリ前まで飛んできた死の呪いはティアラの呪文により後ろの壁に避けられ、壁に当たった。
《ドォンッ!》 「なっ!」
こんな上級魔法が使えると知らなかったのか、クィレルは一瞬固まる。もちろんその隙を突かない手はない。
『エクスペリ・アームスッ!(武器よ去れ)』
『アバダ・ケダブラッ!』
『エクスペリ・アームス!』
『プロテゴッ!』
『クルーシオッ!』
次々と二人の呪文が部屋のあちこちでぶつかり、火花が散る。
『エクスペリ・アームス!!!!』
ティアラの声にハッとしたクィレルは慌ててプロテゴをかけた。が間に合わず杖は飛び、クィレルの体も後ろにとんだ。
「っ、、」
二人とも砕けた壁の破片や魔力の消費で大分ボロボロだったがそこに先程の声が割って入ってきた。
『『使えない奴め!ターバンをはずせっ!俺様が殺る!』』
「は、はいっ!」
クィレルがターバンを外す。
《ゴゴゴゴッ》
その時…私が入ってきたドアが再び開いた。
「ティア!」
──ハリーだ。
「ハリー!?どうしてっ!!…来ちゃだめ!」
『『ほぅ、ポッター。やっときたか…』』
「クィレル?!」
ハリーはここにいるのがスネイプ先生だと思っていたのだろう。想像していた状態とはかけ離れており、軽くパニックを起こしているようだった。
『『ハリー・ポッター!ここに立つのだ。何が見える?』』
クィレル、いや、ヴォルデモートはハリーに鏡の前に立つように言った。
ハリーが動くのと同時にティアラは、ヴォルデモートがハリーに開心術をかけようとしていることに気がついた。
すぐに無言呪文でそれを防御し、ハリーにプロテゴをかける。
『『…何が見える』』
「えっと、…ぼ、僕がダンブルドア先生と握手して『『嘘をつくなっ!』』」
「っ…!ハリー!伏せてっ!」
『『クルーシオッ!』』
『プロテゴ・トタラムッ!』
ヴォルデモートの呪文とティアラの杖から作り出される精巧な盾がぶつかる。
「っ、、」
「ティア…大丈夫…?」
「大丈夫…よ」
ティアラの魔法の盾にぶつかったそれはまばゆい光を放ちつつ辺りに消えるように散らばった。
『『小娘…邪魔だ。無駄な抵抗はやめてポッターを寄越せ』』
「それは出来ない相談ね」
『『・・・・・』』
「・・・・・・」
二人が杖を構えたままタイミングを計る。次々と二人の呪文が部屋のあちこちでぶつかり、火花が散る。
暫くすると、クィレルの標的が明らかにハリーに変わったのがわかった。
「っ…!ハリー!伏せてっ!」
『『クルーシオッ!』』
『プロテゴ・トラタムッ!』
ヴォルデモートの呪文とティアラの杖から作り出される精巧な碧色の盾がぶつかる。
「っ、、これじゃ…あ!──っ、!!!」
──破られる…っ、
ティアラがハリーの前に咄嗟に飛び出すのと、クィレルの呪文が盾を破るのは同時だった。
「そんなっ、駄目だ、…───!」部屋に大きな爆発音とハリーーの叫び声が響く。
ハリーには声も発する暇もなかった。
ハリーの目の前でティアラの胸に呪文が直撃したのだ。
「っ……─!」ティアラは身が張り裂けるような痛みに顔を歪ませる。
ポタリと床に鮮やかな血が飛び散った。
「ティア!!!!」
ハリーが倒れ込み腕から血を流すティアラのそばに血相を変え駆け寄る。
そんなハリーにもクィレルは容赦なく杖を振る。
『『クルーシオッ!』』
『っ、プロ、テゴッ』
ティアラは傷口から血が出ているのにも関わらず守護呪文を唱える。
『『っ、小娘!邪魔をするなっ』』
ハリーに近づいたクィレル、ヴォルデモートは真っ黒な靴でティアラの脇腹を蹴った。
「っ、、」
「っっ!やめろーっ!!」
ハリーがクィレルに体当たりをする。
『『うぁぁあぁー!!!て、手がっ!私の手がぁ!』』
ハリーが触ったそこは火傷のように赤く爛れ、とても杖を持てる様子ではなくなる。
『『ちっ!貴様の手なんてどうでもいいっ!さっさと殺せ!』』
「手がっ!ぐあぁぁぁっ!」
その二人の様子にハリーは自分の手を見比べて、クィレルに再び触ろうとした。
「っ、、は、ハリー……や、…め…、だめ…、」
ティアラは苦しさに痺れる体を叱咤しふらふらと立ち上がった。
一方、ヴォルデモートは必死にクィレルの体を操ろうとするがクィレルはあまりの痛みに我を忘れている。
「、ハリー…やめてっ」
ティアラはハリーの腕をパシンッと掴んだ。
「ハリー…っ、だめ。これ以上はっ、」
今にもクィレルに飛びかかろうとしていたハリーはハッと我に帰った。
「ティア…」
『『クソッ、!小娘が邪魔をするなっ!クィレル!さっさと殺れ!』』
ヴォルデモートが声をあげるが、もはや痛みに悶えるクィレルを操ることはできない。
『『あああああぁぁぁぁーーー!!!!』』
雄叫びをあげたヴォルデモートは黒い霧となってクィレルのからだから抜け出した。
その衝撃でクィレルの体は地面に崩れ落ちる。
「う、……」
「ハリー!」
黒い霧は最後の抵抗なのかハリーの体をすり抜けて天井へと消えた。
からだの力がガクンと抜けたハリーの体を支えたためティアラもそれにつられ地面に崩れ落ちた。
ハリーが息をしていることを確認するとティアラはドクドクと血が出ている右腕を押さえながら立ち上がり、浅い息を繰り返しているクィレルの側に崩れ落ちた。
「っ、なんだ。私を嘲笑いに来たか…っ」
「っ、ちがう…っ、」
ティアラは痛みに顔を歪ませながら、黒く染まりポロポロと崩れ落ちてゆくクィレルの腕に杖を向けた。
『サルビオ・ヘクシア(呪いを避けよ)』
ティアラの杖先から微かに出る水色の光はクィレルの腕を優しく包み込む。
「っ……、」
ティアラの魔力は限界を向かえようとしていた。杖先から出る光は細く弱くなってゆく。
──まだ、…まだ足りない…
クィレルの顔を見ると彼はすでに目を瞑り意識を失っていた。
「お願いっ、もうすこしなの…」
ティアラは杖を両手で持ち、何度も呪文を唱える。
「サルビオ・ヘクシア…」
「…サルビオ…ヘクシア」
「サ……ル…ビオ……、」
次の瞬間、ドサリという音と共にティアラの身体がクィレルの上に倒れ込んだ。
ハリー、ティアラ、クィレル。
その部屋は3人の浅い息づかいが響いていた。