ハリー・ポッターと銀髪の少女   作:くもとさくら

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2年目のハロウィンです。


不安

 

何も出来ないまま、容赦なく時は流れホグワーツに入学してから2度目のハロウィンがやって来た。

 

 

去年は平日だったが今年のハロウィンは土曜日。授業もなく、皆は思い思いにハロウィンの昼を過ごしていた。去年はトロール騒ぎで中断されてしまったハロウィーンパーティー。その埋め合わせをするかのように、生徒達は去年より一層気合いが入っていた。

 

 

昼間を仮装の準備に時間を掛けるものもいれば、夜のパーティーに向けてジョージとフレッドと共に悪戯を仕掛けている者。校内は寮の内も外もどこか浮足立った雰囲気に包まれていた。

 

それは普段冷静に、そして冷ややかにそれらを見ているスリザリンにも当てはまり、談話室の大きな鏡の前は仮装の準備に励む生徒たちで溢れかえっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティアラは昨年のパーティーの仮装で色々な目に遭ったため、今年は…と頑なに仮装を断っていた。

無論ニカやシャル、それにドラコも必死にティアラを説得したが彼女が頷くことはなかった。

 

 

 

そんなティアラだったがお菓子は事前に沢山用意していた。トリックオアトリート、寮関係なくそう声を掛けられる度にマフィンを配っていると一時間もしない内に袋は空になってしまっていた。

 

 

 

「ティア、見て!どう?」

黒猫と海賊の格好をしたニカとシャルが部屋から飛び出し、ティアラの前でくるりと回った。

 

元々2人は背が高くスタイルもいい。似合わないはずがなかった。

 

「とっても似合ってるわ!素敵!」

「ティアも仮装すればいいのに…去年はとっても綺麗だったわよ?」

 

 

去年、あの後ティアラのドレスアップした姿を誰かが写真に撮ったものが学校中を駆け巡り色々大変だったのだ。

 

 

 

楽しかったけど…やっぱり歳相応に過ごさないとね…。

 

ティアラは二人に向かって苦笑を漏らすと「いいのよ。楽しんでね」と言って二人に向かって軽く杖を振った。

 

 

「これで完璧!」

ティアラは魔法で二人の顔や腕に、傷や血糊、包帯を着けた。

 

ティアラが手を加えたそれは更にリアルに、ハロウィンぽく進化していた。

 

「…さすがティア、ありがとう!」

 

ほぅ、と息を漏らした二人はお互いを見てティアラの魔法にただただ感動する。

 

 

「そろそろ時間よ。楽しんでね。行ってらっしゃい」

「…え、ティアはパーティーにも参加しないの…?」

 

仮装はしないがパーティーには勿論参加すると思っていたのだ。

 

「うーん。少し体調が悪くてね…ごめんなさい。遠慮するわ…」

 

「…そう?わかった。なにかお菓子を持って帰ってくるわね」

「ありがとう。楽しみに待ってるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はハロウィン。

 

記憶の通りなら。

 

今日、ここでミセス・ノリスが石になって発見されるはずだ。他の生徒が襲われた詳細な日付は覚えてないけれど、この日と、コリンが襲われる日は覚えていた。

 

 

ティアラはミセス・ノリスが石になってぶら下がるはずの黒い釘を見上げた。

 

 

出来ることなら、事件を防ぎたい。

 

 

ただ問題がひとつある。

 

 

ティアラ・ヴァレンタインは"パーセルマウス"ではないのだ。

 

 

下手をしたら、私自身が蛇の接近に気が付かず、石にされてしまうなんて事が起きてしまうかもしれない。

 

 

「…やっぱり……離れてた方がいい…か…」

 

 

ハリー達とミセス・ノリスには申し訳ないけれど…。ハリー達に第一発見者になってもらうしか方法はない。

 

 

 

ティアラはその場所から少し離れたところにある空き教室で、パーティーが終わり、ハリーがノリスを見つけるまで待っていることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室の前がざわざわとし始めた。パーティーが終わったのだろう。生徒達が一斉に出てくる波にティアラは何気なく交ざり廊下を進む。

 

 

 

ぞろぞろと大広間から出てくる生徒達が交差地点の廊下に差し掛かる。ざわざわとした話し声はある地点に差し掛かると、ぴたりと止んだ。

 

 

 

「なに…あれ」

 

 

どこからともなく聞こえてきた声。

 

 

それは異様な光景だった。

 

 

 

 

壁に立つように固まっている猫。

 

 

水浸しの廊下。

 

 

その前に立ち尽くすハリー達3人。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

大きく壁に書かれた血文字。

 

 

 

 

 

 

 

そこにいた誰もが、あるひとつの伝説を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…秘密の部屋が開かれた」

 

 

 

 

 

 

 

「継承者の敵よ、用心せよ」

 

 

 

 

 

静まり返ったなか。

 

 

 

 

 

 

高学年の誰かがそう溢した。

 

 

 

 

 

 

 

誰も状況を理解しないまま、パニックの種だけが撒かれる。

 

廊下はすぐに大騒ぎになった。

 

全員が早く寮に戻ろうと叫びながら思い思いに走り出す。

 

 

 

人の叫び声が響くなかティアラは人の流れに逆らって、ハリー達の元に駆け寄った。

 

「ハリー!」

「テ、ティア!ち、違うんだ!これはっ、」

「ティアラ!私たちじゃないわ!」

 

 

 

 

「わかってる!疑ってなんていないわ。安心して」

 

「………ティア…どうすれば……」

 

 

猫の前で立ち尽くす4人をよそに、交差点の生徒達はもう収拾がつかなくなっていた。

 

 

 

監督生バッチをつけた生徒が必死にまとめようとしているが、いろいろな声が飛び交っており誰の耳にも入ってしない。だが、それぞれが各自寮へと走っていたため、暫くすると人影はまばらになっていった。  

 

 

 

「何事じゃ!」ダンブルドア先生を先頭にマクゴナガル先生、スネイプ先生、そしてフィルチがやってきた。

その4人もその光景に思わず言葉を失う。

 

 

フィルチが猫を見て激怒しハリーに激しく詰め寄り、ハリーの胸ぐらを掴む。

 

「ぼ、僕じゃない!先生!ぼくじゃない違う!!信じて!」

 

 

ダンブルドアがハリーに視線を投げるとすぐにフィルチに向き直った。

 

 

 

「落ち着きなさい。猫は死んではおらんよ」

 

 

 

「…どうやら…話を聞かないといけないようじゃのう」

 

 

 

ダンブルドアは杖を振って廊下の水を消した後、壁に書かれた血文字を見上げてそう言った。

 

 

 

 

「…ミス・ヴァレンタイン。君からじゃ。」

 

 

「……私…ですか」

 

「…っ、先生!ティアは…後から来ました!関係ありません」

 

ハーマイオニーが前に進んでかばってくれるが、ティアラにはダンブルドアがなにを聞きたがっているのかわかっていた。

 

「ハーマイオニー。私は大丈夫」

 

一歩前に進もうとすると、私の肩にスネイプ先生の手が置かれ、直後、先生はダンブルドア先生と私の間に割り込んだ。

 

スネイプ先生の背中に隠され、ダンブルドア先生が見えなくなる。

 

「っ、校長。お言葉ですが…。グレンジャーが言っている通り、彼女は関わっていないかと。」

 

「セブルス、儂も彼女がやったとは思っておらんよ。ただ話がしたいだけじゃ」

 

「…でしたら私も付き添います」

 

「…スネイプ先生…っ」

ティアラはくいっ、と目の前の黒いローブを引き、やんわりと制止する。

 

「っ、」

先生は驚いたように目を見開くが、それに微笑みかねると渋々ながらも身を動かした。

 

 

ティアラはダンブルドアの一歩後ろをつき校長室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君と出会ってセブルスが少し変わってきているようじゃ。」

 

 

柔らかなソファーを勧められ、そこに腰かけると、先生はどこか嬉しそうにそう呟いた。

 

 

「…そう、でしょうか」

 

 

「ああ、いい傾向じゃ」

 

ダンブルドア先生は楽しそうに目尻に皺をつくった。

 

「さて。儂がなにを聞きたいかは…もうわかっているかな?」

 

ダンブルドアは優しい視線を目の前の少女に向ける。だがその少女は未だ何かを迷っているようだった。

 

 

 

 

「……お聞きになりたいですか…?」

 

 

 

 

 

正直、ティアラは話したいとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

出来るだけ頼ることなく、自分で出来るところは、限界まで1人で水面下で終わらせる。許されるならば、身代わりにだって……。

 

 

 

 

 

 

 

 

──……身代わり…?

 

 

 

 

 

 

 

そう…だ!

 

 

 

 

 

 

 

ジニーの代わりになれば…!歴史をそう大きく変えずジニーが傷つくのを回避できるのでは…?

 

 

 

 

 

ティアラはそう思い付くと突然立ち上がった。

 

 

 

 

 

「…っ!先生っ!お願いが───!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あった…」

 

 

 

ティアラは今、グリフィンドールのローブを身にまとい、ジニーの部屋にいた。

トム・リドルの日記、ヴォルデモートの分霊箱を片手に。

 

 

 

今、グリフィンドールの寮内は無人だ。グリフィンドールとレイブンクローのクィディッチの応援に皆が出払っているのだ。

 

ティアラはあの日、ダンブルドア先生にグリフィンドールのローブとネクタイを手配してもらっていた。

 

 

 

 

 

 

それはジニーの力を吸い取り、禍々しい雰囲気が滲み出ていた。

 

 

 

 

──近くにいるだけで…具合が悪くなりそう

 

 

 

 

ティアラはそれを迷いなくポケットにいれた。

 

 

 

──ジニーごめんなさい…あなたを守りたいの。

 

 

 

ティアラは引き出しを元に戻し、心のなかでジニーに謝る。

 

 

 

 

女子寮を出ると懐かしい光景にピタリと足を止める。談話室の炎は消えていたけれど、その和やかで心地いい雰囲気は何も変わっていなかった。

 

「まさかこの寮に盗みに入ることになるとはね…」

 

苦笑を漏らしながらソファーを撫でる。スリザリンの談話室のソファーとは違い、決して高価なものではないそれは妙な心地よさがあった。

 

「さあ、もう行かなきゃ」

 

見きりをつけ、グリフィンドールの談話室を出るとスリザリンのローブに着替え、その足で校長室に向かう。

 

「ダンブルドア先生」

 

「お目当てのものは見つかったのかな?」

 

「はい」

 

ティアラは黒皮の日記をダンブルドアの机の上に置いた。

 

 

「……トム・リドルの日記………?これは…彼の…」

 

ダンブルドアは指でその日記をなぞったあと、視線を目の前の少女に向けた。

 

 

 

 

 

──この子は…何者だ…?

 

 

 

初めは少し不思議なの少女だと思ったが……。

 

"不思議"という言葉ではもう表せられない。

 

 

 

「……私が…気になりますか?」

 

「……っ、……ああ。とてもね」

 

「…………」

 

「…君は前、我々の敵ではないと。そう言ったね」

 

「はい」

 

「……儂は…君が何をしたいのかがさっぱりわからんよ。この日記がただの日記ではないのは見ればわかるがのう?…君は何者じゃ。なぜ…そこまでしてこれを手に入れたかったのじゃ」

 

「…それ、は……その……もし、先生がすべてを知りたいのなら、私も知っている限りの事をお話しします。」

 

 

 

全てを、先生が共に背負ってくれるなら。

この先起こることを、大戦のことを。話して皆が救われる世界が来るならば。全てを打ち明けよう。

 

ただ……そのせいでダンブルドア先生がさらに責任を感じて、忙しくなって、抱えるものが多くなったら…?

 

ティアラの脳裏には、天文台の窓から落ちて行くダンブルドアの姿がよぎった。

 

 

 

「……っ、ただ!私が出来る範囲は、全て私がやります。」

 

 

ティアラは三ヶ月型のメガネの向こうの瞳をじっと見つける。

 

「……知りたいですか?トム・リドル、彼が何をするか。」

 

 

 

あんな未来、あっては行けない。

 

皆が死んで行くのを、見ているだけなんて…。

 

 

 

 

 

──それを止めるためなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………君が何かをするために、一つの決意を持って動いていることは知っておる。……そうじゃのう…一つだけ聞いておこうか。」

 

ダンブルドアは空色の瞳を細めてティアラを見つめた。

 

「……この一連の事件は繋がっている。そして"この日記"が鍵となる。そうじゃな?」

 

「…はい」

 

 

ダンブルドアが全てを聞こうとはしていないとティアラは理解した。

 

 

 

先生は日記に視線を移し話を続けた。

「……儂はなるべく生徒に危険な目に遭ってほしくない。無論、その"生徒"の中には君も、ハリーも入っておる。…まあ、クィレルと戦った君とハリーは十分危険な目に遭っていると思うがね?」

 

「………私も、誰にも危険な目に遭ってほしくありません。」

 

 

──"生徒"だけじゃなくて"先生方"にも。

 

 

「うむ。君が敵ではない、と私は信じよう。それを踏まえた上で話をしようではないか。」

 

「…?」

 

「この日記、君が持つつもりかね」

 

「──はい。私が、生徒が持っておかなくては」

 

 

完璧にジニーの代わりになるには、それを持ちリドルの記憶に私が"操られる"必要がある。

 

あのポジションにそっくりそのまま"ティアラ・ヴァレンタイン"が入る。そうすればジニーが命の危機に陥る必要はない。

 

 

万がーの場合でも───

 

 

 

「…君はもう少し周りを見渡すといい」

 

「…え……?」

 

「もう少し周りを見て、心の中の気持ちを素直に口に出すのじゃ。──簡単なことじゃよ。君は人を大切に思いすぎておる。傷つけたくないとあまりに臆病になっておる。周りを見なさい。──君の相談にのってやりたいと思っとる人は周りにたくさんいると思うがの?」

 

 

 

先生のその言葉はゆっくりとティアラの心に染み込み、その脳裏にいろいろな人の顔が浮かびはじめた。

 

だけどそのほとんどの人との記憶は"僕"のために命を落としたところで終わる。

 

 

「…もう嫌なんです……。失いたくないんです……」

 

 

シリウスが僕を庇い、静かにベールの向こうへ消えてゆく

 

 

 

 

ダンブルドア先生が天文台から真っ逆さまに落ちてゆく

 

 

 

ルーピン先生がトンクスと手を繋いだまま倒れる

 

 

 

スネイプ先生が目の前で───

 

 

 

 

 

 

─もう…目の前で人が死ぬのを見てるだけなんて

 

 

 

「──耐えられない…っ」

 

 

ティアラは溢れる雫を止めることができなかった。ぼろぼろと大粒の涙が零れ、頬を伝う。

 

 

 

 

「私は…ただ…!……生きて欲しい…っ!」

 

 

 

肩を震わせ、目を手でおおった少女が絞り出すように呟いたその言葉はダンブルドアを信じさせるのには十分すぎた。

 

 

「……ゆっくりで良い。いつか、全てを話しておくれ。さあ座りなさい。暖かい紅茶を淹れよう。」

 

 

しわくちゃの手が背中に添えられる。その手が大きくて、暖かくて、また涙を誘う。

 

 

 

 

 

──だめだなぁ……。どうも…涙もろい…っ、

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなのじゃだめなのに…。

 

 

 

つよく…ならないといけないのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──このままでは…この子は壊れてしまう

 

 

ダンブルドアは震えるその背中をソファーへ導きながらそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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