ハリー・ポッターと銀髪の少女   作:くもとさくら

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知られた秘密

 

 

 

次の日の朝、ティアラは少し腫れて赤くなった目元をなんとか静め、部屋を出ようとドアノブに手を掛けた。

 

その時…

 

 

──いつか話してくれ

 

 

"前"では聞いたことのないほど優しく、こちらを気遣う彼の声が突然頭をぐるぐる回り始めた。

 

ぶんぶん!と頭を振りそれを追い出すと、ティアラは1人ドアの前にしゃがみこみ"ああああ――"と項垂れる。

 

「私ってば…何て事を………」

 

 

昨晩の記憶はひとつ残らず覚えている。それはもちろん"彼"の頭にもあるだろう。

 

「もう顔見れないよぉ…」

 

 

 

 

突然ぷしゅーーーーっ………としゃがみこんでしまったティアラを、シャルルとニカは驚いたように見た後顔を見合わせる。

 

「ティア、どうしたの」

「…あああ……思い出したくない……」

 

 

顔を覆い隠しぶんぶんと頭を振るその様子に─気になるけどこれ以上は聞かない方がいい

と思った2人は談話室まで向かいティアラを運び、ドラコと合流してソファーに並んで座った。

 

 

 

時間になり、朝食の為に大広間に行こうとしていた4人は、玄関ホールに人だかりが出来ているのを発見した。

 

 

「なにかしら」

 

どうやら人が集まっているのは掲示板の前で、そこに張り出された1枚の張り紙が、その原因となっているようだ。

 

 

 

──まさか…あれ(・・)かしら……?

 

 

 

こういうときの嫌な予感はだいたい的中する。

 

そこには、決闘クラブの第1回目が今夜大広間で開かれる旨が記されていた。

 

 

 

「"決闘クラブ"? 面白そうね」とうでまくりをしながら好戦的なシャルルが言った。

 

「せっかくだし、行ってみましょうか。先生は誰かしらね?」とニカが微笑む。

 

「フリットウィック先生じゃないか? 昔"決闘チャンピオン"って呼ばれてたらしいぞ」とドラコ。

 

「ああ…」ティアラは先生が誰か、もどのようなものかも知っていたため、ため息をつくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、いやがるティアラは半ばニカとシャルに引きずられるように談話室を後にし、廊下に出た。

 

「人がたくさん」

 

そう驚いてしまうくらい、夜にもかかわらず人通りが多かった。

 

生徒が石にされる事件が多発して以降、夜に廊下を出歩く生徒は稀だった。しかし、今日はどこを見渡しても生徒達で溢れかえっている。その中にはドラコやハリーたちもいた。

 

「1、2年生が多いわね」

 

それはそうだろう。去年も今年も、「闇の魔術に対する防衛術」の教員は大外れだ。今年のロックハート先生は勿論、昨年のクィレル先生も"しっかり教えてくれた"とは言い難かった。高学年のように、すでに防衛術を習っているならともかく、1,2年生は全くと言っていいほど防衛呪文を知らなかった。

 

「ねぇ誰が教えてくれるか知ってる?」

 

「知らないわ、誰なのかしら」

 

ティアラはニカとシャルの会話に──知らない方がいいわよ、と心のなかで呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決闘クラブの会場──大広間の4つの机は全て撤去されて、一方の壁に沿って金色の舞台が設置してあった。何千ものロウソクが上を漂い、決闘台を照らしている。

 

「私の決闘クラブへようこそ!さあさあ皆さん、こちらへ集まって!」

 

壇上にロックハート先生が現れたとたんに生徒達から黄色い声援が飛ぶのを見て、ティアラな内心苦笑を漏らした。

 

その後ろには、機嫌が悪いと隠そうともしない顔をしたスネイプ先生が腕を組んでいた。次の瞬間、不機嫌そうに大広間を見渡していた視線がこちらに向けられた。

 

ティアラは無意識のうちに、バッと視線を逸らしてしまう。

 

──あ………

 

 

後悔した後ではもう遅い。

 

 

──目逸らしたの気付いたかな……

 

 

恐る恐る台の上の先生を見ると、彼は既にこちらに真っ黒な背を向けていた。

 

「………」

 

ふぅ、と何やらわからない息をつくとティアラは離れてしまった友人達のところに向かった。

 

 

 

 

 

 

その後、ロックハートはすぐに模擬戦でスネイプ先生に手加減なく吹き飛ばされた。何度見てもこの光景は飽きない、と内心呟きつつティアラは気の毒そうに吹き飛ばされたロックハートに視線を投げた。

 

 

その後、生徒同士でペアを組んで模擬決闘をすることになった。

 

「ドラコ、ペアを組みましょう?」

 

ドラコは笑顔でもちろん!と返事をする。

 

 

──これでドラコが蛇を出すシチュエーションは避けられるはずだ。

 

 

全員がペアを組めたところでロックハートが声を張り上げた。

 

 

「いいですね!杖を取り上げるだけですよ!怪我をさせてはいけません!では────始め!」

 

 

 

そんな合図と共に広間のあちらこちらで、明らかに武装解除じゃない火花や爆発音が巻き起こった。

 

 

 

「たった一回見ただけじゃ、わからないよな。バカなのか?あいつ」

 

隣に立っていたドラコが呟く。それには共感しか出来ない。

 

「ドラコ、私でよければ教えるわ」

 

ティアラがドラコに武装解除呪文の発音を教えていると、ふざけている生徒たちを止めるため、ロックハートが声を張り上げた。

 

「やれやれ、まったく……非友好的な術の防ぎ方を教える方が良いようですね」

 

やれやれ、と頭を降っているロックハートに男子達と一部の女子は"お前がやれやれだよ!"と突っ込みをいれる。

 

 

 

「誰か進んでモデルになりたい人は………」

 

キョロキョロと辺りを見渡したロックハートの目が、それなりに遠くにいたティアラを捉えた。

 

「ああ!そこの銀色の!ミス・ヴァレンタイン!」

 

「……え…?」

 

ドラコに杖の振り方を教えていたティアラはロックハートに名前を呼ばれたことに驚いた。

 

「……わたし…?」

 

ロックハートはわざわざ決闘台から下りティアラの背中を押し始めた。

 

「あ、あの……」

 

──どうして私…?

 

 

「さあさあ、ミス・ヴァレンタイン。この会場に来たからには拒否権はないよ!いくら君が決闘に向いていないとしても!」

 

断ろうとすると、ロックハートはなぜかハハッ!と勝ち誇ったように叫んだ。

 

 

「丁度いい。君には私が直々に魔法使いの決闘というものを教えてあげよう!」

 

答えも聞かずに、決闘台の反対側の端へ意気揚々と歩いて行く。

 

「……えっと……」

 

ティアラは決闘台の端に1人立たされていた。

 

──スネイプ先生に勝てなかったから2年生相手に試合をしようと?

 

 

 

その時、"前回"の世界でロンに忘却呪文を掛けようとしていたことを思い出した。

 

 

 

──勝ちたかったのなら残念ながら人選が悪かったわね

 

 

彼の魔法がまともに成功したのを見たことがない。あなただけには負ける気がしないわ。

 

 

ティアラは遠ざかって行く背中を眺める。

 

 

 

 

 

ちらりと間に立っているスネイプ先生を見ると、心配そうな視線がこちらを伺っていた。

 

それに小さく微笑み、ティアラはローブから杖を抜き取った。

 

 

 

 

ロックハートが端にたどり着きこちらを振り向く。キラリとした笑顔を私に向けた。周りの生徒達はいつのまにか静まり返っている。

 

 

 

「互いに礼を」

 

 

 

スネイプ先生が中央に立ち、こちらの様子を伺いながら落ち着いた声で言った。ティアラとロックハートは杖を胸の前に当ててお辞儀をする。

 

 

 

「それでは。1、2、3、始め!」

 

 

 

 

 

 

『 エーーークスペリアームズ 』

 

 

 

気取った感じの発音と共に、赤い光が飛んでくるのがハッキリ見える。

 

威力、速度、共にさっき見たスネイプ先生のものとは比べ物にならない。

 

 

視界の端に映ったスネイプ先生はいざというときに守ってくれるつもりなのか杖を構え、こちらに向けていた。

 

 

────自分の身は自分で守れる

 

 

 

『 プロテゴ 』

 

 

 

丁寧に唱え、素早く杖を振る。

 

前の空間に透明な青色の盾が一瞬現れロックハートの呪文がぶつかり、虚空へと消えていった。

 

「…………」

 

ティアラは気を張っていたスネイプを安心させるように微笑むと、頬をピクピクと動かしているロックハートを見た。

 

「…た、盾の呪文とは、さすがスリザリンの秀才と言ったところですね!ははっ!ですがどうやらギリギリ逸らすので精一杯のようだ!」

 

取り乱したように弾んだ声でロックハートが叫び、次々と杖を振って呪文を連射してきた。

 

 

──続けるのね……

 

 

ティアラはその様子に軽くため息をつくと、再び杖を振り、盾で呪文を防いでゆく。

 

 

ロックハートの呪文は順に盾に突き刺さり色を失って消えて行った。

 

 

 

呪文を連射するロックハートの顔はだんだんと赤く火照っていく。このまま彼の一方的な攻撃を見ているのも忍びなくなり、ティアラはそろそろ潮時か、と盾の呪文をさっ、と解いた。

 

ここでロックハートを倒すのもいいけど、"教員に生徒が勝った"と目立ってしまうのも不本意だ。ここはおとなしく負けておくのがいい。

 

ロックハートの武装解除が腕に当たり、ティアラの美しい杖が空を舞う。

 

それをぱしんっ!と捕まえたのはロックハート──ではなく中間にいたスネイプだった。

 

 

「ロックハートの勝利」

 

 

杖をもったスネイプが静かにそう言うと、ティアラの杖さばきに驚いていた生徒達がようやく我に帰った。

じっと固唾を飲んで見ていた生徒達からわっと歓声が上がり、ティアラはあっという間に囲まれる。

 

「凄いわ!」「あの呪文!どうやるの?!」

 

次々と声が掛けられるなか、突然スネイプ先生の声が辺りに響いた。

 

「ペアを組んでさっさとやれ。ふざけたら減点対象。ヴァレンタインはこちらへ来なさい。」

 

 

その声にティアラは生徒の輪を抜け台を降りていたスネイプの元へ歩いた。

 

 

「杖だ」

 

「ありがとう…ございます」

 

昨晩のことがフラッシュバックしまともに顔を見上げられない……。

 

 

 

 

とその時─────

 

 

遠くでドラコの叫び声が聞こえた。

 

 

 

「おいポッター!!壇上に上がれ!」

 

 

「ドラコ?」

 

ティアラはバッと振り向き声の方を向いた。

 

遠くにいたドラコはハリーを睨み付けていた。その視線を受け、ハリーも壇上に上がろうと歩き始める。

 

何があったのか全く分からない。

 

 

が……

 

 

──とにかく止めないと…っ!

 

 

ティアラは台の真横を走りドラコとハリーのいる方に向かう…が、生徒が多すぎて全く思うように進めない。

 

「ヴァレンタイン」

 

ぐいっ、と腕を引かれ人混みから逃れた先には腕を組んでいるスネイプ先生が立っていた。スタート地点に逆戻りだ。

 

「先生…!止めないと…っ!ハリーが!!」

 

まだ2人の方にいこうと必死になる彼女は明らかに普通ではない。

 

「そんなに必死になることはない。決闘をするだけだろう」

 

「だめなんです!……ハリーが!───ハリーがパーセルマウスだって知られてしまうっ!」

 

 

 

─────………?

 

 

 

「待て、今なんと『エヴァーテ・スタティム!(宙を舞え)』」

 

 

スネイプの困惑した声はドラコの呪文によって書き消された。

 

「だめっ!ドラコッ!」

 

あろうことか戦闘中の台に向かおうとした少女をスネイプは慌てて止める。

 

「やめろ。怪我をするぞ」

 

ほっそりとした腕を掴むとそのあまりの華奢さに思わず力を緩める。

 

「…っ、でも!」

 

 

後ろに飛ばされたハリーも負けじと立ち上がりドラコに向かって杖を振った。止められる状況ではないのは一目瞭然だ。

 

『オブスクーロ!目隠し』

 

ハリーが放った呪文がドラコの目を覆った。

 

 

 

しばらくしてそれが外れると顔を真っ赤にしたドラコが勢いよく杖を振った。

 

 

「あぁ!!!だめよ!!!!」

 

 

ドラコの杖先から真っ黒な光沢のある蛇が飛び出した。

 

 

機嫌が悪そうに舌をチロチロと出したその蛇は「ひぃ……」と後ろに後ずさったレイブンクローの生徒に向かってゆっくりと進んで行く。

 

 

それを見たスネイプはティアラを背中に隠し、蛇を消そうと杖を構えて台に近づく。

 

 

スネイプが杖を振りかけた時、蛇と生徒の間にハリーが進み出た。

『シューッハーサーッスァーッ』

 

確かにハリーが蛇に向かって話しかけているようにも見える。

 

ハリーがパーセルマウスだと知らないティアラ以外の全員はハリーと蛇の様子を食い入ったように見つめた。

 

 

 

 

 

ハリーが蛇と会話をし始めたその時、スネイプは先ほど"ハリーがパーセルマウスだと知られてしまう"と口走った少女に振り向いた。

 

 

 

 

なにが起きたのか、スネイプが一番理解していなかった。

 

 

 

──予言?

 

 

 

 

──予知?

 

 

 

 

──占いか?

 

 

ハリーが蛇の動きを止めると、生徒達とドラコは唖然とハリーを見つめる。大広間は沈黙が支配し、静寂に包まれていた。

 

はっ、と我に帰ったスネイプが蛇を消すまでの間に生徒達がたどり着いた考えは恐らく同じだっただろう。

 

 

 

 

──ハリー・ポッター。

 

 

彼こそがスリザリンの継承者であり、秘密の部屋を開いた張本人である、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大広間から1人、また1人と生徒が出て行き人影がまばらになったところでスネイプはバッと振り返りティアラの肩を掴んで言った。

 

「君は何者だ」

 

「……っ、」

 

ほんの少し涙のにじんだ、怯えたように揺れる若草色の瞳を食い入るように見る。

 

「なぜ、「セブルス。そこまでじゃ」」

 

 

どこからかやって来たダンブルドアが小さな肩置かれたスネイプの手を外す。

 

「ダンブルドア…先生…」

 

「2人とも、私に掴まりなさい。ここで話すことではないからのう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言われるがままダンブルドアと共に姿現しをした先は校長室だった。

 

ひなの姿の不死鳥が毛繕いをしているが視界の端に見える。身体の沈むソファーに座らされ、暖かな紅茶の入ったマグカップが渡された。スネイプ先生とダンブルドア先生が向かいに座ったのが分かる。

 

 

 

 

「あなたはご存じなのですか。この子が何者なのか」

「…セブルス。儂も正確には知らんよ。ただ──いや、これは儂が言うことではないね。ティアラ、突然連れてきて悪かった。これは君の口から説明が聞きたい。先程の事をね」

 

「………はい」

 

「ヴァレンタイン」気を遣うように掛けられたスネイプの言葉にティアラはきゅ、とマグカップを握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──私は………少し先を知っているんです。ハリーの事も、襲われるのかも、分かるんです。だから……守りたかった…」

 

 

 

 

 

マグカップを握る手の関節が白くなり、小さく震えているのを見たスネイプとダンブルドアは目の前の小さな少女がそんなに大きなものを背負っていたのかと大きく目を見開いた。

 

 

「──言わないでおこうと…思ってたんです。でも…わたしだけじゃ…」

 

 

 

──何も出来ない…っ、

 

 

苦しそうに歪んだ瞳から一筋の涙がこぼれ、その握りしめた手に落ちる。

 

 

 

 

 

「そう…か…、君は……守っていたのか」

 

今まで腑に落ちなかった事がすとんとはまってゆく。

 

スネイプは今までのこの子の行動を思い返していた。トロールの事も、賢者の石の部屋での事も、全てを知っていて……。

 

 

コリン・クリービーが石になって発見された夜、雪のなか1人立ち尽くしていたのは…救えなかったと自分を責めていたのか。

 

 

 

どれだけ大変だったのだろう

 

 

 

こんなに大きな秘密を誰にも話さず……

 

 

 

たった1人で戦っていたなんて

 

 

なぜ、自分は気が付けなかったのか──。

 

 

あまりの悔しさにスネイプは目の前で震える小さな肩を見ながら自らの手を強く握った。

 

 

 

 

「儂はなティアラ。君がいつかその秘密に押し潰されてしまいそうに見えたのじゃ。」

 

「…え……?」

 

「───あまりに大きな秘密はいずれその主をも消し去ってしまう。秘密に殺されてしまうことだってあり得る」

 

ダンブルドアはその部屋にいるあまりに不器用な"2人"に向かって声をかける。

 

「そうなる前に一緒に背負ってくれものを見つけるといい。」

 

 

 

 

 

 

 

押さえるように、小さく肩を震わせ涙を流すティアラの揺れる肩に小さな不死鳥がとんっ、と停まった。ピンク色の美しい鳥は涙伝うその頬にそっと柔らかな羽を沿わせた。

 

 

 

 

 

 

 

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