ハリー・ポッターと銀髪の少女   作:くもとさくら

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あと1話で秘密の部屋編も完結です!
 
今回は短めですが…お楽しみいただけたら幸いです。



医務室の夜

ハリー達が地上に戻ってから数時間も経たずに事件の解決が学校中に知らされた。

 

ドビーはマルフォイ一族から解放され、石となった者達も元気になった。

事件が解決された祝いに期末試験がキャンセルされ机にしがみついていた生徒達は歓喜の声をあげる。

 

 

夜、学校を騒がし続けた恐怖が去った事と被害者たちの回復を祝うディナーパーティーが大広間で行われ、全員が陰鬱な思いを晴らすかのように夜通し開かれた。

 

秘密の部屋の事故によって記憶を失ったロックハートは教員職を退かざる得なくなり、そのことが発表された途端にかなり多くの先生が生徒と共に歓声を上げたのは記憶に新しい。

 

だがそこには1人の生徒が欠けていた。

 

ティアラ・ヴァレンタイン。

 

彼女が秘密の部屋を開けたということはハリー、ロン、教員以外誰も知らない。

 

医務室で眠り続ける少女の元には多くの人が見舞いに訪れた。"怪物に襲われかけた"と言われているティアラ。スリザリンの花が居ない、とパーティーでは多くの人に嘆かれた。

 

 

 

実際は半年ほど前から魔力を吸われ続けたことによって食欲不振に陥り、ティアラがきちんとした食事を取らなかったことによる栄養失調。そしてここ最近の寝不足によって眠り続けているのだが……。

 

 

 

 

パーティーの翌日、ティアラは突然ぱちりと目を開けた。

 

ぼやぼやする頭でまず認識したことは"今"が夜ということ、本来なら見慣れてはいけないはずの"見慣れた"天井を見る限りここは医務室だ。

ティアラ胸元まで掛かっていた布団を折り畳み、ゆっくりと体を起こした。

 

自らのからだの軽さに驚きつつ、辺りをキョロキョロ見渡すと白木で作られたサイドテーブルの上にお菓子や花が置いてあることに気が付いた。

 

その一番上にはニカとシャルルからのメモが置いてあった。

私が今着ている真っ白なワンピース。これを探すため勝手にクローゼットを漁ってしまったことを詫びる内容のものだった。暖かい夜が来るようになってから、部屋着として使っていたのをニカとシャルルは知っていて選んでくれたのだろう。

 

 

ギシリ、ときしむパイプベッドから足を降ろし、置いてあったパステルカラーのスリッパに足を差し込む。

 

そぅ…と立ち上がるとやっぱり身体がとっても軽い、と感じずにはいられなかった。じわじわと操られていたからかそんなに気が付かなかったけれど、身体は大きな負担を負っていたらしい。こんなに違ってくるとは思っても見なかった。

 

「………」

 

一歩歩きだし、仕切りカーテンの向こうを覗き込む。

 

しかしマダムの姿はどこにも見えなかった。医務室には自分の呼吸音以外なにも聴こえない。ここには私1人かな?とそのまま仕切りカーテンをコロコロと動かす。

壁にかかった時計に視線を移すと、ちょうど真夜中をまわった位の時間だった。

流石にマダムも眠っているわよね…とマダムの自室があるドアに目線を向けるがやはりドアの隙間から漏れる光はない。

 

私のために起こすのも忍びないし……

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ廊下に生徒がいない真夜中、ティアラは荷物を片手に抱え、スリザリンの寮に向かって歩いていた。

 

医務室には寮に戻りますと手紙を置いてきた。

今日が何日なのかも分からない手前、寮に戻って色々準備がしたい。 

 

荷物を抱えながら地下への階段へ向かっているとコツコツと硬質な足音が後ろから近づいきた。

 

ティアラはその足音に聞き覚えがあった。

いつもコウモリのような、床すれすれまであるローブを纏っている教授の足音だ。まさか…と振り向き視線を向けると、その足音の間隔は一気に速くなった。

 

 

「せんっ……」

スネイプは杖を振って杖先に灯りを付けると、流れるようにティアラを掻き抱いた。等身大の温もり。もう……失ってしまうのかと思った…。

 

「…………」

薬草の香りに突然の包まれたティアラは驚きのあまり大きく目を見開き、思わず持っていた荷物を、落としてしまう。

 

スネイプはティアラの呼吸が止まる程その体を強く抱き締め、喉に込み上げる熱い息をぐっ、と飲み込んだ。

 

触って力を入れると折れてしまいそうな体。

 

ポンフリーから寝不足と軽い栄養失調だと聞いたときはどれだけ安心したことか。

気を失って運ばれてきたとき、白い首に入っていた赤黒い痣も、頬を黒く染める泥も、全てを恨んだ。彼女を傷付ける元凶となるものを全てこの世から消し去りたいと思った。

 

それから2日間目が覚めないと思ったらなんだ。こんなところで真夜中に何を1人ほっつき歩いている。

 

──何故歩き回っている。

 

──安静にしていろ。

 

──減点だ。

 

 

全ての言葉がこの想いに合わない気がして…スネイプはティアラの頭を抱き込みながらそのすべらかな髪を撫でる。

 

「──無事で良かった…」本当に…と続けたスネイプは目を瞑り深く息を吸い込んだ。

 

「っ………!」

暖かな声に胸が詰まる。ありがとう。とかごめんなさい。とか色々言いたいことが溢れるけれど、どれも喉の奥で突っかかる。ティアラは何故だか滲む涙を目を瞑る事によって抑えた。

 

「──だが……」

「え…」

 

突然不穏な空気が辺りを包み込んだ。ティアラはいち早くそれを察知し身を固くする。ハリーの時に養われたこのセンサーはまだ鈍っていないらしい。だが視界に入るのは相変わらず真っ黒なローブだけ。彼がどんな顔をしているのか盗み見ることは叶わない。

 

 

「私は確かに言った筈だ。」

 

肩に大きな手が置かれ体がそっと離される。おそるおそる視線をあげると妙に悲しそうな顔をした彼がそこにいた。

 

「力になる、と」

「………」

「私では力不足だと。そう思ったか」

 

聴こえてきた言葉にティアラは慌てて「違います!」と叫んだ。

 

「……その………」

 

違う。

 

そうじゃない、

 

私はただ…

 

「ただ…、先生に傷ついてほしくな「私は!」」

 

ティアラの言葉にスネイプの叫び声が重なる。

胸の底からこみ上げてくる悲痛な思いが留めなく波立ち、何故分かってくれないのかと悲しくなる。スネイプは目の前の潤んだ若草色の瞳を見つめ、ゆっくりと言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「私は、お前がこうして怪我をするほうが辛い。」

 

眉を寄せ未だに残る首の痣をつぅ…となぞる。

 

「知らないところで1人で戦うな。……頼むから──1人で傷付くな。私を、頼ってくれ。」

 

スネイプは"頼む"と再びその華奢な体を引き寄せた。

 

彼の胸に頰が当たる。腕が背中に回り、先ほどと同じ様に強く抱きしめられた。先生の体温と鼓動が伝わって妙に心が静まり返っていくのがわかった。

そこでやっと、半年ずっと張り詰めていた糸がぷつん、と音を立てて切れた気がした。

 

「…先生?」

「なんだ」

「先生は……どうしてこんなに気に掛けてくれるんですか」

 

ハリーの立場にいた私は…先生のひとつの顔しか知らなかった。いつも怒ったようにして、他人を寄せ付けないようにって振る舞っている貴方しか。きっと、気付くチャンスは何度もあったのに。

 

「私は、許されない罪を…犯したんです。だから……約束は出来ません」

「それを一緒に抱えると!」

声を荒げるスネイプはしゃがみこみティアラの瞳を覗き込んだ。

「違うんです。私が……みんなにお返しをしないといけないものなんです。」

 

ティアラはまっすぐに闇色の瞳を見つめた。

 

「だから、先生はなにも気にしないでください……。私は、先が見えます。貴方に生きてほしい。」

「……!」

スネイプは大きく目を見開き、目の前の潤んだ瞳を見た。

生きてほしい…だと?

まさか──この子は……知っているのか…?

 

自分がホグワーツの教員として許されない立場にいることを。

 

いや、まさか……占いや予知でも、"秘密"は見ることが出来ないはず。

 

 

「……では、私も約束は出来ない。お前を危険な目に遭わせたくないからな。思う存分"気にする"事にしよう」

「っ、先生!!」

「まず手始めに、お前を医務室へ連れ戻す。」

 

 

自分がどれだけ顔色を悪くしているかわかっていない奴を寮へ返す気はない。

スネイプはティアラの落とした荷物を拾うとティアラの肩を抱いて医務室の方へ歩き始めた。

「先生!だめですよ!本当に」

「ああ、任せておけ」必死になるティアラを他所にスネイプは涼しげな表情を浮かべた。

 

なぜ気に掛けるのか?そんな質問の答えは簡単だ。

 

 

…ああ、何だか…吹っ切れた…。

 

 

スネイプは怒ったように頬を膨らませる少女の顔を見てふっ、と頬を緩ませた。

 

 

 

 

 

 

「……先生…?」

「なんだ」

「私、もう大丈夫ですよ?」

医務室に連れ戻されたティアラはベッドに寝かされ、あろうことかスネイプに布団を掛けられていた。

「悪いがお前の大丈夫は聴かないと決めていてな。それに顔色が悪い。まともに食事をしていなかったのだろう?」

「…………」

なにも言い返せないようすのティアラはうう……と項垂れる。

ほとんど光のない医務室でスネイプの杖先の光だけが二人の顔を照らした。

 

「もういいから寝ろ」スネイプは杖をさっ、と振って杖先の光を消す。

 

真っ暗闇のなかスネイプはティアラの華奢な手を取ると手の甲に小さくキスを落とした。

 

「おやすみ、良い夢を」

 

するりと手が離れ、気配はどんどん遠ざかっていってしまう。

 

「─────」

ティアラは一人、ぱちぱちと瞬きをするとガバリ!と起き上がり、頬に手を当てた。

一瞬で火照ったそこは光があれば見ればわかるほど赤くなっているだろう。

 

ぼふっ、という音と共に脱力した手。

 

 

 

 

 

──おやすみ…なんて、…眠れるはずがないじゃない……

 

 

じんわりと熱をもつ頬を再び抑えたティアラ。

 

これは寝付くまで時間が掛かりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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